空には下弦の月が浮かんでいた。星々は川の流れのように密集してきらめいている。
城の横にある高い塔の一室には明かりが灯っていた。そこではラクシュミとハザークが向かい合って座り酒を飲んでいた。
部屋の小窓は開かれている。部屋の片隅の床のあたりから、白い小さな煙が上がっていた。床には緑色の物が置かれて
いる。いわゆる、蚊取り線香である。ラギと研究員達が作った物だった。今までは虫除けといえば窓際に植物から作った
虫が嫌いな液体を塗るといった事が一般的だったのだが、最近では蚊取り線香と併用されている。最初は実験にと
ラギに勝手に置いておかれて、ハザークや侍女達も匂いが嫌だったのだが、虫除けの効果が実感できたのでずっと使って
いるようだった。最近つくられた改良型は蚊取り線香らしくちゃんと渦を巻いているし、この国でよく出る虫に効果も
ちゃんとあった。街でも売られているようだ。
「久しぶりに昔馴染みにあった感想はどうだ？」
ラクシュミが聞いた。ゆりからエルバートの話を聞かされていたのだ。
「驚いた」
ハザークが一言いった。
「長生きしてると時に不思議なことが起こる。最近はよく起こってるが・・・」
「うれしかったか？」
「さあ、小さい頃の自分を知ってる者ってのはなあ・・・」
「お前よりも前に産まれた蛇なのか。」
「ああ、だいぶ前だろう。確か。」
よくは知らなかったが自分が子供の時、男の方はもうかなりの年だったような記憶がハザークにはあった。
「この時代を見てびっくりしたろうな」
「さあな、所で王、あの水色の蛇の男をあんまり王妃に合わせるんじゃないぞ」
ハザークは突然話題を変えた。
「水色の蛇？エルバートのことか？なんでだ？」
ラクシュミが瞬いて聞いた。
「王妃の事だ、カールと仲良くなりかねないじゃないか。」
ハザークの中ではカーライルはすっかりカールになっていた。
「ゆりはなにやらひどいことを言われたと言ってたぞ？」
「王妃は面白い女だからひょんなことから興味を持ちかねない」
「そういえばお前も前はゆりのことをいろいろ言ってたな・・・」
ラクシュミは昔の事を思い出していた。
「かなりひどいことも言ってたような気がするが・・・」
「そうだったか？さっぱり覚えてないが・・」
ハザークは真顔で言っていた。
「女達からエルバートをなんとかしてくれと苦情があってなあ・・・ゆりに刺激してもらえば赤い月に反応するように
なるかと思ったんだが・・・」
「別に王妃じゃなくてもいいだろう。女はたくさんいるだろ。」
「なんだ嫉妬してるのか？」
ラクシュミがそう聞くと、
「我が？嫉妬？ばからしい」
とハザークはさも心外という顔をした。
「どう見ても嫉妬だぞ？」
ラクシュミは面白そうに言っている。
「・・・・男はともかく、王妃が他の蛇と仲良くなるのはちょっと面白くない」
「ちょっとか」
「ちょっとだ・・・」
ハザークの珍しい所が見れてラクシュミは楽しそうだった。
「普通は夫の方が嫉妬とかするもんじゃないのか？」
ハザークが面白くなさそうに聞いた。
「してるぞ。赤い月にはな。普段から嫉妬なんてしてたら儀式のたびに身がもたないぞ」
ラクシュミが尤もなことをいった。
「それにしてもハザークが一般論を口にするとはな・・・」
ラクシュミは思わずくっと笑い、ハザークに「悪いのか？」と聞かれてまた笑ったのだった。
第２０話
11の月も半ばを過ぎていた。この日は曇り空、雨が降りそうで降らないといった天気で湿度が高かった。
蛇目のゆりはナナミの後を追って結界の中をあちこち瞬間移動で飛んでいた。２人でオニごっこをして遊んでいたのだ。
「はい、捕まえたー」
「あーん」
ナナミは図書室の棚の上でかがんでいた。ゆりは宙を飛んでそのナナミを抱きしめて下に下りた。
「マー眠くなっちゃった」
ナナミは目をぱちぱちしていた。
「そう、じゃあお部屋でお昼寝したら？」
「うん。じゃあねー」
ナナミは１人で消えた。消えた方向は自分の部屋ではなく横の塔だったのでハザークのところに行ったようだ。あいかわ
らず一緒に寝るのが好きらしい。
「あー、何か楽しいことないかなー」
ゆりはぱっと移動して王の間の前に飛んだ。するとちょうど中からロナウド将軍が出てきた所だった。緑の短髪の体格の
