第25話
どうしよう・・・つ、つ、つ、梅雨が過ぎたー！
この日の朝は快晴だった。今年の梅雨は12の月10日くらいから22日まで続き、結構な雨が降り続いたために
各地で水害も出たりしたのだが、その梅雨も終わったようだ、と朝食の時間子供達が話していた。
久しぶりに空は青い。
「梅雨が終わっちゃった・・・」
ゆりは窓から空を眺めつつつぶやいた。ゆりの首にはかなり長くなった青い蛇ルーがぶら下がっている。
「梅雨が終わっちゃったねールー」
ルーは鎌首をもたげて窓から空を眺めていた。
別段今回の梅雨に思い入れがあったわけではないのだが、梅雨が終わると今年も終わりに近づいてくる。
それなのにゆりは男が触れないままだった。
かれこれ２月くらいにはなるだろうか。
側にいるのに誰にも触れないというのはなんだかさみしいものだ。もちろん、子供や女性には普通に触れるのだが、
大人の男にはまったく触れない。どういう魔法なのか謎だ。ラギにはどういう魔法か聞いてきて、と言われたが、
そんなこと聞けるわけない。
「それなのに王様ってばつれないよねーそう思わない？ルー」
ラクシュミは普段からスキンシップを取るタイプでもないので、夫婦が長い間触れ合わなくても別段どうも思っていないようだ。
「さみしいでしょ？」
と聞いても、「別に」と言っていた。遠くに離れているわけではない。側にいることはいるのだから全然どうってこともない
らしい。
案外夜が平穏無事でうれしく思ってたりして・・・
子供が６人も生まれたというのに性欲があまり衰えない自分にはちょっとあきれるばかりだが、この世界の人々の
寿命は長く、ゆりの外見も来た時からそう変わってもいない。周りから見れば変わっているのかもしれないが、自分の
目で贔屓目に見れば、そう変わってはいない。気分はいつまでも２０代なのだから性欲があっても
しょうがないのかもしれない。虎の国のアヤコなどは「あれはもう一生しなくてもいい」などと言っているが、それもガットが
アヤコに迫りまくるからで、ゆりがもし夜望まなければ、それこそ赤い月以外はいちゃいちゃなし、という生活にも
なりかねない。昼間仲良く話をしたり、デートできるのならともかく、あまり触れ合うことはないので、せめて夜くらいは
夫婦らしくいちゃいちゃぺたぺたしたいものだ。
まあいいさ、私から性欲がなくなったら、もうガーベラにはなれない気がする。それは困る。だからこのままで
いいのだ！
ゆりはこの日もストレス発散とばかりに竪琴の練習をしまくった。何かスポーツでもしたい気分だが、城の中では
散歩くらいしかできない。
「最近の竪琴はすごく力強いね」と竪琴を聞いたシスから言われてしまった。どうも知らないうちに力がこもっているようだ。
そこで「欲求がたまってるんだね」と突っ込んだラギは本当にかわいくない息子だ。
息子にまで欲求不満だと思われたのはかなりショックだった。親の威厳は一体どこに行ったのだろう。
なんとか来年までには元に戻りたい〜
どうか今夜こそ神の国に行けますように・・・
夜になれば毎晩のようにそう祈りつつ、その夜はようやく神の国に行くことができたのだった。
目覚めたら、目の前になんとジンラがいた。
「ガーベラ、いきなり突っ伏してどうしたんだ？」
ジンラはいつも通りの紫の瞳で不思議そうに聞いていた。顔は相変わらずラクシュミに良く似ている。
「はっ・・・えーと・・・なんでもないの」
ゆりは笑ってそういいつつきょろきょろと周りをみた。ここはジンラの神殿の中のようだ。ジンラとガーベラは椅子に座って
お酒を飲んでいた所だったのだろう。木のテーブルの上にはお酒のビンが３本ほど乗っていた。
「そうか？」
ゆりの目がきらきらと輝いた。
ああ、ひっさびさのジンラ様のような気がする〜ハロルドにも会わなきゃならないけど・・・ここは・・・
