第10話
ある日、部屋で本を読んでいたら、虎の国にいるアヤコからの小包をミラが部屋までもってきてくれた。
ミラは出て行き、ゆりはそれを部屋であけてみた。
小さな小包で、手紙が添えてあった。手紙を開くと、こう書いてあった。
『ゆりちゃん、元気にしてる？私は元気よ。王と仲良くしているみたいでよかった。
この前の魚とってもおいしかったよ。
最近料理人の腕があがってきて、凝ったもの作ってくれるようになったの。
また何かレシピがあったら送ってね。
今日はね、面白いもの見つけたからゆりちゃんにも食べてほしいと思ったんだ。
どう面白いかは、食べてからのひ・み・つ
ほんと、面白いから食べてみてね アヤコ』
ゆりは小包を開いてみた。中には、小さいりんごほどの紫の実が4個入っていた。
「面白いって、どう面白いんだろうね。まあいいや。食べてみようっと」
ゆりは実を洗ってきて、丸かじりして食べてみた。味は、わずかに甘いくらいだ。
「りんごみたいだなあ。別に面白くないけど」
全部食べたけれど、アヤコが言う面白いってのがわからない。
「まあいいや。散歩でもしようかな」
蛇のルーが足元にまとわりついてきた。
「遊んでほしいの？」
ゆりは自分の足を見て、固まった。
「え・・・？」
手を見る。左手がおかしかった。肌に、何か、模様のようなものが見える。
「何これ、気持ちわるー！」
ゆりは鏡を見て、ぎょっとした。自分の頬に触れる。
「や、やだ・・・何これ・・・・」
ゆりの左側の頬に、うっすらと青く、まるで蛇のうろこのような模様が浮き出ていたのだ。
しかも、左目は、まるで蛇のような目にかわっていた。黒目の所が黄色くなっていて、中に黒い丸いのがある。
ゆりは胸元の服を開いた。胸も、おなかも、腕も、左側だけに気持ち悪い模様が一面、ついていた。
そして、耳は、大きくとがっていた。まるでここの人たちのように。
「ど、どうしよう・・・気持ち悪い・・こんな姿、王様に見られたら・・・」
ゆりはぞっとした。
絶対に嫌われてしまう！
そんなのいや！
ゆりは、扉の外に人の気配を感じてはっとした。
気づいたら、ゆりはどこかの廊下にいた。どうやら瞬間移動してしまったようだ。
「びっくりした。瞬間移動ができるなんて・・・」
あの実は、こっちの世界の人になれる実だったのだろうか。
でもこんな姿困るよ！一体いつ普通に戻れるんだろう。アヤコさんに聞かなきゃ。
だが、王の間の鏡を使うには、王の許可がいる。
ゆりはうろうろ歩いていた。
どうしよう。どうしよう。
こんなの全然面白くないよー！
「おや？」
ゆりは声を聞いて思わず壁に向かって立ち、顔を隠した。
「どうしたんですか？気分でも悪いんですか？」
心配げな声が聞こえてくる。
「い、いえ。何でもありませんから。」
ゆりはあわてて答えた。
「そうはみえませんけど」
男が近づいてくる。
こなくていいのにー！
ゆりは、そろそろと顔を向けた。青みがかった銀色の短髪のきれいな顔の男だった。
男はじろじろとまるで、奇妙なものを見るように、ゆりを見ていた。
ゆりの顔が引きつった。
あやしまれてる。
やっぱり気持ち悪いんだ！
「失礼だが、あなたの名前は？」
「・・・」
ゆりは再び壁に向かって立ち、顔を隠した。
「私の名前知ってますか？」
ゆりがぶるぶると顔を横に振る。
「私はジュノー。あなたは？」
優しい声だが、なんだか怖い。
「気持ち悪い？」
ゆりが聞いた。
「え？」
男が目を見開く。
ゆりは姿を消した。
「・・・おかしいな」
残されたジュノーは頭をかいた。自分の知らない一族の女なんぞいないはずなのだが。
ゆりは息を吐いて目を開けた。どうやらまた瞬間移動してしまったようだ。そして、目を開けて、ぎょっとした。
目の前に、いっぱい人がいた。ゆりは思わず後ずさり、背中を壁にどんとぶつけた。その部屋にはいっぱい机といすがあっ
て、男の子が２０人ほどいた。皆、ゆりを見ている。
あれ？
よく見ると、みなまだ幼い顔立ちをしていた。
