第5話
変身の身を食べて４日目の午後、ようやくミカエルがゆりの元にやってきた。
こころなしか口元が緩んでいるミカエルは、見るからにうれしそうだった。
「王妃の愛は確かに受け取りました」
ミカエルはゆりに近づくなりゆりを抱きしめていた。
「え？愛？」
「愛してるって手紙にそう書いてあったじゃないですか」
「え？そんなことどこにも書いてないと思うけど・・・」
ゆりは手紙の文面を思い出していた。ゆりは確かに昨日ミカエルに手紙を出した。ミカエルが誘ってほしそうにしていたからだ。
たまにはかわいらしく誘ってあげてもいいかな、と思ったゆりだったが、どういう文を書こうか迷っているうちに、
「会いに来ないの？ミカエルらしくないわねー」とだけ書いていた。
「愛」の文字はどこにもなかった、
「手紙からずばっと伝わってきましたよ」
「あ、そう・・・」
「うれしいですよ。王妃」
「え・・・あのう・・・」
「さっそく愛を確かめ合いましょう！」
「え・・・いっ？」
ミカエルはびゅんとゆりを横の部屋に移動させて、あれやこれやろいう間にもゆりは蛇紋を出されていたのだった。
そのころ、またあらぬ噂が飛び交っているのを知り、シャナーンは軽く自己嫌悪を感じ、一方エルバートはセリアに「がんばって
ください」とはっぱをかけられていた。
「がんばってって何をがんばるんでしょうか？」
とぼけた顔で聞いたエルバートにセリアは
「シャナーン様に遠慮せずに王妃様の恋人を目指すべきすよ！」
といったのだった。
「え？なるべきって・・・」
「エルバートさんは今までシャナーン様に遠慮して、王妃様の恋人になろうとはしなかったんでしょう？」
「え？どっからそういう話になったんでしょう・・・」
エルバートはちんぷんかんぷんだった。
「そういう噂ですよ？」
「え？」
「昨日それでシャナーン様と大喧嘩したんでしょう？」
「あれはそういう理由では・・・シャナーンが勝手に誤解して怒っていたんですよ。王妃の耳がかわいかったので
ちょいちょいっと触ったといったらとたんに顔色が変わって・・・自分はもっといろいろしているくせにそれくらいで
怒らなくてもいいのに・・・」
ぶつぶつ言っているエルバートの前でセリアの目は真ん丸になっていた。
「王妃の耳をちょいちょいっと触ったんですか？」
「はい、あ、セリアさんは知ってましたっけ？今王妃が一族の女性に変身していましてねー」
「ええ！？どういうことです？」
セリアはそのことを知らなかった。エルバートが事の次第を説明すると、セリアは口を大きくあけて驚いていた。
「なんてこと！ああ！一目でいいからみたい！王妃様のお姿をこの目で見たい！」
「訪ねたらどうですか？」
「ああ、でもそんな急に訪ねるなんて・・・そうだわ！妊娠のことで相談ということにしましょう！さっそく！ああ、
でも今日は王妃様お暇かしら」
「城に行って王妃の侍女に聞いてみたらどうですか？」
「そうですね！そうしましょう！」
すっかりゆりの耳が見たくなったセリアは一人飛んでいき、部屋にはエルバートが一人残されていた。
「・・・・まあいいか。セリアさんは元気そうだ」
結局「王妃の恋人」の話は途中のままだが、エルバートは納得して出て行ったのだった。
「ああ！王妃！今回の蛇紋もなんてかわいらしい！」
ゆりのおなかの蛇紋を見たミカエルは、今回も大喜びだった。
「すごいですよ！この蛇を私だけのものにできたらいいのに！」
ミカエルの感激はすさまじかったので、ゆりもなんだかうれしかった。
ハザークやヴィラはこれほどゆりの蛇紋に驚かなかったからだ。夫であるラクシュミはまだ見ていない。
「ありがとう。そんなに驚いてくれて」
「驚きますよ。本当にかわいらしい蛇ですね。世界で一番かわいい蛇ですよ」
「ミカエル・・・そんな、そんなに私かわいいかしら？」
ゆりの声は弾んでいた。
「かわいいですよ。この蛇が・・・もちろん王妃もかわいいですよ」
ミカエルはうっとりするほどの甘い声でゆりをほめていた。
「本当？うれしいわ。私ほめられると張り切っちゃうの。うふ」
ゆりは両手を握りあごの下に置いていた。
自分でもぶりっ子だと思いつつ、なんだか止められない。
「もっと、もっとほめて！」
「王妃はいつみても若くてかわいらしくて、素敵ですよ」
「あなたはって言って」
「あなたはいつでも最高にかわいいですよ」
その言葉にゆりは笑みを浮かべた。
「ありがとう。あなたも素敵。もっと濃い蛇だったらよかったのになあ」
ゆりは妙な目つきでミカエルを見ていた。
（なんか変だわ・・・）
ゆりは自分でもそう気づいた。
なんか・・・どっか変だぞー！！いろんな男にほめられたくてしょうがない！！これはまさか！
ゆりはミカエルの肩に両手を置いた。そしてこそっと言った。