「ジンラ〜」
ゆりは椅子から立ち上がり、向かい側にいたジンラに抱きついた。体はすべることはなく、ジンラの体にぴったり
ひっついた。それがうれしかった。
「ああ、触りたかった！」
「？」
「この感触〜」
ゆりはここぞとばかりにジンラに触りまくった。怪しい痴漢のようだが、外見は美しいガーベラなので、そこまで
不審がられることもないだろう。
「どうしたんだ？ガーベラ」
ジンラはあまりの勢い椅子から落ちそうになるのをこらえていた。
「ジンラ好き〜♪べったり。もうすりすりしちゃう！」
「？？？」
ジンラは触られるままだった。ゆりは抱きついたりほお擦りしたり両手を握り締めたりと、思う存分ジンラに
触れまくった。頬にもちゅっちゅとキスしている。
「変なガーベラだな・・・」
ジンラは苦笑していた。
「幸せ」
ぎゅっと抱きしめられて幸せな気分になったゆりは、手を握り締めたままついジンラと一緒に仲良くお酒を飲んでいた。
ああ、ジンラってやっぱり素敵だわ〜側で見る笑顔も素敵♪
何杯かお酒を飲み、ゆりは軽くキスをしてほろ酔い気分でジンラと分かれた。
やっぱりジンラはいいなあ。いつ会っても優しいし、笑顔だし・・・この後に目吊り上げたハロルドには会いたくないなあ・・
でも会わなきゃ元に戻らないし・・・・
しばらくは幸せの余韻に浸りたいものだがそうも言ってられない。
「ガーベラ」
上から声がした気がして、空を見るとラーズが飛んできていた。
「あ、ラーズ」
「どっか行くのか？」
「ラーズ！触らせて〜」
「あん？」
ゆりはこの際とばかりに地上に下りてきたラーズに抱きついて触りまくった。
「なんだなんだ？」
「ラーズっていい匂い」
「さては酔ってるなー？」
「酔ってマース♪」
ゆりはお酒のせいにしてラーズの胸や顔に触った。
さすがに翼には触れていないが、今日もラーズの翼は真っ白で綺麗だった。
「すりすり、あー満足した」
ゆりは腕や胸に触りまくり、満足げな顔で離れた。
「ん？いや、こっちは満足してないぞ。どうせならもっと引っ付こう。２人っきりになって」
ラーズはゆりの腰を抱いてきた。これだけ触られたらその気になるのも当然だろう。
「だめなのーこれから怒り顔のハロルドに会わなきゃならないから」
「えー？ハロルドー？」
ラーズは不服そうだった。
「なんだよーこのこの」
ラーズはゆりの耳を軽く引っ張っていた。
「ごめんねーまた今度ねーありがとう。ラーズ」
勝手に満足したゆりはラーズと別れて、怒り顔のハロルドを心に思い浮かべた。
のだがー
気づいたら自分の寝室に戻ってきていた。なんと神の国での時間は終わってしまったのだ。
「あー私ったらばかばかー！！」
ゆりは思わず自分の頭をぽかぽかたたいていた。
男に触りまくってハロルドに会いそびれてしまったとは。
横で寝ていたラクシュミが目を覚ました。
「今なんか言ったか？」
「ううん。なーんにも言ってないよ」
「そうか？なんか獣の雄たけびのようなものが聞こえたが・・・」
「気のせいよ。気のせい」
ゆりは笑顔でそう答えた。
我ながら情けない・・・でも目の前にジンラの笑顔があったら、誰だってそうなるよね。うん、そうに決まってる
でもなさけなーい！せっかく久々に神の国に行けたのに〜！
いまさら後悔しても仕方がない。ゆりはこの日暇だったのでハザークの部屋に行き竪琴を演奏して聞かせていた。
「・・・なんだか荒っぽくないか？」
ハザークは演奏が終わった後聞いた。
「そうですか？気のせいじゃないですか？」
「なんだか男っぽい演奏だったぞ」
「思いを込めて弾いたからかな？」
「何の思いがこもってるんだ？」
「いろいろと・・・」
「ふーん」
相変わらずゆりの竪琴は「安らぎ」という言葉からは程遠いようだ。
