第60話
その日の夕食時、ゆりが食堂に行くと、なんと小さなドルイドがシスの横に座っていたのでゆりは驚いた。
「あら、ドルイドじゃない。どうしたの？」
ドルイドは子供用の高い椅子に座り、なんだか不安そうにきょろきょろ周りを見ている。
「今日は僕がドルイド借りたんだよ。いっぱい遊んだんだよね」
シスがにこにこして答えながらドルイドの口にスプーンに載せた離乳食を食べさせようとしていたが、ドルイドは口を開けなかった。
「ママ」
と寂しそうである。
「ドルイド、カレンに会いたがってるわよ」
ゆりが言った。
「今日はお城に泊める気だったのになあ」
シスは困った様子だった。
ドルイドが城に来てもう２時間になる。心細くなってしまったのか、先ほども泣いてしまい、シスがあやしたのだった。
ゆりに会いに行こうとしても、その頃ゆりはジュノーと別室にいたので会えなかったのだ。
なかなかうまくいかないものである。
「まだ子供だもの。長いこと離してるとかわいそうよ。第一どうしていきなりそんなことを思ったの？」
ゆりが不思議そうに聞いた。同じように不思議に思っているのはラギも同じだろう。腑に落ちない顔つきである。
「どうしてって、ドルイドのことが好きなんだもん。かわいい弟みたいでさ。いっぱい一緒にいたくなったの」
シスがあどけない顔つきで言った。皆の視線がロイに集中していた。ロイは話がわからないのか「何？」と皆の顔を見ている。
「いや、別にロイがかわいくないといってるわけじゃないよ」
シスは皆の気持ちを察したように言った。
「ロイは大きいから、もう一緒に寝ることないし」
「ママ、ママ」
「ドルイド、おいでー」
ゆりが側により、ドルイドを抱き上げた。
「ママ」
「母様ちょっとママになってよ」
とシスがゆりに頼んだ。
「そう簡単にはいかないわよ。ねえドルイド」
ゆりがドルイドの背中をよしよしいしていると、ドルイドは涙目でゆりを見ていた。
「うるうるしちゃってる。かわいそうよ。アナスターシャ、ハインリヒが近くにいたら来てもらって」
「はーい」
アナスターシャがさっさと思念で伝えてしまい、シスはなぜか一人で「あー」と悶絶していた、
「一体どうしたの？ 変よ」
「うーん。別にい」
「シスってばモンモンしてるんだって」
アナスターシャが言った。
「もんもん？」
「なんだっけ？ 思春期のモンモン？」
「もやもやだよ。もやもや」
シスが訂正した。
「なんでもやもやしてるの？」
「ぷーんだ」
シスは不機嫌そうに横を向いていた。ゆりはラギを見たが、ラギも首をかしげている。
ゆりがドルイドをだっこしてあやしていると、ハインリヒが食堂に入ってきた。
「やはり無理でしたか」
「ごめんね。カレンのところに連れていってあげて」
ゆりは「それじゃね」とドルイドの頬にちゅっとキスして。ドルイドをハインリヒに渡した。
ハインリヒはちらりとシスを見たが、シスは「また今度遊ぼうね」と口を尖らせたまま言っていた。
「では連れて行きます」
「またねー」
ハインリヒはいなくなり、一同は食事を再開した。シスは不服そうだった。
「シスにー寂しいの？ わたしが一緒に寝てあげるよ」
ナナミが慰めるように言った。
「いや、そういうわけじゃないんだよ。ありがとう。ただ小さい子供の世話がしたかっただけなんだ。だから気にしないで」
「じゃあミシェイラの世話をすれば？」
アナスターシャがもっともなことを言った。ミシェイラは５歳とはいっても、まだまだ小さい子供である。
「もういいんだ」
シスはしょげた様子で夕食を食べていた。
夕食後、ゆりはラギにシスがおかしなわけを聞きに行ったが、ラギにもさっぱりわからないようだった。
「一体どうしたのかしらね？」
「さあ、まあ小さい子の世話がしたくなったんじゃない？」
「ふーん？」
シスが言った言葉以上の意味など、二人には分からなかった。
ゆりはシスの部屋に行き、「たまにはお母さんと寝る？」と誘ってみたが、「いやいいよ。僕なんでもないから気にしないで」と断られてしまった。
