ゆりはベッドに寝転んで、男に言われたことを思い返していた。
1つ、どうやら王様の子供を産める女がいないらしい。
2つ 子供が産まれないと国が滅びるとかいってたっけ・・・
3つ だけど私が産めばなんとかなるようだ。
4つ 子供を産まないと過去の自分が助からない。
そういわれても、どうすりゃいいの？
ダークファンタジア 第４話
幻の男はなんと自分の息子だった！という衝撃の事実に呆然としたゆりだったが、
そうか！ならば王様の子供を産むわ！
という気持ちになれるわけもなかった。いくらなんでもそこまでお気楽ではない。
第一ゆりは男性経験に乏しい。というかほとんどない。
中学生のころあんな体験をしてしまったせいもあるが、いつか幻の男と恋に落ちるのかも、という
思いもあり、男性と付き合ったりしたことはなかった。大学のゼミ仲間で飲み会をしたくらいのものだ。
まさか自分の息子なんてね〜笑っちゃうわね。ははははは
はあ・・・・
最後には大きなため息がでるゆりだった。
相手が王様ではいくらなんでもハードルが高すぎる。一体どうすればいいというのだろう。
ラクシュミと自分が恋愛関係に陥るという状況を想像すらできない。
この先どうなるんだろう・・・
とにかく情報が少なくてよくわからない。男の言うこともぼんやりしてよく聞いてなかったし・・・
私の子供？嘘でしょー。
ゆりは、朝ミラが来たときに、蛇の一族のことについて詳しく教えてほしいといった。
「どんなこと？」
「えーと、王様の女性関係とか」
「え？」
ミラが眉をしかめた。
「・・・」
やっぱりまずかったかも・・・
「どうして？王様に迫りたいの？まさかね」
「まさかあ。ははは」
「一族のことは、私はあまり詳しく言えないよ。聞きたかったらミカエル様に聞いてよ。後でちょっと呼んであげるから」
「うん。わかった」
「・・・ところでさ、それどうしたの？」
ミラはゆりの腕のブレスレットを見て聞いた。
「あ？これ？実は王様がくれたの」
「えー？王様が？ふーん」
ミラはなんとか納得したようだった。本当のことを言ったって信じてもらえるわけもない。
午後になり、ミカエルが部屋に来てくれた。
「私に用ですか？」
「はい、ごめんなさい、呼んじゃって」
「いいですよ。」
ミカエルはゆりの左腕にあるブレスレットに目を留めた。
「あ、これ・・・もらったんです」
ゆりは右手でブレスレットをさすった。
「ちょっとみせてもらっていいですか？」
ミカエルはゆりの左手を握り締めた。そして、真剣な眼差しでブレスレットを見つめた。
「だれにもらったんです？」
「王様に」
「王がこれをあなたに？」
「え・・・ええ、そうです。」
「？」
ミカエルは首をかしげたが、それ以上聞かなかった。
「あの、ミカエルさん、私にこの蛇の国の事いろいろ教えてくれませんか？」「いいですよ。何が聞きたいんですか？」
「とりあえず、どこと争ってるんですか？」
「主にはこの国の北にある龍の国ですよ。龍の国と同盟を結んでいる国とも、敵同士ですが」
「龍族って強いんですか？」
「ええ、龍族は圧倒的に人数が多いんですよ。ですから戦になれば有利なんです。現国王の兄弟だけでも3人もいますからね」
「うちの王様は？」
「兄弟はいませんよ。」
「両親とかは？」
「もうおられません」
「あの、王様ってずっと独身なんですか？」
ゆりは思い切って聞いてみた。
「妻がいるかどうかということですか？いませんよ。」
「恋人も？」
「どうしてですか？」
「その・・・ちょっと気になって・・・王様はどうして結婚しないんですか？」
「・・・どうなさったんですか？そんなことに興味をもたれて」
ミカエルは微笑んでいたが、目は笑っていなかった。
私ってあからさまにあやしすぎる・・・
そう自分でも思ったが、回りくどく聞くのも苦手だ。
「王様って女嫌いなのかなって思って」「そんなことありませんよ。そのうちに結婚なさいます」
