第9話
会いたくないはずはない。
希望と、勇気を与えてくれたあの人に
だが、会ってどうする？ 何を言えばいいのかも分らない
あの人に混乱と悲しみを再び与えるだけだろう
それならば会わない方がいい
今のままでいるのが一番いい
そう思っても、心は揺れる
せめて、あの人がずっと笑っていられるように手助けをしたい
今は自分にできることを――
酒祭りが終わると朝晩冷えるようになってきた。これからの季節は、日が照る日は貴重になってくる。
寒くなると風邪を引きやすい。周りの者は病気を城に持ち込まないようにかなり気をつかっているのである。
それでも病気は時としてさけられない。今朝もロイが鼻水を垂らしていたので、さっそく隔離されてしまっていた。
きっとお腹を出して寝ていたせいだろう。
せきもし出したロイは、それが収まるまで皆と離されるだろう。
ロイはさっそく、
―部屋にこもりっきりはいやだー！
と、アナスターシャ、シス、ラギ、ナナミに思念を送りまくり、４人にうるさがられていた。
「みんなも風邪に気をつけてね」
ゆりは子供達に言ったが、「母様が一番気をつけて」とアナスターシャに返されていた。
「確かに、風邪を引いたらお母さんが一番やっかいかもね」
とラギが続けている。ゆりは反論もできずに苦い顔をしていた。ゆりは今まで大熱を出して記憶を飛ばしてしまったことが何度かあった。
子供を産んだ記憶もすっかり忘れたほどなので、子供達は今でもしっかりその時のことを覚えている。
「わかってるわよ。まあ、病気ってのは気をつけてもなるものだからしょうがないわよねーところで二人ともどうしたの？
なんか暗くない？」
ゆりの左目は蛇の目に変わっていた。突然変わっても子供達は驚くこともない。二人、とは、シスとラギをさしていた。
二人とも食堂に来てからずっと暗い表情で朝食を食べている。
「まだロイがやかましいの？」
ゆりが聞いた。
「違うよ。僕は夢見が悪かった。なんだかとてもやな夢を見てしまった」
ラギが言った。
「まさに悪夢だ。聞きたい？」
「本に追いかけられたんでしょ？」
ゆりがあっさり言った。
「違うよ。それは小さい頃の夢だよ。僕は将来の夢を見たんだ。僕たちはすっかり大きくなってた」
「へー私はすごい美人になってた？」
アナスターシャが聞いた。
「それで、とうとう過去を変えようってことになったんだよ。そしたら……」
「ブッブーブブブー」
話についてこれないミシェイラは一人声を発していた。
「私はどうなってたの？」
アナスターシャがしつこく聞いていた。
「そんなことはどうでもいいの。いざ過去に行こうとしたらさー」
アナスターシャがぶつぶつ言いだしたので、シスが「まあまあ」とアナスターシャをなだめている。
「行こうとしたらどうしたの？」
ゆりがせかした。
「肝心なことが全部抜けてたんだよ。ロイはライオネル様に力を封印されたままで、姉さんはちょっと強くなった程度で、
二人が過去に行って戦に勝てるとはどうにも思えなかった。姉さんは『行けばなんとかなるんじゃなーい？』とか言ってたけどね」
「失礼な。ちょっとってなによ。かなり強くなってるはずよ」
アナスターシャが口をとがらせて言っていた。
「しかも、その前に母様に腕輪を渡さなきゃならないってことにその時気づいたんだ」
「気づくの遅いわね」
ゆりが突っ込んだ。
「しかし、渡すべき腕輪もなかった。そして異次元の母様にも会えず、結局何もかもがぐだぐだで……とにかく、あれは悪夢だ」
ラギは髪をぐしゃぐしゃかきむしっていた。相当夢がひどかったようだ。
「ナナミはネーよりも綺麗になってた？」
ナナミが最後に聞いて、ラギは「うん、なってた」と答え、アナスターシャがラギをにらんでいた。
「私の方が綺麗に決まってるでしょ」
「私だって綺麗だもんね」
二人は言い合いを始めていた。
さすが、姉妹は張り合うものらしい。
