第43話
カーライルの告白に衝撃を受けたゆりは、立ち上がったまましばし固まっていた。
（儀式を……儀式を見られた！！）
恥ずかしさのあまり、ゆりの目にぶわっと涙が浮かんでいた。
「カーライル様なんてもうだいっきらい！」
ゆりはそう叫ぶとだっと部屋を出て行ってしまった。
「王妃！」
（ひどい、ひどすぎるーうわーん！！）
部屋を出て行ったゆりは、つかつかと歩きながら部屋に戻ってきた。戻ってきたのは蛇の目のゆりである。
「カーライル様、最低ですよ。紳士だと思っていたのに。まさか儀式をのぞき見るなんて！」
蛇の目のゆりはカーライルに抗議している。
「待ってくれ。最初から最後までじっくり見てたわけじゃない。途中、ちょっと見ただけだ。ずっと見てたらさすがに気づかれるだろう。男達は王妃とは交わってないと言い張るもんだから、どんな儀式か気になって。それでちょっと見てよくわかった。王妃は、儀式で魔法を使ってたんだな」
「魔法？」
「儀式では魔法を使って男達を虜にしていたんだなということがわかった」
「……なんのことを言ってるんですか？」
「使ってるだろう。魔法」
「？」
ゆりは首をかしげている。
「まさか無意識にしてるわけじゃないだろう」
「……とりあえず座りましょう」
ゆりはカーライルを促して、椅子に座った。
「……とりあえず教えてほしいんですが、カーライル様がのぞいたのってどこですか？」
「儀式がかなり盛り上がったところだな。カールが王妃から離れてぼんやりした時ちょっと出てた」
「一番見ちゃいかんところですよ。それ。わざわざ告白しなくてよかったのに。黙ってりゃわからなかったじゃないですか」
ゆりは横目でカーライルを見ながら言った。
「どうしても王妃の魔法が気になったんだ。聞くには、告白するしかないだろう。王妃の体から目に見えない分身が出て、男達を誘惑しまくっていた。あれは、どんな魔法なんだ？」
「え？ 目に見えない分身？ それって……」
（霊体ちゃんのこと！？）
蛇の目のゆりは驚いた。
（カーライル様には霊体ちゃんが見えてた！？）
カーライルは霊なので、霊体が見えても不思議ではない。
（まさかクーガ様の他に見える人がいたとは……）
「……あれは、恋の魔法です。聞きたいことは以上ですか？」
蛇の目のゆりは面倒だったので簡潔に言った。
「最初から私だけに言ってくれればよかったのに。あっちは傷ついちゃいましたよ」
カーライルが小声でぼそぼそっと言った。
「はい？」
「好きなんだ」
「はあ？」
「王妃のことが好きなんだ」
カーライルは恥ずかしげに視線を伏せていた。
（な……なんだって！？）
黒目のゆりははっと気がついたが、場所は自分の部屋だった。外に出て行ったはずなのだが、いつの間にか戻ってきている。そして目の前にはまだカーライルがいた。
「げ！」
カーライルはゆりのすぐ側にやってきて膝をつき、ゆりの手を握りしめた。
「王妃が好きだ」
「……は？」
「王妃が好きだ。愛してる！」
「はあ？」
ゆりが驚いて手を離した時、カールの体からカーライルも抜けていた。
カールはきょとんとしてゆりを見上げている。
「あの……王妃、カーライル様から聞きましたか？ 昨晩、あわてていたんでそのままカーライル様を連れてきてしまいまして……すいません」
「…………」
ゆりはなんだか胸騒ぎを感じていた。体温がどんどん上昇している。
「カ、カ、カーライル様、カールの中にいる？」
ゆりは嫌な予感を感じて聞いた。カールは少し考えて、「いません」と答えた。
「いない！？ どこに行ったの？」
（もしかして、私の霊体が出て行ったんじゃ……）
周りをキョロキョロ見たがゆりにはさっぱり見えない。
―カーライル様、霊体ちゃんが見えたんだって
という声が聞えた。
（なんだってー！！？）
ゆりの頬は真っ赤になっていた。どうも体の様子がおかしい。
（まさかまさかまさかー！！）
「カーライル様、カールに戻りなさい。今戻らなかったら絶交しますよ！」
ゆりは脅すように言った。
「金輪際会いませんからね！」
カールの目元が細まっていた。
「良いところだったのに」
「私の霊体に一体何をしたんですか！」
ゆりは真っ赤な顔で聞いた。
「舌をからめて口づけた」
「オーマイガッ！」
ゆりは両手で顔を覆ってつい叫んでいた。
「い、一体どういうつもりなんですか！」
「王妃が好きなんだ。ずっと言おうと思っていたんだが、なかなか言えなくて」
「はー？」
「王妃の魔法は、王妃の意思じゃなく発動するんだな。面白い」
「私の霊体に変なことをしないでください」
「王妃の分身は喜んでたぞ」
「喜んでもだめです。カーライル様は私の恋人じゃないんですから」
「恋人にしてくれ」
カーライルはゆりの手を握りしめて言った。ゆりはその手をぱっと払った。
「だめです」
「なんでだ？」
カーライルが寂しげにゆりを見ている。
