「あなたの〜その〜瞳に見つめられると〜♪私の心に〜愛の火が〜ともる〜♪」
草原に腰を下ろし、慈愛の女神ダーナが歌っていた。横ではクーリーフンが竪琴を奏でている。周りにウサギや馬、小鳥などはいたが、
妖精も神も見えなかった。ダーナが追っ払ったからだ。
ダーナは誘惑の瞳でクーリーフンを見つめつつ歌っていたが、クーリーフンはにこにこ微笑を返すだけだ。誘惑されてることに気づいていない。
クーリーフンとの関係はずっと平行線だが、これはこれでダーナにとっては癒しの時間だった。他の恋人達と過ごしていてもこんな気持ちには
ならないだろう。
ほんと、クーリーフンってばかわいい。お願いだから誰のものにもならないでね。
クーリーフンの顔を見るだけで癒される〜
二人で穏やかな時間を過ごしていると、「おい！クーリーフン！」と男の声が聞こえてきて、ダーナはがくっと肩の力が抜けた。
邪魔するのは誰だと後ろを見ると、ペガサスが地上に降りていた。ハロルドが降りてくる。クーリーフンの方は、顔が強張っていた。
「ダーナ、向こうに行け、ちょっとクーリーフンに話がある」
ハロルドは二人の様子に気にする事もなく言った。
「ええー！！！」
とクーリーフン。
「邪魔しないでよ。二人の時を」
ダーナがハロルドを睨んだ。
「ただ歌って楽器弾いてただけじゃないか」
「ぐっ！うるさいわね。いいでしょ」
「ダーナ、助けてよーハロルドったら最近僕を付け回すんだよ」
クーリーフンがちょっと甘えるようにダーナに言った。
「この前なんてね、僕の翼の羽、3枚も抜いたんだよー」
「なんですって！！許せない！クーリーフンの翼の羽引っこ抜くなんて！」
ダーナは立ち上がり、ハロルドに抗議するように歩み寄った。
「これだけあるんだから3枚くらいなんだ。所でダーナ・・・一体どうしたんだ？」
ハロルドは突然驚くようにダーナの顔を見つめた。
「え？何が？」
「お前の目の横に小じわが・・・」
「え・・・・」
ダーナは世界の終わりのような顔をしていた。そして次の瞬間、「きゃー！！！」と悲鳴を上げて消えてしまった。
「あ、ダーナ・・・・」
かなりすばやかったのでクーリーフンが止める間はなかった。
「さあ、これで邪魔者はいなくなった」
ハロルドはにっと笑ってクーリーフンを見た。
「ひどいなあ。あんな嘘。神なのにしわができるわけないじゃないか」
クーリーフンは頬を膨らませている。美の神にとっては、顔のしわなんてあってはならないものだ。今頃必死に顔のパックをしてるかも
しれない。
「うるさい。なあ、あっちのガーベラは次いつ来るんだ」
ハロルドはクーリーフンをじろっと睨んで聞いた。
「えー？さあ？僕分からないよ。僕もここんところ会ってないし・・・」
「さっきまで来てたんだ。まんまと逃げられた・・・」
「そうなの。ふーん」
クーリーフンはそっと飛んで行こうとしたが腕をがっと捕まれた。
「もー僕本当にわかんないってば。そんなに気に入ったわけ？」
「気に入った？まあな」
ハロルドはなぜか苦い表情で言った。
「お母さんよりも？」
「ある意味な」
「へーお母さんに言ってやろー」
クーリーフンが仕返しとばかりに言った。
「いいぞ。羽10枚引っこ抜くからな」
ハロルドの言葉にクーリーフンの頬が引きつった。
「ひどい。横暴だ。暴力反対！」
「まあいい」
ハロルドはクーリーフンの腕をぱっと放した。
あのままじゃ気がすまない。何か仕返ししてやらねば・・・
「ふっふっふ」
ハロルドが低い声で笑ったのでクーリーフンは不気味さを感じて離れたのだった。
第39話
蛇の国はすっかり落ち着きを取り戻し、戦士達も長年の胸のつかえが取れたかのような表情をしていた。戦で起こった不思議な出来事は
今でも戦士達の噂話になっている。自分達を守ってくれた巨大な盾と小さい剣の事は、大きな疑問としてまだ残っていた。
