年が明けた。

この国ではあまり年が明けたお祝いのようなものはやらない。年末に一年が無事終わったとお祝いのお菓子を食べる習慣がある

くらいだ。どうもこの国では行事のような事は少ないようだ。何かあれば、街の人々は酒場で乾杯しているようだが、お城の中は

たいして変わらない。

去年の13の月にザクート王の儀式があり、ゆりにはかなりうれしい事があった。結界の外に出れるようになったのだ。行く時は、

二人の男が付き添ってくれるのだが、初めての外の世界にゆりは興味深々である。あちこちの砦や学校にも連れて行ってもらった。

街の市場にも。時々ゆりの体の周りを魔法陣のような輪がぐるぐる回りだし、そういう時は、敵が近くにいて呪術をかけようと

しているのだとか。

ザクート王のことをケチ呼ばわりしたゆりだったが、今では大変感謝している。

ゆりは南の庭園にある東屋で、日が暮れる空を見ていた。ゆりの前にはフリットが座っている。

「今思うとさあ・・・ザクート王って、結構若かったね。とっても素敵な人だったけれど」

ゆりが思い出すように言った。かなりのハンサムであったのは確かだ。

「そうですね。王は275歳で亡くなられたそうですが、伝説では、亡くなるまで外見は若いままだったそうです」

フリットが言った。

「そうなんだ・・・」

といったものの、ゆりはこっちの人間の寿命はよくわかってない。

「でもほっとした。もう儀式なんてないよね。全部終わったね」

「そうですね。本当に王妃はがんばりましたね」

フリットがにこやかに言う。

「王妃ががんばられてるのだから我々もがんばらないと」

「何を？」

「子作りですよ」

「子作り・・・」

ゆりはちょっと頬を染めた。ミカエルならともかくフリットがそんなことを言うとは思わなかったのだ。

「力がある者が増えれば、王の負担も減るんですよ。我々は、王の負担を軽くしてあげたい、その一心なんです」

「・・・・」

「将来的には御子様のためですからね」

王様のため・・・かあ・・・

蛇の一族は、全体的に恋愛感情が薄い一族だといわれている。夫婦という関係も王と王妃だけだし、愛し合って一緒にいる、

という関係はまれなのだという。それでも交わりの月を過ごす相手には、それなりの情をもっているようだが、愛し合う仲では

なく、一緒に子作りをがんばろうというような同志関係にあるらしい。

ここの所の考え方は、ゆりにはちょっと理解できない。なぜ、一対一で愛しあうことができないのか、ゆりは前にラクシュミに

聞いてみたことがあった。すると、ラクシュミはこういった。「余裕がないからだ」と。どうやらこの一族はそれほど切羽つまって

いるらしい。

あっさりラクシュミの子供を身ごもったゆりには理解できなかったが、もし、10年たっても20年たっても子供が

できなかったら、30年たってもできなかったとしたら、、心理的にも追い詰められて、愛情のために抱かれるというよりは

ただ子供のために、抱かれるような状況になってしまうかもしれない。

「こちらにおいででしたの」

東屋に近づいてくる姿があった。フリットの母親ロアンナだった。ロアンナはにこにこしている。実はフリットが儀式して以来

機嫌がいいということにゆりは気づいてない。

「もうすぐ御夕食のお時間ですわよ？」

「そうだね。お部屋に戻ろうかな」

「連れて行きましょうか？」

フリットが聞いた。

「ううん。歩いていくからいいよ」

「そうですか」

ゆりはロアンナと歩いて行った。

フリットはゆりが行った後も、夕焼け空を眺めていた。

昔は夕焼け空が好きではなかった。

争いを連想するからだ。

血に染まった人々と、大量の蛇の死骸。先代の王が亡くなった時に起こった戦で、多くの者が亡くなり、その時フリットや

ミカエルの父親も亡くなった。あの時の出来事は、今も忘れることはできない。