あまりしつこく言うのもなんなので、ゆりはそれで退散していた。
シスは本当にドルイドと一緒にいたかっただけなのかもしれない。
まあ子供はいろいろなことを考えるものなので、それについてはゆりは深く考えなかった。
一方シスは一人になり、部屋でうなっていた。
「うまくいかないなあ。もう一人の母様にも会わせられなかったし……ドルイドがあんなに泣いちゃうなんて。まだ子供だもんなあ……」
シスは口を尖らせてぶつぶつ言っていた。
「あんまりするとみんなに不審がられてしまうし……この際ラギに打ち明けて相談しようかな。でもなあ……」
今この時点でラギに話すというのもどうだろうかとシスは悩んでいた。
話すのは、もう数回ほど大きなドルイドに会ってからにしたいものだ。
「ううーくそーでも大丈夫。まだ機会はあるはずだ。がんばろう」
シスはその日は早々にお風呂に入って寝てしまったのだった。
外の世界は静まり返っていた。聞こえてくるのは山にいる獣の鳴き声だろうか。今夜はわりと平和な夜だった。
事件といえば、山から熊や狼が村に下りてきたというものだった。
今夜は夜勤だったエルバートは、小休憩に酒でも一本もらおうと食堂の入り口に飛んできて、わっと後ずさっていた。
入り口に女性がいたからである。しかもその女性は軽くウエーブがかかった銀色の豪華な髪をしていた。生きている女性ではない。
霊体である。
オパール様！
それは昨年やってきた女蛇に他ならなかった。女蛇はエルバートに気付くことはなく、こっそりと隠れて何かを見ている。
エルバートは女蛇の視線の先を目で追った。
食堂の中には数人の戦士がいたのだが、中にミカエルもいた。オパールが見ていたのはミカエルのようである。
「またミカエル様に会いにいらしたんですか？」
エルバートが聞くと、オパールははっと振り向いて、ちょっと気まずそうな顔をした。
「別に、なんでもないわ。それじゃね」
オパールはそれだけ言うとさっさと消えてしまった。
まだミカエル様に未練があるのかな……
エルバートは食堂に入りながらミカエルをじっと見ていたので、ミカエルがその視線に気付いて「なんだ？」と聞いた。
「いえ、やはりミカエル様はすごいなあと思って」
「あん？」
あの蛇様にあんなに気にされるなんてなあ……すごい
オパールという女性は、カーライルによれば少々性格的に困った女性なのだが、エルバートの目から見ると、なんとも人間臭い所がある、
かわいらしい女性だった。外見は近寄りがたいような美しい女性なので、そのギャップがなんとも面白い。
まだいらしたのかな？ 王妃とまたひと悶着あったりして
エルバートはにやにやしながらもらった酒を飲んでいたので、ミカエルはそんなエルバートを見て「変な奴だ」と言っていた。
その夜、ゆりは自分の部屋のベッドで枕元に巻貝を聞いてぐっすり眠っていた。枕元に白いぼんやりした塊がいたのだが、
誰に気付かれることもなかった。
（トートー）
白い塊は、なんだかうれしそうに巻貝の横でじっとしていた。
「ガーベラ様、一体どうされたんですか？」
肩をゆすられて目を開けると、目の前に見えたのは足だった。小さい白い翼がついたサンダルをはいている。
「あ、グレンだ」
ゆりは顔をあげて言った。
どうやら神の国にこれたようだ。
「ガーベラ様！」
グレンはあわてたように３歩も後ずさっていた。
ゆりは身体を起こした。どうやら草の上につっぷしていたようだ。
「こんな所で何をなさっていたんですか？」
グレンはちょっとどぎまぎしたような、落ち着きのない目の動きをしていた。
「えーと、ちょっと眠くなっちゃって〜えへへ、それよりも、娘と仲良くしてる？」
ゆりは身体についた草をはらいながらグレンに聞いた。
「……はあ、まあ、それではこれで」
グレンは後ずさりながら、逃げるように飛んで行ってしまった。
「あ、逃げた。まあ……私もちょっと恥ずかしいけど……」