過去の女王が助けに来てくれた、という話を聞いた街の人達は、女王や騎士達に祈りを捧げたりもしていた。
ゆりの事は、「やっぱり幸運の王妃様だ」と噂されている。
今日も北の砦にある食堂では戦士達が戦の話をしていた。
「いやーすごかったなーなんか見た事もないようないろんな色の綺麗な蛇が現れたんだ。そしたら傷が綺麗に治ってさあ・・・」
話題は北の砦でゆりがした事だった。
「御子様の力だっていうけど、すごいなあ」
「全くだよなあ・・・」
何度話題にしても飽きる事はないようだ。
ー実は気になっている事がある。
そう言ったのはエルバートと一緒にいるカーライルだった。エルバートは戦の噂をしていた戦士達と違うテーブルにいて昼ごはんを食べていた。
「なんですか？」
ーいろんな色の綺麗な蛇だ。それがずっと気になっている。
「はあ・・・・」
エルバートも何度も何度もその話は聞いていた。一体どんな蛇だったのか、見てみたいとも思っていた。
ーなぜいろんな色の綺麗な蛇が現れたんだろうな・・・
「さあ、私にはさっぱり分かりませんが・・・」
ーまあお前が知らないのも無理はないが、昔ザクートが魔法を使った時によくいろんな色の綺麗な蛇が現れていたのだ。
「え？そうなんですか？」
カーライルは驚いていた。
ーああ、あれはザクートの蛇紋と一緒だと聞いた事がある。もちろん実際に見た事はないがな。あれの母親のヒューリアの蛇紋も
いろんな色の綺麗な蛇だった。そっちは実際に見た。
「はあ・・・」
ーああいう蛇紋はかなり珍しいんだ。もしやあの王妃の蛇紋もそうなのか？
「さあ・・・」
ーお前ちょっと聞いてみろ。
「ええ！？そんなこと聞けません」
ー別に私が聞いてもいいが、簡単に教えるとも思えない。お前が聞いた方がいいだろ。
「それはそうですが・・・」
エルバートは下を向いて小声でぶつぶつ言っていた。周りにカーライルの声は聞こえていないので、独り言を言っているように見えている。
「なあ、エルバートって暗いよな・・・」
「そうだな・・・」
それを見ていた戦士達はこっそり噂をしていた。
暦は8の月に入り、ラクシュミの力はほぼ元に戻っていた。
ゆりはハザークのところにやってきて竪琴を披露した所だった。ハザークも普通に戻っている。
「戦のこといろいろ聞きました？」
ゆりは一曲弾いた後で聞いた。
「ああ、王にも聞いたし、お前の息子がいろいろ教えてくれた。不思議なことがあったようだな。」
「そうなんですよ。大きな盾が現れたんだって。それから小さい剣。王様は私が何かしたかと思ったみたいだけど、私は何もしてないし・・・」
「我もそういうのは見た事がないなあ。所で、お前の竪琴ちょっと下手になってたぞ。」
ハザークは話題を変えた。
「すいません。最近練習してなかったから・・・」
「いつも一定してないな・・・お前の竪琴の腕は・・・」
「飽きなくていいでしょ」
ゆりは開き直って言った。
「まあな・・・」
同じ曲なのに違う日に聴くと違う。確かに飽きなくてもいいかもしれない。
この日はハザークの侍女と歓談し、ゆりは塔を後にした。
ハザークとはお互いにまだいちゃいちゃっていう気分でもない。恋人達ともまだだった。男達と出会っても、今はまだ無事を喜んでまったり
している。
城に戻ると、廊下ですれ違ったゆりの侍女が声をかけてきた。
「王妃様、エルバート様がお部屋でお待ちですよ」
「エルバートが？わかった」
ゆりは早足で廊下を歩いて行った。
「ヒヒーン！ヒヒーン！」
城の近くにある厩舎では、天馬のプリモがいななきながら翼を広げてばたばた動いていた。脚もせわしなく動かしている。
「どうしたんだい？」
世話役の男が近寄ってきた。隣にいる馬は別に普通だ。天馬だけが暴れている。
「ヒヒーンヒヒーン！」
