「るん、るんるん♪」
ある日、神の国では頬がちょっとピンクに染まったほろ酔い気分のガーベラが野原を軽やかに歩いていた。
天気は快晴、そよそよと気持ちよい風が吹き、野原には風の精達がふわふわと飛びながらガーベラに挨拶をして
通り過ぎていった。ガーベラもご機嫌で挨拶を返している。
「あーいい気分、極楽極楽・・・」
そう言ったのはガーベラではなく、ガーベラに入り込んだゆりだった。ゆりは最近では神の国に来ても恋人達と
いちゃいちゃするよりも、自然の中をぶらぶらしたり、子供達と遊んだり、小動物とたわむれたり、自分の気晴らし
をして過ごしている。恋人全員の子供が産まれたことだし、これくらいガーベラも大目に見てくれるだろうと思って
いた。神の国はどこも素晴らしく綺麗だ。ゴミの一つも落ちてはいない。今日はジンラの所でお酒をちょっと飲ませ
てもらったので昼間っからいい気分になっていたのだった。
やっぱりジンラっていいなあ。あの顔で人のよさそうな所がいいな・・・
ジンラとはアマンザが産まれて以来そんなにくっついてはいないが、ゆりとしては時々顔を見て話をするだけで
満足だった。恋人というよりは１人のファンというような感じだ。
近くをささっと白い物が横切っていった。見ると真っ白いリスのような動物がいる。
「まあ、かわいい」
ゆりは白いリスに近づいていった。するとリスはささっと行ってしまい、近くにあった大木に登っていった。
「かわいいー」
ゆりは枝をつたっていくリスを眺めていたが、突然上からぬっと顔がでてきてぎゃあと飛びのいた。
「やあ、ガーベラ」
見ると枝から逆さにぶらさがっているパティウスがいた。
「でた！悪童！」
「悪童？ひどいなあ・・・」
パティウスは枝から飛び降りてきた。
「あんたに会うといっつもろくなことないもん」
親の顔が見たいと思ったが、父親は神々の長アシュランだった。そのため多少のいたずらでは神々達も苦い顔を
するくらいだ。
「そんなことないよーだ。僕実はガーベラに相談があるんだー」
パティウスは頭の後ろで両手を組んで大木にもたれつついった。
「相談？」
「実は恋の相談なんだ」
「鯉？鯉飼いたいの？」
「？？？」
パティウスが奇妙に眉をひそめた。
「鯉といえば錦鯉よねー。ここにもいるのかな？」
ゆりは酔っていたので真面目に鯉の話だと思っていた。
「何の話してるの？恋だよ。好きな女の子ができたんだよ！」
「ふーん。そう・・」
「それでこの恋が成就するためにどうすればいいか悩んでるんだよ」
「あ、そう。んじゃそういうことで」
とゆりは身体を翻して去って行こうとした。
「ちょ、ちょっと！全然相談にのってないじゃないか！」
パティウスが横に並んでついてきた。
「何が恋よ！小僧のくせして。千年早いんじゃない？」
「ダーナと同じこと言ったな・・・」
パティウスが唇を尖らせた。どうやらダーナにも同じ相談をしたらしい。
「相手はネルなんだけどさーいっつもサントスが邪魔するんだよ。おかげで話をすることもできやしない」
「そりゃしょうがないじゃない。」
「僕はもうネルに悪いことなんてしないのに・・・それどころかいたずらだって最近してないくらいなんだよ。」
「えー本当かなあ」
ゆりがいぶかしげにパティウスを見た。
「本当だよ。最近じゃグレンが拍子抜けするくらい真面目なんだよ」
「あやしいなあ、グレンに聞いてみよう」
「ん？」
「おーいグレーン！」
ゆりは少し離れた空をちょうどグレンが飛んでいくのが見えたので声をかけた。
「げ！」
「グレンが本当だって言ったら信じてあげる」
「僕これからお勉強の時間だ。行かなくちゃ」
パティウスは真面目な顔でグレンとは反対方向に飛んでいった。
「やっぱり嘘ね。全く」
ゆりは両手を腰にあてた。やっぱりいたずら小僧はいたずら小僧のようだ。
「パティウスがまた何かしましたか？」
空から飛んできたグレンがゆりに聞いた。
「ううん。ねえ、少し暇だったら遊んでくれないかなあ」
「はい？」
「ちょっとお空のお散歩がしたいな」
「・・・はあ・・・」
ゆりはグレンにだっこされて空を飛ばせてもらった。
「うーん、気持ちいい・・・」
空から見る神の世界というのもいいものだ。