「まあまあ、ただの夢なんだから。まあ、未来はなるようになるわよ」
ゆりは気楽に言った。アナスターシャのお気楽さは、１００パーセント母譲りであろう。
「今から気にしなくていいわよ」
「別にそんなに気にしてなかったけど、夢に見ちゃったんだよ」
ラギは渋い顔でホットミルクを飲み出した。
「それで、シスはなんで暗いの？」
ゆりがシスに話をふった。
「僕は、寒くなるからやだなーって思って。早く春になってほしい」
「寒いのはこれからじゃない」
「シスはまだもやってるだけでしょ？ もやもや、もやもや」
アナスターシャが小声でささやき、「うるさいよ」とシスに言われていた。
シスにはちゃんとした理由があった。寒くなってくると、ドルイドがもし大人になっても、来るのに困るだろうと思ったのだった。
なにせ、ドルイドの服を、カレンの屋敷に用意することができないのである。ここまで裸にシーツで来てもらうしかない。
帰りもそうだ。夜寒くなればそれこそ風邪を引いてしまうだろう。それはシスとしても困るのである。だからといって暖かくなるまで
会えないのも寂しい話である。
「寒いのはやだ」
「この冬は雪とか降らないといいわね。みんな寒いのに弱いからね」
ゆりもそう願った。
「ねえ、マー」
ミシェイラが言ってゆりが「なあに？」と顔を向けた。
「クーはいつくる？」
ミシェイラは相変わらずマイペースである。
「クー、さあねえ」
ゆりは苦笑して首をかしげていた。
「ミシェイラはどんな大人になってた？」
シスがラギに聞いた。
「ミシェイラ？ さあ、そういえば出てこなかったなあ。今お母さんのお腹にいる子も出てこなかったし、そうかあ。未来はまだ未知数！
そうだな。うん」
ラギはようやく明るくなっていた。
ところが変わって過去のヴィラルージュ女王の時代、ある屋敷でも、もんもんとしている騎士がいた。
レイアスである。レイアスはここしばらく変な夢に悩まされている。一度悩むとどうにも抜けられない。
「昨日はヴィラ殿に会えました？」
レイアスは向かいに座っていたディランに聞いた。こちらも朝食中である。
「いいや。会えてない」
「ああ、気になってしょうがないなあ……」
レイアスはぶつぶつ言っていた。
「緑の蛇はどこに行ってしまったのだろう。あの山の向こうか。私の手の届かないところへと行ってしまったのか。蛇よ。蛇よ……」
レイアスは芝居がかった口調で言っていたが、ディランは無視してスープを飲んでいた。
レイアスはたまに息子らしき蛇が出てくる夢を見ることがあった。その夢も、ある時から小さい蛇は一匹しか出てこないのである。
レイアスは夢の中でもう一匹を探すのだが、一行に見つからない。
「しかも、昨晩なんて最悪の夢を見ちゃったんですよ。蛇を探してたら、真っ黒焦げの蛇を発見したんです！炭みたいに真っ黒なんですよ。
僕は夢で泣いたんですよ。泣きわめいてしまいましたよ」
「それで目が腫れてるのか」
ディランがため息交じりに言った。
レイアスのまぶたは腫れていた。泣きはらしたせいらしい。
「兄さんはいいですねえ。蛇が死に目に会いに来てくれて」
レイアスは今度はため息をついて言い出した。
「死に目？ ああ、あれは生き返ったら死に目でもないが……」
「とにかく、死んでいるのか生きているのか、それが知りたいんですよ」
レイアスは机をどんとたたいていた。どうやらかなり思い詰めているようである。
「まあ、そのうちにヴィラ殿に会えればいいが……」
前回ディランがヴィラに会ってから半年ほど経っていた。今度はいつまた出会えるかはわからない。
「もしその男が亡くなっていたとしたら……本当に聞きたいのか？」
ディランは確認するように聞いていた。
「もちろんですよ。悲しいけれど、少なくとも息子蛇を探すことはそれでやめられますからね。もし亡くなっていたら、僕は息子の転生を
願って祈ります」
レイアスは斜め上を向いて涙ぐんでいた。
