番外編　前半

「起きなさいガーベラ！起きなさーい！」

ゆさゆさと揺り動かされて、愛欲の女神ガーベラはうーんとうなりつつ目を開けた。時刻は真夜中のはずだった。

ガーベラは寝室で眠っていた所だったのだ。

真っ暗な部屋で仁王立ちしている女神からは穏やかな光が放たれている。短い金色の髪、鋭い視線の女神だった。

ガーベラやダーナに比べると胸もそんなに大きくなくすらりとした体型だ。

「ディアメラじゃない。どうしたのー？」

ガーベラは眠そうに言いつつ体を起こした。

「今夜こそは勝負しなさい！」

「えー？」

ディアメラは月の女神、最近サラディンを巡った対決でガーベラに負けて以来、何かとガーベラに絡んでくるのだ。

「今真夜中よー」

「夜中こそ私の活動時間じゃない」

ディアメラは威張った口調で言った。

「それで今日は何？」

「これよ」

ディアメラは床においていたであろう酒の瓶を手に取り持ち上げた。

「どちらが先に一瓶飲み干せるか勝負よ！」

「おやすみなさい」

ガーベラは再び横になってしまった。

「ちょっと、失礼じゃないのよ！」

「あのねー仮にも美の女神でもある私がそんなことできるわけないでしょ。酒飲み競争は他の人とやってちょうだい」

ガーベラがいかに面白い女神であってもそこまではしたくなかった。

「しょうがないでしょ。あなたってば弓も使えないし、剣もだめだし、水泳も走るのも私の方が早いに決まってるし・・・

競うものがないじゃないのよ」

「女神なんだから女らしさで競うとか」

「それじゃ私が不利じゃないよ！」

「もういいじゃない。無理に競わなくても。仲良くしましょーよ」

ガーベラは面倒そうに言っていた。

ディアメラはガーベラのことを嫌っているが、ガーベラの方はそうでもない。

ディアメラとはいろいろ価値観が違うだけの話だ。


「そういうわけにもいかないわ。あなたのことが夢にも出てくるほどなのよ！悔しいったらないわ！」

ディアメラは唇をかみ締めた。

温泉対決で負けたことがよっぽど悔しかったようだ。だがそこまで悔しがるような対決でもないような、と

ガーベラは思っていた。

「何かに勝たないと気がすまないわ！」

「そこまで思ってくれてありがとう。あんまり思いすぎると愛に変わるかもしれないわよ。相手が女性だとさすがの私も

想いを受け入れてあげることはできないし・・・」

「そんなわけないでしょ！」

ディアメラのでかい声をよそに、ガーベラは「おやすみなさーい」と言って目を閉じてしまった。

「ちょっとー！」

ディアメラがいくらつついてももうガーベラはもう起きなかった。


月はらんらんと輝いているが今は真夜中。たいていの神は眠っている。


ディアメラはあきらめてガーベラの神殿を去って行ったのだった。



「あー悔しいわ。何とかしてガーベラを悔しがらせる方法はないかしら・・・・」

自分の神殿に戻ったディアメラはあれこれと考えていた。


「ガーベラ様のことはしばらく置いておかれては・・・」

月の妖精が遠慮がちに告げた。

「そうですわ。もうどうでもよいではないですか」

「よくないわよ。このままやられっぱなしですむなんて嫌よ」


かといって女神なだけにあまり陰険な方法も取れない。なんでも勝てばいいというものでもないのだ。


ガーベラにとって一番悔しい方法とは、やはり恋人を奪われることにあるだろう。だがそれはディアメラにはかなり

難しい。妖精達は女としてディアメラの方がガーベラのより劣っているなどと思ってはいないのだが、ガーベラは

愛欲の女神なだけに男をとりこにする力があり、ディアメラの方が不利だと思っていた。


「こうなったら、ガーベラの一番大事なものを奪ってやるわ」

「大事なものというと・・・腰帯でしょうか？」

妖精が聞いた。

「腰帯を奪ったらただの泥棒じゃないの！違うわよ。よし、今からお兄様の神殿に行くわよ」

ディアメラはすくっと立ち上がった。どうやら思い立ったらすぐに行動しないと気がすまないタチのようだ。

ディアメラは夜が明ける前にアリアスの神殿に行き、アリアスをたたき起こしたのだった。


あくる日、光があふれる昼間、穏やかな風が吹く草原では妖精達とクーリーフンが歌を歌っていた。

歌が途切れた時、違う妖精が近づいた。

「あのう、クーリーフン様、お願いがあるのですが・・・」

「ん？何？」

