第４３話
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
額の汗を手でぬぐいつつ、ひたすら山を登っている一人の女性がいた。ゆりだ。
ゆりは長い木の棒を支えに、山道を登っていた。周りは木々で生い茂っているが人が並んで３人通れるほどの道があった。
ここは元の世界のどこかの山のようだ。背中には大きなリュックを背負い、長袖の青いシャツにズボン、丈夫そうな靴を履いている。
とにかくしんどい。
脚がだるい。
一体何のために山を登っているのか、ゆりにもさっぱりわからない。
前にも後ろにも、誰もいなかった。ゆり一人きりのようだ。先に見えるのは代わり映えのない木々の景色ばかり。
まだまだ先は長そうだった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・待ってて・・・絶対に・・・絶対に頂上まで行ってみせるから・・・」
山を登っているゆりはそんな言葉をつぶやいていた。
「一富士二鷹三なすび・・・一富士二鷹三なすび・・・・」
ゆりがぶつぶつ言っていると、アナスターシャが「何の呪文？」と聞いた。
「私がいた所ではね、初夢に見ると縁起がいいって言われている物があってね、それが、富士山って山と、鷹と、なすびなの」
ゆりが答えた。今は朝食の時間だった。そして今日は１の月1日である。そう、年が明けたのだ。
子供達は皆食堂にいたが、ラクシュミはいない。
「なんでなすび？」
とアナスターシャが聞いた。
「なんでかな。理由忘れちゃった。私今朝方山登りする夢見たの。あれが富士山だったら縁起がいいってことになるかも。
みんなは何か夢見た？」
ゆりは子供達に聞いてみた。
「私は先生に怒られる夢みた。そしてプリモに乗って逃げた」
アナスターシャがそういうと、ロイがはははと笑っていた。
「あんたには笑われたくない。プリモ夢の中ではすっごい飛んでたんだよー優雅に！」
「へー」
プリモはかつてゆりが神の国からもらってきた天馬だ。牛のような模様のちょっと不格好な外見なのだが、子供達は気に入って
かわいがっている。特にアナスターシャは毎朝プリモと遊ぶのを日課にしていた。
「プリモに乗るより自分で逃げた方が早そう」とラギが突っ込んだ。プリモは翼があるものの、神の国でも空を飛んだことはなく、
人間界に来てようやくちょっと飛べた程度だった。
「まだそんなには飛ばないの？」
「うん。でもいいんだ。あんまり飛びまくっても大変かもしれないし。今日はお休みの日だから一日プリモと遊ぼうっと。ナナミもおいでよ」
「うん」
ナナミがうなずいた。
「僕も行ってあげる」と言ったロイに、アナスターシャは「いい」と断っていた。
「プリモなかなか子供生まないなあ。生ませたいのになあ」
ラギはぶつぶつ言っていた。何度も馬と恋仲にさせようとしたのだが、子馬ができるまではいかないようだ。普通の馬と掛け合わせたら
どんな子馬ができるのか、想像するだけでラギは楽しくてしょうがない。翼がない馬ができるのか、それとも翼がついた馬ができるのか。
もしくは小さな翼がついた馬が生まれることもあるかもしれない。
「お母さんオスの天馬もらってきてよ」
「シスは何か夢みた？」
ゆりはラギの言葉は完全無視していた。
「僕？何も見なかったよ」
「そう。ナナミは何か夢みた？」
「私はねーパパと遊んだ！」
「よかったねえ」
「お母さんオス、オス一頭でいいから」
「ロイは何の夢見たの？」
ゆりはロイにも聞いてみた。
「僕？フリットのおしりをたたいた」
「何よそれ。ミシェイラは何か見たかな？」
「クー♪」
「クーリーフンの夢見たの？よかったね」
「オス〜」
「今日は私も用事があるから早く行こうっと」
「ひどい、ぐれてやる」
ゆりは「どーぞどーぞ」と言って食堂を出て行った。ラギは舌を出している。
廊下を歩きながら、ゆりはラギがぐれたところを想像して笑っていた。
ゆりはその後すでに恒例となった侍女らへお年玉を配り、着飾って王の間にいることにした。たまにはみんなに挨拶するのもいいだろうと
思ってのことだ。
今日は子供達は授業もなく、一日完全に休日となっていたので、それぞれ自由に過ごしていた。
