第５０話
夜の闇の中、キラキラと輝く丸い大きな噴水が見えた。水が上にあがり、放射状に下に落ちている。
静かな夜だった。聞こえるのはその水の音だけ。
過去だ！あの噴水だ！
蛇の目のゆりはあわてて噴水に走りよった。
だがあたりを見回しても誰もいない。
ードルイド！！！
思念を送った。この世界ならば自分の思念も届くはずだ。
ードルイド！いるんでしょう？お願いここに来て！噴水に来てドルイド！！
ゆりは思念が来るのを待った。だが、返答はない。
「ドルイド！！！」
水の音に勝る声でゆりはドルイドを呼んだ。
だが、いくら待ってもこの場にドルイドが現れることはない。
「ドルイド・・・・」
夜空に浮かぶ白い城が視界に入った。あれほど美しいと思ったあの城も、今はゆりの心をとらえることもない。
ゆりは悲しげに肩を落とし、その場に立ち尽くしていたのだった。
「ドルイドとの出会いはざっとこんな感じなんだけどね、それからいろいろあって、ちょっと仲良くなって・・・ドルイドって控えめだけど結構
印象に残る人でね、ちょっと寂しそうな所がきゅんとくるっていうか・・・・優しいんだけどちょっと不器用そうな人なんだな。お互いにちょっと
通じる所もあったと私は思ってるんだけど、シスに聞いたら私のことはちっとも言ってなかったみたいでね、なんというか、ちょっとショック
なの。わかる？この気持ち」
ゆりは一人でべらべらと語っていた。相手はベッドで横になって眠っているカーラである。
眠っているので当然相づちを打つことはない。
あれから一日経って落ち着いたシスは、ドルイドと出会った時のことを詳しく話してくれた。出会えたのはほんの短い間だったようだ。
シスとシャナーンの子蛇を見たドルイドはとても喜んでいたという。
ドルイドにとっても子蛇は気になることだったのだろう。
シスには言わなかったが、自分の名前がちらっともでなかったことがゆりにはショックだった。
朝シャナーンも心配して来てくれたのだが、自分への伝言らしきことは言ってなかった。
だから伝言はなかったのだろう。あれば真っ先に言うはずだ。
『ハインリヒとゆり様によろしく』
と自分の名前があったのなら満足、とかそういうことでもない。
くだらない嫉妬だと自分でも呆れている。
「ただ・・・なんというか・・・ドルイドの中で私はどういう存在だったのか気になったというか・・・わかってるよ。こんなこと考えるなんて
我が儘だよね。ドルイドにとって私はちょっと仲良くしただけの存在だし、一番愛してるのは女王様で、次は恋人、いるかどうか
知らないけど、その次は家族で、次は友人、次は子蛇、私が入るとしたらその次くらいかな。こんなことでもやもやするなんて、
ほんと私ってやだねえ」
自分でも我が儘だと思っていたが誰かに聞いてほしかったため、ゆりはここにいた看護婦を追い出してカーラに話していたというわけだった。
侍女にも誰にも言いたくなかったからだ。だからといって壁に向かって話すのも嫌だった。
「私だって、自分が死んだら・・・とても大事な人の名前全部言う時間ないかもしれないもんなあ・・・・ドルイドが過去で幸せだったら、
こんな事考えなかったのに・・・」
いろいろ考えていたらまた涙腺がゆるんできた。
「カーラも恋人亡くしたことあるんだよね。大事な人にもう会えないってのは、本当に辛いことだね」
本当にドルイドは亡くなったのだろうか・・・・
実際の所、ゆりはまだ実感できていない。
亡くなった所を見たわけではない。
第一ドルイドが病気だったことすら知らなかった。
心臓の病気かあ・・・どんな病だったんだろう。元の世界だったらドルイドを治せたかもしれないのに・・・
でもひょっとしたらその時から何千年も経っているんだから、今は特効薬のようなものは開発されてないんだろうか？
ゆりは部屋を飛び出して看護婦と交代し、フレイを呼び出した。