「誰か来た」
ミカエルは周りを見た。
「誰もいないですよ」
「違うわよ！誰か来たの！ギの字よ。ギの字！」
「ギ？」
「ギ・・・ほーほほほほ儀式をしましょう！」
ゆりは高らかに笑いながら宣言したのだった。
「え・・・あれ？儀式・・・おおっ！一族の女性の姿で儀式！やりましたね！王妃！」
ミカエルは両手をたたいて喜んだ。今回はないかもしれないと思っていた儀式が起こるのだ。
「すぐみんなに言いますからね！」
ミカエルの心はすでに期待でいっぱいだった。
「ああ楽しみだわ！どんな男が来るのかしら！わくわくだわ！」
ゆりの方もそうらしい。いや、正確には降りてきた女蛇である。
（なんだか初の蛇さんかもしれない・・・）
心の中でゆりは思っていた。
（あなたはどんな女蛇ですか？）
ゆりは思い切って聞いてみた。すると返答があった。
─わたくし？自分で言うのもなんだけど、美しい蛇よ。
─そうでしょうねえ
─うふふふふ、素敵な方ばかりだといいけれど。気に入らない男がいたら・・・
─いたら？
─ふふふ
あやしい笑みだった。
─ふふふって・・・
─気に入らない男は私の毒でいちころかも
─え？毒って・・・もしやあなたは毒蛇さん？！
─そうよ
ど・・・毒・・・
ゆりの顔がちょっと青ざめた。
「ミ・・・ミカエル！やっぱり儀式はしない方がいいかも」
ゆりはあわててミカエルに指で×を作った。
「え？もうみんなにも言っちゃいましたけど」
ミカエルはぽかんとしている。
「やめよう。儀式やめー！」
ゆりは今度はぶるぶると両手を振っていた。
「どうしてですか？まだ蛇様いるんでしょう？」
「やばいよーやばいんだよー」
─大丈夫よ。だって儀式に参加する男はいい男ばっかりなんでしょう？
（万が一気に入らなかったらどうするんだー！！）
「やめ！儀式やめ！」
「えー」
─ここまで来てそんなこと言うならこの男は・・・毒でぶすっと！
ゆりの手がミカエルの両肩にあてられた。
─あわわわわ！
「やる。やっぱりやる！」
「そうこなくちゃ！」
女蛇とゆりのやりとりを知らないミカエルはのんきに言ってウインクした。
なんだかやばいことになってきたかも・・・
ゆりは青ざめつつも口元には女蛇の影響で笑みを浮かべていた。
（毒でぶすっとって、どうやってぶすっとするんだろう？）
─あれ？一族の男は毒に耐性があるのでは？
─もちろんさっきのは冗談よ♪一族の男を殺すわけないでしょう。わたくしの毒を受けてもフラフラのガクガクになるだけよ
女蛇は明るく言った。
フラフラのガクガク？
ゆりはミカエルがふらふらしながら脚をがくがくさせている所を想像していた。
そんなミカエルはあまり見たくない。
どっちにしろ危険な女蛇のようだ。できることなら帰っていただきたいものである。
「王妃、お風呂で体を洗いましょう」
ゆりは考えている間にミカエルに移動させられていた。
「えーん！」
（本当に大丈夫なの？あ、そうだ！今は思念が使えるかも！ハザーク様に相談できないかなあ。ハザーク様！）
ゆりは命いっぱい心の中で叫んだが、返答は何もなかった。
（だめだー！）
浴室に移動すると、すでに浴槽には湯が張られていた。さすが侍女である。
「ああ、うれしいなあ。儀式ができるなんて。みんなも喜びますよ」
ミカエルは喜びまくっていた。
「私はうれしくなーい」
「あ、シャナーンは来ないみたいですよ。まああいつはほっときましょう」
ミカエルは浴槽に身を入れながら言った。
「え？シャナーン来ないの？・・・まあこの際いいか・・・いえ、よくないわ！王妃様の命令よ。来なさいと伝えなさい」
ゆりは両手を腰に当てて言った。
「はあ」
ミカエルは再び思念を送った。裸で仁王立ちしていたゆりは恥ずかしくなり湯の中に入った。
（いいのにー来たくないなら今回は来なくていいのにー！）
ゆりは心の中で絶叫していた。
─わたくしの儀式に出ない男なんて許さないわ。それならわたくしは帰るわ
女蛇はそう言いだした。女蛇はぶりっこかと思えば気位が高いのかもしれない。
それともただの気まぐれな性格なのだろうか。
─どうぞおかえりください
ゆりは土下座気分ですんなり言った。
─あらそう。なら帰るわ。ただしミカエルはもらっていくわ
─え？
ゆりはミカエルに近づいて抱きついた。ミカエルはにこにこである。
「ミカエル、わたくしと一緒に行きましょう」
「行きますよ。どこへでも」
ミカエルはゆりを抱きしめて笑顔で返答した。
（行くってどこに行くんだ。ミカエルのあほ！）
ゆりは心の中で罵倒していた。今日降りてきた女蛇は今までの蛇たちとはどうも
かってが違うようだった。逆らったらなんだか怖いことになりそうだ。
（なんなのこの女蛇は！）
