暦は７の月に入っていた。この頃の皆の話題はというと、だれそれの子供ができたらしい、そりゃ目出度いというもの
が多い。ちなみに今年はゆりの恋人達の健闘もむなしく、男達の子供はできなかったようだ。
夜、酒場では若い男の戦士達が５人ほど集まって酒を飲んでいた。出産率が低い蛇の一族だが、大人になりたての男は
なかなか子供ができる事はない。それどころか赤い月に女性を抱くという所までいかない者もいる。こればかりは
かなり個人差があるのだ。最近は成り行きに任せるという風潮のために、無理に女性と練習という事も行われていない。
この席にはエルバートもいた。
皆でわいわい酒を飲んで騒ぐタイプではなさそうだが、誘われたから来たくらいのものだろう。
テーブルの下には一メートルほどの蛇が数匹いて、小さい小皿に酒を注いでもらって飲んでいた。この国は蛇の国なので
どこの酒場でも蛇はフリーパスだ。客が首に巻いて連れてくることもある。中には蛇と晩酌をしている者もいるくらいだった。
「ビョルンらが王に直談判したけどやっぱり無理だったらしいぞ」
と戦士の１人が言い出した。
「やっぱりなあ・・・」
「王妃の恋人の方々が反対してるんじゃないのか？」
「恋人の方々っていうか、どうせミカエル様じゃないのか？あの人は王妃の事となると嫉妬深いからな」
「微笑ましいな」
「全くだ・・・」
男達は酒を飲みつついった。
どこが微笑ましいのか、ゆりが聞いたらさっぱりわからないが、彼ら独特の価値観では、子作り以外で女性に愛情を
感じることを微笑ましく思う傾向にあった。嫉妬という感情も一般的感情のように思われているが、彼らにとっては
そうではなく、そこまで深く異性を想うことができない者も多いために、ちょっとうらやましく思うのだった。
王に直談判した、というのも、王妃に気をあげたい、という内容である。若い戦士の中でもわりと気が強い連中が
言ってみたようだがだめだったようだ。
「やっぱりだめなのか。私もだめだったんだ」
とエルバートがいった。
「私は別に王妃に邪な思いはないんだが・・・」
「エルバートは顔がよすぎるからじゃないのか？」
「王妃がくらっときちゃ困るからじゃないのか？」
と戦士達が言い出した。
「そんなことあるわけないだろう。あの王がいらっしゃるのに・・・」
「それはそうだが・・・」
彼らにとって最高に魅力的な男性とは、やはりラクシュミである。それなのに他の男にくらっといくもないもんだ、と
エルバートは思った。
「それに私はシャナーンの恋を応援してあげたいくらいなんだ。自分が王妃とどうこうなんて考えたこともない」
エルバートはシャナーンと年も近く、結構知った仲だった。どれほどシャナーンが王妃に熱をあげているかもよく
知っている。がんばれと影ながら応援していたほどだ。シャナーンが王妃の恋人になった時にはよかったと思ったくらいだ。
「まあ私は大人の男としてはまだ半端だからなあ・・・」
エルバートがつぶやいた。まだ赤い月を女性と過ごしていないという意味だ。大人になって２、３年ではそれも珍しい
事ではない。ただ力が割と強い方だと女達に「本当にまだ無理なの？」としつっこく聞かれてしまうのでそれが大変だ
った。エルバートはそのたびに「すいません」と謝っていた。
「女達がまだかまだかと待ってるようだからな。反応するようになったらそれはそれで大変そうだな」
「はあ・・・」
「あんまり無理しないようにな。エルバートは優しすぎて断れないんじゃないかと心配だ」
「最初から女増やすと大変だからな」
「無理は禁物だぞ」
「わかった・・・」
男達はなぜかエルバートを心配するようにいったのだった。
第７話
「パパーだっこして！」
「ん？」
ナナミがぴょんと長椅子に乗ってきたのでハザークが身体を起こしてナナミを膝に乗せてあげた。
今日はゆりとラギも一緒にハザークの部屋にやってきている。ラギは侍女に食べ物を渡して喜ばれていた。前に
もってきたのと同じ木の実のようだ。
「今日はちょっと暑いですね」
