第41話
夜空には無数の星がきらめいていた。降るような星空とはまさにこのことだろう。眠ることがもったいないくらいに、今宵の星空は美しかった。
大きな月は上が欠けている三日月である。今宵も月の女神はどこかの空で馬車を走らせているのかもしれない。
ここは神の世界。昼間ほどではないが夜に活動する妖精達の姿もあった。
あたりは静かだった。聞こえてくるのは風で揺れる葉の音と、ふくろうの鳴き声。
とある森の中にある小さな泉からは淡い光があがっていた。その場所に、時折妖精達が様子を伺うようにやってきている。
この泉にいる女性の話を皆知っているのだろう。どのような女性なのか、妖精達も興味深々に違いない。
妖精達は、泉から上る淡い光とは別の白っぽい塊に目を留めたが、不思議そうな顔で去って行った。
その塊は、泉の端っこに浮いている。大きさにして30センチくらいのものだ。
「今日もいるかな？」
「あ、いたよ」
という男の子達の声が聞こえてきた。こんな夜に活動する少年は少ない。額に淡い光をつけた星の神達であった。
星の神、ティラとティカがやってくると、白い塊は反応し、二人によって行った。
黒い短髪の綺麗な顔をした神はどちらも悪いことを知らない無邪気な子供、といった外見であった。生まれた時からはだいぶ大きく
なっていたが、それでも他の神々に比べると、小さな子供である。二人は白いふんわりした塊に、頭をなでるように手をあてている。
二人はどうやらその塊の正体に気づいているようだ。
「寂しかった？」
「昨日よりもはっきりしてるね。お母さんが元気になってきたからかな？」
やがて、二人の側に長い黒髪の大人の髪が降りてきた。夜の神、オルガである。
「お父さん、この子今日もいたよ」
「僕らに会えて喜んでるかな」
「さあな」
白いふんわいした塊はオルガがやってくるなりオルガの胸にくっついて行った。
「やっぱりお父さんがいいんだ」
「しょうがないよね。本物にはまだ会えないもんね」
白いふんわりしたものは、泉に眠るゆりのお腹の中にいた子供だった。最近夜に出ていたのを星の神達が発見し、なんだろうと思っていた
ら、オルガが「きっとこの女性の腹の子供だ」と察したのである。なぜなら、白くふんわしとしていたが、よく見ると人間の赤ん坊の姿をしていたからだった。
まったく邪気のない魂である。母親と共に壮絶な旅を遂げた赤ん坊に、3人は同情的でもあった。
「お母さんはいつになったら元気になるのかな？」
ティラが聞いた。
「もうすぐと聞いたぞ。この子もかなり普通に戻っているしな。もう少しで元の世界に帰れるぞ」
オルガは赤ん坊に語ったが、赤ん坊が喜んでいるのかどうかはわからなかった。
「そろそろ行こう。お前はお腹に戻りなさい」
オルガが優しく言ったが、白い赤ん坊は引っ付いたまま離れなかった。
離そうとすると、いやいやと首を振っているような仕草までした。
「ふふふ、こうなったら歌うしかないね」
「そうだね。お父さん」
二人がにやにやして言うと、オルガは「仕方ないな」と歌を歌いだした。前回会った時も歌ったのだが、それで味を占めてしまったようだ。
オルガの歌声があたりに響き渡った。
その歌はまさに夜の静寂にふさわしく、妖精達もうっとりしてしまうような美声であった。
オルガは人前で歌うことはめったにないため、ガーベラも聞いたことは稀なほどだろう。
子守歌にしては極上の調べを聞きながら、やがて眠りについた赤ん坊はオルガの手で泉の中に返された。
オルガはその塊が無事腹の中に吸い込まれるを確認して離れた。
「お父さんの声ってほんといいよね。もっと歌ったらいいのにね」
「アシュラン様だってうっとりしちゃうかもよ」
子供達の言葉に、オルガは「ごめんだ」と吐き捨てるように言い、3人はその場を移動したのだった。