シスは珍しく自分の部屋にラリーら子供達を呼んでいた。男の子だけで今はやっている遊びなどを教えてもらう予定だ。
ラギはミシェイラと一緒にハザークの塔にいた。最近ハザークの機嫌がよさそうなのでここぞとばかりに古代語を聞きまくっている。
アナスターシャは城の横の方でナナミと一緒にプリモの翼の手入れなどをしていた。
そしてロイは、城の中でフリットにお尻をたたかれていた。
「ひどい、夢の仕返しだ」
ロイはいじけていた。もちろんお尻をたたかれる理由は十分にあった。勝手に結界の外をうろちょろしていたのだ。
「何の話です？今朝方王から今日は外に出ないようにと言われたでしょう」
フリットはしこたまお尻をたたいてロイを解放した。実の息子よりもロイのお尻をたたく回数の方が明らかに多いのだから困ったものだ。
「そうだっけ？そうだったような気もするけど・・・忘れてた。ああ！大変だ！」
ロイは両手でお尻を押さえていた。
「たたかれすぎてお尻が割れた！」
「はいはい。敵が近くをうろちょろしてたんですよ。だから王は出るなっておっしゃったんですよ」
「僕も手伝うよ。僕はもういっぱしの男だよ？」
ロイはフリットを見上げつつにっと笑った。
「・・・・」
フリットは感動も何もない瞳でロイを見下ろしていた。
「３０年後にお願いしますよ。じゃあ私は行きますから、結界の外に出ないようにしてください」
「はーい」
フリットはロイの前から消えた。
「出ないようにと言われたら出たくなっちゃうんだよなあ・・・」
ロイのつぶやきを横にいた侍女が咎めるように見ていた。
「ロイ様」
「わかってるよ。虎の国と同じことになったらやだもんね。城の中で遊ぶかあ」
ロイは移動した。あの事件以来ちょっとは学習しているようだ。
シスの部屋にはラリー、ヴィンセント、クリスの３人が遊びに来ていた。４人はテーブルの上にボード版を広げて遊んでいた。
こちらの世界版人生ゲームのようなものだ。サイコロを振って出たマスだけ進み、それにより与えられる力が決まる。途中戦いなども
あり、最初に将軍になった者が勝ちというゲームだった。ゲームなのだから王族のシスも最初は普通の子供としてスタートしている。
普段ラリー達とじっくり遊んだりできないシスは、結構楽しそうにゲームに興じていた。
「オルバとミルドも連れてきてもよかったのに。二人はお留守番？」
シスが聞いた。オルバはフリットの長男、ミルドはミカエルの次男である。
「二人ともやんちゃ盛りですからね。お城の調度品でも壊したら大変ですから」
ラリーが言った。二人とも年は同じだ。ちなみにロイとナナミとも同じで１０歳である。
「ははは、ロイの相手も可哀想かなあ」
シスは笑っていた。１０歳の男の子というと、どこでもそういうお年頃のようだ。
「オルバ誘ったらソフィアの方がついてきそうですけどね」
ヴィンセントが笑って言った。シスと遊ぶとなると、シス大好きなソフィアもついて来るに違いない。今日のシスのお呼ばれは男の子だけ
だった。
「でもあの二人よりもゼッドの方がすごいという評判ですよ」
とクリスも半笑いで告げた。
国一番のやんちゃ坊主ロイは昨年の１２の月でめでたく１０歳の年をむかえていた。ロイもナナミも外見上は５歳の頃からさほど変わらない。
ナナミの方には内面的成長が見られるが、ロイはまだまだ周りの言うことをあまり聞かない子供である。
ちなみに「国で二番目のやんちゃ坊主」、とハインリヒに言われるミルキダスの子供ゼッドはまだ５歳。
ロイ以上に右も左もわかってないゼッドは、ハインリヒにも平気で悪態をつくので困ったものだった。
ミルキダスが息子の態度のせいで青くなることも一度や二度ではない。ゆりとの会話でも子育ての悩みが多い。
ゆりはロイとゼッドが仲良くなったらすごいことになるかも、と思っていた。ミルキダスもそれだけは勘弁して欲しいといった感じである。
ロイはシスの部屋に様子を伺いにきたのだが、４人がやっているゲームが面白くなさそうだったのですぐに部屋を出て行った。
遊びなら身体を動かす遊びの方がいい。
「つまんないなあ。何しようかなあ・・・」
遊んでくれそうな大人はいないかな？と城の２階をぶらぶらしていたら、遠くの廊下をさっと通り過ぎる二つの塊が見えた。
「ん？」
