第16話
濃い霧がかかった真っ白な世界に、ふわふわと緑色の半透明の蛇が宙を漂っているのが見えた。
霧の中、尻尾が見えたり頭が見えたり。
1匹、2匹・・・
霧の中消えたり現れたりしているのは長さの違う緑色の2匹の蛇である。
ここはどこだ？
夢？
蛇を追うように前へと進んでいくと、やがて一人の男がただずんでいるのが見えた。緑色の長い髪をした男である。
「あ・・・」
男が顔を向けた。そしてうれしそうに微笑み、左手を胸元にあてて優雅に礼をしてくれた。
「ディラン殿」
「お久しぶりですね。ヴィラ殿」
ヴィラも軽く頭を下げて礼を返した。
やはりこれは夢のようだ。再び二人の夢がつながったのだろうか。
前回二人はガウン姿だったが、今日のディランは緑のキラキラした上着にズボン、ぴかぴかのブーツ、ヴィラは屋敷でいつも着ているような
青いシャツに青いズボンといういでたちだった。化粧をしていないところからいってディランも普段着なのかもしれないが、普段着でも
ヴィラの服とは比べ物にならないほど高そうだ。そして派手だ。
「ってことは、この蛇は我々の蛇ってことですね」
蛇はまだ宙を漂っている。2匹でふわふわとー
自分の肌を見て確認したわけではないが、どうも自分の肌の蛇のような気がした。
夢の中だけ、二人の肌の蛇は自由になれるようだ。
「そのようですね」
ディランが宙を見上げて言った。
2匹の蛇は長さが違うだけで同じような色をしている。だが大きな蛇の方が色鮮やかで美しかった。
その色は、ディランの鮮やかな緑の髪の色のようだ。
「不思議ですね。こんな事があるなんて」
「本当ですね」
二人を隔てているのは遥かなる時の流れ。ヴィラが生きている時代ディランは存在すらしていないのだ。時の離れた二人を結ぶのは、
それぞれの肌にいる2匹の緑の蛇。
二度目ともなると、ディランとの会話も前回ほど緊張しなかった。古い友人に出会えたような感覚だ。
白い霧が晴れてきて周りの景色が見えてきた。
うっそうと木々が生える森の中だった。奥に岩の洞窟のような物が見える。
「おや、懐かしい、ここは昔よく遊んでいた場所ですよ」
ディランが周りを眺めて言った。
「そうですか。どこらでしょうか」
ヴィラにはすぐ見当がつかなかった。
「西にあるディカの森という所ですが未来にはありますかね」
「ディカの森・・・うーん、もうないかもしれないですね。聞いたことがないです」
「そうですか。子供の頃、ハインリヒやドルイドとよく森の中でかくれんぼをしたものですよ」
「へーそうなんですか」
「珍しい蛇を探したりもね」
「あ、そうだ、ハインリヒの彼女が今年妊娠したんですよ」
ヴィラが思い出したように言うとディランは目を輝かせた。
「そうですか。よかった！」
「ディラン殿は・・・」
「私はまだなんですよ。どうも陛下に思い入れが強いせいか、他の女性とうまくいかずにふられてしまうんですよ」
ディランは木にもたれて苦笑するように告げた。
「え？ディラン殿も振られる事があるんですか！？」
「ええ。ありますよ。それは」
「意外ですねえ・・・私の時代ならば一番強い男を振るなんてことはありえませんよ」
「私の時代は強い者が多いですからね。強さだけでは女性の心は動かないんですよ」
「はあー・・・・」
もったいない・・・・
ヴィラはそう思った。ディランは強いだけではない。見た目も穏やかで好感ももてる。そんな男を振るとはなんてもったいない。
「私の時代の女性ならば手に入れたら死んでも離れないですよ」
ヴィラの言葉にディランは笑っていた。
「まあ美しい女王様がいるんですから、他の女性になかなか目がいかないのも仕方ないのかもしれないですが」
「ヴィラ殿は御子様は」
「私の子供は20歳を超えた所ですよ」
「そうですか。かわいいでしょうね」
「生意気な事ばかり言ってますよ」
「ふふふ」
風が吹いてザザザと葉が揺れる音が聞こえてきた。
ディランの長い髪が揺れていた。宙を浮かんでいた蛇たちは見当たらなかった。ヴィラがあたりを探すと、二人から少し