「どうして私に頼むんですか？ラーズ様に頼まれればよいのに・・・」
グレンが飛びながら聞いてきた。
「迷惑だった？」
「・・いえ・・・」
グレンはちょっと恥ずかしそうだった。普段のガーベラの場合は一緒に飛ぶ時も手に触れるくらいなのだが、
ゆりの場合はいっつもだっこされている。スカートの中がのぞかれるのが嫌だからだ。
「あ、あそこ、ラクアの神殿の所で降ろしてくれる？」
丸い湖とその中に神殿があるのが見えた。湖はキラキラ輝いている。
「はい」
神殿の横でゆりは下ろしてもらった。
「どうもありがとう」
「いえ、それでは」
グレンは去って行った。
グレンって相変わらず真面目そうな神様ね。
「あ、カカチャマだ！」
「カカチャマアソボー！」
神殿の中から小さな双子の女の子達が出てきた。
「いいよーあそぼー」
ゆりは抱きついてきた双子をだっこして、やっぱり水浴びをして遊んだのだった。
第6話
朝、ゆりがご機嫌でサラダを食べていたので、ラギが聞いてきた。
「母さんまた神の国にでもいったの？」
「うん。そう、よく分かったね」
「今回は何したの？」
シスが聞いた。
「別に、お酒飲んだりお散歩したり、水浴びしたりして遊んできた」
ゆりがそういうとシスは「ふーん」と言って、アナスターシャが「私も行きたいなー」といった。
ラギは内心、「せっかく神の国に行ってるんだからもっと実のあることでもすればいいのに」と思っている。
この母は、神の国にいけるありがたみが全くわかってはいない。
「あ、そうだ、今年の１０の月に夜のお祭りがあるんだって」
ラギが思い出したようにいった。
「夜のお祭り？何それ」
ゆりが聞いた。
「私も聞いた。昼間なのに夜になっちゃうんだよね」
アナスターシャがいった。
「昼間なのに夜？」
「月が太陽をすっぽり隠しちゃうんだよ。それで昼間なのに真っ暗になるんだって」
「へー皆既日食のこと？」
「そうだよ。100年から200年に一度あるんだってさ、その日には不思議な事が起こったりするらしいよ。
なんだか楽しみだなあ」
ラギがうれしそうにいった。初めての自然現象に興味津々のようだ。
「街でもお祭りがあるんだってさ」
とシス。
「ふーん。行きたいなあ。お祭り」
ゆりが言うと、「母さんは多分ダメ」とラギに言われてしまった。
「ちぇ、つまんないのー」
「不思議な事って何が起こるの？」
アナスターシャが聞いた。
「なんでも亡くなった人の霊が出てきたり、月の女神の馬車が見えたり夜の神様が現れたりするみたい。」
「へー・・・」
皆既日食かあ・・・どれくらいの間暗くなるのかなあ・・・ハザーク様なら詳しそうね。その内聞いてみようっと。
「夜の神様ってオルガね。星の子供達も来るのかな？」
ゆりは可愛い双子の男の子達を思い出した。
「ねーにー今日遊んでよー」
ロイがシスを眺めつついった。
「何の遊びだい？」
「追いかけっこ」
一同シーンとした。
「ナナミも遊ぶー」
ナナミが声をあげた。
「ナナミと遊ぶのはいいけどロイとの追いかけっこはなあ・・・」
シスがちょっとげんなりしつついった。ロイとの追いかけっこは超ハードだった。ナナミとロイは双子とはいっても
今はロイの方が力はかなり上をいっている。追いかけっこは国中を使っての追いかけっこで、１人でロイを追おうも
のなら大変だった。結界の外は敵がいて危険なのだが、ロイがあまりにすばしっこくて敵も追えないようだ。そのた
め、追いかけっこも敵狩りを合わせたもので、５人以上の戦士が参加して行われるのだった。ロイの遊びってよりは
戦士の修行に近い。
「ナナミもお外でたいー」
ナナミが足をばたつかせながらいった。
「ナナミはまだ勝手に出たらだめだよ。外は悪い人が一杯いるんだからね」
とシスが優しくいった。
「ぶー・・・」
ロイはだめだといっても勝手に外にでまくるのでもうあきらめられているが、ナナミはまだ結界の外には出して
もらってはいない。追いかけっこも結界の中だけだった。アナスターシャやシスが暇な時は、たまに一緒に外に
出してあげているのだが、ロイはしょっちゅう外に行ってるのでちょっと不満なのだろう。
「私達だって小さい頃は全然外出れなかったんだよ。だからナナミももうちょっと大きくなるまで我慢しようね」