「そ、そうですか・・・」
「・・・ゆりさん？」
ゆりはしょげた感じで下を向いていた。
自分がこの国を救う。そんなことが本当にできるのだろうか。
自信がない。このまま逃げてしまいたい。
「戦いってしょっちゅう起こるんですか？」
「あなたは気にすることはないのですよ。ここにいれば安全ですから」
「本当に？」
時間はない。そう彼は言った。
「ラクシュミ様がおられる限りは、安全ですよ」
「敵ってやっぱり龍族なんですか？領土の取り合いとかしてるんですか？」
「まあそのようなものです。龍族は我々を滅ぼしたくてしょうがないんです。昔から、因縁の仲でしてね。地を這う蛇が
我慢できないとかいちゃもんをつけてるんですよ」
「じゃあうちの同盟国ってないんですか？
「ありますよ。虎族とか、犬族とか」
「じゃあ、戦いになれば助けてくれるんですね？」
「多少はね。どちらの国も遠いですから。ただ、敵国のけん制にはなります。」
「そうですか」
「あなたは好奇心が旺盛なんですね。」
「はあ・・・」
しばらくしてミカエルは部屋を出て行った。
戦・・いつおこるんだろう・・・もしかして、それまでに子供産まなきゃいけないとかだったらどうしよう・・・・
出会って間もないのに積極的にアタックなどできるはずもない。第一、自分がラクシュミを好きかどうかも、ゆりにはわからなかった。もちろん好意はあるが、それは愛情ではない。それなのに、アタックなんてできるわけがない。
迫った所で無碍にされるのが関の山だ。
一方ミカエルは、王の間に来ていた。
「王、あの異界の娘、気に入ったんですか？」
ミカエルに突然聞かれて、ラクシュミは無反応だった。
「腕に高価なブレスレットをしてましたよ。王にもらったと」
「やってないぞ。何も」
「じゃああの娘が嘘をついたんですか？」
「あんな子供はほっておけ。それよりも他を優先させろ」
「わかってます」
その時、違う男が王の間に入ってきて、ミカエルは出て行った。
数日の間、ゆりはラクシュミに会うことなく、城の中で過ごしていた。昼間はミラの仕事を手伝ったりして、この世界の情報をいろいろ仕入れた。
この日は、大蛇の身体を洗う仕事を手伝った。ミラのほかにも数人の女の子がいる。蛇の一族ではなく、他の種族の女の子のようだ。
ゆりもたわしで大蛇の背中をごしごしこすった。すると、蛇の背中に生えていたコケがとれた。蛇はじっとしている。今で
はすっかり蛇になれてしまい、廊下ででかい蛇を見ても平気でまたげるようになった。蛇はゆりに近づいても、じっとゆ
りを見ることはあるが、絶対にかんだりはしない。
「ねえ、ミラ、犬の国って、行ったことある？」ゆりが手を動かしながら聞いた。
「あるよ。」
ミラが答えた。
「やっぱり一杯いろんな犬がいるの？」
「いるよ。あそこはうるさい国だよ」
「へー。行ってみたいなあ。」
犬の国かあ、どんな国なんだろ。でかい犬とかいるのかな。でかい犬がワンワン吼えてたらそりゃうるさいだろうなあ。犬好きの人にはたまらない国かもね。
「じゃあ兎は？かわいい兎一杯いる？」「兎の一族は、もう龍族の属国だからねー。行ったことないよ」
「兎のお姫様は龍族に人質にだされてるんだってよ」
他の女性が言った。
「人質ってかわいそう・・・」
話はいつの間にやらいい男の話になっていた。どうやら、どこの国の女性も話題は一緒らしい。
「まあ、ラクシュミ様は別格にしてもさー、やっぱりフリット様よー。フリット様！」一人の女性がうっとりした顔で言った。
「ええーミカエル様の方が上でしょ」
言ったのはミラである。
「蛇の一族って男はみんな美男子なのがいいのよね〜」
「そうなの？ぶさいくな男いないの？」
ゆりは聞いてみた。
「そりゃちょっとはいるけど、たいてい美形なの。女もだけど。」
黄色い声が飛んでいると、
「楽しそうですね、」
