「・・・・・」

「あの・・・・王・・・・」

「・・・」

「王？」

「なんだ？ミカエル」

「え？」

ラクシュミは目の前にいる男に目を向けた。だが、そこにいたのはミカエルではなかった。

同じ黒髪であったが、年齢もミカエルよりはかなり上だし、一族の男にしては珍しく腹周りが大きい男、ジェダンだった。

「あれ？ミカエルは？」

ラクシュミが王の間を見回したがミカエルはいない。

「かなり前にいなくなってますよ？私の話聞かれてました？」

「すまん。全然聞いてなかった」

ラクシュミは素直に言った。

「やはり・・・」

ジェダンは去年の後半から今年の前半にかけての、酒の他国への売れ行きなどを報告していたのだった。ラクシュミはぼんやりしていた

のでどうもおかしいと思っていたが。

ジェダンは報告書を閉じた。もう一度話す気もないようだ。

「お疲れの様子ですね。戦も終わったことですし、もう少し休まれた方がよいですよ」

ジェダンがラクシュミの身を案じるように言った。

「大丈夫だ。ちょっとぼんやりしていただけだ」

「そうですか。ならよいのですが、無理なさらぬように」

ジェダンは頭を下げて王の間を出た。



王の間を出てジェダンはひそっと番兵に聞いた。

「今日の王はちょっと変じゃないか？」

「はあ、今朝からなんですよ。ずっとぼんやりされてるんです」

番兵も小声で答えた。

「そうなのか？」


ジェダンが出て行った後も、ラクシュミはぼんやりし続け、次の者の報告も、さっぱり聞いていなかったのだった。


第43話


「王妃〜」

ノックしても返答がなく、伺うようにミカエルがゆりの部屋に入ると、ゆりは立ったまま前に身体を折り、床に両手をついていた。


「何やってるんですか？」

ミカエルが近づいて聞いた。ゆりはまだエルバートの中に入っている。

「運動してるの。私が入ってる間に太ったら悪いと思って」

ゆりは身体を上げて言った。

「運動」

「ちょっと手伝って」

「はあ」

ゆりは両手を挙げて、身体を横に曲げてミカエルと両手をつなぎ、手を引っ張ってもらって横向きでぐいっと身体を伸ばした。



「それで何か用だった？」

ゆりがそのままで聞いた。

「王妃がしょげてるって聞いて来たんですよ。」

ミカエルもそのままで答えた。

「今日はしょげてないよーうーん。気持ちいい」

「いつになったら戻るんです〜？」

「さあねえ。今度は反対」

反対側の身体を伸ばした。その時ノックの音が聞こえた。ほっておいたら扉が開き、ハインリヒの顔が見えた。

「何やってるんですか？」

ハインリヒは両手をつないで引っ張り合っている二人に聞いた。



ハインリヒもゆりのご機嫌伺いに来たようだ。ゆりは一人で両手を横に振り腰をひねった。

「もうしょげてないよー。ミルキダスとエルバートが慰めてくれたし」

「王妃・・・エルバートに恋しちゃったりしないでしょうね」

ミカエルが怪しんで聞いた。

「え？別に・・・」

「本当ですかあ？」

「多分」

「王妃の多分は全くあてになりませんよ」



エルバートの身体を使わせてもらっていると、恋愛感情ではないが、親しみのようなものは感じていた。


エルバートとはお友達って感じかな・・・それがしっくりくるなあ・・・



「早く王妃の胸に触りたいなあ・・・」

ハインリヒが言った。

「触ったら？エルバートに」

「え・・・中身が違うとちょっと・・・変な男だと思われそうで嫌です」

「じゃあ今触る？」

ゆりが笑って両手を広げた。

「それも嫌です」

ハインリヒはきっぱり言った。


「私も戦が終わったらゆっくり王妃といちゃいちゃしようと思っていたのになあ」

ミカエルがため息交じりに言った。

「あっちの私の方がかわいいんでしょー？」

ゆりが横目で言う。

「だって最近の王妃ははじらってくれないんだもーん。昔はすぐ頬がぽっと赤くなってかわいかったのに」

「む。ミカエルだって最初はもっと違ってたよ。」

