ほどなくして、ラクシュミから子供達に『儀式になりそうだからゆりの部屋に入らないように』という思念が
飛んだ。その時アナスターシャとシスは城の外にいて思念を受け取り、「赤ちゃんよかった。よかった。」
と喜んでいた。城の中にいたラギは双子の部屋に行ってみてぎょっとした。中にシャナーンがいたからだった。
「ごめん。ごめん。僕がナナミ見てるからシャナーンは儀式に行ってよ」
ラギは申し訳なさそうに言った。
「いいですよ。今日はもう出ないことにしましたから」
シャナーンは笑みを浮かべていった。
「だけど・・・」
「今日はナナミ様とずっといるって約束しましたからね」
「いっしょ、いっしょ」
とシャナーンの横に座っているナナミはうれしそうだった。
儀式はこれ一回きりというわけでもなく、自分１人が参加しなかったからといってどうなるわけでもない。
ナナミを悲しませてまで出る事もないだろうとシャナーンは思ったのだった。
「困ったナナミだなあ・・・」
「そんなことないですよ。ナナミ様はいい子ですよ」
「まあロイに比べればずっといい子だけどね」
「つづき読んで」
「はい」
シャナーンは絵本の続きを読み出した。熱心になって聴いてくれるナナミに、不思議と残念という気分も消えうせて
いたのだった。
第９話
ゆりの部屋のベッドの上では、綺麗さっぱりに身体を洗ったゆりとヴィラが口付けを交わしていた。
「ヴィラって顔の割りに優しいところが好き」
「それはどうも」
ヴィラは下半身に、ゆりは胸から下に白いタオルを巻いている。ヴィラの背中に回していたゆりの手がヴィラの
下半身の方に移動しだして、
「しょっぱなからそこはだめです」
とヴィラに再び手を背中に回されてしまった。
「ははーん。さては精力に自信がないんだ。最近減退してるもんね」
とゆりがにやりとしていった。
「儀式では復活するから大丈夫ですよ」
「ならいいじゃない」
「皆が来てからね」
「途中でだめだめにしちゃおうと思ったのに・・・」
「・・・」
好きって言ってそれはないだろう・・・そうヴィラは思った。
「ヴィラを心底参らせた事ないから参らせてみたいなあ・・・」
「はいはい。私は王妃のたくましさには日々参ってますよ」
「たくましさ？」
「丈夫すぎる肉体と精神力に参ってます」
「・・・」
それってほめ言葉かな？とゆりが思っていると、「ちょっと早かったかな？」と声がした。
ベッドの脇にイシュタールが立っていた。
「そんなことないよ。皆が来るまでたくましいイシュタールに抱きしめてもらおうっと」
ゆりはイシュタールにひっついた。イシュタールはゆりの腕を優しくなでている。
「今日は蛇紋ちゃんの初お目見えだね」
「出るようになったんですか？」
ヴィラが聞いた。
「うん。楽しみにしていてね」
すでにゆりは結構のりのりになっていた。すっかり儀式モードに入ってるようだ。
ヴィラはくすりと笑った。この変わり身の早さも面白すぎる。
男達が集まってきた。
「あれ？シャナーンは？」
ジュノーが皆の顔を見て聞いた。
「用事があって抜けられないようですよ。」
とヴィラが答えた。
ナナミにつかまっちゃったのかな。シャナーンには悪いことしちゃったなあ。今度埋め合わせしなきゃ。
ゆりはそう思いつつ皆に抱きついていた。どうも無意識の内に身体が動いてるようだ。
「皆の蛇が見たい。見せて。見せて」
ゆりが言うと男達が服を脱ぎだした。
「今日は王妃の蛇も見れるのかな？」
ハインリヒが聞いた。
「ふふふ、どうでしょう」
ゆりは男達と口付けを交し合った。
そうこうしている内にタオルを剥ぎ取られて肌がさらされている。
「王妃の肌はいつも綺麗ですね」
ミカエルが目を細めていった。
男達は欲望にたぎった瞳というよりは、皆微笑ましくゆりを見つめていた。
ああ、なんだかすっごい興奮してきた。
今まで思ったことなかったけど、私って儀式好きなのかも？
そんなことないと思ってたんだけどなあ・・・
ゆりは今更ながらに思っていた。
入っている女蛇のせいで興奮しているせいもあるだろうが、儀式になると、男達が何人いようが負けるもんかと燃えて
