第５６話

夜も半袖で過ごせるくらい気温があがってきた頃、ゆりは「今夜は外に出かけよう！」と子供達に誘われ、珍しく夜結界の外に出た。

ゆりはミシェイラをだっこして、子供達全員の他にはハインリヒもいた。ゆりは虫除けの薬を肌に塗りまくっていたので、ミシェイラは匂いが

するのかちょっと嫌な顔をしている。

「ねえ、一体夜にどこ行くの？星でも見るの？」

星が綺麗な夜だったのでゆりはそう思った。

「内緒！さあ、移動しよう！」

シスが声をあげた。

「おー！」

全員で一緒で移動した先は、大きな泉のほとりだった。

「あ！」

泉の上には光る虫が飛んでいた。それは過去でドルイドに見せてもらった蛍のように光を発する美しい虫。

闇に光りの線が描かれる光景に子供達の目が輝いた。過去で見たほどすごい数ではなかったが、それでもあちらこちらで光っているのが

見える。

「わーきれい！」

ナナミが声をあげて宙に浮かんだ。

「綺麗ねー」

アナスターシャはナナミと手を繋いで一緒に飛んでいる。ロイはシスに手をしっかり握られて捕まえられていた。

「つかまえたい！」

「だめだよ」

「よかった。この虫まだいたんだね」

ゆりはうれしかった。ドルイドとの思い出が蘇ったが、もう泣かなかった。

「もうそろそろ時期が終わるみたいだけどね。ロイ、いいこと教えてあげるよ。この虫がなぜ光るかというと・・・」

ラギは虫のうんちくをロイとシスに語り、ハインリヒがゆりの横で苦笑していた。

「何千年経っても変わらない物があるというのはうれしいものですね」

ハインリヒがしみじみと言った。

「そうだね」

耳をすませていると、虫の鳴き声が聞こえてきた。よく見ると、光らない虫も結構飛んでいる。

「虫除けちゃんときいてるかな？」

ゆりは虫に刺されないかちょっと心配になってきた。一応王妃様なので顔だけは虫に刺されたくない。

自分達がいるのは草むらの中なのだ。ゆり達がいる一角だけ草が苅られているが、それでも周りは草ぼうぼうだった。

「大丈夫ですよ。バリヤーはってもらってますから」

ハインリヒにあっさり言われて、「え？そうだったの？」とゆりは驚いた。

「じゃないと大変なことになりますからね」

「よかった。なんだ、薬塗らなくてもよかったのね」

「それ薬の匂いだったんですか？変わった香水だと思ってましたよ」

「まさかあ、あれ？」

腕が突然軽くなったと思ったら、ミシェイラがいなかった。あわてて探すと泉の中央あたりをふらふら浮いている。

「きゃー戻ってきて！ミシェイラ！」

ナナミとアナスターシャがミシェイラを捕まえて、ゆりはほっと胸をなでおろした。

「じゃそろそろ帰りましょう。ラギ様は明日出発ですし」

「そうね。帰りましょう」

ハインリヒに促されて、一同はお城へと帰っていったのだった。



ラクシュミに感謝しつつゆったりした気分で眠っていると、ゆりは久しぶりに神の国に行く事ができた。

ゆりは久々にハロルドの顔でも拝んでおこうと、ハロルドに会いに行った。

着いた場所は空の神殿だった。ちょうど神殿の入り口近くでこちらにやってくるハロルドとすれ違った。

「あ、ハロルド〜」

ゆりがにこやかに声をかけると、ハロルドは顔を見るなり不機嫌そうに「ふん」と顔を背けて、さっさと通り過ぎて行った。

ゆりは片手を上げたまま固まっていた。


あれ？何あの反応・・・ガーベラと喧嘩でもしたのかしら？


ゆりは不思議そうに首をかしげていた。


（面白くない・・・・）

ハロルドは中身がゆりの方だとすぐに気づいたのだが、この前他の男に会うために試練を受けていたゆりだっただけに、喜ぶ気持ちにも

なれなかった。助けなきゃよかったと今は思っているのだが、あの時はつい助けてしまったのだ。

「全く面白くない！」