「そうでしたっけ？」

「そうだよ」

「でしたっけねえ」

ミカエルは首をかしげた。

ミカエルに乙女のような気持ちで憧れを抱いた時の事は、今では懐かしい思い出だ。


「まあ、ミカエルはもう二人の子持ちのおっさんですからね」

とハインリヒ。

「おい、誰がおっさんだ。私よりもお前の方が年齢上だろ？」

「私は身も心もまだまだ若いですよ。この前王子と学校行ったらすごい人気でしたよ。キャーハー様って。」

「ハー様？」

ゆりもミカエルもぎょっとした。

「じゃあミカエルはミー様？」

ゆりは笑って言った。

「フリットはフー様ですか？」

「ハー様にミー様、おっかしい」

ゆりはけらけら笑っている。


「そうそう、王妃はそうやっていっつも笑っててください」

ハインリヒが笑みを浮かべて言った。

「笑ってる王妃が一番かわいいですよ。」

ミカエルも微笑んで言った。


「神の国ではおしとやかにしなきゃだめですよ。だめですよ。もう股間蹴っちゃ」

ハインリヒがゆりの手をなでて言った。ゆりはぎょっと目を見開いてミカエルを見た。

「もしかして言った？」

「言ってしまいました」

「もー！秘密だったのに！」

「それじゃ私はこれでー」

ミカエルは舌を出して消えた。

「今の王妃ならその時の痛みも理解できるんじゃないんですか？」

「そうねえ、多少は・・・・って何言わすのよ！」

「はははは。私もこれで」

ハインリヒは優雅に礼をして消えた。


「もー何なのよ・・・・」


一応は慰めに来たんだろうけど・・・・


「おしとやかにしようにも神の国に行けないのよねー」

ゆりはため息をついた。ハロルドが再びやってきてくれる事を祈るしかない。




ー神の国ってどんなだ？

カーライルが聞いてきた。


「泉では裸の妖精や女神が毎日水浴してるよ。皆美女ばっかり」



ー行ってみたいなあ・・・何でお前が行けてるのかがよくわからない。純粋で可憐な乙女が行くというのならわかるが・・・


「純粋で可憐な乙女だから行けてるんですよ」

ゆりが負けじというと、カーライルの反論はなかった。きっと絶句しているのだろう。


ふふふ、勝った。


ゆりは腰に両手をあてて胸をそらせたのだった。



一方、ゆりの身体に入っているエルバートは王の間にいた。ラクシュミのお呼びがあり、やってきていたのだ。

エルバートはラクシュミの前で軽く両手を身体の前で合わせて立っていた。ラクシュミはじっとエルバートを見ている。



うーん、今はわからないなあ・・・・



子供の気が昨晩はよくわかったのだが、今はゆり自身の気と混じってよくわからなかった。子供の強い気を感じるだけだ。



自分の気とハザークの気は強く感じることは感じるのだが。



うーん、昨日のあれは気のせいって事はないだろう。

足の裏に金色の線があったしなあ・・・目の錯覚？いやまさか。



エルバートはラクシュミが黙ったままなのでちょっと首をかしげた。

「あの、御用はなんでしょうか？」

「・・・・」

「王？」

「あ？ああ。入れ替わって随分経ってしまったが、どうだ？」

「私は快適ですよ。友人らがなんで私が城にずっといるのか怪しんでるようですが」

「そうか。まあそれはそうだろうな。まあ元気ならばいいんだ。行ってもいいぞ」

「はい」

エルバートは歩いて王の間を出て行った。




その夜、ゆりはまた王の寝室にいた。今夜は、ラクシュミに呼ばれていたのだった。

ラクシュミは早めに寝室にやってきた。

「今日も一日ご苦労様でした」

ゆりがラクシュミの顔を見て言った。

「ああ・・・・お前なんて格好してるんだ・・・」

ラクシュミはゆりの服を見て目が点になった。ゆりはフリルのついたピンクのネグリジェを着ていた。

「かわいいでしょ？エルバートってこういうの似合うから参るよね」

全然違和感がない所が憎らしい、とゆりは思った。


「・・・・まあいい、ちょっとまじめな話があるんだ」

