草原で、剣をあわせる二人の男がいた。一人は黒髪、金色の瞳をした男、ロイ。もう一人は、肩までのざっくばらんな金色の髪、
たくましい体格をした男だった。男はロイよりもかなり背は高く、大きな剣を持っていた。金色の鋭い瞳はロイを見据えている。
ロイも一本の剣で戦ってる。力では金色の髪の男に軍配があがっていたが、ロイはうまくその力を流してかわし、反撃もしていた。
早さではロイのほうが勝っているようだった。
長い間剣を交わした後、二人は疲れたようにその場にへたりこんだ。朝から始めて、もう昼時だった。
「他国でこれだけ戦えれば立派だよ。」
金髪の男が言った。胸も、腕も、はちきれんばかりの筋肉だったが、先ほどとは違い、今は穏やかな表情をしている。
ロイよりも大人びて見えたが、まだ若者といっていい顔つきをしていた。
「そっちが変化したらさすがにかなわないけどな」
ロイが言った。
「当たり前だろ」
金髪の男は虎族の男だった。虎族の男は、戦闘に入ればみな顔に虎じまが浮かぶ。そうなれば、普段の倍の力を発揮するのだ。
この国の王宮の周りは熱帯的季候で森が広がっていたのだが、国のはずれにはこのような草原が広がっている場所があった。
二人はそこにいたのだ。
「今回もしばらくいるのか？ロイ」
男は剣を持ち、立ち上がって言った。
「いいや。今日はもう帰る」
ロイは座ったまま言った。
「そうなのか？珍しいな、朝来たばっかりですぐ帰るなんて」
暖かい風が吹いていた。
風が二人の髪をゆらした。
離れた所を、大きな虎がのっそりと歩いていた。
「また、過去に行ってくる」
ロイは男を見上げていった。
「そうなのか？ご苦労だな。」
男は虎を見ながら言った。
「今度は虎の国にも行くよ」
ロイがそういうと、男はロイを見下ろした。
「何のために？」
「決まってるだろ？」
ロイは唇の端をあげていった。
「・・・・」
男の瞳が揺らめいた。
「ただ、過去で助かったとしてもこの時代はどうなるかわからないがな。」
男はうなだれていた。その頬を、涙が流れていた。
「それでもいい。過去の父さんが笑ってくれるなら、それで・・・」
ロイは立ち上がり、男の背中をぽんとたたいた。
「泣くなよ。タロウ、僕まで泣けてくるじゃないか」
ロイの目もうるんでいた。
「ああ・・」
男、タロウは手で涙をぬぐった。
「この国に、涙は似合わないもんな」
第２９話
ラクシュミとゆりの未来の息子であるロイは毎日戦士たちに様々な事を教えていった。魔力の効率的な使い方、相手の気の探り方
戦い方など。朝は闘技場で過ごして、午後は実践とばかりに国のあちこちに出没して、本当の敵相手に戦士たちを戦わせた。
たまたま現れた敵はいいカモとばかりに練習台にされている。闘技場の客席は女達で埋まり、黄色い声援が飛びまくっていた。
ロイは王族といっても気のいい性格だったので、かなりの人気者になっていた。相手が誰であろうと、親切だったし、女性
に対しても同じだった。ロイの評判を聞くたびに、ゆりは、これは私の育て方が良かったに違いないと、内心喜んでいた。
「ずっといてくださればいいのに・・・」
女達のため息は毎日もれていた。
それは男達も同様である。ずっといてくれればどんなに楽になるだろう。
ロイの力を見せ付けられるたびに、そう思わずにはいられないのだ。それに、何より、あの人懐っこい笑みで話しかけられると、
安らぎを感じるのだった。
「そういうわけにもいかないさ。僕があっち帰らないと、僕の彼女らが泣くじゃないか」
ある夜、戦士たちと酒を飲んでいたロイはそういった。ここは戦士たちの訓練所である。その日は酒が大量に運びこまれて
宴会場のようになっていた。男たちも３０人ほどいる。
「でも、未来の世界は、かなり楽なんじゃないんですか？王の御子が何人がお生まれになって、みんなすごい力をもたれているの
なら」
男の一人が言った。
「まあ、そう単純にもいかないよ。こっちが強くなれば、向こうも強くなってるんだよね。なぜか。」
「そういうもんですか」