子供・・・かな？
なんだか学校っぽい雰囲気だな。
部屋の前の方には黒板のような板があり、その横には地図がかけられている。
皆かわいい顔立ちをしている。年齢はばらばらだった。
「こんにちは。どうしたんですか？」
少年の一人が聞いてきた。
「え。えっと・・あの・・・迷子で・・」
ゆりがしどろもどろになっていう。
「迷子？おかしな人だなあ」
男の子たちが笑った。
みんなかわいいなあ・・・
あどけなくて。
「あの、ここどこ？」
「第2室ですよ。まさか本当に迷子なんですか？」
「え・・・その・・・」
「そんなわけないだろー冗談だよねー。お姉さん」
「うん」
他の男の子に言われて、ゆりはうなずいた。
皆わたしのこの肌、そんなに気にしてないのかな。よく見れば、首とかに蛇の模様がある子もいるなあ。
その時、扉が開く音がして中に誰か入ってきた。ゆりはその人物の顔を見て、瞬間移動した。
部屋に入ってきたのはフリットだった。フリットは、ちらりとしか女の姿が見えなかった。
「あれ？そこに女がいたか？」
「結構かわいい人だったな」
「うん。そうだね。なんだか珍しい顔だったね」
「でも足は短かったなあ」
「でも結構力ありそうだったよ」
男の子たちが口々に言う。
「フリット様交わりの月、指名しちゃったら〜？」
「ははは」
男の子たちが交互に言う。
「何いってるんだお前たち。第一、今のだれだった？」
フリットが苦い顔で聞く。すると、みな首をかしげた。
「そういえば、名前聞かなかったなあ」
「初めてみた顔だったね」
「まあいい、授業始めるぞ」
「はあい」
ここは、一族の子供たちの、いわば学校みたいなものだった。
瞬間移動したゆりは、森の中にいてぎょっとした。
ここは一体どこ？
結界の外だったらどうしよう・・・
ゆりは近くに大蛇がいたので近づいた。
「ねえ、蛇さん、お城どっちなの？」
蛇に聞いてみた。すると蛇は顔をゆりと反対側にむけた。
「向こうね。ありがと」
ゆりは何度か瞬間移動をして、ようやく城の中らしき廊下に出てほっとした。
あーよかったーお城だー
ゆりはほっと壁に体をもたせかけた。すると、目の前に男が現れてぎょっとした。
「見つけた」
先ほど廊下であった男だった。男はゆりのすぐ目の前まできている。
「あ・・・えーと・・・ジュノー」
「探したんですよ。」
「どうして？」
「あなたに話があったから。名前くらい教えてくれませんか？」
「・・・・ユラ・・・」
ゆりは本当の名前を言うのも気がとがめて、嘘の名前を言った。
「ユラ・・・あなたの両親はだれなんです？」
「秘密」
そういうとジュノーは、笑みを浮かべた。しかし、その瞳は全然笑ってない。
ゆりは瞬間移動しようとした。だが。うまくいかなかった。
さっきはうまくいったのに、なぜ？
「飛ばせませんよ。話が終わるまでは」
ジュノーが言う。
「え・・・あなたが・・・」
「そう。私が止めてる。話というのは、今度の交わりの月のことですよ。相手はいるんですか？」
「え・・・・交わりの月？」
「そう。あなたはいつ大人になったんですか？」
「・・・ついこの間です・・・」
「それならば、来年がはじめて？」
ゆりがこくりとうなずく。
「来年は私と過ごしてください」
「え？」
ゆりがぎょっとした顔をした。
「なぜかあなたのことが気にかかる。」
「わっわたしはだめです！」
ゆりがあわてて言った。
「なぜ？」
ジュノーが目を細めた。
「もう、相手決まってるから」
「誰です」
「え・・・・と・・・」
ど・・・どうしよう・・・・王様って言っちゃ、やっぱまずいよね・・・
目の前の男は、名前を言わなければ離してくれそうにない。それほど真剣な表情だった。
「誰なんですか？ユラ」
「え・・・と。言ったらどうなります？」
「話し合いであなたを譲ってもらう」
「譲るって、私は猫の子じゃ・・・」
「誰ですか？」
「え・・・と・・・」
その時、本当に偶然、廊下の向こうからミカエルが歩いてきた。
「あ。あの人」
