第19話
人間界に神話の本の改訂版が出回ってから、聖地では、月の女神ディアメラと火の神サラディンとの結婚話は
かなりの話題になっていた。
一生処女だと思われていた女神が結婚したというのだから、月の神殿の神官達の驚きは大きかっただろう。
本の内容の真偽を確かめるため、神官たちは祈りを捧げてディアメラにお伺いを立てたのだった。
するとある夜神託があった。
『結婚したというのは本当ですよ。実は父アシュランと大昔にした約定があり、今回サラディンと結婚したのです』
巫女の口を借りてディアメラは言葉を発していたのだった。神官達がざわめいた。
「まさかディアメラ様が結婚なさるなんて・・・・」
女神が男嫌いだ、というのは皆周知の事実だ。それなのに結婚生活は大丈夫なのだろうか、と皆心配していたのだった。
『大丈夫ですよ。夫婦は体が交わらねばならない、という規則はありませんし、私は私が思うままに夫婦生活を続けます』
「それはどういうことでしょうか？」
『言ったとおりの意味ですよ。それでは私はこれで』
女神は消えてしまった。
「一体どういうことでしょう？」
「夫婦になっても体は許さないということじゃないでしょうか？」
「それなら別に結婚しなくてもいいのでは？」
「まあ女神がお決めになられた事だ。我々は見守ることにしよう」
「そうしましょう」
神官たちは成り行きを見守ることにした。
だが、その話を小耳に挟んだ火の神官達は首をかしげていた。
「女神の思うままに結婚生活を続ける？もしや結婚しても処女を通されるつもりなのだろうか？」
「サラディン様がお気の毒だなあ・・・」
そしてそれをこっそり聞いたガーベラの神官達は
「ガーベラ様から離れるからそういうことになるんですわ」
「そうよね。サラディン様は一途な方だと思っていたのに、ちょっとがっかりだわ」
と口惜しげに噂していた。本によればサラディンの方が望んでディアメラを口説いたという事になっている。
二人の結婚生活が描かれていないのは、現在進行形だからだろうとの見方もされていた。
それぞれの神官達はアシュランを別格としてもちろん、その神を一番に崇拝している。
色恋沙汰になると自分の事のように怒ったり悲しんだりするのも無理はない。
「しかもお相手がディアメラ様なんて・・・」
ガーベラの神官達がぶつぶつ言っていると、クーリーフンが神殿の中に現れた。
「あ、クーリーフン様、ガーベラ様はどうなさっていますか？」
神官達はクーリーフンにあえてうれしいが女神の事が心配、という微妙な表情で聞いた。
「お母さん？元気だよ」
クーリーフンはいつも通り微笑みを称えて答えた。
「なら良いのですが・・・サラディン様のことで心を痛められているのではないかと私達心配していたんです」
「サラディンのこと？もうそんな話知ってるの？」
クーリーフンは瞬いた。
「本に出ていたんです」
「そうなの。まあ大丈夫だよ。心配しないで。それじゃ」
と言ってクーリーフンは神殿を出て行った。
そんな話わざわざ載せなくてもいいのにねー全く・・・
クーリーフンもちょっと困った様子だ。
その頃ガーベラはといえば、自分の神殿で長椅子に寝そべったまま大量の花を集めて一枚一枚花びらを引っこ抜いていた。
どうもショックを受けることがあるとそうするクセでもあるようだ。
ディアメラのきつい性格についてはガーベラも知っているが、サラディンがディアメラを好きになるというのがありえないとは
思わなかった。なにせヒルデリアをあそこまで愛したサラディンだ、ディアメラを愛することだってあるかもしれない。
案外上手く行く可能性だってあるわね。その時は・・・影ながら祝福しなきゃ・・・・
うう・・・・・あー・・・・・
ガーベラの周りはあたり一面花びらだらけになっていた。
「あーあ、何やってるんだい？」
花びらに囲まれたガーベラに声をかけたのは水の神ラクアだった。
「もしかしてサラディンのことで落ち込んでるとか？」
「別にい」
「サラディンに問いただしたの？そのこと？」
「ううん」
ガーベラは首を横に振った。
「やーよ。面と向かって『すまない。ガーベラ』とか言われたくない！」
ガーベラは声のトーンを低くし、眉の所に指を斜めにあててサラディンの顔まねまでしていた。
「ははは」