うーんだめだわ。スポーツがしたい。テニスとかバドミントンとか水泳とか・・・
「ラケットどうにかして作れないかなあ。作れそうだけどな・・・」
ぶつぶつ言いながら自分の部屋に帰っていると、自分の部屋の前でミカエルに出くわした。
「あ、王妃」
「ねえ、ミカエル、どっかに泳げる所ないかなー」
ゆりはミカエルの顔を見るなり聞いた。
「泳ぎたいんですか？」
「体動かしたいの」
「御子様達と追いかけっこでもしたらどうですか？」
「えーだって、みんな飛べるんだもん。やだあ。街の女の子が遊ぶようなものって何かないかなあ」
「そうですねえ。まあ何か見つけておきましょう」
「よろしくー」
「まだあれ治らないんですか？欲求がたまってるんですね」
ミカエルがにやりとして言った。
「そんなことないよ。たまにはこういう生活もいいものだと思ってるよーだ」
ゆりは部屋に入りつつべーと舌を出した。
「あー早く王妃とぬるぬるぺたぺたしたいなあ」
「ぬるぬるって何よ。なんかやらしいわね」
「ぬるぬるにぺたぺたにべろべー」
ゆりは扉でミカエルを外に押し出した。
「さようなら」
ミカエルは瞬間移動で入ってはこなかった。
「まったくいい年して何言ってるんだか」
あの顔でああいうセリフはやめてほしいものだ。
昼間ミカエルに会ったせいか、その夜は変な夢を見てしまった。
夢の中にミカエルが現れたのだ。しかも下はズボンを穿いていたが上半身は裸だった。
「王妃」
ミカエルにそっと両手を握られた。
「あれ？触れるんだ。やったー」
ゆりは喜んでミカエルの手を横に降っていた。
「これでぺたぺたできますね。王妃」
「え？でもここなーんにもないし・・・」
周りにはベッドも何もなく真っ白な空間だった。
「いいじゃないですか。さっ脱いで脱いで」
ミカエルはゆりの服に手をかけてきた。ワンピースのスカートを上にめくりあげようとしている。
「えー！ちょっと待って！待ちなさいってば！」
ゆりはぺしんとミカエルの手をはたいた。
「王妃、私とぺたぺたしましょう」
別のところから声が聞こえてきた。横を見るとハインリヒが立っていた。ハインリヒも上半身裸だった。
しかも胸にいる黒い蛇は、すでに頭が二つある。
「うわっ魔王変身してる！」
「さあ、王妃」
ゆりは思わず逃げた。
「私が先にいたんだぞ」
ミカエルがハインリヒに抗議した。
「いいじゃないか。この際２人一緒でも」
「うーん、まあいいか、王妃〜」
なんと２人一緒に追いかけてきた。
「ひえええええー来ないで〜！しかもダブルはいやだってば！」
走っていると目の前にフリットが現れた。フリットもなぜか上が裸だ。
「助けてフリット！ミカエル達が追ってくるの！」
ゆりはフリットに助けを求めた。
「王妃、こっちへ、私といちゃいちゃしましょう」
フリットはゆりの肩を抱きながら言った。
「え？フリットもそういう気？」
「はい」
フリットはいつもの真面目な顔で言った。
「え？なんで？」
「私も混ぜてください」
「私も」
横を見るとジュノーとヴィラもいた。
なぜみんな上裸なんだか・・・もしや全員来るのかな？
と思っていたらミルキダスとシャナーンもやってきた。
みんな下はちゃんとズボンをはいているのに、上は裸だ。久しぶりに男の裸を見まくってしまった。
みんなそれぞれ鍛えられた体のままだ。素晴らしいとゆりは思わず感心した。
「王妃・・・」
「愛してます。王妃・・・」
ゆりは上裸の男達に囲まれてしまった。
「やっぱ全員登場？あれ？イシュタールがいない」
もしやイシュタールの愛は冷めたのかも？と思っていたら、みんなの輪の外に頭が一つ出た男が現れた。
「あ、イシュタールもいた」
イシュタールは笑みを浮かべてゆりに手を振っていた。
全員いたのでゆりはなんとなくほっとした。
「王妃、この際みんな平等にぺたぺたしましょう！」
