神の国では夜、ガーベラがハロルドの神殿にやってきていた。子供達はすでに眠っている。


「ねえ、クーリーフンにいろいろ聞いたようだけど、あっちの子に何かしてないでしょうね？」

ガーベラはその事を聞きにきたらしい。召使がいなくなり二人っきりになった所で聞いた。

「カエルに変えた」

座って酒を飲んでいたハロルドがあっさり言ってガーベラはあんぐりと口をあけた。

「え？！冗談でしょ！？」

「冗談だ」

「ハロルド・・・」

ガーベラは両肩をほっとなでおろした。

「あの子に罪はないんだから何もしないでよ？」

「私を殴った罪はどうなるんだ？」

「いいじゃない。私の代わりにやってくれたんだから」

「どんな美人かと思って見に行っただけだ。たいして何もしてやしない」

「本当？」

「ああ、たいしてな」

「あやしい・・・」

ガーベラは横目で見ていた。

ハロルドは不敵な笑みを浮かべている。



そろそろ私にした行為を後悔しているに違いない。

次に会った時には泣いて私にした行為をわびるだろうな。きっと。



ハロルドはその場面を想像していた。

ハロルドとしてもちょっとしたお返しのつもりだった。本気で怒っていたらあれくらいの事ではすまないだろう。

なんて心が広いんだろう、と自分では思っている。


「あっちの私もかわいかったでしょ？」

ガーベラは微笑んで聞いた。

「・・・・まあな」

ハロルドは妙な間を空けて言ったのだった。


第４２話

人間界では、ゆりがエルバートと身体を取り替えて10日経っていた。入れ替わったまま元に戻ってはいない。

話を聞いたハザークの侍女が様子を見に来たが、ゆりはまだハザークに顔は見せていない。



その日ミルキダスはゆりの部屋を訪ねた。だがゆりはいなかった。

侍女にゆりは双子の部屋だと教えられてそちらに行った。ノックしても返答はなかった。

いないのかな？と思ってそっと扉を開けてみた。広い部屋には誰もいない、と思ったら部屋の隅っこに水色の長い髪の男がしゃがんでいた。

ミルキダスは首をかしげて男の元に向かった。男は部屋の隅っこに座り込んで、暗い顔で積み木を積んでいた。


「・・・王妃？」

男はエルバートだった。二人が入れ替わったという話はミルキダスも聞いていた。

ゆりは顔を向けた。

「あら、ミルキダス」

「何なさってるんですか？」

「積み木積んでるの」

「それは見て分かりますが・・・どうかなさったんですか？」

部屋の隅っこでいい大人が積み木を積んでいるのだから、はたから見るとかなり暗い。

「みんなが・・・、エルバートが私に入ってる方がかわいいって言う」

「みんな？」

「子供達とハインリヒとヴィラとジュノー、ミカエルにも言われたし、水蛇様にも言われたなあ」

「はあ・・・」

「このままエルバートでいようかなー」

ゆりはいじけていた。


「どうせ私は王妃らしくもないし、かわいくもないし、豆粒ほどの気品もないですよー」

いじけて積み木を上に積み上げている。積み木は家の形になっていた。

「王妃、そんなことないですよ。私はかわいい王妃が大好きですよ」

ミルキダスは励ますように言った。

水蛇様って誰だろうと思ったが、今はそれを聞くような状況ではなかった。

「シャナーンだってきっとそう言いますよ」

「・・・・」

「皆冗談で言っただけですよ。本気で言ってるわけないですよ」

「ラギは本気だった」

「そんな事ないですよ。元気出して明るい王妃に戻ってください」

その時積み木がバラバラと崩れて落ちた。

「ミルキダス・・・ありがとう・・・」

ゆりは立ち上がってミルキダスにそっと抱きついた。

「王妃・・・・」

王妃といいながらも外見はエルバートだったので、ミルキダスは微妙な感じでゆりの背中をなでた。



ー王妃が傷ついてますよ。冗談でもエルバートの方がかわいいなんて言わないでくださいよ。