どうやってミカエルを連れて行くのかはなぞだが、儀式をした方がいいかもしれないとゆりは考え直した。
「シャナーン、やっぱりしのごの言ってますが」
「とにかく来るようにシャナーンに言って。ほかのみんなは来れるって？」
「来れますよ」
「じゃあ儀式できるね。・・・はあ・・・」
最後のゆりの溜息を、ミカエルは聞いてはいなかった。
─そうでなければねえ。ふふふ・・・
女蛇はまたもやあやしく笑っていた。
蛇は好きだけど毒蛇はやっぱり苦手だわ・・・
儀式をして赤ん坊の力があがるのはうれしいことだったが、今回ほど不安を感じたことはなかった。
みんなに何もないといいんだけど・・・
男たちの心配をしつつ、お風呂でぼんやりしたゆりだった。
一方ゆりに会いに来たセリアだったが、儀式になりそうだとゆりの侍女に聞き、結局ゆりに会うことはできなかった。
（ああ、一目だけでもお会いしたかったのに・・・残念だわ）
ゆりの様子をだれかに聞きたいと思ったが、侍女たちは突然儀式が起きるというのであわただしく
部屋の前を行ったり来たりしていた。
邪魔になりそうなので、セリアは庭園に移動して東屋に腰を下ろした。
そして耳がとがったゆりを想像していると、やがて近くにシャナーンがやってきた。
「シャナーン様」
「あ・・・どうも」
シャナーンはセリアに気づいた。
「シャナーン様、王妃様はみんなの王妃様です。もしエルバートさんが王妃様の恋人になっても、今まで通り仲良くしてくださいね。
それじゃ儀式がんばってください」
セリアは簡潔に言うと姿を消した。
シャナーンは瞬いていた。
（今の言葉は一体・・・）
シャナーンの脳裏にまたもやいろいろな妄想が沸き起こったが、今はそれどころではなかった。
（儀式に本当に参加してもいいのだろうか・・・しかし王妃の命令に逆らうことはできない）
シャナーンは東屋の柱に手をあてて一人悩んでいたが、城の中の王妃の部屋でも湯あみを終えたゆりは眉をひそめて
難しい顔で悩んでいた。
そんな顔を見たミカエルは、「今日はいつになく緊張してますね」と言ったのだった。ミカエルもゆりも白いガウン姿である。
「実は・・・降りてきたのは毒蛇さんみたいなの」
ゆりは思い切ってミカエルに告白してみた。
「へーそうなんですか」
ミカエルはわりと冷静に返したのでゆりの方が拍子抜けした。
「そうなんですかって・・・毒蛇さんよ？」
「珍しいですね」
「毒あるのよ？」
「それが？」
「怖くないの？」
「どうしてですか？」
ミカエルはきょとんとしている。それもそうだろう。一族の男は毒蛇の毒に耐性があるからだ。
毒蛇自体そこらにうようよしている。珍しくもなんとない。
「うーむ」
女蛇は今ゆりの中にいる。ミカエルにこれ以上いろいろ話すことはできなかった。
そうこうしていると男たちが集まってきた。
中にはシャナーンもいた。ゆりとシャナーンの目があい、シャナーンは頭を下げた。
「まさか儀式が今起こるとはうれしいですよ。王妃」
ジュノーがうれしそうに言った。
「その姿で儀式とは、うれしいような恥ずかしいような・・・」
ヴィラが言った。
「とにかく楽しみですね」
とハインリヒ。
フリット、イシュタール、ミルキダスの３人はあいさつだけで他には何も言わなかったが、全体的にうれしいムードである。
ゆりの目は男たちの間をさまよっていた。
女蛇が男を物色しているような感じである。
─あなたの恋人って半分はいまいち・・・やっぱり帰ろうかしら
─どうぞ。お帰りください
ゆりはまたもや言った。
─・・・
女蛇はなんだか不服げである。これにはゆりも先ほどのやりとりを忘れてむっとしていた。
─いいですか？女蛇さん、みんな私の大事な人たちなの。だからそんなこと言わないでください
─巫女なのに私に意見するの？
女蛇は少々驚いたようだった。
─するわ。みんな大事な恋人なんだから。あなたがどんな女蛇でも関係ないわ。これだけは譲らないわ
─・・・まあいいわ
「では儀式を始めましょう」
ゆりが宣言し、一同は寝室へと向かったのだった。
外はまだ明るい時刻だったが、カーテンが引かれていたので多少寝室は薄暗くなっていた。
それでも男女がいちゃいちゃする時刻ではない。
ゆりのどこか複雑な表情を見てヴィラが、「緊張しているんですか？」とミカエルと同じようなことを言った。
「うん、怖いくらいに緊張してるわ」
とゆり。
「王妃でもそんなことがあるんですねえ」
ハインリヒが意外そうに言った。
「私って繊細だから」
「はあ」
「見るからに」
「ふふふ」
ハインリヒの微笑にゆりはにらんで返した。
─お酒がないところをみるとお前が好きな女蛇ではないようだな
フリットがミカエルに思念を送っていた。フリットが好きな水蛇でもないようだ。
─初めての女蛇らしいぞ