ミカエルが言った。
「えーいきなり何言ってるの！」
目のやり場に困りつつゆりは逃げようとしたが、男達に囲まれているので逃げ場が全然なかった。
背の高い男達は円になってゆりを取り囲んでいる。
「王妃、何なら２人で逃げましょう」
シャナーンが言った。
「え？」
「何言ってるんだ。お前」
「ずるいずるい」
「もーそういう気分になれませんってば！」
「嘘嘘、みんなで仲良くすれば欲求不満も即解消ですよ♪」
ミカエルが笑顔で言った。
「せっかくこれだけ恋人がいるんですから」
「うるさい！」
その時はっはっはと笑い声が聞こえてきた。ゆりがシャナーンとミルキダスの間から顔を出すと、少し離れたところに
ラクシュミとハザークが座っていた。
２人ともなぜか湯のみをもっている。湯のみからは湯気があがっていた。
「ゆりは相変わらずもてるなあ・・・」
「よかったな、王妃」
２人は笑みを浮かべて茶をすすっていた。
「全然よくなーい！」
「儀式しましょう。王妃！」
「２人が見てるのにできるかー！」
ゆりは男達を押しのけて間から強引に外に出て逃げていった。
その後を男達がわらわらと追いかけてくる。
「王妃！」
「追いかけっこしたいんですねーいいですよー」
「楽しそうだな〜」
「そうだな。ははは」
ハザークとラクシュミは座り込んだままだった。２人は茶色っぽい塊をむしゃむしゃ食べていた。
ゆりは逃げつつも二人が食べている物に目が釘付けだった。
もしやようかん！？なぜにようかんなのー！！
「私にも頂戴！じゃなくって、ようかん食べてないで助けてよー！」
そこでゆりははっと目覚めた。
まさかあんな２人の姿を見てしまうとは・・・
２人がようかんを食べている姿があまりに衝撃だったため、恋人達に追いかけられたことはちょっと忘れていた。
「ああ、まったりとした玉露においしい栗ようかんが食べたいなあ・・・・」
ゆりはどうしてもようかんが食べたくなったが、ようかんぽいものを作るとなるとかなり時間がかかるので、とりあえず、
豆を甘く煮たものを街からもってきてもらい朝食後に食べていた。
「小豆がないからなあ、この豆でもそれっぽいのできないことはないだろうけど・・・」
ぶつぶつ言いながら食べているとミカエルがやってきた。
両手に何か抱えている。
「はい、王妃、街の人たちの間で今はやってる物もってきましたよ」
ミカエルはテーブルの上にそれを置いた。
「あっ！！」
とゆりは歓声をあげた。
それはテニスのラケットのようなものとボールだった。テニスのラケットよりは少し小ぶりだ。
「やったーどこにも似たような物があるんだねー」
丸いわっかの中にはラケットのように十字に何かの太い糸がたくさん張られていた。ボールはふにゃふにゃして
やわらかく、あまり跳ねそうになかった。
「このボールを打ち合って遊ぶのね」
「そうですよ。ボールを落とした方が負けなんですよ。ラッケルという遊びですよ」
「そうなんだ。バドミントンみたいね。早速遊ぶわ。ありがとう。ミカエル」
「いいえ。体を動かすことはいいことですからね」
ゆえはさっそく侍女を相手に城の外の開けた場所で遊ぶことにした。ボールはそんなに遠くまでは飛ばないので
そんなに広くなくても十分遊べた。
一時間ほど遊んでいると涼しい気温にもかかわらず、汗だくになっていた。
「王妃、もうそろそろやめませんこと？」
相手をしてくれていた侍女が言った。
「いや、まだまだ」
「そうですかー？」
ゆりはかなり負けっぱなしだった。日ごろたいして運動していないせいか、機敏に反応できない。
ゆり側にだけボールが落ちまくっている。ゆりは日ごろの運動不足を痛感していた。
やがて子供たちがやってきて遊びたがったので子供たちがゆりの相手をした。
アナスターシャとシス相手ではさっぱり勝てなかった。ラギは最初からやる気はないらしく見ているだけだ。