離れた所で草の中とぐろを巻いている。2匹は顔を寄せていたので二人には分からない話でもしているのだろう。
ディランは奥の洞窟を眺めていた。
「最近よく子供の頃の事を思い出すんですよ。あの洞窟の中に、顔が三つある大きな蛇が住んでいるという伝説がありましてね。
探検したこともあったなあ」
ヴィラも同じ様に視線を向けた。
確かに奥が深そうな洞窟だ。
「へー・・・」
「あの時は大量のコウモリにまとわりつかれて大変でした。ドルイドは泣いていたなあ。無邪気でしたね。あの頃は・・・」
ディランは心底昔を懐かしんでいるように目を細めていた。
ヴィラはそんなディランの姿になんとなく、ただ昔を懐かしんでいるだけではないような、そんな印象を受けた。
「何かあったんですか？子供時代を懐かしむにはまだ若いですよ」
ヴィラが言うとディランは微笑んだが、一瞬泣きそうな悲しげな表情を浮かべたようにも見えた。
「ディラン殿？」
冗談だったのだが、本当に何かあったのだろうか。
「離れた友を懐かしんでいるとつい昔の事を思い出してしまうのですよ」
「そうですか、ならいいんですが・・・」
自分よりもここに来たのがハインリヒ殿ならよかっただろうに、そうヴィラは思った。
自分とて、もしジュノーがめったに会えない遠くに行ってしまったとしたら、同じように思うことだろう。
あたりに再び霧がたちこめてきた。ディランの姿も霧に消えてしまいそうだ。
もうすぐ二人の出会いも終わる。そんな予感がした。
「ディラン殿、王妃に何か伝言があれば！」
ヴィラはあわてて言った。
「皆元気だと伝えてください」
その言葉を最後にディランの姿は消えてしまったのだった。
７色の蝶に誘われて森に入っていくと、子供達が何かを探していた
聞くと、５色の蛇を探しているらしい
懐かしい
私も子供の頃、願い事がかなうという５色の蛇をよく探したものだった
一緒に探そうよ そう誘われて私も共に蛇を探すことにした
１人が歓声をあげた そして次にため息５色の蛇が見つかったのかと思ったが、どうやら一色足りなかったようだ
気づくと夕暮れ時だった とうとう５色の蛇は見つからなかっただが子供達はがっかりする様子もない
また探そうね そう言って子供達は笑顔で去って行った
「5色の蛇か・・・懐かしいな・・・」
ベッドの上で体を起こして本を読んでいたドルイドは懐かしげに目を細めていた。5色の蛇探しは今も子供達の定番の遊びだ。
自分も子供の頃は夕暮れ時まで蛇探しをしたものだった。
窓からは陽の光が差し込んでいる。天気もよさそうだ。
今もどこかで蛇を探している子供達がいるかもしれない。
ノックの音と共にディランの姿が見えた。
「ドルイド、どうだ具合は？」
「ディラン、また来たのか・・・」
ドルイドは少々呆れるように言った。
「またとはなんだ。別にいいだろう。何度きたって」
ディランはむくれている。
「だって昨日も来たじゃないか。別に大病人じゃないんだからそんなに来ることないのに」
「いいじゃないか。別に」
ディランはベッドに近づいて椅子に腰を下ろした。ドルイドの顔を見ると、今日の顔色はそう悪くはないようだ。
「それに陛下も私の顔を見るとドルイドの様子はどうだとお尋ねだからな」
「そうか・・・心配をかけてしまったなあ・・・」
ドルイドは申し訳なさそうにつぶやいた。ドルイドが倒れたのは5の月に入ってからのことだった。
仕事中に突然胸が苦しくなり倒れたのだ。
それから２月ばかり屋敷にこもっている。別に寝たきりでもなく今も起きてどこかに行ってもいいくらいの元気はあるのだが、
倒れてすぐの時は顔も真っ青で意識もなくなりかけたほどなので大事をとらされていたのだ。
「今はもう随分いいんだけどな。仕事に復帰してもいいくらいだ」
「ばか。せっかくなんだからもうしばらく養生していろ。医者もそう言ってるんだろう？」
「バカとは言われてないぞ」
「そうそう昨晩夢でヴィラ殿にあったよ」
ディランの言葉にドルイドは瞬いた。
「そうか・・・まさか私のことは言ってないよね？」
「言ってない」