戦が終わった時には、夕暮れ時だった。

若くして王にならざるを得なかったラクシュミ様は、あの時何を思ったのだろう。

力の安定のために、感情を激することを禁じられていた王は、きっと嘆くこともできなかったに違いない。

その時、ミカエルから思念が来た。王の休憩室で飲んでいるからお前もこいというものだった。

今では夕焼け空もそんなに嫌いではない。

王妃と共に眺めた空は、どこか安らぎの表情さえ浮かべているかのようで、フリットは少しほほえんで移動した。

第20話

１の月のある日、ゆりは自分の部屋でミカエルといた。ミカエルとひっついて気をもらっていたのだが、侍女もいないので

何気に妙な雰囲気になっている。

「あの・・・そんなに力一杯抱きしめてくれなくてもいいんだけど・・・」

ゆりが思わず言った。

「力一杯抱きしめたいんです」

「はあ・・・気って、手つないだだけでももらえると思うんだけどなあ。ちょっとそういう訓練しない？」

「いやです」

即答だった。

「なんでよ」

「それじゃつまらないですもん」

「ミカエルは一杯いる彼女と好きなだけくっつけばいいじゃない」

「普段は女たちとはそういう関係にありませんので」

あっさり言われた。

どうもよくわからん・・・

「抱きしめてあげれば女の子も喜ぶんじゃない？」

「たいして喜ばないですよ。一体どうしたの？って目で見られるのがおちです。それよりも、どうしたら王妃のお気に入りに

なれるか考えてるんですけどね。ずっと」

「お気に入り？」

「王以外に一番好きな男のことですよ」

「王様以外？」

それって・・・愛人ってこと？

「私不倫はちょっと・・・」

なにげに胸をどきどきさせて、ゆりは言った。

「私は王妃のこと愛してるんです」

「え！」

ゆりはミカエルの腕から離れた。

「どどど、どうしたの、突然！」

「だって、王妃は儀式の時言わせたじゃないですか。愛してるって。愛してるって言ってしまった以上は、愛してるんです」

「・・・私そんなこといわせたっけ」

「言わせましたよ。２回とも。私は他の男たちと一緒でいるのはいやなので、どうしても一番がいいんです」

「・・・」

ゆりは固まっている。

「私がいやですか？」

「いやじゃないけど、それって、愛してくれってことなの？」

「違いますよ。王妃は王だけを愛していればいいんですよ。私のことは、一番好きでいてくれれば」

意味がわかりません・・・

ミカエルとは適当な所で別れたゆりだったが、ミカエルの言うことはさっぱり理解できていなかった。

いすに座って思い悩んでいたらヴィラが訪問してきた。

「はい。お菓子ですよ」

「ありがとう」

ゆりがお菓子を受け取り、微妙な目で見ていると、ヴィラが首をかしげた。

「なんですか？」

「ちょっと相談に乗ってくれる？」

「いいですよ。夜の相談ですか？」

「違うよ」

ゆりはヴィラとテーブルを挟んで向かい合わせて座った。そしてさっきのミカエルのことを聞いたのだった。


「仕方のない人だなあ・・・」

ヴィラがちょっとあきれたように言った。

「これってどういうこと？私とその、寝たいってこと？」

ゆりは肝心な所は小声で聞いた。

「そりゃ、それに越したことはないでしょうけど、つまり、一番頼りにされたい、ってことですよ。くだらない用事で

がんがん呼びつけてやったらどうですか？」

「え・・・」

それじゃただの使いっぱしりでは？

「ミカエルって、結構いろいろ仕事してるんでしょ？そういうわけには・・・」

「たとえば、外に出る時とかに、『ミカエルと行きたいわ』といってやるだけでも喜びますよ。」

「はあ・・・」

「あの人はプライドが高いので、どうしても人より上に行きたがる傾向があるんです。手も早いから、手を出してきたら

適当にかわしてください。」

