第43話
古来より、空にかかる虹に人々は魅了されてきた。雨が上がり空を見ると、いつの間にか色彩豊かな光の橋がかかっているのである。
自然は時に贈り物のように美しい光景を見せてくれるのだ。
雨でうんざりした人々も、虹を見るだけでうれしい、得をした気分になれるものである。
昔昔、西の聖域がある島に雨が降った。雨がやんだ後、島のちょうど真ん中にある湖から、一直線に光の柱が立ち上ったのである。
その光は虹のような色彩に分かれた美しいものだった。こんなことは初めてだったので、神々も「これは何かあるのではないか？」と予感して、
色彩豊かな柱を眺めていた。やがて、その光の柱から生まれたのが虹の神ラーズである。
ラーズは虹に見劣りしないほど、色彩豊かな姿をしていた。
ラーズを初めて見たアシュランは、「派手な神が生まれたなー」と目をぱちくりさせたほどである。また背中に大きな翼をもっていたので、
神々は珍しがった。
ラーズは人間の生活に影響を及ぼす神ではなかったが、よく人間界にもやってきているので、人間たちにとっては身近に感じる神の一人である。
またその優しい気性は人間たちにも好かれていた。
人間達にとっては、アシュランやアリアス、ハロルドは恐れ敬う存在であったが、ラーズに関しては、「あの神様好き」と気軽に言えるような神なのである。
ラーズが生まれた西の聖域にある湖は、今も観光名所になっている。
さて、クーリーフンに「ラーズが会いたがってるよ」と言われたゆりは、素直にラーズの元に移動していた。
ラーズは滝の近くにいた。絶壁の崖に沿い、水がカーテンのように流れている。その前に綺麗な虹がかかっていた。
滝の音は爆音ではなかったが、それでもかなりの音だったため、少し離れた低い岩の上からゆりがラーズを呼んでも、
声は水音で消されて聞こえないようだった。
「ラーズ、ラーズったら、ラーズ！！」
何度も呼んでいたらようやくラーズがこちらに気づいて飛んできた。
「ガーベラ、どうしたんだ？」
ラーズは水音がうるさいのですぐ近くまでやってきて聞いた。
「クーリーフンに会いたがってるって聞いてきたのよ？」
「クーリーフンが？」
ゆりは立っていた岩からそっと下をのぞいてみた。２メートルほど下は川になっている。
滝から流れてきた水は、川になって流れているのだ。滝壺も川も、エメラルド色にキラキラ輝いて見えた。
ラーズはちょっと首をかしげていた。ラーズは先ほどガーベラと話をしたところだったのだ。クーリーフンがなぜそんなことを言ったのかと
考えて、はっとした。
もしかして、これがあの……ガーベラ？！
ラーズは女神の顔をよく見ようと顔を近づけていた。
「ねえ、ラーズ」
ゆりが顔を向けたので、ラーズはぎくりとしていた。
「ここってどんな魚がいるのかしら？」
「え？ 魚？ さあ……」
「大きい水蛇はいないかな〜」
ゆりは川をのぞいている。
蛇って……やっぱりあの子なのかな？
ラーズは思いっきり首をかしげてゆりを見ていたので、ゆりが「どうしたの？」と聞いた。
「え？ いや、あまりのぞいて落ちないようにな」
「うん」
ゆりはしゃがんでそっと川を見下ろしている。ラーズは真横でゆりをじっと見ていた。
本人なのか、そうでないのか？
ここにサーラが来れば一発でわかるだろうが、ラーズにははっきりガーベラではないというのがわからなかった。
情けない……そうだ、いろいろ質問してみよう！
「なあガーベラ、初めて会った時のこと覚えてるか？」
ラーズはゆりの真横で聞いてみた。
「覚えてるわよ」
ゆりは笑みを向けた。
「本当か？」
「うん。もちろん、私が生まれた後に、会ったよね」
ゆりはまったく動じずに当たり前のような返答した。
「え、あ、そうだったな……」
しまった、質問がおかしかったか！
「最初に何を話したっけ？」
「挨拶した」
「そーだったな……」
そりゃそうである。ラーズはゆりがまったく動じないので、（こりゃ本物だろう）と思いだした。
