第25話
ようやく交わりの月がやってきて、ゆりはラクシュミと愛のある夜を過ごし、昼間は去年のようにアナスターシャにいろいろ指導する
ラクシュミにひっついていた。おなかの子供は2年目になる。ラクシュミはゆりを抱き寄せてゆりのおなかをなでながら、
アナスターシャにいろいろ言っていた。アナスターシャは小さいいすに座ってじっとラクシュミを見て聞いている。
なんだか赤ちゃんも喜んでる感じだなあ・・・
父親とずっとひっついているので、赤ちゃんも喜んでいるようだった。
ゆりはアナスターシャの目の前に、ビー玉のような水色の玉が浮いているのを見た。
なんだろうあれ。
アナスターシャはじーとそれを見ている。「ねえ、王様、あれなあに？」
ゆりはこらえきれなくなって聞いた。
「あれは結界だ」
「結界？」
「そうだ。結界を作る練習を始めることにしたんだ。まずはあんな小さいのからな」
「へー」
水色の玉は宙にとどまっていたが、ラクシュミが何かを指ではじいてそれがアナスターシャのひざに当たると、ぱっとそれは
消えた。
「だめだぞ。これくらいで消したら」
「ごめんなさい。でもずっと作るの難しいし・・・」
「がんばって作ってみろ」
「はあい」
再びアナスターシャの前に小さい玉が現れた。
へー、結界ってああやって修行するんだ・・・
ゆりは感心してアナスターシャを見ていた。ラクシュミは城の外にあれを張っている。そう思うと改めてすごいな、と思ってしまう。
ラクシュミが再び何かを指ではじいて、それがこつんとアナスターシャの頭にあたった。すると、ぱっとまた消えた。
「ごめんなさい」アナスターシャは怒られるより先に言った。
シス、あなたも大きくなったら王様を助けてあげてね。
ゆりは自分のおなかをなでて言った。結界を作る者が現れれば、ラクシュミの負担も減る。ラクシュミと庭園に出ることだってできるようになるかもしれない。
がんばれ、子供たち
ゆりがそう思っていると、ゆりの前にぱっと水色の玉が現れた。「あ・・・」
それはサッカーボールのような大きさだったので、ゆりは思わず顔を後ろに引いた。
「お・・・・」
ラクシュミも驚きの表情を浮かべている。アナスターシャは、ぽかんとしてそれを見ていた。また水色の玉は消えている。
水色の玉は、宙を漂っていた。まるで大きなシャボン玉のようにきれいだった。
「王様これは？」
「・・・もしかして、シスが作ってるのかもな」
「シスが？」
ゆりは不思議そうに中をのぞきこんだ。水色の玉は半透明で、向こうが透けて見えた。
「シスのほうがこういう力は上かもしれないな」
ラクシュミがそういうと、アナスターシャはむっと頬をふくらませた。
「そんなことないもん。アナスターシャの方が姉様だから上だもん」
アナスターシャはむきになって水色の玉を大きくしていた。
「ほら、ほら、アーの方が上だもん」
水色の玉は同じくらいの大きさになったのだが、
「あんまり無理をするな」
ラクシュミが言うと、ぱっとそれは消えた。ゆりの目の前にあった玉も消えてしまった。
「お前が一杯蛇を入れてくれたおかげかもな」ラクシュミはゆりの頭をなでた。
「お前を他の男に触れさせるのはいやだが・・・本当にすまないな。」
「王様・・・」
いつもと違い、甘い声で言われると、ゆりもぽわんとしてしまった。
「私平気よ。王様のために一杯蛇いれるからね」
「ゆり、お前は本当にいい王妃だな。私はお前に会えて幸せだぞ」
微笑んで言われて、ゆりの目に涙がにじんでいた。
「私も幸せ」
ーナカヨシコヨシ・・ウレシイネ赤ん坊はゆりにではなく、アナスターシャに話しかけていた。
ーそうね。うれしいね。チューすればいいのにね
ーチュー・・・
二人が言ってると、本当にラクシュミがゆりにキスしだした。
ーアンシン、アンシンーそうだね。仲良くて安心だね。
アナスターシャもにこにこしていた。すると、ラクシュミがアナスターシャを見た。「こら、ちゃんと作らなきゃだめじゃないか」
「はーい」
こうして穏やかに交わりの月は過ぎて行った。