しまう。別に争う必要はないのだが、そういう気分になってしまうのだ。
困ったもんだ・・・・まあいいけど。
優しく肌をまさぐられていると、いい気分になってきた。
皆の顔を見ると優しい瞳で自分を見つめている。
一体これが何度目の儀式なのか、ゆりは自分でもよくわからないが、これだけ同じメンバーといちゃついていれば、
興奮しながらも妙な安心感がある。
あれよあれよという間に６人目の子供の儀式。ロイとナナミを孕んだ時には過去の世界へと飛ばされて、そこで過去の
男達と儀式をしたことをゆりは懐かしく思い出した。
「私皆のこと好きだよ」
ゆりは７人の顔を見ながら言った。
「我々もみんなあなたが好きですよ」
ミカエルが言った。
「よし、今日も皆をメロメロにしちゃうぞ」
ゆりは力を込めて宣言した。目はまじだ。
「燃えてきましたね・・・」
ヴィラが苦笑交じりに言った。
どうやらゆりの巫女魂に火がついたようだ。
「２人ずつで愛撫して」
ゆりは側にいたハインリヒとフリットの腕を引いた。
寝室には妙な熱気が立ち込めだしていた。
ゆりは愛撫されながらも男達と時間をかけてじっくり口付けを交わした。おそらくは男達も普段はこんなに女と
口付けを交わすこともないだろう。
「ああ、王妃の蛇が早く見たい」
ハインリヒがゆりの胸をまさぐりながらいった。
「まだ・・・見せてあげない・・・」
「我慢してるんですか？」
ゆりの気はほぼピンク色になり、体も熱を帯びているというのに、まだ肌に蛇紋は現れない。
「皆ともっと愛し合ってから。じゃあ次の人ね。ミルキダスとジュノー」
ハインリヒとフリットがゆりから離れた。
「王妃、好きです・・・」
「私も・・・」
ゆりは切なげに言う２人と口付けを交わした。
全員からの愛撫を受けている内に、ゆりのおなかから胸にかけて、一匹の蛇が浮かんできた。
「あっ！」
「金蛇じゃない！？」
男達はその蛇紋に釘付けだった。胴体がうねった蛇は、前の時よりも大きく、色んな色が綺麗に混じっていた。
その蛇は目を閉じている。
「美しい・・・」
誰かがうっとりしていった。
「宝石のようだ・・・」
「本当に・・・前に見た蛇紋に似てますね。我々の気の色なんでしょうか・・・」
金に赤に、青に紫に緑に黒。
綺麗に輝く蛇の鱗。
「ってことはこの黒は私の色なのかな？」
ハインリヒが言った。
皆がしげしげと見つめていると、
「あのーいつまで観察してるのかな？」
とゆりが皆の顔を見回して聞いた。蛇は薄くなってきている。
「そうですね。ではそろそろ儀式を再開しましょう」
ハインリヒがそう言ってゆりの肌の蛇をなでた。
穏やかな時間は過ぎて、互いの愛撫も激しいものへと変わっていった。
「ああ・・・・はあ・・・」
「うう・・・」
ゆりは愛撫されながらも手や口を使って男達に愛撫し、部屋には低いあえぎ声がもれていた。
「ああ・・・王妃・・・」
ゆりの肌の蛇は鮮やかに姿を現し、男達も変化していた。
「皆の蛇も素敵よ・・」
部屋の中にはゆりの淫気が立ちこめ、妖しい匂いで充満していた。
その匂いをかぐだけで、男達はくらくらとめまいすら覚え、体は勝手に興奮状態になってしまう。
こうなるとゆりに触れられずとも達してしまう者もいた。
赤みを帯びた白い肌に男達は夢中で触れている。
「ああ・・・・」
すでに３匹の蛇霊神が寝室の中に入り込み、宙をぐるぐる飛び回っていた。
快楽のさなかゆりの口から不思議な呪文のような言葉がもれ出した。すると、宙をうねるように飛んでいた蛇霊神達は
ゆりの体にまとわりつき、やがてゆりのおなかの中へと入っていったのだった。その間にも部屋の中に別の蛇霊神が
入ってきている。全部で５匹の蛇が入り、ゆりはそのまま目を閉じて寝転んでしまった。
男達はしばらく、快楽の余韻でぼんやりしていた。変化状態がとけて、普通の状態に戻り、ようやく
「腰くだけになった」とジュノーがいった。
「今回は一回で終わりなのかな？」
ミカエルがぽつりと聞いた。目はなんだかうつろだ。
「王妃の意識がないし終わりでしょうね。でも結構でかい蛇がきましたね。色も綺麗だったし・・・」