クーリーフンが顔を向けた。


林の中に白い翼をはためかせてクーリーフンが飛んできた。大きな木にもたれかかかり、一人の女神が

腰を下ろしている。

「大丈夫？」

とクーリーフンが女神に聞いた。

「大丈夫よ。私の神殿まで運んでいただけるかしら」

そこにいたのはディアメラだった。足をひねったようなので神殿まで連れて行ってほしいと妖精が伝えてきたのだ。

「いいよ。だけど空の神殿の方がいいんじゃないのかな？アシュラン様に治していただいた方がいいよ」

「いいのよ。ちょっと休めば治るから」

「そう？じゃあ」

クーリーフンは躊躇なくディアメラを抱き上げて飛んで行った。


あら？何かしら、この安心感は・・・・


ディアメラは不思議な感覚を感じていた。男嫌いのディアメラは男に触れられるのも嫌だった。だが、クーリーフンに

抱きかかえられている今、嫌悪感の欠片も感じない。


今まで平気なのはアシュラン様とお兄様だけだったのに・・・まだ大人の男っぽくないからかしら・・・



クーリーフンはディアメラの神殿にやってくると、神殿の中に入り、ディアメラを椅子に座らせた。

「どうもありがとう」

「ううん、それじゃねー」

クーリーフンが去っていき、月の妖精達がわらわらと近づいてきた。

「だ、大丈夫でしたか？ディアメラ様」

「ご気分は？」

「大丈夫よ。よし、決めたわ。なんとかしてクーリーフンと仲良くなってやるわ！そして私のとりこにするわ！」

ディアメラはすくっと立ち上がり宣言した。足をひねったというのは嘘だった。

「そうすればガーベラもさぞかし悔しがるに違いないわ！なにせガーベラったらクーリーフンに恋人も作らせないくらい

大事にしているんだもの！ほほほほほほ」

別にガーベラがクーリーフンの恋を邪魔して恋人を作らせなかったわけではないのだが、ディアメラはそう思っていた。

そこら辺の情報は、男に興味がないこの神殿にはあまり届いてはいなかったのだ。



「それでとりこになさった後はどうなさるんですか？結婚なさるんですか？」

妖精があわてて聞いた。

「結婚？さあ、後のことはあまり考えてないわ」

「でもお相手がクーリーフン様ならとってもお似合いですわ。ライオネル様よりはかなり」

「そうですわね」

「あの男の話はしないでちょうだい！」

ディアメラはぴしゃっと言った。

「さあ、どうやったらクーリーフンをとりこできるかしら・・・」

ディアメラは妖精達と話し合い、あれこれと計画を練ったのであった。



それからしばらくして後、ダーナの神殿に女の妖精達がただならぬ様子でやってきた。

「ダーナ様！大変です！」

「クーリーフン様が！」

「大変なんですう！」


「クーリーフンがどうかしたの？」

妖精達に囲まれたダーナは驚いた様子で聞いた。

「クーリーフン様が最近よくディアメラ様の神殿を出入りされているんです！」

「なんだか様子が変なんですよ！」

「ディアメラ？」

ダーナの頭の中でクーリーフンとディアメラは結びつかなかった。

「この前なんか森の中でお２人で歌を歌われていたり」

「ディアメラとクーリーフンが？まさか」

「本当なんですよう！どうもディアメラ様がクーリーフン様を狙っているようなんです！」

「まさか。ほほほ」

半笑いのダーナだったが、ディアメラがサラディンといろいろあったという話も知っているし、もしやということもある。

「さっきもクーリーフン様がディアメラ様の神殿に入っていかれたんですよ」

「私達がお誘いしようと思っていたのにー！！」

妖精達は悔しそうに告げた。誰とでも分け隔てなく優しく遊んでくれるクーリーフンは女の妖精達にとってはアイドル的

存在だった。特定の誰かと仲良くしてほしくなんかないのだ。だが妖精の身分で女神に文句は言えないので、ダーナを

けしかけたのだった。


ディアメラの神殿の近くまでこっそり行ってみたダーナは、クーリーフンがディアメラの神殿から出てくるところを目撃

してしまった。

「ガーン・・・私が知らない内にこんなことになっていたなんて！」

ダーナもいまだにクーリーフンをかわいくは思っていたが、そうしょっちゅう遊んでいるわけではなかったので、

このことは全く知らなかった。


「ディアメラ様に一体どういう訳があるのか確かめてくださいな」

「お願いしますぅ」

