番外編２〜ある日のおしゃべり〜
それは交わりの月前のある日の午後のこと、ゆりは虎の国のアヤコと魔法の鏡を使ってお話をしていた。
「でね〜ガットったらさあ・・・」
「へ〜それで？それで？」
二人とも自分の子供を腕に抱いているが、アヤコの子供タロウはアナスターシャよりもだいぶ前に生まれたし、もう結構でかくて
重そうだった。ここは王の間だが今はラクシュミは休憩中でいない。ゆりの横には、鏡にうつらないようにフリットがいた。
ゆりはアヤコと文通はしているが、どうしても直接話したくてしょうがなかったので、ラクシュミに頼み込んで鏡を使わせて
もらっているのだった。女同志で、日本人同士、話はつきることはない。
誰か携帯電話でも開発してくれないものかと、ゆりは願っているのだが、なかなか無理っぽい。ちなみにアヤコが向こうにいた時は
まだ携帯電話なんてものはなかった。
「もうずっとだっこしてたら腰は痛い肩は痛いで大変よ」
アヤコが言った。
タロウとアナスターシャは、お互いに不思議そうに相手を見ている。
「さすがガットさんの子供だけあってでかいね」
「生まれた時からでかかったら、産むのが大変だったー」
アヤコは思い出したように言った。タロウがじたばたしだしたので、アヤコはタロウをおろした。
「しかも、毎日心臓が止まりそうになるのよ。だってあの子ったらいっつもどっかから飛び降りるんだもの。
２階から飛び降りたり、３階から飛び降りたり、４階から飛び降りた時には、私失神したわ」
「へー・・・怪我なくてよかったね」
ゆりはちょっとぞっとして言った。虎族の子供は、かなり頑丈のようだ。
「毎日ギャーギャー言ってるわよ。産まれてすぐに、虎があの子の頭をすっぽり口の中にいれてる時もギャーって言ったけど、」
「ははは」
ゆりは引きつった顔で笑った。
「虎にしたらかわいがってるつもりだったみだいだけど・・・あれにはびっくり仰天だったわー」
「私だって蛇がアナスターシャの頭口の中にいれてたらぎゃーっていうよ」
ゆりがそういうと、
「にょろの話はしないで」
アヤコに横目でにらまれた。
「ごめーん。」
アヤコの蛇嫌いは相変わらずである。
なんであんなに蛇嫌うのかしら。虎のほうがよっぽど怖いけど・・・
ゆりにすれば不思議だ。
蛇はある程度距離をもっていればすぐ襲われることはないが、虎の場合は、距離をもっていても飛びかかられるし、
なにせ走ると早い。首をがぶりとやられたら、即死間違いなしだ。虎の方がよっぽど怖い。
その時、アヤコの後ろにかなり体格のいい、ひげもじゃの男が現れた。
「やーゆりさん元気かい？」
「王様、元気ですよ」
その男は虎の国の王だった。アヤスターシャが生まれた時には、かなりの家畜を送ってもらった。アヤコからは普通の赤ちゃんの
服が送られてきた。さすがに蛇の服をつくる気はなかったようだ。王は体格がいいが、目は優しそうで、人がよさそうだった。
「アヤコ、あのこと言ったかい？」
王がアヤコを見て言った。
「あ、そうそう、ついに街にカレー屋がオープンしたのよ！」
アヤコが思い出したように言った。
「え？カレー屋？」
ゆりが驚いて聞き返す。
「うん。これでいつでもカレー食べれるからうれしくて」
「結構はやってるんだよ。カレー屋。わしもお気に入りさ」
王もアヤコもうれしそうに言っていた。
店まで作っちゃうとはすごいなあ・・・
異界風料理は結構虎の国では受けていて、ゆりが適当に調味料を調合して作ったカレーが、一番人気らしい。
しかしここ蛇の国では全く受けてないので、ゆりは作っても自分一人で食べる感じだ。
「ただ、ラッキョウと副神漬けがないからなんか物足りないんだけど、ゆりちゃんがんばって作って」
「いや、ちょっとそれは無理だよ・・・」
「私としては是非ラーメン屋も作りたいんだけど・・・」
「ラーメンはさすがに・・・」
「ゆりちゃんならできるって」
「麺打つのは無理だよー」
その時、ラクシュミが戻ってきた。気を遣っていつもより長めに休憩したのだが、ゆりはまだアヤコとくっちゃべっていたので