夜は長い。ひとくくりに夜といっても、夜空は時と共に変化を遂げる。空の色も。
「こんな美しい景色を見ないなんてもったいないね」
星の神は時々そう思う。人はなぜ夜眠るものだと決まっているのだろうと。
「昼間寝て夜起きたらどうなるのかな？」
もっと小さいころ、オルガにそういってみた事があったが、
「夜は眠るものだ。皆が皆おきていたらやかましくてしょうがないだろう」
オルガはそういって返した。
「人は太陽の光の方が好きだ。だから私よりもアリアスの方が位が上なのだ。植物が育つのも太陽の力だしな」
「なるほど」
「昼は喧騒、夜は静寂、これでいいのだ」
3人は空高くを漂っていた。神の国を回っていると、星の神達が驚きの声をあげた。
「お父さん、あれ見て！ 火事だよ！」
「あ、本当だ！ 火事だ！ あれ？ 火の神殿だ！」
「火の神殿が火事？」
オルガは二人が指差している方向を見下ろした。確かに、岩肌に建つ神殿から、ゆらゆらと火のオーラのようなものが上がっている。
真っ赤な火ではなく、青白い火のオーラである。こんな真夜中に一体何事だろうか。
「火事ではないが、何かあったようだな。行ってみよう。お前達は適当に回ってろ」
「「はーい」」
オルガは地に下りて、火の神殿の中に入って行った。
いつもよりも熱い。どうやらサラディンが相当怒るようなことでもあったようだ。
あまりの暑さに神殿の中に入ることを躊躇したオルガだったが、近くに妖精もいないので、仕方なく中に入ってみた。
すると少女の泣き声が聞こえてきた。
広間に入ってみると、泣いていたのは火の女神ルティアナだった。サラディンは椅子に座り、面白くなさそうな顔で座っている。
ルティアナの横では3人の妖精が困ったような顔つきでいた。
「サラディン、一体何があったんだ？」
オルガは広間に何か違和感を感じて言った。いつもある物がない。
「つぼはどうした？」
いつもこの広間の真ん中には大きなつぼがあり、火が上っているのだが、今この場にはつぼはなかった。つぼがあったような丸い黒い跡は
あるが。
「割ってしまった」
サラディンはぼそりと言った。
「割った？ なんでまた」
「あまりに腹が立ったんでな。妖精が一人盗まれたのだ」
サラディンは苦々しげに言ったのだった。
「え？」
「わーん。バーンがー！」
ルティアナが激しく泣き出した。
「誰に盗まれたんだ？」
「闇の国のあのやなやつにだ。この前の仕返しだ。人間界にいた二人の妖精の一人を持っていかれた。そしてもう一人に伝言を頼むという
周到さだ。なんて陰険で執念深いやつだ！」
サラディンの頭からは湯気が昇っていた。相当頭に来ているようだ。
「それは大変だったな……」
「バーン、いじめられるんじゃない？ かわいそう」
ルティアナは泣いている。名前からして連れ去られたのは男の妖精のようだ。
「しかしあいつが人間界に現れたとは……」
闇の神が人間界に現れるというのはめったにないといわれている。いや、場所によってはアシュランの力の弱い場所があり、
そういう場所ならば現れることがあるようだ。人間界で騒動を起こすこともたまにあるが、それが大きいとアシュランが黙ってはいないために、
めったにそういうこともない。今回は火の妖精だけを狙ってやってきたのだろう。
「こうなったら戦いだ！」
サラディンが物騒なことを言い出した。
「おいおい、本気か？」
オルガが呆れていうと、サラディンは「冗談だ」と浮いた腰を再び下ろした。
「だが、何かお返ししないと気がすまん」
「お父さんってば、バーンの心配をしてよ！」
ルティアナは珍しくも父親を睨んでいる。
「大丈夫だ。火の妖精は強い。あの世界でも生きていける。もう生まれ変わってあの執念深い奴を主と思っているだろう」
「かわいそうよ。取り返しに行こうよ！」
「あいつの妖精になってしまったらこの世界には戻せないのだ。残念だが」
