第20話
たまには早々にハロルドに会いに行っちゃおうかなあ。喜ぶかな？
ゆりは珍しくそう思い、ハロルドの元に移動してみた。移動先はハロルドの神殿の外だった。
勝手に中に入って行くと、入り口から近い部屋にハロルドとジェイクがいた。
「うわっかっこいいー！！！」
ゆりは思わず歓声をあげた。その声に二人は振り向いた。
二人とも鎧姿だった。赤いマントをつけ、銀色の鎧を身にまとい、剣を持っている。ジェイクは背中に盾をつけていた。
ジェイクの鎧姿はハロルドのミニチュア版のようでなんともかわいい。全身銀色の鎧ではなく、胸と背中に頭、すねだけで残りは
なめした皮か何かで覆われていた。その皮も手触りが良さそうだ。
ハロルドもずっと鎧着てればいいのに。こっちの方が断然かっこいいよ！
ゆりが二人に見とれて拍手していたので、ハロルドはすぐガーベラの中身がゆりだと気づいたのだった。
「すごい、キラキラして綺麗ねえ。ジェイク素敵ー」
ゆりがジェイクに近づいてしげしげと見つめると、ジェイクはちょっと照れたように頬を染めていた。ジェイクはまだ少年だが以前よりも体格もよく
背も伸びている。
「重くない？」
「平気だよ」
「本当に？」
「何しに来たんだ？」
とハロルドが聞いた。
「何しにって、ただ会いに来たの」
すぐに会いに来いと言ったくせになぜ来たもないもんだ、とゆりはちょっと口を尖らせた。
「そうなのか、これから仕事なんだ」
「そうなの。それは残念」
ゆりはなぜかうれしそうに言ったのでハロルドの目元が細くなっていた。
これで心おきなく温泉にいける♪
うきうきしだしたゆりを横目にハロルドはジェイクに神殿の外で待っていろと告げ、ジェイクは出て行った。
「ねえ仕事って、魔物退治とかいうやつ？」
「ああそうだ」
「前から疑問だったんだけど・・・神の国って神聖な場所なのになんでそういうのがいるの？」
「神の力が薄い場所に出るんだ。ここらにはいない」
「なんで？人間界にはいないのに」
「人間界にもいるぞ」
「え？どこに？私見た事ないよ。そういう話も聞いたことないし」
ゆりは驚いて目を見開いていた。魔物なんて小説か漫画の世界のような気がしていた。魔物がでた、という話も今まで聞いたことがない。
「人が多い場所にはいないからな。その話は人間界では禁止されてるから聞いたことがないんだろう。お前も口にするんじゃないぞ。
口にすると変なものを呼び寄せる恐れがあるからな」
「はーい」
この世界はまだまだ謎だらけのようだ。ゆりはしみじみそう思った。
「じゃあハロルドは人間界の魔物退治もしてるの？」
「見かければ退治するが、人間にはそういう神官もいる。普段はそいつらに任せている」
「へー」
「まあそういう話はともかく、ガーベラはサラディンと別れたからな。火の神殿に行くんじゃないぞ」
「え？」
突然話題が変わり、またその内容にゆりはとてつもなく驚いた。
「今なんて？」
「ガーベラはサラディンと別れたんだ。だから行くな」
「えー！！！！なんで！？」
「サラディンに他に好きな女ができたんだ。だから絶対いくなよ。わかったな！」
ガーン
ハロルドは驚いたままのゆりにもう一度「絶対いくなよ」と念を押して部屋を出て行った。
サラディンに好きな女ができた？嘘！そんな！わ・・・・私の温泉は・・・・
ゆりはショックのあまりその場に立ち尽くしていた。
ゆりの中ではどうもサラディンに対する愛よりも温泉に対する愛の方が上のようだ。
「くーんくーん」
部屋に黄金の犬が入ってきた。口に木の枝をくわえている。
犬は枝を置いて「わんわん」吠えた。尻尾をふりふりしている。
「この前のわんちゃんじゃない。遊んでほしいの？」
その犬は前回来た時に見た綺麗な犬だった。どうやら同じ犬のようだ。
「わんわん」
「まあいいか」
ゆりは神殿の外に出て木の枝を投げてやった。すると犬は走って取りに行った。