前回グレンにした行為を考えると、かなりの恥ずかしさである。
だが、あれは女神としてやったことなので、いい行為だった、とゆりは言い聞かせながら周りを見た。
近くに葡萄農園が見えた。ジンラの神殿の近くのようだ。
ガーベラはジンラに会いに来たのかしら？ こんなにすぐに来られるなんてうれしいな。ジンラに会いに行こうっと！
ゆりはるんるん気分でジンラの神殿に向かったのだった。
今日こそは、のんびり過ごそう！
前回は全然のんびり過ごせなかったので、ゆりはそう決心した。ジンラは神殿の外にいた。大きなザルを手に持っている。
「ジンラ〜」
「ガーベラ」
ジンラはこちらに気付くと笑顔を向けた。
「何を持ってるの？」
「ブルーベリーだ。さっきこれでお酒を造ってやった所だ」
「ブルーベリー」
ザルには紫色の小さい丸い物が大量に入っていた。
「ヒルデリアが好きなんでな」
「そうなんだ」
そういえばグレンは酒の瓶を一本持っていたことをゆりは思い出していた。グレンはヒルデリアの使いでここに来たようだ。
「おいしそうね」
「飲むか？」
「え？ いいの？ あ、それよりも、私ジンラにお願いがあるの。時間があったら、一緒にお散歩して」
「おさんぽ？」
「お散歩。手をつないでお散歩したいのー」
「はあ、まあいいが。じゃあこれを置いてくる」
「はーい」
ラクシュミと庭園をぶらぶらするのがゆりの夢だったが、それはまだしばらく無理そうなので、ゆりはせめてジンラと
散歩したいと思ったのだった。
ジンラとのんびりお散歩。いい！ のどかで最高にいい！
ジンラはすぐに戻ってきて、ゆりは手をつないでジンラを促したのだった。
ゆりがかなり楽しそうなので、ジンラは逆に不思議そうだった。何がそんなに楽しいのかよくわからないようだ。
「あっちの川沿いを歩きましょう！」
「何かいいことでもあったのか？ すごくうれしそうだ」
「今いいことがある最中よ」
ジンラの笑顔をずっと見てると癒される……
ラクシュミは笑うことはもちろんあるが、こんなに笑顔でいることはないので、ゆりはここぞとばかりにジンラの笑顔を凝視しまくっていた。
こんなに見られることはないのか、ジンラはまた不思議そうである。川沿いを手をつないで歩くというのもゆりにとっては楽しい体験である。
川は日の光でキラキラ輝いていた。ジンラの紫色の髪も輝いていた。
「ジンラってステキ」
「ガーベラのほうがステキだ」
「まあ、うふふ」
などと笑っていたら、でかい鳥の羽音が聞こえてきた。
「あ、ハロルド」
ジンラの声にゆりが後ろを見ると、近くにペガサスが下りていた。
「うわっ」
ゆりはうれしくなさそうな声をあげていた。ベガサスから降りたハロルドはこちらに近づいてきた。
表情はにこやかとは程遠い。
「ジンラ、ちょっとガーベラを借りるぞ」
ハロルドは挨拶もなしにゆりの手をつかんできたので、ゆりはつい「えー！」と抗議の声をあげていた。
「私、今ジンラと仲良くしてるのにー」
「仲良く？ こんな所でか？」
ハロルドは何か勘違いをしているようだ。
「違うわよ。こんな見晴らしのいいところでそんなことするわけないでしょ」
「とにかく来い。お前に聞きたいことがある」
「ジンラ〜またねー」
ゆりは名残惜しげにジンラに手を振り、ジンラも手を振って返していた。
ペガサスに乗せられたゆりは口を尖らせていた。
せっかくのデートが……しかもなんか、この人機嫌悪そうだし……
機嫌が悪いオーラがひしひしと伝わってくる。
ハロルドは一体何に対して怒っているのか、ゆりにはさっぱり分からなかった。しかもなぜ、空の上からでも中身が自分だと
分かるのだろうか。
ペガサスは誰もいない丘の上に降りていた。
ハロルドはゆりをペガサスから降ろすなり、「グレンと寝たのか？」と聞いてきた。
「え？ 突然なに？」
「グレンだ。お前、グレンの娘を生んだだろう」
ゆりはぽかんとしていた。
「お前、何考えてるんだ？ なんで相手がグレンなんだ」
「何よいきなり、私はグレンとは寝てません」