ゆりが手で顔をあおぎつついった。背中にじんわりと汗がにじんでいる。外は天気が良くて気温がちょっと高めだった。
そのため薄手の生地の半袖のワンピースを着ている。
「そうだね。まあいんじゃない。たまには」
とラギがいった。２人はテーブルがある方の椅子に座っている。
「はい、どうぞ」
侍女がナナミにコップに入ったジュースを渡してくれた。
「ありがと」
ナナミはそうお礼を言ってジュースを飲んだ。ハザークは差し入れの木の実を渡してもらってぼりぼり食べている。
「あ、そーだ。10の月に夜のお祭りがあるんですよ。太陽が隠れちゃうお祭り、当然ハザーク様も何度も経験済みです
よね。どのくらいの間暗くなるんです？」
ゆりが笑顔でそう聞くと、ハザークの手の動きが止まった。
「今年あるのか？」
「らしいですよ。ねえ」
ゆりがラギに顔をむけた。
「５日にあるらしいですよ」
とラギがいった。
「その日は不思議な事がいろいろ起こるって本にありましたけど、何か不思議な体験しましたか？」
ラギがハザークに聞いた。
「別に」
「本当ですか？」
「ああ、ただ昼間に暗くなるだけだ。不思議な事なんて何もおきやしないぞ」
ハザークは真面目な顔でいった。
「そうなんですか？亡くなった人の霊が現れるって話は？」
ゆりが聞くと、なぜかハザークの眉間に皺がよったのでゆりはラギと目を合わせた。
その時ゆりの左目がぱっと蛇の目に変わったのだった。
「も、もしやザクート様が？」
「・・・・」
「ねえ、ハザーク様そうなんでしょ？ザクート様がやってくるんでしょ？」
「知らん」
ゆりはにんまり微笑んだ。ハザークの態度からしてそうに違いない。
「そうなんですか？ザクート様がその時にやってきてくださるんですか？」
「知らんと言ったろう。こら、王妃、なんでお前はこういう時には素早く反応してでてくるんだ」
とハザークが横目で聞いた。
「いいじゃないですか。別にお会いしたからって何かするわけでもあるまいに〜」
とゆり。
「ザクートさまってだあれ？」
とナナミが聞いた。
「ハザーク様のパパよ」
とゆりが言うと、「パパのパパなの？ナナミもパパのパパに会いたい！」とナナミが言い出した。
「余計な事言うな」
とハザーク。
「10の月が待ち遠しいですね。」
ラギがにこやかに微笑んだ。すでにザクートがハザークの父親だというのは聞いていたようだ。
「別に、大体幻の王なんだから100年に一度くらい出てくればいいんだ。最近出すぎだ」
ハザークは眉をひそめたままぶつぶつ言い出した。
「それに毎回必ず来ると決まったわけじゃないし・・・王妃、聞いてるのか？」
ゆりはすでにザクートに会えるかもしれない喜びで一杯になっている。
「全く気が多い女だ・・・」
「パパのパパ。パパとそっくりなのかな？楽しみだな〜」
ナナミは膝の上でそわそわお尻をゆらしていた。
「あの男と似てる所なんてどこにもありゃしないぞ」
「御声が聞けるだけでも幸せ。といってもどうせミカエルに入るんだろうけど」
とゆり。
「そうなったらミカエルはまた大変だね」
ラギがふふふと笑った。
ナナミはお昼寝に入ってしまったので、黒目のゆりとラギはナナミを置いて一緒にハザークの塔を出た。
今日は太陽の日差しが強い。
「今日はロイどこに行ったの？」
「どうせ泳ぎに行ったんじゃない？ロイはちょっと暑くなるとすぐ泳ぎに行くからさー」
とラギが答えた。
「今日のお守り役はだれ？」
「さあね、中級戦士が数人じゃないのかな。あ」
ラギが宙を見て指さした。ゆりも立ち止まってみると、空からするすると半透明の蛇が近づいてくる。どうやら蛇霊神の
ようだった。蛇霊神はゆりの体の周りをぐるぐる取り囲んだ。緑っぽい色の蛇だ。
「儀式があるのかな？」
とラギが聞いた。
「さあ、どうでもいいけどあんたの口から儀式なんて言葉聞きたくないんだけど・・・」
蛇霊神に引っ付かれるのも初めてではないのでゆりもそんなに動じていない。ゆりは幻の蛇の頭をなでた。全く感触は