美しいガーベラを捨てて他の女に走るとは・・・一体だれなんだろう・・・サラディンって真面目な顔してるわりにそんな事するとは・・・
犬が枝をもってきたので再び枝をほおってやり、ゆりはぼんやりした顔で犬と遊んでいた。
まさかサラディンとガーベラが離れる原因に自分がからんでいたとは思ってもいない。
「わんわんわん」
「はいはい」
犬にせかされてゆりは枝を力一杯空に向かって投げた。弧を描いた枝を宙で受け取った人物がいた。
「あ！」
空にラーズがいた。
「わんわんわん！」
地上で犬が吠えていたのでラーズは枝をまたほおってやった。
「ガーベラ、犬と遊んでるのか？」
ラーズが飛んで近づいてきた。
「そうよ。遊んでた」
ゆりがつまんなそうに言ったのでラーズが首をかしげた。
「どうしたんだ？」
「なんでもない」
ゆりは笑みを作り、腰をくねっとしてウインクしてみた。サラディンに加えてラーズまで他の女に走ったのでは大変だと思ったのだ。
「？？？」
ラーズは不思議そうな顔をしていた。
「ねえ、サラディンの新しい彼女のこと良く知ってる？」
ゆりはなるべく不審に思われないように聞いてみた。
「新しい彼女？ディアメラか？ディアメラは彼女じゃなくて妻らしいけどな」
ガビン！そうなんだ！
ゆりはショックを受けたが持ちこたえた。
ディアメラ、ディアメラ・・・・確か月の女神さんじゃない。私会ったことなかったなあ・・・・
ディアメラに対する知識は基本的なことしか知らなかった。
「じゃあディアメラの魅力ってどこかしら？」
「さあ、変わってるところじゃないか？」
変わってる？
「その内ガーベラの元に帰ってくるような気がするけどな。あの男嫌いのディアメラがなぜそうなったのか皆不思議がってるんだよなあ」
「サラディンがほれてくどいたとか？」
「今まで誰にもくどかれなかったんだぞ。ディアメラは」
「長い間生きてると性格が変わることもあるじゃない」
「わんわん」
犬が枝を持ってきていた。
「ほらよ」
ラーズが思いっきり枝を投げた。
「あ、危ない！」
その枝は宙を飛んでいたグレンの肩にあたっていた。グレンは背中を向けていたので気づかなかったようだ。
「何するんですか」
グレンが近づいてきてラーズに非難がましい目を向けた。
「悪い悪い。わざとじゃないんだ」
「本当ですか？」
「実はわざとだ」
「・・・・・」
「冗談だよ。冗談」
ラーズが笑って言った。だがグレンには受けなかった。
「グレンはいつも辛気臭い顔してるな」
「ガーベラ様、クーリーフン様が探してましたよ」
グレンはラーズのことは無視してゆりに告げた。
「え？本当に？ありがとう」
「では」
グレンは真面目顔のまま再び飛んでいった。
「んじゃクーリーフンを探しに行こう」
「うん」
ラーズがゆりを抱き上げた。
「くーん・・・」
犬が寂しげに鳴いていた。
「ごめんね。また遊ぼうね」
ゆりは犬に手を振って宙に飛んで行った。
空高くを飛んでいるとクーリーフンはすぐに見つかり、３人は地上に降り立った。近くの農園においしそうなりんごが一杯下がっていたので
ゆりはどうしても食べたくなり一つもいできた。ナイフはないので丸かじりするしかない。
シャリっと一口かじると甘くておいしかった。
「ディアメラのことアリアスに聞いてきたんだよ」
クーリーフンはゆりに言った。横にラーズもいる。ゆりはむしゃむしゃりんごをかじっていた。
「あーえーと・・・サラディンと母さんが距離を置くことになって、それでディアメラがサラディンの神殿に来たんだけど、それってディアメラが
強引に押しかけてきたみたいなんだよね。母さんとサラディンが距離を置いた理由はまあ些細な事だったけど、別に別れたわけでもなくて、
まあちょっと離れただけだったんだけど・・・」
クーリーフンは中身がゆりだったので親切にもいろいろ説明していた。
どうやらハロルドの言葉が一番あやしい。サラディンによっぽどあわせたくなかったようだ。
「アリアスに聞いたことって何なんだ？」