肌の蛇も人と同じように転生するのだろうか。
それは分らないが、ないとも言い切れない。もしいなくなったのがディランの子蛇だったとしたら、やはり同じことを思うだろう。
「ヴィラ殿に会う前にアナスターシャ様の話を詰めたかったが……今はそれどころではないしなあ……」
ディランはため息交じりに言った。
「アナスターシャ様がいらっしゃるの、陛下の出産後の方がいいんじゃないんですか？ どうにも最近陛下の体調が悪すぎますしね。
来年、再来年もどうかはわからないですよ」
「そうだなあ」
ヴィラルージュは妊娠中なのだが、今回はつわりがひどく、体調がかなり悪かった。そのせいか機嫌も悪いのである。
「前回はこんなに機嫌悪くならなかったのになあ」
「父親のせいだとやっかまれてますね」
レイアスがずばり言った。
「うっ」
「まあ、妊娠の症状は毎回違うようですからね。こればかりは男は見守るだけですよ」
すでに一人子供がいるレイアスは、父親としてはディランよりも先輩である。
「そうだな」
女王が頼んで作らせていた魔法石で作られた腕輪はできあがっていた。過去に来たときにゆりが腕にしていたものと同じような
ものである。
あの腕輪は、ひょっとしたら陛下からの贈り物なのだろうか？
それとも偶然の一致なのか？
そちらにも疑問は残る。
「同じ腕輪が二つ……」
「息子蛇〜〜〜」
レイアスは低い声でうなっていた。
未来の世界では、授業の合間、シスは自分の寝室のクローゼットに侍女が用意した男用の暖かい服をしまっていた。
もちろんドルイド用である。今回はラクシュミの言葉添えもあり、侍女は何も言わずに服を用意してくれた。
だが心の中では疑問でいっぱいだろう。
「ドルイド、寒いのに来てくれるかなあ……」
シスが閉じたクローゼットを見てつぶやいていると、ロイから思念が来た。
―ニー遊んでよ！ 僕暇なんだよー！！！
―遊ぶっていっても、僕はその部屋には行けないよ。怒られるし、風邪が移ると困るし
―じゃあしりとりしようよ。しりとり！ だってだれも遊んでくれないんだもん
―侍女に遊んでもらいなよ
―やーだー……
―ごめんね。ロイ、本でも読んでね。僕はこれから授業なの
―ニーのいけず！！
シスは思念を閉じて、次の剣の稽古場へと飛んでいった。
「くそー」
だれにも相手にされないロイは部屋で一人でいじけていた。
声を発すると二人の侍女がじろりとロイを見た。部屋の中は常に監視されているのである。
「僕、おしっこしたい」
ロイは股間を押えて言い出した。
「おトイレにどうぞ」
「もれるー」
ロイは侍女に付き添われて部屋の外にあるトイレに行った。トイレは部屋に備え付けではないのである。
ロイがトイレのドアを閉めようとしたら侍女に阻止された。
「見られてたらできないよ！」
「絶対逃げないでくださいよ！」
「わかってるよ」
侍女がドアを閉めると、ロイはやはり瞬間移動で逃げていた。
「今日はこーんなに天気がいいのに、部屋に閉じこもってられないよ！」
朝は寒かったが、昼になると太陽が照り、気温も上昇していた。
「大体鼻水とせきくらい、移ったって死なないだろう。父様に会わなきゃいいさ」
ロイはさっさと庭園に行き、草の上に蛇と一緒に寝転がった。
「せきだってたまに出るだけだし……ごほっ、たいしたことないのに大げさな……ふああああ」
大きなあくびをして目を閉じた。そして目を開けると、ぬっと女性の顔が現れた。
「こんなところで何をしていらっしゃるのですか？」
日にやけた肌のメイドである。
「ひなたぼっこだよ。君は、えーと、虎から来たマリリンだっけ」
「虎から来たマリカですよ。ロイ様、許可は出ておりません。お部屋に戻りましょう」
マリカはほほえんでロイを見下ろしていた。ロイは無言で飛ぼうとしたところを、マリカに素早く足を捕まれていた。
「うおっ素早い！」
ロイは驚いている。
「さあ、帰りますか」