「そういわれても・・・私そういう経験に乏しいから・・・」

「あの人のことはいやじゃないんでしょう？」

「うん。そりゃあ・・・」

ゆりの頬がちょっと赤くなる。

はっきり言ってミカエルの顔や声はすごく好きだ。

「なら避けたりしないで、適当にあしらってやる方がいいですよ。避けたらプライドが傷つくので」

「はあ・・・そういう風にできるかなあ・・・」

「何事も王妃修行だと思ってやってください」

「はあ・・・」

「といっても、我々だってあなたのこと好きなんですから、一人だけひいきしちゃだめですよ？」

「うん」

その数日後、ラクシュミが外に出してやると言ったので、ゆりはミカエルと行きたいと言ってみた。

するとミカエルはすごく喜んでゆりを外に連れ出してくれた。

なんだーお気に入りってこんなんでいいのか。

と気楽に思っていたゆりだったが、その後ゆりの左目が黄色と黒に変わって、「ミカエルの屋敷に行ってみたいな」

などと言い出して二人で屋敷に行っちゃったことなど知らない。

しかもミカエルの寝室にまで行っている。


「王妃の肌に触れられるのはうれしいんですけど・・・抱きたいなあ。どうせなら」

ミカエルはちょっとぐちっと言った。ゆりはミカエルに愛撫だけさせて自分は何にもしてない。

その上最後までさせもしない。

「私は別に、他の人でもいいけど」

ゆりが言った。

「こっちの王妃はほんと意地悪ですね」

「意地悪だよー」

「あーあ。儀式またないかな・・・」

「とりあえず、子作り儀式がんばってね」

ゆりが笑っていった。

「がんばりますよ。毎年がんばるだけはがんばってるんですけどね・・・」

ミカエルはため息交じりに言った。

1の月が終わり、２の月に入ると、ゆりの目が輝いてきた。えらくうきうきしている。ラクシュミがほっておいても

文句のひとつも言わない。

不気味だ・・・

「何かいいことでもあったのか？」

ラクシュミは思わず聞いた。

「だって、もうすぐ交わりの月になるから・・・」

「それが楽しみなのか？」

「うん」

くどいようだが、交わりの月とは、子供をつくるためにあるので、妊娠した女にはあんまり関係はない。

「昼間一緒なのが楽しみなのか？」

それならばわからんでもない。昼間は、普段ならほとんどラクシュミはゆりとゆっくり過ごすことはないからだ。

「昼間もだけど、夜も楽しみだよ」

ゆりが頬を染めて言う。

「普段だって抱いてやってるじゃないか」

「あの時のほうがいいんだもん。全然違うもん」

「そうか・・・」

ラクシュミは深く考えることはやめた。

妊娠中はあまり無理させないほうがいいと思うが・・・

だがこれだけ楽しみにしているのに抱いてやらないというのもかわいそうだろう。

そしていよいよ待ちに待った交わりの月の夜、ラクシュミは真っ暗な寝室にやってきた。

ゆりが裸でラクシュミに抱きつくと、ラクシュミはまだ変わってないようだった。

「王様？変化しないの？」

「少し話をしてからな」

「お話？」

ラクシュミはベッドの上でゆりを抱き寄せた。

「お前、随分他の男と仲良くなったな」

「え？」

「みんな言わないが、本当は抱かれたんじゃないのか？」

「そ、そこまではしてないです・・・」

「だが、違うことはしてやったんだろ？え？」

ラクシュミはゆりの肌をなでている。

「だって・・・儀式だからしょうがなくて・・・」

ゆりはどきどきしていた。

普段まったく嫉妬されないだけに、こういう言葉は新鮮だ。

「本当にしょうがないのか？お前も楽しんだんじゃないのか？」

「そんな・・・」

ラクシュミはゆりを寝かせて上に乗った。

「全く・・・お前本当に私を愛してるのか？」

「愛してる」

「本当か？」

「本当だよ。」

「他の男とあんまり仲良くするんじゃないぞ」

「王様・・・」

