７色の蝶に誘われて森に入っていくと、子供達が何かを探していた
聞くと、５色の蛇を探しているらしい。
懐かしい。
私も子供の頃、願い事がかなうという５色の蛇をよく探したものだった。
一緒に探そうよ。そう誘われて、私も共に蛇を探すことにした。
１人が歓声をあげた。そして次にため息。
５色の蛇が見つかったのかと思ったが、どうやら一色足りなかったようだ。
気づくと夕暮れ時だった。とうとう５色の蛇は見つからなかった。
だが子供達はがっかりする様子もない。
また探そうね。そう言って子供達は笑顔で去って行った。
第２４話
12の月の10日、梅雨はまだ続いていた。今日はしとしとと小雨が降り続いている。アナスターシャ、シス、ラギの３人は
城の中の一室でハインリヒといた。今日は古代叙事詩の授業の日なのだ。城での大勢の授業は今は行われておらず、
子供達はたまにハインリヒに教わっている。
「七色の蝶だの５色の蛇だの、ハインリヒは見たことあるの？」
アナスターシャが詩が書かれた本を見ながら聞いた。
「七色の蝶はたまに飛んでましたよ。５色の蛇は探しても見つからなかったですねー。今はしてないんですかね。蛇
探し」
「蛇探し？」
ハインリヒの言葉に３人が聞いた。
「５色の蛇を探す蛇探しですよ。私も２０代の頃よく友人らとしましたよ。５色の蛇を見つけたら願いがかなう、とい
う話はその頃もありましてね、日が暮れるまで探してましたよ」
ハインリヒが懐かしそうに言った。
「へー楽しそうだね」
とシス。
「楽しいかなあ。蛇探すのが」
アナスターシャが言った。
「７色の蝶って７色アゲハのことだよね」
シスが聞いた。
「そうですよ」
「７色アゲハはどうもこの大陸にはもういないようなんだよね。西の聖地の方にいるらしいけど」
「そうなんですか」
「５色の蛇って色んな色が混じった蛇のこと？探したらそこらにいそうだけどなあ」
「いえ、綺麗に頭から尻尾まで５色に分かれている蛇のことらしいですよ。」
「それは確かに見たことないなあ」
ラギがいい、シスも「そりゃ珍しいね」と言った。
「蛇探して何が楽しいのかよくわからないなあ・・・」
アナスターシャはまだぶつぶつ言っている。
「そうかなあ。楽しそうだけど。僕もいるなら探したいよ。5色の蛇」
珍しい物好きなラギは当然そう思った。
「僕も」
シスが同意して、「わからないなあ・・・」とアナスターシャは首をひねったのだった。
わざわざ古代叙事詩にするような内容なのかなあ？
詩の中には恋愛や風景を愛でるものもあれば、子供達が遊ぶ微笑ましいものもあった。内容は様々だ。
「小さい子供らが森の中をうろうろ遊べるほど昔は平和だったってことだよ」
ラギがアナスターシャに言った。
「そうですね。今の時代では、大人が付き添わないと危険ですからね」
「うーん」
「蛇探しか・・・小さい頃ディランと探したんだったなあ・・・」
「ちなみにハインリヒの願いって何だったの？」
シスが聞いてみた。
「あの頃は強くなりたいとかそんなものでしたよ」
「なら蛇見つけなくてもかなったね。」
「そうだね。ハインリヒは一番だったんだもんね」
ラギとシスが言った。
「一番でい続けるというのは大変なんですよ。気を抜けば抜かれてしまいますからね。本当は５番くらいが気楽で
いいんですよ」
「嘘だー、ハインリヒって５番に甘んじるタイプじゃないよー」
とラギが横目で指摘した。
「ま、そうですけどね」
ハインリヒがにんまり笑って言ったのだった。
夕方、城に来たフリットはゆりの部屋の前に移動した。気を与えるためだ。今日はゆりはハザークに竪琴を披露する日
なので、こんな時間だった。ゆりの部屋の扉をノックしようとした時、廊下をたったと走っていく黒髪の女性が目に
入った。ゆりだ。
「あ、王妃」
フリットが声をかけたが、ゆりは聞こえないのか曲がり角まで走っていき、立ち止まった。
「王妃」
フリットはゆりの側まで移動した。ゆりは壁にべったり背中をつけて角の向こう側をそっと伺うように見ていた。
