第23話

草木も生えない岩肌に建てられた火の神殿にて、女神ガーベラと月の女神ディアメラの世にも珍しい対決が行われようと

していた。神殿の中にある湯浴み場には９割ほど湯が入れられていた。部屋の中には天井まで真っ白い湯気がもうもうと立ち上っている。

湯の中には世にも美しい二人の女神。

豊かな胸の肉欲的ガーベラに比べると、ディアメラの方は細身体型だった。胸はそれなりにあるものの全体的に細い。だが、

華奢な体型かというと、そうでもないようだ。よく見ると筋肉がついた引き締まった体つきである。


体育会系女神ね・・・・


ゆりはちらりと横目でディアメラを眺めつつ思った。ガーベラの長い髪は岩の上で丸められている。


ディアメラは平然とした顔で湯に浸かっていた。ただいまのお湯の温度は39度ほど。そんなに熱くはない。



それにしてもまさか月の女神も湯に強いとは・・・さてはここのお風呂に入っていたわね

日本人としてこの戦いだけは負けられないわ！



ゆりの頭の中にはすでにサラディンのサの字もなかった。いつの間にやら温泉対決に摩り替わっている。

久々の温泉がまさかこんなことになるとは。これではのんびり温泉を満喫する気分にもなれない。


「もうちょっと熱くしてちょうだい」

ディアメラが岩の上に座っているルティアナに告げた。

「大丈夫ですか？」

「大丈夫よ。ガーベラは無理なら出たらどうかしら」

「私だって平気よ」

「では」

ルティアナがお湯の中に片手を入れて、お湯の温度は引き上げられた。

ちょっと熱めになってきたが、それでもディアメラは平然としている。だがゆりの方は、肌が赤くなっていた。

まだまだしばらく入っていても大丈夫だが、これ以上熱くなるとまずいかもしれない。


うーん・・・なんだか全然こたえてないみたい。なんてこと・・・・


「あら、顔が真っ赤よ。どうしたの？ガーベラ」

ディアメラはにやっとした顔で聞いた。

「月の女神って熱に強いの？」

「そんなことないわよ」

「でもこれだけ平然としてるのはおかしいわ」

「何がおかしいのよ」

ディアメラはむっとしている。

「だって顔が涼しげだもん」

「ふふふ」

「むー・・・・」

ガーベラはディアメラをじろじろ眺めた。

「あのー・・・ちょっと気になってることがあるんですけど・・・」

ルティアナが遠慮がちに聞いた。

「なあに」とゆりが聞いたが、ディアメラは「あとで」と言った。

「気になることって何？」

「えーと・・・あのー・・・」

「後でって言ってるでしょ」

「何で後でよ。あ、さては何か隠してることがあるわね」

ゆりはディアメラの真横にひっついた。

「何にもないわよ」

ディアメラは横に逃げた。

「なーんかあやしい！」

「何も怪しくない！」

ゆりがディアメラの腕をつかむと、肌の温度はまったくあがっていなかった。


これは・・・・・絶対おかしい！


「さては魔法のようなもの使ってるわね。せこい！」

「何も使ってないわよ」

「絶対何かしてる」

「何もしてないわよ！」

じろじろ観察してみると、ディアメラはずっと左手を握り締めたまま、ということに気づいた。

「それ何持ってるのよ」

「それって？」

ディアメラははぐらかそうとした。

「それよ。左手見せてよ」

「いや」

「見せないってば」

「いやよ！」

ゆりは強引にディアメラの左手をつかんだ。するとディアメラは力を込めてその手を振り解いた。

「あっ！ライオネルがのぞいてる！」

ゆりは入り口の方を見て声をあげた。

「え！？」

ディアメラが気がそがれた瞬間、ゆりはディアメラの左手をつかんで強引に開かせた。

「あっ！ちょっと！」

手の中から石の塊がぽろりとでてきてお風呂の底に沈んだ。

「何これ」