という声が聞こえてきた。
「フ、フリット様―！」「キャー！」
そこにきたのは優しい顔立ちの美しい男だった。薄い紫がかった長い髪を、首の横で結んでたらしている。さすが一番に名前
があがるだけはある。男の両肩には青い蛇の模様が見えた。どうもこの国の男は蛇の刺繍をした服を着るのが好きなようだ。
「ああ、あなたが異世界の方ですか」
フリットはゆりに目を留めた。
「はい、ゆりです。はじめまして」
「蛇の背中を洗ってくれていたのですね。ありがとう」
「いえ・・・」
「・・・・」
フリットはじいっとゆりを見つめた。
「？あの、何か」
ゆりが不思議そうに見る。
「いいえ。あなたがとてもかわいらしいので、みとれてしまいました」
「はあ？」
「これをどうぞ。異国に行ったついでにお菓子を買ってきましたので。どこの世界の女性も好きかと思いまして」
「はい、好きです。ありがとうございます」
ゆりは包みを受け取った。
「では、」
フリットは優雅に会釈して去って行った。
「あ・・・もう私、興奮して寝れないかも」女性がうっとりしていう。
「優しそうな人ね〜」
ゆりが言う。
「優しいよ。私らにも時々物くれたりしてね。」
「そうなんだ」
仕事の後、みんなでもらったお菓子を食べた。それは、果物を砂糖漬けにしたようなお菓子で、甘くておいしかった。こうしていると、学校の放課後、女の子同士でわいわい話をした事が思い出される。
いいなあ。こういうのって楽しいな。私ずっとここで働いててもいいんだけど・・・王様の子供産むって話より現実的だし。
第一、王であるラクシュミには、おいそれと会えないという問題がある。
恋に発展しようにも無理だろう。
まさかデートに誘ってオーケーしてくれるわけもない。
まあいいや。そのうちなんとかなるでしょう。
フリットは王の間でラクシュミに会っていた。
「王よ、あの娘よっぽど気に入られたのですね。」
フリットの言葉にラクシュミは眉をひそめた。
「娘？だれのことだ」
「隠さなくてもいいのですよ。」
「何の話だ？」
「異界の娘です。先ほど会ったのです」
「それが？私は何もしておらんぞ？」
「本当ですか？・・・・」
フリットは奇妙な顔をした。
「異界の娘がどうかしたのか？」
「気を与えられたのではないのですか？」
「いや」
「おかしいですね。ならなぜ、一族の気を帯びていたのでしょうか」
「ん？」
「それに、腕におかしなものをしておりましたが・・・」
「そういえばミカエルもなにやらいってたな」
「お側に召せば、私が言った意味もお分かりになりましょう」
「面倒くさい」
ラクシュミは本当に面倒そうに言った。
ゆりはお風呂に入って夜部屋でぼんやりしていた。眠ろうにもあれこれ考えがめぐって眠れない。
何とかなる、そう思っていても、自分で行動しなければどうにもならない気もする。
ふいに部屋の隅っこの方にいるルーを見る。
「あれ？えさ全然食べてないじゃない」
ゆりはルーに近づいた。小皿の上の食べものを、食べた気配はない。ルーはまっすぐにのびていた。
「ルー？」
ゆりはルーをつついた。だが、ぴくりともうごかない。ゆりは蛇を持ち上げた。すると、だらんとしっぽがたれた。
「ルー？ルー？」
目も開かない。
「ルー！」
わんわん泣きながら部屋に入ってきたゆりに、ラクシュミはぎょっとした。ラクシュミの横にいた侍女もびっくりしている。「ワーン王様！ルーが死んじゃったよー！」
「・・・ルー？」
ゆりは青い蛇をラクシュミにさしだした。わんわん泣きながら。
ラクシュミは蛇を受け取った。
「何が悪かったの？なんで？ねえ、王様なんで？何で死んじゃったの？！」
「死んでないぞ。」
「へ？」
「脱皮が始まるんだ。それでじっとしてる。ほっといてやれば、そのうちに元気になる」
「本当？」
「お前、どうやってここにきた」
見るからにゆりは一人だった。誰かが案内した様子はない。