ミカエルが思念を返した。
─そうなのか
「ではミカエル来て。ほかのみんなは楽な恰好になっていてね」
ゆりはとりあえずきっかけになったミカエルを呼んだ。女蛇はミカエルのことはかなり気に入っているようだ。
「はーい、王妃」
ミカエルは喜んで寄っていき、ほかの連中は上着を脱いだりして用意されているガウンに着替えた。
こうなってしまってはシャナーンも儀式に参加するよりない。申し訳ないと思いつつもみなと同じように服を脱いだ。
「ミカエル・・・」
ゆりはミカエルの胸に体を寄せた。
「王妃・・・いつでもあなたは輝くように美しいですよ」
「ありがとう」
儀式の始まりはいつもと大差ないものだった。ゆりは緊張しながらもミカエルに身を任した。
抱きしめあいながらささやかれる言葉にゆりの緊張も次第にとけていた。
ゆりは（そんなに気にすることはなかったかもしれない）と思い始めていた。きっといつものように終わるだろうと。
フリット、ハインリヒとも軽い抱擁を交わし、次にゆりはシャナーンを呼んだ。
「シャナーン、どうして来ないなんて言ったの？わたくし傷ついたわ。とっても！」
ゆりはシャナーンの手を握って非難していた。「わたくし」の言葉に男たちは「ん？」と反応したが、女蛇の影響だろうと思っていた。
「すみません。王妃・・・やはり私は儀式に参加できる資格はないと思い・・・・」
シャナーンが辛そうに告げた。
「資格？」
「私は今年一族の男としての責務を果たせませんでした。それなのに儀式に参加するわけにはいかないと」
シャナーンの告白にフリットはちょっと後ろめたげな顔になっていた。イシュタールとミルキダスは言葉の意味を
あまり理解できなかったようだ。
「てっきり儀式が嫌だったのかと思ったわ」
「いやだなんて！誰よりも参加したい気持ちはあります。本当です！」
「ならいいわ。来て」
「王妃・・・」
ゆりはシャナーンと口づけを交わした。こうなるとシャナーンの遠慮も飛んでいき、心の中にはゆりへの愛だけとなった。
「口だけ男め」
傍らでミカエルがぼそっと言っていたが、シャナーンは聞いてはいなかった。
さあ、次は・・・・
ゆりの目が残りの男たちをさまよった時、ゆりの目はもう一度ミカエルを見た。
─一通りみんなと抱き合いたいんだけれど
ゆりが女蛇に自分の要求を告げると、女蛇は、
─あとはもういいわ。好みじゃない
あっさりそう言ったのだった。
その言葉にゆりは怒るどころかかえって冷静になり、「ジュノー来て」と
ジュノーを呼んでいた。
─ちょっと！好みじゃないって言ってるでしょう！
─男の選り好みは許しません
─なんですって！？
「見てこの顔」
ゆりはジュノーの顔を両手で挟んでいた。
「さらっとした綺麗な髪で何十年たってもどこか少年のようなあどけなさを感じるこの顔・・・」
ゆりは小さな声でぶつぶつ言いながらジュノーにちゅっとキスした。
「ジュノーってかわいい」
「王妃、ありがとうございます」
ジュノーはさわやかに微笑み、ゆりを抱きしめた。
「次はイシュタール来て」
ゆりは次にイシュタールを呼んだ。
─顔に傷がある男なんて嫌いだわ！
イシュタールがベッドにあがると、ゆりはがしっとイシュタールの腕をつかんで
引き寄せていた。
「イシュタールはたくましくて素敵。傷だって誰よりも戦った証拠なの」
ゆりはまたもやぶつぶつ言いながらイシュタールにぶちゅっとキスしていた。
「次、ヴィラ」
─目つきが悪いからいやだわ
─うるさいです
ゆりはちょいちょいと指でヴィラを呼んでいた。ゆりの目つきは欲望に燃えている、というよりは、ちょっと険しくなっている。
男たちの中にはおかしいな、と思う者も出ていた。
─なんか今日の王妃おかしくないか？
フリットがミカエルに思念を送ると、ミカエルは、
─新しい蛇様だからだろう
と返した。
─そのせいだろうか？うーん、なんか変だが・・・
ゆりは力いっぱいヴィラを抱きしめていた。女蛇に抵抗させないためである。
先ほどは女蛇のことをあれほど恐れていたというのに、今は必至の思いで儀式を続行していた。
巫女としての意地というよりは、男たちへの愛ゆえなのかもしれない。
「王妃、どうかしたんでか？」
ヴィラもさすがに変だと感じたようだ。
「え？どうもしないわよ？ヴィラって見かけによらず優しくていっつも私のことを気にかけてくれるのよね」
「はあ・・・」
「次はミルキダス」
ゆりはヴィラを離してミルキダスを呼んだ。
─この人なぜここにいるのかがわからないわ
─もう黙ってください
ゆりはミルキダスもぎゅっと抱きしめた。
「ミルキダスといるといつもほっとするのよ。いまだにキスするだけで赤くなるところがかわいいし」
「王妃・・・」