別人がこんなに堂々としてられるのかな？ そんなわけないだろう
だが、クーリーフンがよこしたんだしなあ。何かあるはず！
もっとなんか決定的な質問ってないかな？ さっき何を話したっけ、とか聞くのはおかしいし……
ラーズが頭を悩ませていると、女神は岩に手をついて川をのぞき込んでいた。
「なにをしてるんだ？」
「綺麗な鳥がいたの」
「そうか。なあガーベラ、私のどこが好きだ？」
ラーズはそっちの質問をしてみた。
ゆりが顔を向けた。
「匂いが好き」
「え？ 匂い？」
「ラーズっていつもいい匂いがするでしょ？ もちろん全体的に好きよ」
「…………」
ラーズは昔ガーベラに「匂いが好き」と言われたことがあった。
やっぱりガーベラなのかな？
女神の右手に触れると、ぎゅっと握り返してきた。
ガーベラだよな……
ラーズは疑うのはやめてゆりの横に並んで座っていた。
一方ゆりの方は、ラーズが自分のことを疑っているなどと思いもよらないことである。
滝に虹、その上に虹の神様がそろっていたので、精神的になんだかとても癒されていた。
心が洗われる気分である。
「虹って癒されるから、ラーズって癒しの神様よね」
「えー？」
「綺麗だなあ」
ゆりは滝の前にかかる虹を見上げていた。結構幅が広い虹である。虹の一部がぴかぴか光っているのが見えた。
「なんか光ってる」
「光の加減だろう」
ゆりは虹が光るのを眺めていた。虹のちょうど真ん中部分がピカピカ光っている。
「赤、緑、青、紫、藍、黄色。赤、緑、青、紫、藍、黄色。また赤、緑、青、紫、藍、黄色だわ」
ゆりがぶつぶつ言っていたので、ラーズが「何を言ってるんだ？」と聞いた。
「ほら、虹の色のところがね、規則的にぴかぴかしてるの。赤、緑、青、紫、藍、黄色、ね。なんで順番に光らないのかな？」
ラーズも虹を見ていたが、やがて、「たまたまだろう」と言った。
「たまたま？」
「たまに光ってるぞ。光の加減で適当に光ってるんだよ」
「そうかしらね？」
（なぜ虹の真ん中だけ光ってるんだろう？）
じっと見ていたら、今度は色が逆に光りだした。
「今度は逆だわ。ねえ、あれって、何か訴えてるんじゃない？」
ゆりにはそう思えてきた。
「なにを？」
ラーズは目をぱちくりさせている。
「だからね、信号を送ってるのよ」
「しんごう？」
「たとえばね、離れた人に、人間が鏡をちかちかさせて言葉を送ったりするでしょ？ ああいうやつのこと言ってるの」
ゆりはわかりやすく言っていたが、ラーズはよくわかっていないようだ。
「あの虹、何か訴えてるんじゃないの？」
「なにを訴えるんだ？」
ラーズは笑っている。
「んー……そうね。信号を送るっていったら、たいていの場合は『助けてくれ？』」
ゆりが言うと、虹の真ん中が全色光っていた。
「助けてくれっていってる？」
ゆりがちょっと大きな声で聞いてみると、虹の色が同時に3回光った。
「ラーズ、ほら、助けてくれっていってる！」
「まさか」
ラーズは飛んでいき、虹の真ん中あたりを見てから帰ってきた。
「別に普通の虹だぞ？」
「そう？ 虹の中に誰か閉じ込められたリしてない？」
「ははは、私は虹から生まれたけどなあ」
その言葉にゆりははっとした。
もしかして、これって、子供が生まれる兆し、とか？ それともやっぱり誰かが閉じ込められてるの？
子供だったら、やっぱりあれしかないけど……
ゆりは自分の想像に戸惑っていた。一方ラーズの方は、（やっぱり今日のガーベラは変だな）と思い、（やっぱり本物じゃないのかなあ？）
と感じていた。
「どうやったら助けられるの？ 教えて！」
ゆりが大きな声で聞くと、虹の色はせわしなく光りだした。
私ができることといったらあれしかないし……どどどど、どうしよう……
ラーズとはまだそこまでいっていないため、ゆりはかなりどぎまぎしていた。
本物のガーベラがサインに気づいてどうにかなるかも！
