第４９話
あたりは濃い霧に覆われていて何も見えなかった。
両手を横に広げてみると木の枝や葉にあたった。足元は落ち葉や土の柔らかい感触。堅く盛り上がっているのは木の根っこ
のようだ。
「どっかの森かな？」
シスはそう思いつつ、手探りしつつ木の根っこに用心しながら歩いて行った。
どこの森かはわからない。
なぜここにいるのかも。
ザザザと、葉を踏みしめるような音が聞こえてきた。
誰か来る。そう感じて意識を集中していると、「シス様？」と声がした。
「あれ？シャナーン？」
近づいてきてようやく姿が見えた。そこにいたのは青い軽く癖がかった短い髪の綺麗な男、青い上下の服を着たシャナーンである。
見知った顔に会えたのがうれしくて、シスはシャナーンに抱きついた。
「奇遇ですね。シス様」
シャナーンはうれしそうにシスの背中をなでた。
「本当だね。シャナーンここ、どこ？」
「さあ、どこでしょうね。まあ夢ですから」
「夢？そうか、これって夢なんだ」
突然森の中にいたからおかしいとは思ったが、考えてみれば確かに夢だ。眠りについて、いつの間にかここにいた。
「でもシャナーンと会えてうれしいなあ」
「私もうれしいですよ。手を繋ぎましょう」
「うん、せっかくだから歩こうよ」
二人は手を繋ぎ、霧の中、歩けそうな所を歩いて行った。
「他に誰かいないかなあ？」
「いるかもしれないですね」
すると別方向から草を踏みしめるような音がして、シャナーンは繋いでいる手に力を込めた。
「夢でも敵ってでるのかな？」
「どうでしょうねえ」
警戒しつつ二人がそろそろと歩いて行くと、やがて黒髪の男が目の前に見えたのだった。
シスの目が見開いた。
「あれ？ドルイドじゃない？」
男は満面の笑みを浮かべて二人に近づいてきた。肩にかかる程度の黒髪、右目は蛇の瞳、紺と黒の上下である。
形の良い黒い眉、整った顔立ちの男は確かにドルイドだった。着ている服の色はシャナーンよりも地味なのだが、
服のデザインや飾りなどはシャナーンの服よりも格段に凝っていた。
「ドルイド！」
「シス様！シャナーン殿！」
ドルイドは二人の目の前にやってきた。
「ドルイド様、まさかこのような所でお会いできるとは・・・・」
シャナーンも驚いていた。
「本当だよ。奇遇すぎるよね」
３人は手を取り合って喜んだ。並ぶとシャナーンよりもドルイドの方がかなり背が高かった。
「ってことは、ここは過去なのかな？」
シスは首をかしげた。
「ああうれしい。願いが叶いました。お二人にお会いしたいとずっと願っていたんです」
ドルイドが二人の手を握りしめて言った。
「僕だって会いたかったよ。元気だった？ドルイド」
「シス様・・・」
ドルイドはしゃがんでシスを抱きしめた。シスはなんだか恥ずかしかった。
「子蛇を見せてもらってもいいですか？」
「もちろん。結構大きくなったんだよ」
シスは袖をめくり、金色の子蛇をドルイドに見せた。
「本当だ。大きくなりましたね」
ドルイドはシスの肌をなでた。指の感触はなんだか冷たかった。
シャナーンも袖をめくってみせた。こちらは紺色の蛇である。シャナーンの蛇の方が大きいのは二人の身体の差なのかもしれない。
「ドルイド様、ありがとうございます。ずっと大事にしています」
シャナーンはようやく子蛇をもらった御礼を言えてうれしかった。
「そうですか。こちらこそどうもありがとうございます」
ドルイドは愛おしげにシャナーンの子蛇にも触れていた。
「ねえ、ドルイド、戦が起きるんでしょう？まだだよね？」
「私は戦には行けなかったんですよ」
ドルイドは立ち上がって告げた。
「え？なんで？」
「病気でした。心臓の病でしてね、どうかお二人は長生きしてください」
シスはきょとんとしていたが、シャナーンの顔はさっと青ざめていた。
「ド・・・ドルイド様・・・まさか・・・・」
ドルイドは穏やかな笑みを浮かべていた。