ゆりが指をさす。ジュノーが顔を向けて、むっとした顔をした。
ミカエルがジュノーの視線に気づいた。
「なんだ？こんなところで逢引か？随分かわいい彼女だな」
ミカエルが笑いながら言う。ゆりはぎょっとし、ジュノーはゆりをにらんだ。
「嘘つき」
「ミカエル、冗談言わないで！」
ゆりがあわてて言う。ミカエルはその声にぎょっとして、一瞬眉をひそめ、やがて目を見開いた。
ゆりはミカエルのそばにより、腕を組んだ。
「恋人の顔を忘れないで」
「あ・・・・」
（お願い、こっからつれていって！）
小声でささやく。ジュノーはいぶかしげな顔をしている。
「ジュノー、この子はもらっていく」
「は？」
ミカエルは、ゆりの体に腕を回して飛んだ。
景色は外に変わっていた。ゆりがはあと息をはく。
「王妃？まさか・・・・どうしたんです。この姿は・・・！」
ミカエルは驚いた顔で聞いた。
「わからない。何かの実食べたらかわったの」
「はあ・・・」
ミカエルは、ゆりの体をじろじろと上から下まで眺めた。どっから見ても一族の女そのものである。
顔立ちは変わっているが、それでも、蛇族の女だと誰もが思うだろう。
「ミカエルきてくれて助かったー。あの人怖いんだもの」
「ジュノー？なぜ王妃だといわなかったんです」
「だって・・・いいずらくて・・・この姿だし・・・・でも、なんか言い寄られちゃった。交わりの月どうかって。」
「はあ・・・」
「もしかして、私って魅力的、とか？」
ミカエルは顔に手をあてた。
「ねえ、なんで私この目なの？」
ゆりが聞く。
「右目と同じにもできるはずですがね」
「どうやって？」
「そのままでもかわいいですよ。」
「この肌はいやだ。気持ち悪い」
ゆりが左の腕をなでる。
「きれいですよ？とても」
「どこが？」
「きれいだからジュノーが指名したがったんですよ？」
「・・・ジュノーに悪いことしちゃったかな・・・嘘ついちゃった」
ゆりはちょっとしょんぼりした顔をした。
「後で私から言っておきますよ。それよりも、王には見せたんですか？」
「まだ。嫌われると思ったから」
「嫌うはずないですよ。さあ、いきましょう」
「やだ。まだ遊びたい」
「だめ」
ミカエルはゆりの腕に触れて瞬間移動した。王の間の前で、ミカエルは番兵に話をしている。
ゆりはその時、何か大きな気配を感じた。
王の間の中の気配はラクシュミだとわかるが、それとは別に、巨大な気配を感じる。
ミカエルが後ろを向いたときには、ゆりは姿を消していた。
ゆりは見慣れない建物の中にいた。ここは城の中、それはわかる。だけれども、今まであまりきたことはない。
そんなに広い空間ではない。どうやら塔の中にいるようだった。
外を見ると、別の塔が見えた。ここは、城の南西にある別の塔らしいと、あたりをつける。階段を昇っていくと
気の気配は大きくなっていく。ゆりは、大きな蛇のレリーフのある扉の前まで来た。
ゆりが扉に触れると、ひとりでに扉が中から開かれた。面長の顔の、白い長い髪の女性がいた。瞳は赤い。
整った顔立ちをしていたが、どこか普通の人間とは思えなかった。服は真っ白で腰には赤いベルトが締められていた。
「何か御用ですか？」
「あの・・・別に用じゃないんですが・・・」
ちらりと部屋の中をのぞくと、真ん中に大きな長いすが見える。そこに誰かいた。
「まあ、どうぞ・・・」
白い髪の女性が言う。ゆりは、中に入った。
長椅子にいた男がゆりを見上げた。そこにいたのは、金色の長い髪をした、恐ろしく美しく、不思議な男だった。
ストレートの髪。胸の辺りの服は透けていて何かの模様が肌にあるのが見えた。耳や腕に金色の細工物をつけている。
初めて見る男だった。
「あの・・・どなた様ですか？」
「我を知らぬお前はだれだ」
男が言った。
「私の名前はゆりです」
「ゆり・・・？」
ゆりは男に近づき、長いすの下にぺたりと座り込んで、男をそばで見つめた。
瞳は金色で、ラクシュミのように輝いていた。
「我の名前はハザークだ。蛇の長」