妖精達はショックを受けているダーナの後ろであれこれ言っていた。

「ダーナ様！」

「ダーナ様〜」

「わかった、わかったわよ。ちょっと待ってなさい」

ダーナはディアメラの神殿に行ってみたが、月の妖精達に「すいません、たった今眠られた所なんです」

と追い出されてしまった。

「ちょっと、さっきまで起きてたくせに何よ！」

「申し訳ありません」

強引に神殿から出されてしまったダーナは、クーリーフンに事情を聞くことにした。

「クーリーフンはどこに飛んで行ったかしら。探してちょうだい」

「はい！」

妖精達がわらわらと散らばっていった。



その頃クーリーフンはジンラの神殿の外でお酒を飲みながらお酒の神アマンザと話をしていた。

２人は外見の年齢も似たような感じで仲もいい。

「それでね、サーラったらおかしいんだよ。パディウスのことを『ワルガキ〜』って呼ぶんだよ。どうもヒルデリア様が

叫んでいたのを聞いて覚えてしまったようだよ」

クーリーフンが笑いつつ告げた。

「ははは、ワルガキかあ、確かに間違ってはいないね。どうも時々いたずらしないと気がすまないみたいだね」

「わっ！」

そこに一頭のペガサスが飛翔してきた。一瞬ハロルドかと思って顔を強ばらせたクーリーフンだったが、乗っていたのは

ダーナだったのでほっとしていた。



ダーナはにこやかに２人に近づいた。

「やあ、ダーナ」

「クーリーフン、ちょっと聞きたい事があるんだけれど」

「なに？」

「最近ディアメラと仲良くしてるって聞いたんだけれど、本当なの？」

ダーナはいきなり質問をぶつけていた。

少し離れた所では妖精達がその様子を見ていた。アマンザはそれに気づいて首をかしげている。

「ディアメラ？」

クーリーフンはきょとんとしていた。

「今日も神殿に行っていたでしょ？」

「うん、最近たまに呼ばれるよ。今日は一緒に歌を歌ったんだよ。ディアメラの歌って聞いた事なかったけど、

結構いい声だったよ」

「あらそうなの？」

ダーナの顔がこわばっているのをアマンザは見ていた。

「あ、お酒なくなっちゃった。もう一本もらってこようっと」

クーリーフンは去って行った。すると、ダーナはアマンザに顔を向けた。その視線の鋭さにアマンザはびくっと

身体を強張らせた。

「ねえアマンザは何か聞いてない？あの男嫌いのディアメラがなんでクーリーフンをしょっちゅう呼ぶのかしら？」

「さ、さあ・・・僕は何にも知りません。ディアメラ様のことも今さっき聞いたばっかりですし・・・」

アマンザは思わず後ずさっていた。

「お願い。クーリーフンにもうちょっと深い所まで聞いてみてくれない？ディアメラのことどう思ってるの？とか」

「僕がですか？」

「お・ね・が・い、私があまりしつこく聞いてもクーリーフンがうるさがるだけだと思うの」

ダーナは体を近づけてウインクした。女神の悩殺ウインクにアマンザの頬がほんのり赤くなっていた。

ダーナの金糸のような長い髪が揺れるとふわりといい匂いがした。

「は・・・はあ・・・・聞いてみるだけ聞いてみますけど・・・」

アマンザはつい匂いにつられたように言っていた。

「お願いね。アマンザ」

ダーナはアマンザの鼻をちょんと指で触れた。


「夜になったらディアメラを問い詰めてやるわ」

ダーナは拳を握り締めて再びベガサスに乗り飛んで行った。遠巻きに見ていた妖精達も散っている。


「あーびっくりした・・・驚きのあまり大人になるかと思ったよ・・・」

ダーナをあんなに近くで見たのは初めてだったため、アマンザは手で自分の顔をあおいでいた。

クーリーフンが酒を二本持って戻ってきた。

「あれ？ダーナもう行ったの？どうしたの？顔真っ赤だよ」

「ダーナ様って近くで見ると迫力があるね」

「？」

クーリーフンは一本をアマンザに渡してもう一本のお酒をぐびっと飲んでいた。

「君ってディアメラ様と前から仲良かったの？」

アマンザが改めて聞いた。

「僕？別に。ディアメラは昼間寝てるんだろ？演奏会とかにもあまり出席しないから、前はあんまり話もしたこと

なかったよ。神殿に初めて行ったのもつい最近だし、怖い女神かと思っていたら、とっても優しい女神だったよ」

「ふーん・・・別にディアメラ様のことを特別どうってわけでもないんだろう？」

アマンザはわかりきっていたが聞いてみた。

「特別って？」