ミルキダスはすでに照れて頬を赤くしていた。
「あのー我々には何もないんですか？」
ゆりに何も言われなかったハインリヒが聞いた。
「あなたたちはいいの」
とゆり。
「何が？」
ハインリヒがフリットを見ると、フリットも首をかしげていた。
─あなたって失礼な巫女だわ。こんな思いは初めてだわ！
どうやら女蛇は怒っているようだった。
─失礼なのはあなたですよ。いやなら何もせずに帰ればいいじゃないですか
─あなたは巫女でしょ？赤ん坊の力をあげたくないの？
─あげたいですよ
─ならわたくしに従うのが筋でしょう！
─恋人をけなされて黙っていられますか。今までそんな女蛇いなかったわ。あなただけよ！
女蛇の抗議を受けてもゆりも負けてはいなかった。
─ほかの女蛇と一緒にされたくないわ。巫女なら私の思いを聞き入れてほしいわ
─いやです。儀式ができない方がいいわ
─赤ん坊の力があがらなくてもいいの？
─いいわ
ミルキダスを離したゆりは難しい顔で固まっていた。男たちはやっぱりどこか変だな、と思っていた。
「王妃・・・一体どうなさったのですか？」
シャナーンが心配げに聞いた。
「ちょっと女蛇と直談判中なの。気にしないでね」
ゆりは男たちに笑みを見せてまた眉をしかめていた。男達は不思議そうに顔を見合わせている。
─あ、もしやあなたはたいしたことない女蛇なんでしょ。どうせ黒い蛇霊神一匹くらいしか呼べないんでしょ
ゆりがばかにしたように言ってみると、女蛇はゆりがわかるくらい憤っていた。
─そんなわけないでしょう！わたくし以上の女蛇はいないわよ！あなたわたくしを追い払ったら死ぬほど後悔するわよ！
─なら証拠を見せてください
─む・・・
ゆりは心の中で舌を出していた。
─とりあえず私に従ってください。興奮しなかったら蛇霊神呼ばなくてもいいですよ
─・・・・
「よし、交渉成立」
沈黙は了承したサインだと受け取ったゆりはそう言って男たちを見た。
「交渉って？」
ヴィラが聞いた。
「こっちのこと。それじゃ本格的に儀式しましょうよ」
（強気で攻めてやる！）とゆりは心に決めて、ゆりは今度は裸になり男達と抱擁し合ったのだった。
そんな頃、屋敷に帰ったセリアの元にエルバートから思念が届いていた。
─王妃には会えましたか？
─それが会えませんでした。儀式が始まるとかで忙しそうで・・・
─そうですか。残念でしたね
─はいー
セリアは心底残念そうだった。
思念はそれで終わり、エルバートはカーライルに話しかけていた。
「カーライル様の娘さんがいらしているかもしれないですね」
─たぶん違うだろう
カーライルは答えていた。
エルバートは城からかなり離れた街の戦士の詰所にいた。ここから女蛇の気配を感じることはカーライルもできない。
だが、今までのことから考えて、カーライルの娘は天気の良い日にはあまり姿を見せないようだ。
「娘さんじゃなくてもカーライル様のお知り合いですよね。みな美しいのでしょうね。実際に見てみたいですよ」
カーライルがこれだけ美しいのだから女性ならばもっとだろうとエルバートは想像していた。
女性にたいしてあまり興味はなさそうなエルバートだったが、それくらいの好奇心はあるらしい。
─人化する女蛇は結構難しい女が多いぞ。それにあの時代はみんなヤツがもっていったし・・・
ヤツとは古の王ザクートのことである。
「さすがザクート王はすごいですねえ」
─気難しい女も、ヤツの前ではかわいい女になってたからなあ・・・私はどっちかというと人間の女の方がいいがな
座って窓から外を眺めていたエルバートは、肩をちょいちょいとたたかれて横を向いた。仲間の戦士がいた。
「エルバート、また独り言言ってたぞ。いい加減直せよ」
「はい、ありがとうございます」
指摘されて頭をかいたエルバートだった。
城では、前向きになったゆりは積極的に男達に抱きついていた。女蛇は様子を見る気になったのか静かになっている。
体をまさぐられて、肌に男達の唇や舌が這い、ゆりの興奮もじょじょに高まっていった。
はっきりと蛇紋が出た時には男達の声が上がっていた。
「美しい」
「きれいな蛇ですよ」
「みんなの蛇も素敵よ」
ゆりは男達の肌に現れた蛇紋に触れていた。
「きれいですよ。王妃・・・」
「美しい・・・」
「ありがとう。みんな・・」
「王妃、もう待ちきれません」
「私も・・・」
ミカエルとハインリヒがせつなげな声をあげていた。
「いいよ。私も気持ちよくしてあげるね」
ゆりはそばにきたミカエルの下半身に顔をうずめだし、またもや頭の中がうるさくなってきた。
─ちょ、ちょっと一体何をするの！？
─何って、愛撫です
─やめなさい！はしたないわ！ちょっちょっと！
ゆりは女蛇の言葉は無視して口での愛撫を始めたのだった。
─なんでそんなことするのよ！
