第12話

まさかあんな出会いをしてしまうなんて思いもよらなかった

あちらもびっくりしただろうが、こちらだってびっくりだ

だが、元気そうでよかった

私がいなくなった後も彼らの時は続いていく

こうして転生した今、その彼らの時を知ることができるというのも奇妙な気分だ

本当に、なんと数奇な巡りあわせなのだろう



ドルイドが夜、シスの元にやってきたのは不思議な夢があって10日ほど経ってからのことだった。

毎晩待ち構えていたシスは大喜びである。

「ドルイド、会いたかったよ！」

ドルイドはやはりシーツにくるまってきており、シスは大慌てで服をクローゼットから出していた。

「寒いでしょう。風邪引かないでね」

「大丈夫ですよ。身体の周りを暖かくする魔法を思い出したんです」

ドルイドは平然と服を着ながら言った。

「へー、本当だ。なんだか暖かい」

シスはドルイドの腕に触れてみた。すると、じんわりと暖かかった。

「ハインリヒがよく使ってる魔法だね。よかった。冬は来られないんじゃないかと心配してたんだよ」

「あの……この時代の男達と出会った話、聞かれました？」

着替えたドルイドはシスの横に並んで座った。足に布団をかけて、ドルイドはシスの身体も寒くないように、シスの背中に手をあてていた。

「もちろん、その話にはもっとびっくりするようなことがあるんだよ」

シスは、あの時自分も似たような空間にいたことをドルイドに話した。フークスやルーク達までいたと知り、ドルイドは驚きのあまり、何度も瞬いていた。

なぜあの4人と出会うことになったのか、ドルイドはそれが不思議だったのだ。シスやシャナーンがいたせいだと思えば、多少は納得できる。

「弟のラギはあの晩ずっと本を読んで寝てなかったんだって、悔しがってたよ。でもハインリヒに会わなくてよかったね」

「本当ですよ。しかし、ディランやレイアスに会っただけでももうびっくりでしたよ。元気そうでよかったですが……

まさか他の連中も似たような場所にいたとは」

「またああいうことがあるといいなあ」

「心臓に悪いですよ」

ドルイドは本気で困った顔をしていた。

「そうだね。ディラン達は女王様にドルイドのことを言ったのかなあ」

「どうでしょうねえ」

ドルイドは、「女王がドルイドの手紙で怒っていた」とディランが言っていたのを思い出していた。

たぶん怒るだろうと予想はしていたが、その時のことを想像すると、かなりやるせない思いになる。

「姉様がフークス様から聞いたんだけど、女王様は今あんまり体調がよくないみたいだよ。ドルイドのことを聞いたら元気になるかもね」

「そうなんですか」

「姉様が過去に行く日はまだわからないみたい。ところで母様だけどね、みんなが出会った晩、母様は金色の二匹の蛇に会ったんだって。

それも僕らの夢と関係があるのかもね」

「二匹の金色の蛇……」

かつて、自分の肌の蛇が恋をしてしまった蛇だと思うと、ドルイドは特別な思いを抱かずにはいられなかった。

肌の蛇に意思があるということさえ、その時には思ってもいなかった。肌の蛇はただの強さの象徴だと皆思っていた。

あの時の金色の蛇は、男達の肌の蛇にとっては、とてつもなく魅力的な蛇だったのだろう。

かつてない衝動に突き動かされて、肌の蛇は意思を持ち、移動して金色の蛇と交わったのだ。

そして子供まで――

今この肌にいる蛇は、やはりあの時の蛇なのか、とドルイドは改めて感じていた。

自分と共に、肌の蛇も転生を果たしたのだ。愛を成就させた肌の蛇が、今もあの金色の蛇たちを愛しいと感じているとしたら、

これはもう、奇跡としかいいようがないではないか。


「今はもう、ゆり様の肌に二匹の金色の蛇はいないんですよね？」

「そうだよ。母様も久しぶりに会ったって言ってたよ。でも出産して蛇が消えたわけじゃなくて、心の中にはずっといたのかもね。出産までしたから、

あの二匹はやっぱり特別なんじゃないかな？」

「そうですね」

ドルイドは猛烈にゆりに会いたくなっていた。シスはそれを敏感に察したのか、

「母様の部屋はね、この階のちょうど真ん中あたりにあるよ。大きな扉だからわかるよ」

などと言っていた。

「今日は父様のところかもしれないけどね」

「……いえ……あの……」

「ドルイドは知らないと思うけど、母様は亡くなったドルイドに会うために、結構苦労したんだよ。神様の試練を受けたんだ」

「え？　神様の試練？」

「試練の塔ってのに登ったんだよ。それを登るのは大変だったって。母様は恋人のためでもなんでもしちゃう人なんだよ。王妃なのに困ったもんだって