「あ、あちっ！あちち！」

ディアメラは声を上げてあわてて湯船から上がった。

ゆりはお風呂の底から石を拾い上げた。石を持った瞬間、体の周りの温度がぐっと下がるのを感じた。

そう、ディアメラはアシュランにもらった結界石を手に握り締めていたのだ。

「あーひどい、やっぱり使ってたじゃない。セコイ手！ずるい、卑怯よ！」

「くっ・・・・とりあえず、水、誰か水かけなさい！水ー！！！」

岩の上にあがったディアメラはたまらず外に待機していた妖精に叫んだのだった。


「勝負は私の勝ちね」

ゆりはお風呂の中で勝ち誇ったように仁王立ちになっていた。

「だめよー女神がセコイ手使っちゃ」

「何言ってるのよ。あなただって相当この湯に慣れてるみたいじゃないの。セコイのはあんたも同じよ」

「そんなことないわよー」

妖精達が水差しを持ってきてディアメラの肌にかけた。

「あー熱かった・・・ふう・・・」

妖精達はディアメラの肌をふき、服を着せていた。ゆりもお風呂からあがり、服を着ることにした。


こうしてセコイ我慢大会はセコイまま終わったのだった。


「私が勝ったんだからここから出て行ってね」

「・・・」

ディアメラは横目でゆりをにらんでいた。

「ついでに仲良くしようよ。昔のことは忘れて」

「いや！」

「そういわずに〜同じ女神じゃないのー」

「今回のことで再認識したわ。私はやっぱりあんたがだいっきらい！」

ディアメラはまるで子供のように力を込めて宣言した。

「そこまで嫌わなくても・・・・・」

ディアメラはぷんと横を向いて妖精達に肩を支えられながら出て行った。


「ディアメラって子供みたいなところあるねー」

ゆりはルティアナに言った。半分ほどぬれてしまった髪は火の妖精達が乾かしてくれていた。

「そうですねーでもちょっと面白かったかな」

「ところでさっき言いたかったのってこれのこと？」

ゆりは石を見せた。

「はい、ディアメラ様の体がなんだか薄いオーラに覆われていたので何かなーと思って・・・」

「そうなんだ。気づかなかったわ。はい、これ」

ゆりはルティアナに石を渡した。

廊下では愛の妖精が勝利の舞を踊っていた。鈴を鳴らしまくっている。

「あーみたかったなー・・・」

ライオネルもまだ突っ立っていた。

「しかし、この勝負はあまりにセコイぜ。どうせならもっと歴史に残るような勝負をしてもらいたいもんだ」

「うるさいわね」

「そうよ！やっぱりさっきのは無効よ！」

ディアメラが舞い戻ってきた。さっきはあんなに弱っていたのにもう復活したようだ。

「別のことで勝負よ」

「えー・・・・いいじゃない。もう・・・」

「あのままじゃ納得行かないわ！」

「私はこれ以上戦う気はありません」

これ以上は時間もない。ゆりとしてはこれで決めたかった。

愛の妖精はひそかにちゅっと投げキッスをしていた。

ピンクのハートがディアメラの方にふわりと飛んでいった。

「逃げる気？ガーベラ」

「逃げやしないけど、他に我慢大会も思いつかないし・・・私はひ弱な女神だから腕相撲とかじゃ勝てそうにないし・・・」


あれ？なんだろう、あのハート・・・・


ゆりはハートが飛んでいるのに気づいた。


「待ってよ。今何か考えるから・・・・？」

ディアメラがハートに気づいた時にはすでに口の近くに来ていた。

「あ」

ディアメラはそのハートを飲み込んでしまった。

「はっはっくしょん！何今の！？」

口から出そうとしてももう出なかった。

「大丈夫か？ディアメラ」

ライオネルが横からのぞきこんだ。

「いったい何飲み込んだのかしら・・・なんだか体が・・・・」

ディアメラは目の前にあるライオネルの顔を見た。

「ディアメラ？」

「う・・・うう・・・素敵・・・いや、違う」

「？？？」