ラクシュミの性格は、すでにすっかりかわっていた。普段嫉妬や愛情に乏しいだけに、交わりの月になると、どんとその感情が

くるようだ。そんなラクシュミにゆりはすっかりはまってしまい、去年よりも濃密な交わりの月になってしまったのだった。

交わりの月が過ぎて、医師のフレイはゆりを診察にきてぎょっとした。

ゆりはまたやつれていたからだ。

・・・何考えてるんですか。王・・・

「大丈夫ですか？王妃」

「うん。大丈夫」

「また体重減ったんじゃないですか？あんまり無茶したらだめじゃないですか」

「だってえ・・・まあいいじゃない。10日だけなんだから。これで王様が多少冷たくっても、耐えられそう」

ゆりはにこにこだ。

「そうですか・・やれやれ・・」

「今年はね、愛してるって３回も言ってくれたんだよ。去年が１回だったから、来年が楽しみだな〜」

ちなみに、普段ラクシュミに愛してる、といわれた記憶はない。

すでに来年もすっかりやる気になってるゆりに、フレイは軽く息を吐いた。

その数日後、ラクシュミは交わりの月の報告を聞いていた。

報告といっても、本人がだれと過ごしました、とラクシュミに報告するわけでもなく、ザメハがあちこちから情報を

集めてきてそれを聞いていたのだ。

「どうやら去年よりは、盛り上がったようですな」

ザメハが言った。

「そうか。よかった・・・」

「王、今年は、あのミルキダスも、女と交わったようです」

ザメハが小声で言った。

「本当か？」

「はい。確かです。相手の女はキャシーとジェシカですが、うれしそうに言っておりましたから。二人が嘘を言うことは

ないでしょう」

「そうか・・・」

「ミルキダスは最近なにやら顔つきが変わったようですな。女たちも驚いておりましたが」

「確かに」

顔つきが違う。険がとれた、というか、前よりだいぶ穏やかになった。



噂の主、ミルキダスは、本当に偶然、ゆりとばったり城の中で出くわした。

「こんにちは」

ゆりが言う。ゆりの左目は黄色と黒になっている。

「こんにちは・・・」

「ねえ、誰かを抱いたの？」

ゆりが体を寄せて聞いた。

「はい・・・・」

「そう・・・女の子喜んだでしょ？」

「え・・・それは・・・わかりませんが・・・」

ミルキダスの頬が染まる。

「うう。なんか、むっときたーちょっときて」

ゆりはミルキダスの腕を引っ張って飛んだ。そこは、ゆりの部屋の、隠し部屋の方だった。

「お、王妃・・・」

「口付けて」

ミルキダスはゆりを抱きしめて、キスした。


う・・・なんかすごくうまくなってる・・・・


最初の時とはまるで別人である。


ミルキダスはゆりの体を抱き上げてベッドの上に乗せた。

「私まだ何も言ってないけど・・・」

「あなたが悪いんですよ？こんなところに連れてきて」

背中をなでられて、ゆりはぞくっとした。

首筋にキスされて、耳を軽くかまれた。

「なんだかあの時と別人」

「あなたには随分感謝してるんです。ですから、お礼させてください」

「なんかどきどきする・・・・」

「私もですよ」


ゆりはしばらくミルキダスと過ごして、外に出た。

ああ、びっくりした。ミルキダスすっごい巧みになっちゃってさ。

ゆりは体の火照りを収めるために、庭を散歩した。そして、大蛇がいる芝生の横に寝転んだ。

「ああ、気持ちいい・・・」

ゆりは目を閉じた。

それからしばらく、

「ゆ・り・様」

声が聞こえてきてゆりが目を開けた。左目は蛇のままだ。

「こんなところでそんな格好で寝ないでください」

上を見ると、ヴィラがいた。自分の体を見ると、スカートが太もものところまでめくれている。

「え・・・あ・・・お前めくったわね。悪い子」

横には大蛇がいてちろちろ舌を出している。

「あなたが昼間から欲情するから悪いんですよ」

ヴィラは、冷笑を浮かべていった。

「な、何いってるのよ」