ラーズがせかした。
「大昔にディアメラはアシュラン様とある約束をしたんだよ。それは、一万年経ったら男嫌いを治す努力をするってものでさ、その約束の期日が
きたからディアメラは男の神殿にすまなきゃならなかったんだって」
「なんだそりゃ」
「一緒の神殿にいれば嫌がうえにも愛情がわくだろうってことで、アシュラン様はディアメラの神殿にもう帰れないようにしちゃったみたい。
だからディアメラはサラディンの神殿にいるんだって」
「それでなんでサラディンなの？」
ゆりはりんごを食べながら聞いた。
「候補は他にもいたらしいけど、まあ神格の高い神は相手がいる人多いし、ちょうどサラディンはお母さんと離れた所だったし・・・」
ゆりはなぜ離れたのか聞きたかったが、ラーズの前では聞けなかった。
話が入り組んでるなあ・・・
そう思いつつりんごをかじっていると、歯に何か嫌な感触があった。
「あれ？」
りんごから口を離した時、ぽろりと白い物が落ちた。小さいものだ。
３人ともそれを見てあぜんとした。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・ぎゃー！！！！！！」
ゆりは白い物の正体に気づいて悲鳴をあげていた。その拍子にりんごは飛ばしている。
「わっわっ私の歯がー！！！！！」
それはなんとガーベラの白い歯だった。歯が抜けたのだ。
クーリーフンはその歯を拾い上げた。
「はっはっはっ歯が！歯がー！！！！」
「お、落ち着けガーベラ！」
ラーズがゆりの肩に両手をあてた。
「えーん歯が！歯がー！！！」
ゆりはパニックになっていた。まさか神様なのに歯が抜けるとは思わなかった。美の女神ガーベラが自分のせいで歯抜けになったとあっては
悲しすぎる。
「お母さん口あけてみて」
クーリーフンに言われてゆりは泣きながら口をあけた。
「あ、奥の方だね」
奥の上の歯が一本抜けている。
「前歯じゃなくてよかったな」
ラーズが慰めるように言った。
「よくないよう。全然よくない！」
「大丈夫だ。アシュランにくっつけてもらおう」
「え？そんな事できるの？」
ゆりの顔が輝いた。
「ああ、そのくらいできるだろう」
「やった、すぐ連れて行って」
「ああ」
ゆりはびょんとラーズに飛びついた。
あーほっとした。ガーベラに恨まれるかと思ったよ〜
３人は雲の上の神殿に行った。上手い具合に今日はアシュランがいたので、すぐ３人はアシュランに面会したのだった。
「これはこれは、見事に取れたなあ。ははは」
アシュランはクーリーフンから歯を受け取ると笑っていた。
「お願い早くくっつけて」
ゆりは両手を合わせて懇願した。一刻も早く元通りの体になりたい。
「抜けたということは、何か意味があることだと思うがなあ」
アシュランはなんと横にぽいと歯をほおった。
「ぎゃー！！何するの！なくなったらどうするの！」
ゆりは驚きのあまり叫びつつあわてて歯を拾いにいった。
「大丈夫だ。歯なら元に戻してやれる」
「本当！？」
「ああ。だからそれはそのままほっておけ」
「でもー・・・」
ゆりが躊躇していると、歯がかたかた動いた。
「え！」
歯は床の上で小刻みに動いている。
「何これ・・・・」
「おっ」
「あ」
一同が注目していると、白い歯はぼんやりした塊になり、やがてそれは膨れ上がり、一人の少女の姿へと代わったのだった。
あまりの出来事にゆりはぽかーんとしていた。
「お、妖精がうまれたな。これは美しい・・・」
アシュランがしげしげと眺めていた。
「よ、妖精？」
妖精はもうちょっとしたら大人くらいのあどけないが色っぽい感じだった。すらりとした体つきだが胸はそれなりに膨らんでいる。
おでこをだしてふわふわと腰まで大きくカールしていた。まるで綿菓子のような金色の髪だ。
「色っぽい子ねー」
ゆりは妖精の体が男達に見えないように体でガードしていた。
「誰か妖精の服をもってこい」
アシュランが後ろのカーテンを見て言った。