「そういうものだよ。それに僕はちょっと特別だから、みんな僕のように強いわけでもないしねー。まあ、一族みんなが強く
ならないとだめってことなんだよ。結局は」
「はあ・・・」
ロイが来て３０日ほどたったころ、ゆりはロイが部屋で長い白衣のような服を着ているのを見た。
「これどう？どう見える？」
ロイがゆりに聞いた。
「お医者さん？」
「そう見える？賢そう？」
「うん・・・どうしたの？」
「ちょっとおでかけ。３日くらい帰らないからね」
「どこ行くの？」
「虎の国。ガオ！」
ロイは両手をあげて虎のまねをした。
「虎？」
「そうだよ。じゃあね」
ロイは布袋を持って消えた。
何しに行くのかしら・・・
ゆりはぽつんと突っ立っていた。
ロイは王の間に移動していた。
「父様、紹介状書いてくれました？」
「ああ」
ラクシュミはロイに封筒を渡した。
「どうも」
「・・・何しに行くんだ？」
ラクシュミも、ロイが虎の国に行く理由を聞かされてはいない。
「ちょっと未来を変えに？ それじゃ、３日くらいで帰ってきますよ。あっちにはちゃんと言ってます？」
「ああ、言った」
「それでは」
ロイは王の間から移動した。
そして魔法陣を使い、虎の国に移動したのだった。
そのころ、自分の部屋でアヤコは息子のタロウといた。タロウはもう６歳になる。たった６歳だが、身長はもうアヤコの胸のあたり
まであるし、力もものすごい。軽々とアヤコをダッコできるくらいだ。あどけない少年の顔つきだが、どっからみても
ガットの遺伝子の方が勝っている。髪も金髪だし、瞳も真ん中は茶色っぽいが、金色に輝いている。
タロウはアヤコのひざに頭を乗せて昼寝をしていた。図体はでかいが、まだ甘えたい年頃だ。アヤコは、長椅子に座っていた。
その時、扉がノックされて、アヤコの侍女と、見慣れない黒髪の男が入ってきたのだった。
「アヤコ様、こちら、お医者さんです。蛇の国からいらしたんですが」
「蛇？」
アヤコは男を見た。
あら、結構可愛い子ね〜
若くていい男だったので、アヤコはちょっと興味をひかれた。タロウも目を覚ましている。
「こんにちは〜僕、通りがかりの医者です。ちょっとタロウ君は外で虎と遊んでてくれるかな？」
ロイはさっさと部屋の中に入り、ひざに頭を乗せていたタロウに言った。
「タロウいってらっしゃい」
アヤコが言うと、タロウは出て行った。
「あなた・・・にょろの人？」
アヤコが怪訝な表情で聞いた。
「そうですよ。でも蛇もってきてないですからね」
ロイは丸いテーブルの上に布袋を置いて中から布で巻かれた物を取り出した。
「それで何しに来たの？」
「最近妙な病が発生してるので、それの予防ですよ。あっちでゆりさんにも打ったんですよ」
「へーそうなの」
「というわけで、注射うちますから」
ロイは布の中からガラスでできた注射を取り出した。アヤコの顔が青ざめた。それは手のひらほどのでかいものだったからだ。
太さも5センチほどある。
「え・・・ええ！？それを、うつの？」
「そうですよ」
ロイはにっこり笑って注射針で小瓶の液体を吸い取った。青い液体が注射の中にたまっていく。
「ちょ、ちょっと待って、私いい、いいから」
アヤコはあわててテラスの方に逃げた。
「だめですよ。ちゃんとうたないと。消毒しましょう。ほら、お手手出して」
「やだ！」
アヤコはたっと走って部屋から逃げようとしたところでロイにつかまった。
「大人なんだからこれくらい我慢してください」
「いやよ！私向こうでも注射大嫌いだったんだから！」
アヤコは暴れていたが、ロイはしっかりアヤコの腰に腕を回しそのまま移動し、長椅子に座らせた。
「わがままいわないでくださいよ。」
「やだー！私丈夫だから！病気なんてしないから！」
「だめだめ。暴れたら痛いですよ？じっとしてないとー」
「やだー！痛いのいやー！」
その時バンと扉が開いてガットが入ってきた。
「貴様アヤコに何してるんだ！」
「何って、アヤコさんが病気にならないように注射しようとしてるんですよ」