「カーライル様は、普通に一般女性と付き合えばいいじゃないですか。新しい病院の受付けの女性とか」
「今の病院の受付けは、男だ」
「他にも女性は一杯いるでしょ」
「今一番気になってる女は王妃なんだからしょうがない。さっきのでわかったが、王妃は自分の分身が何をしてるか、全く知らないんだな」
「う……」
「王妃の分身になら、カールの体を借りなくてもいろいろできそうだな」
カーライルはちょっと悪い笑みを浮かべていた。
「だ、だめですよ。そんなの」
「じゃあこのままで仲良くなろう」
「それもだめですって。ハザーク様の手前とかあるし」
「ハザークには、ばれるまで黙っとこう」
「え……」
「それともこの後言いに行くか」
「えー！」
「王妃は私のこと嫌いじゃないだろう？ エルバートは王妃の恋人じゃないからだめだったが、カールは王妃の恋人なんだし、いいじゃないか」
「う……うう……」
（まずい、このままじゃ押し切られそうだ）
ゆりは気が遠くなってきた。
「カーライル様は、私のどこが好きなんですか？ 以前は、結構私のことをけなしてたじゃないですか」
「じわじわと好きになった」
「じわじわ……」
『お前はじわじわ来るタイプ』というハロルドの言葉をゆりは思い出していた。
「王妃の内面が好きってことだ。きっと」
「はあ……」
「王妃だって、実際に私が生きていたら、きっと恋人になりたいと思ったぞ。私はいい男だからな」
「それはそうでしょうけど……わかりました。じゃあ心の恋人になりましょう」
「心の恋人？」
「たまにこうやってお話したり、ね」
ゆりは明るく言ってみた。
「いやだ。王妃の体に触りたい」
「カーライル様はもう死んだ身なんですから、贅沢言わないでください。私は男達とは交わってないんです。儀式を見たなら本当だってわかったでしょ？」
「裸の王妃にいろいろしたい」
「しなくていいです」
「じゃあ王妃の分身にいろいろする」
「絶対だめです」
「あ、い」
ゆりはがばっとカーライルの口を手で覆っていた。
「言っちゃだめです」
カーライルはゆりの手を取り、手の甲にちゅっとキスしていた。
「カーライル様ってば」
「王妃、仲良くなろう。今すぐ」
「今すぐ？！ だめに決まってるでしょう！」
「今が一番安全だぞ。なにせ、昨晩カールは精力を使いまくったから、今日は絶対勃起しない」
「その言葉を使うのやめてください」
「王妃、いいじゃないか」
カーライルはせつなげにゆりを見つめている。
ゆりの霊体の秘密も知られてしまったからには、このまま無碍にカーライルを帰すわけにもいかなかった。霊体に強引に何かされるのも困るからだ。
「あ、そうだ。私忘れてました。新しく恋人になるには、恋人達の許可が必要なんです。今はイシュタールをのぞいて8人いるから、5人反対って言ったらだめです。諦めてください」
「恋人達の許可？ わかった。カールは当然良いって言うだろうから、他の7人に聞く」
カーライルは椅子に座って目を閉じた。ゆりはとりあえずはほっとした。
（ミカエルとハインリヒは絶対いいって言うはずない。そのほかは……微妙かな。ミルキダスとシャナーンは賛成しそう。フリットはどうだろう。 ヴィラとジュノーが反対してくれれば……反対して、お願い）
３０分ほどして、
「全員賛成してくれたぞ」
とカーライルが言ったのでゆりは仰天していた。
「嘘でしょう。全員なんて」
「本当だぞ」
「絶対聞いてないでしょ？」
「ちゃんと聞いた」
「嘘だー」
「なら王に聞いてみたらいい」
「聞いて来ます。ちょっと待っててください」
「わかった」
ゆりは王の間に行き、ラクシュミに会ってカーライルの事を聞いた。
ラクシュミは全員に思念を送り、「全員賛成したって言ってるぞ」とゆりに告げた。
「嘘でしょ！？ ミカエルとハインリヒも？ カーライル様を私の恋人にすることに賛成したって本当に言ってる？」
「ああ、言ってるぞ。水蛇様、ついにお前の恋人になるのか。お前の良さがわかるまで、結構かかったな」
ラクシュミは的外れな反応をしていた。
「ハザークが妬きそうだな」
「王様なんか喜んでる？」
「いや、ただ、楽しそうでいいじゃないかと思ってな」
（なんも楽しくないけど……）
「そうだ。王様が大反対してくれれば……反対して」
ゆりは目を輝かせてラクシュミに頼んだ。
「私も賛成するぞ。いいじゃないか。水蛇殿はいろいろ役に立ってくれてるし、私は彼が好きだ。お前だって好きだろ？ カールの体で仲良くなれば問題ないじゃないか」
「そうだけど……だれも反対してくれない」
ゆりはとぼとぼと自分の部屋に戻った。カーライルは当然待っていた。
「本当だったろ？」
「はい」
「じゃあ今から王妃の肌に触れたい」
「後日にしましょう。昨日儀式もどきして、その、体がキレイじゃないですから。キスマークとかついてるし。いつもは蛇が来てキレイになるんですけど、今回は蛇が来なかったから」
