第40話（番外編）


遠い未来での戦いに参加した女王と騎士達は無事、過去の時代へと帰っていた。

「お帰りなさいませ。女王陛下」

「お帰りなさいませ」

女王ヴィラルージュが顔をあげると、騎士と侍女達が次々と言った。女王はすぐに国の様子を探った。どうやらさほど問題も

起きてはいないようだ。


「うーん・・・」

広間にはディラン達騎士達の身体が横たえられていた。皆自分の身体の中に入り身体を起こした。すると軽くめまいがするので

そのまま腰を下ろした。

「うーん、向こうで力使ったからかな？結構力減ってるなあ」

フークスが身体を揺らしながら言った。

「そうですね。ちょっとだるいですね」

とレイアス。


「あーあー」

起き上がったルークはにこにこして「あーあー」言っていた。女王が見ると、ルークの魂はまだ宙に浮かんでいた。どうやら子供の

アダムがルークの身体に入っているようだ。

「アダムよ。あっちじゃ」

女王が右手をあげると、アダムの魂はすっと出て赤ちゃんの方に入った。アダムの身体は広間にいた女王の侍女がだっこしていた。


「あーびっくりした。すいません。陛下」

ようやく自分の身体に入れたルークはほっとしていた。


「陛下、アナスターシャ様を10年後に連れてくるとおっしゃられてましたが・・・」

ディランが聞いた。

「そうじゃ。今度は時間をかけていろいろと私からも教えたいと思ったのでな。もうちょっと育ってからの方がよいだろう」

「そうですか」

ディランは微笑んだ。

「こちらは人材は豊富じゃからな。その時には50人近くの教師陣をそろえて素晴らしい教育をしてあげたいものじゃ」

女王は誇らしげに言った。未来の世界では一族の数も少なく、王族の教育にも大勢人はさけないだろうと思ったようだ。


「あの王女は守りよりも戦いに向いていると思う。戦を見越して集団を相手にする戦い方も学ばせたいしの」

「50人ですか・・・教師の顔覚えるだけでも一月かかりそうですね」

フークスが苦笑した。アナスターシャが来たとたんに帰りたくなるかもしれない。


「10年後が楽しみですね」

ディランが微笑んだ。


皆疲れきっていたが、さわやかな気分だった。

自分達が未来の役に立てたのだ。

これほどうれしい事はなかった。


「あ！」

レイアスが何かに気づいて声をあげた。

皆に注目されて、「何でもないです」と口をつむいだ。



未来にいけたってことは・・・もう女王様と寝れないってことじゃないか！ああ・・・がっくり



レイアスはがくっとうなだれた。結局くじに外れまくり、女王の横で一夜を明かすことはできなかったのだった。



女王は侍女や他の騎士達に未来の話をしていた。女王も疲れているはずだが、未来にいけたことで興奮気味だった。話さずには

いられないようだ。

「未来の王は素敵な方であった・・・ただ・・・服が地味であったのう。騎士達も皆地味であったし・・・・それが気になる所じゃ」

女王はぼろい城よりも皆の服装が気になったようだ。話している最中にも人が集まり、女王の周りには人だかりができていた。



「遠い遠い未来か・・・」

ディランが宙を見上げてつぶやいた。

あそこまで一族の数が減少するには、長い長い歴史の中でさまざまなことが起こったのだろう。

戦だけではなく、自然災害や、流行病が起こったりもしたのだろう。



ゆり様と出会わなければ考えもしなかった。あんなに遠い未来の事など。

一族を残すために、皆必死に戦っていた。

共に戦う事ができてよかった。




「私は自分の子蛇の男に会えてうれしかったです」

ルークが言っていた。

「長生きしてくれるといいなあ・・・」

「そうだね。」

とフークス。ゆりやシスに会えたのもうれしかったが、男達に会えたのもうれしい事だった。

「私が入ったのはかわいい男だったな・・・」

ドルイドがつぶやくように言った。シャナーンに入った感想らしい。

「なんだか不思議な気分だな。あの男が自分の子孫のような気までする」

ディランが言った。

ディランもフリットに妙な親近感を感じたのだった。


「いつか皆で宴会でもできたらいいのに。きっと楽しいでしょうね」

とルーク。

「そうだね、妙な縁でつながった者同士だもんね。ゆっくり話したいものだね・・・」

「本当に不思議な縁だな・・・・」

ディランがしみじみじつぶやいた。ゆりだけではなく、ゆりの恋人達ともつながることになるとは思ってもいなかった男達だった。




遠い遠い未来にいる我等の子供達よ・・・どうかいつまでも元気で・・・・



皆そう願わずにはいられなかった。



女王の話が終わり、騎士達はそれぞれ自分の屋敷へと帰っていった。疲れていたが瞬間移動くらいはどうにかなりそうだった。



ドルイドは噴水のある庭園に行ってみた。もうすっかり日は暮れていた。噴水には人の姿はない。

空には大きな丸い月が浮かんでいた。



ドルイドはゆりの石像の前まで行き、石像の顔を眺めた。

未来のゆりはあの頃と全く変わっていなかった。それがうれしかった。



きっと何十年たってもゆり様はあのままなのだろうな。

時々子供のようにかわいらしくて・・・・ゆり様の周りは明るく、いつも笑いが絶えないのだろう・・・



『幸せになってね、ドルイド』


かつてゆりが言った言葉が思い出された。


「はい。ゆり様もずっと幸せでいてください。」

ドルイドは石像にそっとつぶやき、清清しい表情で庭園を後にしたのだった。



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