交わりの月が過ぎると、例年通りゆりは自分の部屋の寝室で寝るようになり、アナスターシャが時々一緒に寝に来た。アナスターシャは自分がお姉さんだと自覚しているらしく、時々ゆりのおなかに向かって絵本を読んで聞かせたりした。
「アナスターシャは優しいね。いいお姉さんになるね」ゆりが感心して言うと、
「だって、読んでって言うんだもん」
とアナスターシャが言った。
「え？言う？」
「うん。やだって言ったら泣くんだもん」
「？」
ゆりには意味はわからなかった。
ラクシュミから結構気をもらったおかげで2ヶ月ほどは気をほしいとは思わなかった。ゆりはその間、ラクシュミの休憩時間などにたまにラクシュミの顔を見に行く程度だったのだが、今回はどうも機嫌悪そうなのであまり会いにいかなかった。
６月に入り、そろそろラクシュミに戻っても言いといわれるかな？と思ったのだが、中々お呼びがかからなかった。
城の中を歩いていると、なんだかみんなの気がぴりぴりしているようだ。表情が固い。ミカエルやフリットらもゆりの部屋に遊びにきたりもしなかった。
どうしたんだろう・・・何かあったのかな？
ラクシュミに会いに行ってみたが、王の間にはいれてもらえなかった。
ゆりは侍女に聞いたりしてみたが、最近みんな忙しいようですよ、としか言われなかった。「ラクシュミ様が、しばらくはこちらで寝てほしいとおっしゃられてます」
ミラがゆりに申し訳なさそうに言った。
「そうなの・・」
ゆりがおかしいなと思っていたら、ある日ロアンナが部屋にやってきた。
「王妃様、体調はいかがですか？」「体調はいいけど、王様の様子が変じゃない？」
「はあ・・・実は、王の力がちょっと減っているようで・・・かなりお疲れなのです」
「え？」
「そのうち元に戻られるでしょうから、王妃様は気になさらないでください」
「・・・私が赤い月の間、一杯力奪ったからじゃないの？」
ゆりの表情はこわばっていた。
「いいえ。こういうことは、たまにあるようですよ。王妃様のせいではないですよ。しばらく、王の間には近寄らないように
お願いいたします。ミカエルらも今は忙しいので、中級戦士しか今はここにこさせることができないのですが・・・」
「いいよ。私大丈夫だから」
「心配しないでくださいね。王妃様」
ロアンナはゆりの手を握り締めて言った。
王様・・・大丈夫かな・・・
ゆりはアナスターシャの部屋に行った。アナスターシャは家庭教師に本を読んでもらっていたが、ゆりを見ると抱きついてきた。「ねえ、この子は王様にあってるの？」
ゆりは横に座っているアナスターシャの侍女に聞いてみた。
「いいえ。しばらくは、お会いになっておりません」
侍女は言った。
「父様は今、機嫌悪いんだよ」
アナスターシャが言った。
「そうなの？」
「うん。アーが行っても来るなっていうんだもん」
「そう。まあそのうちに王様も元に戻るからね」
「うん」
ゆりはアナスターシャの頭をなでて部屋を出た。
今までずっと毎日アナスターシャにあっていたというのに・・・最愛の娘にも会わないなんて・・・よっぽどしんどいのかな。
実際には、ゆりが思っている以上に事態は深刻になっていた。王の間には大きな長椅子が運び込まれて、ラクシュミはそこに寝そべっていた。
もう椅子に座れないほど、ラクシュミの具合は悪かった。といっても病気ではなく、ただ、力が衰えていただけだった。
いくら力が衰えようと、結界を作る力はそのまま維持しなければならない。だが今現在、結界の力は
2割ほど落ちていた。そのため、国に入ってくる敵の数も増していたし、戦士たちも働きずめだった。
正常な状態でないと、ラクシュミの敵を察知する能力さえ、落ちてしまうのだ。将軍達や他の戦士たちにももちろんそういう能力はあるのだが、ラクシュミほどではなく、どうしても、気づくのが遅くなってしまうのだった。
ラクシュミは城の周りに結界を張っているが、国全体にも、ごく微量の膜のようなものを張っていた。それは、戦士たちの
力の助けにもなっていたが、今はそれもなくなっていたたために、国中に、重苦しい空気が漂っていた。
王の間には、一族の者以外入ることはできなかったし、入る者も、今は限られていた。余計な気を遣わせないようにするためだ。