「やだ」
「ではこのまま引きずっていきますが」
マリカはロイの左足首を持ったまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと待った！」
ロイはマリカの手が外れると勢いをつけて起き上がり、構えのポーズを取った。
「おっ、きますか？ 私結構強いですよ」
「うおおおおおお！」
勢いよく向かっていったロイは、そのままマリカの横を通り抜けて走り去っていった。
「こら、待ちなさい！」
マリカは当然後を追いかけて、ロイをひっ捕まえていた。
「君、足も速いね。さすが虎から来ただけはあるよ」
ロイはマリカにかつがれたまま偉そうに言っていた。
「脱走者、捕獲しましたー」
マリカはそういいながら、城の中へロイをつれて行ったのだった。
その後マリカは臨時のロイの侍女にされてロイの部屋に居座ることになってしまった。
困ったのはロイである。マリカは他のメイドに比べて隙がなく、遠慮もなかった。ベッドの横にいられるだけで
何かすごい威圧感を抱くのである。
「あ、なんか僕もう風邪治ったんじゃないかな？」
「じゃあお勉強でもされたらどうですか？」
「やっぱ風邪だ」
ロイは仕方なくベッドの上でごろごろしていた。
「君どうして虎から来たの？ わかった。何か失敗したんだろう」
ロイが寝転んだまま顔を向けて言った。
「高い壺でも割ったんじゃない？」
「それはロイ様じゃないんですか？」
マリカはほほえんで返している。
「僕は高い壺は割ってない。ほどほどの壺ならいくつか割ったけどね」
「おとなしくしていればすぐに治りますよ。あまり動き回ってると、ひどくなって長引くだけですよ」
「へーい」
ロイはつまらなそうに返事をして寝転んでいたのだった。
マリカは夕方になると部屋から出て行き、ようやくいつもの侍女に戻ってロイはほっとした。
「なんかあの人緊張するよ。もうやだよ」
「せっかくですから、ロイ様が風邪の間はマリカさんに来てもらうことにしました」
侍女に言われてロイはベッドの上で倒れていた。
「えーやだよ！ やだやだ！」
「王様にもう決められてしまいましたー」
いつもの侍女はうれしそうにロイに告げたのだった。
「逃げるロイ様を走って捕まえるなんてすごいですわ。私達ではとてもとても。さすが虎から来ただけはありますわ」
侍女も感心しきりだった。
「くそーこうなったら、早く風邪を治そう」
ロイはようやくそういう気になり、夕食の後、苦い薬も飲んだのだった。
今宵は綺麗な上弦の月が夜空を照らしていた。
夜は冷えるため、ゆりは窓を閉めて月を眺めていた。
「それにしても、ロイにも怖い者がいたとはね。笑えるわ。まあおとなしくしてくれてよかった」
ロイのことは笑い話として伝わっていた。
軽い風邪なのに部屋に閉じ込められるのはかわいそうだが、こればかりは城の決まりなので仕方がない。
「寝よっと。なんか今日は胸がどきどきするなあ。もしかしたら神の国にいけるかも？」
ゆりはそんな期待を胸に、自分の寝室で眠りについた。
気が付くと濃い霧の中にいた。足の感触からいって、踏みしめているのは草や枝である。ここは野外、森の中である。
やってきていたのはゆりではなく、ヴィラだった。
ヴィラはなんとなく、（いつものあれかな？）と感じていた。どこかにディランがいるような気がしていたのである。
今回は蛇たちはどんな姿をしているのだろうか。そんなことを思いながら歩いていると、「いてて、いて」と声が聞こえてきた。
「いててて」
横からぬっと出てきた人物にヴィラはびっくり仰天していた。そこにいたのはジュノーだったからだ。
「あ、ヴィラ！」
ジュノーも驚いていた。
「ジュノーじゃないか！」
ジュノーは茶色のバスローブ姿で裸足だった。
「なんだ、ディラン殿に会うのかと思ったのに、ジュノーに会うとは……」
「私はこの格好なのに、なんでお前はそんな服なの？」