ゆりとライオネル、他の妖精達は首をかしげていた。

「ディアメラ様？」

「ああ、素敵な男、いや違うってば。何言ってるの私は」

ディアメラは一人でぶつぶつ言っている。

「大丈夫？ディアメラ」

ゆりは心配して聞いた。

「ん？そうか、ようやく俺の魅力に気づいたか。ディアメラ」

ライオネルはディアメラを抱きしめた。

「げっ！うううううこの毛深い所が素敵〜・・・いや違う・・・離せばかっ！」

ディアメラはライオネルの頬にパンチした。

「何か変だわ。のろいの言葉が頭の中めぐってるわ。さてはガーベラ何かしたわね」

ディアメラがぐわっとゆりを見た。

「私は何も・・・」

横を見ると愛の妖精は舌を出していた。どうやら何かしたのは妖精の方らしい。さっきのハートが関係しているようだ。

「ディアメラ、俺と結婚しよう！」

ライオネルはパンチにめげることなくディアメラにまとわりついている。

「いいかも。違う。嫌よ！ごめんよ！触らないで！」

ディアメラはライオネルをよけて走って逃げていった。

「ディアメラ〜」

ライオネルは追っていった。

「ディアメラ様！」

月の妖精達もディアメラを追いかけて出て行った。


さすが女神、妖精の力も完全には効かないようだ。


「やった！これでディアメラがようやく出て行ったわ！」

ゆりは愛の妖精とパンと片手をたたきあった。

これでこの件は一件落着といきたいものだ。

「お母さんついにやったね」

「うん」

妖精達はつられて拍手していた。


奥からサラディンがやってくるのが見えた。

「あれ？サラディンいたの？」

てっきりいないと思っていたのでゆりは驚いた。

「今帰ってきたんだ。我慢大会は終わったのか？」

「私が勝ったよ。って何で知ってるの？」

「え？・・・その・・・さっき火の妖精に聞いて・・・」

アシュランが絶対のぞきそうだったのでサラディンはそれを阻止しようと、しばらくアシュランに引っ付いていたのだった。

「私、あなたへの愛のためにがんばったわ」

ゆりは声高らかに告げた。

「そうか・・・うれしいぞ。ガーベラ・・・」

ゆりの後ろで愛の妖精はうんうんうなずいていた。

サラディンとしては、これでディアメラが出て行ったのならうれしいことだったが、うれしさのあまり女神を抱きしめるほどでもなかった。

我慢大会がせこすぎたからだろう。

「これで元通りね。お父さん」

ルティアナがうれしそうに言った。

「そうだな」

サラディンは女神の肩をなでた。

うれしそうな女神の顔に、いろいろ考えてしまったサラディンも、まあいいか、ここは元に戻るのが一番いいと、そう思ったのだった。


「私今日は疲れたからもう帰るね」

「そうか、神殿まで送ってやろう」

ゆりは愛の妖精と一緒にサラディンに自分の神殿の前まで送ってもらい別れたのだった。

「あなたもご苦労様」

愛の妖精に言うと、にこっと笑っていた。すごくうれしそうだ。


そろそろ帰る時間だと思うんだけどなー・・・


そう思いつつ神殿の中に入り、部屋の中を見てゆりはぎょっと立ちすくんだ。

部屋の中の長いすになんとハロルドが足を組んで座っている。

「やあガーベラ」

ハロルドは鋭い瞳でゆりを見つめた。

「あら、ハロルドどうしたの？」

ゆりは微笑みを作って聞いた。

「セコイ戦いはどうなったんだ？お前が勝ったんだろうな」

ハロルドは腕を組んで聞いてきた。

「え？なんでもう知ってるの？」

「お前って女は・・・私があれほどサラディンに会うなと言ったのに・・・・」

ハロルドが立ち上がって近づいてきたのでゆりは「ひええええ」と後ろに下がった。

「ごめんなさい。でも、その、成り行きで！」

ゆりは愛の妖精の後ろに隠れて言った。