ミルキダスはジュノー、ヴィラ、ミカエル、ハインリヒに思念を飛ばした。一気に４人に送るなんて器用な事はできない。

一人づつに送っていた。

すると返答が返ってきた。


ーそういうつもりで言ったんじゃないんだけどなあ。ただ、遠慮がちで恥ずかしがられちゃって、そう思っただけなんだけど・・・


とジュノー。


ーつい最初の頃の王妃を思い出しちゃって・・・


とヴィラ。


ーいつもより新鮮に見えたんでつい。


とハインリヒ。


ー最近の王妃ってば私に悪態ばっかつくからお返しに言っただけだ。そんなに傷つくとは思わなかった。


とミカエル。


ー気をつけてください。


とミルキダスは思念を返した。


男達の目には中身がエルバートだと聞いていても、つい忘れてしまい、新鮮に映ったようだ。

エルバートが遠慮がちなのは自分が皆より格下なので当然のことだった。出会ったばかりのような恥じらいも、

今のゆりに要求するのが無理というものだ。恋人になって20年も過ぎれば、たいていの女性は変わってしまうものだろう。

ゆりも、今更気をもらうたびに恥ずかしがってもいられない。



「弱気になるなんて王妃らしくないですよ」

ミルキダスが言うとゆりはうなずいた。

「そうね。皆に言われてついしょげちゃった。同じ顔なのにエルバートが入った方が王妃らしいなんて・・・・」

「そんな事あるわけないですよ」

「ありがとう。私部屋戻るね。がんばって神の国に行かなきゃ」

「がんばってくださいね」

ミルキダスはゆりの手を握り締めた。



しかしハロルド様もなんて心が狭い・・・蹴飛ばされたくらいで怒るなんて・・・

相手がガーベラなら、人間の男ならもっと蹴飛ばしてほしいと思うところだろうに・・・



ミルキダスはゆりがハロルドの股間を蹴ったということは聞いていなかったのでそう思っていた。ミルキダスもその事では疑問を感じていたが、

元々詳しく問いただすような性格でもない。ヴィラは怪しがってゆりに問いただしたのでゆりは正直にしゃべってしまっていた。



神様というのはやはり我々とは感覚が違うのだろうな・・・



ゆりと別れたミルキダスはラギの部屋に向かった。ラギにも一応言っておこうと思ったからだ。

ラギの部屋の扉は半分ほど開いていたので、ミルキダスはそこから中をのぞくことができた。１０人ほどの男達の背中が見えた。

「王妃様」

「王妃様」

「ありがとうございます」

男達は口々に言っていた。

「皆さんもがんばってくださいね」

とゆりの声が聞こえる。中身はエルバートだろう。

ミルキダスは部屋に入ってみた。中にはイシュタールとラギもいた。男達は皆下級戦士で、エルバートを見てニコニコ微笑んでいた。

イシュタールと目が合った。

「皆が王妃に戦の時の御礼が言いたいと言い出して、連れてきたんだ」

イシュタールはミルキダスに説明してくれた。

「そうなんですか」

イシュタールも、ゆりの中身はエルバートだと知っていたが、まあ挨拶くらいはいいんじゃない？とラギが了承したので連れてきたのだった。

王妃様に会いたい！という戦士達は今も多い。


「それじゃあみんなこの辺でな」

イシュタールが皆を促した。

「はい、それでは王妃様」

「お邪魔しました」

「皆さんさようなら」

エルバートは笑みをたたえて皆に手を振った。



確かにいつもとちょっと違うかもしれないとミルキダスは感じた。


いつものゆりは、親しみやすく、身分の差など感じない人懐っこい笑みを浮かべるのだが、今のエルバートはちょっと他とは一線を

引いている感じだ。王妃としての笑みという感じがする。確かにこちらの方が王妃らしいといえば王妃らしいかもしれない。



「どうしたの？ミルキダス」

皆が出て行った後、ミルキダスがぼんやり立っていたのでラギが聞いた。