「今この勢いのままがいい。後日だと、王妃に逃げられる可能性もあるし、それとも、性欲が回復してからの方がいいのか？」
「うう……今しましょう。でも、絶対に、私の体に難癖つけないでくださいね」
「わかった」
二人は別室の方に移動した。
（考えてみれば、カーライル様のことだから、私の足を見て短くてその気になれないとかあるかもしれない）
「好きだ。王妃」
カーライルはぎゅっとゆりを抱きしめた。
「一時間後には王妃もきっと私を大好きになってるぞ」
「儀式をのぞいたことは、まだ許してないですからね」
「罪滅ぼしに、一杯王妃を気持ちよくさせよう。服を脱いでくれ。王妃」
カーライルは服を脱いでいた。
（カーライル様は、王様やハザーク様系だと思うんだけどなあ……）
ゆりはカーライルも女性に愛撫なんてしそうにないと想像していたのだが。
カーライルはゆりに口づけながらゆりの肌をなで回し、ゆりの足をちょっと開かせてゆりの下半身にも指を這わせていた。優しく肌に触れていた指は、膣の中にも入り、ある一点で止まり、執拗に刺激しはじめた。
（ん？ なんだなんだ？ ちょ……気持ちいい）
「カーライル様って、もしかしてすごく女性経験が豊富なんですか？」
「そんなことはない。私はいろいろ研究するのも好きだから、女性の体も研究した。女性はそれぞれ性感帯が違うからな。王妃の性感帯も研究しよう。一つは見つけた。膣の上側、真ん中あたり、ここ」
（やばい。カーライル様って、テクニシャンだ）
次第にゆりの腰が浮いていた。
（やばい。超やばい）
「王妃、遠慮せずにあえいでいいんだぞ。もうすっかり、愛液がしたたってるじゃないか」
「言葉責めやめてー」
ゆりは恥ずかしげに叫んでいた。
「しかし男達はよく挿入せずにいられるな。信じられん」
「カーライル様、もっと奥も触ってください」
我慢できなくなったゆりはつい頼んでいた。カーライルの指が奥に入った。
「二つ目はどこかな？」
（カーライル様がこんなにテクニシャンだなんて、うかつ！）
「王妃は本当に感じやすいんだな。すごく良い匂いだし、気もまっピンクだ」
体の奥を刺激され、ゆりは達していた。
「王妃はどうして最後までしないんだ？」
「儀式で全員とするのは大変ですし……カーライル様、もう、もう勘弁してください」
カーライルの指が執拗に膣の中を刺激していたので、ゆりは真っ赤な顔で言っていた。どうやら二つ目の性感帯も発見されてしまったらしい。
「だって、王妃のここがほしそうにしてるし」
「もう、だめ、カーライル様ってば危険すぎますよ！」
「じゃあ指から逃げてみろ」
「うう……」
「私のこと、大好きになったろ？」
「大好きです」
ゆりはもう認めるしかなかった。
カーライルとは今回はここで終わったのだが、体が治まらなかったゆりは、ハザークの元に行っていた。
「ハザーク様、お願いします！」
ハザークに二度してもらって、ゆりの体はようやく落ち着いたのだった。
（カーライル様、やばすぎるー体もテクニシャンなのかも？ 霊体ちゃんがイチコロになったらどうしよう。クーガ様がいるのに、霊体ちゃんは出ないようにしなければ）
夕方、ゆりの部屋にヴィラがやってきた。
「王妃、カーライル様が恋人になったんですか？」
ゆりはふてくされた顔でヴィラを見た。
「なんで反対しなかったのー？ まさか全員賛成するなんて」
「反対する理由がないですもん」
「そうかなあ。まさかミカエルとハインリヒが賛成するなんて思わなかったわ」
ヴィラは苦笑している。
カーライルから思念を受けたヴィラが二人を説得したのだった。男達にすれば、自分達の知らない男がゆりの恋人になるよりは、カーライルの方がいいに決まっているのである。
「次の儀式にはカーライル様も途中参加しちゃうんですかね。ふふっ」
「笑い事じゃないでしょ。カーライル様、すごくやばい人だったんだからね。あなたたちよりさらに、女が感じるつぼを心得てるんだから」
「さすが長生きされてるだけありますね。ははっ」
「なんもおかしくないわよ」
ゆりは机をばんとたたいていた。
「さっきから何がおかしいのよ」
「いやーカーライル様にも王妃の良さがわかっていただいたようで、うれしいです」
「もー……」
「結局は、王妃もカーライル様のことが好きになったんでしょう？ ならいいじゃないですか」
「う、うう」
ゆりは真っ赤な顔をしている。
その後、ヴィラはカールに会いに行き、「カーライル様にお礼を言っといて」と伝えていた。
「は、はい？ 何のお礼ですか？」
「カーライル様が王妃の恋人になってくれて本当にうれしい」
「そうですか」
（しばらくカーライル様にがんばっていただこう）
ヴィラは、そんなことを思いながらカールと別れたのだった。
つづく
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