ゆりは部屋でフレイにそのことを聞いてみたが、フレイは眉間にしわを寄せた難しい顔で顎に指をあてていた。
「確かに、病についての薬はいろいろ開発されてはおりますよ、ですが心臓とか脳の病気となると手の打ちようがないというのが
実情でしてなあ。逆に昔の方が魔法で治せたくらいでしてな。それにドルイド殿はもう亡くなられたのですから、今更どうしようも
ないのではないですか？」
「だからさ、将来子供らが過去に行く魔法を開発する予定だから、それでドルイドが生きている時に行って・・・」
「正直そういうことはおすすめできません」
「え？なんで？」
「王妃は異世界の方だからピンとこないのかもしれないですが、我々にとっては死は終わりではないのですよ。ドルイド殿は亡くなり、
新たな生に向けての準備に入られたのです。過去の時代から今の時代まで、かなりの時がありますから、もう何度も転生されて
いるかもしれないではないですか」
フレイは真剣な表情で告げた。
この国では人が亡くなったら焼いて、その灰をこの国に巻くという習慣がある。この国に再び戻ってこれるようにと。
そのことはゆりも知っている。
「・・・・でも・・・今はもう随分一族の人は少なくなっちゃったじゃない。過去に亡くなった人が転生しようにもみんなできないよ」
転生、という言葉は元の時代にもあるが、ゆりにはやはりピンとこなかった。
フレイはちょっと困った顔をしている。
「それはそうですが・・・あぶれた方は蛇に転生されてるかもしれません」
「え・・・蛇に？」
「そういう風に我々は思っているのですよ」
「うーん・・・」
ゆりは不服げにうなっていた。
「うーん・・・」
まだうなっている。ゆりの眉間にも皺ができていた。
「ドルイド殿が助けてほしいと懇願してきたわけではないのでしょう？」
「そりゃ、そうだけど・・・・」
「ならこのままの方が良いですよ」
それがフレイの意見のようだ。
ドルイドに生きて欲しいと願うのは、自分の我が儘なのだろうか？
自分が悲しみたくないから
ドルイドのためを考えたらどうなのだろう・・・？
ドルイドだって死にたくなかったと思っているに違いないのに・・・
ゆりはフレイと別れてシスの部屋に行った。
シスは今日は勉強は全て休みだった。
部屋に入ると床に２０匹ほど紺色の蛇がうねうねしていて、ゆりは「わっ」と驚いた。部屋にはシスとラギがいる。
二人は蛇の周りでしゃがんでいた。
「ど、どうしたの？この蛇」
「庭にいた紺色の蛇を捕まえてきたの」
シスはゆりの顔を見てそう説明した。
「全身紺色の蛇って探せば結構いるんだね」
ゆりはシスの横でしゃがんでいるラギを見た。
「僕も一緒に探したんだ。兄さんは親蛇が恋しいんだって」
「え？」
「どの蛇が一番似てるかな？」
シスは蛇を眺めていた。
ゆりは頭を殴られたようなショックを受けた。
シスはショックのあまり精神に変調をきたしているのではないかと感じたのだ。
私はばかだ。自分のことよりもシスのことを先に気に掛けるべきなのに・・・これじゃ母親失格じゃない！
シスは朝落ち着いていたのでつい大丈夫だと思い込んでしまった。
昨日の今日だ。大丈夫なはずはないのに。
ゆりはシスの横にしゃがんで優しくシスの背中をさすった。
「ねえ母様、どの蛇が一番ドルイドの蛇に近いかな？」
「うーん、どうかな。シス、ドルイドが亡くなってしまったことは悲しいけど、シスには王様も、私も、兄弟達も、みんな側にいるからね」
「わかってるよ。顔はどんな顔だった？」
「昨日の今日だから、シス、今日はゆっくり休んで・・・」
「顔・・・」
「私も一緒に寝てあげるから、ね」
ゆりは優しくシスの頭をなでた。
「ねえ、もう一人のお母さん」
ラギが声をかけた。するとゆりの左目が蛇の目に変わった。
「あっちのお母さんは何か勘違いしてるんじゃないのかな？」
「勘違いって？」
シスがきょとんとして聞いた。
「どっちみちあっちは蛇の顔はあんまりわからないよ。うーん・・・そうだね・・・・どの子が一番似てるかな？」