「はい？」

ゆりはベッドの上に正座をした。ラクシュミもベッドの上に座った。

ゆりは何の話かどきどきしていた。ラクシュミはいつになく真剣な表情だ。


「話ってのはな・・・」

「はい」

「お前の愛について知りたい」

「愛？」

「愛についてだ」

愛・・・・？


ゆりはちょっと首をかしげた。

「お前、私のこと愛してるのか？」

その質問にゆりは一瞬ぽかんとしたが、すぐに「愛してます」と言った。

「どうしたの？いつもはお前が私を愛するのは当然だ、とか言ってるのに」

「じゃああの時の私についてはどうだ？」

ラクシュミはゆりの質問には答えずに聞いた。

「あの時ってあの時？」

「あの時だ」

ゆりの頬がちょっと赤くなった。

「あの時の王様は、はっきり言って今の王様よりも断然愛してる」

ゆりは拳を握り締めて言った。


「今の王様よりもずっと素敵だもん。ゆり、かわいいなっていっつも言ってくれるし、夜はすっごい優しくて二人でずっと

いちゃいちゃできるしーそれにねー愛してるって言ってくれるんだもん。うふふ」

ゆりはにやけた顔で言った。

「・・・・・」

「もっと聞きたい？」

「もういい。なら聞くが、赤い月の間、他の男と会ったりなんてことは・・・」

「するわけないでしょ。そんな恐ろしい事。誰かと話しただけでも殺されかねないよ」

ゆりはまじめに言った。

ラクシュミは少し首をかしげていた。


「・・・質問って、今の事？」

「まあ・・・そうなるな」

「どうしたの？突然」

「私は赤い月の間の事はちらほらとしか覚えてない。ずっとお前と一緒なのかどうなのかちょっと疑問に思っただけだ」

「ずっと一緒よ。おトイレ以外。だっこちゃんみたいに王様にへばりついてるもん」

「そうか・・・」

「そうよ？」

「分かった。もう寝ていいぞ」

「そう？」

ラクシュミは一応もう一人のゆりも呼び、同じことを聞いた。だが返答も同じだった。



もしやゆりが私を裏切ったのかと思ったんだが・・・違うようだな。



ラクシュミにとっては、普段ゆりが誰と何をしようがたいしてなんとも思わないのだが、赤い月だけは別だった。

その間だけは、ゆりを独占していたかったし、記憶はあまりなくてもてっきりそうだと思い込んでもいた。

だから昨日の子供を見てショックを受けたのだ。

いくら相手はハザークでも、赤い月の間だけは許す事はできない。

だが、今のゆりの様子ではどうやら違うようだ。


子供の足の裏のあれは・・・なんだったんだ？はっきり見えたんだが・・・


どう考えてもよくわからない。


まあ完全にハザークの子供だと思ったわけでもなかったんだが・・・

だがゆりが裏切ってなくてよかった。来年の赤い月が怖かったぞ。



昨晩、嫉妬した自分が赤い月にゆりにひどい事をする夢を見てしまい、ラクシュミはそれだけは免れたと安堵したのだった。




ラクシュミの横で寝ていたゆりはようやく神の国に行けて、やったと小さくガッツポーズしていた。



よし、ハロルドに会いに行こうっと♪



目の前には真っ白なテーブルを囲むように３人の女神達がいた。どうやら歓談していたようだ。他のテーブルにも女性達がいる。

場所は雲の上の神殿っぽい。

「それでは私はこれで」

ゆりは女神達ににこやかに挨拶して部屋を出た。



ここも久しぶりだなあ。ハロルドどこにいるのかな？



ゆりは移動した。だが全然場所は変わらない。

「あれ？」

その時、通路を歩いていくグレンが見えた。

「グレーン」

ゆりは呼び止めて近づいて行った。後姿だが、サンダルの羽で分かったのだ。

「ガーベラ様」

「ねえ、ハロルドって今どこいるか知ってる？」

「ハロルド様ですか？さあ」

グレンは首をかしげた。

「会いに行こうと思っても会えないの」

「人間界に降りられてるのではないんですか？」

「え？そうなの？」

そういえば・・・・と以前ジンラに会いに行こうとして会えなかった事があったと思い出した。

