第17話

「ほっんとにかわいいです〜」

「かわいすぎる〜」

「癒される〜」

雲一つない晴天の昼下がり、ユリウスの屋敷には大人になりたてくらいの女性達が5人訪問していた。若い女の子達の間ではミニスカートがはやっているので

5人とも膝上までのミニをはいている。

「フランツ君、かわいい！」

「えへへ」

とユリウスの子供フランツは笑っていた。ユリウスとジェナサイトの息子フランツはこの7月で2歳になった所だった。黒髪で瞳はユリウスと同じ

青みがかった色をしている。顔立ちはユリウス似なのか繊細で綺麗な顔立ちをしていた。

「もう2歳なんですね。この前生まれたと思ったら早いですね」

「本当だなあ・・・」

ユリウスはしみじみとつぶやいた。今ではユリウスの生活はすっかり元通り。仕事も前と変わらず続けている。

変わった所といえば、子供が増えてジェナサイトがこの屋敷に居ついたくらいだ。フランツも赤ん坊の頃は何が悲しいのかことあるごとに泣いて

ユリウスを不思議がらせていたが、最近では言葉もよく理解するし、意思の疎通もできるようになった。それがうれしい所だ。

両親がいない間は召使達がフランツの世話をしていた。

といってもユリウスとジェナサイトがそろっていたとしても、たいてい世話をするのはジェナサイトの方だった。


「ジェナサイトって赤ちゃんの世話上手いな」

とユリウスは横でフランツのおしめをかえるジェナサイトに言った事がある。前に世話した事があるんじゃないか？というくらいジェナサイトは

てきぱきとおしめを変えていたからだ。

「お前は何もやらないな」

とジェナサイトはその時言葉を返していた。

「悪いのか？」

ユリウスはきょとんとした顔で聞き返したが、ジェナサイトは「まあ別に・・・俺も好きでやってるんだしなあ・・・」

と言葉を濁した。かえってユリウスに世話をされる赤ん坊の方が気の毒かもな、とジェナサイトは思ったのだった。



部屋の中はぬいぐるみや木のおもちゃであふれていた。大多数が贈り物に違いない。その中に女性達がもってきた

おもちゃが一つ加わった。木でできた胴体がくねる蛇だが、似たようなおもちゃはいくつかあった。

「フランツ君はユリウス様似ですね。将来美形になりますねえ」

たいていフランツを見た大人はこんな事を言う。

「そうかな」

「50年後が楽しみですねー」

「そうだな」

ユリウスは穏やかな表情で微笑んでいた。

「ユリウス様ったらすっかりお母さんの顔になって・・・」

ユリウスの男嫌いはかなり有名だっただけに、子供を産んでのこの変わり様に女性達は目を細めていた。

「ジェナサイトにはお前は全然かわらんと言われるがな」

「お二人仲が良いんだから〜」

と女性達はちゃかしている。ユリウスはちゃかされて照れるタイプではないので普通の顔をしていた。


女の子の中にはセリアも混じっていた。今日はたまたま休日が一緒の仲の良い者達で遊びに来たのだ。

「私黒髪の男性がタイプなんですよ。フランツ君、大きくなったら恋人にして」

セリアが言うとフランツは「いいよー」とあっさり答えていた。意味がわかって言ったのかは謎だ。

「もーかわいい！」

セリアはフランツを抱きあげた。

「ははは、誓約書にサインしてもらわなきゃ、絶対忘れられちゃうから」

と他の女の子。

「きっとその頃には、私なんて見向きもされないんだろうなー」

セリアがぐるぐる回るとフランツはきゃははと喜んでいた。

「ユリウス様似の美少年で力が強いなんていったらもう、女の子達の取り合いですね」

「皆はもう相手できたのか？」

ユリウスが聞いた。

「私らはまだその気がない組なんですよー」

「強い人にお呼びがかからなかったってのもあるけど・・・」

「セリアは誰にするか選んでるのよねー」

友人に言われたセリアは「別に〜」と口を尖らせていた。

「自分が相手を選べるなんてうらやましい！」

「そういうわけじゃないよー」

「まあ私のようなこともあるから焦ることはない。何かどうにもならない心配ごとができたら王妃に相談するといいぞ。

王妃ならいつでも適格な助言をしてくださるからな」