ゆりははっきりと言った。
「本当か？」
ハロルドは睨みっぱなしである。
「あの子を生んだのが私か、といわれればそうかもしれないけど、身体を密着させただけで他は何もしてないわよ」
「なんで身体を密着させたんだ」
「それはいろいろあったの。でも私は非難されるようなことはしてません」
ゆりは胸をはってはっきりといっていたので、ハロルドは眉をひそめていた。
「もしかしてグレンって恋人になってるの？」
「いや、なってない」
「ならそんなに怒らなくても……」
「なんで身体を密着させたんだ」
「それはね、女神としての本能でね、今この男を興奮させなきゃいけないって思ったの」
「は？」
クーリーフンの名前を出すとまずいことになりそうなので、ゆりはそう言い訳した。
「私は愛欲の女神だから、そういうことがあるの」
「…………」
ハロルドはちょっと頬をひきつらせていた。
「まったくお前って女は……」
「ハロルドってば妬いちゃってかわゆーい」
ゆりはつんつんハロルドの腕をつついていた。
「ばか！ グレンを恋人にしようなんて思うんじゃないぞ。あいつの立場は微妙なんだ。
アシュランだってガーベラに手を出したがってるんだからな」
「はいはい。そんな真面目に怒らなくても……せっかくジンラと仲良く歩いてたのに……」
「代わりに私が仲良くしてやる。いくらでも」
その意味ありげなセリフに、ゆりの顔はまたもや真っ赤になっていた。
「やだよーだ。そういう仲良くはいいの！ さよーなら！」
ゆりはさっさと消えてしまった。
「まったく……」
残されたハロルドは、やれやれといった表情を浮かべていたのだった。
一方、一人寝ていたシスは、ドルイドのことを考えすぎたせいか、夢でドルイドと出会っていた。
「やったー会いたかったよードルイド！」
だが、そのドルイドは過去の時代で生きていたドルイドだった。
「まあいいや、もうどうでも！」
「シス様」
「ドルイド、むにゃむにゃ」
「シス様」
「んん？」
揺り動かされてシスが目を覚ますと、ベッドの横にシーツを身体に巻いた男がいた。
「あードルイド！！！ 会いたかったよー！ もうだめだと思ったよー」
シスは泣きながらドルイドに抱きついていた。
「シス様……」
「あ、そうだ。服だ！ 服を着て！」
シスはあわててクローゼットから服を取り出して、ドルイドに着せたのだった。服はドルイドにぴったりだった。
服を着たドルイドを見て、シスはとてもうれしくなり、うれしさのあまり泣いていた。
「ドルイド、今日はどうして変われたのかわかる？」
「どうしてでしょう。やはりゆり様に出会ったせいでしょうか」
ドルイドは首をかしげていた。
「本当にうれしいよ。ドルイド」
シスは再び出会えた感動で、涙を流してばかりだった。
「シス様……本当にあなたはかわいらしい方ですね。私のためにこんなに……」
「だって、ドルイドのことが好きなんだもん」
「この時代の空気は薄いですね。こんなにも、違うんですね……」
ドルイドはしみじみと言い出した。
「今日は、大人になってわりと冷静に周りを感じることができました。時代の変化というものは、恐ろしいものなんですね」
「そうだね」
「あなたは立派ですよ。過去の時代で、あんなにも必死にがんばって。私がシス様だったなら、あんなにもがんばれたかどうか……」
「僕らはそんなに力はないけれど、その分みんなで力を合わせてがんばるんだよ。やればできるって信じてるから、がんばれるんだ」
「ダレル・ラオル・イー・ミ・ラヴィデスですね」
「ダレル？」
突然流暢な古代語が出たので、シスはとっさに何を言われたのかわからなかった。
「『ダレル・ラオル・イー・ミ・ラヴィデス』 愛しき者のために強くなろうという意味ですよ。かつての国王のお言葉です。
歌にもなってるんですよ」
ドルイドがゆっくりと言ってくれたので、今度は理解できた。
「へーそうなんだ。いい言葉だね。『ダレル・ラオル・イー・ミ・ラヴィデス』かあ。どんな歌なの？」
