しかし、にわかに信じられない。

過去、異界。それらを自由に渡る力？

一体どういうことだ。

そんな魔法聞いたことはない。

その者は本当に、私とゆりの子供だというのか？

そんなばかなことがあるのか？



それが本当ならば、どんなにか・・・

どんなにか心が楽になるだろう・・・

第５話

その朝、蛇の国に強い風が吹いていた。なにやら不吉な感じがする風に、人々は目を細めた。

争いが起こるのか・・・また・・・

今度はだれが死ぬのだろう

これ以上力がある者が死ねば、とうてい、一族を維持することはできまい。

哀れな王よ・・・

国を訪れていた商人たちは、そそくさと国を出て行った。

もうすぐ大きな戦が起こる。そんな噂が流れていたからだった。

その朝、王の間に行ったミカエルは、いつもと違い、ラクシュミがひどくぼんやりした様子なのが気になった。

「どうしましたか？」

ミカエルが聞いた。

「いや、別に」

ラクシュミが答えた。

「戦のことを気にしておられるですか」

「まあ、それもあるが・・・」

「他に何か？」

「いや・・・今はそれに専念しなければな・・・」

今は、他の事を考えている場合ではない。

生き残らねば・・・何もならないのだから・・・

「敵の襲撃は思いの他早くなりそうです」

ミカエルが顔色を変えていった。

「ああ。来る以上は迎え撃つしかない。」

「がんばりましょう」

「ああ・・・」

まだ、滅びるわけにはいかない。

あれからラクシュミは何も言ってこなかったので、ゆりはちょっと拍子抜けして、ミラと一緒に蛇の世話やらお城の中の

掃除をしていた。

廊下をすれ違う男たちは、みんな切羽詰ったような顔をしている。

「ねえ、ミカエルさんに会いたい時、どうしたらいいの？」

ゆりがミラに聞いてみた。

「ミカエル様、しばらく忙しいから無理よ。」

「そう・・・」

「なんだか大きな戦が始まりそうだから」

ミラはため息交じりに言った。

「戦？いつ？」

ゆりが驚いて聞く。

「わからないけど、戦士たちはみな緊張してるし、間近みたい。まあこの城にいれば安全だけどね」

「そうなの？戦で負けたりしないの？」

「負けるっていうか、敵の攻撃をなんとかしのいで去っていくのを待つって感じだけどね。前の戦の時、力がある人が

結構死んじゃったからなあ。あーミカエル様やフリット様が無事ならいいんだけど・・・」

「・・・この国って、弱いの？」

「一族の数が少ないのよ。なんだか出生率がすっごく低いのよね。こればっかりはラクシュミ様にもどうにもならないの」

「・・・そうなの・・・」

・・・そういえば、戦になったら王の側に、とかあの時の人が言ってたよね。

なんかすごいことでもおきたりして・・・

だといいんだけど・・・知ってる人が死ぬのはいやだな。

ここで寝起きして世話になっている以上は恩があるもの。

ゆりはその夜、この前と同じ部屋に行ってみた。ラクシュミがいればいいな、と思ったけれど、そこにはだれもいなかった。

まあいいか・・・わざわざ行方を捜すのもあれだし・・・

ゆりは自分の部屋に戻ってぎょっとした。部屋の中に銀色の髪の男がいたからだった。

「王様・・・」

「どこにいっていた」

ラクシュミがゆりを見て聞いた。

「・・・王様に会えるかなって思って、この前の部屋に行ってみたの」

「そうか・・・」

「・・・なんだか疲れてますね」

「私はいつでも疲れてる。」

「・・・大変ですね」

ゆりはちょっと同情して言った。

「ゆり、私の息子という男の話のことだが・・・いつ産まれるか言ってなかったか？」

「それは何も・・・」

「そうか・・・」

ラクシュミは下を向いた。

「・・・早く子供がほしいんですか？」

「それはほしい。力の強い子供ができれば、私の負担も減る」

「そう・・・」

「・・・ではな」