ない。そんなにでかくはない蛇だった。蛇霊神としては小さな方だろう。全長２メートルにもならないくらいだ。
「あーあ、緑の蛇っていうとレイアスとディランのこと思い出しちゃうなあ・・・ちょっとしんみり」
「今回は儀式こっちでやるからそんなにいい蛇入れれないね」
「まあしょうがないんじゃない？でもこの蛇小さいけど結構綺麗だよ。」
過去の世界のように鮮やかな色の蛇ではないのだが、こっちの世界では綺麗な方だ。
「蛇霊神ってさあ、王妃が孕むたびに体に入ってるんでしょ？一体どれだけいるのかな？」
ゆりは初めて疑問に思った。よくいなくならないものだと思ったのだ。
「王が亡くなると蛇霊神は王から離れて飛んでいくらしいよ。だから蛇霊神不足になることはないんじゃない？」
「え、そうなんだ・・・」
「僕一回の儀式で何色の蛇が何匹入ったとか、統計取りたいんだけど」
ラギが真面目な顔で言い出してゆりは「やめてよ」といった。儀式の統計なんて恥ずかしくて冗談じゃない。
２人が裏口から城の中に入ろうとした時、庭園の方に戦士が２人やってくるのが見えた。
「あ、今日はシャナーンがお守りだったんだ」
その１人がシャナーンで、もう一人の戦士がロイをダッコしていた。ロイだけ素っ裸だ。
「あ、王妃・・・」
シャナーンらはゆりの体にまとわりついている幻の蛇にぎょっとしたが、ゆりはシャナーンの横にいる水色っぽい髪の男に
ぎょっとしていた。
なんだあの美男子様は・・・・
横にいたのは見たこともない長髪の若い男だった。男らしいというよりは中性的な美しい顔つきの男だ。
「あの人だれ？」
ゆりはラギに聞いた。
「エルバートだよ。」
「エルバート？聞いた事ないな・・・」
ぶつぶつ言ってると二人が近づいてきた。
「はじめまして王妃様、エルバートと申します」
エルバートはロイをだっこしたままゆりに笑顔をむけた。
「はじめまして・・・」
まー超美男子じゃない。まだこんな美男子が隠れていたなんて・・・神様級の美男子だわ♪
銀色がかった水色の髪に瞳も綺麗な水色だった。戦士服も水色系だ。暑い日にはうってつけの涼しげな男だ。
まつげも長く、見るからに穏やかそうな気質の優しそうな男だった。
ゆりがあからさまにぼんやりしていたのでエルバートの横にいたシャナーンの顔がちょっと沈んできた。
ラギがちょっとゆりをひじでこづいた。
「あの、それはどうなさったんですか？」
エルバートがゆりの体に巻きついている幻の蛇を見つめて聞いた。
「これ？ちょっと気に入られちゃって。たまに蛇霊神に気に入られるの」
「そうなんですか・・・」
ラギがもう一回こづいた。
「何よもううるさいわね」
ゆりはラギに言いつつシャナーンの顔を見てはっとした。
「それでは私はロイ様を部屋に連れて行きますので、失礼します」
エルバートはそう言って消えた。
「シャナーン・・あの・・・」
「王妃・・・エルバートの事気に入ってしまったんですか？」
シャナーンがしょんぼりした顔で聞いてきた。
「え？やだ、シャナーンったら、そんなことないよ。気に入るも気に入らないも・・・ちょっと話しただけだし」
ゆりは笑いながらいった。
「でもなんだか目が輝いてました」
「初めて見た顔であんまりかわいかったんでびっくりして・・・別にそれだけよ」
「本当ですか？」
「うん。シャナーンの方が好きに決まってるでしょ」
ゆりはそういいつつ、蛇くっつけたまま息子の前で一体何を言ってるのだろうと思ってしまった。
「でもあの人初めて見る人だったなあ。大人なんでしょ？力ある人？」
「結構あるほうですよ」
シャナーンがいった。
「それならなんで会ったことないんだろう？？？」
まさかミカエルがあわせなかったという所までは気づいてないゆりだった。
「やっぱり彼に興味があるんです？」
シャナーンがすぐ突っ込んできた。
「やあねえ、シャナーンったら、そうじゃないよ。王妃様として一族の戦士の顔と名前は把握しておかなきゃと思った
だけだよ。」
「ならいいんですが・・・」