ラクシュミは少々あきれるようにゆりを見た。
「ゆり・・・もうそろそろ・・」
「はーい。それじゃアヤコさん、また手紙書くね」
「うん。じゃあね〜」
ゆりは鏡を閉じた。
「トー、だっこ、だっこ、だっこ」
アナスターシャがラクシュミに手を出したので、ゆりはアナスターシャをラクシュミに渡して王の間を出た。
フリットも一緒について出る。
「ねえ、虎の国っていっつも平和っぽいけど・・・争いとかないの？」
ゆりは不思議そうにフリットを見て聞いた。アヤコの手紙には、そういう匂いすらないし、アヤコは結構平気で街にも
出てるようだ。結界の中にずっといなければならないゆりとは大違いだ。
「あそこはあまり大きな戦いはないですね。」
「誰か攻めたりしないの？」
「攻めないですよ。怖いから」
「怖い？虎族ってそんなに強いの？」
「虎族は魔力はあまりないんですが、体力はものすごくて、しかも怒ると手がつけられないんですよ。呪とか魔法を使っても
全然効かないんです。王はただ鈍いだけだ、とおっしゃられてましたが・・・この世界でもまれな一族なんですよ。だから
龍族も手はださないんです。昔ちょっと手を出したらえらいしっぺ返しをされて、それ以来攻めてないようですね」
「へーすごいんだね。虎族って・・・」
ゆりは感心して言った。
「普通は、敵国に攻める時も他の国の動きを気にしながらするものですが、虎族の場合は、怒りの方向に一族団結してまっしぐら
ですので、全然後の事は気にしないんです。何千頭もの虎と虎族の者が一気になだれ込んできた時には、さすがの龍もおびえて
逃げたようですよ。ただ、虎族は普段はああいう性格なので、進んでどこかを攻めたりはしないんですがね」
「ふーん・・・」
ゆりは虎が一杯攻めてくるところを想像した。プロレスラー軍団と虎が一緒に攻めてくれば、確かに龍でも逃げそうだ。
「王がガット様に強くいえないのも、敵に回したくないからですよ。前に王妃を虎の国に行かせたのも、そういう理由なんですよ」
「なるほど・・・そういえばガットさんって王様のこと親友って言ってたな」
ゆりはおかしそうに言った。どうみても親友って感じじゃない。
「王が子供のころ、ガット様が一目で王にほれてしまって、いくら男だといっても、そんなきれいな男はいるわけない、とかいって、
全然信じなくて、あの時は大変でしたよ。ここまで押しかけてきて、最終的に体を見せて納得させたんですけど・・・それ以来、
俺はお前の親友だ、とかわけのわからない事を言ってるんです」
「へー見たかったなあ。その時の王様、」
ゆりはおかしそうに言った。
きっと苦虫でもかみくだいたような顔してたんだろうなあ・・・ふふふ
一方、虎の国では、国王がアヤコに興味津々で聞いていた。
「アヤコ、ラーメンってどんな料理なんだい？おいしいのかい？」
「ラーメンっていうのは、スープの中にちぢれた麺が入ってて、とにかくすっごくおいしいんです」
アヤコは両手を胸の前で合わせて言った。
「そりゃ一度食べてみたいのう。料理人に研究させてみたらどうかな？」
「そうですねえ。研究させましょう」
今では料理人も、結構いろいろ作るようになったので、もしかしたらラーメンを食べれる日が来るのも夢ではないかもしれない
そうアヤコは思った。
その時、窓の外を子供が落下するのを見て、アヤコは「ぎゃあ」と悲鳴をあげた。窓から下を見ると、タロウが平気な顔で
すたすた歩いていっている。
「あーもうびっくりした」
アヤコは胸を押さえた。
「大丈夫だよ。たとえ足が折れても、すぐくっつくから」
王は同じように下を見て、笑って言った。
「え・・・」
アヤコの顔は引きつっていたが、
「ガットなんて小さいころはよく足折ってたなあ。全部一日で治ったけど。我らは頑丈さだけがとりえだからなあ」
王はのんきに笑っていい、
骨折が一日で治るなんてすごい・・・
アヤコは虎族の頑丈さを改めて実感したのだった。
おしまい
あなたは虎の国と蛇の国、行くならどっちがいいですか？