ラクシュミは消えた。

ゆりはなにやら釈然としなかった。

子供がほしい。というのはわかるが、私を愛してるとかいう雰囲気には、一生なれそうにない気がするのは気のせいだろうか。

私は、あの人のことどう思ってるんだろう・・・

抱きしめられた時はどきりとしたけど・・・わからない・・・

北の国境付近に敵が大挙して押し寄せたのは、それから５日ほど後のことだった。

「かなりの数だな・・・王族まで出張ってきている」

ラクシュミは城の外を探った。敵の大群が近づいている。そういう情報はすでに入っていた。一族の者はすでに応戦体勢に入ってい

る。小競り合いはあちこちで行われていた。

敵もかなり本気だな。

今度は何人死ぬのだろうか・・・・

幾度となく繰り返される戦い。

ただでさえ、少ない一族の者たちも、ますます数を減らしていく。

だけれども、敵に屈服することだけはできなかった。屈服は、すなわち滅びを意味していたからだ。

ラクシュミは先代の王がかなりの年齢になってできた子供だった。蛇の一族の子供はできにくいが、王族の子供はさらに

できにくかった。そのため王の負担はまして、先代の王が亡くなった時には、ラクシュミはまだ成人してはいなかった。

そのため十分な力もなく、かなりの一族の者が先の戦いで命を落としてしまったのだ。

「ゆり！戦だって！」

部屋の掃除をしていたゆりの元にミラがやってきて言った。

「戦？！」

「朝早くに始まったみたいだよ」

「え！？それって大きな戦？」

「噂では、かなりの敵が来てるみたい」

―もし大きな戦がおこったら、王のそばに・・・


あの少年に言われたことを思い出していた。

これがその戦なのだろうか。


「ミラ、私、王様に会いたい」

ミラがぎょっとした。

「え？無理だよ！今は会えないよ！」

「どうしてもあわなきゃいけないの！」

「無理だってば」

「私、いかなきゃ」

ゆりは部屋を出た。

ゆりは王の間の前の番兵に詰め寄った。

「お願い！どうしても今あわなきゃいけないの！」

「王は今それどころではないんです！戦の最中ですから」

「王様に関わることなのよ！」

「無理です！」

側に行ったところで何がおこるかわからない。でも、もし何かできるのにしなかったら、後で後悔するだろう。

「私は未来の王妃よ！開けなさい！」

番兵たちは顔をあわせて、一応ラクシュミに告げた。

「・・・ここにつれてこい」

「よいのですか？」

「ああ」

ゆりはラクシュミのすぐ前までいった。

「なんの用だ？」

そう聞くラクシュミの表情は、ひどく、沈んで見えた。

「あの、わからないんですけど・・・側にいさせてください」

「好きにしろ」

「・・・」

ラクシュミの横では、ザメハという老人が奇妙な表情を浮かべている。

ゆりは、ラクシュミが座るいすの横に腰を下ろした。

王様・・・なんだかすごく悲しそう・・・

戦、不利なのかな？

だれか・・・死んだのかな・・

「王・・・」

ザメハが悲痛な声で言った。

あまりに敵の数が膨大だった。

これではもうどうしようもない。

「残念だな。お前がたとえ子供を産んでくれても、間に合いそうにない」

ラクシュミがぽつりといった。

「え？」

ゆりが顔をあげる。

「これ以上一族が減れば、存続はできない」

「王様、弱気にならないで」

あまりにさびしげな様子に、ゆりは胸が締め付けられるような気がした。

ラクシュミは目を閉じている。

・・・誰か・・・誰かこの人を助けてあげて！

強く念じた時、ゆりは自分のブレスレットが光り輝くのを見た。

「・・・・ディンラ・・・エルイヅィ・・・」

ラクシュミがはっと目を開けてゆりを見た。

「・・ディルマ・・・ガルイア・・」

ゆりは一人で何やらつぶやいている。


「古代語のようですな」

ザメハが言った。

「・・・・・・・・！・・・！」