ユリウスは笑顔で断言した。自分に相談しろ、と言わない所がユリウスらしい。

「もしかして、ジェナサイト様と引っ付いたのはやはり王妃様の助言からなんですか？」

セリアは噂で聞いた事をずばり聞いてみた。

「そうだぞ」

いきさつはすっ飛ばし、ユリウスはそう言った。

「やっぱりそうなんですかー！」

「お二人の相性が良いことを王妃様は見抜かれていたんですね。すごいわー」

女性達は感心していた。


「とー、しーしてくる」

「あー」

フランツはユリウスに言って部屋を出て行った。

「とー？」

「フランツはなぜか私のことを『とー』でジェナサイトを『まー』というんだ。面白いだろ？」

ユリウスは気にする様子もない。

「そうなんですか・・・」


ージェナサイト様・・・ここではママっぽいんだ・・・・

ーなんだか想像できるね

ーうん


すっかりここでの生活の有様がばれたジェナサイトだった。



女性達は2時間ほど滞在して屋敷を後にした。この後は街で買い物の予定だ。

「ユリウス様とジェナサイト様の仲っていいよねー。いつまでも二人だけで仲が良いんだろうなあ・・・いいなあそういうのって」

「いいよねー」

「やっぱり一対一がいいよね。強い男は無理かもしれないけどさー」

「そうだねー」

「愛し合うってあこがれるなあ・・・」



国の中が平和になると、人々の間から滅亡への危機感が薄れていた。それとともに強い男の子供を残すのだ、とういう本能も

薄れる傾向にある。戦の前はより強い相手を獲得するのに必死だった女達も、戦が終わったらまあ身近な男でいいか、という風に変わっていた。


特に若い女の子達は子孫を残すよりも、『愛』という言葉に心惹かれているようだ。赤い月までの過程に時間をかけたいのだ。

ゆりが来るまでは若い男女も願いは『より強い子供を作る』その一つだったのだから、『最近の若い子達は前とは違うなあ・・・』とミカエル世代以上の

者達はよく口にしている。


「まあ私らはともかくセリアはがんばれ」

「そうそうがんばってハインリヒ様とくっつき！」

「えーなんでハインリヒ様って決まってるの？」

セリアはぎょっとして聞いた。

「だってハインリヒ様、恋人が一人妊娠して来年からは赤い月一人減るじゃん。ちょうどいいじゃん」

「せっかくなら一番とくっつきなよ。もったいない！」

「はー？？？」

「ハーってハー様のどこが不服なのよー私ファンなのにー！」

と友人に睨まれた。

「そっちのハーじゃないよ。不服なんてないよ。ただ気後れ（？）してるだけで・・・」

「相手がハー様なら4人目でもいいなあ・・・」

「私もいい。10人目でもいい！」

「私はイシュタール様がいい！」

「私はミカエル様が好きだけどなあ・・・いい男なのに時々いい男らしくない所が・・・」

愛はどこへやら、皆楽しそうに言い出した。彼女らにすれば上級の男は憧れの人なのだ。



「せっかくだからがんばって一番強い子供作ってよ」

「私ら応援するからさ」

「がんばれーセリア！」

「がんばりたくない・・・」

周りは皆言いたい放題だ。

セリアはミカエルにも先日ハインリヒを勧められたところだった。

全く余計な事ばっか言うよミカエル様は・・・とセリアは思ったが、ミカエルはただ強い子供を次の世代に残したい、その思いが強いだけなのだ。

セリアだってそういうことは理解しているし、強い子供を産みたいと思っていないわけではない。

ハインリヒのことも嫌いなわけではない。


強いし、顔はいいし、知性もありそうだし、なにせ立ち居振る舞いも上品だし女性にも優しい。


だけど、ハインリヒ様って何考えているのかいまいちつかめない所が・・・・苦手なの！

どうせなら単純な男がいい。顔みれば何考えているかすぐ分かる人

それって中身子供ってことかも？

あんまり周りでがやがや言われるとそういう気もまるで起きないし・・・私って天邪鬼なのかもなあ・・・


友人達はしつこく「ハインリヒ様にお願いしなよー」とセリアに言っていた。

「夜も上手いよ？」

「なんで断定？！まさか相手お願いしたとか」

セリアが強張った顔で聞くと、友人は横に首を振った。

「うんにゃ。でもわかる」