「よかった。病気で寝込んでいるなんて未来にまで知られたくないからな」
ドルイドはほっと胸をなでた。余計な心配などかけたくはない。
「私の子蛇も元気かな」
「元気さ。ハインリヒの恋人が妊娠したといっていた」
「そうかあ、よかったなあ・・・」
「ああ・・・」
「ハインリヒも父親か・・・」
ドルイドは遠い時代にいる友を思い目を閉じた。子蛇探しをした頃から一体どれほどの月日が流れたのか。
ハインリヒは今は遥か遠い未来の時代を生きているのだから人生どうなるかわからないものだ。
ディランは布団の上におかれている本を手にとってぱらぱらめくった。
「古代叙事詩か」
「ああ、暇だから読んでた。子供の頃は暗記で必死だったけど、今読むと昔とは違うなあ。5色の蛇の詩は今も好きだな」
「5色の蛇探し、昔探したっけな」
「うん。一度見つけたよね。ディランはあの時何を頼んだ？私は妹が丈夫になるように、だった。結局あの願いはかなうことは
なかったんだなあ・・・」
「私は強くなりたい、だったかな。ありきたりだった」
「そうか・・・」
その蛇を見たのはほんのわずかな間の事だった。5色の蛇はすぐに草むらの中をするすると移動していってしまい、3人で探したものの
それきり見つかることはなかったのである。
「ハインリヒの子供が生まれても見る事が出来ないのが残念だな・・・」
ドルイドがそうつぶやいた。
「そうだな。男の子ならハインリヒそっくりの悪がきに育つかもな」
「女の子なら想像がつかないなあ・・・」
「そうだなあ・・・」
しばらく歓談してディランは屋敷を後にした。
元気そうだ、よかった
ディランはドルイドの様子にほっとしていた。
医師によると原因は心臓にあるようだ。この時代でも病気は魔法で治すことはできない。
ドルイドの妹も若くして亡くなってしまったが、ドルイドの父親もまた、130歳前後で亡くなっていた。
父親の死の原因は心臓の病だということだった。
そのためドルイドの心臓が弱っているという話を聞いた時には、ディランはかなり動揺してしまったのだ。
今年に入り一時に比べてドルイドの気の強さが弱まっていたので体調が悪いのではないかと聞いてはいたのだが、ドルイド本人は
ちょっと疲れているだけだと言っていたのだった。
人の心とはなんと弱いものなのか
友が病床についたというだけで、こんなにも心もとなく寂しい気分にさせられるとは
こんな弱みは騎士仲間には見せたくはない。弟にも、ましては女王陛下にも。自分の方が大丈夫だからと相手を労わる立場なのだから。
ハインリヒが側にいてくれたならば、とふと思ったのだった。
誰かと話したい、そう思っていたから昨晩未来の友と出会えたのかもしれない。
そうディランは思った。
前回出会った時も確かそういう気分の時だった。一番騎士としてではなく、対等な立場で誰かと話したいと思うことがたまにあるのだ。
彼のあの調子ならば未来の皆は何事もなく元気なのだろうな・・・・
ゆり様ももうお子様が生まれているだろうな
ディランは無意識の内にゆりの石像がある、城の周りの噴水がある庭園へと飛んでいた。ドルイドではないが、ディランもゆりの石像には
時々心が慰められている。噴水の周りは驚く事にかなりの人だかりだった。騎士達もいるし町の人たちもいる。
「おお！」
「きれー！」
と歓声があがっている。何事かと聞くまでもなかった。あたりを大量の蝶が飛んでいる。
しかも飛んでいる蝶の羽は様々な色にきらきら輝いていた。
「7色アゲハ・・・こんなに一杯・・・」
ディランも驚いていた。たまに一羽二羽見かけることはあるのだが、今宙には100羽ほどの蝶が飛んでいた。
これだけ大量の7色アゲハを見たのは初めてだ。
人々のざわめきが一段と高くなってきた。噂を聞いた女王ヴィラルージュが姿を現したようだ。
横にはフークスと王子アゼルの姿もある。
「わーすごい！」
アゼルは大喜びで蝶を追っていた。
「すごい蝶じゃのう・・・何かの前触れだろうか・・・」
女王が宙を見つめてつぶやいた。
「良いことの前触れですよ。きっと」
とフークスが答えた。