「何が成り行きだ！しかもうれしげにディアメラと対決までして何考えてるんだ！！」

ハロルドは愛の妖精の横からゆりに怒っていた。

愛の妖精はまあいいじゃない、といわんばかりにハロルドの腕をぽんぽんたたいた。

「まったくお前って女は・・・」

「勝ったんだからいいじゃないよー」

「よくない！サラディンとは別れたままいればよかったんだ！」

「それって嫉妬？でもまあ、しょうがないでしょ。私は愛の女神なんだから♪」

ゆりは両手を組んでかわいげに言ったが、ハロルドにはさらににらまれた。


わーこわっ！石になっちゃいそー！！！


その時ハロルドの顔の前あたりをピンクのハートがふわふわ飛んでいた。ゆりが「あ」と思ったとき、ハロルドは

「なんだこれ」と手でそのハートをつかんだ。だがつかんだと思ったらハートは消えてしまった。

「今のなんだ？」

「さー・・・・」

「・・・・」

ハロルドの表情が穏やかになってきた。


やった！愛の魔法がかかったんだわ！


確信したゆりはハロルドの両手をそっと握り締めた。

「私のこと愛してる？」

「・・・ああ・・・」

「じゃあもう仲直りしましょ、ね、ね」

「・・・そうだな・・・」

「じゃあこれで仲良しの二人に戻ったわね」

「・・・」

ハロルドはまだ引っかかることがあるのか、ちょっと目を細めている。

「私疲れたから今日はもう寝るわ。それじゃあまたあいましょうねー」

ゆりはさっさと奥の部屋に逃げて行き、ベッドで寝てしまった。そしてほどなくして元の世界へと戻ったのだった。


「・・・・さっき何かしたか？」

ハロルドは妖精に聞いた。妖精は首をちょっとかしげただけだった。ハロルドは頭をかきつつ神殿を出て行ったのだった。



火の神殿にあったディアメラの調度品などは、月の妖精達によって運び出された。

サラディンは妖精に「元の神殿に戻れるようになったのか？」と聞いてみた。

「いいえ、しばらくライオネル様の神殿に移ることになりました」

そう妖精に言われてサラディンは驚いた。

「ライオネルの神殿？」

「でもお二人がくっつくことは、それこそ月が太陽に変わってもありえないと思いますが」

「そうなのか？」

ならなぜライオネルの神殿なのか、とサラディンは首をかしげた。


ディアメアと月の妖精達はライオネルの神殿に移ったのだが、肝心のライオネルはラメーンの神殿に移っていた。



「ずっといられたら迷惑なんだが・・・・」

ラメーンは獣のまま横たわるライオネルに言った。

「だってよー俺がいたら来ないって言うんだもん」

「そりゃそうだろう」

「だからしょうがないじゃないか」

「ここに来なくてもいいだろう！」

「ここが一番近いんだもん。せめて近いところがいいんだよー」

「なんとばからしい・・・」


ラメーンの訴えと周りからの口ぞえもあり、アシュランはディアメラを男とくっつけるのをとりあえずはあきらめて

ディアメラの神殿を元に戻し、神殿に戻る許可を与えたのだった。ライオネルの神殿に一人で住んでも意味がないからだ。


この一件の騒動で一番頭を悩ませたのは、記録の神コーカサスだったろう。

この結末をどう美しく人間達に伝えるか、書物の内容はかなり虚像に満ちたものになったに違いない。



元通り平和になったガーベラだったが、ちょっとおかしなことになっていた。あれから月の女神ディアメラがよく目の前に出没する

のだ。

「私と勝負しなさい。ガーベラ！」

昼間にもかかわらず、ディアメラはガーベラの神殿にやってきていた。

「勝負ー？今度は何思いついたわけ？」

ガーベラは気乗りしない様子で聞いた。ディアメラはガーベラの元にやってきてはいろいろ勝負を挑んでくるのだった。

この前負けたのがよっぽど悔しいようだ。

「どちらが人間の女性に人気があるか勝負して！」

