第26話
今年も最後の月に入った。王の間で魔法の鏡でアヤコと話していたゆりはあることに気づいた。
「あっこっちに来て今年で30年目だわ！」
「え？ほんと！？早いわねーってことは私はこっちに来て・・・」
アヤコは途中で考えるのをやめた。ゆりよりもずっと前に来ているのでその分年もくっていることは確かだ。
「30年かー何かお祝いすればよかったなーすっかり忘れてた」
あっという間の３０年だったなあ・・・とゆりは昔のことを懐かしく思い出していた。
「あっちで30年すごしてたら、結構なおばちゃんになってるだろうなあ・・・」
「そうよねー私なんて孫がいてもおかしくないわ」
とアヤコ。
「でもアヤコさんも出会った頃とちっとも変わってないわよ」
とゆりは鏡のアヤコを見つめて言った。
「そうかしら？そんなことないけどねー。年中日焼けしてるしお肌の衰えが気になるわー」
「大丈夫大丈夫まだまだいけるよ。アヤコさんももっと子供産めるよ」
「ははは」
「ところで後ろに見えるそれってクリスマスツリー？」
アヤコの後ろの方に1メートル50センチほどの三角に葉が茂った植木が置かれていた。
植木にはキラキラ光る飾りが一杯つけてある。
「そうよー。13の月に毎年植木に飾りつけることにしたの。暖かいからクリスマスって気分じゃないけどね」
「そうなんだーアヤコさんはいろいろやってるねー」
２人で楽しく話しているとあっという間に時が過ぎていた。ラクシュミが戻ってきたので二人は話を切り上げて別れた。
「ねえねえ王様、すっかり忘れてたけど、私こっちに来て30年経ったよ」
ゆりはラクシュミに告げた。
「そうだっけか」
「そうだよ。30年かー王様は・・・すっかり穏やかな顔になったね」
ゆりはラクシュミをまじまじ眺めて言った。
「そうかもな」
どうやらラクシュミも自分で自覚しているようだ。
「せっかくだから今年中に何かやりたいなー何がいいかなー」
ゆりは考えながら王の間を出て行った。
「30年か・・・もう少しで王になって半分はゆりがいることになるんだなあ・・・」
その間に子供が６人も生まれるとは・・・・
感慨深く思いつつ、ラクシュミは王座についた。
一方部屋に戻ったゆりは侍女のミラに相談していた。
「もうあんまり時間がないけど今年中に何かやりたいなあ・・・」
「パーティーでもされたらどうですか？」
「パーティーかあ・・・あ、そうだ、竪琴の演奏会開こうかな。最近ずっと練習してたし」
「それはいいですね。皆様喜びますよ」
「そうしよう！」
竪琴は習いだして20年になる。腕前も最初の頃とは違い、かなり上達はしている。コンサートをしてそれほど恥を
かくこともないだろう。
「何人くらい誘われますか？」
「うーん、あんまり大勢いると恥ずかしいから・・・ちょっとでいいかな？ミニコンサートで・・・」
恥をかくこともないとは思うが、そうと決めたらちょっと弱気になったゆりだった。
そしてこの日の夕食の時間、子供たちに大々的に発表した。
「今月の20日に私の竪琴のコンサートを開きたいと思いまーす。題して『年忘れコンサート』せっかくだからさ、
アナスターシャやナナミに一曲づつ私の竪琴に合わせて歌ってもらおうかな。家族で演奏会っていいじゃない」
子供たちは突然の申し出にぽかんとしていた。
「私蛇の歌歌うー！」
と声をあげたのはナナミだった。
「なんでもいいよー」
「年忘れコンサート？どうして年忘れ？」
ラギが聞いた。
「年末近くにやるから。向こうじゃよくそう言ってたし」
「ふーん？」
「こっちに来て今年で30年だから何かやりたいなーと思って」
「あ、そうだっけ。30年だっけ」
「そうだったんだーじゃあ一緒に記念パーティーもやろうよ」
ラギに続いてシスが言った。
「50年目には国を挙げてお祝いしなきゃね」
とアナスターシャ。こっちの世界では節目といえば１０年50年100年になり、30年ではしょうしょう半端になるようだ。