でもサインは今日だけだったらどうする？ 助けてって言われたら助けてあげるのが神ってもんだし……
いや、これは私に全く関係ないことかもしれない！
「あの虹って、割れない？」
ゆりはおかしな質問をしてみた。
「虹を割る？」
ラーズは目をまん丸くしている。
「あの中に誰かいる気がするの」
「私みたいに誰か誕生するのか？ なら勝手に出てくると思うけど」
「何か足りないんじゃない？」
「何か？」
「あ、そうだ。ラーズの神気とか注いでみたら？」
「神気を注ぐ？」
ラーズが虹を作るときに使うのは確かに神気だが、神気を注ぐというのがラーズにはよくわからなかった。
「やってみて！」
ゆりは両手で促し、ラーズは首をかしげながら虹のところまで飛んでいき、両手を出して神気を注ぐようなことをやってみた。
だが何も起きなかった。
「あれ？ おかしいわねえ」
ラーズは戻ってきた。
「ガーベラ、気のせいだよ。虹の中に誰かが閉じ込められてるなんてことないよ」
「うーん」
「ガーベラってば、今日はおかしいぞ」
「だって、何かのサインのような気がするんだもの」
「気のせいだろ」
やっぱり子供！？ ってことは、ラーズと仲良くならなきゃだめ！？
ゆりはそっちの考えを捨てきれなかった。
でもラーズとは初めてだし、やっぱり気づかない振りでいいかな？ でも神としてそれはどうなの？
でも全然関係なかったらばかみたいだしー！！
ゆりはかなり思い悩んでいたので、ラーズは首をかしげていた。
「別の場所に行こうか」
「え？ いや、待って！ ねえ、ラーズ、今、私を抱く気はある？」
ゆりはあわててラーズにそう聞いてみた。ラーズがその気がないといえば、それでこのことは考えないようにしようと思ったのである。
虹のサインからゆりが逃げるということはどうもできなかったので、ラーズの気持ち任せにしたのだった。
自分の意思でこの場を去れば、後々後悔するような気がしたのである。
ラーズは「え？」と戸惑った表情をしていた。
「ないならいいの。全然かまわないから」
「もちろんあるに決まってる」
ラーズは断言した。
「あるの？」
ゆりは尻込みした声で聞いた。
「あるよ」
「本当にあるの？」
「もちろん。私はいつだってガーベラを抱きたいと思ってる」
「そ、そう……」
「じゃあ神殿に行こうか」
ラーズが女神の体を抱き上げようとした。
「だめだめ。ここじゃなきゃ」
「ここ？」
ラーズは目を丸くしている。
「ここじゃなきゃだめなの」
「今日はそういう気分なのか？」
「そう。え？ いや、違うけど……まあそう」
やるならあの虹の近くでなければ意味がない気がした。しかし今は昼間である。しかも開放的な場所で、妖精や、ペガサスが空を通っても
不思議ではないところである。
ゆりは（もうちょっといいところないかなあ）と木の影とか、岩の影になってるところはないかと探したが、平でいいところは
見当たらなかった。
うーん、ハロルドが通ったらどうしよう……
でも今しかないかもしれないし……
ちらりと虹を見ると、今度は色の順番にちかちか光っていた。
本当に誰かいるんでしょうね。いなかったらほんと怒るよ！
ゆりはまだ見ぬ誰かに怒っていた。
ラーズが上に着ていた服を脱ぎだした。背中に翼があるので、頭を通すような服ではない。背中には大きな切れ目が二つ入り、
前に重ねるタイプの上着だった。
「ここじゃ体が痛くないかな？ とりあえず、はい、この上に座って」
ラーズは自分の服を岩の上に敷いていた。
「ありがとう」
ゆりはその上に座った。
「じゃあしよう」
ラーズはゆりの体を抱きしめて、熱烈にキスしてきた。さらにラーズはキスしながら体をまさぐってきた。
ラーズは左手で女神の豊満な胸に触れながら、右手をスカートの中に入れてきた。
う！ 恥ずかしい！ でもここで逃げるのも変すぎる！
ラーズはゆりの足を自分の太ももに乗せて、ゆりの腰を浮かせていた。