塊はすっかり見えなくなった。ロイが瞬間移動でそこまで行ってみると、近くの扉がちょっと開いていた。
敵かな？あれ？敵って城の中には入れなかったような・・・
扉の中をのぞいてみた。そこは少人数の会議などで使われる部屋だった。食堂にあるような大きなテーブルに椅子がいくつか
並んでいる。部屋の隅に青いシーツにくるまれた塊があった。
「誰かいる？」
そう聞いたが、塊はぴくりとも動かなかった。
ロイはそこまで行ってシーツをはぐってみた。
すると中から誰かが立ち上がり「わっ！」と言った。
「わっ！」とロイも驚いたが、言った相手も驚いていた。
「あれ？ロイ様じゃないですか」
そこにいたのは二人の子供だった。
「えーと・・・見たことあるけど誰だっけ」
「僕はミカエルの子供ミルドです。こっちがフリット様の子供オルバですよ」
黒髪の少年が言った。ミルドの方は短い髪で男の子らしい顔立ちだった。最近ラリーに似てきたと言われている。
オルバは薄い紫色の髪の色をしていた。首までのストレートでかわいい顔をしている。女の子みたいだが男だ。３人とも同じような大きさ
だったが、ミルドがちょっと背が高い。
「ここで何してるの？」
ロイが聞いた。
「兄さんらの後追ってきたんですよ。途中門番さんとかに見つかっちゃったけど、今日は特別って入れてもらっちゃったんです」
ミルドが答えた。ラリーが城に来る事を知っていたようだ。
「へー」
ロイはオルバを見ていた。フリットは家でも厳しそうだとロイは思った。
「君もお尻たたかれるの？」
「え？」
「僕さっきフリットにお尻たたかれたんだ」
「そうなんですか？僕もたたかれますよ」
「そうなの？じゃあ仲良くしよう」
「はい」
ロイはオルバと手を握り合った。ロイはオルバに妙な親近感を感じていた。
それがうらやましかったのか、
「あのー僕もお尻たたかれます」
とミルドも言った。
「そっか、よし、３人で『お尻たたかれ軍団』を結成しよう！」
ロイが言い出した。
「「はい！」」
二人は元気に返事をしたが、なんともかっこわるい軍団だと思っていた。
「じゃあ３人で遊ぼう」
「何して遊ぶんですか？」
「うーん、鬼ごっこ、一人が鬼で逃げる二人を追いかけるんだ」
「僕らまだ瞬間移動できないんです」
「そうなの？じゃあかくれんぼしよう」
「はーい」
こうして３人で城の中でのかくれんぼが始まった。二人は城の事をあまり知らないので、２階部分限定で遊ぶことにした。
最初はロイが見つけ役になり、二人は必死になって隠れる所を探した。
お城の中は隠れる所で一杯だが、二人にとっては未知の場所。しかも誰にも見つからないようにしなければならないのが大変だった。
どこかの客間に隠れた二人はすぐに見つかった。
「はっはっは甘いよ。じゃあオルバが見つけ役ね」
今度はロイとミルドが逃げた。ロイは「いい所があるよ」とミルドをある部屋に案内して、どでかいつぼの中に入れた。
そしてロイは違う所に行ってしまった。
しばらくつぼの中でじっとしていたミルドだったが、誰も来ないので急に不安になってきた。
このまま誰にも気づかれなかったらどうしようと思い始めてきたのだ。つぼからでようとしたが、つぼがでかすぎたために
うまく出られず、身体を動かしている内につぼごと横に転がってしまった。同時にガチャンという音がした。
「うわわわ、やっちゃった！」
ミルドはつぼから出て青くなった。
つぼの側面には穴が開いている。
「どーしよー・・・」
「あ、ミルドみーつけた！」
そこにオルバがやってきた。
「どーしよう。僕つぼ割っちゃったよー！」
「えー！あ、ほんとだ」
「困ったなあ」
「僕とりあえずロイ様探してくる」
ロイはその横の部屋で見つかった。つぼを割ったことを話すと、「これくらい大丈夫だよ」と言ってつぼを立てて割れた方を裏にして
見えないようにした。
「このつぼ高いんじゃないですか？」
ミルドは青くなったままだ。
「大丈夫だよ。元からヒビは入ってたから」
「そ、そうなんですか？」
「うん」
ミルドはほっとしていた。以前ヒビを入れたのはもちろんロイだ。ロイがやんちゃをするようになってからというもの、高い置物は
宝物庫にしまわれて、出ている物はそんなに高価ではない物ばかりになっていた。