この部屋は、ゆりがいる部屋から結構離れている。
「部屋の外にいた蛇が案内してくれたの」
ゆりはそういった。
「・・・・出てろ」ラクシュミは侍女たちに顔を向けていった。二人いた美しい女たちは部屋を出た。
「お前、そこに座れ」
「はい」
ゆりは長椅子に腰を下ろして涙をふいた。ラクシュミは部屋のすみに蛇をおいた。
「よかった。死んでなくて」
「・・・お前名前なんだったか」
ラクシュミは、すっかりゆりの名前を忘れていた。
「ゆりです」
ゆりはちょっと膨れていった。
「ゆり。お前にはいろいろ聞かねばならんことがある」
「はい？」
ゆりはちょっと緊張した。ラクシュミがゆりの横に座った。ゆりは何かいいにおいを感じた。香水でもつけているの
だろうか。
「それはどうしたんだ」
ラクシュミはゆりのブレスレットを示した。
「もらいました」
「だれに？」
「それは・・・言っても信じてもらえません」
「なぜだ」
「・・・」
あなたの息子にもらちゃった。
とかいってもばかにされるだけだろう。
「聞きたいことはまだある。お前は、最初あったときとは違ってる。」
「え？どこがですか？」
「今のお前は蛇の一族の気をわずかに帯びている。なぜだろうな」
ラクシュミはじっとゆりを見ていた。
近くで見ると、美しすぎて、存在しているのが不思議な気がした。
瞳は、輝きを放っている。
その時結構でかい蛇がするすると近づいてきて、ゆりのひざの上に頭をのせた。ゆりはその頭をなでてやった。
すると気持ちよさそうに蛇はじっとしている。
「すっかり慣れたな。たいしたものだ」
ラクシュミは感心していた。
「私もそう思います。」
最初は子蛇に触れただけでもぎょっとしていたが、こんな短期間で、ここまでになるなんて思わなかった。
「蛇が、他族の女をここまで信頼するのもおかしなことだ」
「そうなんですか？」
「お前はおかしいことだらけだな。」
そういえば・・・このブレスレットしてから蛇がフレンドリーになった気がする。
ゆりはそう気づいた。前は話しかけてもルー以外は無視されていたのに、ここの所、話しかけたら話を聞いてくれるのだ。
といっても蛇がゆりに話しかけるわけではないが。場所を案内してくれることはある。
「・・・王様って、恋人いますか？」
ゆりは思い切って聞いた。これがチャンスと思って話をするしかない。そういう気になっている。
「恋人？」
「だれか愛してる人います？」
「・・・なぜだ」
「・・・ちょっと気になったから・・・」
ゆりはもじもじしてうつむいた。
「お前には関係ない」
ずばり言われてゆりの心はちょっと傷ついた。
う・・・ 何よ・・・
「そんな風に言わなくたっていいじゃない。もしかしたら関係あるかもしれないじゃない」
「何が関係ある」
「え・・・その・・・ひょんなことから恋に落ちる可能性も・・・」
ラクシュミが鼻で笑った。
「ひどい」
ゆりはかなり傷ついて思わずラクシュミをにらんだ。
「私なら、王様の子供産めるかもしれないのに・・」
ゆりが思わずぶつぶつ言ったとき、ラクシュミの形相がふいに変わった。
「それはなんのことだ？」
「え？いえ・・・なんでもないです・・・」
ゆりがあわてて言う。
「すっかり全部話せ。」
「何を？」
「全部だ」
「だから・・・何を？」
「同じことを言わせるな。」
ラクシュミがいらついてきた。目が釣りあがってきている。
「・・・・そんなこといわれても・・・」
・・・こ・・・怖い・・・
「ならどこまで知っている」
「・・・王様の子供を産めそうな女がいないこと」
「だれに聞いた」
ラクシュミが驚いたように聞いた。
一族の者で、そんなことをもらす者がいるはずはない。
「言っても笑いません？」
「あん？」
「・・・これあなたの息子にもらいました」
ラクシュミは目を見開いた。
「その人、私があなたの子供産まなきゃやばいっていってたよ」