「え？」

ハロルドは知らずに声に出していて、横を通り過ぎたグレンが何事かとびびっていた。

「ふん、くだらん・・・」

ハロルドはグレンには気づいていないようだ。

「？？？」

ゆりは不思議そうに首をかしげているグレンと出会った。

「ねえ、ハロルド何かあった？」

ゆりはグレンにこっそり聞いてみたが、グレンにも理由は分からないようだ。「さあ、どうなさったんでしょうね？」と言われただけだった。

まあいいや、とゆりはその後は火の神殿でルティアナと温泉に入り、すっかりいい気分になっていた。やはりここの温泉はいい。



久しぶりの神の国はこんな感じで時が過ぎた。

ゆりが目覚めると、うなり声のようなものが聞こえてきた。

「うーん・・・ううーん・・・」

横にはラクシュミがいる。昨晩は久しぶりに王の寝室で寝ていたのだった。一緒に寝るだけで何もしなかったのだが。

「うーん・・・」


王様うなってる！？


うなり声を発していたのはラクシュミだった。ちなみにちゃんと身体を洗って寝たので、ゆりの身体から薬の匂いは消えていた。

そのせいでうなされたわけではない。


嫌な夢でも見てるのかな？それともやっぱり力ずっと使ってるから大変なのかな？かわいそうな王様・・・


その後目覚めたラクシュミはいつもと変わりなかったので、ゆりはうなっていたことは言わなかった。

「大丈夫かな？王様」

子供達が手伝っている、とは言っていたが、ラクシュミの負担が前より増していることは確かだろう。どうにかしてあげたいものだと、ゆりは

思ったのだった。



今年の６の月の２０日でラギは２０歳になった。２０歳といっても、体つきはまだまだ子供なので「え？もう２０歳？」とゆりが驚くほどだ。

その日もお城でバラク大会が行われたりといろいろイベントがあったのだが、２０歳の記念にラギはもっと何かしたくなった。

羊の国の国王の１５０歳の誕生日の式典にミカエルが出席する、ということを聞いたラギは、自分も行きたいとラクシュミに頼み込んでいた。


今日、７の月１０日は、ラギは南の国境から羊の国へと出かける日だったのだ。誕生日の式典は２０日。羊の国には便利なことに国境に

魔法陣があり、王の城がある街と繋がっているそうだ。ラギはミルキダスと早めに国に入り、いろいろ観光できることになったらしい。


ラギは城の外でみんなに見送られて、今日の天気と同じ、晴れ晴れした顔でミルキダスと侍女一人と共に瞬間移動で去って行った。

ミカエルは贈り物のお酒と共に遅れて行き、後日ラギと合流するとのことだったので、今は見送りの中にいる。


「髪黒くしてるとミルキダスと親子みたいだったね」

ラギは気軽に移動するために髪を黒く染めていたのだった。ミルキダスと一緒にいると親子でも通りそうだ。

「ミルキダスも今回は一緒なのでうれしそうでしたね」

イシュタールが言った。ミルキダスも羊の国には何度か行った事があるらしかった。

「私も一緒に行きたかったですねえ」

とシャナーンがつぶやいていた。上級の戦士が二人も長い間いなくなることは憚られたようだ。


「今回は前回と違ってこっちも安心できるわね。ロイ行かないから」

ゆりが言うと、「本当だね」と子供達は笑っていた。虎の国の時は待っていても気を揉んだものだった。

「本当ですね」

と見送りにきた男達も笑っている。ロイ一人不機嫌そうだ。ミカエルは縄で巻かれたロイを右腕で荷物のように抱えていた。

ロイは今朝早くラギの荷物の中に紛れ込んでいて、すぐに発見されていたのだった。

「ミカエル、もう降ろしてよ」

「だめですよ」

ミカエルはロイを抱えたまま城の中に入って行った。追いかけないようにしばらく捕まえているようだ。

「僕は王子様じゃなかったっけー？」

「王子様ですよ」