「その頃には兄弟が10人くらいになってるかもねー」
ラギが笑いながら言った。ゆりも笑っていたが、実現する可能性があるところがすごいところだ。
夕食後、ラギとシスがゆりの部屋にやってきた。
「招待状作るの手伝ってあげるよー」
「ありがとう」
「何人くらい呼ぶの？100人くらい？」
「まさか。親しい人だけだよ。恋人達と、親しい女の子達と・・・まあそのくらい」
「なんだ。それだけなの？」
ラギは拍子抜けした感じだった。
「当たり前でしょ。大勢に披露できるほどじゃないもん。みんな仕事があるし、全員出席はできないかなあ」
「大丈夫だよ。コンサートの間だけ抜けてきてくれるよ」
「そうかなあ・・」
「そうだよ」
「楽しみだね」
シスがにこっと笑って言った。
「母様竪琴かなり上手になったもんね」
「そうだね。この前ハザーク様もほめてたよ」
「え？ほんと？」
「ちょっとの間ならうたたねできるようになったって」
「そう・・・」
それってほめ言葉？
ゆりは首をひねっていた。
「ハザーク様も呼ぶよね？」
「呼んでもこないと思うけどねー・・・」
ハザークは人が集まるような場所は苦手だろう、とゆりは思っていたが、ゆりよりも先にアナスターシャにその話を聞いた
ハザークは、
「・・・何時からだ？」
「午後４時からみたいですよ」
「そうか」
「私歌歌うんですよ。だから絶対来てくださいね」
「うむ」
すっかり行く気になっていた。
ゆりは毎日竪琴を練習しつつ、恋人達とラッケルを相変わらず続けていた。なんとも健康的な日々である。
今日はちょっと肌寒い日だったがミカエルがやりたいというのでミカエルとラッケルをしていた。
「ねえ、王妃、まだハロルド様に魔法解いてもらってないんですか？」
「うん。最近の私ってほんと爽やか王妃様だよね。そう思わない？おかげで体力ちょっとついたよ」
「別に今までだって爽やかでしたけど・・・」
「そうかしら」
「そうだ。将軍達が演奏会の後のパーティーには出席したいって言ってましたよ」
「本当？」
コンサートの後はパーティーをやる予定だ。
「その時に一曲奏でてほしいそうですよ」
「そうかー」
「それからセリアが大喜びしてましたよ」
「そう、よかった」
招待状はセリアやエルバートにも送っていた。セリアには以前竪琴を聞かせる約束をしてそれっきりだったからだ。
「王妃も演奏会を開けるほどの腕前になったんですねー」
「20年かかったけどね」
「所でどうして年忘れなんですか？」
「あ」
ゆりはボールを下に落としてしまった。招待状を送ったみんなから「年忘れ」ってどういう意味ですか？と聞かれる始末だった。
10日、ゆりはハザークの部屋で竪琴を奏でていた。
コンサートで弾く曲はハザークの侍女にも相談して決めていた。
「ここまで弾けるようになったのは侍女さんらのおかげだよ。ほんとありがとう」
ゆりは改めてハザークの侍女に御礼を言った。下手な自分を見捨てずに、よく優しく教えてくれたものだと、ゆりは今も
思っている。
「いいえ、王妃様の努力の結果ですよ」
「続けてよかったなー」
「何曲弾くんだ？」
ハザークが聞いた。
「10曲ですよ」
その中には『楽園の曲』のような難しい曲は入っていない。侍女と一緒に弾くと、どうしても自分の腕が下だとみんなにわかってしまう
からだ。中級でそこそこ弾ける曲を選んでいた。
「我の席はでかい長椅子用意しておいてくれ」
とのハザークの言葉にゆりはぎょっとした。
「え？ハザーク様来るんですか？」
「ん？なんでだ？行っちゃ悪いのか？」
「だって大勢がいる場所は苦手かと思ってたから・・・」
「行くぞ。お前の子供らもここに来ちゃその話してるから気になる」
「はあ・・・・まあいいですけど・・・じゃあ長椅子用意しておきますね」
ゆりは笑みを作って言った。
「どうも怪しい・・・」
「ん？」
その夜、ラクシュミはハザークの部屋でハザークと一緒にお酒を飲んでいた。
