第4話

「あのう・・・王様・・ミカエルと何度か夜会う事になってしまいました・・」

ミカエルとの刺激的な夜が明けた朝、ゆりは律儀にラクシュミに報告していた。ラクシュミは食堂で朝食を食べた後だった。

ラクシュミは酒が入った杯を持ったまま、ゆりを見た。この国では酒は水みたいなものなので、朝から飲むこともあるのだ。

「大丈夫なのか？別にミカエルの言う通りにしなくてもいいんだぞ。嫌なら二度と顔を見せるな、って言えばいいんだ。」

「・・・」

そこまでミカエルの事が嫌ってわけでは・・・

「私がお前と恋人達の事をとやかく言うのもなんだが・・・言いにくいなら私から言おうか？

お前に二度と会うなって」

「別にそこまで言うほど嫌いでは・・・」

っていうか、王様の中では、いつの間にかみんな私の恋人になってる！？

その方が衝撃だった。

「じゃあ好きなのか？」

「嫌いか好きかと聞かれたら、好きだよ」

「そうか。ならいいんだが」

「とりあえず、ミカエルと何度かあったら、もう誰とも会わないよ。夜は」

「そうか。まあその方がいいだろうな。お前には何やら悪かったな」

「ううん・・・」

私もなにやら調子に乗っちゃったからなあ・・・やっぱりバチがあたったのかも。

ゆりは部屋を出て行った。

面白いもんだな・・・

ラクシュミはそう感じていた。面白いと思ったのは、二人のゆりの対比である。もう一人のゆりならば昨日誰といましたなどと

わざわざ報告しにきたりはしない。ラクシュミが聞けば答えるだろうが、その時でもさっきのゆりのような、

後ろめたいような目では言いはしないだろう。

まあ私とすれば、ゆりが他の男から気をもらう方がありがたいが・・・

ミカエルにはちょっと釘を刺しておくか・・・

ちょっと釘は刺すが夜会うなとまでは言わないあたりが、今のラクシュミらしいところだった。

その夜、、ゆりがベッドで座っていると、ミカエルがやってきた。部屋の灯りはついている。ゆりは昨日のようなすけすけの

服ではなく、厚めの服で肌を隠していた。

「こんばんは。王妃」

「こんばんは、ミカエル」

ミカエルはゆりの横にぴったり座った。そしてゆりの着ている寝間着を見た。

「昨日のような服がよかったな」

「そう？今日はちょっと寒いから」

「そうですか？昨日よりは暑いくらいですが」

二人は微笑んでみつめあっていたが、妙な緊張感が漂っていた。

「私ね、今日はお酒用意しておいたんだ。ミカエルに一杯飲んでもらおうと思って」

ゆりがニコニコして言った。

ベッドの横の棚には一杯酒瓶が置かれていた。

「お酒？実はかなり飲んできたんですが、いいですよ」

ゆりはミカエルに杯を渡して、お酒を注いた。杯はかなり巨大で顔ほどのでかさだった。とってがついている。

どこでこんなの見つけてきたんだろうとミカエルは思ったが、黙っていた。

ゆりはどぼどぼとお酒を注いだ。杯があまりに巨大なので、酒瓶は空になった。

「ミカエルってお酒強いんでしょ？」

「実はそんなに強くないんです」

「そうなの？でもいっぱい飲んでね」

「はい♪」

ミカエルはその酒を全部飲んだ。

ゆりは微笑んで、次から次へと酒をついで行く。ミカエルはそれをすべて飲んでいるのだが、一向に酔う気配はない。

「あなたについでもらえるとはうれしいですね」

ミカエルはかなりご機嫌でお酒を飲んでいた。

「・・・」


おかしいな。もう酔ってもいいと思うけど・・・

ミカエルの顔色は全然変わらない。

この一族が酒に強いというのはゆりだって知っている。だから全てかなり強いのばかり用意しておいたのだ。


ベッドの下には、すでに10本もの空瓶がおかれている。

だがミカエルは全く平気な顔をしている。


「あなたは飲まないんですか？」

ミカエルが聞いた。

「わ、わたし？私はそんなに飲めないから・・」

ミカエルはうっすらと微笑み、ゆりに口付けた。ゆりは口の中にお酒を注がれるのを感じた。

しかもそれを飲んでしまった。

「もう一口」

ゆりがぶるぶると横に顔を振る。

「残念ですね」

「・・・」


なんか体が・・・

一口だけなのに・・・


体温が急激に上がってきた。


「顔が真っ赤になってきましたね。もう酔ったんですか？あなたは本当にかわいらしい」

「・・・なんか力が・・」


めまいがする・・・


ミカエルは杯を力で横の台に移動させて、ゆりを抱き寄せた。

「今からいっぱい愛してあげますよ」

「う・・」

ミカエルは、ゆりの体を寝かせて、上に乗った。



ゆりが気づいたときには、体はすっかりミカエルの腕の中にいた。自分は完全に裸で、上を見ると、ミカエルと目があった。

「・・・」

全然覚えてない・・・


「おはようございます。王妃」

ミカエルが微笑んで言った。すっかりご機嫌で、しかもなんだか情事の後って感じのつやっぽさがある。

カーテンの向こうは明るい。もう朝だ。


「・・・」

「王妃はほんと面白いですね。あんな下着初めてみましたよ」

ベッドの下にはゆりが昨晩着ていた、分厚いコルセットのようなものが落ちていた。わざと脱がしにくいようなものを

着ていたのだが、すっかり脱がされちゃったみたいだ。

「思わず笑ってしまいましたよ。ほんと王妃は面白いんだから♪」

「・・・・」

昨日はどこまでいっちゃった？

そう聞くのも怖かった。


「あのう・・・」

「今夜もきていいですか？」

ミカエルの言葉にゆりはぎょっとした。

「え？だめだよ。もうこれで終わり」