「ハザーク・・・あれ？結婚前あったときは・・・」
その名前に聞き覚えがあった。だが、紹介された時は、金色の結構大きい蛇で、ベッドの上にいた。
「我は蛇だからな。蛇でいることもあるし、こうして変化していることもある」
「そうだったんですか」
なんだか不思議な人
「お前はなぜその姿なのだ」
「それが・・・」
ゆりは説明しだした。
一方ジュノーは王の間にいた。
「ラクシュミ様、ユラという娘についてお聞きしたいのですが・・・」
「ユラ？」
「一体誰の娘ですか？」
ラクシュミは一度瞬きした。
「ユラ・・・誰のことだ？」
「一族の娘です。先ほど城の中で出合ったのです」
「・・・・いや。そんな名前の女はいないはずだ」
ジュノーがいぶかしげな顔をした。
「おかしいですね」
ラクシュミが知らないはずはない。
「本当に一族の娘なのか？」
「間違いありません。」
「ここにつれてこい」
「それが・・・ミカエル殿にさらわれまして・・・」
その時、ミカエルが扉から入ってきた。頭をかきながら。
「あ・・・」
ジュノーがミカエルの顔を見て眉をひそめた。
「ミカエル、女はどこだ」
ラクシュミが聞く。
「え・・・その・・・」
ミカエルは、ジュノーの顔を見て仕方なく言った。
「すいません。逃げられました」
「本当にあなたの知った女なんですか？」
ジュノーが聞く。
「その・・・まあ・・そうなんだが・・・」
何から話していいやらミカエルが思案していると、番兵がラクシュミのそばに飛んできた。
そしてラクシュミにささやく。
「ゆりがいない？」
「いえ、ちゃんといらっしゃいます」
ミカエルがあわてて言った。ラクシュミが眉をひそめてミカエルを見る。
「どこにいる」
「今は、ハザーク様のところです。」
「ハザークのところ？」
「はあ、あちらに飛んでいくのを感じましたので・・・」
「お前何を言っている？さっきからさっぱりわからん」
ミカエルは、最初から説明した。
横にいたジュノーは絶句している。
「王妃・・・すいません。そうとはしらず、交わりの月の申し込みをしてしまいました」
ジュノーが引きつった顔で言った。
「なぜ最初に私に見せにこないのだ」
ラクシュミはぶつぶつ言っている。自分に先に顔を見せに来なかったのが気に入らなかったようだ。
「完全に一族の女に変わるとはどういうことなのだ・・・・ならば思念も通じるのか？」
―ゆり！王の間にすぐ来い！
ラクシュミは思念を飛ばした。
ハザークの元にいたゆりはきゃっといって体を浮かせた。
「な、何いまの！」
周りをきょろきょろと見るが、ラクシュミはいない。
「むちゃくちゃ怒ってる声が聞こえた。」
「相当怒ってるな」
ハザークが笑って言う。
「ええーハザーク様、助けて」
「早く王の間に行け」
「うまくいけるかなあ」
ゆりは涙目で瞬間移動しようとした。
「我が送ってやる」
ハザークが右手を向けた瞬間、ゆりの姿は消えた。
ゆりはどさりとどこかにおとされた。
「ぎゃー！」
ゆりは目の前にあるものを見て悲鳴をあげた。
「お前という女は・・・」
目の釣りあがったラクシュミの顔がすぐそこにある。ゆりはラクシュミのひざの上に落ちたらしかった。
「ごめんなさいいいいい！」
ゆりはひざから飛び降りて、ミカエルの背中に隠れた。
「ゆり、ちゃんと姿を見せろ」
「・・・」
ゆりはミカエルの背中に隠れたままだ。
「ゆり！」
「怖いよう。王様機嫌悪い」
ゆりはぶつぶつ言いながら出てきた。
「お前のせいだろうが・・・」
ラクシュミは、ゆりの体を上から下まで眺めた。確かに、一族の女そのものである。どこから見ても。
ちゃんと一族の気質もまとっている。というよりも、かなり濃い気質を持っているといえる。
「もっとそばにこい」
ラクシュミが手でまねく。ゆりは恐る恐るそばによった。ゆりはラクシュミの横にいるジュノーに目を留めた。
「ごめんなさい。ジュノー」
ゆりがすまなそうに言う。ジュノーは微笑んだ。
「相手が王じゃ仕方ないですね」
「お前、なぜこうなった？」