「怪しい・・・」
ハザークが酒瓶を見つめて言ったので、ラクシュミは瓶を手に取り酒の匂いをかいでいた。
「別に普通だが？」
「いや、酒の話じゃない。王妃だ。王妃が演奏会に我に来てほしくなさそうだった」
「演奏会？ああ、今度あるやつか。ハザークも来るのか？」
「行くと悪いのか？」
「別に悪かないが、お前しょっちゅうゆりの竪琴聞いてるんだろ？」
「そうだが、演奏会だからまた別だろう」
「そうだな。かなりめかし込むようだからな」
「さては我に見せたくない男でも来るんじゃないのか？新しい恋人とか」
「そんなのはいないぞ。最近男に触れないしな」
「本当か？」
「触れないのに恋人は増えないだろう」
「怪しい・・・・」
ハザークがあまりに怪しがっていたのでラクシュミは横を向いてぷっと笑っていた。
そして20日は朝からゆりも子供たちもそわそわしっぱなしだった。
子供たちは演奏会で歌う歌の練習をしていた。せっかくだからとシスやロイも参加することになった。
ゆりの侍女達は大広間を演奏会場に変え、ラギもそれを手伝った。
「わーすっごい緊張してきた。失敗しないようにー」
ゆりは部屋の中をうろうろ歩き回っていた。
「曲忘れたらどーしよう」
「大丈夫ですよ。あれだけ練習されたんですから」
とミラ。
「あーコンサートなんて開くんじゃなかったー」
「王妃様ったら」
ゆりのあまりの緊張の仕方にミラは笑っていた。
昼が過ぎて、ゆりはとっておきの純白のドレスに着替えて髪も上にまとめて飾りをつけてもらった。
そしていつもの倍念入りに化粧をほどこした。
「わー久々に王妃様気分。そーだ、王様に見せてこよう」
綺麗に着飾ったゆりは王の間に向かった。番兵達が「綺麗ですよ」と手をたたいてくれた。
「王様、どう？」
ゆりはラクシュミの前でくるりと回ってみせた。
「おお、王妃っぽいぞ」
ラクシュミは目を細めて言った。
「でしょ？綺麗でしょ？」
「ああ、綺麗に化けたな。じゃなくて綺麗だぞ。今日はがんばれ」
「うん、がんばる！」
ゆりはかなり緊張していたのか、ラクシュミの言葉を聞き返すこともなく王の間を出て行った。
「王、演奏会に行かれないんですか？」
番兵が意外そうに聞いた。
「ああ、行かないぞ」
ラクシュミが言った。
「一時間くらい抜けられては」
「そうですよ。王妃のせっかくの演奏会ですのに・・・」
「私が行くとゆりが緊張してしまうからな。だからいいんだ」
「はあ・・・」
ラクシュミはラクシュミなりに気を遣っているようだ。
年忘れコンサートの時間が近づいてきて、人々が大広間に集まってきた。女性達はドレスを着ておしゃれしていたし、
男性達は汚れ一つない戦士服を着ていた。
客席の一番前にどんと置かれた長椅子を見てジュノーが言った。
「王も来られるんですね」
「ううん、これハザーク様の席だよ」
とラギが答えた。
「え？ハザーク様も来られるんですか？」
と隣にいたヴィラが目を丸くした。
「うん。絶対来るってかなり楽しみにしてらしたよ」
「そうですか・・・おい、なんて挨拶したらいいかな？」
ジュノーはこっそりヴィラに聞いていた。
招かれた人々は皆花束を持ってきていた。部屋の隅に色とりどりの花が並べられ、広間が華やかになってきた。
ユリウスとジェナサイトは息子のフランツを連れてきていた。
「わーフランツ大きくなったねー」
ラギがフランツに近寄って行き、抱き上げた。
「こんにちはーラギちゃまー」
「はい、こんにちは」
「やっぱりユリウスに似てるなあ。フランツは」
「連れてきてよかったでしょうかね」
ジェナサイトはちょっと遠慮がちだった。
「いいよいいよ。フランツはおとなしくしてるもんね」
「うん」
「あーうれしいわ。緊張するわ」
横の方ではしゃいでいた女性がいた。セリアだった。セリアは紫色のドレスを着ていた。
「王妃様の素敵な竪琴を聴くことができるなんて・・・感無量だわ！」