「母さんはいい男に弱いからね」
ラギが横でぼそっといい、ゆりがぎょっとした。
「ちょっと、何言い出すのよ！」
「だって本当のことだもーん。それじゃね。シャナーン」
ラギはさっさと城の中に入ってしまった。
「王妃・・・」
再びシャナーンが切なそうな目でゆりを見た。
「シャナーン大丈夫だよ。私見境なく誰でも恋人にしたりしないからね。部屋でお茶しましょ」
「はい」
ゆりはシャナーンに部屋まで連れて行ってもらったのだった。
ラギがロイの部屋に行くと、まだエルバートがいた。
「初めて母さんを見た感想はどう？」
ラギがニコニコ顔のエルバートに聞いてみた。
「優しそうな方ですね。それに楽しそうな方ですね」
初めて会って蛇霊神がくっついていれば、それはそう思うかもしれない。エルバートとしては、ようやくゆりの顔がまじ
かで見れて満足だった。
服を着たロイがとことこ部屋を出て行こうとしたのでエルバートが捕まえた。
「ロイ様、これからお部屋でお勉強ですよ」
エルバートは優しくいった。
「やだ。やだ！まだ遊ぶ」
「だめですよ。一杯遊んだじゃないですか。これからお勉強」
「やだ！」
「おしりぺんぺんしちゃいますよ？」
エルバートが笑顔でいい、ロイがぎょっとしてエルバートを見た。エルバートはニコニコ笑っている。
「・・・・ちょっとだけお勉強する」
「えらいですね。それでこそ王子様ですよ」
エルバートはそのままロイを机と椅子の方に連れて行った。実はエルバートはフリットにロイの教育法についてちょっ
と指南されただけで実際におしりぺんぺんなんてする気はなかったのだが、ロイはエルバートにフリットと同じ匂いを
感じたようだった。
ラギはおとなしくなったロイに苦笑しつつ部屋を出て行った。
一方部屋に連れてきてもらったゆりはシャナーンと並んでお茶を飲んでいた。
「心配だったんです。エルを見たら王妃が私より気に入ってしまうんじゃないかと思って・・・」
とシャナーンが告白しだした。
「そんなことないよ。シャナーンより気に入るなんてことないよ」
「本当ですか？」
「うん」
「王妃・・・」
シャナーンはゆりの手を握り締めた。２人で見つめ合いいい雰囲気になっていたのだが、突然シャナーンが
「ぷぷっ」と笑い出した。
「す、すいません、王妃・・・ぷっ・・・」
シャナーンは必死に笑いをこらえていたが堪えきれないようだ。
「ん？」
シャナーンの視線の先を見ると、蛇霊神の頭が自分の頭の上にちょんと乗っていたのだった。
「あ・・・」
上を見ると蛇と目が合った。
「もーいい加減どっかいきなさいよ」
蛇は嫌だとばかりにゆりの首に巻きついた。
「王妃が好きなんですねえ。ふふふ」
「あんまりうれしくないけど」
「私はこういう楽しい王妃が大好きです」
シャナーンは涙目ながらも笑顔でいった。
「ありがとう、あ、ちょっとあんた！どこ入ろうとしてんのよ！」
蛇霊神の頭がゆりの胸元から中に入っていき、ゆりはあわてて引っこ抜こうとした。だが蛇霊神は所詮幻の蛇なので
つかむ事ができない。
「エッチな蛇ね！ちょっと出なさいってば！」
ゆりは立ち上がり身体をもぞもぞ動かしながら叫んでいたが、蛇はそ知らぬ顔で胸からお腹の方に入っている。
「ちょっともー」
「くっくっくっ」
シャナーンは大受けで笑っていた。
夕食の時間、ゆりを見た子供達はみんな笑い出した。
ゆり１人渋い顔をしている。
「どーしたの。それ」
「おっかしい！」
蛇霊神はゆりの頭の上に頭どころかとぐろを巻いて乗っていたのだった。どうやらそこが気に入ったようだ。
はたから見ると蛇の大きな帽子をかぶっている感じだ。
幻の蛇なので重いことはないのだが、ゆりとしては不本意この上ない。
「まー蛇が乗ってるよ」
とナナミが指摘した。
「知ってるよ。離れないんだよ。ずっと」
ゆりはほっておいてご飯を食べている。その間ずっと蛇は頭の上でじっとしていたので子供達は笑いっぱなしだった。
私は王妃様なのに・・・なんでみんなの笑いをとらなきゃならないんだ・・・