「女性として愛してるとか」

「別に」

「だよね」

やっぱりなあ、と思いつつアマンザはお酒の瓶に口をつけた。

「ぐっうわっなんだこりゃ！にがっ！」

口の中に苦い味が広がり、アマンザは驚いて飲んだものをぺっと出していた。

「やった、ひっかっかった。水に苦い薬草を混ぜたものでしたーはははは」

クーリーフンはアマンザの驚く様子を見て笑っていた。

「前にパティウスから薬草わけてもらったんだよ。パティウスは空の神殿に運ばれたお酒にかたっぱしから薬を混ぜて

大目玉くらったんだけど」

「それなら知ってるよ。父さんも困った奴だってぶつぶつ言ってたから」

アマンザは苦い表情で言った。

「僕はさすがにお酒にはいたずらしないよ。もったいないからね。じゃあねー」

クーリーフンは満足したように飛んでいった。

「まったくもう・・・でもあの様子じゃ恋どころじゃないみたいだな」

アマンザはやれやれと思いつつ神殿に入って行った。



夜が更けてしばらく、東の空が白じんでくる頃、ようやく月の神殿にペガサスが牽いた馬車が戻ってきた。

一仕事を終えたディアメラが神殿に入り、部屋に行くと、なぜかソファに座ったままダーナが眠っていた。

「？」

ディアメラは不思議そうにダーナをみた。

「ダーナ様がディアメラ様にご用とかで、ずっと待たれていたんです」

水が入った杯を渡しながら妖精が説明した。

「ダーナが私に用？」

ディアメラは水を飲んでからダーナの肩を揺さぶった。ダーナが目を覚ました。

「はっ！ディアメラ、あんたってば帰ってくるの遅いわよ！」

「私に用って何かしら？」

ディアメラはそっけなく聞いた。

「最近クーリーフンによく声をかけているようだけど、一体どういうつもり？」

「え？」

「なんで男嫌いのあなたがクーリーフンを神殿に呼んだりするのよ！」

「・・・」

ディアメラは「あれ？」と思った。ガーベラが乗り込んでくるかと思えば、なぜダーナが乗り込んできたのか。

「あなたとクーリーフンって何の関係もないじゃない」

ディアメラはずばり言った。

「うっ、か、関係あるわよ！」

「どんな関係よ」

ディアメラは椅子に座り足を組んだ。妖精がささっとお酒を運んでいる。

「私はクーリーフンをかわいく思ってるのよ」

「だから何？」

「だからもへったくれもないわよ。なぜクーリーフンを神殿に呼んでるのか聞いてるのよ」

「私もクーリーフンをかわいく思ってるからよ」

ディアメラがはっきり言うと、ダーナの顔が引きつった。

「あなた男嫌いでしょ？クーリーフンは男よ！？」

「そんなこと知ってるわよ。私も最近男の人になれようかなーと思ってるところなの。だからクーリーフンと遊んでるのよ。

何か文句ある？」

「・・・・なんで今更。せっかくだからずっと男嫌いでいなさいよ！それに遊ぶならほかの男にすればいいでしょ！」

「嫌よ。クーリーフンが気に入ったんだもの」

「なっ！」

「クーリーフンも私のこと嫌いじゃないようだし」

「クーリーフンは誰にでも優しいわよ！ディアメラが特別じゃないわよ。勘違いしないで！」

「今はそうでもそのうちどうなるかわからないじゃなーい。クーリーフンがもし選ぶとしたら、恋人が大勢いるあなたよりも

私の方だと思うけどー？」

ディアメラが笑いながら言うとダーナの顔がさらに引きつっていた。

「な・・・・そんなことあるわけないでしょ！絶対ないわよ」

「そーかしら？とりあえずそろそろ帰ってくれないかしら」

「ぐぐぐ・・・」

ダーナは悔しそうな表情で神殿を出て行った。


「ふふふ・・・・ほほほほ、みた？あのダーナの悔しそうな顔！」

ディアメラは愉快そうに笑っていた。ディアメラはガーベラのことを嫌っているが、ダーナのことも嫌いだった。

自分の兄であるアリアスを恋人にしながら、ほかにも恋人がいるからだ。

その上クーリーフンまで恋人にしようとしていたとは。


「ふふふふ。あー久々に胸がすっとしたわー」

ディアメラは踊り出したい気分だった。長い間心の内にあった雨雲が晴れた気分だ。

「クーリーフンと仲良くした甲斐があったわ」

「あのーディアメラ様、最初の目的とずれておりますが・・・」

月の妖精が遠慮がちに告げた。

「最初の目的？ああ、ガーベラね。ダーナがあれほど悔しがるほどだもの、もしかしたらガーベラも内心

悔しく思ってるんじゃないかしら。誰か探ってきてちょうだい」