ラクシュミはこれ以上もないほど目を見開いた。
二人はしばらく沈黙していた。
・・・変な女だと思われたかも・・・
突然そんなことを言われても信じるわけもない。
つい言っちゃったけど、私って考えなさすぎだったかも・・・
「・・・それは本当のことなのか？」
「はあ・・・多分」
「多分とはなんだ」
ラクシュミが眉をしかめた。
「だって、私だって信じられないんだもの。あのことは・・・」
ラクシュミはゆりの左手をとり、ブレスレットを見つめた。
「これから力を感じる。私と同質の力だ」
「・・・王様・・・この国が大変って、本当なんですか？」
「ああ。大変だ、子供は、のどから手がでるほどほしい」
ラクシュミは、じっとゆりを見た。
「・・・・」
ゆりはなにやら怖くなった。
「私そろそろー」
ゆりは立ち上がろうとしたが、体が動かなかった。
「だめだ。その男のことを全部話せ」
「・・・なんだか怖い」
「話さないほうが怖いぞ」
ゆりは仕方なく全部話した。
ラクシュミはじっとゆりを見ている。とても真剣な表情をしていた。
ゆりはだんだん不安になってきた。
もしかして強引にベッドに連れて行かれたりはしないだろう。
「・・・あの・・・」
「それが本当ならば、喜ばしいことだがな」
「いきなりベッドに連れて行ったりしないよね？」
ゆりが不安になって聞くと、ラクシュミが笑った。
「お前まだ子供だろ？」
「え？」
「何歳だ」
「２１歳」
「２１？」
「王様って何歳？」
ゆりは逆に聞いてみた。
「８５歳」
「え・・・・85？」
「蛇の一族は、たいてい５０から６０歳で成人する」
「そうなの？私向こうではもう成人してるけど・・・」
「それでか？」
ラクシュミはあからさまにゆりの体を見た。
ゆりの胸は大きい方ではない。というかちょっと膨らんでる程度だった。
「・・・ひどい・・・」
「・・・」
ラクシュミは考えるように横を向き、ゆりを見た。
「お前、自分でそういうことを言うということは、当然私の子供が産みたいという
ことだな？」
「え・・・・」
ラクシュミの言葉にゆりは戸惑った。
「そういうことだろうが」
「・・・え・・・でも・・・私王様のこと何にも知らないし・・・第一、なんで王様の子供産める女の人がいないのか、
よくわからない」
「確かに、今はいない。力が強い女がいないのだ。女は力が強くないと、私の子供をはらむことができない」
「絶対に？」
「ああ」
「試したの？」
「試さなくてもわかる。」
「じゃなんで私はできるの？」
「その男が言うとおり、お前が私の強い気を体に入れることができるのなら、できるのかもしれない。」
「・・・」
「ちょっと試してみよう」
ラクシュミはゆりの体を抱きしめた。
ゆりはどきりとした。
なんだか、ふんわりしたものが体に入ってくる気がした。
「今お前に気をやった」「・・・王様ってすごくいい匂いだね。これ、何の匂い？」
「私の体からでてる匂いだ」
「体から？香水かと思った・・・」
ラクシュミはゆりの体を離した。そしてゆりを見る。
「確かに・・・少し私の気を帯びている・・・」
「自分ではわからないけど・・・」
ゆりの頬は赤く染まっている。
「・・・まあいい、今日はもう部屋に戻れ」
「はい」
ゆりは素直に出て行った。
「・・・・」
ラクシュミは扉を見つめていた。
確かに、その男の言う通り、今は滅ぶかどうかの瀬戸際といえるかもしれない。
今成人している女で、力のある女はいない。
これから成人する女で、力がある女が出ることを祈るしかないが・・・それすらも無理だったら？
しかも、王の子供ははらみにくいという難点がある。女が必ず子供をはらむという保障はどこにもありはしないのだ。
一族の者でもない女を妻にするなど考えたこともなかったが・・・
本当にあの女が私の子供を産めるのならば、この際贅沢なことはいってられない。
ラクシュミはしばらく考え込んでいた。
進む