「お二人に会えて本当にうれしかった。どうかハインリヒにもよろしく伝えてください。未来の平和を祈っています・・・さようなら・・・」
ドルイドは胸に右手をあて、軽く会釈した。
ドルイドの姿は薄くなり、霧に紛れるように消えてしまった。
シスは青ざめたシャナーンの顔を見上げていた。
「ねえ、どういうこと？」
「シス様・・・」
シャナーンはシスにどう説明していいかわからなかった。
ドルイド様は・・・亡くなったのだ。最後の別れを告げに来てくださったのだ
そう思ったが、シスに告げることなどできなかった。
「シャナーン、ねえどういうこと？」
シスもなんだか変だということに気づいたようだった。
ごまかさなければ、そう思ったが、『また会えますよ』などと無責任な嘘が付けない。
「ねえ、どういうこと！？」
シスはシャナーンの腕を大きく揺さぶった。
「シス様・・・ドルイド様は、最後の、お別れに来てくださったんですよ」
シャナーンがようやく小さな声で告げると、シスの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「嘘だよ」
「シス様・・・」
「嘘だ！ドルイド！戻ってきてよ！ドルイド！」
シスはシャナーンの手を振り払い、霧の中走り出した。
「シス様！」
「ドルイド！！！どこ行ったの！」
「シス様！」
シスは何かにつまずいて転んでしまった。
シャナーンはシスの身体を起こして抱きしめた。
「ドルイド！！ドルイド！！」
「シス様・・・・」
シャナーンも涙を流していた。
「わー！！！！」
シスがはっと目覚めるとそこはベッドの上だった。部屋の中は薄暗い。だが、夜は開けているようだ。カーテンの向こうは
明るかった。
シスは頬に手をあてた。涙でぬれている。
嫌な夢を見た。
悪夢にもほどがある。まさかドルイドが死ぬなんて・・・
そんなことあるはずない
そう思ったが、肌に触れたドルイドの冷たい手の感触が、今も残っていた。
夢だ。単なる夢だ。現実じゃない。過去の世界できっとドルイドは元気に・・・
ベッドの横に現れたシャナーンを見て、シスの瞳から涙がこぼれ落ちた。シャナーンはガウンを着ただけの格好で立っていた。
夢と同じ、青ざめて泣きたそうな表情をしていた。
「シャナーン・・・シャナーン・・・・やっぱりドルイドは・・・」
シャナーンは何も言わずにシスを抱きしめて、シスは声を出して泣いた。
シャナーンもドルイドの無念さを思うと心が痛んだ。
ほとんど会話することはなかったが、自分とは不思議な縁で繋がった男だった。
一匹の紺色の子蛇が時を越えた二人を繋げていた。
親蛇を持つ男は亡くなってしまったのだ。シャナーンもまるで自分の父親を失ったかのような悲しみに襲われていた。
王妃に何と言えば・・・・
シスを抱きしめつつも、シャナーンは悲嘆に暮れる二人のゆりを想像し、胸が痛くてたまらなかった。
「ハインリヒに、教えてあげなきゃ・・・」
シスは顔を上げた。
「僕が言わなきゃ」
「シス様、もう少し落ち着いてからにしましょう。まだ朝早いですし」
「あ、そ、そうか。そうだよね。シャナーンだってそんな格好だし」
「着替えに戻ってすぐ来ます」
「う、うん、わかった」
「侍女を呼びましょうか？」
「ううん、いいよ」
「すぐ戻りますから」
シャナーンはシスを残して消えた。
シスはしばらくベッドの上でぼんやり座っていた。
親しい人の死は、シスにとっては初めての経験だった。
なんだか心の中に穴がぽっかり空いた気分だ。
シスは部屋の中に紺色の蛇がいるのに気づいてベッドを降りた。そんなに大きな蛇ではなく、両手で抱き上げられる細い蛇だった。
「ドルイドの蛇は、もっと大きかったのかな・・・・」
考えてみれば、親蛇の姿を見たことはなかった。
「ドルイド・・・」
もういないなんて信じられない
だって、笑っていたじゃない！