ラーズの指がいよいよ、女神の足の付け根に触れて、まさぐりだした。
深く口づけを交わしながら、ラーズの背中に回るゆりの腕は、力がこもっていた。
「ん……」
指で触れられるだけで身体が反応してしまっている。
ラーズは女神の頬や首にもキスしていた。
「ガーベラ、リンゴみたいだよ？」
「え？」
「顔が真っ赤だ。どうしたの？」
「え……だって、恥ずかしいし……」
「寝転んで」
「うん」
い、いよいよラーズと……
ゆりは覚悟を決めて寝転んだ。
「身体、痛くない？」
「うん」
長い髪がいい具合にクッションになっているので、岩の上だったが痛くはなかった。
ラーズは女神のスカートをたくしあげた。白い脚があらわになる。女神は下着をつけないので、足を広げられると、
下半身はすっかり露出してしまっていた。
すぐ上に乗ってくると思ったラーズは乗ってこないで、女神の足の間に身をうずめていたのでゆりはぎょぎょっとしていた。
「な、なにするの？」
「なにって、ここをじっくり味わってからじゃないと」
「いやいや、大丈夫だから、もう来て！」
「だめ。我慢して」
「えー」
ラーズは女神の足を大きく広げて、女神の太ももにキスして、秘部への愛撫を始めたのだった。
舌で嘗め回されるとゆりの足がびくびく震えている。優しい愛撫だった。
ラーズって愛撫に時間かけるタイプなんだ……ってお願い、今はいいから、とっとと終わらせて！！
ゆりは真上に広がる青い空を見ながら心の中で絶叫していた。
こんな真昼間から何やってるんだか！
誰か通ったらどうしよう。お願い、神様、誰も通りませんように！
しまいには祈っている。しかしどの神様に祈っているのかは謎である。
舌と指で下半身を愛撫されまくられて、ゆりは恥ずかしすぎて両手で顔を覆っていた。
「なんか我慢してる？ 声だしてもいいのに」
「やだ」
身体は恥ずかしいほど興奮状態にあった。秘部からは愛液があふれて、ラーズは舌でなめとっている。
「お願い、もう、もう、本当にお願いします。早く！」
ゆりは恥ずかしすぎて、しまいには早くしてくれと頼んでいた。
「せっかちだなあ。しょうがないな」
ラーズは上半身をあげて、ズボンを脱ぎだした。男の神はズボンの下にも下着のようなものをつけている。
下半身のおさまりが悪いからだろう。ラーズが下着も外した。
ゆりは実は疑問に思っていたことがあった。
ラーズの下の毛の色は……何色？ 青い！ 青に紫が混じってる！
ゆりはついちらちらとラーズの下半身を見てしまっていた。
下は７色じゃないんだ。ちょっとほっとしたわ
自分でもわけがわからないことにほっとしながら、ゆりはラーズに抱きしめられて、ついに一つになっていた。
ラーズは激しく動こうとはせずに、ゆりの様子をうかがっているようにつながっていた。
「あのね、もう、恥ずかしいから、とっととね」
ゆりは真っ赤な顔で言っていた。
「今日のガーベラ、りんごみたいでかわいいな。どうしたの？ そんなに早く終わらせたかったらガーベラが動いたらどうだ？」
「え……無理よ」
ハロルドの上には乗ってしまったゆりだったが、初めてつながる男にそんなことはできなかった。
「お願い、お願いだから」
ゆりは真っ赤な顔で懇願している。
「だから神殿に行こうっていったのに」
「だって、ここじゃなきゃだめなんだもん」
「よくわからんけど、しょうがないなあ」
ラーズは腰を動かしだした。
「気持ちいい？」
「うん……」
声は我慢していたが、熱い吐息はもれている。
やがて、二人の興奮が最高潮に達して、ゆりは愛し合う喜びに包まれた。
二人の神気がくるくるとらせん状になって上に登っていくのが見える。
ああ、あれが私の中にくるのかなあ……
ゆりはぼんやりそう思った。
ラーズは体を離した後、女神の体を膝の上に乗せて抱きしめた。
「愛してる。ガーベラ」
「私もよ」
ゆりはラーズのエスニック系のような香ばしい匂いに包まれて幸せな気分になった。