「絶対だってーだって過去の騎士様なんだよ！？しかも一番！」

「いろいろ教えてもらえるよ？」

「やめれー！」

セリアは両耳を押さえて瞬間移動で消えた。

「あーセリアったら！」

「引っ付いたらいろいろ話が聞けるのになあ・・・」

友人達の目当てはそれらしい。




「はっくしょん！」

その頃ハインリヒは大きなくしゃみをしていた。

「あらら風邪？」

「いえ、誰かが私の噂でもしたんでしょう。きっと可愛い女の子がね」

「ふーん」

ここはゆりの部屋だった。暖かい日の昼下がり、長椅子に座るゆりの横にハインリヒが足を組んで座っていた。

「私はもてますからね」

「知ってるよ。性格はともかく顔はいいもんねー」

「顔がよくて力があればいいんですよー」

「べーだ」

言ったのはゆりではなかった。ゆりとハインリヒの真ん中に座っている男の子が言ったのだ。

男の子は黒髪黒い瞳で、強気の瞳をした子供だった。ハインリヒにも物怖じする事なく挑戦的な目を向けている。

くっきりした眉で髪は逆立っていた。この子は今年4歳になる。


「坊主いつになったら出てくんだよ」

ハインリヒが来た時から男の子はここにいたのだった。

「僕が先にきて王妃様と話してたら、お前が来たんじゃないか」

「お前！？なんて口の利き方だ。ハインリヒ様と言え！」

「やだよーん！」

男の子は目の下をひっぱりあっかんべーをした。

「こいつ！！」

捕まえようとすると男の子はぱっと部屋の中に瞬間移動していた。

「まあ！もう瞬間移動できるんだ！すごいじゃない！」

ゆりは思わず拍手した。すると男の子は照れたように頭をかき、その隙を狙ってハインリヒは男の子をとっ捕まえた。

男の子は吸い寄せられるように天井にぺたっとひっついたのだった。

「何するんだよー！じじい！」

男の子は必死にもがいていたが、背中も両手両足もぴったり天井にくっついていた。

「誰がじじいだ。ちょっと反省してろ！ハインリヒ様というまで降ろさないからな」

「誰が言うもんか！」

「こいつ・・・」

「ちょっとかわいそうじゃないのよ。やめてよ。ハインリヒ」

ゆりが口添えした。

「まだ4歳なんだからいいじゃないの」

「よくないです。この頃からちゃんとしつけておかないと後々ひどい大人になりますよ？」

「僕が大人になる頃お前はもうじいさんだろ！」

「まだ若いわ！」

ハインリヒは無邪気な子供に本気で怒っていた。

「失礼ながきだ！」

「ぷぷぷぷ・・・ふふふふふ」

ゆりは笑っていた。左目がいつの間にやら変わっている。

「ゼッドっておもしろーい！かわいー」

「ぜっんぜんかわいくないでしょ。こいつ本当にミルキダスの子供なんですか！？」

ハインリヒは半信半疑でゆりに訊ねたのだった。

この生意気な子供の名前はゼッド、ミルキダスの3人目の子供である。先日ミルキダスと話をした時に、「ゼッドは自分の子供とは思えない

んですよ。本当に不思議な奴なんですよ」とミルキダスが言っていたので、ゆりはどうしても会いたくなり今日ここに連れてきてもらったのだった。

ハインリヒが来るまでゆりはゼッドといろいろ話をしたのだが、その時はちょっと面白いくらいの男の子だった。それがハインリヒが来るなりこの変わりよう、

ゆりもびっくりだ。おっとりした一家になぜこんな面白い男の子ができたのか、ミルキダスとキャシーとジェシカはいつも首をひねっているようだ。

とにかく家の中ではいたずらし放題らしい。



「ミルキダスと性格は全然似てないね。ロイと仲良くなったら大変かもね」

「似てるから危険ですよ」

二人が仲良くなったら考えるだけで恐ろしいことが起きそうな気がする。

「降ろせよーじじい！ぐえ！」

ハインリヒは命一杯力でゼッドを天井にくっつけていた。

「でもハインリヒにこれだけ立ち向かうなんて・・・見所あるわあ。ゼッド」

蛇の目のゆりは感心して消えた。

「ただ怖い物知らずなだけでしょう。他人の力もわからないガキなだけですよ」

「そっちが邪魔したんじゃないか。僕が王妃様と仲良く話をしてたのに、割り込んできたからだぞ！」

「そうよね。ハインリヒが悪いよね」

「背中が痛いよー」

ゼッドは涙目になっている。