「あ、いいえ」

「エルバートすごいだろう？どっからみても母さんだよね。」

「全然違いますよ」

ミルキダスは言った。

「母さんよりも王妃様らしいよね」

「ラギ様・・・」

エルバートがちょっと困った顔で言っていた。



そうか。今気づいた。私は王妃の、王妃らしくない所が好きなんだな・・・

いつでも対等に接してくれるゆり様に惹かれているんだ。


ゆり様が王妃らしい気品にあふれた方なら、私とああなる事もなかったろう。

私は一生あのままだったかもしれない。



ミルキダスはエルバートを見てそんな事を思ったのだった。



一方、自分の部屋で昼寝でもしようとしたゆりだが、全然眠くなかったのでベッドで寝転んでいた。

神の国に行きたいと思っていても、あれから神の国には行けてなかった。



ああ、参った参った。



ベッドの下では蛇のルーが丸くなっていた。自分のことを気づいているのかどうかは謎だ。昨日などはエルバートの足にまとわりついていた

ので、案外気づいていないのかもしれない。


ぼんやり寝転んでいたら部屋に光の塊が飛んできた。ゆりはばっと身体を起こした。

もしやハロルド？そう思っていると、光は翼が生えた男の姿になった。


「クーリーフン！」

その美しい顔はクーリーフンだった。

「あ、あれ？どうしたの？その姿」

クーリーフンはゆりをじろじろ眺めて言った。ゆりはベッドから降りてクーリーフンの側に寄った。

「ハロルドに変えられちゃったのよう。お願い、クーリーフンなんとかして」

ゆりは両手を合わせて言った。

「そうなんだ。なんで変えられちゃったの？ハロルドに何かしたの？」

クーリーフンは穢れのない瞳で聞いた。

「いやーこの前、上に乗ってきたから蹴飛ばしたらさあ、反省しろって」

「おやおや・・・・振られて怒ったんだ。ハロルド」

「いやー、まあ、そうかな。別に私の時に迫らなくてもいいのにねえ」

「ハロルドはあなたに会いたがってたよ。来たら連れて来いって言ってたし、それにしても綺麗な男でよかったね」

クーリーフンはしみじみと言った。

「うん、まあそうだけど・・・元に戻してほしいんだけど・・・」

「お母さんに様子見て来いって言われてきたんだけど・・・・僕は助けられないなあ・・・まあそのうち元に戻してくれると思うよ」

「本当？」

「多分ね。まあたいした事じゃなくてよかったよ。それじゃね」

クーリーフンは消えてしまった。

「たいした事なんだけど・・・・」

ゆりは一人つぶやいた。

自分のことはともかくエルバートにすまない気持ちが強い。




何とかして早く元に戻ってあげたいんだけど・・・



その日の夕食の時間、ゆりがちょっと暗めだったので、珍しくラギが慰めるように言った。

「お母さん、元気だしてよ。僕が言った事は冗談だよ。お母さんが王妃らしくないなんて思ってないから」

どうやらミルキダスに何か聞いたのだろうとゆりは察した。

「母様元気出して。」

シスも言った。

「元気じゃない母様はらしくないよ」

「ありがとう」



食事が終わり、とぼとぼ廊下を歩いていたら、エルバートが声をかけてきた。

「王妃、本当に大丈夫ですか？」

「エルバート、うん、大丈夫よ。エルバートは？」

「私は平気ですが、王妃のことが心配です」

「ちょっと部屋で話をしようよ」

ゆりはエルバートを誘い、自分の部屋に入った。


「ごめんね。10日も経っちゃって・・・」

最初の方は取り替えを楽しんでいたゆりだったが、10日もなると、さすがに笑えなくなっていた。

「私のせいで本当にごめんね」

「王妃・・・私はこの事に関してはなんとも思ってません。本当ですよ」

「でも、内心はむっとしてるでしょ？」

「いいえ」

「ちっとも？」

「はい」

エルバートは微笑んだ。