ばたばたしていたので出してやろうかと思っていると、プリモは急におとなしくなったので、男は出すのをやめて天馬の頭をなでた。
「寂しいんだな。しばらく姫様がずっと遊んでくださっていたからなあ」
アナスターシャとシスの休暇は終わっていた。また勉強と修行の日々だ。
「また来てくださるからな。」
男はプリモから離れて行った。
プリモは今度はうれしそうに顔をどこかにこすりつけるようにしていた。
「ヒヒーン・・・」
声もどこか甘えるような感じだ。
「よしよし・・・」
プリモの横にはハロルドがいてプリモのたてがみをなでてやっていた。先ほどの男には見えていなかったが、神の国生まれのプリモには
ハロルドの姿が見えていた。ハロルドが近くにいたので暴れていたのだ。プリモはうれしそうにハロルドに顔をこすりつけていた。
「大きくなったな・・・」
ハロルドはひとしきりプリモをなでてそこから離れたのだった。
ゆりが部屋に戻ると、エルバートは立ち上がり、会釈した。
「エルバートどうしたの？」
「あの、すいません、休みだったのでちょっと来てみたんです・・・王妃とお話がしたくて・・・」
エルバートは頭をかきながら言った。頬もちょっと赤くなっている。
エルバートは来たくなかったのだがカーライルにせかされてきたのだった。蛇紋がどうか聞いてくれ、と言われていたのだ。
エルバートもまさか国で一番位の高い女性にそんなこと聞きたくはなかった。だがシャナーンに聞くのもはばかられる。
睨まれることはわかっているからだ。戦でカーライルに世話になったため、どうもカーライルの言う事に逆らえないエルバートだった。
「そうなの。」
ゆりはエルバートの向かい側に腰を下ろした。すぐに侍女がお茶を運んでくれた。エルバートの前においてあるお茶は入れ替えられた。
「エルバートもあの戦出たんでしょ？初めてだから怖かったでしょ？」
「はい。とても怖かったです。戦の前は何日も眠れなくて・・・今はぐっすりです」
「よかったね」
「はい。どこでも王妃の話題でもちきりですよ。やはり幸運の女神様だと」
「そうなの？なんだか照れるなあ」
「素晴らしい王妃様がいてくださって、本当にうれしいです」
「エルバートったら」
ほめられたゆりはにこにこだった。
エルバートもにこにこしている。だが、心の中では、カーライルに早くしろとせかされて困り果てていた。
「あのー・・・実は一つお伺いしたいことがありまして・・・」
「なあに？」
ゆりは紅茶を飲んで聞いた。
「あの・・・」
「うん」
「その・・・」
「ん？」
「・・・・」
「？？」
エルバートは困ったように視線をうろうろ動かしていた。頬もかなり赤くなっている。
「なあに？」
エルバートってほんとかわいいなあ、とゆりはエルバートを見つめていた。
「あのう・・・」
その時二人の動きがぴたっと止まった。
部屋にハロルドが現れていた。ハロルドはエルバートに目を向けた。
「ん？この男が夫か？？やけに若いが・・・まあいいか。ちょっと付き合ってもらうぞ」
ハロルドは軽く右手を上げてくるっと回して消えた。
「・・・戦で王妃が北の砦で魔法を使われた時・・」
「うん・・・ん？」
ゆりはぎょっと目の前を見た。エルバートもはっと目を見開いて前を見た。
「あれれ？」
「ええ！？」
「「なんで私が目の前に！？」」
二人の声は同時だった。お互い目の前に自分の身体があったからだ。
「あれ？私、突然夢でも見てるんでしょうか・・・なぜか目の前に私が・・・」
エルバートは自分の身体を指さして言った。
「私も自分の幻が見えるんだけど・・・」
ゆりが言った。目の前に自分が座っている。それに自分が座っている位置がおかしい。
「どうなってるの？何で突然・・・」
二人は全くわけがわからなかった。
ぽかんと口を開けて、自分の身体を凝視していた。