「そうなの。なんだあ」

「急用だったんですか？」

「うん。ちょっと」



せっかく神の国に来たのに会えないなんて・・・・ひどい


唇を尖らせていると通路の曲がり角から豪華な翼を持ったラーズがやってきた。

「あ、ガーベラ。ちょうどよかった。広間で演奏会をするから女神達を呼んでこいとアシュランに言われたんだよ」

ラーズはにこにこしながら近づいてきた。

「え、演奏会！？」

「ああ、もう10人ほど集まってるんだ。竪琴でも弾いてくれよ。歌でもいいし」

「あ！重要な用事を思い出した！それじゃね！」

ゆりはでかい声でそう言って消えた。

「え？」

ラーズはぽかんとしている。グレンは少し間をおき、何かに気づいてぷっと笑っていた。



歌も竪琴も冗談じゃないわよ！ガーベラじゃないってばれるじゃないの！



ゆりはとっさにジンラの元に移動した。

「やあガーベラ」

ジンラがゆりを見てにこやかに言った。ジンラはお酒の瓶を持って立っていた。笑おうとしたゆりは周りを見て蒼白になった。

広い広間で、部屋の隅にはいろんな楽器が置いてあった。男の神が10人ほどちらばっている。女性達が果物やお酒の用意を

していた。

なんとジンラは雲の上の神殿の広間にいたのだった。

「ちょうどよかった。今から宴会なんだ。」

ジンラが微笑んだ。



なんでよりによってここにいるのよ！ひどいジンラ！



ゆりはジンラを涙目で見つめていた。

「？」



ラクアにするんだった！



広間にいたラクアと目があった。ラクアは小さく手を振っている。



だめだ！オルガかサラディン！


と思ったら、なんとその二人が一緒に広間に入ってきた。オルガはすごく眠そうな顔をしている。

「うげ」

ゆりは思わず言ってしまった。

「うげ？」

ジンラに聞かれてしまった。

「あ、あの・・・オルガは昼間寝てるものと思ってたから・・・おほほほ」

ゆりはあわてておしとやかな振りをした。

「そうだな。珍しいな。」

女の神達も次々とやってきている。広間が華やかになってきた。


「ガーベラ、今日はどの楽器にするの？」

他の女神に聞かれた。

「え、えーと、楽器は・・・」


ど、どうしよう！ピンチだわ！誰か助けて！


移動しようにも恋人は皆ここにいるから移動できなかった。ゆりは切羽詰っていたのでサントスが恋人だということはすっかり忘れていた。


「ガーベラ、風呂で歌う変な歌を歌ってくれ」

近づいてきたサラディンが言った。

「変な歌？」

オルガが聞いた。

「かえるがどうとかいう・・・」

「ご冗談を。それよりなんでオルガまでいるの？」

ゆりはオルガに聞いた。

「無理やり起こされたんだ。たまには集まりに参加しろとか言われて・・・」

「ひどいよう」

「何がだ？」

オルガは瞬いた。

「え、えっと・・・あっクーリーフンが呼んでる！」

ゆりは突然ひらめいたように言ってだっと広間の出口にむかった。

「え？」

オルガとサラディンはどこにクーリフンが？ときょろきょろ周りを見回した。


こうなったら逃げるが勝ち！

逃げろ逃げろ！


ゆりは出口から外に出ようとして誰かにぶつかった。

「あっ！」

ぶつかった男はハロルドだった。

「ガーベラ」

「ハロルド！」


今はハロルドどころじゃない。逃げなきゃ！


「さようなら」

ゆりはぶつかった鼻をなでながらハロルドの横を通り過ぎようとして腕を捕まれた。

「どこ行くんだ？」

「え？ちょっと外に・・・」

「今から演奏会があるんだろ？お前の演奏が聞きたいな」

ハロルドはゆりの腕を持ったまま前に歩いた。

「え！？あの・・・ちょっと今日は・・・ほら、あれ、ほれ・・・」

ゆりはどう言い訳しようかとしどろもどろだった。後ろ向きのまま広間に戻されている。

「よよよ用事があるんだから離してってば！」

「用事って何だ？」

ハロルドはちょっとにやっとしていた。


もしかして・・・気づかれてるかも・・・