「王子様なのにこんな扱い〜？」

「そりゃしょうがないでしょう」

後ろにいたヴィラが言うと、ロイは「ひどい、横暴だー！」と叫んでいた。

ミカエルはうるさくなったのかロイを逆さにしていた。

「王子様らしかったらこんな扱いはされないんですよ？ロイ様」

「天上に貼り付けてあげましょうか？」

横にいたハインリヒが楽しそうな顔で聞くと、

「いや、このままでいいよ」

とロイはミカエルの足にしがみついていた。あの様子だと天上に貼っつけられたことがありそうだ。

「最近みんな冷たい。前はフリット以外優しかったのに・・・」

逆さにされたままロイがつぶやいていると、耳ざとく聞いたフリットが顔を向けていたので、ロイはミカエルの脚で顔を隠したのだった。

「しばらく王の横に置いておこう」

「えー！！それだけは〜」

ミカエルはロイごと王の間に入って行った。


他の男達も仕事に戻り、ゆりも部屋に戻った。今日は竪琴の練習の日なのだ。朝はハザークの侍女が教えてくれて、

ゆりは午後にはハザークの塔に向かったのだった。ロイは昼までおとなしく王の間にいたようだ。かわいそうだが仕方がない。


ハザークの部屋に行くとナナミがいた。ナナミは椅子に座って何かを食べている。

「こんにちは、あら、ナナミもきてたの。何食べてるの？」

ゆりがにこやかに聞くと、ナナミは「氷よ」といいつつ丸い皿に乗っているオレンジ色の小さい塊を口に入れていた。

「こ・・・氷！？」

ゆりが突然声を張り上げたので他の者が皆驚いていた。

ゆりは今薄手の半袖のドレスを着ていた。まさか氷をここでお目にかかるとは思わなかった。


「ハザークよ、この王妃のどこがそんなに好きなんだ？」

という声が聞こえてきた。部屋の中にはエルバートに入った水蛇こと、カーライルもいたのだった。

ゆりはくるりとハザークの方を向き、「ご機嫌いかがですか、ハザーク様」と会釈した。そしてカーライルの方を向き、

「こんにちはカーライル様、素敵なお召し物ですねえ」

と早口で言った。エルバートは変わった服を着ていた。いつもの戦士服ではなく、着物のような重ねて着る薄手の水色の服で、

下は長くスカート状になっていた。下の生地は何枚も合わさっているので上は素肌が透けているのに下は全く透けていなかった。

エルバートがこんな格好でゆりの部屋に現れたらびっくりするところだ。もしかしたらカーライルが自分で作らせたのかもしれない。

「所でさっきの誰が作ったの？私も食べたい！！」

ナナミはオレンジ色の氷の塊を全て食べてしまっていた。いわゆる、アイスキャンディーというものである。

「エルが作ってくれたのーあー冷たくておいちかったー！」

ナナミはうれしそうな顔で頬を押さえていた。ナナミはエルバートが時々違う事をあまり気にしていないようだ。

「いいなあ。私にも作ってください」

「いやだ」

「お願いします」

ゆりは両手を合わせていた。

「あれは子供の食べ物だぞ」

「子供の物でも食べたいです」

「我も作れるぞ」

とハザークが言い出して、ゆりは「え！」とショックを受けていた。今まで知らずにいたことがショックだったのだ。

「３時間ほど待ってくれるならな」

どうやら結構時間がかかるらしい。

「いえ、気持ちだけでいいですよ」

ゆりはあきらめてハザークの横に座った。

「エルはジュースからすぐ作ってくれたんだよ。私もああいう魔法使いたいなあ」

ナナミが言った。

「大人になったらできるかもな」

「アイバンドレイア！」

ナナミはジュースを持って何か叫んでいた。そしてコップをのぞいていた。

「やっぱり無理だ」

「今の何？」

ゆりが問うと、「水を氷にかえる呪文なの」とナナミが教えてくれた。

「へーあいばんどれいあ」

「発音が悪い」