「ああ、王妃・・・・」
ミカエルは最高に気持ちよさそうな顔をしている。
ミカエルが達すると次はハインリヒだった。
─やめなさいって言ってるのに！身体で受けなさい！身体で！
─私、そっちはしないんです
─え？どういうこと！？
ゆりは平等にほかの男達への愛撫もしていた。一度達した男達もゆりの淫気で再び興奮していた。
ゆりも変化している。瞳は両方黄色と黒の蛇の目になっていた。
─もう何がなんだかわからないわ！！
「王妃・・・愛してます！」
「私も愛してます！」
「愛してます！」
ゆりに再び愛撫される者、ゆりの太ももの間で達する者あり、ゆりは男達の間を行き来し、変化した男達と愛を交わしあった。
「王妃、愛してます」
感極まったシャナーンは泣いていた。
「シャナーン・・」
その後ろでミルキダスも泣いていた。
「ずっと恋人でいられて幸せです」
「ミルキダスったら」
「私も幸せです」
ジュノーも珍しく涙ぐんでいた。
「みんな・・・私みんなのことが大好きよ！」
愛と興奮と感動と、ゆりと男達の間にはいろいろな感情が入り混じっていた。
「王妃！」
ゆりの頬や腕、胸元に銀色の鱗のような模様が浮かび、男達ははっとした。
「なんと美しい！」
男達はあまりの美しさに感動していた。その模様はすぐに消えてしまったが、
男達はいつも以上にゆりが発する淫の気にやがてふらふらになってきた。
「なんだかすごいですよ。もう・・・頭が・・・」
ヴィラは頭をゆらしつつぱたりとベッドの上で倒れてしまった。
「私ももう・・・」
ジュノーもぱたりと倒れた。
「ヴィラ、ジュノーも」
「いい匂いだー」
ミカエルはそう言いながらぱたりと倒れていた。
「え？」
ゆりが驚いている間にも男達はぱたぱたと倒れていき、やがて元気なのはゆりだけになっていた。
「あれ？どうしたのかしら。みんな」
ゆりは変化が解けていた。ゆりは自分ではいつも以上に部屋の中に充満している匂いには気づいていないようだ。
女蛇が抜けようとしているのを感じてゆりははっとした。
「ちょっと、蛇霊神は！？」
─こんなわけのわからない儀式しておいて呼んであげるわけないでしょう！
女蛇はやっぱり怒っていた。
「やっぱり黒い蛇しか呼べないのね」
ゆりはぶーたれていた。
─まあ、私ほどすごい蛇が呼べる者もいないわよ！
「なら証拠を見せてよーすごい蛇呼んでよー」
─いやよ
─やっぱりたいしたことないのね
─うっみてなさい！
「フュウキュウウニョウウウ！」
ゆりの口が勝手に動いて文字にならない言葉を吐き出した。今までの呪文に比べるとなんだか変な言葉である。
すると寝室の中にぬっと白っぽい蛇がやってきた。
「わっ！」
白い蛇かと思ったら蛇の鱗はピカピカ光っていた。まるでラクシュミの髪のように。
「銀色の蛇だわ！」
それは美しい銀色の蛇霊神だった。瞳さえも銀色である。しかも結構大きくて長かった。
─どう？きれいでしょう？
女蛇が勝ち誇るように告げた。
「すごい！おいで！おいで！」
ゆりは必至に宙を浮いている蛇を手招きしている。
銀色の蛇霊神はおなかを上にして浮いていた。なんだか酔っぱらっているようだ。
─ふっみせてあげただけよ
「おいでー！」
ゆりが必至に手招きすると蛇霊神はふらふらと降りてきた。
─こら！もう帰りなさい！
その言葉に蛇霊神は迷うように横を向いている。
「おいで！おいで！いらっしゃい！」
─帰りなさいってば！
「いい子だからおいでー！」
ゆりと女蛇の蛇霊神の招きあいが始まっていた。これだけの蛇を逃しては損とゆりも必至で呼んでいる。
蛇霊神はどうしようか迷っていたが、やがてゆりに近づいてするっと体の中に吸い込まれた。
「やった！」
─まあ！なんてこと！
女蛇は悔しがりつつゆりから抜けていき、ゆりは口元に笑いの表情を浮かべたまま、ぱたりと倒れたのだった。
夕食の時間になってもゆりは食堂に姿を現さなかった。儀式をやっているということは子供たちも聞いている。
ラギがゆりの部屋の前を通ると、男の戦士が３人ゆりの部屋の扉の前にへばりついていた。扉の前には蛇もたくさん集まっている。
「何してるの？」
その言葉に男達ははっとして扉から離れていた。
「いえ、何も・・・」
「怪しいことはしていないです」
「本当です」
ラギは首をかしげている。
「いくら言ってもよってくるんですよ」
その横ではゆりの侍女が迷惑そうに立っていた。
「どうかしたの？」
ラギが無邪気な目で聞いている。
男たちは頭をかいてちょっと答えにくそうにしていた。
「実は部屋からとても良い匂いがしてくるのですよ。それで男性達が寄ってくるのです」
侍女が変わりに説明した。
「えー？そうなの？」
「実はそうなんです。まことに良い匂いで・・・」