父様は言ってるけど、そういう母様だからみんな大好きなんだよね」

「…………」

ドルイドがゆりと出会った最後は、夜の噴水で、お互いに着飾っていた。ゆりは疲れた様子もなかったし、そんな苦労をしたとは、ドルイドは全く知らなかった。

「……私……そろそろいきますね」

ドルイドはぽつんと言った。

「あ、うん」

ドルイドはベッドから降りて、動揺したような感じで服を脱ぎだした。

「カレンの屋敷に大人の服を置くのは無理なのかなあ。カレンの屋敷のメイドに頼んでみるよ。次に大人になったらベッドの下を探してみてくれる？」

「はい。服があれば助かります。そ、それでは」

ドルイドは裸になってシーツにくるまった。

「またねー」

シスは余計なことはもう言わずに手を振り、ドルイドは出て行ったのだった。



シスはベッドの上でガッツポーズをしていた。


これは、行くに違いない。今絶対母様に会いたくなってる！！

行けー行くんだ。ドルイド、いけー！！！


シスは心の中で叫びまくっていた。



一方シスの部屋の外に移動したドルイドは、シスの意に反して、「やっぱり今日は帰ろう」とつぶやいていた。

廊下の静寂がドルイドの心を冷静にさせていたのだが、ドルイドは移動しようと思ったのにできなかった。しかも身体は違う方向に向こうとしている。

「う……え……」

身体は廊下の向こうに行きたがっていた。胸のあたりが熱い。やはり、自分の肌にいる蛇は、ゆりに会いたがっている。

『会いたい……会いたいんだ！！！』

そんな強烈な意思の力に突き動かされて、ドルイドは裸足のまま、廊下を歩いて行った。

帰ろうと思いつつも身体は勝手に動いている。


こんな格好だし、ちょっと寝顔を見るだけなら……寝室にはいらっしゃらないかもしれない。いるかな？　いないかな？


ドルイドの心臓がばくばく音をたてていた。

ゆりは果たして一人で寝ているのかどうなのか。大きな扉の前までやってきた。たぶんここが王妃の部屋だ。


王妃様の部屋に勝手に侵入してもいいのかな？


ドルイドはそう思ったが、身体は後戻りしそうになかった。今や完全に、肌の蛇の意思によって突き動かされていると言ってもいいほどだ。

（恋人の金色の蛇は今はいないんだぞ）そう心の中で言ってみても、思いは変わらないようだった。

ドルイドはゆりの部屋の中に移動していた。部屋の中は暗い。隣の部屋から気配を感じた。

ゆりは寝室で寝ているようである。

ドルイドは静かに移動した。

大きなベッドの端っこで、一人眠っている女性がいる。

最後に出会った時と、ゆりの姿はなんらかわらなかった。枕の横には大きな巻き貝が一つ置いてあった。

「…………」

ドルイドの瞳にじわりと涙がにじんできた。

「ありがとう……」

ドルイドは小さい声でつぶやくように言った。お礼を言いたい気分だった。

胸のあたりが熱いのは変わらない。肌の蛇も、ドルイドの目を通してゆりの姿を見ているのかもしれない。

この身体の中に、美しい金色の蛇たちも、きっと眠っている。

『恋人に出会えて満足かい？』

ドルイドはそう肌の蛇に聞きたい気分だった。

肌の蛇と会話ができたなら、『君だって会いたかったくせに』と言われたかもしれない。


そう、私だって会いたかった

今一つ気づいた。ハインリヒの子供に転生したのは、私の、いや、私達の意思だったのだ

強い男として、あなたを見守りたかった

いつか、この素晴らしき奇跡を起こしてくれたあなたに恩返しがしたい


（次は、服を着てからきますね）

声もださずに口だけ動かして、.ドルイドはお辞儀をして去って行った。



早朝、ゆりの寝室にシスがやってきた。

「母様〜」

ゆりはシスに起こされて目を覚ました。

「んー？　どうしたの？」

「あのー」

「んー？　何時？」

ゆりは眠そうな表情できょろきょろ周りを見ていた。

ゆりの様子は変わらず、シスは拍子抜けしていた。昨晩ドルイドと出会い、感動の再会をしたって感じではなさそうである。

「いや、なんでもないよ。まだ寝てていいよ。僕もここで寝ていい？」

「いいよ」

シスはゆりの横にもぐりこんだ。昨晩は二人の再会を想像しまくって眠れなかったのだ。拍子抜けしたらとたんに眠くなってきた。


なんだ、ドルイドったら来なかったのかな？　それとも母様の顔だけ見て行ったのかな？

どっちにしろ二人が会う日は近い！　そして僕がドルイドのことを暴露できる日もきっと近い！


シスは目を閉じてすぐに寝てしまい、ゆりは首をかしげてまた寝転んだのだった。



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