ジュノーはヴィラを上から下まで見て聞いた。ヴィラは普段屋敷で着るようなシャツとズボンを着ていたからだ。しかも、
茶色い靴下をはいている。
「私はこの格好で寝てたからな」
「えー靴下まで履いて寝てるのか？ おじさんぽいぞ」
「いつこうなってもいいように履いてるんだ」
ヴィラはこめかみを引きつらせて力説していた。
「それでそんな窮屈な格好で寝てるのか」
「そう」
「ふーん」
「ってことは、これはどんな夢なんだろう？ とにかく行ってみよう」
「あ？ ああ」
ジュノーはよくわからないままヴィラについていった。
「おい、靴下片方よこせ」
「いやだ」
「けち。ヴィラは靴下をはいて寝てると王妃に言ってやる」
「ふん」
などと言い合いながら、二人は森の中を歩いて行った。
同時刻、カレンの屋敷では、小さいドルイドが大きく変わっていた。先ほど大きくなる前に、
ガーベラが再びドルイドの前に現れたのだった。それは夢かうつつの世界の出来事である。
「元に戻りたい？」と聞いたガーベラに、ドルイドは「このままでいたいです」とはっきりと答えたのだった。
「良い人生になりますように」
ガーベラはドルイドを抱きしめて、そう祝福した。
そんなことがあり、大人になったドルイドは、その余韻に浸り、まったりしていたのだった。
「ガーベラ様……ガーベラ様に出会ったら、猛烈にゆり様に会いたくなってきた……」
豊かな胸の感触と、かぐわしい匂いをかいだせいか、抑えてきた感情が、今はちょっとあふれている。
「だめだ。会うわけにはいかない。会うわけにはいかない……」
ドルイドは布団をひっかぶって一人もんもんとしていたのだが、そのうちに眠ってしまった。
夢の中一緒にいたヴィラとジュノーは、森の向こうに緑色の屋根の屋敷を発見していた。屋敷のあたりはすっかり霧もはれている。
「ディラン殿の屋敷だ」
「え？ 本当？ 参ったな、こんな格好で……」
思いもかけずバスローブできてしまったジュノーは、せめてと髪をなでつけていた。
「行ってみよう！」
「あ、ああ。参ったなあ」
二人はディランの屋敷らしき建物に向かい、建物に入ろうとしたが、屋敷の中はがらんどうでなにもなかった。
二人は屋敷の周りを回り、庭へと向かった。
「あっ！！」
「あっ！ ヴィラ殿！」
「やはりディラン殿！」
広い庭園の真ん中に真っ白い丸いテーブルがあり、ディランはそのイスに座っていた。そしてその横にレイアスもいたので、ヴィラは
さらに驚いていた。ジュノーも目を瞬かせて二人を交互に見ている。
「あ！」
「ああ！ 息子……息子ー！！」
ジュノーを見たレイアスはばっと立ち上がり、ジュノーに走り寄って抱きついた。
「会いたかった。息子ー！」
戸惑ったジュノーだったが、やがて「お父さん」と言っていた。
「のるなあ……でも驚きましたよ。まさか４人で会えるなんて。どうして今日は４人なんでしょう？」
ヴィラは不思議そうにディランに聞いた。
「実は、レイアスのやつが、どうしても自分もヴィラ殿に会いたいと今夜ベッドに潜り込んできたんですよ。いやーすぐ出会えて
よかったですよ」
「息子……」
レイアスは感動に涙し、ジュノーの右手に頬をすり寄せていた。ジュノーはちょっと困った様子である。
そして自分だけバスローブ姿だったので恥ずかしげだった。ディランもレイアスもちゃんとした服装だった。
「ディラン殿とレイアス殿が一緒で、それでジュノーもやってきたのかな？」
ヴィラは首をかしげながら言った。
「私の息子に会いたい熱意が通じたんですよ。ああよかった。ちゃんと息子に会えて、よかった」
レイアスはジュノーの袖をたくし上げて、蛇を眺めていた。
「色が薄いですね」
「すいません。未来では力が薄いのでこうなっちゃうんです」
「そうなんですか」
「あ、レイアス殿の蛇を見せていただけますか？」
「いいですよ」