カーライルは何度か呪文を言い、ナナミも練習していた。どうやらナナミには古代語の先生が増えているようだ。ナナミはちゃんと古代語の

お勉強をしているようだが、ロイはどうなのか謎だ。

「あ、午後のお勉強が始まるから行かなくちゃ、それじゃ失礼します」

ナナミはレディらしくスカートの端を持って礼をし、部屋を出て行った。

カーライルはゆりには分からない言葉で、ハザークにいろいろ言っていた。

「悪かったですね」

ゆりが言うとカーライルより先にハザークが驚いていた。

「王妃、今の分かったのか？」

「勘で分かりました。母親はああだが娘はかわいい、とかそういうこと言ったでしょう」

「すごい勘だな」

ハザークは感心していた。どうやらあたったらしい。あたってもあんまりうれしくはない。

「今日は竪琴の日だったな」

「カーライル様には披露しませんからね」

ゆりはカーライルを睨みつつ言った。

「私も別に聞きたくはない」

今日のゆりはいつもよりもむっとしなかった。カーライルがラクシュミに親切にしてくれたことを知り、ありがたく思っていたからだ。

ゆりがそのことを思い出して微笑んで見せると、カーライルは「不気味だ・・・」とつぶやいていた。

「ひどい。だれが不気味ですか」

「じゃあ何か悪巧みでもしてるのか？」

「違いますよ」

「二人仲良くなってないか？」

二人のやりとりを見ていたハザークが言い出した。

「なってない。今のでなぜそう思うんだ」

カーライルが眉間に皺を寄せて聞いていた。

「私はカーライル様のこと好きですよ」

ゆりがさらっと言うと、カーライルはぎょっとした顔をし、横のハザークは不穏げな表情になった。

「ややこしいことを言うな！」

「本当ですもーん」

ハザークがカーライルを見ている。カーライルは「違う違う」と手を振っている。

「あ、今のが悪巧みだな！？私をここに来させないのが狙いだな！？」

カーライルがはっと気づいて言い出した。

「なんでそんな・・・ハザーク様、そういうことじゃないんですよ。カーライル様は裏で王様に親切なんです。それでああ言っただけですよ」

ゆりはそう説明した。

「そうなのか？」

「見かけによらず親切な方ですよね。カーライル様って」

「お前私の見かけしらんだろう」

カーライルの言葉に「あれ？そうだった！」とゆりはそのことに気づいた。蛇の目のゆりはカーライルの外見を見せてもらったが、こちらのゆりは

まだだった。

「王に何したんだ？肩でも揉んだのか？」

「まさか・・・だがそれに近いことかもな」

カーライルはちょっと答えずらそうだった。

「揉んだのは脚か」

「そんなわけないだろう。なんで私が王の脚揉むんだ」

ゆりは密かに「くくっ」と笑っていた。この二人のやりとりも面白すぎる。

「笑うなら王妃らしく笑え」とカーライルが言ってきたので、ゆりは頬に手をあてて「おーほほほ！」と高らかに笑ってみせた。

「・・・」

カーライルはあきらめたように横を向いている。

「王妃らしくって、王妃は王妃なんだかららしくってのはおかしい・・・」

ハザークはぶつぶつ言っていた。

「所で、王様の負担を軽くする方法何かないでしょうか？」

ゆりはせっかくなので長生きしてる二人に聞いてみた。

「王様がんばりすぎないか心配で・・・」

「うーん・・・わからないな。それで赤ん坊はちゃんと成長してるのか？」

ハザークが首をひねって聞いた。

「わからん」

カーライルが即答し、ゆりがえっと目を見開いた。てっきり成長していると思っていた。だが外から見てそれはわからない。

「成長してるかどうかわからないんですか？」

「今はまだわからないな。後一年くらいすればわかるかもしれないが・・・」

「そうなんですか・・・」

ゆりはしょんぼりしてしまった。