うーん・・・夢だ。夢に違いない。なんで私がそこに座ってんのかしら・・・
ゆりは目をごしごしこすった。
ーおい
声が聞こえた。
ん？だれ？
ーお前、変な魔法でも使ったのか？
え？あなた・・・だれ？
ーカーライルだ。
「え・・・カーライル？なんで？私の中に？」
ーエルバートの中にいるんだ！なんで突然お前が来るんだ？？
「はいー？？？」
ゆりはばっと走って部屋の中にある姿見鏡の前まで行った。そこには、驚愕に目を見開いたエルバートの姿が映っていた。
「ど・・・どうなってんのこれ！？」
ゆりは自分の腕や身体を見て首を曲げて座ったままの自分を見た。
「エルバートに私ってことは私の中にエルバートが？」
「私エルバートです」
ゆりの姿でエルバートが言った。
ーお前一体どんな魔法使ったんだ？
「魔法？まほー？？？！」
突然の事態にゆりの頭は全く働いてなかった。エルバートの方もそうだ。
会話しているだけで中身が入れ替わる。そんなの物語でもありえない。
その時ゆりはバルコニーが光り輝いているのに気づき、首をかしげてそちらに歩いて行った。
「げっ！」
なんと手すりの外にハロルドが宙に浮かんでいた。
「は・・・ハロルド・・・？？？」
ゆりは窓を開けてバルコニーに出た。
「そっちの方がかわいいじゃないか」
ハロルドは微笑んで言った。
「え？まさかハロルドがやったの？これ」
その言葉が出るまでに5秒ほど間があった。
「ああ、しばらくその姿で反省しろ」
「ええー！！！！」
ハロルドはぱっと消えてしまった。
「ちょっちょっと！ハロルドー！！！戻ってきてー！！！」
ゆりは宙に向かって叫んだが、どこにもハロルドの姿はなかった。
エルバートもバルコニーに出てきた。
「あの、王妃・・・ハロルドってどういうことなんですか？」
エルバートは摩訶不思議な表情で聞いたのだった。
部屋の扉がノックされた。ゆりがどうしようかと思っているとまたノック。仕方なくゆりは扉を開けた。
「ん？エルバート来てたのか。もう帰るだろ？」
やってきたのはミカエルだった。ミカエルは部屋の奥にいたエルバートに近づいていった。
「王妃、ちょっと時間ができたんですよ。今から仲良くしましょう」
ミカエルはそう言いながらエルバートの手を握り締めた。
「・・・・」
エルバートはぽかんと口を開けている。ゆりはまずいと思い、ミカエルに近づいた。
「あのーミカエル様、今日の所は帰ってください」
「ん？なんでだ？」
「あの、ほら、王妃の顔がおかしいでしょ。ね」
「え？」
「ほら、帰った帰った」
ゆりはミカエルの腕をつかんで引いた。
「なんなんだ。お前生意気だぞ」
とミカエル。
「うるさい、今立て込んでるの！帰った帰った！」
ゆりは強引にミカエルを外に出そうとした。
「何するんだ。エルバート。その前になんて口の聞き方してるんだ！」
「出た出た」
ゆりは男の力でミカエルを外に出して扉を閉めた。そして鍵まで閉めた。
「ふう、これでよし」
「王妃・・・」
エルバートの目はうつろになっていた。
「私の身体でそんなことを言われては・・・後でミカエル様に・・・」
「ごめん。つい」
ゆりが申し訳なさそうに言った時、ミカエルがぱっと部屋の中に移動してきた。瞬間移動できる彼らにとって鍵を閉めても意味はない。
「エルバート！一体どういうつもりだ！」
ミカエルはゆりに怒っていた。
「今立て込んでるんですってば」
「何に立て込んでるって言うんだ！」
「うるさいなあもう！」
「王妃・・・・」
エルバートは泣きそうな顔をしている。
「ごめん。うるさいです。ミカエル様」
「あの・・・丁寧に言えばいいってものでは・・・」
「何言ってるんですか？王妃」
ミカエルはエルバートを見た。
「実は、エルバートと私、中身が入れ替わっちゃった」
ゆりがあっさり言った。