ゆりはうねうね動いている蛇達を見回した。人の顔がそれぞれ違うように蛇の顔だって違う。
「この子」
ゆりはその中から一匹蛇をつまみあげた。一メートルほどの蛇だった。
「顔はこの子が似てるかな。この子をもっと鮮やかにして、胴体をもうちょっと太くした感じかな」
シスは蛇を受け取った。そして蛇の顔をまじまじと眺めた。蛇はちろちろとピンク色の舌を出している。
「ありがとう。りりしい顔してるね」
シスはうれしそうだ。
「そうだね。りりしいね」
ラギも同意した。
ゆりは少し微笑んだ。
「母様は大丈夫？」
シスがゆりに聞いた。
「うん。いや、あんまり大丈夫じゃないかも。だけど王様には大丈夫だってことにしといて」
「・・・うん、わかったよ」
「あんまり悲しまないで。みんな心配してるよ」
ラギも言った。
「うん。わかってるよ」
ゆりはシスが抱いている蛇を見た。
ドルイド、あなたの蛇にもう一度会いたいよ・・・
今は紺色の雄々しい蛇が恋しくてたまらなかった。
過去の世界では、６の月２日朝に戦が始まり、日が暮れてもいまだ戦いは終わらなかった。
広い平原では朝から雷鳴が轟いたり火柱があがったり龍が飛びまくったりと、普段見られない光景が続いていた。
これだけの魔法合戦はなかなか見られるものではない。離れた場所では弁当持参で戦の観戦に来ている人達も大勢いた。
だが夜が更けてくると、さすがに観戦している者も減っていた。観戦者らは気楽なものだが、戦をしている本人達は必死だ。
一族の栄光と自分達の生死がかかっている。
今夜は星も月も見えない。夜空は真っ黒な雲で覆われていた。お互いの陣では魔法の光がともされている。
龍の半数は傷つき後方に控えていた。
双方１００人ほどはけが人が出ているようだ。今一番大変なのは救護部隊かもしれない。
魔法力もそろそろ限界か、武器による戦いも起こっていた。
もう一押しで勝てる！
ディランも他の者達もそう確信していたが、その一押しがなかなかできない。
平原にぽつりぽつりと雨が降り出した。やがてその雨は激しいものへと変わっていた。
「くそっ降ってきたか・・・」
ディランが真っ暗な天を見上げてつぶやいた。今この時の雨は騎士らの戦う意欲を削いでしまいそうだ。
「ディラン！あれを！」
「あっ！」
もう少しで日付が変わろうとする頃、相手方の空に、光の円上の輪っかが浮かんでいた。話し合いを要求する印だった。
「引けー！！」
蛇の一族の騎士達は攻撃をやめて後方に引いた。
広い平原に一時静けさが戻った。双方の指揮官と参謀が中央に移動した。
「どうだろう？今回は双方痛み分けという所で決着をつけないか？」
龍の一族の指揮官が先に言った。
「つまり引き分けということか？怪我人は明らかにそちらが多いようだが」
ディランが言った。
身体の周りに薄い膜を張ってあるので雨で濡れてはいなかったが、どちらも疲れ果てているのは明白だった。
だが、疲れているなどと言ってはいられない。戦が終わるならその時は勝利で終わりたい。
「いや、引き分けでいい。今回はこれで終わりにしよう」
そう言ったのは蛇の一族の参謀だった。
「え！？何を！！」
ディランが驚いて横を見た。
「これでいいのだ。ディラン」
「では引き上げよう」
敵の言葉に参謀の騎士はうなずいた。
戦は引き分けに決まってしまった。敵方の二人は敵陣へと引いた。
「ユエル殿、どうして！代表戦になってでも戦うべきだったのではないですか！？」
ディランは味方の陣へと戻り、ユエルに問うた。ユエルは前回の戦で指揮官を務めた騎士だった。
「代表戦になれば誰かが死ぬことになるかもしれないぞ。せっかく今の所死者はいないのだ。これで終わった方がいい」
「しかし・・・」
「ディラン、ユエル殿の言う通りだよ」
フークスがディランに言った。
「もう一押しだったのに・・・」