「んじゃ、次はミルドが見つけ役」
ロイは何もなかったかのように言った。次にオルバとロイが逃げた。オルバは廊下で侍女らしき女性を見かけてあわてて側の部屋に
入り、姿見の鏡の裏に隠れた。しばらくするとミルドが部屋にやってきてオルバは見つかったのだが、鏡の後ろから出る時に
バランスを崩し、手をかけた鏡が横に倒れてしまった。
「あー！」
今度はミシっと音がした。二人がみると鏡の真ん中にはヒビが入っていた。
「ど、どーしよう！オルバ！」
「これ高いのかなあ？」
二人は一緒にロイを探して呼んできた。ロイは鏡を見ても顔色も変えず、「大丈夫大丈夫」と言っていた。
「これくらい大丈夫だよ」
「でもー」
「今度は僕が探すね」と言ったロイに、
「あのー僕庭園を見てみたいんですけど。神様の像が見たいんです」
とミルドが言い出した。これ以上何か壊したらそれこそお尻をたたかれるだけではすまないだろう。
「そう？まあいいよ。んじゃ連れて行ってあげよう」
ロイは二人に触れてびゅっと瞬間移動した。
二人は神様の像に「すごい」と感動し、もっと近くで見たいといったので、ロイは親切にもオルバをガーベラの顔のすぐ近くに浮かせてやり、
手を離した。
「うわわわ！」
あわてたオルバはガーベラに抱きついた。ロイがミルドを見た。
危険を察したミルドは逃げようとしたのだが、ロイは素早く捕まえてハロルドの肩に乗せた。
ミルドはハロルドに肩車されている格好になってしまった。
「うわーロイ様何するんですかー！」
「せっかくだから飛ぶ練習してごらん」
ロイが地上から二人を見上げて言った。
「ええー！僕まだ無理ですー！」
「大丈夫！飛べるよ！」
「無理ですよー！！」
神様の像は台座の上に乗っていたので、子供からすれば結構な高さになっていた。
「怖いですよー！！」
ミルドはハロルドの頭にしがみついていた。
「大丈夫、心を落ち着かせて〜」
「誰か助けてー！」
「何やってるんだか・・・・」
そこにヴィラがやってきた。ヴィラは「わーわー」言っている二人を降ろしてロイを睨んだ。
「むむ」とロイは口をとがらせている。
「いたずらしちゃだめじゃないですか」
「いたずらじゃないもん。僕は二人も飛べるといいなあと思ってやったんだよ」
「こんなことやったって飛べませんよ」
「飛べると思えば飛べる！」
ロイは無茶なことを言っていた。
「ヴィラ様怒らないでください。ロイ様は遊んでくださっただけなんです」
オルバは涙目でロイをかばっていた。
「そ、そうです」
ミルドも涙目だった。
「まあいいけど、二人はラリーにくっついてきたの？」
ヴィラは子供達が城に来ていることは知っていた。
「えーと・・・・」
二人は頭をかいた。
ヴィラはとりあえずロイの部屋に３人を連れていった。そこで怒り顔の侍女に会い、鏡とつぼの件が露見したのだった。
「全部ロイ様がやったんですか？」
ヴィラが呆れ顔で聞くと、ロイが「うん」とうなずいた。後ろでミルドとオルバは目を合わせていた。
「ごめんよ。大人になったら身体で稼ぐからさ、許してよ」
ロイのセリフにヴィラの顔は引きつっていた。どこでそんな言葉を学んだのだろうか。
「あ、そうだ。この前ラギにーが何でも買ってあげるって言ったから、つぼと鏡買ってもらうよ」
「もういいですよ」
ヴィラは怒る気もなくしていた。
「あのーつぼと鏡は僕らがやったんです」
ミルドがおずおずと言い出した。
「そうです。僕らが悪いんです。しかるなら僕らをしかってください！」
「いいのに。つぼにヒビ入れたのは僕だし」
「ロイ様って優しいんですね」
二人はかばってくれたロイにちょっと感動したようだ。
「美しい友情ですねえ。まあ仲良くお仕置きされますか」
ヴィラが言った。
「じゃあお尻たたいてよ」
ロイにとってはお仕置きといえばそれらしい。
「それはどっちかというとフリット殿の役目なんですが・・・」
別にフリットの役目ではないのだが、ロイのお尻をたたくのはフリットくらいなのでそうなっていた。
「今夜の夕飯抜きってことで」
「ええー！！！」
ロイが絶叫した。
「僕育ち盛りなんだよ！夕食抜いたら死ぬ！」
「それくらいで死にませんよ」
「僕ら『お尻たたかれ軍団』だからお尻たたいてくれなきゃ困るよ！」