「え？何言ってるんだ。エルバート」
「だから、私がゆりでこっちエルバート」
ゆりはエルバートをさして言った。
「・・・ばかな冗談はやめろ」
「本当なんです。ミカエル様」
ゆりの顔でエルバートが言った。
「またまた、二人で冗談を。からかってんだろ？エルバート」
ミカエルはゆりの肩をたたいた。
「ああもうややこしい！どうしたらいいの！」
ゆりは両手で頭をかいた。
ミカエルはおかしなことを言う二人を連れて王の間に行った。そしてエルバート姿のゆりがラクシュミに説明したのだった。
「二人で話をしてたら変わった？お前・・・そんな話小説のネタにもなりゃしないぞ」
ラクシュミが呆れて言った。
「でも本当だからしょうがないでしょ」
とゆり。エルバートは心底困り果てた様子でうなだれていた。二人の様子を見ているだけで、中身が違うことはラクシュミにも分かったし、
さすがにミカエルも分かったのだった。
「それでなんでハロルド様がそんないたずらをなさるんですか？」
ミカエルが聞いた。
「そうだ、ハロルドはお前の事怒ってなかったんだろ？」
とラクシュミ。
「えーと・・・それは・・・」
ゆりは困った様子で指を組んだ。
「やっぱりガーベラで騙した事怒ってたのか？」
ラクシュミが聞いた。
「そのことは怒ってなかったんだけど・・・・」
「じゃあなんでこんなことするんだ」
「実は・・・・この前神の国に行った時・・・・・ハロルド蹴飛ばしちゃって・・・・」
「え？」
ゆりの声が小さかったのでラクシュミは聞こえなかった。
「何したって？」
「蹴飛ばしちゃって・・・」
「蹴飛ばした？なんでまた・・・」
ラクシュミは驚いて聞いた。ミカエルとエルバートはぽかんとしている。
「ちゃんと理由があったのよ。上に乗っかってきたからつい蹴飛ばしちゃって、それで・・・怒ったのかなーやっぱり・・・」
ゆりは引きつった笑いを浮かべて言った。
「神の国では恋人なんだろ？なんで蹴飛ばしたんだ。強く蹴ったのか？」
「かるーく、ポンと」
「軽く蹴ったくらいで怒るか？」
「その蹴りが股間にヒットしちゃったもんで・・・」
ゆりが頭をかきながら言った。
「ゆり・・・」
ラクシュミは呆れた声を出した。
「王妃・・・・」
「王妃・・・・」
ミカエルとエルバートも同様だった。
「王妃・・・」
遠くで番兵も言っていた。
ー王妃・・・
状況をよく知らないはずのカーライルも言っていた。
皆に呆れられてさすがのゆりもへこんだ。
「頭痛くなってきた。すまないなあ、エルバート、とんだとばっちりで」
ラクシュミがエルバートに言った。
「いえ・・・・」
「でも、王様、しょうがなかったのよ。あの時は！」
とゆり。
「やだったんだもん」
「王妃、外見はガーベラなんですから泣いて訴えるとかできたじゃないですか。」
ミカエルが言った。
「はっその手があったか・・・全然考えつかなった」
ゆりの言葉にラクシュミとミカエルは同時にため息をついた。
ー王、もう一人の王妃はどうしてるんでしょう？
ミカエルがラクシュミに思念を送った。
ーうーん、一緒に移動したのかな？
「おい、ゆり、もう一人のゆりはどっちだ？」
ラクシュミが聞くと、エルバート姿のゆりが手をあげた。
「私もこっち来てる」
「ってことは、そっちに3人もいるってことか。満員だな。」
エルバートの姿の中に二人のゆりとカーライルがいる事になる。
「目変わってる？」
「いいや、変わってない」
「ややこしいから引っ込んでるね」
もう一人のゆりはすぐに引っ込んだ。
「とりあえず、エルバートはしばらく城で暮らせ。なるべくこのことは他にはもれないように」
「皆に秘密にしておくの？」
ゆりが聞いた。
「まあ子供達にはばれるだろうし、お前の恋人達にもばれそうだが・・・説明するのにハロルドを蹴飛ばした話もしなきゃならないぞ。