「大丈夫ですか？王」王の間に入ってきたのはフレイだった。ラクシュミは無言だった。
だるそうに寝そべっている。
「もうしばらくのご辛抱です」
「ああ・・・」
今のラクシュミにはどんな薬も効きはしない。
先代の王の時にもこういうことがあった。100年の内で、２回ほど、こういうことがあったようだ。その時は２ヶ月ほどで元に戻ったという。ラクシュミの力が衰えだしたのは、５の月に入ってすぐだった。じょじょに力が衰えて
行くのを感じて、６の月に入りがくっと減った。
「みんなにも悪いな」「何をおっしゃいますやら・・・」
ラクシュミにとっては初めての経験だった。こんなに力が減ったことは今までなかったのだ。
休みたい・・・完全に・・・・一日でもいいから・・・
全てから開放されたい。
それは口には出せない望みだった。
弱気になっているな・・・我ながら・・・情けない・・・
ゆりはその時王の間の外にいた。「王妃今は・・・」
番兵が辛そうに言った。
「わかってる。ここにいるだけだから」
「・・・」
王様がんばって・・・
ゆりには祈ることしかできない。
その時、ゆりの左目が黄色と黒に変わった。もう一人のゆりも、じっと王の間の扉を見つめていた。
その夜、王の間で寝そべっていたラクシュミの前にハザークがふっと現れた。寝室に行くよりも、今は王の間にいる方が楽だった。王の間には代々の王の力のような物が残っていて、ラクシュミにとっては結界を作るのに最も楽な場所だった。
ハザークはラクシュミを見下ろした。
「随分疲れているな・・・」
「・・・・」
「こればっかりはお前が乗り切るしかない。がんばれ」
「わかってる」
「・・・それではな」
ハザークはそのまま消えた。
・・・ハザークが慰めたくなるほど今はひどいってことか・・・やれやれ・・・
ラクシュミがため息をついた時、王の間の中間辺りの空間に、突然光の線が描かれた。「！？」
門の中にいた番兵たちが息を呑んだ。その光の線はまるで上が湾曲した扉のような形を描き、その中に、様々な
古代語のような模様が現れた。
ラクシュミはからだを上げてそれを見た。それには覚えがあった。ゆりがこちらの世界に来て最初の戦いの時に、
王の間にこれに似たものが現れて、そこから二人の人間が現れた。
ならば今回も？
扉の中に、一人の人間の姿が浮かび上がってきた。短い黒髪の男だった。男は扉から出てきてラクシュミを見て、「どうも」と言った。
そして後ろの番兵を見て、右手をあげて「やあ」と言った。「王・・・」
「この男は知ってる」
ラクシュミは疲れた顔で言った。だが、瞳は興味深げに輝いていた。
その男は、過去二度にわたってラクシュミを助けに来た男だった。
男はラクシュミに近づいた。瞳は金色に輝いていた。長身で、戦士が着るような服を着ていたが上着には黒と青の鮮やかな模様が描かれていて銀色の蛇の刺繍が胸元にあった。腰のベルトには、左右に短めの剣が差してある。肩には布でできた袋のようなものを
かついでいた。
「だいぶお疲れですね。今日何月何日です？」男がラクシュミを見て言った。こんなに近くでこの男を見たのは初めてだった。
「６の月の15日だ」
「そうですか・・・ちょっと遅れたかな」
「・・・お前、結界が作れるのか？」
ラクシュミが聞くと、男は「いえ、あんまり」と言った。
「・・・結界を作りにきたんじゃないのか？」
てっきりそうだと思っていたラクシュミは、目を見開いて聞いた。内心ひどくがっかりしている。
「すいません。世の中そこまでうまくはいかないんですよ」
「じゃあ何しに来たんだ？」
「まあ、そんなにがっかりしないでくださいよ。いいものあげますから」
男は布袋を肩から下ろして、開き、中に手を入れた。そして、小さな袋を取り出して、それを開き、中のものをラクシュミに渡した。
それは、小さな水色の宝石みたいなものだった。ひし形の形をしている。
「なんだこれは」
「これは結界石というものでしてね、口の中にいれてください。自然に溶けたら結界ができますから。」
「・・・本当に結界ができるのか？」
「まあやってみてくださいよ。かんじゃだめですよ。飲み込んでもだめですよ」