アナスターシャがいった。
「そうよ。お母さんだってお外出れないんだからね」
とゆり。
「はーい・・・」
ナナミはちょっと不服そうに返事をした。双子の力は今の所かなり差がついているのだが、こればかりは個人差が
あるので、その内ナナミの力もそれなりにあがってくるだろうと思われていた。二人ともまだ５歳にもならないのだ
。ロイの力の方がある意味早熟すぎるといえるだろう。アナスターシャもシスも、そのくらいの頃は瞬間移動が
できたとはいってもまだそんなに素早くはできなかったし、長時間の追いかけっこをする気力もなかった。
「あーあ、私も綺麗な蛇一杯ほしかったなあ・・・」
アナスターシャにぼそりといわれて、ゆりはのどにパンを詰まらせたのだった。
その日の午後、蛇目のゆりはハザークの元を訪れていた。
「ハザーク様、蛇紋現れるようになったよ」
ゆりがそういうと、ハザークの瞳がきらりと輝いた。
「そうか。ではさっそく」
「うん♪」
２人はさっそく寝室で仲良くひっついた。すると興奮したゆりのおなかにいろんな色の鱗がある蛇が一匹現れた
のだった。おなかから胸にかけて現れた蛇は、以前の金色の蛇よりも大きかった。
「美しい・・・」
ハザークは思わずその蛇を右手でなでた。
「ほんと、きれいだねー。金に水色に紺色に緑に紫に黒に赤・・・・」
ゆりも初めて自分でまじまじと蛇紋を見つめた。まるで宝石のような蛇だ。まだ他の恋人達には見せてはいないが、
見せたらきっと感動するに違いない。
「どうして今回は金蛇ちゃんじゃないんだろう？」
「さあな。だが王族は変化した時にいろんな色の鱗が現れるそうだから、これも王族としてはふさわしい蛇だと
いえるが・・・」
「そうねえ・・・」
今まではたまたま金蛇ちゃんが続いただけなのかも？
そうゆりは思った。
「しかし・・・お前は蛇紋だけはいつも美しいな。不思議なほど」
ハザークは何気にラクシュミと同じことをいい、ゆりはちょっとむっとしたのだった。
その頃、ナナミは侍女に教えてもらい字のお勉強をしていたのだが、アナスターシャが部屋にやってきた。
「勉強終わったから遊ぼうか？」
そういうとナナミの目が輝いた。
「うん！」
「じゃあいこう」
２人は結界の中でかくれんぼをすることになった。
ちなみにこの頃、ロイはというと国中を飛び回り、シスと他の戦士達をぜいぜい言わせている。
「10数えたら追いかけるからねー」
「はーい」
ナナミは瞬間移動で消えた。
「いーち、にーい、さーん、しー・・・」
ナナミは城の中の空いている部屋のタンスの中に隠れたり、ベッドの下に隠れたりしてアナスターシャが来るのを
待っている。
ナナミの場合はまだまだ遊びといってもかわいいもので、アナスターシャでも十分手加減して遊んであげられるのだ。
「みーつけた！」
ベッドの下に隠れているとアナスターシャに発見されてしまった。
「きゃはっ！」
「今度はナナミが鬼よ。お姉ちゃんが隠れるからね」
「うん。いーち、にーさーん・・・」
ナナミは目に両手をあてて数を数えだした。鬼という物はこの世界にはいない。教えたのはゆりだ。
「じゅーどこかなー」
10数えたナナミは城の中を飛び回ってアナスターシャを探した。城といっても広いので、探すのも一苦労だ。
廊下ですれ違う大人に「ねーみた？」と聞くと笑顔で「いいえ」と答えてくれた。
ーヒーント！お城の中じゃないよー
アナスターシャから思念が飛んできて、ナナミは城の外の庭に移動した。今日は天気が良く真っ青な空に雲は一つ
もなかった。
「どこかなー」
お城の四方に広がっている庭を瞬間移動しながらナナミは必死になってアナスターシャを探した。
草の上でとぐろを巻いている大蛇に「ねーどこ？」と聞くと蛇が首をかしげた。
どうやら北の庭園には来ていないようだ。
「あっちかなー」
ナナミは東の方に行ってみた。
すると、
『遊ぼうよ』
という声が聞こえてナナミは足を止めた。
「ん？だあれ？」
『僕と遊ぼうよ』
声は子供の声のようだった。
「どこ？」
ナナミは辺りをきょろきょろ見回した。だけど誰も見えない。いるのは蛇だけだ。
『こっちだよー水色の膜の外。こっちにおいでよ。一緒に遊ぼうよ』
ナナミは少し離れた所にある結界を見た。