「すごくうれしそうだね」
ラギが声をかけた。
「はい、招待状が届いた日の夜から緊張して眠れなくて・・・」
「あまり期待しすぎない方がいいよ」
「うれしすぎて倒れそうですー」
「倒れたら聞けないよ」
「はい、絶対に倒れません！」
「大丈夫かな・・・」
周りは苦笑していた。
席が埋まっていき、時間５分前になり、とうとうハザークが広間に姿を現した。
一同が立ち上がり緊張の面持ちで頭を下げたが、ハザークは気にすることなく長椅子に座っていた。
子供たちもそれぞれめかし込んで椅子に座り、時間ぴったりになりゆりが現れた。
すると一斉に拍手が起こった。
「綺麗ですよ。王妃！」
「ありがとう」
ゆりは恥ずかしそうに頭を下げていた。
「みんな、忙しいのに今日は『年忘れコンサート』に来てくれてありがとう。今日は日ごろお世話になっている皆さんに
竪琴を聴いてもらいたいと思い、この席を設けました。プロ並とはいかないけど、この20年でそれなりに上達してると思います。
しばらくお付き合いくださいね」
大きな拍手が起こり、ゆりは椅子に座って竪琴をひざに乗せた。
ゆりにとっては初めてのコンサート。手も汗ばんできていた。
落ち着けー落ち着け私！
ゆりは自分で自分に言い聞かせた。
「まずは「夜明け」という曲からです」
広間はしんと静まりかえり、ゆりの竪琴が始まった。最初は緊張のせいか指がスムーズに動かなかったが、そのまま弾き続け
なんとか一曲終えることができた。
それを聞いている皆も心なしか緊張しているようだ。
よし！最初はしょうがない。続けてがんばるぞ！
「次は・・・・」
ゆりは次の曲を弾き始めた。最初の曲よりも指は動くようになっていた。ゆったりとした優しい音色が響いた。
5曲目になり、ゆりはアナスターシャとシスを呼んだ。二人はゆりの両脇に立ち、竪琴に合わせて歌をうたった。
「き〜よし〜こ〜のよる〜♪」
それは「きよしこの夜」だった。２人に歌詞を覚えてもらったのだ。
竪琴に乗る２人の澄んだ歌声に、一同は聞きほれていた。その頃になると、皆もどこか安心した気分で竪琴を聞いていた。
ハザークは途中から寝そべって聞いている。
続けてロイとナナミは軽快な蛇の歌を歌い、皆の笑みを誘った。
最後になり、過去の世界で教えてもらった曲を、ゆりはハインリヒのリュートにあわせて奏でたのだった。
最後の曲が終わり、一同から再び盛大な拍手が起こった。長いようであっという間の演奏会だった。
心配していた大きな失敗はなく、子供たちとの演奏は楽しんで弾くことができた。
ゆりは全て最後まで弾くことができたので満足だった。
ハザーク一人手をたたいてはいなかったが、それでも満足したようだ。
「素晴らしかったですよ。王妃！」
「本当によかったですよ！」
口々に声がかかった。
「どうもありがとう！」
（本当に素晴らしかったですねー）
エルバートは拍手しながら心の中でカーライルに話しかけていた。
（そうか？なんとも突っ込みようがない竪琴だったが・・・・）
ゆりの竪琴はすごく下手ってほどでもないし、かといって感動するほどうまいってほどでもないのでそう思ったのだろう。
（またそんなことを・・・皆さん喜んでますよ）
（上の２人の歌がよかった）
（竪琴もよかったですよ）
（お前は耳が肥えてないからなあ・・・）
「う・・・うう・・・」
うめき声が聞こえて横を見ると、横の席に座っていたセリアが泣いていた。
「ど、どうしたんですか？セリアさん？」
エルバートが驚いた。
「感動して・・・涙が・・・」
セリアはハンカチを手にむせび泣いていた。
「王妃、本当に今日は素敵な演奏会でした」
「安心して聴けましたよ」
ゆりはみんなの側により、拍手喝さいの上賛辞を受けていた。
「そう？えへへ、ハザーク様どうでした？」
気をよくしたゆりはハザークに聞いてみた。
ハザークはずばり言った。
「上の２人の歌がよかった」