ラギも扉に近づいて匂いをかいでみた。だがよくわからない。
「大人にしかわからないかもしれませんよ」
侍女が言った。
「そうなんだー儀式してるからかな？」
「本当に良い匂いなんですよー」
「みんながうらやましいですー」
男達はうっとりとした表情をしていた。下を見るとここにいる蛇はオスばかりだった。
すごいなあ。一体中はどうなってるんだろう・・・
ラギもさすがに中には入らずに部屋の前を通り過ぎた。
儀式が終わればラクシュミの元に知らせがいくが、今部屋の中はゆりも男達も全員ベッドに付していたため、
儀式が終わっているかどうかはわからなかった。さすがに侍女も部屋の中に入ることはしない。
その頃、部屋で酒を飲んでいるハザークの元に珍客がいた。
『一体あの巫女はなんなの？わたくしびっくりしたわ！』
珍客はゆりに降りてきた女蛇だった。女蛇はハザークの元に来て儀式の文句を言っていたのだった。
ハザークの方もびっくりしたが、この女蛇のことは覚えていた。銀色の蛇で「銀の姫」と蛇達に呼ばれていた蛇だった。
銀色のウエーブがかかった長い髪のきれいな女だが、会うたびにやかましかったのでハザークの方はあまり良い印象がない。
というのもこの女蛇とハザークの母親蛇はライバル関係にあったからだった。銀の姫にとってはハザークを産んだディアネイラは
口惜しい存在だったに違いない
『ちょっと聞いているのハザーク』
「文句を言うなら途中で帰ればよかっただろうに。なぜ儀式をやったんだ？」
ハザークはちょっと面倒そうに答えていた。
女蛇は腕を組んでいた。
『侮辱されたからよ。だからわたくしの力を見せたかったの！』
「ふーん、そう」
『あなたって何千年経っても変わらないわね。久しぶりに会ってうれしいの一言もないわね』
「来てすぐに文句を言いだしたのはそちらだろう。なんでうれしがらなきゃならないんだ」
ハザークの言い分ももっともだった。
『あなたって・・・』
女蛇の視線がさらに鋭くなってきた時、ハザークは、こう言いだした。
「そうだ、この時代になんとカーライルもいるのだ。カーライルならお前の文句も喜んで聞いてくれるぞ。行ってみたらどうだ？」
『カーライルが？そうなの？』
女蛇は瞬いた。
「ああ、探してみろ」
『そうするわ。あなたと話してもつまらないし』
女蛇はさっさと消えた。
「こっちだってお前と話すのは好かん」
ハザークも珍しく渋い顔をしていた。
銀の女蛇がエルバートの元にやってきたのは、もっと日が暮れてから、エルバートが戦士寮の食堂で夕食を
食べながらお酒を飲んでいる最中だった。
『やっとみつけたわ！』
目の前にぬっと女蛇の亡霊が現れてエルバートは「わっ」と驚き酒をこぼしていた。
『ちょっと話を聞きなさい。カーライル！』
「え・・・ええ！」
エルバートの周りにいた戦士たちがエルバートの異変に気づいていた。食堂には３０人ほどの戦士がいたが女蛇の姿は
エルバートにしか見えてはいない。エルバートの目つきが変わり、カーライルが表に出た。
「これは驚いた。なんとまあ・・久しぶりじゃないかオパール」
『わたくしの話を聞いてちょうだい！』
「ど、どうしたんだ？エルバート」
「なんだ？」
仲間たちが不思議に思いあつまってきた。
「ん？もしかして今日の儀式で降りたのはお前か？」
『違うわ。わたくしが降りてきたおかげで儀式ができたのよ！』
女蛇は両腰に手をあてて言った。
「みんなにも紹介しよう。みんなの目には見えてはいないが目の前に昔人化できた蛇の魂がいる。
今日王妃がやった儀式に降りてきた女蛇だ」
カーライルが戦士たちを見まわしていうと、男達は珍しげにカーライルが示した空間を眺めたのだった。
「本当なのかよ？」
「まじで？」
「どうしてエルバートには見えてるんだ！？」
「私にはそういう魂を見る力があるのだ。この女蛇はその昔、もっとも美しい女蛇だといわれた蛇で、
美しい銀色の鱗を持っていた所から通称『銀の姫』とも呼ばれていたのだ。人化すると王族のような見事な銀色の髪を
持っていたのでそういわれたのだ」
「もっとも」のところを強調すると、女蛇の顔はまんざらでもなくなっていた。
ハザークよりも女のあしらい方は、カーライルの方がやはり上らしい。
『さすがあなたはよくわかっているわね』
「すごい！」
「儀式に参加した蛇様がいるのかー！」
「顔を見てみたい！」
戦士たちは目を輝かせて騒ぎ出していた。
「見せてやれないのが残念だ。それで何の話だって？」
微笑んでいた女蛇の表情が変わった。
『巫女の話よ！あの巫女変なのよ！それに失礼なのよ！』
「王妃のことか。お前のような気位の高い女がよく王妃に降りたな」
『とにかく失礼な巫女だったのよ！それに儀式も変だったし』
「最後までやったのか？」