「エルバートって優しいのにもほどがあるよ。少しくらい責めてもいいのよ」

「王妃は何か誤解してらっしゃいますよ。私の方が、王妃にすまない気持ちで一杯です。私などの身体に入られてしまって」

「そんな事ないよ。綺麗なエルバートと入れ替わってよかったって思ってるくらいよ」

ゆりがそういうと、エルバートはくすっと笑った。

「あの戦いで、私がどれほど緊張して恐怖を感じていたか。恥ずかしい話ですが、緊張のあまりに病院で薬をもらったほどなんですよ。

戦いでも手が震えていました。あれに比べれば、こんなことは何でもないですよ。本当に」

「エルバート・・・」

「王妃を慕う方たちと接していると、自分が本当に王妃になっているようで気分がいいですよ」

エルバートは笑って言った。

「エルバートったら・・・」

ゆりもくすっと笑った。

「そうだ、カーライル様とはどうですか？その事が気になっていたんですが」

「水蛇様？こっちが話しかけると嫌味がかえってくるくらいよ。しょっちゅうあっちからは何も言ってこないよ」

「そうですか。カーライル様には戦についていろいろ助言をしていただきました。本当にありがたく思っているんです。」

「そうなんだ」



いいとこあるんだ。カール様♪



カーライルからの返答はなかった。

「もうちょっと待っててね。エルバート」

ゆりはようやく明るく言った。

「はい」

エルバートも明るく言って部屋を出て行った。



ああ、入れ替わったのがエルバートでよかったな。



ゆりはそう思った。



カール様までいたのはあれだけど・・・一緒にずっといると前ほど嫌ではなくなってきたかも。ねーカールのおじ様もそうでしょ？



ーお前・・・様つければいいと思ってるだろ。


うん。


ー・・・・・


「私と別れる時はきっと寂しいよ」


ー全然寂しくないと思う・・・


「元に戻ったら喧嘩しようね。今は私が不利だから」

ゆりは持ち前の気楽さを取り戻していた。




夜、ラクシュミが自分の寝室に行くと、ベッドに男が寝ていたのでぎょっとした。

よく見るとエルバート姿のゆりだった。

「えへへ、寂しくなったから来ちゃった」

ゆりが笑って言った。

「びっくりした。」

「王様」

ラクシュミがベッドにあがると、ゆりはラクシュミに抱きついた。

「・・・なあゆり、元に戻ってからにしてほしいんだが・・・」

「ねえ王様、もし私が一生このままだったらどうする？」

ゆりはラクシュミを見つめて聞いた。

「え？」


また答えにくい質問だな・・・とラクシュミは思った。


「私のこと愛してくれる？」

「ああ、まあ・・・・」

「本当？」

「一生戻らなかったら、とか不吉な事は言わないでくれ」

「つい」

その時、ゆりのひざの上に突然白い塊が出現してゆりはびっくりした。

「うわっ！何？！」

「あ、赤ん坊だ」

「え？赤ちゃん？本当？やった！やっと見れた！」

ゆりは大喜びして白いぼやけた赤ちゃんを抱きしめるようにした。今までゆりが眠っている時にしか赤ん坊は出てこなかった。

おなかの中にいる間に見れたのは初めての事だ。

「すごーい！感動！」

よく見ると、ちゃんと赤ちゃんっぽい。頭の方は銀色っぽい髪がちょこんとついていて瞳は金色だ。

「すごく小さい！すごい！」

赤ちゃんの大きさは40センチほどだが、おなかの中ではまさかこんなに大きくはない。幻だからこの姿なのだ。


「前よりもはっきりしてるな」

ラクシュミが言った。


「そうなんだ・・・赤ちゃん私がお母さんって分かるのかな？」


ーきゃは・・・きゃはは


「笑ってる〜かわゆーい。会いに来てくれたんだねーうれしいよー」

ゆりはとろけそうなほど甘い顔で赤ん坊を見つめていた。



ーきゃは、きゃはは、きゃはは


「まだどっちかはわからないかな？」