さあ、これから何が起きるの？
ゆりはわくわくしながら待っている。
さあさあ！ だれかでてこーい！
ゆりは自分のお腹を見たり虹を見たりしたが、誰かが出てくる気配はなかった。
「あれ？ なんで？」
「どうしたんだ？」
「誰か出てくると思ったのに」
「そう簡単には子供はできないだろう」
「うー……」
じゃあなんで私はあんな恥ずかしい真似をしたのよ！ 虹のばか！
ゆりは真っ赤な顔でむっとしていたが、やがてラーズの翼の変化に気づいたのだった。
いつの間にか、翼の先の方に色がついた羽がある。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色の羽が並んでいるのである。
「ラーズ、ちょっと我慢して」
「え？」
ゆりはラーズの膝から降りて背中に回り、色がついている羽をぬきまくった。
「いてっ、こらっガーベラ！ 痛いって！」
ぶちぶちっと７枚抜いて、ゆりはラーズに見せた。
「見てこれ！」
「色がついてるな。ガーベラ、あまり抜かれると飛べなくなっちゃうぞ」
ラーズは自分の翼を気にしていた。
「この羽、羽……」
え？ まさか……これを食えっていうんじゃ……
ゆりは羽をみつめて青ざめていた。
以前、ゆりはラーズの羽を食べて、サーラが生まれたのである。
ゆりはじーと羽を眺めて、「どうしよう」といった。
「どうしたんだ？」
「これを食べたら何かなるかも」
「え？ そんなに食べたらのどに刺さるぞ？」
「だよね」
といいながらも、ゆりはちょっとやってみたそうである。
「やめといたほうがいいって」
「でもお」
「だめだ」
ラーズが羽を取り上げた。
「あん。でも、絶対これって意味があると思うのよ」
「意味ねえ……」
「それ、虹のところにもっていってみて」
「わかった」
ラーズはズボンをはいて、上半身裸のまま飛んで行った。
そして虹の近くで、７枚の羽を広げてみた。
ゆりは服で胸を隠しながら様子をみている。
「別に何も──」
と言いかけたラーズは、羽が光り輝くのを見た。手を離すと、７枚の羽はすーと虹に吸い込まれるように移動して、
やがて虹は消え、色鮮やかな少年たちが出現したのだった。
「わっ！ やった！ １、２、３、４、全部で７人もいる！！」
ゆりは岩の上でやったと歓声をあげていた。
少年たちはそれぞれ赤、橙、黄、緑、青 藍 紫色の くせっけのはねた髪で、それぞれ髪と同じ色の服を着ていた。
顔もよく似ている。色だけが違うようである。
ラーズは突然大人数が現れたのであっけにとられていた。
少年たちは虹の色の順番に並び、ラーズをじっとみていた。
「ラーズってば鈍い、鈍すぎる」
「そうだよ。何千年待たせるんだよ！」
「ほんと鈍いよー！」
「鈍すぎ」
「まったくだよなー」
「もうだめだと思ったよ」
生まれたと思ったら、少年たちはラーズに悪態をついていた。
「ずっと待ってた？」
ラーズが聞くと、７人は口を合わせて「ずっと待ってた」と言った。
「そりゃすまなかったな。でも口で言ってくれないとわからないよ」
ラーズはすまなそうに言った。
「ずっと、ラーズに出してくれって言ってたんだよ」
「悪かったな」
「でもようやく出られてうれしいな」
「今日のガーベラはさえてたね」
「それじゃ外を探険しよう」
「いくぞー！」
「おー」
７人はそのまま飛んで行ってしまった。翼がなくても飛べるようである。
頭をかきながらラーズがゆりの元に戻ってきた。
「あの子たち何？ 子供？」
ゆりはわくわくして聞いた。
「いや、子供っていうのとは違うな。妖精だ。ずっと虹にいて出るのを待ってたって」
「えー？」
ゆりにはラーズと妖精のやりとりは聞こえていなかった。
「じゃあ虹の妖精なの？」
「７人で虹ってことなのかな？ いきなり７人も出てきて驚いた」
「すごいね。７人もできるなんてすごい！！」
ゆりは大喜びである。
ラーズは女神の体を抱きしめて、「もう一回やろう」と言った。