「お母さん足元ふらついてるよ？」
ラギが言った。
「もーだめー！」
２時間動きまくったゆりはへとへとになっていた。上ばかり見ていたので首もだるい。
「くやしー昔はもっと動いたのにー！！！」
「しょうがないよ。王妃様なんだから」
「王妃様でもくやしー！」
運動して体の欲求はすっかり収まったものの、その日は午後も足ががくがくだった。
あげくの果てには次の日にはばっちり筋肉痛になってしまい、ラケットをもった右腕も重かった。
「だる・・・」
ゆりは長いすに寝そべってだらりとしていた。
「やりすぎるからですよー」
侍女のミラが足をもんでくれていた。
「だってやられっぱなしで終わるのが悔しくて・・・」
その日ミカエルが「ラッケルで遊びましょう」とやってきてくれたのだが、遊ぶ所じゃなかった。
「ごめん、昨日ハッスルしすぎちゃって・・・」
話を聞いたミカエルは笑っていた。
「やっぱり王妃はあっちの運動の方がいいみたいですねー」
「そんなことない」と言いたいゆりだったが、筋肉痛だらけのこの体では反論できなかった。
「私だって、日々運動すればさー今は体力がないだけよ。あっそーだ！これからみんなにラッケルの相手をして
もらうことにしよう！」
ゆりは人差し指をピンと立てて言った。
「みんなって？」
「恋人達。触れないからってほっておくとみんなに忘れられるかもしれないし・・・」
何もベッドでいちゃいちゃするだけが恋人ではない。日ごろから適度なコミュニケーションも必要だろう。
「とりあえず、体が戻ったら危なそうなイシュタールを呼ぼうっと」
「イシュタール危ないんですか？」
ミカエルが聞いた。
「一番最後だったし・・・」
「？」
「こっちのこと。まあミカエルとハインリヒはいいとして他の人と遊ぼうっと」
ぶつぶつ言っているとミカエルの耳がぴくりと動いた。
「なんで私はいいんですかー？」
「ミカエルとの愛は深まりすぎてるから」
「はーそうですかねえ？」
ミカエルは釈然としないまま出て行った。
そうしよう。恋人達とも仲良くなり、体力もつくから一石二鳥ね♪
こうして今年最後の月は外で健康的に恋人達とスポーツをして過ごしたのだった。たまにはこういう爽やかな日々も
いいだろう。
「王妃楽しいですか？」
恋人にそう聞かれて
「ぜっんぜん楽しくない！」
ゆりはぜいぜい言いながらそう答えた。この日の相手はヴィラだった。
「ヴィラってほんと、意地が悪いっていうか、性格悪い！」
「そんなことないでしょう」
ヴィラとしばらくラッケルで遊んでいたのだが、取りにくい所にばかりボールをほってくるのだった。おかげで
ゆりだけ走りまわされている。何度かしてこの遊びにも慣れたと思っていたのだが。
「シャナーンとはえらい違いだわ」
ゆりは小声でぶつぶつ言っていた。相手がシャナーンの時は、ゆりはあちこち動かなくてもボールを返すことができた。
シャナーンじゃなくても他の皆もボールが返しやすい場所にほおってくれるし、歓談しながら和やかに遊べたのだが
今は歓談どころではない。
ゆりは力を込めてボールを受け返したが、ヴィラは涼しい顔でボールを受け、やっぱり離れた所に返してきた。
「性格わるー！」
「そうかなあ？勝負なんですから。それに運動したいならこれくらいは動かないと運動になりませんよ？」
「くそー」
「王妃様がくそーなんて言っちゃだめですよ」
「くやしーもうヴィラとなんてやるもんか！」
「まあそう言わずに。私は結構楽しいですけどね。王妃の必死の姿見るのが」
ヴィラは涼しい顔で笑っている。
「性格悪男め！」
散々走らされたゆりは、次の日にはまた筋肉痛になっていたのだった。
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