ゆりは呪文のようなものをつぶやいてそのまま倒れた。

そして次の瞬間、ラクシュミの前に、光り輝く扉が現れた。

「！」

「あれは！？」

ラクシュミとザメハが目を見張る。扉の中から、二人の人物が現れた。

一人は女だった。銀色の長い髪、銀の美しい鎧を着た美しい女戦士。

そしてもう一人は、短い黒髪の男だった。背は高く、かなり体格もいい。

りりしい顔立ちをしている戦士である。

女戦士はにこりとラクシュミに微笑んだ。瞳は金色に輝いていた。男の瞳も。

「この戦、我々にお任せを」

そういって、二人は消えた。

「・・・王・・・」

ザメハの瞳からは、涙が流れている。

ラクシュミは、無言で二人が消えた後を見つめていた。


一方戦場ではー

「死にぞこないめ、さっさと滅びてしまえ！」

龍族の指揮官が右手をあげて、何かを唱えた。空気が振動する。

「ま、まずい！」

それは、大技の前触れであった。

「ミックナート！」

数匹の幻の龍が出現して蛇族の戦士たちめがけて襲い掛かってきた。

「うわわあああ！」

ラクシュミは、王の間で強い念を送り、その術を防ぎとめた。

戦士たちの前で、龍はこなごなになり、地面に落ちて行く。

「反撃するのだ！」

「おう！」

将軍たちの声と共に戦士たちが武器を手に、敵に向かっていく。

ある者は魔法で攻撃し、ある者は武器で。


王の間で、ラクシュミは戦士たちに力を送る。

ひときわ大きな龍が歳若い女戦士たちに襲いかかり、巨大な爪で体を引き裂いた。

「今日が蛇族最期の日だ！はーっはっはっ！」

「王よ・・・・」

「ラクシュミ様・・・申し訳ありません・・・」

女戦士たちは血を吐きながら落下した。

その時光の筋が放たれるように流れ、龍の体を引き裂いた。

「おお！」

「あれは！？」

戦士たちの驚きの声があがる。見ると、そこには、長い銀の髪に銀の鎧をまとった、美しい女戦士がいた。女戦士が手をくいっと

上にあげると、先ほど落下した女戦士たちの体が上にあがった。傷ついた女の体に光がぐるぐる回る。

「その子たちを城に連れていきなさい」

女戦士が言った。りんとした声だった。

「しかし、今は」

「いいから、死なせちゃだめ」

「はい」

有無を言わせぬその威厳に、若い戦士たちが女たちを抱きしめて、消えた。

「誰だお前は。初めて見る顔だ」

龍族の者が言う。巨大な龍を引き裂いた技量は並ではない。そう感じたのだ。

「この地から、とっとと立ち去りなさい。」

女戦士が言った。

「そういわれて立ち去ると思うのか？その女を殺せ！」

指揮官の言葉に龍族の戦士たちが襲いかかる。

その時、敵めがけて疾風が巻き起こった。

敵が吹き飛ばされる。女戦士の横に、黒髪の男がいた。女戦士同様誰の見覚えもなかった。だが、どこか普通の戦士とは違っ

ていた。かなりの強い気を発していたからだ。

「ロイ、あんたは左の、あいつをお願い」

女戦士は男につぶやいた。

「はいよ！」

「時間との勝負よ？」

「わかってるって」

戦士は、両手で腰から二本の剣を抜いた。

そして、何やら呪文を唱えだした。

―みんな、よく聞いて、みんなは雑魚らの殲滅に専念してちょうだい！

強いやつらは、私たちに任せて！死なないで、絶対に生き残るのよ！


女戦士は味方全員に思念を送った。

やがて、上空を数匹の巨大な蛇が飛び始めた。

「蛇霊神！」

それは、蛇の霊だった。

「ディルクーラ！」

ロイが呪文を唱えた瞬間、巨大な蛇たちは、敵に向かっていく。そして同時に、ロイも敵に向かっていく。

女戦士は剣を上空にかざした。その剣には蛇の霊が巻きつき、赤く光っていた。

ロイは敵の指揮官めがけて飛んでいく。

「ジャズナ！」

敵が手を上げてなにやらつぶやいた。

二匹の竜の口から炎が吐き出される。

「ミル・ド」