「結界の外にいるの？ナナミはいけないもん。行ったら怒られる」
『なんでさ。こっちの方が楽しいよ。おいしいお菓子も一杯あるよ』
「お菓子？」
『そうだよ。楽しい事が一杯だよ。おいでおいで』
「・・・・」
ナナミは瞬間移動で結界のすぐ近くまで行ってみた。
そこは木々が生い茂っている。一面に壁のように覆われた結界、それを抜ければ外の世界なのだ。
『ああこのお菓子おいしいなあ。君にもあげたいなあ』
お菓子という言葉にナナミはかなり興味を惹かれてしまっていた。だけど１人で外に出るなと日々やかましく言われ
ている。
どうしよう・・・ねーに連れていってもらおうかなあ。
『早くこないとなくなるよ』
「でもお」
『僕寂しいんだよ・・・一緒に・・・あ・・・そ・・・』
声はそこで途切れてしまった。
「？どうしたの？ねえ」
ナナミがきょとんとしていると、結界の外から男が１人中に入ってきた。
「どうしたんですか？ナナミ様、こんな結界の近くに来てはいけませんよ」
男はしゃがんでナナミに優しくいった。
「誰かが呼んだの。おいしいお菓子があるからおいでって」
「誰もいなかったですよ。おいしいお菓子ならお城の中に一杯ありますよ」
ーナナミーどこにいるのー？
心配したアナスターシャから思念が飛んできた。
「あ、ねー」
「お姉様のところに行きましょう」
男はナナミを抱き上げた。
「うん」
やがてアナスターシャは戦士にだっこされているナナミを発見した。
「あ、エルバート」
ナナミをだっこしていたのは銀色がかった水色の長い髪をした男だった。顔立ちはいかにも柔和で優しそうな感じの
戦士だ。
大人になって間もない若い男だった。
「こんにちは。アナスターシャ様」
男は微笑んでナナミを下に降ろした。
「こんにちは。ナナミったら何してたの？」
「ええと・・・」
「それでは私はこれで」
そう言って戦士は姿を消した。
「あのね、だれかが遊ぼうって外に呼んだの」
ナナミがアナスターシャを見上げていった。
「えー？それは悪い人だよ。一緒に行っちゃだめだよ」
「悪い人なの？」
「そうよ。すぐねーを呼ばなきゃだめでしょ」
「はーい」
ナナミはしょんぼりした。
「じゃあ部屋でおやつ食べよ」
「うん」
アナスターシャはナナミを連れていった。
王の間では、先ほどの戦士エルバートがラクシュミに敵を倒した報告をしていた所だった。結界の中に思念を送って
いたのはラクシュミも気づいていたのだが、敵がさほど強くはなかったため場所を探るのにちょっと時間がかかった
のだ。しょっちゅう外に出ているロイは逃げ足が早すぎて敵が捕まえられないため、ナナミをどうにかしようと思っ
たのだろう。もちろんラクシュミはナナミが外に出ようとしたら止める気でいたのだが。
「力はたいしたことはなかったですが、強い思念を送ることができる敵のようですね」
エルバートがいった。
「そうだな。普通は中に思念を送ることもできないからな」
「ナナミ様はまだ子供ですから、あまりお叱りにならないでくださいね」
「ああ、わかってる。やさーしく叱るさ」
とラクシュミがいった。別に何事もなかったのでラクシュミもたいして怒ってはいない。エルバートは微妙な顔で
微笑んだ。
「まあご苦労だったな。エルバート」
「はい・・・あのう・・・王・・・」
「ん？」
「私・・・大人になってまだ一度も王妃にお会いした事がないんですが・・・」
「ああ、そのようだな」
戦士は一応大人になれば王妃に挨拶することになっていた。
「王妃は妊娠中は大量の気を欲するようですし・・私も参加する事はできないのでしょうか」
「それが微妙な所なんだ」
「微妙とは？」
エルバートは水色の瞳を見開いて聞いた。
「私としては別にどっちでもいいんだが・・・」
エルバートは大人になって２年ほどしか経ってはいない戦士なのだが、若手では結構な実力者だった。年もシャナー
ンとそんなに変わらない。ただ大人になったのがエルバートの方がかなり遅かっただけだ。子供の頃はシャナーンに
次ぐ実力者だと思われていたのだが、子蛇が肌についたシャナーンと、今ではかなり差が開いている。
それでも気の力は強めなので、本人としては、王の次の子供のために気を与えるという事に参加したいのだろう。