「何をなさっているんですか？」
「しっ誰かいないか見てるの」
ゆりが口元に指をあてて言った。
「誰もいませんよ？」
フリットがちらりと向こうを見て言った。
「そう？ならいいけど」
ゆりはきょろきょろ周りを見回している。どうも挙動不審だ。
「何かあったんですか？」
「ん？別に・・・フリットは向こうの廊下見てきて」
とゆりが奥を指さした。そちらは子供らの部屋のほうだ。
「いいですけど・・・」
フリットは移動して廊下を見回した。誰もいない。戻ってきたフリットは「誰もいませんよ」とゆりに言った。
「どうやら今日は大丈夫みたいね」
「一体何の話ですか？」
「こっちの事。こっちの事」
ゆりはそういいながらべったりフリットに抱きついていた。
「・・・おや？」
「困った人だなあ。この前儀式やったばかりなのに・・・」
急にゆりがぶつぶつ言い出した。
「王妃・・・あの・・・」
「どうやら来ちゃったみたい」
「はあ・・・」
「さ、とっとと儀式儀式♪」
今度は急に笑顔になりフリットの手を取って踊っていた。
「あの・・・水蛇さん来ちゃったんですか？」
なすがままのままフリットは聞いた。
「うん。来ちゃった」
「だから、ついこの間儀式やったばかり・・・フリットは儀式したいよねー？」
ゆりは１人で顔をしかめたり笑ったりしている。
「はあ・・・」
「今日こそは〜るるる〜ん。」
今度は陽気に歌っている。知らない者が見れば怪しい事この上ない。
まあいいか。この前やったばかりだけど・・・
フリットはそう思い、「ではお風呂に？」と聞いた。
「うん。お風呂でいちゃいちゃ〜・・・・ぎゃー！！！」
今度はゆりは悲鳴をあげた。視線はフリットの後ろを見ている。フリットが自分の後ろをみると、そこには両手を組んだ
エルバートが立っていた。
「お父様！」
ゆりの中に入っている水蛇が言った。
「お父様？」
なぜにエルバートがお父さん？と思いつつフリットはエルバートを見た。良く見るといつもと様子が違うようだ。
えらそうに踏ん反りかえっている。
「シスレーン、何でこの前すぐ逃げた」
エルバートの中にいるカーライルが聞いた。
「この前？この前って、９千年ほど前の事でしょうか？」
と水蛇。
「そんなに前じゃない。私の顔を見るなり逃げるとはどういう事だ。私にばれちゃ困ることでもしてるのか？」
「まさか、そんな！お父様にばれて困ることなんて・・・それにしてもお父様、相変わらず気高く美しくて
いらっしゃる。」
ゆりの中にいる水蛇のヨイショにも、カーライルはむっとしたままだった。
「あのう・・・話がわからないんですが・・・」
２人を見比べていたフリットが聞いた。
「実はね、エルバートが蛇憑きになってね、その蛇が水蛇さんのお父さんらしいんだよ」
ゆりがフリットに説明した。
「蛇憑き。そういわれればいつものエルバートとは全然違いますね」
「それがまた性格悪い蛇で・・・」
「こら、何説明してる」
カーライルがぎろりとゆりを睨んだ。
「しかもえらそうだし・・・」
「私は偉い蛇だからいいんだ！」
「エルバートも内心迷惑してるんじゃない？かわいそうに・・・」
「王妃ってのはもっと気品があるもんじゃないのか？お前もそう思うだろ？」
カーライルはフリットに話をふった。
「え・・・」
フリットは内心どきっとした。
「実は周りの者は皆そう思ってるんじゃないのか？どっから見ても街の小娘だ。気品も威厳もナイナイ王妃」
「ひどい！だからあんたは性格悪いって言ってるのよ！」
「私が性格悪いなら、お前は全体的に悪い」
「ぜ・・・全体的〜！！！？」
ゆりが大きくのけぞった。
「ひどい！そんなに悪くないわよ！フリット何か言ってやって！」
ゆりは横でぼんやりしているフリットに泣きそうな声で加勢を頼んだ。
「そんなに悪くはないです。王妃は本当にかわいらしい方ですよ」
フリットは命一杯フォローした。
「とても素晴らしい王妃です。我々は皆王妃が大好きなんですよ」
「笑顔が引きつってる」