ロイは呪文を唱えた。味方の上に一瞬で結界ができる。炎はその結界が防いだ。

ロイは、竜の首に剣を振るった。

「なにい！」

そのすばやさが尋常ではない。首があっという間に落ちて、龍が落下した。敵の戦士がロイに向かってくるも、

ロイは、体を旋回させながら、敵を葬っていく。一方、女戦士のほうも、一振りの剣で、敵をなぎ倒していた。

そして剣に巻きついている蛇たちも、敵を攻撃している。二人に励まされるように、一族の戦士達は戦っていた。

その間、敵の指揮官たちが幾度も魔法を唱えるが、すべて跳ね返されていた。この力は、ラクシュミだけのものではない。

二人加わっただけで、完全に形成は逆転している。

「ばかな・・・・ばかな・・・！おれは王族だぞ、それなのに！あんな虫けらに押されるとは！」

敵官が歯軋りする。

「俺も王族さ。同じ王族なら、自国で戦うほうが有利なんだよねん」

ロイは、いつのまにやら敵将のすぐそばまできていた。

「なんだと？そんなはずは！王族はラクシュミしかいないはずだ！」

「今はな」

「古の誓いよ、よみがえれ！デュラン・スー・イー！」

女戦士が呪文を唱える。

地面より、幻の巨大な蛇たちがまるで火柱のようにあがる。蛇は、敵の体だけを食い破り、消えていった。

ロイは逃げようとした敵将の心臓を貫いていた。

「油断大敵大怪我の元ってな。のこのこやってきたのが運のつきだな」

「うぐ・・・ばかな・・・」

ロイは躊躇なく敵将の首をはねた。

「敵将の首はとらせてもらったぜ！」

首を高く上げて言う。

残った敵は、うろたえ、逃げていく。

「はっはっはっ祭りは終わりだ。とっとっとうせな！」

敵は逃げていくが味方はほぼ呆然としていた。それもそうだろう。見たこともない戦士が二人も現れて、しかも、

王族クラスの力をもっていたのだから。戦いは劣勢のはずだった。犠牲も覚悟していた。それなのに・・・

ここ１００年にない勝利である。


「ほらよ」

ロイは敵将の首を味方の一人にほおった。味方があわててそれを受け取る。

「あれ？拍手は？」

ロイが、呆然としている味方にいった。

「ばか！次いくわよ！」

女戦士は、ロイの首元をつかんでひっぱった。二人は消えてしまった。


「これは・・・夢なのか？」

残された戦士たちがぽつんとつぶやいた。


「おー父様、えらいうろたえてるなあ」

ロイが飛びながら言った。

「そりゃそうでしょ。きっと呆然としてるわよ」

と女戦士。

王の間では、二人が言ったとおり、ラクシュミも呆然としていた。

「王・・・」

ザメハが震えるように言った。

「・・・・」

ラクシュミも言葉が出ない。ラクシュミは二人が戦う様をみていた。二人の顔、姿、しかもあの気質は・・・

ありえない・・・

ラクシュミが知らない一族の者など、この国にいるはずはないのだ。


一体何が起こったのかわからない。


ラクシュミは横に倒れているゆりを見下ろした。


「ここいらよ」

二人が飛んできたのは、東の湿地帯にある、岩場だった。

「探して」

「はいな」

二人は注意深く、周りを見つめた。

「ん？あれ、そうじゃないか？」

ロイが、岩場と岩場の間を指した。

「かもね」

女戦士が、そこに剣を突き刺す。

すると、宙にびりっと裂け目ができた。

「見つけた」

女戦士はすばやくその裂け目に移動して、手を入れて中から、あるものをひきずりだした。

「なっ！なぜ！」

それは老齢の小さな男だった。

「こいつかあ。強い女が産まれないようずっと呪いかけてたのは」

「長い間ご苦労だったねえ。100年もの間呪法を唱え続けるとは、楽ではなかったろうに」

「貴様らは一体・・・ぐ・・・」

女戦士が男の首をぎゅっと絞めた。

「さよなら」

「ぎゃああああ！」

男の体は真っ二つに引き裂かれ、下に落とされた。

「これにて任務完了ね」