「そんなーわーん」
妖精達はルティアナを慰めるようになでていた。
「全員盗まれちゃったらどうするの！？」
「それはないだろう。これ以上となるとアシュランも黙ってない」
「当分は人間界にも現れないだろう」
オルガも続いた。
「まったく妖精は貴重なのに一人減ってしまった」
ルティアナの横にいた体格のいい妖精が、身振り手振りで何かを訴えていた。
「なんだ？」
とサラディン。
「ここは精力絶倫のライオネル様にまた妖精を作ってもらいましょうって」
顔をあげたルティアナが涙にぬれた目で通訳したのだが、その話の内容にオルガの顔は引きつっていた。
「そうよ。精力絶倫のライオネル様にもっと作ってもらおう！」
ルティアナも真面目に言っていた。
「おいおい。そんな言葉どこで覚えたんだ。意味がわかって言ってるのか？」
サラディンも呆れ顔である。
「うん。子供を産ませる能力がすごいってことでしょ？」
「まあそうだが……」
「オルガ様は精力絶倫なの？」
ルティアナがオルガに話をふり、オルガはびくっと身体を揺らしていた。
「いや、私は……」
「なんなら妖精と遊んでくれていいが」
「いや、いい。そうだ。つぼにいた男はどうしたんだ？」
オルガはさっさと話題を変えた。
「男は昨日から雲の上にいる。そろそろ仕上げだ」
「そうか。ま、あまり怒るなよ。それじゃ」
これ以上変な話にならないように、オルガはさっさと神殿を出て行ったのだった。
「そうか。あいつがいたな。まあ半妖精だが」
「イシュ、タールって名前よ」
とルティアナ。
「そんな名前だったかな？」
とサラディンは首をかしげたのだった。
朝になり、ゆりは目を覚ましてむくりと起き上がった。
「アーよく寝た。なんだかいい夢を見られたような……あっ！ 私起きてる！」
ゆりははっと気づいて驚いた。自然に身体が起き上がったのはここにきて初めてだ。
「もう歩けるかも？」
ゆりは泉から出ようとしたが、なかなか足が動かなかった。
「うーん、もうちょっとかな」
きょろきょろ周りを見たが、誰もいないようだ。
しばらくぼんやり空を見上げていたら、クーリーフンが飛んでくるのが見えたので、ゆりはうれしくなって手を振った。
「起き上がれるようになったの。元気そうだね」
青年版クーリーフンはにこりと笑っていった。
「うん。そうみたい。歩ける日は近いね」
「うん。ちょっと待ってて、お母さんを連れてくるよ」
「うん」
クーリーフンは飛んで行き、やがてガーベラが一緒にやってきた。
輝く女神にゆりは一瞬うっとりとしてしまった。
「元気になったのね。彼も結構元気になったみたい。もう話ができるんですって。変わってあげる」
「本当？ ありがとう」
ゆりは命いっぱい感謝を込めてお礼を言った。
ガーベラに身体を借りたゆりは、クーリーフンに抱っこされて飛んで行った。
「どきどきするわー、ちゃんと元に戻ってるのかしら？」
「会うのはいいけど、サラディンもいるから気をつけてね」
「うん、分かった」
火の神殿の前にはルティアナと妖精達がいた。何かを眺めてる。
ルティアナはこちらに気づくと
「お母さん、おはよう」
と挨拶し、妖精達も頭を下げた。
「おはよう。それなあに？ つぼのかけらみたいな」
地面には大きな陶器のかけらのようなものがつまれていた。
「サラディンがつぼ割ったの本当だったんだ」
クーリーフンがちょっと笑って言った。
「笑い事じゃないんですよ。これがないと困るんですから。今大慌てでジェラルド様が作ってるんです。だけどこれって引っ付かないのかな
と思ってみてるの」
「無理じゃない？ 粉々のもあるし」
「無理かなあ」
「サラディンが激怒するようなことでもあったの？」
ゆりが聞いた。
「そうだよ。それでつぼに八つ当たりして回し蹴り入れたって聞いたよ」
「回し蹴り？」