悲しいはずなのに、あんなに穏やかに・・・
どうして・・・
シャナーンが着替えて戻ってくると、シスは寝室のベッドの横で倒れていた。
「シス様！しっかりしてください！」
シャナーンはあわててシスを抱き上げた。シスの頬は赤くなっていた。どうやらショックのあまり熱を出してしまったようだ。
朝起きてシスの熱のことを聞いたゆりも子供達も心配してシスの部屋の前にやってきた。だが、やはりシスには会えなかった。
侍女らがバリケートのように部屋の前に立っている。
「シスにー風邪引いちゃったの？」
ロイがゆりに聞いた。
「そうなのかしらね。ロイは今日は自分の寝室で寝てたの？」
「うん。最近は自分の所で寝てるよ」
「アナスターシャ様、ラギ様もだめですよ。瞬間移動で中に入らないでくださいませ」
部屋の前から離れようとした二人に、侍女が素早く注意していた。
「だめよ。アナスターシャ」
「はーい」
アナスターシャは低く返事をして戻ってきた。
部屋の中ではフレイがシスの診察をしていた。
「知恵熱でしょう。すぐ下がりますよ」
その言葉を聞いた侍女はほっとして部屋の外の面々に告げていた。
ーそれで、何かありましたな？
フレイはベッドの傍らで暗い表情を浮かべているシャナーンに思念で聞いていた。
朝っぱらからここにシャナーンがいること事態不思議なことだった。シスの様子もどこか変だ。いつも明るいシスが、
笑み一つ浮かべない。
シャナーンはフレイには隠せないと、思念でざっとドルイドのことを話したのだった。
朝食後部屋に戻ったゆりはどうにも落ち着かなかった。フレイには軽い熱だと言われたが、自分の目で確かめたくてしょうがない。
「シス私に会いたがってるんじゃないのかな？」
「だめですよ。さっき小耳に挟んだんですが、シャナーン様がシス様の側にいらっしゃるようですよ」
侍女のミラがゆりに告げた。
「え？シャナーンが？なんで？」
「なぜか、熱で倒れたシス様に最初に気づいたのがシャナーン様だったそうです」
ゆりは理由がさっぱりわからずに首をかしげていた。
「なんで？」
「さあ・・・」
「気になるなあ」
「今日は皆さんで朝集まりがあるのではなかったですか？」
「あ、そうそう、みんなでお祈りすることにしたの。６の月２日は過去では戦らしいから」
城の中の会議室で、今日は子蛇がいる者達全員で祈りを捧げようと決めていたのだった。
時間は迫っている。
ゆりはシスの部屋の前にいる侍女にもう一度シスの容体を聞いて、その部屋に向かったのだった。
扉を開けると男達はほぼそろっていた。ジェナサイトもいる。
男達に混じってユリウスもいた。
ゆりと目があうと、「休みだったんで私も参加することにしたんですよ」とユリウスがゆりに告げた。
「そうなの」
「シス様熱が出たそうですね。大丈夫なんですか？」
その言葉に男達も視線を向けた。
「フレイはたいしたことないって言ってた。熱もちょっとあるくらいで心配はいらないって」
「そうですか、よかった」
他の男達も安心していた。
アナスターシャら子供達もやってきた。
「じゃあこれで全部かな？」
ゆりが皆を見回して言った。
「シャナーンが来てませんが」
イシュタールが指摘した。
「シャナーンはシスの部屋にいるんだって」
「そうなんですか」
「じゃあ、とりあえず席について、過去のみんなの無事を祈ろう」
一同は席についた。
「ねえ僕は、ハインリヒの無事を祈ればいいの？」
ロイが聞いた。
「私はここにいるので、別の人の無事を祈ってください」
ハインリヒはそう返した。
「わかった」
ロイは目を閉じて何やら懸命に祈っていたが、意味がわかっているのかどうかあやしいものだった。
「がんばれーディラン、がんばれーディラン」
ナナミは目を閉じて応援していた。
他の者達はそれぞれ、心の中で過去のみんなの応援をしていた。
ゆりも懸命に祈った。
それが終わると、みんなで久々に子蛇の見せ合いが始まったのだった。