男なのか女なのかはよくわからない。とにかくゆりにはかわいくてたまらなかった。ほおずりしている。


「・・・・」


かなり強い力を発しているな。



ラクシュミはそう感じた。




ゆりのおなかにいる時にはさほど感じなかったのだが・・・・

こうやって見るとすごいな。

しかも、なんだか奇妙な気だな・・・・上の子らとはちょっと違うな・・・



赤ん坊の気は、ラクシュミの気といろんな男達の気、ハザークの気が混じった気なのだが、ハザークの気の割合がかなり強い。

それでどうも奇妙に感じたのだった。



まあ、結構ハザークの気をもらったからかもしれないが・・・



「こっんにちは、赤ちゃん♪わったしが、ママよ〜」

ゆりは赤ちゃんの脇に両手を入れて上にあげてみた。感触はないのに赤ちゃんはちゃんと上にあがっている。



ーあーあー・・・



赤ん坊の足がぶらりと揺れた。ラクシュミは赤ん坊の足の裏に目を留めた。


ん？


片方の足の裏に金色の蛇のうろこのような模様がぼんやり見える。



なんだこれ・・・・

まるでハザークの模様みたいじゃないか・・・


「はい、お父様もだっこ」

ゆりは赤ん坊をラクシュミに渡した。


「どうしたの？王様ぼんやりしちゃって」

「別に・・・」



ーあーあー


赤ん坊はラクシュミを見上げていた。



私の子供、だよな。そういう感じはする。



ラクシュミは腕の中の赤ん坊をじっと見つめていた。

自分の子供でなければラクシュミには分かる。紛れもなく自分の子供だと感じるのだが、

どうもおかしい。



髪は銀色だしな。

それにゆりは赤い月の間は他の男と会ってはいないはずだ。



「ねえ、王様、この子自分でおなか帰れるの？」

ゆりは笑顔で聞いた。

「ん？ああ、一応連れて行く」

ラクシュミはそう言って消えた。

「赤ちゃんまたねー」

ゆりは手を振った。



ラギの寝室には二つベッドが置かれて、そこでラギとエルバートは眠っていた。



うーん・・・おかしなことがあるもんだ・・・


ラクシュミは赤ん坊を上に上げてもう一度下から足の裏をのぞいてみた。

右足の裏にだけ金色の線が見える。


うーむ・・・・


ーあーあーあー


「うーむ」


ーあーきゃはは


「うーむ」

ラクシュミはずっとうなっていた。



朝になり、ゆりは笑顔で子供達に赤ん坊に会えたことを話したのだった。

「えーいいなあ！どうして呼んでくれなかったのー？私もみたかったよー！」

アナスターシャは悔しがった。

「僕もだよ。いいなあ」

とシス。

「性別は分かった？」

ラギが聞いた。

「ううん。まだ。でもかわいかったー！」

「あたしも見たかったなあ・・・」

「僕も」

ナナミとロイも言っていた。

「そのうちまた追いかけっこに出てくるかな？」

とアナスターシャ。

「ははは、まあロイやナナミほどやんちゃじゃないよ。きっと」

シスが言った。傍らではエルバートはゆりの笑顔を見てにこにこ微笑んでいた。


その頃、城の中の別室ではー


「あの、王、どうかなさいましたか？」

侍女に聞かれてラクシュミが「ん？」と顔を向けた。

「何がだ？」

「先ほどから、ずっとうなられていましたので・・・」

「そうか？」

ラクシュミは軽く朝食を食べていたのだが、時々「うーん」とうなっていたので、侍女が気にして声をかけたのだった。

ラクシュミは自分で杯に酒を注いだ。しかし杯が一杯になってもやめなかったので酒が杯からあふれてこぼれていた。白いテーブルクロスが

紫色になっている。

「王・・・」

「あ」

ラクシュミははっと気づいて酒を置き、また「うーん」とうなっていた。


二人いた侍女は、いつもと違う王の様子に首をかしげたのだった。



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