「そうだな・・・」
ミルキダスはいそいそとゆりの肌にタオルを巻いている。
今回やってきたのは５匹とも緑と青のまだらの蛇だった。
「それじゃあ王妃を連れて行く」
フリットとミルキダスがゆりを浴室へと連れて行き、残った一同は腰にタオルを巻いてまたぼんやりとしていた。
それぞれ一仕事終えたような疲れようだ。
「これだけは飽きることがないなあ・・・さすが王妃・・・」
ハインリヒは感心するようにつぶやいた。
「それにしても綺麗な蛇だった・・・」
「本当に・・・」
とイシュタール。
「王妃は期待を裏切らない所がいいですね」
精力を使い果たしたヴィラは疲れた顔ながらも笑っていった。
儀式が終わったのはまだ夕方だったが、綺麗になったゆりは王の寝室に運ばれて、ゆりはそのままぐっすり眠っていた。
夜中ラクシュミがやってきた時も。
だがラクシュミが横に寝転んでしばらくすると、ゆりの体がもぞもぞ移動してきてラクシュミの上に乗っかってきた。
たまに変な格好で寝たがるな。
最近はよく体の上に乗ってくるのでラクシュミもまたかと思っただけだった。体の上にべったりではなく、おなかだけを
くっつけるように斜めに乗ってきている。ただ、ラクシュミはハザークのように重いのを我慢する事はなく、ゆりの体を
いつも横によけていた。今夜も横によけようとゆりの腰をちょっと持ち上げた時、おなかの下からするりと一匹の小さ
な蛇がすり抜けてきてラクシュミは驚いた。その蛇はいろんな色が混じった鮮やかなゆりの蛇紋と同じ蛇だった。
「・・・」
ラクシュミが思わず無言でその蛇を見つめていると、蛇もラクシュミの方をじっと見た。瞳は金色だった。蛇はラクシュ
ミの胸の上で丸くなっていたが重みは全然なかった。
一体ゆりの蛇紋は毎回どうなってるんだ？？？
蛇はラクシュミの胸にすりすりと顔を寄せて、またゆりのおなかの方へと帰っていった。
不思議だ・・・・
その出来事があまりに不思議だったため、ラクシュミはその夜はゆりをおなかの上にのっけたままにしておいたのだった。
朝になり、ゆりが目覚めると、変な所にラクシュミの顔があった。
「うーん・・・ん？私なんで王様の上に乗ってるの？」
ゆりの髪はいつものように伸びまくっている。
「お前がいっつも勝手に乗ってくるんだ」
ラクシュミは起きていた。
「そうなの？横によければいいのに」
ゆりは身体を持ち上げてラクシュミの横に寝転んだ。
髪が伸びまくってる事で儀式をやったんだな、と実感した。
久々に肌もつるつるかな？
自分で頬をなでてみる。
「皆蛇見て喜んだだろ」
ラクシュミが言った。
「うん・・・まあ・・・」
ゆりはじーとラクシュミを見た。
「なんだ？」
まだじーと見ている。
「・・・服を脱いで上に来い」
「やった」
ゆりはいそいそと服を脱ぎだした。
「昨日一杯興奮したんだろうに、元気だな」
ラクシュミはちょっと呆れたようにいった。
「だって、やっぱり儀式の後は王様に抱かれたいんだもん」
「昨日報告に来たフリットはえらくげっそりしてたぞ」
「知らないもーん」
裸になったゆりはラクシュミに抱きついた。
朝からラクシュミといちゃいちゃしたゆりは上機嫌で食堂に向った。とりあえず長い髪は後ろで一つに結んである。
子供達は皆いたがナナミの横にシャナーンがいたので驚いた。
「あら、昨日も一緒に泊まったの？」
「はあ・・・」
とシャナーン。
「ナナミ、もういけません。今日はシャナーンは他のお仕事ですからね」
ゆりはさすがにまずいと思い、ナナミに言った。
「やだあ、今日もいっしょにいる！」
ナナミがむっとしている。
「だめよ。シャナーンは忙しいんだからね。また暇な時に遊んでもらいなさい」
「やだ、やだ！わーん！」
ナナミはまた泣き出してしまった。
「ナナミ様・・・」
シャナーンが困った顔をしている。
「シャナーン、今日はいいから。ごめんね」
「はい・・・」
「いっしょにいたいよう！」
「もうだめ。泣いたってだめよ。さあご飯食べましょ」
ゆりは席に座ってパンを手に取った。
「ナナミ、後でおにいちゃんが遊んであげるから」
シスが慰めるようにいった。