それ以前になぜ自分は王妃に会わせてもらえないのか疑問に思っているようだ。
問題は、エルバートの顔が良すぎるって所なんだろうな・・・・
ラクシュミはちょっと困ったようにエルバートを見つめた。エルバートの顔はかなり美しい。顔立ちはシャナーンと
はるくらいだ。シャナーンよりもさらに穏やかで優しげな顔立ちといえる。性格も穏やかそのもの、あまり我を出さ
ない所がシャナーンとは違うかもしれない。これで女だったなら、赤い月前は男に追いかけまくられて大変だったろう。
エルバートが気をやろうものなら・・・ゆりが気に入ってしょうがないかもな。なにせどう見てもゆりの好みだし。
一緒にいたら絶対水蛇が降りてきそうだ・・・
ミカエルらが警戒するのもわからんでもないが・・・
ミカエルはエルバートが大人になって城を案内した時、ゆりに会わせなかった。一目でも見せたらやばいと思った
からだろう。ゆりが全然知らない所を見ると、シャナーンも他の男達もエルバートのエの字もゆりに言ってないに
違いない。
「私が王妃に会うと何か不都合な事でもあるのでしょうか？」
エルバートが不思議そうに聞いた。
「そういうことではないのだが・・・お前は別にゆりの恋人になりたいわけではないんだろう？」
ラクシュミが聞いた。
「恋人。いいえ。私はまだ赤い月にも反応できないですし・・・」
エルバートはちょっと恥ずかしそうにいった。
「そうだったな。気を与えるにはゆりと抱き合わなきゃならないからなあ・・・」
「私は邪な気は全然ないのですが・・・」
ちょっとくらいあった方がいいんだが・・・とラクシュミは思ったが黙っていた。
「上の方々はお忙しいのに大変ではないかと思い、私も参加したいと思ったのですが・・・」
「まあその内に頼むかもしれない。」
「はい。それでは今日はこれで失礼します」
エルバートは頭を下げて王の間を出て行った。
「一生会わないってわけにもいかないし、時間の問題だろうがなあ・・・」
ラクシュミは１人つぶやいた。
「絶対ゆりが恋人にしそうだ。なあ」
話しかけた相手は扉付近にいる番兵だった。
「我々もそう思います。予想では９人目の恋人有力候補がエルバート様ですから」
「先が楽しみです。シャナーン様はミカエル様についで嫉妬深そうですからねー同じ年頃の恋人ができてしまうと、
内心は穏やかじゃないでしょうね。争いになったら面白いんですが」
「こらこら」
番兵達は微笑んでいる。
すっかり周りには変な期待をされているゆりだった。
さて、その頃、ハザークと別れた蛇目のゆりは体のほてりを冷ますため、ちょっと風に当たろうと庭園に移動した。
すると王の花壇の辺りで、水色っぽい長い髪の男がいるのが見えた。
ゆりがえっと思った時には男は消えていた。顔はちらりとしか見えなかったが、かなりの美男子だったようだ。
「あれ？今のだれ？」
ゆりは男がいた辺りに飛んだが、男の姿はもうどこにもなかった。
「すごい美男子だったなあ・・・神様みたいに・・・」
「王妃、何きょろきょろしてるんですか？」
後ろを向くとミカエルがいた。
「今ね、すっごい美男子を見たような気がしたんだけど・・・水色っぽい長い髪で、服装も青系で・・・顔がすっご
いきれいで・・・」
「気のせいですよ」
ミカエルは笑顔でいった。
「えーでもーちらっとだけど見たもん」
「それじゃどっかのペーペーの戦士かもしれないですね」
「ペーペー？」
「ただの幽霊かも」
「幽霊？」
何かおかしいなとゆりは思った。
ミカエルが無駄に笑顔だし・・・
「まあいいや。」
「それよりも、気にピンクがちょっと混じってますよ。誰といちゃついてたんです？」
ミカエルが急に眉をひそめていった。
「え、あら・・・まだピンク残ってる？」
「もう、王妃のエッチ」
「部屋に戻ろうっと」
ゆりは瞬間移動で移動してしまった。
「全く危ない危ない・・・」
王妃が見たのはエルバートに違いない、とミカエルは思った。髪が長い男は多いが水色っぽい長髪で超美男子
で思いつくのは１人だけだ。
これ以上若い恋人を増やされたんじゃたまらない。
次の休みには王妃にせまろうっと
ミカエルはそんなことを思いつつ移動したのだった。
すすむ
戻る