サラディンの顔まねにラクアは受けていた。
「ガーベラったら・・・」
「クーリーフンが聞きに行ったんだけど神殿の中はてんやわんやでよくわかんなかったって」
「この結婚はどうもおかしいよ。サラディンが結婚を申し込んだわけでもないようだけどなあ。
さっき火の神殿に行ってみたんだよ。熱かったからすぐ出たけど」
「そうなの？ど、ど、どうだったの？」
ガーベラはがばっと起き上がり身を乗り出した。
「サラディンはいなかったんで妖精と話をしたんだけど、どうもディアメラの方が押しかけてきたような事言ってたよ」
「え？なんで？ディアメラがサラディンにほれたの！？いつの間にそういうことになったのだろう？長年一人だったディアメラが
今更サラディンにほれたってこと？」
「よくわからないけど、そうらしいよ。あのディアメラがねえ、と僕も不思議だけど。君もサラディンに聞いてみたらどう？」
「うーん・・・」
「まあ僕としては恋人が減ったままの方がいいけどね。君が落ち込むのも心が痛いからね」
「ありがとうラクア」
ガーベラが礼を言うと、ラクアはにこりと微笑んでガーベラの頬にちゅっとキスして神殿を出て行った。
どういうことなんだろう・・・
サラディンに聞きたいのは山々だけど、今は距離をおきたいって言われたところだしなあ・・・
サラディンに直接どうなの？と問いただすのはどうも気がとがめた。かといってディアメラに直接聞くのはいやだ。
ディアメラとはここしばらく話もしていない。ある事があってガーベラはディアメラに嫌われていた。
顔をあわせるとぷんとそっぽを向かれる有様だ。
しばらく成り行きを見守ろう・・・
今は何もしないでおこうとガーベラは心に誓い、散らかった花びらを片付けはじめた。
その頃噂の主サラディンは雲の上にある神殿にやってきていた。
「アシュラン！どこにいるアシュランめ！」
アシュランの間に行くと、誰もいなかった。
「くそっ今日もいないのか！」
サラディンが拳をぶんとふって広間を出て行くとグレンに出くわした。
「おい、いつ来てもアシュランがいないじゃないか。どこにいる」
サラディンは眉をつりあげていた。相当いらいらしている様子だ。
「申し訳ありません。さっきまでいらっしゃったんですがここの所外出が多くて・・・・」
グレンは低姿勢で言った。
「今どこだ」
「どちらかの神の神殿にいらっしゃると思いますが・・・」
「全くもうどうなってるんだ！」
サラディンは声を荒げて通り過ぎて行った。グレンは後ろで息を吐いている。
サラディンはディアメラが押しかけてきた理由をアシュランに聞きに来たのだが、いつきてもアシュランが不在だった。
しかも誰に聞いても「さっきまではおられたんですが」と言ってはぐらかされる。
妖精達も主人の居場所を知らないときたもんだ。
どうもおかしい・・・・私を避けてるな・・・
それしか理由が思い当たらない。
「サラディン」
女性の声がして振り向くと、廊下にヒルデリアが立っていた。
「ひ・・・ヒルデリア・・・」
「このたびは、おめでとう」
ヒルデリアはわりとそっけなく言った。
「いや・・その・・・」
サラディンはちょっとうろたえていた。
「では」
ヒルデリアは言葉少なめに過ぎ去っていった。
くそ・・・
サラディンはディアメラのことを説明したかったが、ヒルデリアに話すと話がもっとこじれそうな気がして言えなかった。
ヒルデリアとディアメラは仲が悪い。それもディアメラはアシュランが他の女にうませた娘だからだ。
ディアメラのほうもヒルデリアに会いたくないので空の神殿には寄り付かないほどだった。
サラディンはディアメラのことでヒルデリアの手を煩わせたくなかったのである。
くそーディアメラに聞いてもさっぱりわからんし・・・一体何がどうなってるんだ？
ディアメラは昼間寝て夜活動する女神だ。今は寝ているし、夜話しがあるというと「でかけるから後で」
と言ってさっさと出て行ってしまうのだ。「自分の神殿に帰れ」というと、「月の神殿は今入ることができない」
とディアメラは告げたのだった。「なぜ」と聞くと、「さあ」という返答がかえってきた。あの勝ち気な女神はサラディンが
どんなに怒り顔で訴えても平然としているし、常に月の妖精達をはべらせていた。二人きりで話すこともできない。
さっぱり埒があかない・・・