「前回の戦で私も同じことを言った。そしてその時言われたことをお前にも言おう。何事もやり過ぎはよくない。
ほどほどでやめることが肝心なのだ。ディラン、引き分けはお前の責任ではない。みな、引き上げの準備だ」
ユエルは皆に声をかけた。
「・・・・」
ディランはがくりと肩を落とした。
何としても勝ちたかった。
この時代ではー
「ディラン、みんなよく戦ったよ」
フークスが気遣うように告げた。
北の国境で待つ女王の元へ、引き分けで決着がついたとの思念が届けられた。
ー皆ご苦労であった
女王はそう思念を送った。女王は引き分けで残念がってもいなかった。今まで続いていたことからして、やはり力は拮抗状態にある
と感じている。
「引き分けと決まった。死者は今の所いないようじゃ」
その言葉に同じ部屋にいた大臣達がどよめいた。
それからしばらくして女王の魔法で平原にいた騎士達はみな国境へと移動してきた。皆疲れ果てていたため、今日はひとまず
騎士らは国境へと止まり、待ち構えていた大勢の医師らによって怪我の治療を受けることになった。
女王は皆にねぎらいの言葉をかけた。皆それぞれ悔しそうな表情を浮かべている。指揮官のディランは申し訳なさそうに片膝をついて
うなだれていた。
「陛下、申し訳ありません。後一押しができずー」
「良いのじゃ。戦の運び方もなかなかであった。ほどほどで終わるのが一番良いのじゃ」
「・・・・・」
「ディラン、これでよいのじゃ」
「はい・・・」
女王は悔し涙を流しているディランの頬を優しくなでた。
医師らの治療で騎士らの怪我もなんとか治療できるようだったので、女王は一旦自分の城へと戻った。
朝になれば国中で「戦勝利」のお祝いが開かれることだろう。
引き分けたからといって馬鹿正直に引き分け、と言うことはない。龍の国だってこの度の戦は勝利した、ということだろう。
こちらも勝利で良いのだ。ちなみに明らかに勝った時には「大勝利」と伝わる。そういうものだった。
時刻はすでに朝方だった。女王は興奮状態のため一睡もできず、部屋で戦のことを思い返しながらお酒を飲んでいた。
テーブルの上には今日の戦の流れを書き留めた書類が乗っていた。
ー皆、命に大事ないようです
医師からそんな思念がきた。
まずはよかった。死者がいないとは喜ばしいことじゃ・・・
部屋をノックする音が聞こえてきた。入ってきたのは頭が禿げたあごひげの長い老人ムサカだった。
「やはりまだ起きられていましたか」
「興奮して眠れぬわ。やはり大勝利で終わるのはなかなか難しいようじゃ」
「そうでしょうな・・・」
「こちらの力が衰えておるのか、向こうの力が増しているのか・・・」
女王はムサカを椅子に促してお酒を勧めた。
いずれは戦で負ける時が来るのだろう
それは一体いつのことになるのか？
近い未来か、遠い未来かー
「陛下もお疲れでしょう。少し休まれては？」
ムサカは椅子に腰を下ろし労るように告げた。
「大丈夫じゃ。戦は引き分けたが死者がでなかったのがよかった」
「それは本当にようございましたなあ・・・」
ムサカは何か思い悩むようにあごひげをなでていた。
「前回の戦では５人亡くなったからのう」
「そうでしたな」
ムサカはまだあごひげをなでている。何か言いたそうだった。
「じいや、どうかしたのか？」
「陛下、今日、いやもう昨日になりますが、城にラミュールがやってきました」
ムサカは思い切ったように告げた。
「ラミュール？ああ、ドルイドの母親の・・・ドルイドになんぞあったのか？」
「ラミュールは飾り物を全くつけない状態で参ったのです」
「ん？」
この時代では女も男も外出する時はなんらかの飾り物をつけるのが普通だった。城に来るとすればなおさらである。
それを飾り物もつけないで来たということは、理由は一つしかなかった。
身内の誰かが亡くなったのだ。
「・・・・」
女王は次の言葉を告げることができずにムサカを見つめていた。