ゆりはサラディンが回し蹴りを入れるところを想像してしまった。あまりに意外である。
「ただ蹴り飛ばしただけですよ」
とルティアナ。
「あっさり割れちゃったので、お父さん自分でびびってました」
「ははは」
クーリーフンはついまた笑ってしまった。
「笑い事じゃないんですよ〜」
「そうだよね。でもきっとステキなつぼがくるよ。それじゃお母さん行こう」
「うん」
二人は神殿に入って行った。
「サラディン、今機嫌悪いかしら？」
ゆりはぼそりと聞いてみた。
「どうだろうねえ」
広間の中には、サラディンともうひとり、真っ赤な髪の男がいた。その男の姿に、ゆりははっと目が釘付けになった。
「イシュタール……」
呼ばれた男は振り向いた。
「王妃……」
ガーベラ姿のゆりに真っ赤な髪のイシュタールはそう言った。一目でゆりだと気づいたのである。
イシュタールは真っ赤なズボンに上は裸だった。たくましい筋肉はすっかりよみがえり、髪の色は赤く変わっていたが、
姿形は以前のイシュタールと変わりなかった。瞳は右目は蛇の目のままだが、どちらも赤くなっていた。
「王妃……」
イシュタールが感無量と言った表情でもう一度言うと、側にいたサラディンはきょとんとした。
「おうひって？」
「あ、私の王妃にあまりにそっくりだったのでつい……」
イシュタールは目元をふいてそう言った。
「私の王妃？」
「あの泉にいる女性のことだよ」
クーリーフンが説明した。
「ああ、あの女性のことか」
「本当に王妃にそっくりだ……」
イシュタールはこらえ切れなかったのか涙を流している。
腑に落ちない様子のサラディンに、「愛の力だよ」とクーリーフンがささやいていた。
「愛の力？」
「愛する女性は綺麗に見えるものなんだよ」
「そういうことなのか？」
「そういうことだよ」
「そうか……」
さすがにサラディンも全然違うだろうなどとちゃちゃを入れる気はないらしい。
「泉の女性に頼まれて様子を見に来たのよ。すっかり元気になったみたい。よかったわ」
ゆりは泣きそうになるのをこらえていたが、こらえ切れずちょっと泣いてしまった。
「よく無事だったわ。あの人サラディンにもすごく感謝してたわ」
「そうか。私も二人とも助かってうれしい」
サラディンは満足げだった。
イシュタール、すっかり元通りになって……でもなんだかすごい違和感を感じるわ……
ゆりはイシュタールを上から下まで眺めたが、とてつもない違和感を感じ、その理由を探していた。
「あれ？身体の傷がない」
イシュタールの顔と身体にあった傷痕がなんとなくなっていた。それも治ってしまっていた。
「そうなんです。なんだか自分の顔じゃないみたいで……」
イシュタールは頭をかいている。
傷がなくなったのはむしろいいことだが、それよりも大問題なことがあった。
「ちょ、ちょっとイシュタール、背中みせてくれる？」
「はい」
イシュタールはゆりに背中を向けた。ゆりは今度は自分がイシュタールの前に回った。
「ガーベラ、どうしたんだ？」
「へ……蛇が……蛇がいないんですけど……」
ゆりは引きつった顔で言った。
イシュタールの身体には、どこにも蛇の尻尾すらなかったのである。
「蛇がいない。まさか、足にいる？」
「いえ、その……消えてしまったようで」
「えー！！！！」
ゆりは大ショックを受けた。
「蛇が、蛇が消えた？」
「どうしたんだ？」
サラディンが聞いた。
「蛇の一族の男の肌には蛇がいるのよ。その蛇がいないの。どこに行ったの？」
「さあなあ。まあ半分妖精になってしまったせいで、一族の性質はちょっと薄まったのかもしれんが……まあいいんじゃないか？」
「よくないです！」
ゆりは力を込めて言った。
「蛇の一族の女性にとって男の肌の蛇が、魅力なの。蛇がないと、あっちじゃ女性に見向きもされないじゃない」