「ハインリヒに聞いてみたらいいですよ」
「そうだね。今度歌ってもらおう」
今日のドルイドは穏やかだった。今日は本当に精神的にも落ち着いているようだ。
「今日シス様を見て私の心も決まりました。私も、少しでも手伝えることがあるのなら、お手伝いしたいと思います」
ドルイドは穏やかな表情のままシスを見た。
「え？ 本当に？」
「はい。実は、またガーベラ様にお会いしたんですよ」
「え？ そうなんだ？」
「はい」
それは夢の中だった。
今のままの自分が、ガーベラに出会っていたのだ。
『ごめんなさい。私、本当に偶然あなたに会ってしまったものだから、いたずらしちゃったの。もし迷惑だったら、元に戻してあげるわ。
どうする？』
ドルイドはその時、とっさにどう反応していいのかわからなかった。
元のように眠るべきなのか、それともこのままでいるべきなのか？
「今すぐには決められませんというと、ではまた会いに来ると、ガーベラ様はおっしゃったんですよ」
「そうなんだ。でもガーベラは、ドルイドがまた母様と仲良くしたらいいなあと思ってこうしたんだと思うけど」
「そうかもしれないですね。ですが、ゆり様に一度会ってしまうと、また会いたくなってしまいます。ゆり様の心をいたずらに乱すのは
私の本意ではないですし、やはり、私はシス様だけに会いに来ることにしますよ。そうでないと目的がぶれてしまいますので」
「そう」
（そう決め付けなくてもいいのになあ）とシスは思っていたが、（まあ、ドルイドがここに来てくれるだけで今はいいかあ）とも思っていた。
あまりうるさく言うとドルイドの気持ちをそいでしまうかもしれない。そのうちにゆりに出会う機会もあるだろう。
「ゆり様のためにも、シス様に強くなっていただきたいです」
ドルイドは、ここに来て初めて笑みを浮かべていた。
シスは、その笑みを見てとてもうれしい気分になった。
「う、うん、えーと、さっきの言葉、なんだっけ？」
「ダレル・ラオル・イー・ミ・ラヴィデス。そうだ。ここでは古代語で会話をしましょう」
「え？ そこまで？ ドルイド、過去のこと結構思い出したんだね」
「はい、古代語はかなり思い出しましたよ。私、古代語は得意で、よく先生にもほめられていたんです。シス様、がんばってください」
「う、うん」
『なんだか楽しくなってきました。世の中って本当に何が起こるのかわからないものですね。ガーベラ様、ゆり様、感謝いたします』
ドルイドは流暢な古代語で話していたので、シスにはうまく聞き取れなかった。
「ごめん、もっとゆっくり言ってくれないかな？」
古代語の授業の時はもっとゆっくりである。
「今のは独り言ですよ。死んだ後に目的ができるなんて面白いなあと思いまして」
「そうだね。でもまあ今はちゃんと生きてるからね。しかもいい男だよ。ハインリヒに目元も似てるし」
「そうですか？」
「このドルイドを他の人に見せて回りたいよ」
シスは切実にそう思ったが、ドルイドは微笑んでいた。
どうやらお勉強路線は変わりそうにない。前回強くしてくれとお願いしたのはシスなので、それもしょうがないことかもしれない。
だが、他にドルイドを引き止める理由も見当たらなかった。
「じゃあ、次から、いろいろ教えてね」
そういうと、「はい」とドルイドはうれしそうだった。
「次も昼間城につれてこなきゃいけないのかな？ ドルイドってば泣いちゃうんだから」
「すいません。子供ですから。どうでしょうね。ゆり様が鍵なのは確かですが……」
「まあいいや。楽しみが増えてうれしいよ」
母様やハインリヒには後ろめたいけど……
でもそのうちに母様にも会わせるからね。まっててね
その夜は和やかなまま、ドルイドは再びシーツに包まって帰って行ったのだった。
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ドルイドの言葉、「あ、あの時の言葉だ！」と思い出したあなたはえらい！