「降ろしてあげなさいよ」

「やです」

「痛いよう王妃様」

「その辺で許してあげて。まだ4歳なんだから」

ゆりに懇願されてハインリヒは仕方なくゼッドを降ろした。

「王妃様ー痛かったよー」

「大丈夫？」

ゼッドはゆりに抱きついていた。

「ごめんね。子供相手に大人げないんだからもー、ハインリヒの子供時代はもっとひどかったくせに」

ゆりはよしよしとゼッドの背中をなでていた。

「そんなことないですよ」


ーくそがき！


ハインリヒは憎憎しげに思念を送った。4歳ならばまだ思念を受け取る力はないだろうと思ったら


ーフン！お前なんて王妃様に捨てられろ！


ゼッドはゆりに抱きついたまま思念を送ってきた。どうやらそういう力ももうあるようだ。


このガキ！いつか殴る！


ハインリヒの瞳は燃えていたが、ゼッドはゆりに抱きついたまま離れなかったので何もできなかった。


むかつく上に悪知恵が働くガキだ！


ハインリヒはむっとしながら部屋を出て行った。すると廊下でミルキダスに出くわした。ハインリヒの瞳がきっと鋭くなった。

「ミルキダス！子供のしつけがなってないぞ！なんだあのガキは！」

ハインリヒはここぞとばかりにミルキダスに怒鳴り散らしたのだった。

突然ハインリヒに怒鳴られてミルキダスの目は真ん丸くなっていた。

「どうもすいません。ゼッドが失礼な事をしたようで・・・」

ミルキダスはすぐに謝っていた。どうやらいつもの事らしい。

「失礼な事どころじゃないぞ。全く！」

「すいません」

といって通り過ぎながらミルキダスの口元はちょっと笑っていた。


ハインリヒ殿にまでたてつくとは・・・怖い物知らずだなー・・・


ゼッドの性格はおっとりした姉達とまるで正反対といっていい。自分とも正反対だと言っていい。なぜあんなに生意気になったのか謎だ。

女性相手だとそうでもないのだが、大人の男相手だとなぜか挑みたがるのだ。

ミルキダスがゆりの部屋をノックするとゼッドが出てきた。

「あ、お父さん！」

「お前、王妃様にはおとなしくしていただろうな？」

「もちろん」

ゼッドは親指を上に立てた。

「本当ですかあ？」

ミルキダスはちょっと不安げにゆりに聞いた。

「私にはいい子だったわよ」

ゆりは笑って言った。

「でもハインリヒ殿は怒らせたんだろ？だめだぞ」

「だって僕と王妃様の仲を邪魔したんだもん。恋人みたく仲良くしてたのに」

「まっ！」

とゆりは驚いた。

「ゼッドどこでそんな言葉覚えるんだお前・・・」

ミルキダスは真っ赤な顔で呆れていた。


「もう行くぞ。それじゃ失礼しました。王妃」

これ以上何か言われちゃ大変とばかりにミルキダスはゼッドの手を引いた。

「楽しかったよ。またね」

ゆりが手を振るとゼッドはミルキダスの手を払ってゆりの側によってきた。そして何か話したそうに上を向いていたので、ゆりはしゃがんであげた。

「また僕の蛇見せてあげるからね」

ゼッドは耳元でそう言って去っていったのだった。


「まーませてる子・・・・」

さすがのゆりも呆れていた。4歳児にあんなセリフを言われてしまうとは。


大人になったらミカエルとハインリヒを足して２で割ったような性格になったりして・・・・



と思ったゆりだった。




「面白い子だったよほんと、それにすごい蛇だったし」

ゆりは夜ラクシュミに昼間の報告をしていた。


最初ミルキダスに連れてこられて二人きりになった時、ゼッドが「僕の蛇すごいんだよ。見たい？」

と聞いてきたので「見たい見せて！」と言ったのだった。ゼッドはうれしそうに上の服を脱いで蛇を見せてくれた。

確かにすごかった。赤い蛇が胴の周りを一回転していたのだ。しかも時々移動しているらしい。

「そうか。ゼッドに会えばよかったなあ、今度連れてこさせよう」

ラクシュミは興味津々だった。

「子供であんな蛇いるの珍しくない？」

「珍しいぞ。ゼッドは生まれつき蛇がいたからなあ。普通はもうちょっとしてからうっすらと出てくるんだ。将来有望だ。でかした。ミルキダス」

ラクシュミは美しい顔で独り言のように言っていた。肌の蛇がすごいと力も強いという傾向にあるからだ。