「妖しげな気を感じますよ？誰といちゃついていたんです？」

「・・・嘘・・・」

「本当ですよ。儀式の時のような気が漂ってます」

「・・・」

大蛇はゆりのスカートの中にもぐりこもうとしている。

「こらこら」

ゆりはスカートを押さえた。

「相手はだれなんです？」

ヴィラが冷たい目を向けて聞いた。

「なんの？」

「そこまで言わせるんですか？」

蛇はゆりの胸元に首をもたげた。

「もう、この子ったらエッチ」

「あなたと交わりたいんでしょう」

「え？」

「一族の女は、蛇と交わることがたまにあるんですよ？」

「嘘・・・」

「本当です。」

「どうやって？」

「そりゃあ・・・」

「私、これ入れたら死ぬって」

ゆりは蛇の頭をなでた。蛇はにょろりと体をあげて、ゆりの頬をなめた。

「ためしにやってみたらどうですか？」

ヴィラが皮肉な顔で聞いた。

「何怒ってるのよ」

「あなたが昼間っから他の男と睦びあってたからですよ」

「む、むつびあってって・・・」

「交わりの月が終わって間もないのに」

横目でにらまれた。

「・・・・まあまあいいじゃん」

ゆりが手を振って言う。

「ところで王が呼んでますよ」

「またまた」

「本当ですよ。城の中のどこにいるか探してます。今他の人から思念が来たんです」

「・・・」

「王の間にどうぞ。王妃」

「・・・まだ変な気漂ってる？」

「はい」

「・・・相手はヴィラにしとこっと」

ゆりはそう言って消えた。

「えーそんな！」

ゆりは王の間の前にいた。

「あれ？」

今のゆりの瞳は、両方黒い。ゆりは番兵と目があった。

「すぐお入りください。王妃」

「うん」

ゆりは番兵に言われて、首をかしげながら中に入って行った。

中にいたラクシュミはゆりの姿を見て、ちょっと眉をひそめた。

「王様、何か用ですか？」

「鏡を見ろ」

横にある鏡をさした。そこには、虎の国のガットの姿があった。

「ガットさん！」

「ゆりちゃん！男の子が産まれたよー！」

ガットがうれしそうに言った。

「えー？本当に！？おめでとうございます！」

ガットは腕に抱いている赤ちゃんを見せてくれた。金色の髪で、結構でかい赤ちゃんだった。

「かわいい！」

「昨日産まれたんだぜー！すっごいかわいいんだ」

「アヤコさん、大丈夫？」

「今はまだ寝てるよ。」

「そう、お大事にね」

「ゆりちゃんもがんばれ」

「はい！」

ガットは消えた。

「あ、名前聞くの忘れた・・・でもよかったねえ。王様」

ゆりがラクシュミを見ると、ラクシュミはなにやら不機嫌そうな顔をしていた。交わりの月の時のラクシュミの顔とは

まるで違うので、ゆりはちょっとびびった。

「お前、今までだれといた」

「え？・・・」

ゆりは首をかしげた。

「逃げたか・・・」

ラクシュミがボソッと言った。

ゆりがきょとんとする。

「なんでもない。お前はちゃんと体を休めないとだめだぞ？」

「うん」

「じゃあ部屋に戻っていろ」

「はい」

ゆりは素直に出て行った。

ゆりが普段だれとすごそうと、ラクシュミは嫉妬などしないのだが、今は時期が悪かった。

交わりの月が終わってすぐで、ラクシュミの機嫌も悪くなりやすい時期だったからだ

しかも、ゆりは体を酷使した後だ。


全く・・・何を考えてるんだ。あっちのゆりは・・・

その夜、ゆりの寝室にラクシュミが現れた。

ゆりは交わりの月が終わってから、ずっと自分の部屋の方で寝ている。

赤い月の後は、男の気持ちが冷たくなりやすいためだ。

ゆりが起き上がりラクシュミを見上げたとき、ラクシュミの瞳が輝いた。

「ゆり、ちょっとでてこい」

そういうと、ゆりの左の瞳が黄色と黒に変わった。

「・・王様、何か御用でしょうか？」

ゆりはちょっとかわいげに聞いた。

「お前、しばらく男といちゃつくんじゃない」