「シャナーンがいいよう！」
「どうしてだい？お兄ちゃんだってナナミと遊びたいんだよ」
「あいちてんだもん！」
「お兄ちゃんたちだってナナミのこと愛してるんだよ？」
「シャナーンがいいの！わーん！」
「困った子ねえ・・・」
とゆり。
どうして急にこんなにもシャナーンに執着しだしたのか、ゆりにも上の子供達にも謎だった。
ナナミは今までこんな風にわがままを言ったことはないのだが。
食事が終わり、シャナーンは泣いているナナミに後ろ髪を引かれているような顔で去って行った。
「ナナミ、結界抜けてシャナーンに会いに行ったらいけませんよ？そんなことしたらもうシャナーンはナナミに会いに
きてくれなくなりますからね」
ゆりはナナミに釘をさした。ナナミはぐすぐす泣いている。
「はいは？」
「はい・・・」
ナナミは悲しそうにいった。
その時ゆりの髪が引っ張られた。後ろを見ると、ロイが引っ張っている。
「マー、どしたの？この髪」
ロイは異様に長くなったゆりの髪を見て目を真ん丸くしていた。
「ん？これ？伸びたの。重いから切ってもらおうっと」
ゆりは食堂を出て行き、ロイはしばらく不思議そうに首をかしげていた。
「ナナミ、後で一緒にプリモと遊ぼうか」
アナスターシャが誘ってもナナミは頬を膨らませたままだった。どうやらいじけているようだ。
「じゃあ後でパパのところいこうよ」
とラギが言ってもだめだった。
「あれだけパパっ子だったのになあ」
「パパと結婚するって言ってたじゃない」
アナスターシャが言うと、「シャナーンがいんだもん」
そう言ってナナミは食堂からぱっと出て行ってしまった。
「心配だから僕今日はナナミといるよ」
シスが言った。
「真面目にシャナーンに会いに行ったら困るし」
「あ、それなら私が！」
アナスターシャが言うと、「姉さんは勉強さぼりたいだけでしょ」とラギに指摘されてしまい、アナスターシャは
苦い顔をして消えたのだった。
その日はシスがずっと側にいたせいで結界を抜けてシャナーンに会いに行くことはなかったナナミだったが、しばらく
しょんぼりしていた。夕方、仕事が終わったシャナーンが様子を見に来るとぱっと瞳を輝かせてシャナーンにくっつく
始末だ。
「なんだか寂しいなあ・・・大きくなってナナミに本当に恋人ができたらこんな心境になるのかなあ・・・」
シスは１人つぶやいた。
「今まではにーあそぼーって言ってたのに・・・一体どうしてこんなに気にいっちゃったんだろ？」
「それが私にもさっぱり分からないんですよ」
シャナーンがいった。
その夜、ゆりが夢の中で神の国に行き草原をぶらぶらしていると、クーリーフンが飛んできた。
「やあ、母さん」
「あらクーリーフン」
「可愛い恋人ができたでしょ」
クーリーフンはなんだか意味ありげに微笑んで聞いてきた。
「可愛い恋人？私恋人増えたっけ？」
ゆりは思わずガーベラに恋人が増えたと勘違いした。
「ちがうよ。向こうでだよ。」
「向こうで？ううん。増えてないよ」
「またあ・・・」
「増えてないよー」
クーリーフンはちょっと首をかしげた。
「空色の髪の可愛い男の子だよ？」
「空色の髪？」
ゆりの脳裏にいろんな男の顔が浮かんだ。
「まあいいや。それじゃねー」
クーリーフンはゆりから離れて飛んで行こうとした。
「ちょっと待った！どうして恋人増えたと思うのかな？」
ゆりはぱっとクーリーフンの腕を捕まえていった。
「んー？なんとなく」
クーリーフンは笑っている。
「なんかあやしいなあ」
ゆりは横目で見た。
「何もあやしくないよ」
クーリーフンはにっこり微笑んでいる。普通の女の子ならそれだけでぼんやりしてしまいそうだが、ゆりはすっかり
クーリーフンの顔に慣れていた。
「そんな天使のような顔で微笑んだってごまかせませんよ」
「え・・・」
「空色の髪の男って誰のこと？」
ゆりはちょっとひっかっかったのでしつこく聞いてみた。
「この前地上に降りた時、あなたに熱烈に恋してる男がいたからもう恋人になったかな？って思ったんだよ」
「えー？誰のことだろう？」
「さあ、名前は知らない」