「あれ？ミカエルの蛇なんで僕のより大きいの？何か食べさせた？」
ミカエルの黒い蛇を見たロイが悔しそうに言っていた。
「何も食べさせてないですよ。ロイ様も大人になれば蛇も大きくなりますよ」
「そうかなあ」
ロイはズボンをぺろんとめくりおしりを眺めた。黒い蛇はお尻から背中にかけているのだ。
「みんな見やすくていいなあ。僕は見るの大変なんだよ」
「ロイったら・・・王子様がそんなことしないの」
ゆりがあわててズボンをあげると皆笑っていた。
ジェナサイトはミルキダスと蛇を見せ合い、ユリウスは二人の赤い蛇を見比べていた。子供達もみんなの蛇を眺めている。
ハインリヒは親蛇の男達の話などを皆に聞かせ、この場は解散となった。
午後になり、シスの熱が下がったようだとゆりは侍女から報告を受け、ほっと胸をなでおろしていた。
だが会うのはまだだめだと念押しされた。
「うーあいたい！」
「大丈夫だからって言ってたよ」
一緒に部屋にいたラギが言った。
「こういう時思念が使えると便利だねえ。私もシスと話がしたい！」
「・・・」
ラギは思念で話していてもシスの様子がちょっと変だということに気づいていた。だが、理由までは聞けなかった。
とりあえず、今日はいろいろ気になる事が多いのでラギも勉強どころではない。
部屋に他の侍女がやってきた。
「王妃様、王様が休憩室まで来てほしいとおっしゃられてます」
「わかったわ。じゃあ行ってくる」
ゆりはラギに告げて部屋を出た。
「ねえ、シャナーンはまだ部屋にいるの？」
ラギは部屋にいた侍女に聞いた。
「はい、そのようですよ。どうしても側にいて看病したいとそうおっしゃられまして」
「そう・・・」
シャナーンが朝シスの寝室にいたわけは、ラギにも見当がつかなかった。
ゆりは笑みを浮かべてラクシュミが待っている部屋に入った。
ラクシュミは酒も飲まずに長椅子に座っていた。
「王様なんでしょう？」
ゆりは向かいの椅子に腰を下ろした。ラクシュミは笑みもなく真面目な顔をしていたので、
ゆりは何を言われるのかとちょっと緊張した。
「あのな・・・ゆり・・・」
「はい？」
「過去の、ドルイドが亡くなったらしい」
ラクシュミはまっすぐゆりを見つめて、ゆっくりと告げた。
「・・・え？」
ゆりの顔から笑みが消えた。
「何の話？」
「ドルイドが亡くなったんだ。昨晩、シスとシャナーンが夢でドルイドに会ってそのことを知ったようだ」
「・・・」
ゆりは二度瞬いて、ぼんやりと上を向いた。
「嘘よ・・・」
「ゆり・・・」
「だって・・・嘘よ・・・」
ゆりは強ばった顔で横に首を振った。ラクシュミはじっとゆりを見つめていた。冗談だ、などと言いそうにない顔をしていた。
「だって、だって、私は会ってない！お別れも言ってない！」
ゆりはぽろぽろと涙をこぼしながら叫んでいた。
「シ・・シスに聞いてくる！」
ゆりはぱっと席を立った。
「ゆり、シスだってショックを受けているんだぞ。今はやめるんだ」
「・・・・」
ゆりはふらふらと部屋をでた。
「王妃、大丈夫ですか？」
部屋の外にはフレイとザメハがいた。涙を流しているゆりの左目は蛇の目に変わっていた。
「王妃・・」
「だ、大丈夫、大丈夫だから」
ゆりは近づこうとした二人を制して瞬間移動してしまった。
外は暖かかった。空は真っ青で、雲一つない。
庭園に飛んだゆりは東屋にいる男に目をとめた。ハインリヒだった。近づくとハインリヒがこちらに顔を向けた。
表情が冴えなかった。
「王妃も聞いたんですね」
ハインリヒはゆりの表情で気づいたようだ。ゆりはハインリヒの横に腰を下ろした。
やはり、悪い冗談ではないらしい。
「誰に聞いたの？」
「シス様ですよ。シス様は王妃にも言う勇気がないとおっしゃってましたよ」
「そ、そう・・・・でも、それって、本当のことなのかな？ドルイドが亡くなったなんて、私には信じられない」