いい男でイシュタールの親戚である。
「こんにちは、ロナウド将軍」
「おや、こんにちは王妃。体調はいかがですか？」
ロナウドは微笑んでゆりに聞いた。
「ばっちりいいよー。所で将軍と久々にデートしたいなー」
ゆりはちょっと甘えるようにねだってみた。
「ははは、最近王はぴりぴりしてらっしゃいますからね。お外はだめですよ。」
ロナウドがたしなめるようにいった。
「ちぇ。私は逃げ足速いのになー」
ゆりは頭の後ろで両手を組み、口を尖らせた。最近ではこちらのゆりも外に行かせてもらえない。念には念を入れてと
いう事らしい。なまじ瞬間移動できる力があるだけに外に出たくてしょうがないのだ。今の所おなかの中の赤ちゃんから
お外要求はないのは幸いだった。
「王も王妃を愛するがゆえ、ですからね。もうしばらくは」
「はーい。ところで、久しぶりに将軍の背中の蛇がーみ」
途中で左耳を引っ張られてゆりの身体が横にずれた。
「痛いじゃない。何するのよ」
引っ張ったのはヴィラだった。いつの間にやら横にいる。
「何言おうとしてるんですか」
ヴィラは横目で見ていた。
「久々に将軍のすごい蛇がみたいなーと思って・・・・」
「見なくていいですよ。今日は私の気もらう日ですよ。ほら行きましょう」
ヴィラに手を引っ張られて、ゆりは「あーん」と言って連れて行かれた。ロナウドはぽかんとしている。
「あなたってばまだ将軍にちょっかい出してるんですか？」
部屋に入るとさらに冷ややかにヴィラに聞かれた。
「いいじゃないよーザメハからはどんどん手出してくれって言われてるし」
「・・・ザメハ様・・・」
ヴィラは頭を抱えた。
「あーあ、久しぶりに将軍のすごい蛇がみたかったのになあ・・・ヴィラの蛇見てもつまんないし・・・」
「すいませんねえ。つまんない蛇で」
「蛇がつまんないんじゃなくて何回も見てるから今更あえて見るまでもないってことよ」
ロナウドの背中にある蛇は背中一面にうねっていてかなり見事な蛇だった。４人の将軍達の蛇は力が強いだけあって
この時代の男達の中では色も濃くどれも見事だ。
「久々にドルイドの蛇が見たくなったなあ・・・」
肌の蛇といえばやはり過去の男達の蛇は強烈にすごかった、とゆりは思い出していた。
「元気かなあ。子供の１人もできたかなあ・・・」
ゆりはぼんやり宙を見ている。
「気いらないなら帰りますよ」
「分かったよう。あっちに変わるよう。ドルイドはいい男だったなあ。優しくって・・・仲良くなってからは騎士らしく
て優雅だったし」
「はいはい」
ゆりは嫌味のようにぶつぶついいながら長椅子の方に行った。その時、
「王妃！」
ヴィラが驚いたような声をあげてゆりは振り向いた。ヴィラが見ていたのは部屋の角に置かれていた姿を映す大きな
長細い鏡だった。
「何？」
「鏡に何か映ってますよ」
「え？」
２人は鏡に近づいた。そしてゆりは「えっ！」と声をあげて鏡に顔を近づけた。鏡の中に黒髪の男が歩いているのが
見える。場所は城の中の廊下らしい。床も周りも綺麗でピカピカだった。
「ド・・・ドドドドルイド！？」
それは紛れもないドルイドだった。ドルイドは他の騎士と会話をしながら歩いていた。以前会った時よりも少し髪が
伸びているようだ。肩に軽くかかる程度だった髪が、胸の上あたりまである。
「へーこの男がドルイドですか」
ヴィラは驚いていたがわりと冷静な口調だった。
「・・・・なんで？なんで鏡にドルイド映ってるの？」
ヴィラと違い、ゆりの声は驚きすぎて裏返っていた。
「さあ、私に聞かれましても・・・それにしても派手ですねーその横の人は」
ドルイドの服やマントは黒と紺系統の色でまとめられているのでさほど派手でもないが、その横にいる騎士はかなり
ど派手で化粧も派手だった。知らない騎士だ。
「そっちのはどうでもいいわよ。ドルイド！おーいドルイド！」
ゆりは鏡に手をあてて呼んでみたがドルイドは反応しなかった。一方的にこちらが見てるだけらしい。すると映像は
ぼんやりして消え、鏡には代わりにゆりとヴィラの姿が映っていた。
「・・・今の・・・何？」
ゆりは目を見開いたままヴィラを見た。
「ですから私に聞かれましても・・・」