さすがのシャナーンもお前の事が好きじゃなくなるかもしれないぞ。愛する女が神様の股間を蹴飛ばしたなんて・・・」
「別にいきなりそうしたわけでは・・・」
ゆりはしゅんとして言った。
「侍女らには言わないわけにはいかないがな。エルバート、悪いがしばらくゆりとして暮らしてくれ」
「はい」
「ごめんね。エルバート」
皆に責められたゆりは心底申し訳なさそうに言った。
「いいえ。私の方がかえって王妃に悪いような気がしますが・・・」
エルバートは立ち直って言った。
「どうして？」
「このままずっと王妃のままだと、お風呂とかもこのままでってことになりますから・・・」
「ガーン・・・」
ゆりはその時はじめてそのことに気づいた。
ってことは私もこの身体でお風呂に？
・・・・ねえカールさん・・・男の人って・・・トイレはどのように・・・？
ゆりはカーライルに聞いてみた。
ー知らん
つれない返事が返ってきた。
「じゃあ私が王妃と一緒にいたら、私が王妃になっていたんですかね？」
ミカエルが言った。
「そうじゃなくてよかった」
ゆりはほっとして言った。
「なんでですー？」
「だってミカエルだったら変な事されそうだし・・・」
「ひどい・・・」
「ゆり、とにかく、ハロルドに謝るんだ。それしかない」
ラクシュミが言った。
「すぐ神の国に行ければいいけど・・・・行けなきゃ謝れないし・・・第一あれは私が悪いってわけでは・・・」
「一生エルバートのままでいいのか？相手は神様なんだぞ。蛇に変えられていたかもしれないんだからな。」
「はい、ちゃんと謝ります」
ゆりは不本意ながらも言った。
ラクシュミは子供達とゆりの侍女を読んで説明した。子供達は上の3人だけだ。ゆりとエルバートはそのまま王の間にいた。
入れ替わった理由はハロルドのいたずらになっているが、それをやられた理由は、ガーベラになりきっている時に神の国で石に
つまずいて転んだ拍子にハロルドを強く蹴飛ばしたことになっていた。
そんな状況ありえないと思うけど・・・・
ゆりは思ったが、神様に乱暴されかかった、なんて事は言ってはならないらしい。
皆あっけにとられて二人を見比べていた。
「冗談でしょ？母様」
アナスターシャがエルバートに言った。
「母様はこっちよ」
ゆりが言った。
「その前にさあ、ガーベラだったことがばれちゃったんだね。その事は怒らなかったのになんでそっちで怒るの？ハロルド」
さすがラギは鋭い質問をぶつけてきた。
「まあ、神様ってのはきまぐれだから・・・」
ゆりはそう言ってごまかした。
「もっとすごいことしたんじゃないの？」
「いいえ」
「あやしいなー・・・エルバートとばっちり受けちゃったんだね。ごめんね」
ラギはエルバートに謝っていた。
「いえ、私は別に、考えてみれば皆さんがあこがれている王妃になってるんですから、逆に皆さんに悪いような気がします」
エルバートはゆりの顔で穏やかな笑みを浮かべて言った。
「エルバートってほんと優しいなあ・・・」
「本当にね」
ラギに続けてアナスターシャが言った。
「エルバート、しばらく僕の部屋で一緒に寝ようよ。」
「はい、喜んで」
エルバートは元に戻るまでラギの部屋で一緒に暮らす事になった。
エルバート姿のゆりはそのまま自分の部屋だ。
「あーあ・・・なんだか自己嫌悪・・・・」
皆に責められたゆりは、なんだか自分がハロルドにとても悪い事をしてしまった気分になっていた。
別に股間蹴ろうと思って蹴ったんじゃないのに・・・・
今頃エルバートもお風呂入ってるのかなあ・・・身体見られちゃったのかあ・・・
その夜、エルバート姿でお風呂に入ったゆりは大きな大きなため息をついてがくっとうなだれたのだった。
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