ロイの言葉にヴィラはちんぷんかんぷんだった。
「あのーせっかくなので僕王妃様にお尻をたたいていただきたいです！」
ミルドが言い出した。
「あ、僕も、僕も王妃様がいいです！」
オルバも賛成していた。なんだかうれしそうだ。
「なんで王妃が君らのお尻たたかなきゃならないんだい。しょうがない。私がたたくか」
ヴィラがちょっと面倒そうに告げた。
「えーじゃあせめてユリウスさんになりませんかね」
ミルドが言った。
「僕はセリアさんがいいなあ」
オルバが続いて、ミルドは「え？セリアお姉ちゃん好きなの？」とオルバに聞いていた。
「君らの好みは聞いてないよ。全く。ロイ様、お尻向けて」
ヴィラはしょうがなく３人のお尻をたたいた。フリットに比べたら軽いものだったので、ロイは「次からはヴィラがお尻たたいてよ」
とヴィラに言っていた。
「やれやれ・・・」
オルバとミルドはシスの部屋に行き皆に驚かれ、ロイはアナスターシャとナナミの邪魔をしに行った。本人は邪魔する気はなかったのだが、
プリモの背中にナナミが乗っていると、かってにロイが後ろに乗ってきてナナミは怒っていた。
アナスターシャはお姉さんらしく仲裁していた。普段はロイと子供の喧嘩をするのだが、こういう場合は仲裁するのが姉の役目と教えられていた。
「あなたたち双子なんだから仲良くしなさい」
「やだ。ロイ嫌い！やなことするんだもん」
「僕だって嫌いだもんね。べーだ！」
この二人、最近では寄ると喧嘩していた。ロイが時々乱暴な事をするのでナナミが怒るパターンである。
背中で二人が喧嘩しているのでプリモも翼をばたつかせていた。
「あっち行って！」
ナナミがあんまり怒るのでロイはその場を離れた。
次にロイはハザークの部屋に行ってみた。そこにはミシェイラを取り巻いたかなりご機嫌そうな侍女達と、ちょっとご機嫌なハザークに
ラギがいた。ラギはノートとペンを手に持っている。満足げな顔をしているとこからして、今日はハザークにいろいろ聞けたようだ。
ミシェイラはしきりに「パーパパーパ」と言っていた。
「あれ？どうしたの？ロイ」
ロイのつまんなそうな顔を見てラギが聞いた。
「暇なんだよーパパー遊んでよー」
ロイはハザークの横に座って甘えてみた。
「ねえパパー、パーパパーパ」
「うるさいぞ」
ミシェイラのまねをしてもハザークがつれなかったのでロイはすねた。
「ひどい、僕はもうパパの子供じゃないんだ」
「元々パパの子供じゃないよ」
ラギが突っ込んだ。
「パパー遊んでよー！」
ロイがしつこくハザークの服を引っ張ったので、ハザークはロイを塔の外に飛ばして、ぐるぐる回していきなり落とした。
「うひゃー！！」
落とされたロイは地上すれすれでぴたっと止まった。
「面白い。もう一回！」
塔の外で叫ぶロイはもう一度宙に浮いていた。そしてまた落ちていた。他の子供がこれをやられたら泣くだろう。ラギでも泣くに違いない。
「あいかわずすごい遊びだなあ・・・」
塔から落ちるロイを眺めつつラギはつぶやいていた。ハザークが遊びのつもりでしているのか、お仕置きのつもりでしているのかは謎だ。
年が開けて初日、今日は重大事件が城に飛び込んでくることもなく、王の間でも和やかに１日が過ぎていた。
所が代わって遙か過去の世界、ヴィラルージュ女王がいる城では、龍王からの手紙が届けられて、王の間は騒然としていた。
手紙の内容は今年の中旬頃、一戦交えたいというものだった。
「望む所じゃ」
新しい銀のドレスに身を包んだ女王は、その手紙をぼっと燃やした。金色の瞳はさらに輝きが増し、その双眸からは凄みすら感じられる。
「今年か」
「ついに戦が！」
騎士も大臣達も誰も女王に反対の意見を述べなかった。
王の間にいた騎士達はむしろ興奮気味だった。思う存分力を奮えるという期待がそうさせたのだった。
平和を愛しながらも、やはり彼らも戦士であったのだ。未来に行ったハインリヒのように、力を出し切って戦ってみたいという欲望が
心の奥底に潜んでいる。
戦を回避するという選択肢は、誰の胸にもありはしなかったのである。
過去の世界ではこの年、大きな戦が起ころうとしていた。
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