サラディンは先ほどとは違いがっくりと肩を落し、とぼとぼと神殿の中を歩いていた。
ああ、誰かに愚痴りたい・・・・
ガーベラはどう思っているんだろうなあ・・・誰かに伝言でも頼むか・・・
神殿の広間に行くとジンラが歩いていた。ジンラはサラディンを見ると穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。
「やあサラディン、噂で結婚したと聞いたが・・・本当なのか？」
「嘘だ」
「嘘？」
ジンラはアメジストのような瞳を見開いた。
「頼むジンラ、ちょっと愚痴を聞いてくれないか？」
サラディンはジンラに近づいて言った。
ジンラは驚いたがすぐに「いいとも」と言った。サラディンにこんな申し出をされるのは初めてのことだ。
「すまんな」
「じゃあ私の神殿にくるといい。ちょうど新しい酒ができた所だし」
「そうか」
サラディンはジンラの神殿に行き、穏やかな表情のジンラを前にして、いかに今回の事が謎だらけかということを
暴露したのだった。どうやら相当ストレスがたまっていたようだ。
「もう少しで神殿の壁を崩される所だったんだ」
「それは大変だったなあ・・・」
ジンラは真面目にサラディンの愚痴を聞いていた。オルガならば途中でちゃちゃを入れるだろうがジンラは
そんな事はしない。真面目に聞き役に徹していた。
話を聞いていると、どうもおかしい。
「アシュランがあやしい」
「確かに・・・」
ジンラもそう感じた。
二人は結構な時間テーブルで向かい合って座っていた。手に酒の杯を持ち、酒がなくなればジンラが勝手に酒をついでいる。
ジンラに全てを聞いてもらい、すっきりしたサラディンは自分の神殿に帰て行った。
ジンラは「あんなにしゃべったサラディンを見たの初めてだ。よっぽど精神的に参っていたのだろうな・・・」
とサラディンに深く同情したのだった。
「アシュラン様、先ほどサラディン様がいらっしゃいましたよ」
グレンがアシュランの元にやってきた。やはり居場所は知っていたようだ。
「やっぱり今日も来たか」
長椅子に寝そべっていたアシュランは黄金に輝くなしをかじっていた。このなしは神の国にしかないものだ。
「逃げといてよかった」
「逃げてどうなるもんでもないだろうに」
横の椅子でぼそっと言ったのは太陽の神アリアスだった。アシュランはアリアスの神殿に来ていたのだ。
ディアメラの結婚話には当然兄であるアリアスも驚愕しアシュランを問い詰めて理由も聞いていた。
「強引にくっつけてしまえばその内嘘が本当になるかもしれないだろう？」
とアシュランは説明していた。
大昔、神を増やしたかったアシュランは、ディアメラにも結婚して子供を作らないか、と迫ったのだった。
ディアメラは男嫌い。その時も「今はその気になれません」と答えた。
間を空けて再びアシュランが言った時には、ディアメラは「しばらくその話は勘弁してください」と言った。
「しばらくってどのくらいだ？」
とアシュランが訪ねた。
「そうですね。人間の月日で一万年ほど」
「しょうがないな。なら一万年後には私の要求を聞いてもらうぞ。誰かと結婚しないまでも、男に慣れる
努力はしてもらうぞ。いいな」
「わかりました」
一万年という月日は神々にとっても途方もない時間だ。ディアメラもその時は遠い未来の事だからいいかと
思い了承したのだった。
アシュランであっても約束を覚えているはずはない。ディアメラはそう思っていた。実際アシュランは忘れていた。
一万年経ってもディアメラにその事は言わなかったのである。
ディアメラも安心していたのだが、ある日アシュランは気が向いたので記憶の神バスティアンを呼んで歓談した。
そして「何か重大な用件で忘れている事はないだろうか？」と問うた時にバスティアンはいろいろアシュランに
告げ、その中にディアメラのことが入っていたのだった。
こうしてアシュランはようやく思い出し、ディアメラにその事を言ったのだった。
「あれから一万年経ったぞ。結婚する気になったか？ディアメラ」
突然の話にディアメラも驚いたが、アシュランとの約束を違えることはできない。
「男を誰か選んでその男の神殿で暮らすように」
アシュランはそう命じた。
その相手に選ばれたのが、ちょうどガーベラと別れたばかりのサラディンだったというわけだ。候補には音楽の神