「え？ もういいの。そうだ。妖精が生まれたお祝いしましょ！ 神殿にいきましょー！」
「じゃあ神殿でしような」
「もういいってば」
「なんで？ 気持ちよかったろ？」
「だけどもういいの」
ゆりは真っ赤な顔で言った。
ゆりはラーズに飛ばせてもらい、ガーベラの神殿にやってきた。
二人で乾杯して酒を飲んでいると、大きいクーリーフンがやってきたのだった。
「なんか派手な妖精とすれちがったよ。あれ何？」
「虹の妖精がうまれたの！ ７人もなんてすごいでしょ！」
ゆりはもう酔っていたのでかなりご機嫌だった。
「虹の妖精なんだ？ すごいね。よかったね。ラーズ」
「いや、なんか怒られた。虹の中でずっと待ってたらしい」
ラーズはあまりに怒られたので、喜ぶ気分ではなかった。
「え？ そうなの？」
「でも、どうしてラーズと抱き合う必要があったのかしら？ 子供じゃないのに。ただ単に、ラーズが神気を高めるだけでよかったのかも？」
ゆりはそんなことを思った。
「興奮して羽が変わったのかなあ？ まあもういいや。私ちょっと休むわ。二人でお祝いしてね」
ゆりは二人にそういって、さっさと寝室に引っ込んだ。そろそろやばいと思ったのである。
ゆりがいなくなった後、
「あれって、やっぱり本物じゃないよな？」
ラーズがこっそり聞いていた。
「うん。気づかなかったの？ それとも気づいてて抱いたの？」
「すごく真っ赤な顔してたから、違うかなーとは思ったんだが、なんかかわいかったから、どうでもいいやって思っちゃったんだ」
「ははは、ラーズらしいね」
クーリーフンは笑っていた。
「ガーベラがあんなに真っ赤になるなんて、なんか新鮮だったな。知らないガーベラを抱いてるようでどきどきしたなあ」
ラーズはやはり、あまり物事にこだわらない性格のようである。
「浮気じゃないからガーベラに後ろめたくないってのもいいなあ」
「逆にはまっちゃった？ ハロルドと取り合いになるのとかやめてよ」
クーリーフンが冗談交じりに言った。
「ははは。それも面白そうだ」
「ラーズってば……」
「お前もいたずらがすぎるぞ。どうせ私が気づくかどうか確かめたくてあのガーベラをよこしたんだろ？」
ラーズは反撃するように横目でにらんでいた。
「つい……」
クーリーフンは苦笑いをしている。
「まったく……」
苦々しく思いながらも、（あのガーベラが気づかなければあの妖精たちは今も虹の中にいるのか）とラーズは思った。
「しかしあれに気づけってのは無理だろう……」
クーリーフンはラーズの羽の先の方がそろってないのに気付いた。
「ここの羽、抜けたの？」
「ガーベラに容赦なく引っこ抜かれた」
「え？」
「それで７枚も食べようとしてた」
「いっ？」
クーリーフンが驚いているとガーベラが部屋に入ってきた。
「お母さん、虹の妖精が生まれたんだよ。７人も」
「ええ？」
ガーベラは本物のガーベラなようである。
「７人も？ すごいじゃない！ 会いに行きましょう」
ガーベラはすぐ会いに行こうとしていたが、ラーズはガーベラの腕を握っていた。
「その前に愛し合おう」
「まだ昼間よ。あとでいいじゃない」
「こっちが先なんだ。おいでー」
「えー妖精がみたいー」
ラーズはガーベラの体を抱き上げて奥にいってしまった。
「……まあいいか。ラーズってやっぱりあっさりしてたなあ」
クーリーフンはそう言いながら神殿を出て行ったのだった。
人間界では、ゆりは目覚めて、レーヌを抱っこしてベッドで座っていた。
「きゃっ、きゃっ」
レーヌはご機嫌で笑っている。
一方ゆりは困った表情をしていた。
「きっとキラキラになってるわ。どうしよう。頻繁にキラキラになってたら、やばいじゃない。絶対遊んだと思われる！ 今日は
部屋にこもっちゃおうかなあ」
などとつぶやいていたのだった。
つづく
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