ゆりが手を離したのでクーリーフンが飛んで行こうとしたが、またすぐにゆりはぱっと腕を捕まえて引き戻されてしま
った。
「あのう、僕行きたいんだけど・・・」
「そんな事言われたら気になるんじゃないの。まさかその男に何かしたとか？」
「何も」
「本当ー？クーリーフンって愛の神様なんでしょ？どういう力あるの？」
ゆりはそれについては全く知らなかった。
「僕は別に・・・ほとんど母さんの手伝いしてるくらいだし」
「本当に？ギリシャ神話のエロスは結構いたずら好きなんだよねー。クーリーフンは違うのかな？」
「？？？」
「嫌がらせに誰かに恋をさせちゃったりとか」
「嫌がらせって僕はそんな・・・」
「まあそれはともかく、私の小さい娘が突然ある男の子に愛してるとか言っちゃって困ってるんだあ。」
ゆりはため息交じりに言った。
「ふーん」
ゆりはナナミのことがクーリーフンの仕業だとはまだ気づいてなかった。
「ずっと一緒にいたがっちゃって。今まで全然そんなことなかったのに。そういえばその男の子も空色っぽい髪で可愛
いけど・・・」
「・・・・」
「確かあれはクーリーフンに会った日のことだったような・・・」
とゆりは思い出した。
「あれから愛してるって言いまくってるのよね」
「・・・ん？」
「クーリーフンは本当に関係ないよね？」
「・・・おや？」
クーリーフンは視線をさまよわせた。
次の日の朝、目覚めたゆりの右手にはピンクのバラのような花の茎が握られていた。
「よし！」
ゆりはベッドから降りて王の寝室を出て行き、双子の部屋へ向った。
小さめのベッドにはロイが１人で寝ていたが、その横の大きなベッドではシャナーンとナナミとラギが一緒に寝ていた。
ゆりが行くとシャナーンはすぐに目を覚ました。
「お、王妃・・・」
ゆりは寝間着姿だったので、シャナーンの頬がちょっと赤くなった。
「はい、これ、シャナーンからナナミに渡して」
ゆりはピンクの花を差し出した。
「え・・・」
「ナナミ、起きて、ナナミ」
ゆりはナナミを揺り動かした。
「もうあさ？」
「朝よ」
そういうとナナミはぱっちり目を覚ました。
「シャナーン、渡して」
「はい」
シャナーンはわけがわからないままナナミに「どうぞ」と言って花を渡した。
「わーいいにおい」
ナナミは花を受け取った。すると、ぱっと花は消えてしまった。
「あれ？」
ナナミはきょとんとしている。
「ナナミ、ナナミが一番好きな人ってだあれ？」
ゆりが聞くと、
「マーとパパ！」
とナナミが元気よく言った。
「どうやら元に戻ったみたい」
ラクシュミの親としての立場が全然ないが、今は無視だ。
「一体なんだったんですか？」
シャナーンは不思議そうだ。
「ちょっと神様にいたずらされちゃったみたい」
「はあ？？？」
クーリーフンに事情を聞いたゆりは、恋の花の効力を打ち消す花をもらってきたのだった。あのナナミの様子からして
恋の花をナナミがもらっちゃった事は明らかだった。
これでシャナーンを愛しちゃった記憶はすっかりナナミの中から消えてしまったようだ。
「お顔洗う」
ナナミはベッドから降りて寝室を出て行った。
「これで一件落着みたい。ごめんね。シャナーン迷惑かけちゃって」
ゆりはベッドに座っていった。
「いえ・・・いまだによくわからないですが・・・でもナナミ様といると、小さな王妃と一緒にいるような気になって
ちょっと楽しかったですよ」
シャナーンが微笑んで言った。
「シャナーンったら・・・」
２人は見つめあい、手を握り合った。
「今度のシャナーンの休みはいつ？儀式に参加できなかったから二人っきりで仲良くしましょ」
「いいんですよ。そんな」
「私がシャナーンといたいの」
「王妃・・・うれしいです・・・」
シャナーンはゆりの頬に軽くキスした。そして身体を寄せ合ってしばらくなにやら甘い事を言い合っていた。
参ったなあ・・・僕ずっと起きてるんだけど・・・
ベッドの奥の方にいたラギは、すっかり出るタイミングを逃してしまい、しばらく寝たフリをしていたのだった。
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