「えー！！！やーよー」

「あなたに勝つまでは眠れないのよ。あれから不眠症なのよ。どうしてくれるのよ！」

「私に言われても・・・・そーだ、オルガに眠れるようにしてもらえば？」

「勝負しなさいってば！」

「やーよー・・・・」

ガーベラはぱっと消えた。

「待ちなさい！ガーベラ！」

どうやら騒動の余韻はまだまだ続くようだ。



そしてその余韻はゆりの元まで飛んできたのだった。

あの勝負から５日目のこと、

早朝、人間界蛇の国にクーリーフンが飛んできていた。クーリーフンは王の寝室に勝手にお邪魔して、ベッドの上から

眠る３人の人間を見た。３人とはラクシュミにミシェイラ、ゆりだ。

クーリーフンは申し訳なさそうにゆりを見つめつつ、腰につけていた袋から何かを取り出してゆりの額においた。それは額から中へ

すっと吸い込まれた。

「ごめんね。お母さん、僕はハロルドにはちょっと逆らえないんだなー」

クーリーフンは無邪気に眠るゆりを見つめ、寝室を出て行った。

やがて３人は目を覚ました。

「あーよく寝た」

ゆりはクーリーフンがきたことなど知らない。朝は何事もなく過ぎて行き、昼過ぎになりシャナーンが部屋にやってきた。

「王妃」

「シャナーン」

ゆりがシャナーンに触れようとした時、それは起こったのだった。手がつるんと滑ったのだ。

「あれ？」

「？」

シャナーンの肩にもう一度触れようとしたが、また滑った。


「王妃？何をなさっているんですか？」

「あれ？」

ゆりの両手はつるつるとすべり、意地でもシャナーンに触れようとしたゆりはつるんと滑って床に転がった。

「お、王妃？」

「いったい何がどうなってるの？シャナーンに触れない」

「ええ？どうしてですか？」

「さあ・・・・どーしてだろう？」

その後、男全員に触れないというがわかったのだった。女性に触れるのは普通だが、どの男に触ろうとしても触ることができない。

男でもシスやラギなら平気だが、大人の男はだめなようだ。


「なんでー？？？」

無理に触ろうとすると、つるんと転んでしまうのだった。

「お母さんまた神の国で何かやったんじゃないの？」

ラギには鋭く指摘された。

「え？まさかハロルドに呪いかけられたとか？」

「今度は何したんだ？」

ラクシュミにも聞かれた。

「何って、別に何も・・・」

絶対何かしたんだろう、と子供たちからもラクシュミからも見られたゆりは、口を尖らせて部屋に戻っていった。


くそーまさかこんな仕返しをされるとは・・・いや、まてよ、もしかしてこれって、愛してるがゆえの嫌がらせってやつですか？


前回の別れの画面を思い出して、ゆりはもしやと思った。


お前を誰にも触らせたくない、とかそういうのだったらどうしよう・・・・ずっとこのままはやだよー


両手で頬を挟んでいるとハインリヒとヴィラがやってきた。

「王妃、また神様に何かされたって本当ですか？」

二人は面白そうな顔で聞いてきた。

「ぷーんだ」

ゆりに触れようとしたハインリヒの手はつるんと横に滑っていた。男がゆりに触れようとしてもすべるのだ。

「おっ！」

「へー面白いですね」

とヴィラも試していた。

「面白くないよ。ずっとこのままだったら私は永遠に男に触れられないんだよ。そんなのやだ！」

「男好きですもんね」

言ったハインリヒを殴ろうとしたゆりの手はやっぱりつるんと滑っていた。

「うーん、喜劇を見ているようだ」

「ハロルドに本当に好かれてるんですねー王妃は」

ハインリヒもヴィラも笑っていた。


「誰かなんとかしてー！！！」

ゆりのその叫びは、やっぱり神の国には届かなかったのだった。



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