ラクシュミが聞いた。
「アヤコさんから小包がきたの。それで、何かの実が入ってて、食べたらこうなったの。王様、アヤコさんにいつ戻るか
聞いてください」
「ああ。わかった」
ラクシュミはゆりの左目を見ていた。蛇の瞳。黄色い丸い瞳に黒い丸が入ったような瞳だが、そっちの目は瞬きすること
なくラクシュミを見ている。
「ずっとそうだと疲れるだろう」
「え？」
「来い」
ゆりがもっとそばに体を寄せると、ラクシュミがゆりの左目に指をあてた。すると、ゆりの左目は、右目と同じ目に変わっ
た。
「何したの？」
「目を元に戻した」
「そうなの？王様ってすごい」
ゆりは何度も瞬く。
「この肌もどうにかして」
「それはそのままでもいいだろう。なかなかきれいだぞ」
「本当？」
「ああ。そろそろ部屋にもどれ」
「あのう・・・せっかくだからもうちょっと瞬間移動で遊びたいな、なんて・・・」
ラクシュミにじろりとにらまれて、ゆりはしゅんとなった。
「部屋に戻ります・・・」
ゆりはとぼとぼと歩いていく。大きくなった両方の耳は悲しげに少しねていた。
「待て、わかった。夕飯の時間までだぞ」
ラクシュミが仕方なくいうと、ゆりは振り向いた。とてもうれしそうな顔をしている。
「だが、一人はだめだ。知らないうちに結界を抜けたら困るからな。ミカエル」
「王妃、私がお供しますよ」
とミカエル。
「ありがとう。王様」
ゆりは喜んで王の間を出て行った。
横でジュノーがくっくと笑っていた。
「何がおかしい？」
「いえ。随分かわいらしい方だと思っただけですよ。」
「子供なだけだろう」
「かわいらしいですよ。きっと、元の世界は平和な世界だったのでしょうね」
「そうだな」
夜、ゆりは王の寝室でラクシュミを待っていた。すると、誰かが来る気配を感じた。次の時には、ラクシュミが部屋にきた。
「やっぱり王様だ。」
「アヤコに聞いたぞ。2日ほどで元に戻るそうだ」
「そうなの。」
「一族の女になった感想はどうだ？」
ラクシュミは布団に入りながら聞いた。
「面白いよ。なんだか、耳もすっごくよくなったし、誰かの気配とかも感じられるし、でも・・・王様のことは怖い」
「怖い？」
「うん・・・そばにいると、すごく怖い。でも、守ってくれてるんだなって感じる」
「それは血の掟というやつだ」
「それ、なんですか？」
「一族の者は、すべて私に従うように血で定められている。だから、無意識の内に怖いのだろう」
「じゃあ、逆らったらどうなるの？」
「試すか？」
ゆりはぶるぶると首を横に振った。
ラクシュミがゆりの肩に触れた。
「今のお前を抱いてみたいな」
ゆりは体がぞわぞわするのを感じた。
なんだろう・・・なんか・・・すごくいや・・・・
「どうした？」
「あの・・・なんか体がおかしくて・・・」
「抱かれるのはいやか？」
「ごめんなさい・・」
「そうだろうな。それが一族の女の反応だ。」
ラクシュミは肌から手を離した。
「もう寝るか」
「・・・でも・・」
ゆりはもじもじしてラクシュミを見た。
「相手が王様なら、いいかなあ・・・」
「ん？」
「王様が、今の私をすっごく抱きたいって思ってくれるなら、抱かれてもいいかな」
ゆりの頬はほんのり赤くなっていた。
「いやではないのか？いつもよりも、苦しいぞ？」
「苦しくてもいい」
「お前は変な女だな」
「だって、愛してる人とひとつになるって、とっても素敵なことだもん。」
ゆりはその晩、ラクシュミに抱かれた。いつものように快楽を感じることはなかったが、それでも、幸せな気分になれた。
「一族の女がみなお前のようならいいのにな・・・」
ラクシュミはつぶやいた。
次の日は、ジュノーが瞬間移動に付き合ってくれた。
その日の夕方にはゆりは元の姿に戻ってしまい、すっかり瞬間移動をする力をなくしてしまった。
だけど、少し一族の女の人の気持ちがわかったひと時だった。
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