こうなったら淫気とやらで蛇をどっかいかすしかない。
ゆりはそう思い、夜ラクシュミが来るのを待っていた。寝室にやってきたラクシュミは、ゆりの頭の上を見てぎょっとし
、笑い出した。
「ははは、どーしたんだ。それ」
「頭の上から離れないの。ねえ、王様抱いてよー抱いてくれたらきっとどっか行くからさー」
ゆりは必死だったが、ラクシュミにはギャグとしか思えなかった。
「そういわれても・・・今のお前を抱くなんて・・・くっくっく」
ラクシュミも顔に手をあてて笑っている。
「王様までひどい」
「笑えてしょうがない」
「ぶー」
ゆりはふてくされて寝転んだ。すると頭の上にいた蛇は胸の上の方でとぐろを巻きだした。
「もーなんなのこの子は」
「ふふふ、まあ蛇に好かれるのはいいことだ。」
ラクシュミはこの夜は到底その気にはなれずにそのまま寝たのだった。
朝になり、蛇霊神はどこにもいなかったのでゆりはほっと胸をなでおろした。寝てる内にどっか行ったようだ。
朝食の時間、ゆりの頭の上に蛇がいなかったので子供達は残念がった。
「面白かったのになー」
とロイ。
「冗談じゃないよ。ずっと頭の上に乗られてたまるもんですか」
そういいつつパンを食べていると、食堂にすっと緑色の蛇が入ってきた。
「げっ！まさか！」
その蛇霊神はゆりの方に近づいてくる。
「来ないで！来ないでー！」
ゆりはそのまま逃げて食堂を出て行った。
「がんばれ蛇ー」
ロイが声援を送り、子供達はまたゲラゲラ笑い出した。
ゆりはその後ハザークの塔にいた。こうなったらハザークといちゃいちゃして蛇を追っ払おうと思ったのだが。
「・・・どうしたんだそれ」
さすがのハザークもゆりの頭の上を見て目が点になっていた。蛇は再びゆりの頭の上にいた。
「昨日から頭の上乗って離れないの。ハザーク様、いちゃいちゃしようよ〜」
ゆりはかわいげに言ってハザークに近づいたが、ハザークは身をよじって笑い出してしまった。
「くっくっくっ・・・・くくく・・・ははは。ああ、こんなにおかしいのは５千年ぶりくらいかも」
「そりゃよかったですね」
ゆりは口を尖らせた。
「くくく・・・ふふふふ・・・」
「・・・・だめだこりゃ・・・」
ハザークも到底その気になりそうもなく、こうなったらしょうがないとミカエルやハインリヒに会ったものの、大笑い
されただけだった。何かしようにも蛇と目が合ってできないようだ。
こうなったら真面目なミルキダスに頼もう、そう思って呼んだものの、ミルキダスは笑いを堪えるのに必死で目に
涙さえ浮かべていた。
私の王妃様としての権威はどこに？？？
男達は誰もその気になってくれないので蛇はずっとゆりにまとわりつき、離れてもいつの間にやら帰ってくることを
繰り返していた。
それが５日も続いた夜、ついにゆりはラクシュミに言ったのだった。
「王様、このままじゃ私、お笑い王妃様として新聞にでものっちゃうよ。それでもいいわけ？」
「ああ、わかったわかった。」
ラクシュミはようやく笑いを堪えてゆりを抱き、ゆりが発した淫気に酔っ払った蛇はふらりふらりとゆりから離れて
行った。ようやく満足したようだ。
こうして蛇から解放されたゆりだったが、あくる朝廊下で出合ったハインリヒに残念そうに言われてしまった。
「あれ？蛇霊神いなくなったんですか？蛇かぶった王妃かわいかったのに・・・」
「ただ面白かっただけでしょ。」
ゆりがむっとしていった。
「かわいかったですよ。ふふ・・・・ふふふ・・・・」
ハインリヒは目を細めて笑っていた。
「・・・」
「ふふふ」
「あ、蛇がいない。せっかく可愛い王妃を見に来たのに」
そこにミカエルまでやってきた。
「いなくなったんだって」
「なんだ可愛かったのに・・・ふふふ」
ミカエルまで笑っている。
こいつら・・・いつか殴る・・・
出会う人皆に思い出し笑いをされて、しばらくはむっとし続けたゆりだった。
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