ふとみると、ゆりの石像の手元にも蝶が止まっていた。石像の周りは今も様々な品物が円を描くように置かれている。
ドルイドが掃除できなくても、庭師がちゃんと石像を磨いて品物の整理をしていた。
悪いことなんて起きることはない。そうですね。ゆり様・・・
ディランはゆりの石像に心の中で話しかけていた。
「そうよ」と答えるかのように石像は微笑んでいた。
「すいません。王妃の事言うのすっかり忘れてました」
一方未来では、ゆりを前にしたヴィラが申し訳なさそうに頭をかいていた。ここは城の庭園にある東屋である。
ヴィラの横にはハインリヒも座っている。今日は天気がよかったので東屋で話をしていたのだ。
あたりをひらひらと黄色い蝶が飛んでいた。
「ハインリヒ殿のことが先に浮かんだので・・・」
夢から目覚めたヴィラは、ゆりが子供を産んだ事を言うのをすっかり忘れていた事に気づいたのだった。
「まあいいよ。私なんてしょっちゅう産んでるから別に珍しくないし・・・」
ゆりはいじけるでもなく言った。だがさすがに今度の子にはハザークの血が混じっていると聞いたら驚くに違いない。
「探検した洞窟今もあるかな？」
ゆりはハインリヒに聞いた。
「残念ながら今はないんですよ。前に調べたら地震で洞窟がつぶれてそこらは小さな町ができてましたから」
「そう・・・・」
「なんだかディラン殿寂しそうでしたよ。ハインリヒ殿によっぽど会いたかったようですよ」
ヴィラが言った。
「らしくないな・・・」
もちろんディランが会いたい会いたいとヴィラに言ったわけではないのは知っていたが、そういう雰囲気をかもしだしていた、
ということは自分に何か相談したい事でもあったのだろうか、ハインリヒはそんな事を感じていた。
ディランは一番騎士として騎士達を束ねる立場。悩みといえば尽きることはないだろう。
「子供の頃を思い出して懐かしくなったのよ。二人で悪さの限りを尽くしたんでしょ？」
「そんなに悪くなかったですよ」
「ディランにはまだ恋人はできていないのかあ・・・ドルイドにはできたかな。あのディランが振られるなんて、なんてもったいない」
ゆりもヴィラと同意見だった。
「まあディランは異性関係に関しては器用そうに見えて不器用ですからね。仕事にかまけて女性をほったらかしておいたんじゃないかな？
あの時代は今と違って恋愛感情も重要ですからね。女王を愛しすぎて他の女性になかなか目がいかないってのもあるかも」
「そうかもね。ハインリヒみたいに器用じゃないのね。ディランは」
ゆりの言葉に、「私は実は不器用な男なんです」とハインリヒは真面目に言っていた。
「ハインリヒは器用だと思うよ」
「器用ですよ」
ヴィラまでゆりに同意し、ハインリヒは「そうかなあ」と首をかしげていた。
ゆりが東屋の外に目を向けると、ピンクの花が咲いた低木の垣根の所にキラキラ輝いているものが見えた。目をこらしてみると
それはゆっくりと動いている。ピンクの花に蝶がとまっているのだ。しかもかなり綺麗な羽をした蝶だった。
「あ、みてみて、珍しい蝶がいるよ！」
ハインリヒとヴィラが目を向けた。
「あっ7色アゲハじゃないですか！」
ハインリヒが声をあげた。過去の時代でたまにみかけたのと同じ蝶だ。
「へーあれが・・・初めてみましたよ」
とヴィラ。
「7色アゲハはこの大陸ではもういないようだとラギ様はおっしゃられていましたが・・・まだいたんですねえ・・・」
ハインリヒが懐かしげに言うと、ヴィラは気を利かせて子供らに思念を送った。
「御子様達に知らせましたよ」
「ありがとう。しばらくいてくれるといいけどなあ・・・」
蝶を捕まえるわけにもいかないので、ゆりはどきどきして蝶が飛んでいく方向を目で追っていた。
どうか遠くに行かないで、と祈りながら。
やがて子供達がやってきて離れた所から綺麗な蝶を眺めた。
「本当だ！まだいたんだねえ」
ラギが声をあげ、アナスターシャとシスも「これが噂の・・・」としみじみと眺めていた。
蝶は宝石のようにキラキラ輝いていて、様々な色が混じっていた。赤、青、黄色、本当に7色あるかは不明だが見る角度によっても