「そうなったら妖精を恋人にするという手もあるが」
サラディンが冗談でもなく言った。
「えー」
「この際描いたらいいんじゃない？」
クーリーフンが言い出した。
「え？ 描く？ いや、そういうことじゃないんですけど……」
ゆりの顔が引きつっている。当のイシュタールは、ちょっと困った様子でいた。自分のことではなく、ゆりがガーベラに入っていることが
サラディンにばれないか、ひやひやしていたのである。
「そうだ。ジェラルドに描いてもらおう。赤い蛇を」
サラディンが言った。
「きっとステキな蛇を描いてくれるよ」
とクーリーフン。
「赤くないとだめ？」
とゆり。ゆりとしてはやはり緑の蛇がよかった。
「元の蛇は緑なんですけど」
「火の妖精としては、赤じゃないと。ん？ なんで元の色を知ってるんだ？」
「え？ だから、泉の女性に聞いたの。この人の蛇は3匹いて、全部緑なんだって！」
「火の妖精だから赤」
「……じゃあ一匹だけ緑にして」
「うーん……」
イシュタールは無視して話は進められていた。その場にひょっこり、口ひげを生やした男がやってきた。話にあがっていた技の神、ジェラルド
である。
「あのーサラディン様、つぼの件なんですが」
その声で一同が注目した。
「おお、もうできたか。早いな」
「まだですよ。せっかくなのでつぼに模様入れたいんですけど、模様のご希望ありますか？」
「模様なんてなくてもいいが、とにかくさっさと作ってくれ。あれがないと不便でしょうがない」
「わかりました」
「それからこの男の肌に蛇を描いてくれ。赤いの」
「は？」
「蛇の一族の男の肌には蛇がいるそうだ。いなくなってしまった。描いてくれ」
「はあ」
ジェラルドはこちらに近づいてきて、イシュタールの上半身を眺めていた。イシュタールは頭を下げて、居心地が悪そうにしている。
ジェラルドはひとしきり肌を眺めると、「やめたほうがいいでしょう」と言った。
「国に帰ればまた蛇が出てくるかもしれませんよ」
「本当？」
とゆり。
「ええ、サラディン様から離れれば一族の性質が強まりますよ。そういうわけで、これで」
ジェラルドは去って行った。
「よかった。帰ったらきっと元の蛇が出てくるわ」
ゆりはうれしそうだった。
「きっと赤い蛇になってると思うが」
サラディンはぼそりと言っていた。色に対してのこだわりはかなり強いようだ。
イシュタールはこれから妖精としてのことをいろいろ学ばなければならないようだ。ゆりはこれ以上ぼろが出ない内に神殿を後にした。
それから5日後には、ゆりは泉から自分で出られるようになっていた。元気になると口が寂しくて仕方がない。
「何か食べたい」と言ってみると、クーリーフンがリンゴを持ってきてくれて、ゆりはリンゴを食べたりもしていた。
「ジンラ様はここに来なかったなあ。ちょっと会いたかったな」
ゆりは泉の端に腰を下ろしてリンゴをかじりにながらつぶやいた。
「でもジンラ様の顔を見ると泣いちゃうかもなあ。だからいいかあ」
などと言っていると、グレンが飛んできた。
「すっかり元気になったようですね。アシュラン様がお呼びですよ」
「とうとう帰れるの？」
ゆりの目が輝いた。
「そのようです。あの男性はもう行ってます」
王様！ もうすぐだよ！ もうすぐ会えるよ！
ゆりはグレンに連れられて雲の上の神殿に向かうことになった。
「あの、抱きつかなくても手を軽く握るだけでいいんですが……」
べったり引っ付こうとするゆりに、グレンはちょっと困っていた。
「落とされそうで怖いんです」
「落とさないですよ」
「じゃあだっこしてください」
「はあ……」
（こんなやり取りをどこかでしたような）とグレンは何か思い出しつつ、二人は飛んで行ったのだった。
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