ラクシュミは不機嫌そうに言った。

「なんで？」

「赤い月が終わってすぐに男とそんなことするんじゃない」

「・・・」

「しかもお前、えらくわかりやすくなってるぞ。変な気が出てた」

「・・・だって・・・ミルキダスがちゃんと女の子と過ごせたか気になったから・・・」

「相手はミルキダスなのか？」

「元はといえば王様が悪いんだよ。最初ミルキダスに変な女をあてがったから！」

「え？」

突然反撃されてラクシュミは何のことやらわからなかった。

「ミルキダスはその時のことが原因で女が抱けないって思い込んでいたんだから。ミルキダスが暗くなったのは

王様のせいよ！」

「・・・・」

ラクシュミは、ミルキダスにあてがった侍女がだれだったか、すっかり忘れていた。

「そんなミルキダスを王様のためにまともにしたのに・・・そんな風に言うなんてひどい。

全部王様のためにしたのにい・・・」

ゆりはしくしく泣き出した。

「・・・だからといって今日いちゃつくことはないだろ」

「報告聞いてたらそういう気分になったんだもん。ミルキダスがそういう気分になったのは、私のおかげだから、

お礼したいっていって・・・女の子抱けたのがうれしかったみたいだよ」

「そ、そうか。悪かったな・・・」

「じゃあもう怒らない？」

「ああ」

そういうと、ゆりはにんまり微笑んだ。

「・・・本当に私のためにしたのか？」

「うん」

ゆりは大きくうなずいた。

「たまたまじゃないのか？」

ラクシュミが鋭く突っ込んできた。

「王様のためだよ。王妃としての努めだと思って」

ゆりが言い張ると、ラクシュミの顔つきも穏やかになってきた。

「だめだよ。繊細な人もいるんだから、あんまり強引なことしたら」

「強制的にしたわけじゃないぞ。なんなら侍女と過ごすか？といったら、やつがはいといったんだ」

「それは、断れなかったんだよ。きっと」

「・・・そうかもしれないが・・・ミルキダスには悪いことをしたな・・・しかし、よくミルキダスがお前にその気になったな」

ラクシュミの言葉にゆりはむっとした。

「私は魅力的じゃない。王様の侍女よりずっと」

「・・・・まあそうかもな」

妙な間があり、ラクシュミがいった。

「ひどい」

「あれだけ頑なだったのに、よくお前に心を開いたな。どうやったんだ？」

「別に、見つめ合ってたらその気になったの」

「・・・」

「本当だったら」

ラクシュミは全然信じてない。

「強引に変化させました」

ゆりが仕方なく言った。

「・・・お前そんなことできたのか？」

「できたみたい」

「あまり危ないことはするんじゃない。変化した男は、危険なんだぞ？たまに人格が全く変わる男もいるんだぞ」

「でも儀式の時はみんな変化してるよ？」

「え？そうなのか？」

初めて聞いたのでラクシュミは驚いた。

「それでよく抱かれずにすんでるな。」

「本当だね」

ゆりは他人ごとのように言った。

「・・・・」

ラクシュミの眉間にしわがよった。

「だって、儀式はあっちの時やってるし・・・ところで、王様、交わりの月のこと、今回は覚えてる？」

「覚えてない。何も」

ラクシュミはあっさり言った。

「王様、他の男に抱かれたら殺すって言ってたよ。それでむこう喜んでた」

「？」

ラクシュミは上を見上げて、またゆりを見た。

「殺すといわれてなぜ喜ぶ？」

「それは・・・女心ってやつだよ」

「オンナゴゴロ？」

ラクシュミにはさっぱりわからなかった。


「たまには嫉妬されたいものなんだよ。」

「・・・まあともかく、しばらくは控えろよ」

ラクシュミは最後には元の顔に戻って去って行った。

やれやれ、もうちょっと平均的な性格になってくれればいいのにねえ。

嫉妬深い男はいやだけど、全く嫉妬されないのもちょっと悲しいよね。

ゆりは寝転んで目を閉じた。