「わかった」
ラクシュミはそれを口の中にいれた。舌の上においていると、確かにそれはじわじわ溶けてきた。しばらくすると、それは溶けて
ぱっと力が広がった。
「！」
確かに城の周りに結界ができていた。自分と同質の力のものだ。
「力落としていいですから、父様は一割程度の力でいいですから、自分で結界の大きさを調整してみてください」
「・・・・」
「そう、そんな感じですよ」
男は微笑んだ。人懐っこい笑みだった。
「・・・便利なものがあるのだな。未来には・・・」
「これを作るのはかなり手間なので、後9個しかないですけど、まあそれくらい休めればなんとかなるでしょう」
「ああ。ありがとう・・・・」
「それじゃ、僕ちょっとお掃除してきますから。これ預かっておいてください」
男は袋を長椅子の下においてラクシュミから離れた。
「ロイ・・・いつまでいれるんだ？」
ラクシュミが聞いた。すると、男はにやりと笑った。
「おや、名前を覚えていてくださったんですか」
「あたりまえだ・・・」
最初の戦いの際、女戦士が男を呼ぶ時に、名を言った。それを聞いていたのだ。
「まあ、みんなには内緒にしといた方がいいんじゃないでしょうかね。先のお楽しみってことで、それでは」
ロイは消えた。
「・・・・」
目の前にハザークが叉現れた。「どうやったんだ？」
結界の力が元に戻ったので、疑問に思ってきたらしい。
「息子が来たんだ。また」
「そうなのか？」
「ああ、あれだ」
ラクシュミは、空間の扉を差した。ハザークがそれを見つめた。
「・・・番兵、ゆりを呼んでこい」
ラクシュミは番兵を見て言った。
そのころロイは結界の外に出ていた。「一杯いる。うは♪」
そう言って瞬間移動して、腰の剣を両方抜いてすぐさま敵の首を切り落とした。その場にきたミカエルがぎょっとしてロイを見た。
ロイはミカエルを見て「やあ」と言った。にこやかに微笑んでいたがその足元には、首が飛んだ死体があった。
ミカエルは、ロイの輝く瞳を見て驚いている。
「若君・・・？」
「今から北巡るから、北の戦士らは休ませていいよ」
「え・・・ですが・・・」
「みんな疲れてるんだろ？いいからいいから。それから数人僕の後ついてきてくれないかな」
「何のために？」
「死体処理に決まってるじゃないか。それじゃ頼むよ」
そういってロイは消えた。ミカエルはヴィクターに思念を伝えながら、自分が後を追った。
ロイはすごい速さで移動を続け、しかもすぐに敵の場所を捉えて首を落としていた。そのあまりの速さに、ミカエルは
あっけにとられるほどだった。敵と接触して、しかもすぐに敵は死んでいる。全くの躊躇もなかった。
ヴィクターは、ロイの邪魔にならないようにと戦士たちを下がらせた。陽が上るころには、砦の前には死体の山ができていた。こんなに敵がいたのかと驚くほど。全部数えただけで６０人近くもいた。
その全てに首がなかった。
「若君、再びお目にかかることができるとは・・・」ヴィクターが涙目で、砦にきたロイを見つめた。
「将軍ご苦労さんだったね。みんなも」
砦にいた者たちの目がうるんでいた。女戦士たちは、みんな目を赤くして頬を染めている。
「ちょっとシャワー使っていいかな？替えの服も貸してほしいんだけど。なんでもいいから」
「いいですよ。用意しておきますね」
「それじゃ」
ロイは消えた。
女たちはそわそわしていた。
「あの若君、いつ産まれるんでしょう」
「王妃様、早く産んでくださればいいのに・・・」
「素敵〜王にそんなに似てないけど、でも素敵〜」
王族が持つ金色の気は、かなり魅力的で、女達は落ち着かなかった
「王様、ねえ、まだ？まだ？」王の間では、ゆりがラクシュミの腕をゆすっていた。ラクシュミは長椅子に座っていて、ゆりとアナスターシャが両脇に
座っている。ラクシュミは結界を作る力を落とせたおかげで、かなり楽になっていた。
「今北の砦にいるそうだ。もう少しでくるぞ」ゆりはそわそわしている。それはそうだろう。未来の自分の息子に会えるのだから。黒髪だというから自分を昔助けてくれた
男ではないだろうが、それでも顔は見たくてしょうがない。