「ヒルデリアの恵みがあればいいが・・・」

カーライルの言葉にゆりははっとした。


私ってなんてばかなんだ！せっかく神の国に行ったんだから、ヒルデリアに会いに行けばよかったー！！！


ゆりは猛烈に後悔し、自分の頭をたたいていた。

それを見たカーライルは（次の行動が全く想像できない。やっぱり変な女だ）と内心思っていたのだった。


その夜、ゆりは王の寝室でラクシュミに昨晩神の国に行った事を白状し、ヒルデリアに会いにいけばよかったと告げたのだが、ラクシュミには

「神の国に個人的事情を持ち込むな」、と釘を刺されてしまった。「ばれるとガーベラの迷惑になるぞ」、とまで言われ、ゆりは何も言えなかった。

確かにラクシュミの言葉は正しい。

「神の恩恵は十分すぎるほど受けている。・・・ロイめ」

「え？ロイ？」

突然ロイの名前が出てきてゆりは首をかしげた。

「なんでもない。私は大丈夫だ。魔法を使ってることにもすっかり慣れたしな」

ラクシュミは笑みさえ浮かべて言っていたのだが、夜中になるとまたうなっていた。

（王様ってば強がり言って・・・でもそんな王様がかわいい）

ゆりはそんなことを思いながら、ラクシュミと離れた所で寝ていたのだった。



その頃、ロイはこっそりと布団を抜け出して普段着に着替え、瞬間移動しまくって南の国境まで来ていた。

（今から追いかければきっと間に合うぞ！）

そう、ロイはラギを追いかける気でいたのだった。みんなにだめだと言われると、どうしても行きたくてしょうがなくなってしまったのだ。

（羊の国でいい子にしてればいいんだ。うん、用心すれば虎みたいなことにはならないだろう）

勝手にそう思ったロイは国境の建物の影に隠れていたが、人気の少ない森から南の大河に出ようと思っていた。

（川はどうしようかな？瞬間移動はできるのかなあ？橋渡ったらやっぱりばれるかな？）

などと考えていたら、横からちょんちょんと肩をたたかれた。

横を見るとシスがいた。

「え！？シスにー！？どうしたの？」

「どうしたのってロイを追いかけてきたに決まってるじゃないか。さあ、お城に帰ろう」

シスは眠そうだった。

「なんでばれたのー？」

「ロイを見張ることが今日の僕の修行だったんだよ。早めに逃げ出してくれてよかったよ」

シスはロイの腕をつかんで強制的に瞬間移動した。朝までロイが動かなかったら逆につまらないな、とシスは思っていたのだった。

「ちなみに父様も気づいているから明日怒られるよ」

ようやくお城まで帰って来たところでシスがにこやかに告げた。

「えええ！」

「覚悟しておくんだね。それじゃおやすみ、ロイ」

「ガーン、どうしよう・・・」


次の日の朝、ラクシュミに夜お城を抜けだしたことをがっつり怒られたロイは、しょぼくれた顔でハザークの部屋にいた。

「僕も羊行きたかったなあ・・・」

「羊の王の２００歳の誕生日祝いに行かせてもらえばいいじゃないか」

ハザークは慰めるように言った。

「５０年後ですよ？」

「５０年なんてすぐだ、あっという間だ」

「そうか、あっという間かならいいかな」

ロイは案外あっさり納得していた。

「羊の王様それまで生きてればいいなあ」

そしてそっちの心配をしていた。

「早く５０年経たないかなあ」

「ゆっくり経つ方がいいぞ。我は最近はそう思う」

「僕は早く経ってほしいけどなあ」

５０年後にはロイはすっかり大人になり、ミシェイラもそれなりに成長していることだろう。この５０年は、ハザークの長い人生の中でも

貴重な５０年になるに違いない。

「我はやっぱりゆっくりがいいな」

しみじみとそう思うハザークだった。



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