『やる気はなかったけれど結局やってしまったのよ！それが悔しいの！』
「そうなのか・・・」
『おまけに蛇まで取られて！悔しいったらないわ！』
カーライルは（王妃もなかなかやるじゃないか）とゆりに感心していた。
この女の上を行くとはすごい。たいしたものだ
女蛇は『あの巫女はおかしすぎる！』と憤っていた。
「エルバート、蛇様は何を言っているんだ？」
「儀式のことなのか？」
戦士たちが気になって聞いてきた。
「ああ、なかなか良い儀式だったそうだ」
カーライルは答えた。一族の者に王妃の悪口はさすがに言えない。
「そうかー」
「すごいなー」
「やっぱりなー」
と戦士たちはうなずきだした。
『ちっともよくないわ！』
「もうすんだのだから良いだろうに。それよりも、男達に銀の姫の片鱗でも見せてやったらどうだ？」
カーライルの言葉に男達は盛り上がり、「お願いします！」と懇願していた。
「美しい蛇様お願いします！」
「麗しい蛇様！」
男たちのヨイショに女蛇の表情も和らいでいた。ほめられるのが好きなようだ。
『まあいいわ。少しだけならね』
女蛇が息を吹きかけると、あたりに良い匂いが漂いだした。その匂いを嗅いだ戦士たちは頬を赤く染め、
やがて足元がふらふらになってきた。
「すごくいい気分・・・」
「うーん・・・なんなんだろうこれ・・」
「立ってられない〜」
「死んでも毒は健在のようだ」
カーライルはフラフラの男達を見ながらそうつぶやいたのだった。
夜中になり、ラクシュミはようやく儀式が終わっていることを知った。ハザークに会いに行き儀式の話をした所、
「女蛇はとっくに出てるぞ」と言われたからだった。
「え？そうなのか？」とラクシュミは驚いた。
「夕方には終わったんじゃないのか？」
「そんなに早くか？もしかして・・・いつぞやのようにみんな倒れてるんじゃないのか？」
何の知らせもないということはそういうことになる。
「さあな」
「侍女らに行かせるか」
ラクシュミが席を立とうとした時、ハザークがはっと何かを思い出した。
「あ、ちょっと待て、一族の者以外部屋に入れるんじゃないぞ。他の者が入ったら死ぬかもしれないぞ」
ハザークの言葉にラクシュミは瞬いていた。
「なんでだ？」
「今日入った女蛇は毒を持っているんだ。その毒、一族の男ならばいい気分になるがほかの者がくらうと死ぬぞ」
「毒？」
「あれは毒の息を出せる稀な蛇なのだ」
「そんな蛇がいるのか。初めて知った」
ラクシュミの目は真ん丸くなっていた。
「蛇の姿の時は無理だがな。うるさい女で今日もうるさかったからカーライルに押し付けた。我ながら名案だった」
ハザークはにやりと笑っていた。
「昔馴染みなのだから話くらいすればよいものを・・・」
「どんなに暇でもごめんだ」
ラクシュミは呆れたように苦笑していた。
ラクシュミは自分でゆりの寝室に行くのがどうも怖かったために、とりあえず朝までほっとくことにした。
朝になればさすがに男達も目が覚めるだろうと思ったからだ。
寝室で朝一番に目覚めたのはゆりだった。ゆりの髪は今回も長くなっている。ゆりは寝室に男達がいるのを見てぎょっとした。
男達は裸のままである。
「みんな大丈夫？起きて！」
横にいたヴィラをゆすると目をちょっとあけた。
「起きて！ヴィラ！イシュタール！」
ゆりの声で男たちは次々と目覚めた。みな頭を押さえて二日酔いのような顔である。
「なんだか頭がふらふらします」
ジュノーが言った。
「大丈夫？」
ゆりはガウンを着てカーテンを開けて部屋の空気を入れ替えようと窓を開けた。
そして男達にガウンを配った。
「昨日の儀式、ちょっと変じゃなかったですか？」
陽の光にまぶしげに目を細めてヴィラが言った。
「変だったけど、きれいな蛇一匹もらったからまあいいかも。でもあの女蛇は二度とこないと思うけどね」
「はあ・・・」
「うーん、頭がふらふらするなあ」
ミカエルも頭を振っていた。
「脚もがくがくするし」
ハインリヒはガウンを着ながら脚をがくがくさせている。
「なんだか匂いがすごかったですよ」
フリットが言った。
「フラフラのガクガクってこれのこと？」
ゆりは女蛇の言葉を思い出していた。
「王妃の肌に綺麗な銀色の鱗が浮かびましたよ」
イシュタールの言葉にほかの男達も「そういえばそうだった」と言っていた。
「銀の鱗？あの蛇さんは銀色の蛇なのかあ・・・」
（あの女蛇、いやいやながらも実は興奮してたんじゃないのかなあ？どうもそんな気がする・・・自分では認めないだろうけどね）
ゆりはそんなことを思いながら、ぐったりした男達と浴室に移動したのだった。
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