「ラミュールはこんな時に申し訳ないとわびておりました。落ち着いたら陛下に話してほしいと、ですが陛下にとってドルイドは
恋人ともいえる間柄、やはり早めに−」
「じいや！」
女王はムサカの言葉を遮った。
「ま、まさか・・・ド、ドルイドが・・・ドルイドが亡くなったと申すのか？」
女王の瞳が極限まで見開かれていた。
「激しい発作が起きてそのままー」
「まさかー」
「２日未明のことであったそうです」
戦が起こった時にはすでにー
女王はとうてい信じられずに顔に手をあてていた。
女王にとっては思いもよらないことだった。
戦で死者がでなかったというのに、まさか、こんなことがー
女王の脳裏に予言者キルギルミゲルの嫌な予言の言葉がよみがえっていた。
『女王様が悲しむことが起きるかもしれません』
あれは・・・こういうことであったとは・・・
ムサカはテーブルの上に封書を一通差し出した。
「ドルイドから陛下への遺言です」
「遺言？ドルイドはこうなるとわかっておったのか・・・」
女王はやりきれない思いで白い封書を見つめていた。
「ならなぜ、私に会いにこなんだのか。忙しくても、そなたに会う暇くらいいくらでもあったというに！」
女王はテーブルを拳でたたいていた。
「陛下に死期を悟られるのが嫌だったのでしょう。わしが会いに行った時には、肌の蛇がもうかなり薄くなっておりましたからのう」
女王ははっと目を見開いた。
肌の蛇は健康の指標となるものでもあった。健康な身体には通常の蛇が浮かぶが、病気などで死期が近づくと、その蛇は薄くなると
言われていた。
「わしにも陛下と同じように人の肌の蛇を見る力がございます。わしは病人に会うと肌の蛇を見てしまう悪い癖がありましてな・・・
陛下に会えば死が間近なのがばれると思い、来る事ができなかったのでしょう」
「・・・・」
「ドルイドの気持ちを、察してやってくだされ。ではわしはこれでー気が重いがディラン達にも知らせてやらねばなりますまい」
ムサカは静かに部屋を去った。
女王はしばらくぼんやりと封書を見つめていた。
戦が近づいていたその時、ドルイドは自分のことで周りに心配をかけたくなかったのだ。
それはわかる。わかるが、自分とドルイドの間柄はそんな水くさいものではなかったはずだ。
かつては寝所を共にしたこともあった。ドルイドが上位の騎士でなくなってからといって女王の気持ちが変わったわけではない。
女王は小さなナイフで封書を切り、中に入っていた手紙を開いた。手紙は一枚きりだった。しかも文章も短いものだった。
『陛下とアゼル様の御代に平和が続くことをお祈りしております
ドルイド』
それは遺言というにはあまりにそっけなく、恋人に対する遺言でもありはしなかった。
「なんじゃ・・・なんじゃこれは！ドルイド！！」
女王は手紙を何度も読み、怒りにわめいた。
「なんなのじゃ！！これが・・・これが私に対する遺言じゃと？！」
金色の瞳からぽろぽろと涙が流れていた。
心の中ではわかっている。あえて自分の心を残さないように、そっけない文字を選んだのだ。
「ばかな・・・・ばかめ・・・・ドルイド・・・そなたはばかじゃ！」
最後の最後までドルイドが自分を気遣ったのだと思うと女王はやりきれなかった。
「そなたがそこまで気遣うほど私は弱くはない！それなのに・・・・」
昨年、ドルイドと過ごした赤い月の夜のことが思い出された。
あの時は、ドルイドの蛇はまだ元気であったのに・・・・
「今年も、そなたの元に行くべきであったのう・・・」
女王は力なくつぶやいた。
私から、そなたの元に行くべきであった
今更悔やんでも、もうどうにもならない。
「すまぬ。すまぬのうドルイド。私が女王ではなくただの女であったなら、そなたの最期を看取ることもできたであろう。
すまぬ・・・」
女王は手紙を胸に抱いたまま、しばらく涙したのだった。
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