カーライルが指摘した。
「引きつってないわよ」
「この辺が引きつってるぞ」
カーライルはフリットの頬を引っ張った。
「・・・あの・・・」
確かにこれはエルバートじゃないな・・・・とフリットは頬をひっぱられつつ思った。
「ちょっとやめてよ。カールのおじさん」
「誰がおじさんだ！」
ちなみにカーライルとゆりが言い争いをしだした隙に、ゆりの中にいた水蛇は姿を消していた。よっぽどお父様が
苦手らしい。
その時、廊下を軽やかに歩いてくる男がいた。シャナーンだった。シャナーンはもちろんゆりに会いに来たのだが、
荒い声が聞こえて立ち止まった。
王妃！とエルバート？
シャナーンは２人の姿を見るとぱっと廊下の曲がり角に身を隠した。その時２人はまだ言い争っていた。
「こんなにぽんぽん言う女は初めてだ」
「あなたが言わせてるんじゃないのよ！」
ああ王妃・・・なんて楽しそうにエルバートと言い合っているんでしょう。
２人の間にはフリットもいたのだが、シャナーンの視界に入っていなかった。声も２人の声しか聴こえない。
私ともあんなに言い合ったことはないのに。私が知らない内にこんなにも２人が親密になっていたとは・・・
なんてことだ・・・
シャナーンはうなだれたまま去って行ったのだった。
「あのーお２人ともその辺でやめませんか？」
フリットが２人に割り込んで言った。
「ああ、無駄な時間を過ごしてしまった・・」
とカーライル。
「それはこっちのセリフよ。性悪蛇め。」
その時、エルバートの表情がすっと優しいものに変わった。そして周りを見た。
「王妃にフリット様・・・あの・・・もしやカーライル様が？」
「また出てたよ。いい加減追い出す？手伝うよ」
ゆりが笑顔で言った。
「何か失礼な事でも言われましたか？どうもすいません」
「エルバートは別に悪くないよ。あの蛇が悪いだけで」
「すいません」
「ですが・・・なかなか面白い方ですね」
とフリットが言った。
「え？どこら辺が？」
とゆり。
「私なんて言われ放題なのに・・・」
「全然負けずに言い返してるじゃないですか。王妃は」
「ま、そうだけどさ・・・」
「本当にすいません」
エルバートは何度も頭を下げていた。
ゆりとカーライルの言い合いがすごかったので、フリットもすっかり儀式や水蛇のことを忘れていたのだった。
ーカーライル様、お願いですから王妃に失礼な事を言うのはやめてください。
エルバートは城から去って行きながら心の内で言った。
ー失礼さでいったら向こうの方が上だぞ。
ーそんな・・・
ー嫌味を言われて泣くくらいならまだかわいらしいが・・・
「やれやれ・・・」
カーライルは困ったもんだと思いつつ、城を離れた。
次の日、エルバートが北の砦に行くと、なぜか若い女の子達に囲まれた。
「エルバート様、私に一日ちょうだい！」
「私も！」
「私にも！」
「な、なんのことですか？」
エルバートは女の子達の気迫に押されつつ聞いた。
「来年の赤い月、女の子募集してるんでしょ？掲示板に貼ってあったわよ。ほら」
「え」
エルバートは女の子が持っていた紙を見た。確かに、「来年の赤い月の相手を募集します。エルバート」と
書かれている。
「えー！・・・だ、誰がこんな事を・・・」
エルバートには全く覚えがなかった。
「なんなら練習しようよ。練習！」
「私もしてもいいよ。いつする？」
「結構です！」
エルバートは瞬間移動で逃げた。
「あー待って！」
「エルバート！」
「エルバート様！」
なんとその紙は、御丁寧に各砦の掲示板に貼られていたので、エルバートはしばらく女の子に追いかけられる羽目に
なったのだった。男からはわざわざ掲示板に貼らなくても・・・とニヤニヤして言われる始末だ。
「誰がこんないたずらをー！！？」
たじたじになっているエルバートを横目で見ながら、シャナーンは「ふふふ」とひそかに微笑んでいたのだった。
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