ゆりが恨めしげに睨むと、ハロルドは腕を離した。

「そういえばカサンドラが会いたがってたぞ」

「え？カサンドラ？」

「ああ、早く行け」

ハロルドはゆりから離れて広間に入って行った。



あ、カサンドラといえば、サントス！移動できるかも！ハロルド感謝！



ゆりはそのまま移動したのだった。


「ガーベラは一体どうしたんだ？」

ハロルドが広間に入るとジンラが近づいてきて聞いた。

「ああ、今日は髪の巻きがいまいちとかで帰ったぞ。」

「髪？」

ジンラは首をかしげた。



笑い声と共に、ヒルデリアがやってきた。

サラディンが思わず目を向けていると、オルガに軽く小突かれたのだった。





ゆりが移動した先は農園だった。あたり一面土に覆われていて、サントスと娘のネルが何かを蒔いていた。

二人がゆりに気づいた。

「あ、お母さん！」

「ガーベラ！」

「サントス会いたかった！」

うれしかったゆりは涙目でサントスに抱きつき、驚いたサントスはそのまま後ろに倒れて気絶してしまったのだった。


ゆりはサントスとネルと過ごし、現実世界で目覚めた。

横を見ると、違うベッドにラギが寝ているのが見えた。

「あれ？」

ゆりはがばっと起きた。そして身体を見た。


「元に戻ったー！！！！」

ゆりは思わず叫んでいた。自分の身体に戻っている。その声でラギが目を覚ました。

「ラギ！元に戻った！」

ゆりは喜んで言った。

「え？本当？」

「やったー！やったやった！」

ゆりはベッドから降りてラギの両手を取って左右に振った。



もしかして私を戻すためにハロルド人間界に来ていたのかな？とゆりは思った。



「よかったねえ。あれ？お母さん枕元に何かあるよ」

ラギがゆりが寝ていたベッドを見て言った。

「あ、本当だ」

枕の横に、15センチくらいの巻貝が置いてあった。綺麗なピンク色だ。

「何これ。エルバートの？」

「違うと思うけど・・・」

「綺麗ねー知ってる？これ波の音が聞こえるのよ」

ゆりは巻貝を手に取った。

「波の音ってどんな音？」

ラギは海に行った事がないので、波の音は聞いたことがない。

ゆりは巻貝を耳にあてた。

「私の偉大さが分かったかー！これに懲りたら二度とあんな事するんじゃないぞ！！！」


あまりにでかい音が聞こえてきたのでゆりは「わっ！」と巻貝をほおりなげた。

「なっなんだこりゃ！」

「波の音聞こえた？」

ラギが聞いた。

「聞こえなかった。代わりにハロルドの怒鳴り声が聞こえた」

「ええー！！聞かせて聞かせて！！」

ラギが巻貝を耳に当てたが、神様の声は聞こえなかった。代わりに「ザザーン・・・」という静かな音が聞こえてきた。

「聞こえないよ。ザザーンっていう音が聞こえる」

「それが波の音よ。ああーびっくりした」

ゆりは耳に指を入れていた。

「ねえ、これもらっていい？」

「いいよ」

「あっ！今度はピヨピヨっていってるよ」

ラギが再び耳に当てると、今度はひよこの鳴き声のようなのが聞こえてきた。

「え？貸して」

ゆりがそんなばかなともう一度巻貝を耳にあてた。すると

「私の偉大さが分かったかー！！！」

とハロルドの声が再び聞こえてきて、びっくりしたゆりはまた巻貝をほおり投げた。

「なんで私だけ・・・・」

「面白いねー」

両耳を押さえたゆりにラギがおかしそうに言って巻貝を拾った。

「皆にも聞かせてあげようっと。エルバートも無事自分の身体に戻ったのかな？」

ラギの言葉にようやくゆりはその事に気づき、「しまった！」と声をあげたのだった。



自分の身体に無事戻ったエルバートは、朝起きて、真横にラクシュミの寝顔があるのを見てぎょっと驚いた。

そして自分の服を見てさらにぎょっとし、もしや昨夜何かあったのでは？としばしベッドの上で呆然としていたのだった。



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