ディアメラは妖精に指示を出していい気分で眠りについた。


一方自分の神殿に帰ってきたダーナは、布をかみしめていた。

「くーディアメラってば一体どういうつもりよ！あの目は真面目だったわ！まさか本気でクーリーフンを自分のものに

しようとしているんじゃ・・・・私のクーリーフン！」



「いつお母さんのになったの？」

「言葉のあやってやつじゃない？」

同じ神殿にいたダーナの娘達がこっそり突っ込んでいた。

「でもディアメラ様の言う通り、もし、恋人にするとしたら、恋人がいっぱいいるお母さんよりもディアメラ様の方かもね」

「ディアメラ様も黙ってれば美女だし」

「うっさいわね！」

ダーナがきっと娘達をにらんだ。

「だから私とクーリーフン様がくっつくのを応援してくれていればこんなことには・・・」

「嫌よ。クーリーフンは心の恋人なの！たとえ娘にでもやりたくないの！」

「お母さんってばわがままねー」

「恋する女はわがままなのよ！」

「じゃあディアメラ様もわがままでいいんじゃない？！」

「よくないわよ！あっ！でももしかしたら、クーリーフンにはその気の欠片もないかもしれないわ。だって

私があれだけ迫っても何もなかったくらいだし・・・そうよ。そうに決まってるわ」

ダーナの瞳に輝きが戻っていた。

「ただ単にお母さんが、好みじゃなかったからだったりして・・・」

「何よあんた達は！出て行きなさーい！」

ダーナはとうとう娘達を追い出していた。


今まで恋のライバルになるような女神といえばガーベラだけだった。まさか、あの男嫌いのディアメラがダーナに

宣戦布告をしてくるとは。

「それにしてもディアメラにあんな顔されるなんて・・・悔しー！！！！！」

ディアメラの勝ち誇ったような顔を再び思い出し、しばらく悔しがったダーナだった。



再び夜になり、目覚めたディアメラが妖精達に聞いた。

「ガーベラの様子はどうだったの？さぞかし落ち込んでいたことでしょう」

「それが・・・ご機嫌で過ごされているようでした」

一日ガーベラをこっそりみていた妖精だったが、ガーベラが悔しがっている様子はなかったのだった。

「ははーん、さては顔は笑っていても心の中では私に文句の一つもいいたいと思ってるんじゃないかしら」

「そうかもしれませんが・・・」

「もっとクーリーフンと仲良くすればきっと何かしらの文句を言ってくるに違いないわ」

ディアメラは気を取り直して神殿を出て行った。



その頃太陽の神アリアスの神殿に、ダーナとアリアスの娘達がやってきていた。

娘達の話を聞いてこの間ディアメラにたたき起こされた理由がわかったアリアスだった。

「男と仲良くするにはどうしたらいいかしら？」いきなりディアメラにそう聞かれたアリアスは、不審に思いながらも

「そりゃまあ・・・何度も何度も一緒に遊んで慣れるのが一番だ」と眠そうな顔で答えたのだった。



まさか相手がクーリーフンだとは・・・ちょっと安心した・・・・

クーリーフンならば妹がもて遊ばれることもないだろう・・・・


「お父さんはクーリーフン様とディアメラ様がひっつくの賛成よね」

と娘がアリアスに聞いた。

「でもクーリーフン様ってあれで大人なの？」

「クーリーフンには全く性欲がないはずだがなぁ」

アリアスが言った。誰かとひっつくひっつかない以前の問題だ。

「その内出てくるんじゃないのかしら。一応男だし」

「さあな、女神に激しく迫られたらどうなるかは知らんが・・・まあディアメラには無理だろう」

男を知らないディアメラが異性に体で迫るというのは無茶な話だ。

「お母さんが激しく迫ったらお父さんはおもしろくないでしょ？」

「そりゃそうだな。というよりも、無邪気なクーリーフンの方を心配してしまうが・・・・まさかダーナもそこまではしないだろう。

愛欲はガーベラの領分だしな」

アリアスもクーリーフンをちょっとかわいく思っているだけに、クーリーフンが誰かを恋人にしてしまう、というのもちょっと

心に引っかかる。

「じゃあどうなるのかしらねえ」

「どうもならずに終わるんじゃないか？」

とアリアスは予想した。


クーリーフンを巡る女の争いは一体どうなるのか。後半に続くー



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