「まだ２回ですよ？」

「私もうよくわかった。私はミカエルのこと一番好きだし、一番のお気に入りだし、一番の恋人だから。

お願いだからもう勘弁してください」

「・・・・・」

「健全に昼間会おうよ。ね」

ゆりは引きつった笑いを浮かべていった。

「いいですよ」

「ほんと？」

「ええ。それじゃ行きますね」

ミカエルはゆりの額にキスして、服を着て去って行った。


「・・・」

ゆりは布団を頭までかぶって脱力していた。


記憶がないのが怖い・・・


その日の昼過ぎ、ゆりがぼんやりしているとフリットが部屋にやってきた。

「ミルキダスからなにやら聞いたんですが・・・」

フリットが侍女を気にして言ったので、ゆりは侍女を部屋から出した。

「そうなのよ。もう聞いてよ」

フリットはテーブルを挟んでゆりの前に座った。

「ちょっと遊んだらとんでもない事になったんだよ」

「遊びですか？」

「うん・・・王様がさ、最近全然その気ないから、他の男にかまってもらえっていうから

ヴィラと何度かあってたんだよ。そしたら、ミカエルにばれて・・・」

フリットはクックと笑った。

「それはそれは・・・」

「それで、なんでヴィラのほうなんだって責められて・・・」

フリットはおかしそうに笑っている。

「笑い事じゃないよ。あの時は怖かったんだから。」

ゆりが真っ赤な顔で言う。

「失礼を。でもなぜヴィラだったんですか？」

「ヴィラとだったら、愛し合うって感じにはならないから。ヴィラはうまくひいてくれるし、でもミカエルだと

すぐ感情的に責めてくるんだもの。好きだの愛してるだの言ってくるし、夜二人っきりはなんか変なことになりそうでやなの」

「はあ・・・」

「・・・それで昨日きたの」

「大丈夫でしたか？」

「お酒いっぱい飲ましたのに全然酔わない、酔っ払わせて眠らせようと思ったのに」

ゆりが悔しそうに言う。

フリットはまたおかしそうに笑った。

「ミカエルにお酒攻撃は無駄ですよ。あいつは底なしですからね。」

「でも、強いのばっかり集めてもらったんだよ。10本くらいは飲んだよ？」

「酒瓶が10本では無理です。前に、まだ少年のころ、お酒の飲み比べをしたことがあるんですよ。

50本飲んでも酔わなかったですからね」

「50・・・・」

「酔わそうとするなら、酒樽で５個は用意しておかないと」

樽ですか？

「わが一族の者は、基本的に皆お酒強いですよ。」

「それって、うわばみってやつ？」

「ふふふ」

「眠り薬いれとけばよかった。」

「匂いでわかりますよ。逆に危険です」

「はあ・・・」

フリットは考えるように上を見た。

「一番いいのは、もう顔も見たくないっていうことですよ」

「それが言えないから悩んでるんじゃない。基本的に、ミカエルのこと嫌いじゃないから。あの顔すごい好きだから困る・・・」

「ふふ・・・そうですか。でも王妃は面白いですね。そういう手を考えるなんて・・・」

フリットは微笑んで言った。


王妃なのだから、もっと強気に出ればいいのに・・・なんでこうミカエルより下に出るんだろう・・・・

フリットは不思議だった。


まあ、そういう面白い所が、ミカエルが気に入ってる所かもしれないが・・・


「ミカエルはまたくるんですか？」

「ううん。夜はもう勘弁してもらった。怖いから。昼間の方がまだましだし」

「でも王妃はまんざら嫌でもないんでしょう？そう思うってことは」

「そりゃそうだよ。でも、喜んでしょっちゅういちゃいちゃするってわけにはいかないよ。なんだか王様を裏切ってる気分になる」

「はあ・・・それはミカエルのほうを愛してしまうと思うからですか？」

「え？いや・・・私は交わりの月の時の王様を最高に愛してるから、別にミカエルはそこまで愛さないと思うけど・・・」

「ならいいような気もしますが」

「でもそういうわけにも・・・もしミカエルの子供とか妊娠したらやばいじゃない」

「はあ・・・まあそうですね。でも、嫌な事をされそうになったら、ちゃんと嫌だといわなきゃだめですよ。あなたが我慢する

必要は全くないんですからね」

「うん・・・わかってるけど・・・」

「私も王妃の事が好きなんですから、忘れないでくださいね」

フリットは優しく微笑んで言った。

「うん・・・あの・・・フリットにこういう話してまずかったかな・・・」

ゆりはちょっと気まずそうにいった。

「いいですよ。私は別にミカエルのように一番になりたいとは思ってませんから。お兄さんのように信頼してください」

「ありがとう。フリットって優しいんだね」

ゆりはにこにこして言った。

そのころ、ミカエルはアナスターシャの部屋を訪れていた。アナスターシャはゆりかごの中に座っていた。中には５人もの

侍女がいるが、ミカエルを見ると、少し部屋の横の方に下がって行った。

「こんにちは。姫君」

ミカエルがゆりかごに近づいてアナスターシャを見つめると、アナスターシャはじっとミカエルを見上げて首をかしげた。

「トー？」

ミカエルは微笑んでアナスターシャを抱き上げた。

「チャンポ。チャンポ」

「お散歩したいんですか？少しだけですよ？」

ミカエルが言うと、アナスターシャがうれしそうににんまり笑った。

「トーだいちゅき」

「私も姫君が大好きですよ」

「きゃはははは」

ー王、ちょっと姫君と散歩してきますね

ミカエルはラクシュミに思念を送って、アナスターシャと共に移動した。

アナスターシャに「とー」と呼ばれて取り合えず満足したようだった。

進む