「愛の力ってわけはないよね。今まで全然こんな事なかったし・・・」
「お腹の御子様の力ですかねえ？」
それしか考えようがなかった。
「えー？子供の力？？？？」
「まさか過去に移動する事もできなかったので、せめて映像だけ見せてくれた、とか？」
ヴィラの言葉にゆりは笑って「まさかあ」と言った。
「お腹の子供にそんな力があるなんて・・・」
「アナスターシャ様の時の死んだふりも強烈でしたよ？」
「じゃあ望んだらまた出るかな」
「王妃、もし万が一過去に行っちゃったらどうするんです。やめてください」
「でもう・・・」
「危険ですよ」
「わかったよう・・」
ゆりはとりあえずやめた。一方的にこちらが見えるだけってのもむなしい。
「ドルイドますますいい男になってたなあ・・」
「今日は帰りますよ」
気がそがれたヴィラは部屋を出て行ってしまった。
蛇目のゆりは長椅子に寝っころがり、変わって黒目のゆりが起き上がった。
「うーん・・・なんか身体がだるい感じ・・・」
ぼんやりしていたら扉がノックされて侍女が入ってきた。
「王妃様、ヴィラ様が急用ができたので今日の予定は取り止めにしたいそうです」
侍女はゆりに告げた。帰り際ヴィラは侍女に言っておいたようだ。
「そうなの。でもなんだか気が欲しいなあ・・・誰かいるかな？」
「調べて参りましょう。お待ちください」
侍女はお辞儀をして出て行った。
しばらくしてジュノーが部屋に入ってきた。
「こんにちは。王妃」
「こんにちはーヴィラが急用だって、ジュノー気もらっていい？」
「いいですよ」
ジュノーは優しく微笑んでゆりの横に座った。ゆりが引っ付くと、ジュノーからお酒の匂いがした。
「お酒飲んでたの？」
「はい、休憩時間にちょっと」
「ちょっと？」
「５本ほど・・・」
ジュノーがにっと笑って言った。ゆりにすればちょっとではないがこの一族では酒の５本や１０本飲んだくらいで
酔う者は少ない。
「うーん・・・」
「匂いが嫌ですか？」
ゆりがうなったのでジュノーはおや？と思い聞いた。
「ううん。いい匂い」
ゆりは両手でジュノーの頬を挟んで顔を自分の方に向けさせて、ぶちゅっと口付けた。ジュノーはなすがまま目を
瞬いている。
「ん？どうしたの？ジュノー」
ゆりははっとすぐ目の前にあるジュノーの顔を見て奇妙な顔をした。
「どうしたもこうしたも、王妃が顔捕まえてるんです」
「え？あら、本当だ」
ゆりは両手を離した。
「どうかしたんですか？」
「別にどうも・・・酒っていえば・・・10530年もののネパロっていうお酒が最高傑作でさ、おいしかったのよねー
ネパロ今ある？」
ゆりは真面目な顔で聞いた。
「・・・・いえ・・・」
「ないのか。じゃあさ、ローザ111は？」
「それもないですね。あの、王妃・・・」
「これもないのか。じゃあさ」
「王妃、だれか降りちゃってないですか？」
ゆりがお酒に詳しいという話はジュノーは聞いた事がなかった。
「・・・やっぱり降りちゃった？」
ゆり自身ちょっとおかしいと思ったようだ。
「降りてますね。やっぱり」
「・・・さくっと儀式やっちゃう？」
「待ってました」
ジュノーは大喜びで言った。
蛇よりも今は気が欲しいってのになんてこった・・・こうなったら儀式の男達からもらおう。
「ゆりが酒飲み儀式を開くらしいぞ」
ジュノーから報告を受けたラクシュミは、たまたま王の間に来ていたミカエルに告げた。
「え？本当ですか？やった！」
ミカエルの瞳が輝いた。
「じゃあ失礼します」
「こらこら、仕事の報告に来たんじゃないのか？」
「儀式が終わってからで」
ミカエルはすぐに消えてしまった。
「やれやれ・・・」
ミカエルが体を洗ってゆりの寝室に行くと、ベッドの上で白いローブに身を包んだゆりとジュノーがいた。ジュノーの
ローブは白というよりも所々紫色に変わっていた。ジュノーの口には酒瓶が逆さになって突っ込まれている。
ゆりがミカエルを見た瞬間、ジュノーは酒瓶を外してぶへっとむせた。
「あー助かった。全く王妃ってばずっと飲ますんだから」
ジュノーは口からこぼれる酒を手でぬぐいつつぜいぜい言っていた。
ベッドの下にはすでに3本もの空瓶が転がっている。