「愛の妖精が生まれるのは初めてだな。よかったな」
「愛の妖精・・・・」
少女はゆりにウインクした。
「かわいい・・・」
ついぽわんとなっていると、「母さんが妖精に誘惑されてどうするのさ」とクーリーフンに言われてしまった。
召使達が服をもってきて妖精は服を着た。両方の肩に半透明の布がひらひらしている。
ピンク色の服を着た妖精はアシュランにウインクしていた。
「かわいいかわいい。もうちょっと育った方が好みだなー」
「こらこら」
とラーズ。
妖精はにこっと笑って軽い足取りで広間を出て行った。
「あ・・・どこ行くのー！？」
「好きにさせればいい。妖精だからな。ほっておけ。歯を治してやるからこい」
「はい」
ゆりはアシュランに近づき、アシュランはゆりの顔の近くに手をあてた。金色の光があてられて、そのまぶしさにゆりは目を閉じた。
「治ったぞ」
「え？本当？本当だ。治ってる。ありがとう！」
舌で触れてみると、ちゃんと歯がはえていた。
ああよかった。これでガーベラに怒られないですむわ
ゆりは心底ほっとした。
さすがアシュラン、ただの浮気者じゃないのね
ゆりはアシュランに感謝一杯だったが、その言葉は口には出さなかった。
クーリーフンとラーズもよかったよかったと喜んでいる。
「お母さんついでにあの事アシュラン様に聞いてみたら？」
クーリーフンが言った。
「あの事って？」
ゆりは歯が抜けたショックで、その前の記憶が飛んでいた。
「ディアメラとサラディンの結婚のことだ。アシュランの差し金だったんだな」
ラーズが変わりに言った。
「差し金？心外だな。私はお膳立てしてやっただけだ」
「それを差し金って言うんじゃないのか？」
「サラディンが困ってましたよ。どうやっても出て行かないって」
「ディアメラもねばってるじゃないか。いいことだ」
アシュランは満足げだ。
「夫婦というよりもただ同居してるだけですけど・・・」
「今はそれでいいんだ。その内に二人の距離が縮まるかもしれないだろう」
「ちょっと待った！」
ゆりが割り込んだ。
「私のサラディンへの愛はどうなるの？」
「別れたんだろ？」
「別れてません！多分」
「多分？」
アシュランは怪訝な顔をした。
「ちょっとすれ違いがあって離れてただけなんですよ」
クーリーフンが説明した。
「まあいいじゃないか。恋人が一人減っても」
「よくないわ。大体私とサラディンが仲良くなったのはアシュランが仲介・・・・じゃなかったっけ？」
そうだったような気がしたが自信がなかったゆりはクーリーフンを見た。
「そうですよ。アシュラン様が二人を引っ付けたんですよ」
クーリーフンが言ったのでゆりは「そうよそうよ！勝手よ！」と強気で攻めた。
ガーベラもきっとサラディンを取り戻したいに違いない、と勝手に思っている。そうでなければクーリーフンが止めているはずだ。
「う・・・それはそうだったが・・・」
どうやらアシュランの痛い所をついたようだ。
「じゃあサラディンを取り返しても文句言わないわね？」
「うーむ・・・」
「ところでなんでディアメラはサラディンを選んだんだ？」
ラーズが聞いた。
「さあな、サラディンがガーベラと別れたと言ったらサラディンがいいと言ったんだ」
「なんでだ？」
「さあな。とにかく、二人は別れてたんだから私が悪いこともないだろう。愛し合ってる二人を引き裂いたわけじゃない」
「離れててもひそかに愛し合ってたの。サラディンを取り返しても怒らないって約束して」
ゆりはアシュランに詰め寄った。
「怒りはしないぞ」
「絶対よ」
「ああ」
「それじゃサラディンの神殿に行きましょ」
ゆりはにこりと笑って言った。がぜんやる気になっている。
「なんだか面白いことになってきたなあ」
ラーズは興奮気味だ。
３人はちょっと苦い表情のアシュランを置いて出て行った。
意気揚々と神殿を出たゆりだったが、雲の上でぱたりと倒れてしまった。
「ガーベラ！？」