ラメーンもあがっていたが、ラメーンの神殿は昼間はたいてい音楽の演奏が行われている。
それでは眠れないとの理由から、サラディンになったのだった。
ディアメラの神殿にはアシュランが魔法をかけてしまい、ディアメラが入れないようにしてあった。
ディアメラはサラディンの神殿で暮らす以外にないのだ。
同じ神殿に男と女がいれば、いずれはその気になるだろう、アシュランはそういう希望を抱いていた。
「ディアメラは大丈夫なんだろうな。サラディンに何かされてさらに男嫌いになったりしないだろうな」
アリアスはそういう心配をしていた。
「大丈夫だろう。サラディンはそういう男じゃない。そういう紳士的なサラディンにディアメラもその内に
心惹かれるかもしれんだろう」
とアシュラン。
「その内ってどのくらい先だ」
「千年以内にはなんとかならんかな？」
「千年・・・」
随分気の長い話である。
「あのディアメラが男といるというだけで進歩だろう？」
「まあな、だが元々ディアメラの男嫌いは自分のせいだと自覚してるのか？アシュランは」
アリアスはちょっと横目で睨んで聞いた。原因は二人の母親がヒルデリアに嫌がらせをされ、その上他の女にまで
手を出しているアシュランを見て男に対する不信感を抱いたことにあった。更に男がらみの事件がいろいろ起こり、
男嫌いに輪がかかったのだ。
「ん？私が浮気したおかげでお前達が生まれたんじゃないか」
アシュランは気にする風もない。
「それにお前は別に女嫌いじゃないだろう」
「まあ、そうだが・・・ディアメラは繊細なんだ。だから傷つきやすい。あの勝ち気さは傷ついた心を隠す仮面だ」
「神はどれだけ増えてもいいんだ。みんなもっと子供を作らないとな。グレンもそろそろ誰かと結婚しろ」
アシュランは突っ立ったままのグレンにいい、突然話をふられたグレンはびくっと体を震わせた。
「いえ、私は・・・」
「サラディンとディアメラならきっとすごい神が生まれそうじゃないか。なあ」
「それこそ一万年かかりそうだがな・・・」
アリアスは皮肉げに言ったのだった。
真夜中、神の国も闇に覆われる時刻、サラディンの神殿の一室からはにぎやかな音楽が聞こえていた。
笛や竪琴の軽快な音楽である。
ルティアナが目を覚ましてその部屋に行ってみると、月の妖精達が楽器をかなでてディアメラが妖精達と踊っていた。
火の神殿でも結構広い部屋をディアメラは陣取っていた。部屋の中は穏やかな光が満ちている。月の光なのだろうか。
なんだか楽しそうだなあ・・・
ルティアナがのぞいていると、ディアメラが手で招いた。
「いらっしゃいよ。一緒に踊りましょう！」
「でも・・・」
「ランランランラララララ〜♪」
火の妖精達はあんまり音楽に縁がないため、神殿での演奏は珍しいことだった。たまにガーベラがいろいろ演奏
するくらいだ。ルティアナの足はちょっと前に出ている。
行っちゃだめよ。私は結婚に反対してるんだから
ルティアナはぐっとこらえていたが、ディアメラに強引に手を引っ張られて部屋に入れられた。
「一緒に踊りましょ。さあ」
両手を持ってルティアナはぐるぐる回らされ、しまいにはディアメラのペースにのせられて踊りまくってしまった。
「たのしーい」
「そうでしょう？」
しばらく笑顔で踊っていたルティアナははっと我に返った。
しまった。つい踊ってしまったわ！
「あのー今日は神殿で過ごすんですか？」
ルティアナは踊りながら聞いてみた。いつもは夜になるとどこかに出かけてしまうので、こうして会うこともないのだ。
「ええ。神の国は回ってきたから今日は神殿にいるわ。さあおいしい果物でも食べましょう」
テーブルにはおいしそうな果物が山盛りになったかごがおいてあった。ルティアナは思わず「はーい」と返事して
一緒に果物を食べてしまった。
はっまたもやのせられてしまったわ。ディアメラ様に味方してるんじゃないからね。お母さん！
ルティアナは心の中で必死に言い訳した。
でもディアメラ様って怖いって思ってたけど今日は違うみたい・・・
今日のディアメラはご機嫌のようだった。ニコニコ笑っていたので、いつぞやの夜のような怖い印象はない。
「ルティアナは何が好きなの？」
「私は果物はなんでも。このジュースもおいしいですね」