「いやーつい・・・」
「皆が来るまでにいい事したかったのになあ・・・ぶつぶつ」
「ミカエルカモーン♪」
ゆりは新たな酒瓶のコルクを外しつつ言った。ジュノーはさっさと逃げている。
「かもーんってなんです？」
「いいからこっち来なさいって」
ミカエルがゆりに近づくと、ゆりはミカエルの口に酒瓶を突っ込んだ。
「うぐ・・・」
「ジュノーお酒のコルク抜いといて」
「はいはい」
ジュノーはベッドの下にある新しいお酒のコルクを栓抜きで外しだした。とりあえず20本もってきてもらったのだ。
みるみる内にお酒はミカエルの口に注ぎ込まれていき、一本空になった。
「さすがミカエル、いい飲みっぷり♪」
「王妃、どうせなら口移しで飲ませてくださいよー」
ミカエルが抗議の声をあげた。
「えー」
「えーじゃないですよ」
「だってまだみんな集まらないしさ」
「じゃあ集まってから飲みましょうよ」
「飲ませたいのにー」
「今日は変な気分なんですね」
ジュノーがぼそりと言った。
しばらくすると他の男達も集まってきて、次々と酒も運ばれてきた。
「今日は誰が一番飲むかな？」
ゆりは積まれたお酒を見ながら目を輝かせている。最後にヴィラがやってきた。
「あれ？今日は用事があるんじゃなかったの？無理にこなくてもいいのに」
とゆりはヴィラを見て言った。
「これ以上に重要な用事なんてないですよ」
とヴィラ。
「そろそろ始めましょうよ」
ハインリヒがせかすようにいい、ゆりはミカエルの服を引っ張った。
「紫の蛇ちゃん、見せてー」
「はいはい」
ミカエルが服を脱ぎだした。
「今日の王妃はご機嫌ですね」
フリットがるんるんのゆりに微笑んだ。
「ご機嫌の王妃かわいい」
とシャナーン。ミルキダスは脱ぎ捨てられたミカエルの服をたたんで横においていた。
ジュノーとイシュタールはお酒の瓶のコルクを次々と外している。
「んー」
ゆりはミカエルに抱きついて口付けた。その反動で２人はベッドに倒れた。
何度もゆりにキスされて喜んでいたミカエルだったが、やがておや？と思いだした。
「王妃・・・もしかして気奪ってません？」
「もしかしなくても奪ってるよ」
とゆりはミカエルの上で言った。
「実は気もほしくって。みんなからちょっとずつもらっちゃおうかなって」
「まあいいですけど。」
ゆりが横に手を出して、ジュノーは酒瓶を渡した。
「それじゃあ儀式の始まり〜♪」
ゆりは酒を口に含んでミカエルに口付けた。
夕闇が迫る頃、城の東の庭園にエルバートがいた。だがその冷ややかな顔つきからいって、エルバートの中のカーライル
が表に出ているようだ。
「いまだにあの男との約束を守っているとは・・・律儀というかなんというか・・・」
カーライルは城の方を眺めつつつぶやいた。城のある一室に女蛇の霊が降りてきているのを察知していたのだった。
「案外自分が楽しみたいだけかもな。巫女の女は誰だろう・・・」
カーライルが横を向くと、そこに小さな子供がいた。黒髪で金色の瞳の女の子、ナナミだった。お昼寝から目覚めて
でてきたのだ。
「エルーあそぼ」
ナナミはカーライルを見上げて言った。
「幼女と遊ぶ趣味はないのだが・・・」
「？？？」
ナナミは首をかしげている。
「遊んでくれないの？」
「ほら」
カーライルは左手を出した。ナナミが手をのぞくと、手の上ににょろんと水色の小さい蛇が乗っていた。その蛇は
ぴょんと飛び跳ねてナナミの身体の周りをぐるぐる回り始めた。
「わっきゃは！きゃははは！」
ナナミはぐるぐる回る蛇を目で追いながら喜んでいる。
しばらくすると蛇は消えてしまい、カーライルの姿もいつの間にか消えていた。
ゆりの寝室では、３時間ほどしか経ってはいなかったのに、男達は皆だるそうにうなだれていた。
一通り皆といちゃいちゃした所だったが、それにしても男達が消耗するのが早すぎる。ゆり１人元気だ。
「どうしたの？もう皆年なの？まだ下にもそんなに触ってないのに」
ゆりが不思議そうに聞いた。
「何言ってるんです。王妃がひっついた拍子に気を奪うからですよ」
ハインリヒが横目で睨んで言った。ベッドの上にはお酒のしみがあちこちにできているし男達の肌からも酒の匂いが
していた。