ラーズがあわてて抱き起こした。目覚めたのは本物のガーベラだった。ゆりが帰る時間がきたのだ。
「びっくりした。どうしたんだ？」
「ちょっとつまずいちゃって。えへへ」
ガーベラは笑ってごまかした。
何に？とラーズは雲の上を見ている。
「お母さん、これからサラディンを取り戻しに行く予定だけど」
「・・・・へ？」
クーリーフンの言葉にガーベラは目が点になった。
「早く行こう。この際ディアメラと対決してでもサラディンを取り戻せ！」
ラーズは面白そうだとばかりに言っている。
ディアメラと対決してサラディンを取り戻す？！いつの間にそんな話に！？
「とりあえず帰りましょう」
ガーベラは青い顔になりつつ言った。
「え？火の神殿行かないのか？」
「後日にしましょう。ほら、計画たてないと。日も暮れるし」
もうすぐ夕暮れ時だった。
「なんだ、今から行くんじゃないのか・・・」
残念がったラーズは、それなら帰ると飛んで行った。
「あーびっくりしたーなんでいきなりそうなってるの！？」
ガーベラは胸を押さえている。
「さっき盛り上がっちゃって」
「とりあえず帰りましょう」
「うん」
ガーベラはクーリーフンにだっこしてもらい飛んで行った。
「お母さんはサラディン取り戻す気ないの？」
クーリーフンが聞いた。
「ないことないよ。サラディンのこと好きだもん。他の子と仲良くなったら悲しいよ」
「じゃあそういえばいいのに・・・」
「そうだけど・・・いまいちその一歩が・・・サラディンの気持ちもわからないし・・・」
「案外お母さんが来るの待ってるかもよ」
「そんな事ないわよ。あのサラディンがいやいや女と一緒にいるタイプに見える？まんざらでもないんじゃない？」
「そんな事ないと思うけど・・・ディアメラに会うのいやなの？」
「だって嫌われてるんだもん〜」
ガーベラは口を尖らせていた。自分を嫌ってる相手に会うというのも勇気がいるものだ。
二人は神殿の前に降りた。
「サラディンだって会いに来てくれないしさ・・・」
ぶつぶつ言いながら神殿の中に入って行き、部屋に入ってガーベラは「ぎゃあ！」と悲鳴をあげて飛びのいた。
部屋においてある美容液を作るつぼから誰かの顔がのぞいている。
「な・・・・あなた何やってるの！？」
つぼから顔だけ出しているのは少女だった。
「あ、さっきの妖精じゃないか。お母さんの歯からうまれたんだよ」
「歯？！」
ガーベラはあわてて顔に手をあてて歯を探った。
「歯はまた生えたよ」
「あーびっくりした」
クーリーフンが女の子をつぼから引っ張り出した。妖精は裸のままつぼに入っていたようだ。服が脱ぎ捨ててある。
まだ少女のようだがなんだか色気がある妖精だ。
クーリーフンは布をもってきて妖精の体を拭いていた。さすが性欲がないだけあって妖精の裸に心が動くこともないようだ。
「妖精が生まれたんだーもしかして愛の妖精？」
「そうだよ」
「やったあ！勝った！」
ガーベラはうれしそうに飛び跳ねた。
「勝った勝ったー！！」
クーリーフンは意味がわからなかった。
「昔ね、ダーナとかけてたの。どっちが先に愛の妖精を生むか。私の勝ちだわ。やった！」
ダーナは数多くの妖精を生んでいるが、愛の妖精はいなかったのだ。
「へー何かけてたの？」
「なんだっけ。負けた方は宝物を一つ渡すとかいうことだったような・・・わーいダーナに何かもらいにいこうっと。あなたもいらっしゃい」
ガーベラは身支度を整えた妖精の手を引いて神殿を出て行った。
「結局サラディンのことはそのままなんだ・・・」
クーリーフンはぽつりとつぶやいた。どうやらガーベラは相当ディアメラが苦手らしい。
「まあお母さんが元気なら僕はいいんだけど」
あの様子じゃ当分大丈夫そうだ。
一方人間界で目覚めたゆりは、いいところで目覚めてしまい残念に思ったが、内心ほっともしていたのだった。
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