「私はお酒飲まないから。いっつもこれなのよ」
ピンク色の液体は桃ジュースだった。
「おいしーい」
真夜中の宴会を止める者もいない。
奥の寝室ではサラディンはそんな宴会騒ぎに気づくことはなく、ぐっすり眠ってしまっていた。
昼間ジンラ相手に酒を飲みすぎてしまったせいだろう。
火の妖精に明け方その事を聞いたサラディンはしまった、と眉をひそめたが、その時にはディアメラは
布団の中で起こそうにも起こせなかった。ディアメラの部屋の前には常に月の妖精が見張りに立っている。
妖精達もディアメラと一緒でサラディンを恐れることもなかった。
一体何のためにここにいるんだかさっぱりわからん・・・・
自分の神殿に帰れないなら他の神殿に行けばいいだろうに、とサラディンは思っていた。
これで結婚した、といわれてもどこが？といいたくなるのも無理はない。
サラディンが広間で朝の祈りを捧げていると、横に立っていたルティアナがこっくりこっくりとうなだれていた。
「ルティアナ」
「・・・」
「こら、起きろ！」
「ひゃい！」
ルティアナはしゃきっと立った。半分寝ていたようだ。
「随分眠そうじゃないか」
サラディンは片方の眉をあげて聞いた。
「えーちょっと昨日眠れなくて・・・」
「なんで眠れなかったんだ？」
「ちょっと悩んでて・・・」
「ディアメラと朝まで踊ってたそうだな」
ルティアナはぎくりとした。
「全く・・・随分仲良くなったじゃないか」
「そんなことないよ。ちょっといい人かもって思ったけど、お母さんの方が好きだもん。だから早くお母さんと
より戻してよ」
「そういわれても、神の国では私はもう結婚した事になってるしな」
「なんで結婚したのー？」
「さあ、私が聞きたい」
「お母さんがいいよう。お父さんはどっちがいいの」
「そりゃガーベラのほうがいいに決まっている。ディアメラは私の神殿を壊そうとまでしたんだからな」
「じゃあディアメラ様おいだしたら？」
「どうやってだ」
サラディンは顔の割りには人が良い神だ。力づくで女を神殿から追い出すのも気が進まない。
「お父さんってば意気地なし」
「なんでそうなるんだ。お前は楽しく踊ってたくせに」
お返しに言うとルティアナは口を尖らせていた。
ガーベラも私の所に来ない所を見ると、話を聞いて怒っているかもな。あれからすぐ結婚だもんな・・・
「おはよ〜いいかな？」
広間にクーリーフンが入ってきた。
「ちょうどいいところにきた。ガーベラの様子はどうだ？」
サラディンがクーリーフンの顔を見るなり聞いた。
「突然サラディンが結婚しちゃってショック受けてたよ」
「そうか。私が望んでしたわけじゃないんだが・・・・」
「ジンラにも聞いたよ。でもどうするの？これから」
「さあ。アシュランは私に説明する気もないようだしなあ・・・しばらくすればディアメラも勝手に出て行くんじゃないかと
思うが」
「そうかなあ」
この火の神殿は他の神殿とは違い岩肌の大地に建っているし、神殿の中も暑く、他の神にとってはあまり居心地の良い
場所ではないだろう。
「月の神殿が出入り禁止になっているのが気になる」
「僕アリアスに聞いてみるよ。アリアスならきっと知ってるんじゃないかな」
「そうだな。聞いてみてくれ」
クーリーフンは出て行った。
サラディンが横を見ると、ルティアナはうなだれていた。
「ぐー・・・ぐー・・・」
どうやら寝ているようだ。
「器用だな」
サラディンは苦笑してルティアナを抱き上げ、寝室に連れて行った。
太陽が真上に差し掛かる頃、ガーベラは神殿から出て軽い足取りで歩いていた。
「おほほほほ、今日も私は美しい〜♪」
ジャンプしてくるっと回っていると女の妖精がやってきた。
「ガーベラ様元気になられたんですね。よかったですわ」
「それでこそガーベラ様ですわ」
「ん？そうかしら？ありがとう」
ガーベラはにこにこ微笑んだ。妖精達が去っていき、ガーベラは首をかしげた。
あれ？ガーベラ元気なかったのかな？何かあったのかな？
ガーベラの中身はゆりだった。ゆりはサラディンの事情は全く知らず、誰かに情報を仕入れようと
光あふれる世界を歩いて行ったのだった。
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