「え？ちょっとずつしかもらってないと思ったけど・・・」
「ちょっと？これがちょっと？」
だるそうにしていたヴィラが言った。明らかにちょっとではない。全員３分の２以上は奪われているかもしれない。
「まあまあ、王妃、こんなに気が欲しいとは・・・言ってくださればよかったのに・・」
とフリット。
「いいんですよ。もっと奪ってください」
シャナーンだけはうれしそうな顔をしていた。
「おかしいな。なんでこんなに気もらっちゃったのかな？？？」
ゆりは首をかしげている。思いのほか気を欲していたようでゆり自身驚いていた。体調はそんなに悪くなかったのだが。
「皆大丈夫？」
「王妃の方こそ大丈夫ですか？」
イシュタールが心配して聞いた。
「私は平気だけど、儀式もうやめる？」
「やめません！」
とミカエル。
「もうあんまり気奪わないでくださいねー王妃」
ジュノーが訴えるように言い、「うん多分」とゆりはうなずいた。
もしかして・・・昼間鏡に過去の男を映したことと関係しているのかな？
そうヴィラは感じた。ゆりが気づかない内に、赤ん坊はかなりの力を消耗してしまったのかもしれない。
「それじゃみんなどしどしお酒飲んでね」
ゆりは横にいたシャナーンの腕を引いた。
「王妃愛してます」
「私もシャナーンが大好き」
ゆりはシャナーンに抱きついた。
互いの愛撫は濃厚なものへと変わっていき、やがて男達はだるいながらも変化していった。
ゆりの淫気も最高潮に達して、ゆりの口から謎の呪文が飛び出した。
部屋の中に７匹の蛇霊神が入ってきてそれらは全てゆりの中へと入っていった。
「ちょっと、いやかなり物足りないなあ・・・まあ次に期待かな」
ゆりはそういい残して横になり、そのまま意識を失った。
「・・・・あれからさらに気取られたような・・・」
普通に戻ったハインリヒがふらふらになりながら言い、そのまま横になった。
「気のせいじゃないです。うーん」
頭を揺らしていたジュノーもばたりと倒れた。酒もかなり飲んでいたが、精力だけではなく、かなり気力も消耗してい
た。酒に酔ったのか気を取られすぎたのか自分らでもよくわかっていないようだ。
ミカエルとヴィラ、ミルキダス、フリット、シャナーンはすでにベッドの上と下で倒れている。
「・・・だめだ・・・移動する元気もない」
イシュタールはそういいつつ横になり目を閉じた。こうしてゆりも男達も寝室でそのまま意識を失ってしまったの
だった。
ゆりの肌からにょろんと一匹のメス蛇が這い出してきた。その蛇は蛇紋と同じいろんな色の鮮やかな蛇だった。
蛇はゆりの身体からちょっと離れて周りを見たが、皆寝ていたのでつまんなそうにゆりの元に帰って行ったのだった。
ラクシュミはもう仕事を終えて別室で酒を飲んでいたのだが、夜中を過ぎ、日付が変わっても儀式の報告はなかった。
それにしても遅いな。まだ盛り上がってるのか？
そう思ったが聞くのも野暮だしまさかのぞきに行くわけにも行かない。
まあいい、先に寝よう。
ラクシュミは寝室で寝ることにした。
早朝、儀式の後の寝室の掃除をしようとやってきた二人の侍女が、中の裸の男達を見てぎょっと驚いた。
てっきり誰もいないと思っていたのだ。２人はあわてて背中を向けて目を見合わせた。
「ど・・・どうする？」
「どうしましょう・・・まさか死んでないわよね？」
「それはないでしょう。王妃だけでも運ばなければ」
「そうね。そうしましょう」
２人の侍女達がローブでゆりの体を覆い、そっと運んで行った。だが、その間にもちらちらと男達の方を眺めている。
タオルで身体の一部が隠れている者もいれば、全くの裸で寝ている者もいた。
「さすがハインリヒ様、いい身体してるわねー素敵」
「筋肉はイシュタール様の方がすごいけど・・・」
「あら、フリット様って意外に・・・うふふ」
「シャナーン様のおしり、かわゆい」
２人は小声でぼそぼそいいつつゆりを連れて行った。顔はちょっとにやけているし、頬も赤く染まっている。
侍女らにばっちり体を見られたことも知らない男達は、その後ラクシュミが来るまで寝室で伸びていたのだった。
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