ロイはアヤコからぱっと手を離した。
「え？注射？」
ガットはテーブルの上に、注射のような物があるのを見た。
「お前今アヤコに抱きついてたろ？」
「アヤコさんが逃げようとしたから押さえただけですよ」
「嘘だ！お前何かあやしいぞ！っていうか、もっとアヤコから離れろ！」
「全くうるさい男だなあ」
ロイはぶつぶつ言った。
「大変ですね。こんな旦那」
「全くよー嫉妬深くて・・・」
アヤコもぶつぶつ言っている。
「アヤコまで何言ってるんだ！アヤコこいつが気に入ったのか？！そうなのか？」
ガットがかなりわめいていたので面倒になったアヤコは「そうかも」と言った。
「ア・・・アヤコ・・・」
「あ、あれ？ガットさんあれ何？」
ロイはガットに近づいて右の方を指さした。ガットがそちらに目を向けたすきに、ロイは白衣のポケットから小さい注射を取り出して
即座にぶすっとガットの腕に刺した。
「・・・」
ガットはそのままばたりと倒れた。
「何したの？」
アヤコが聞く。
「強力睡眠薬打ちました。今の内に注射うちましょう」
「エーうつのー？」
「うちますよ。」
ロイはアヤコの腕を消毒して、でかい注射をぶすっと刺した。
「うぎゃー！」
注射針は、向こうの世界のよりも太くて、アヤコはかなりの激痛を味わったのだった。
「う・・・うう・・・」
液体が全部体の中に入るころには、アヤコの瞳は涙でうるんでいた。
「はい、よくできました。ちょっとおさえといてくださいね」
ロイは注射針を抜いて、脱脂綿のようなものを跡にあてがった。
「痛かったよーううう。まさか、こっち来てこんな目にあうなんて・・・」
「同じのもう二本打ちますからね」
「え・・・」
アヤコの顔が青ざめた。
「一日一本、明日とあさって」
「・・・嘘・・・」
「僕あさってまでいますから、それじゃタロウ君と遊んでこようっと」
ロイは道具をしまい、さっさと部屋を出て行った。
その日の夕方、蛇の国の王の間の魔法の鏡がやかましい声をあげた。
「ラクシュミー！でてこいー！」
ラクシュミがうるさそうに眉をひそめて鏡を開けると、そこには泣いているガットがいた。
「・・・どうしたんだ？」
ラクシュミがさすがにぎょっとしていった。
「お前の所から来た男はなんなんだ！あの男、俺のアヤコを奪おうとしてる」
「・・・は？」
ラクシュミは首をかしげて聞いた。
「ひどいじゃないかー！」
「・・・・何言ってるんだ、お前、そんなことあるわけないだろ？」
「そんなことある！アヤコも、ずっとぼんやりしておかしいんだ。あの男に惚れたかもしれん！」
「は？」
アヤコは注射がいやでぼんやりしていただけだったが、ガットが勝手に誤解していた。
「アヤコに捨てられたら俺は・・・俺はどうしたらいいんだー！」
ガットはわんわん泣いている。
「ガット大丈夫だ。あの男の肌には蛇がいる。だからアヤコが好きになることはない」
ラクシュミがやれやれとばかりに言うと、ガットはっとラクシュミを見た。
「蛇がいる？肌ににょろがいるのか？」
「そうだ。アヤコは蛇嫌いだろ。だから好きにはならん」
にょろって言われたことに内心むっとしながらもラクシュミは言った。
「・・・そうか。そうなのか・・・」
ガットは安心したのか笑みさえ浮かべていた。
やれやれ・・・
「それで、あの男なんなんだ？」
「本人が言うままだ。医者だといえば医者なんだろ？」
「なんであの目してる。」
「お前は難しいことは考えるな」
「・・・・」
「じゃあな」
ラクシュミはさっさと鏡を閉めた。
夕方までタロウや、他の子供らと遊んだロイはそのまま王宮の客間に泊めてもらい、次の日も、その次の日も、アヤコに注射を
打った。そのつどガットがやってきてやかましいので、ロイはガットに毎回睡眠薬をぶすぶすうったのだった。
「これで終わりましたよ」
「あーよかった。もう絶対いや！」
３回目の注射をうたれたアヤコは涙目で言った。
ロイは袋の中から紙に包まれた円状のものを取り出して、アヤコに渡した。
「何これ」