「3人できたんだからもう一人くらいできないかな。いやもう2人ほどいけるかもしれないな」

「もー王様ったらそういうことばっかり言って。ロマンがない！」

ゆりがぶーたれているとラクシュミは金色の瞳でゆりを睨んだ。

「ロマンで人口が増えるか」

「増えるかもしれないじゃない」

「どうやってだ」

と切り替えされてゆりは悩んだ。

「えーと・・・さあ・・・」

「私の使命は次の世代に出来るだけ多くの一族を残すことにあるんだ」

「わかってますよーだから私もがんばってるでしょ？」

「お前だけががんばってるんじゃだめなんだ。一族皆ががんばらないと。それでなくても最近の出生率はだな・・・」

「おやすみなさい」

ゆりは寝転んで布団をかけた。

「こら、私の話の途中で寝るな！」

「そんな話聞きたくないもん！」

「全く・・・」

ラクシュミも寝転んだ。

今日はミシェイラがいなかったのでゆりがそろりと手を伸ばすと、ラクシュミはその手の甲を軽くつねったのだった。

ゆりは手を引っ込めた。

「くすんくすん・・・」

「ん？なんだ？話の続きが聞きたいのか？」

「聞きたいです」

「そうか、ならしてやろう。最近出生率はうんたらかんたら・・・」

ラクシュミは寝転んだまましばらく最近の出世率がいかに低いかをゆりに語っていた。加えて最近の若い子らはなかなか赤い月にその気にならないとか

男も上手く女を誘えないとかそういう話もしていたが、ゆりはいつの間にか寝てしまい、結局その後のラブラブはなかったのだった。



その頃セリアはというと、昼間友人にごちゃごちゃ言われたせいで寝付けずにベッドでごろごろしていた。

友人らはまるっきり他人のことなので面白半分なのだから困ったものだ。


ああ、この際私の相手は王妃様に決めていただこうかしら。王妃様が「彼と仲良くなさ〜い」という男性なら一生仲良くできそうな気がする

いざとなったら私も相談しよう！



そう考えたら気が楽になった。



男よりも今の私はもっと仕事ができるようになりたいよー正直男どころじゃないよ

こんな事言ったら仕事減らされそうだから絶対言わないけど・・・


セリアの苦悩はしばらく続きそうだ。



数日後、仕事が休みだったミルキダスはキャシーとジェシカの屋敷に来ていた。娘達は学校だがゼッドはいるはずなのだが、いなかった。

いないのは屋敷の中が静まりかえっているのでわかる。加えて廊下に物が散乱していないのでもわかった。

「ゼッドならお隣ですよ」

といわれて隣の屋敷をのぞいてみた。庭の方から子供の声がした。

「くそじじいまた俺の頭殴ったんだぜー！酒の瓶割ったくらいでさーひどいだろ？」

「うん」

「全くひどいじじいだ」

ゼッドと同じくらいの男の子が頭をなでながら愚痴っていた。


やっぱりなーゼッドの言葉使いの悪さはここから来てるんだな・・・


とミルキダスは思った。そこに裏の方から幼い女の子がやってきた。女の子はこの屋敷の子ではなく、他の屋敷の子だ。

「ねえゼッド君恋人ごっこしようよ」

「いいよー今日何するの？」

「横に座ってお菓子のたべさせっこ！」

女の子はお菓子の袋を持っていたのでゼッドが「いいよー！」と目を輝かせた。

「僕もー！」

屋敷の男の子が声をあげたが女の子はつれなく言った。

「ガゼルは子供役よ」

「えーなんでー！？」

「ゼッド君の方がかっこいいから！」

「ひどい！」

「それにゼッド君のほうが将来有望だってママが言ってたし」

「えー！！！」

こんな子供の頃から容赦ないなあとミルキダスは隠れつつ思っていた。

「まあまあいいじゃん。恋人が二人でもさー、そういうの両手に花って言うんだぞー」

とゼッド。

「うーん、まあいいけど・・・」

「僕だって将来有望だぞ！きっと！」

「じゃあ3人で恋人ごっこ」


どうやらませた言葉もここで覚えているようだとミルキダスは悟ったが、だからといって友達と遊ぶな、とも言いにくい。

結局ミルキダスは子供達の遊びを邪魔することなく、すごすごと退散したのだった。



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