どんな息子なんだろう。やっぱり顔は王様似かな？王様みたいにクール系？
ゆりはうきうきし、王の間にいたザメハとフレイも、落ち着かない様子でうろうろ歩き回っていた。
王の間にあった光り輝く扉は、今はなくなっていた。
ロイが王の間に戻ってくると、ゆりは顔を見るなり「きゃあ」と黄色い悲鳴をあげて、ラクシュミがあまりのうるささに顔をしかめた。
「ハンサムー王様に目元が似てるね」
ゆりは男に走りより、まじまじと男を見上げた。背はかなり高く、瞳は金色に輝いていた。髪は眉が隠れるほどの長さだ。男はニコニコ笑っていたので、ラクシュミよりもかなり穏やかに見えた。
「素敵ーめちゃくちゃ素敵ー！！」
アナスターシャは不思議そうに男を見上げている。ザメハとフレイは「若君だ、若君だ」といいながら泣いていた。
「おはようございます。母様。アナスターシャ姉様に、シス兄〜」
ロイはゆりのおなかにほおずりした。
「お前、どのくらいいれるんだ？」
ラクシュミが聞いた。
「今回は結構いれますよ。2ヶ月くらいは。ちょっと他にもいろいろ用があるので」
「そうなのか」
「若君はいつごろお生まれになるのですか？」
フレイが興奮した様子で聞いた。
「内緒♪」
「では、何番目で？」
ザメハが聞いた。
「35番目」
ロイがそういうと、一同はぽかんとした顔をした。
「やだなあ。冗談ですよ。冗談」
ロイははははと笑っている。
ゆりは胸に手をあてていた。
まさか自分がそんなに産むのかと本気で思ったようだ。
「ねえ、名前は？教えてくれないの？」
ゆりが聞いた。
「まあ、それは後のお楽しみですからね、皆さんは僕のこと、素敵な王子様とでも呼んでくださればいいですから」
ロイがフレイとザメハを見て言った。
「はあ・・・」
「やだなあ、これも冗談ですよ。それじゃ、僕ちょっと眠くなっちゃったんで、寝ますよ。母様もおいでよ。気あげっから」
「え・・・・うん・・・」
ロイはゆりと共に移動した。
「なんだか楽しい若君ですな」フレイが言った。
「どうもよくわからん性格だが・・・ゆりに似たんだな。性格は」
そうに違いないとばかりにラクシュミが言った。
「アーの・・・兄様？」
アナスターシャが聞いた。
「いや、お前の弟になるな」
「？」
アナスターシャはよくわからずに首をかしげていた。
ロイがゆりとぱっと部屋に現れると、部屋にいたゆりの侍女たちはぴたっと固まった。「やあ、みんな」
ロイは人懐っこく侍女たちに手を振っている。
「未来の息子だってー、見てみて、かっこいいでしょ？」
ゆりは自慢げに侍女に言っていた。
「素敵・・・」
「素敵です〜」
ロイは腰のベルトをはずした。同時に二つの剣も外れた。ロイはそれを長椅子に下ろして、上着も脱いだ。
「寝よう寝よう」シャツ姿になったロイはさっさとゆりの寝室の方に行き、ゆりは後をついていった。ロイはベッドに上がって布団をかけて、
ゆりを手招きした。
「・・・」
一緒に寝るのって・・・なんかやばくない？
ゆりが恥ずかしそうにたたずんでいると、ロイが笑った。「やだなあ、自分の息子じゃないか。」
「そう言われても、まだ産んでないし・・・・」
「僕のことは父様だと思って抱きついてくれたらいいから」
「そういわれても・・・そんなに似てないし・・・」
「じゃあ僕のことは夢の世界からやってきた素敵な王子様だと思ってくれてもいいけど」
「はあ・・・」
どうやら性格は結構ひょうきんらしい。
誰に似たんだろう・・・・そうゆりは不思議に思った。
まあいいか。気もらうだけだし・・・
「おいでおいで♪」「うん・・・」
ゆりはロイの横に入って抱きついた。そして驚いた。細身だと思っていたが、腕や胸は少し盛り上がり、すごい
引き締まった筋肉がついていることがシャツの上からわかったのだった。顔を見ると、もう目を閉じていて寝息も聞こえた。
「・・・・」
未来の息子・・・なんだか夢みたいだけど・・・・大人の男だし・・・でもしばらくいれるんだ。うれしいな・・・
ゆりはちょっとどきどきしたが、そのまま目を閉じた
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