女戦士は手をたたいた。

「もっと暴れたいなあ・・・」

その時、城から、強い念が送られてくるのを二人は感じた。

「とっとと帰りましょう」

「ああ」

王の間に現れた光り輝く扉は、薄くなってきていた。

そこへ、二人が姿を現した。

「お前たちは・・・」

ラクシュミが二人を見つめて言う。

ロイは、ラクシュミの腕の中にいるゆりを見て、にっと笑った。

「あんまり母様を泣かせないでくださいよ。俺たちのかわいい人なんだからさ」

「・・・・」

「もうしばらくの辛抱です。偉大なる王よ。いずれ、会いましょう」

女戦士が微笑んだ。

二人は扉の中へ、消えた。

「うううう」

ザメハは泣いていた。

そして、ラクシュミの瞳からも、涙が一筋流れたのだった。


「ラクシュミ様、あの二人は一体・・・」

王の間には、戦士たちが集まってきていた。

「女性はラクシュミ様にそっくりでございました」

「あの戦士のほうも・・・」

「・・・・」

戦士たちのむせび泣く声がした。

理由はわからない。だが、希望を感じた。

未来という名の希望を。

「久しぶりにうまい酒が飲めそうじゃわい」

老齢の戦士が言った。

皆目に涙を浮かべている。

「こんなことがあるなんて・・・」

「未来の姫君たち・・・」

「しかし、母君は一体・・・どなたなのでしょうか」

ラクシュミは息を吐き、そして言った。

「皆に言うことがある。私はこの娘と結婚する」

ラクシュミの言葉に、一同唖然とする。

「婚礼の準備じゃ」

ザメハが大声で言った。

ゆりは目を覚まして、はっとした。

「あれ？戦は！？」

見ると、自分はベッドの上で横にラクシュミが立っていた。

「王様、戦どうなったの？」

「ああ、みんな無事だった。」

「本当？よかった。」

「ほら、お前の蛇だ」

ラクシュミは青い蛇をゆりに見せた。ちょろちょろと舌を出している。

「あールーあれ？なんか、ちょっと長くなったね」

「ああ、そうやって大きくなっていく」

「そうなんだ。」

ゆりは蛇を両手でもらった。その笑みは、あまりに無邪気で、ラクシュミは微笑んだ。

「あ。王様笑った！」

ゆりはうれしそうに言った。

「笑っちゃ悪いのか？」

「初めてみたから、王様、きれい」

ゆりの頬が染まった。

「ゆり・・私の子供を産んでくれないか？」

ラクシュミの言葉にゆりははっとした。

「王様・・・」

「頼む」

「・・・はい」

ゆりは了承した。

「そうか。婚礼は10日後だ」

「・・・・えええええええ！？」

ゆりは驚きのあまり飛び起きた。

「と、10日！？早すぎるよ。せめて一ヶ月・・・」

「もう決められてしまった。」

「ええええええ！？」

「いやか？」

「・・・・・いいけど・・・10日後かあ・・・・うう・・・」

すごいスピード婚かも・・・・心の準備ってもんが・・・

好き、とか愛してる、とか全部すっ飛ばして結婚みたいな感じだけど、いいのかな。これ。

「王様、私の事、好き？」

ゆりはおずおずと聞いてみた。

「これから、私の横で眠る女はお前だけだ。それではいかんのか？」

ゆりの頬は真っ赤になった。

「私・・・王様に夢中になりそうな気がする・・」

そう、きっと、いつか、私はこの人を愛してしまう。

だから、胸がこんなにどきどきしている。

「ところで、ひとつ聞きたいのだが、お前があった私の息子という男は、銀髪だといったな？」

「うん。そうよ。」

「・・・・」

ということは・・・ゆりは私の子供を３人も産むのか？

ラクシュミはその事実に愕然とした。ここ１０００年、王の子供が３人も生まれたことはない。

さ・・・三人・・・・

「どうしたの？王様」

「いや・・・なんでもない」

三人か・・・楽しみだな・・・

ラクシュミはその夜、王になって初めて、安心するような気持ちで眠りにつくことができたのだった。