アヤコは紙をあけてみた。
「蚊取り線香じゃない！」
それは、ぐるぐる巻きにされた緑のものだった。１０個くらい重ねられている。ところどころ折れていた。
線は太めだが、見るからに蚊取り線香だ。
「どうしたの？これ、どこで手に入れたの？」
アヤコは驚いて聞いた。
「作ったんですよ。この国にも虫除けはありますけど、そんなに強力じゃないので。もし、そのうちに
虫が大量発生するようなことがあったら、これ使ってください」
「へー・・・これ、どこで買えるの？」
「どこにも売ってないですよ。ですから大事にとっておいてくださいね。湿気ないようにこの紙に包んでおいてください。この紙、
乾燥剤の役目してますから」
「うん。わかったわ」
「それからこれは虫除けの香水」
ロイは次に小瓶を取り出した。
「森の中に入る時は、これつけてください。なくなったら、ここに液体の種類が書いてありますから、だれかに作ってもらって
ください」
ロイは一緒に紙も渡した。
「へー。うわ、変なにおい」
アヤコは香水のにおいをかいだ。なんだか変な刺激臭がした。
「それじゃ僕行きますよ」
「叉来るの？」
「いえ、当分は」
「そう、よくわからないけど、いろいろありがと」
「お元気で」
ロイはアヤコを見て、床に寝ているガットを見て、部屋を出た。部屋の外にはタロウがいた。
「今日は遊ばないの？」
タロウがロイを見て言った。
「もう帰るから遊べないんだ。叉今度遊ぼうな」
「うん」
ロイはタロウの頭をなでて、去って行った。
できることはやった。
これで、この時代の未来は変わるのだろうか。
あっちの未来は？
どうせなら・・・みんな幸せになってほしいよなあ・・・
ロイは目を細めて廊下を歩いて行った。
ロイは向こうでアヤコに会った事はない。
なぜなら、とっくに亡くなっていたからだった。アヤコがなくなったのは、ゆりが二人目を産んですぐのことだった。
アヤコの死を知ったゆりはしばらく泣いて、沈んでいたという。陽気な虎の国の人々も、かなり長い間悲しんだ。
当然ガットやタロウも。
死因ははっきりしなかったが、そのころ虎の国の森に人を刺す虫が大量発生しており、アヤコの肌に２つ３つ赤い刺されたような
跡があったことから、その虫が原因ではないかと言われていた。一晩でどっと熱があがり、次の朝にはなくなっていたという。
虎族の者は、虫にさされてもなんてことはないのだが、異界の女であるアヤコには、その虫に対する抗体がなかったのだ。
それから時は過ぎて、ゆりの息子の一人が、虫の予防薬のような研究を始めたのだった。ゆりの血を使って研究し、やがて
あの予防薬が出来上がったのだった。それがアヤコにロイがうった薬だった。３つあったのは三種類の虫を想定したからだ。
どうせ過去に行くならばと、そう思い、作り出したのだった。
そして未来―
虎の国。日が沈むころ、タロウは東の森にきていた。
「父さん、帰りましょう」
一日中森の中でぼんやり座っている自分の父親ガットに声をかける。いくら激しい雨が降っても、父はここからてこでも
動かない。ここは、父が母と出会った場所だった。うっそうとしげる木々の中、父は母を見つけて半ば強引に王宮に連れて
行った。父の方が一方的に恋をしたのだが、やがて母もそれを受け入れた。その母がなくなってしまい、父は心をどこかに
おいてきたかのように、なってしまったのだった。
ただぼんやりと、毎日この場所で過ごしている。雨の日も、風の日も。まるで、母の訪れを再び待っているかのように。
タロウはガットの腕を引いた。
「帰りましょう。また明日、ここにきましょう」
そういうと、ガットはのそのそと立ち上がり、タロウの後をついて歩いた。金色の髪はすっかり白くなり、ガットの姿は、
精気のない、まるで老人のようであった。
二人は王宮に戻り、部屋に入った。そして、部屋にいた人物の顔を見て、動きを止めた。
「お帰りなさい」
にこりと笑って言うその人物。あごのラインまでの黒い髪、黒い瞳、かわいらしいその姿に、タロウの瞳から、涙が流れ落ちた。