色合いが違うようだ。
「きれいねー見てごらん、ゴショク」
ナナミは蛇のゴショク連れだった。
蝶を捕まえようとしたロイをシスがあわてて防いでいた。ミシェイラは今昼寝中なのでここに来てはいない。
「7色の蝶と蛇か、縁起がよさそうな組み合わせですね」
ハインリヒが蝶と蛇を交互に見て言った。
「本当ね」
とゆり。蝶はやがてひらひらと遠くに飛んで行ってしまった。
「また見れるかなあ・・・」
アナスターシャがつぶやいた。
「見れるよ。一羽いたんだからきっともっといるよ」
「そうだよね」
ラギの言葉に子供達はうなずき、名残惜しそうに城に帰って行った。
そして再び過去ー
「7色アゲハの大量発生は良いことの前兆ですぞ」
城でその事を話していると、女王の間にやってきた長いあごひげの老人ムサカが女王に告げたのだった。
「これは陛下も来年はがんばらねば」
「何をじゃ？」
全く分からなかった女王は笑顔で問うた。
「ほほほ、赤い月に決まってるではないですか。文献によれば、昔7色アゲハが大量発生した次の年に、王に子供ができた
そうですぞ。陛下もがんばれば来年夢ではないですぞ」
途中から女王の顔は引きつっていた。
「私はまだそういう気には・・・」
「陛下！未来の事を思われるのならば、まず王族を増やさねばなりませんぞ。そのためには陛下がもっとその気にならねばー」
「それはそうじゃが・・・」
ムサカに熱く言われ、女王は全く反論できなかった。確かに未来の事を考えるより先に、自分ががんばる必要があるだろう。
だが女王は元々かなり淡白なタチなので、子供が生まれてからまだまだ赤い月でもその気になっていなかった。
後２、３年はいいかなーと思っていたのだ。
「やったあ！がんばって母様！僕は妹が欲しいです！」
王子がはしゃいでいた。
「陛下も未来のゆり様にあやかってがんばってください」
「はあ・・・」
女王は力ない返事を返した。
「まあまあ、ムサカ様、来年の事なんですからあせらないで・・・」
横ではフークスが苦笑していた。女王の間にいた他の騎士達の目は「やったあ」とばかりに輝いていたが、皆黙っていた。
いよいよ来年から女王の赤い月が再会か！？
その噂はすぐ騎士達の間で広まり、皆喜んでいた。レイアスも大喜びだった。
やったやったと子供の手をぱちぱちたたいている。女の子は父親と同じ緑の髪で緑の瞳をしていた。生まれた時から肌に緑の蛇が
くっついていた。もう3歳だ。
夜うれしげにレイアスがその事をディランに言うと、ディランは「はしたない奴め・・・」と渋い表情をしていた。
「兄さんだってうれしいでしょ。一番にお相手できるんですから」
「それを言うなというに」
「でももう巫女様が新しくできてしまったから、もし陛下が妊娠してもゆり様を呼ぶことはないですね。残念だなあ・・・」
今は新しい巫女が誕生していた。もし女王に子供ができてもその巫女が儀式をやることになるだろう。
「儀式、またゆり様とやりたかったなあ・・・」
「お前新しい巫女とまたする気なのか？」
「いえいえ、さすがにそれは・・・あの儀式はゆり様とだけのものですからねえ」
巫女が代わると相手をする男達も代わる。本人の希望によりまた儀式に名乗りをあげる事もできるが、ディランや他の男達はさすがに
そういう気はなかった。新しい巫女と体の関係にはなってはいない。
「ハインリヒ様に続いて兄さんもがんばってください」
「はー・・・」
レイアスの励ましにディランはやる気のない返答を返していた。
そして女王はその頃ー
「来年からがんばれとせっつかれてしもうた・・・もうちょっといいかなーと思っていたのに・・・」
「まあ早いに越したことはない。王族が増えるのはいいことだからな」
「それはわかってはおるが・・・」
「赤い月の前日その気になるようにまじないでもかけてやろうか？」
「まじない・・・うーむ・・・」
酒を飲みながら過去のハザーク相手に愚痴っていたのだった。
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