「シャナーンまで一緒だったんですから、信じないわけにはいきませんよ」
ゆりは唇をかみしめた。脳裏にドルイドの笑みが浮かんでいた。
「ドルイドはなんで亡くなったの？」
「病気のようですよ」
「病気？」
「ドルイドのことは悲しいが、今はディランやヴィラルージュ様の事が気にかかる。いつそのことを知ったのか・・
シス様にもかわいそうなことをしてしまいました」
「・・・」
ゆりはうなだれていた。
本当にもうあなたはいないの？
私は・・・私達は・・・お別れも言ってないよ・・・ドルイド・・・
今この時、過去の皆は存在しない。とっくの昔に亡くなっている。それはわかっている。
だが、何かの拍子に過去に行けば、元気なみんなに会えると信じていた。
「ひっく・・・ひっく・・」
ゆりは泣き出した。
「王妃・・・」
ハインリヒはゆりの髪をなでていた。
「ごめんね、私自分のことしか考えてなくて・・・ハインリヒの方が悲しいよね」
「・・・」
ドルイド・・・もうあの夜の噴水で、あなたに会うことはないの？
ぼろぼろと涙があふれて止まらなかった。
ハインリヒは空を見上げて、涙をこらえていた。
ディランとドルイドと３人で城に忍び込んだ、あの時のことが懐かしく思い出された。
時は返らない。
もう二度と。
今はもう思い出として心の中に止まるのみ。
こらえきれなかった涙が一筋、ハインリヒの頬をつたっていた。
夜になり、ゆりはようやく頼み込んでシスの顔を見ることができた。
あれだけ泣いたのに、シスを見るとまた涙が流れていた。シスの方も同じだった。
「母様」
「シス、辛かったね。ごめんね」
ゆりはシスを抱きしめた。
「ううん。母様こそ、辛かったよね」
ゆりはシスの頬をなでた。まだ幼いシスに人の死はどれほど重かったことだろう。
「シャナーンが、ずっと僕を慰めていてくれたんだ」
「そう」
シャナーンは今はいなかった。
「今日は、一緒に寝ようね」
「うん」
二人は、この夜は一緒のベッドに寝ることにした。
もし、昨日の夜こうしていたら、自分もドルイドに会えていたのだろうか？
ゆりはそんなことを考えた。
「ドルイドね、穏やかに笑ってた。人は最後の時にあんな顔ができるのかな？あんなに若くて亡くなったのに・・・」
「・・・・」
「それがね、不思議なんだ。僕・・・」
「きっとシスに会えてうれしかったのね」
シスは横で寝ているゆりを見た。
「ドルイドは、きっと母様にも会いたかったと思うよ」
「うん、わかってるよ」
「過去でさ、ドルイドに見せてもらったでしょう？夜の泉で、なんだったけ、ピカピカ光る虫、すごく綺麗だったよね」
シスが思い出したように言った。
「うん。綺麗だったね。すごく」
ゆりも思い出した。夜の闇に浮かぶいくつもの光ーとても幻想的な光景だった。
「今度探してみようかな。あの虫」
「うん、そうだね」
ゆりはうなずいた。
その夜は、時々涙しつつ、二人で過去の思い出を語り合った。
そうしていると、いつの間にかゆりの心は落ち着いていた。
「悲しむことは悪いことじゃないって」
シスの言葉にゆりは「ん？」と顔を向けた。
「父様がそう言ったんだ。だから母様にも言った方がいいって。悲しいのは想っていた証拠だから、いいんだって」
「そうか。そうだね。親しくなかったら悲しくないもんね」
王様はたくさん悲しい思いをしているからそう言ったのだろう
悲しいのは私だけじゃない。ハインリヒの方がもっと・・・・女王様やディラン達は、側にいる分もっともっと悲しむだろう
あの気高き美しい女王様が悲しんでいる姿を想像すると、心が痛む。
女王様・・・
みんな・・・みんな悲しいよドルイド・・・あなたが好きだから、悲しいよ・・・
過去の人たちの気持ちを思い、更に涙したゆりだった。
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