幼い記憶の中にある、母親の姿がそこにあった。
「母さん・・・」
「ど、どうしたの？ガット、タロウも。あれ？ガットなんだかやけに老けたんじゃない？なんで？」
涙を流しているのはガットも同じだった。ガットは、がくんとひざを折り、その女を見上げている。
「ア・・アヤコ・・・」
「どうしたの？二人とも変よ？あれ？タロウって・・・こんなにでかかったっけ」
アヤコが近づく。ガットはアヤコにすがり、泣き出した。
「ガットったら・・・」
「アヤコー！」
「一体どうしたのよ。何があったの？」
「なんでもないよ。母さん、ただちょっと、いやな夢を見ただけだから」
タロウは涙を流していった。
やがて、その朗報は蛇の国にも伝えられた。
「アヤコさん！アヤコさーん！」
王の間の鏡で、ゆりがわんわん泣いていた。ゆりの横で、ゆりよりも背の高い銀色の長い髪の女も泣いていた。
「よかったわねー・・・ほんと」
「全く何がなんやらさっぱりわからないわ。一体どうなってるの？なんだか途中の記憶がぽっかりないの」
鏡の向こうではアヤコが不思議そうに言っていた。
「アヤコさんが生き返ったって本当？」
王の間に、一人の男が入ってきた。耳が隠れるほどの長さの銀色の髪、穏やかな表情をした男だった。体つきは華奢で
全く戦いに向きそうにない。男はゆりの横から鏡をのぞいて、ぎょっとした。
「本当だ・・・」
男が不思議そうに言った。
「まあ、ゆっくり落ち着いて、アヤコさん」
ゆりがいい、アヤコは「ええ」といって、消えた。
「おかしいな。一体どういう仕組みなんだろうね。死体もないのに生き返るなんて」
男が不思議そうに言った。その瞳は、金色ではない。薄い茶色だった。
「まあいいじゃない。生き返ったんだから、深いことは考えないでさ、それよりあんたやっぱり天才ね♪」
銀の髪の女が男の頭を抱き寄せた。背は女の方が高い。
「アヤコさんが死ななかったってことは、未来の僕は・・・薬は作らないのかな？どうなんだろ」
男は首をひねっている。
「まあいいじゃん。どうでも♪」
「どうでもって・・・・」
「今日はお祝いで宴会ね。あなたたちもおいでねー」
銀の髪の女、アナスターシャは扉近くにいる番兵たちに言って消えた。
その時ぱっと銀の長い髪の男が現れた。
「王様ー聞いた？アヤコさんの話」
「聞いたよ。僕はシスだよ。母様」
男はラクシュミそっくりの顔でそういった。だが、ラクシュミよりも顔は若く、表情もラクシュミよりは穏やかだ。
王の服を着ているので、ぱっと見ると、わからない。背中から見ただけではまずだれもわからないだろう。
「父様どこいったの？」
「ハザーク様と酒飲んでるよ。全く・・・代わりなんてもう無理なのに・・・だませるのは他国の者くらいだよ。すっかりサボり癖
がついちゃって・・・」
シスはぶつぶつ言っている。
「まあいいじゃないか。」
「そうよ。大体あなたたちがさっさと継いであげないからじゃない」
とゆり。
「姉さんはじっとしてるの嫌いだしねえ」
「僕もずっとここにいるのやだよ」
男に続けてシスも言った。
「ならたまにはさぼらしてあげてよ。でも、こうしてみると本当に王様」
ゆりはシスの腕に自分の腕を回した。ゆりもそれなりに年はとっているのだが、子供らに比べるとさほどの変化でもなかった。
「姉様が座ってりゃいいのに・・・」
「姉さんは、もう宴会の準備に行っちゃったから・・・」
「えー！昼間から何考えてるんだ。あの人は」
シスがぶつぶつ言っていると番兵がやってきた。
「あのーお客様ですが・・・王・・・」
「じゃあ私行くね」
とゆりは逃げていった。
「じゃんじゃんいれてやって」
男が笑って言っている。
「お前もいろよ。」
シスは男の腕を引っ張り言った。
「エー僕他の研究が・・・」
「うるさい！」
「全くしょうがないなあ・・・」
仕方なく男はシスの横につきそい、王の間に入ってきた他国の者に、シスよりも横の男の方がべらべらしゃべっていたのだった。
おしまい
進む