レイアスはあっさり了承して左腕の袖をめくっていた。
「おおー！！！」
その見事な色にジュノーは感嘆していた。
「やっぱりすごいですねー過去の男の蛇は、しかもでかい。いいなあ。王妃がよく過去の男の蛇はすごかったっていってたんですよ。
本当にすごいですねえ。いやあ、こんな大事な蛇の子供をもらってしまって、本当にありがとうございます」
「こちらこそ、大事にしてもらってうれしいですよ」
二人はしみじみとお礼を言い出した。
「レイアス、あの話を聞いた方がいいんじゃないのか？」
ディランがせかすと、レイアスが思い出したように「ああ！」と声を発していた。
「そうですよ。私のもう一匹の息子はどうなりました？」
「もう一匹？」
「最近もう一匹の蛇が気になってしょうがないんですよ。もしかして死んだのではないかと心配していたんです！
それで兄さんと一緒に寝たんですよ」
「ああ、イシュタール殿……」
ジュノーがつぶやき、ヴィラと目を合わせていた。
「いや、その……イシュタール殿はなんというか……なあ」
ジュノーはなんと言っていいのかわからずに、ヴィラに任せた。
「実はイシュタール殿は死にかけたんです。それで、無事だったんですが、それ以来緑色の子蛇が肌からいなくなってしまったんですよ。
本人もしょげているんです」
「ええ？」
レイアスもディランもさすがに驚いていた。
「蛇がいなくなったんですか？」
「そのうち復活するんじゃないかと思ってるんですが……」
レイアスはよろよろよろめいていたので、ジュノーが身体を支えた。
「そうだったんですか。それで変な夢を見たんですね」
「死んだと決まったわけじゃないんですよ」
「でも本人が生きていたのならよかった。ドルイドの時のようにゆり様が悲しまれたのではないのなら、よかったですよ」
ディランが言った。
「本当にドルイドの時は、我々もしばらく悲しみましたからね。今でも夢に見るほどですよ。友人をなくすことがこんなにつらいのかと
思い知りましたよ」
「あの時は、王妃もシス様もかわいそうでしたよ」
ヴィラが思い出していた。
「王妃はドルイド殿のためにすごくがんばったんですよ。あの時私は、ドルイド殿は幸せな人だって思いましたよ。
王妃にあそこまで想われたんですからね」
ジュノーが続けた。
ドルイドの話にしんみりし出した面々だったが、ディランは建物の影から誰かがこちらを見ているのに気づいた。
「ん？」
その人物は、ディランが見るとぱっと隠れてしまった。
「どうしたんですか？ 兄さん」
「誰かがいたぞ」
「誰か？ 他に誰か来たのかも？」
「なぜ逃げた？」
ディランは立ち上がり、その男を追った。すると、白い布をかぶった者が向こう側の壁にさささと逃げていくのが見えた。
「レイアス、反対から回れ！」
「はい！」
レイアスが逆から周りその人物を追い詰めると、その人物は分厚い、布団のような柄のついた物をかぶったまま
しゃがんで隠れてしまった。
ヴィラとジュノーもやってきた。
「だれなんですか？」
「だれなんだ？」
ディランはそう聞きながらももやもやっとしたものを感じていた。この不審人物が発する気である。
その気は、なんとも懐かしい気ではないか。
レイアスもそれに気づいて、「え？ えええ？ あれ？」と驚きまくっていた。
「まさか、ドルイド？」
ディランの言葉にヴィラとジュノーは「「ええ？」」と同時に驚いていた。
ディランは布団をがばっとはぐった。すると、青色の髪の男の顔が見えた。男はかなりきまずそうな顔でディランを見ていた。
「あれ？ 顔は違いますね」
レイアスが言った。
「お前、だれだ？」
ディランは裏返った声で聞いた。
「……その前にこれは、何の会合？」
大人になったハインリヒの息子、ドルイドは、うかがうように、皆に聞いたのだった。
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