「・・・」
「そうでしょー？私の歌よかったでしょ？ね？」
アナスターシャが横からうれしそうに言っていた。
「私の竪琴は？」
ゆりは竪琴を強調して聞いた。
「失敗が少なくてよかった」
「もうハザーク様ったら」
「パパ、私の歌もよかった？」
ナナミが聞いた。
「ああ、よかった」
「わーい、ほめられた」
「まーまーまーきゃはは」
「ミシェイラもほめてくれてるの？ありがとう」
ゆりはシスに抱かれていたミシェイラを抱っこした。
こうして演奏会は無事終わり、広間のセッティングが変えられて食べ物とお酒が運び込まれて、今度はパーティーが始まった。
何人かは仕事で去って行った。
ハザークもさすがにパーティーまでいる気はなかったのか、姿を消した。
「今日は本当に素晴らしい日をありがとうございます」
シャナーンが笑顔で言った。
「こちらこそ」
「こっちの方が緊張しましたよ」
横ではヴィラがぼそっと言っていた。
「もーあれ？セリアは？」
ゆりがきょろきょろ探すと、広間の隅の椅子に座っているセリアがいた。
「セリア〜」
声をかけたゆりをラギがさえぎった。
「母さん、セリア寝てるよ」
「え？」
「散々泣いて疲れたみたいだよ。緊張してしばらく寝てないって言ってたし」
「えー？そうなの？面白い子」
「お母さんに言われるとはねー」
ラギが笑っていた。
夕暮れ時、将軍達がそろって顔を出した。ゆりはアナスターシャとシスに歌ってもらい、「きよしこの夜」を再び演奏した。
以前ゆりに入ったガーベラの竪琴を聞いた将軍達は、それぞれちょっと首をかしげたが、「素晴らしい」と拍手を送った。
その演奏の途中からラクシュミもひそかに広間に現れていた。
「お母さん、30年がんばったね。これからもがんばってね」
歌が終わるとラギから声がかかった。
「これからもがんばってお子様を生んでください」
「王もがんばって」
将軍達からも声があがり、ラクシュミは苦笑いしていた。ゆりは皆と歓談しつつ、楽しい時を過ごした。時々もう一人のゆりが
現れて同じように楽しい時を過ごしている。
「今日はほんと楽しかっら〜」
夜がすっかりふけて、お酒をかなり飲んだゆりは赤ら顔でベッドにいた。
「よかったなあ」
とラクシュミ。
「でもひとーつ残念なことがあります！それはなんでしょうか？」
ゆりはベッドに正座し、寝転んでいるラクシュミに聞いていた。
「さあ」
「それは・・・30年記念いちゃいちゃができないことれーす！」
「本当の記念日はとっくに過ぎたぞ。どっちにしろ無理だったけどな」
「いやーん。いちゃいちゃしたーい。王様〜」
ゆりは布団をばたばたさせていた。
「そういわれても・・・・別に私が魔法をかけたわけじゃないぞ」
「くすんくすん・・・いちゃいちゃ〜」
「魔法が解けたら好きなだけしてやるから」
「ほんと？！好きなだけ！？」
ゆりの目がぴかっと輝き、ラクシュミは「一晩最高２度まで」と付け加えた。
「もー王様ったら」
「赤い月なら好きなだけしてやるから」
「うーうーうーハロルドのばかー！」
寝室にゆりの叫びが響き、ラクシュミは口元に指をあてた。
「そんなこと本人に言うんじゃないぞ」
「もう言う！言っちゃう！それか石像に悪口描いてやる！顔に落書きもしちゃうー！」
「やめろ。今度は蛇にされるぞ」
「ぷんぷん！」
夜のお楽しみもなく、ゆりはふてくされたように眠りについた。
すると、ゆりは光輝く世界にいた。目の前には湖面がキラキラ輝いている。
横手には頭に一本角のあるユニコーンが優雅に水を飲んでいた。
やった！神の国だわ！ハロルドに文句言ってやる！・・・・いや、ここはしおらしく、かわいらしーく
「お願い〜元に戻して〜」って言う方がいいかな。そうしよう！
ゆりはうなずきながらハロルドの元に移動したのだった。
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