第50話
血相を変えたシャナーンはシスと共に、シスの部屋の中にいた。侍女には出てもらっている。
「ど、どうしたの？ シャナーン？」
シャナーンは何かとんでもないことがあったとでもいうような顔つきである。
「シス様、さ、昨晩、博物館で、ド、ド、ド、ド」
シャナーンは慌てるあまりか言葉がうまくでないようである。
「ドドドド？」
「ドルイド様に出会ったんです」
シャナーンは思い切ったように言った。
「ええ？」
シスはのけぞっていた。
「ドルイド様だったんです。見かけは違っていたんですが、確かにドルイド様だったんです！」
シャナーンは両手を握りしめてシスに訴えていた。
「ドドドド、ドルイド？」
今度はシスがしどろもどろだった。
「ドルイド様は、シス様がご存知だと。一体どういうことなんでしょうか？」
「え……」
「シス様もドルイド様に会われたんですか？」
シャナーンはまっすぐにシスの瞳を見つめている。
「…………」
シスは口を開けたままだった。
ドルイドがシャナーンに会った！ やった！ 秘密を知る者が現れたぞー！
と内心喜んだシスだったが、シャナーンが一体どこまで知っているのかまだわからない。
「えーと、ドルイドと、どこで会ったって？」
「博物館ですよ。ゆり様の石像に会いたくなっていくと、一人の男性が立ってまして、なんとドルイド様だったんです！ 姿は違っていても、気は同じでした」
「そ、そうなんだ」
「そうなんだって、やっぱりご存知なんですか？」
シャナーンは、シスがあまり驚いていないので、そう思ったようである。
「うん。昨日ドルイドとここで会ったんだ。実はドルイドの魂はこの世にいるんだ。たまに、大人の身体を借りて現れてるんだ」
シスは落ち着いてから説明した。
「えええええ？ 本当ですか？」
「うん」
シャナーンは、ドルイドがハインリヒの息子であることはまだ知らないようである。シスはそこまでいっていいものかどうか、まだわからなかったので、
あたりさわりのないところから話していた。
「王妃はご存知なんですか？」
「ううん。知っているのは僕と父様だけだよ。ドルイドが、母様の心を乱したくないって言ってさ。僕は会ってほしいんだけどね」
「ドルイド様が……どうして時々現れているのですか？」
「え？ それは……その……（ハインリヒの子供に転生したんだよーと言っていいのかどうか……）」
「ドルイド様、王妃を想うあまりに……きっと王妃の側にいたくてこの世に魂が現れたんですね」
シャナーンは勝手に解釈して涙を流していた。
「え……まあ、そうかもしれないけど……」
「なんという深い愛でしょう。王妃に言って差し上げたい。そして二人を合わせてあげたい。そう思いながらも、そうなってほしくないと思う私がいる。
ああ、私はなんと心が狭い男なんでしょう」
シャナーンは泣きながら顔をゆがめていた。
「いや、シャナーンが悩まなくていいんだよ。ドルイドがまだ母様に会いたくないっていってるからさ、そのうち時が来ればさ」
「ドルイド様……なんということでしょうか……」
シャナーンはドルイドを思って葛藤しつつも泣いていた。
「ところであのお姿はどなたの体だったんでしょうか？ なかなかの美丈夫でしたが」
シスはどきりとした。
「……誰かの姿を借りてるみたいだよ」
これ以上シャナーンを戸惑わせるのも忍びないと思ったシスは、そこは内緒にしておいたのだった。
「ドルイド様に再び出会えてうれしいです。私の子蛇も喜んでますよ」
シャナーンは最後には感じ入った様子で、シスの部屋を出て行った。
「シャナーン、普通の顔で母様に会えるのかなあ。母様には素直だからなあ……」
シスが心配していると、ラギが部屋に入ってきた。
「ねえ、今シャナーンが泣いてたけど、何があったか知ってる？」
ラギはシャナーンに出会ったようである。
「うん。知ってるよ。ラギ、ちょっと僕の秘密を聞いてくれない？」
「え？ 秘密？」
シャナーンにばれたことだし、と、シスはついにドルイドのことをラギに暴露したのだった。
ラギは途中から口をぽかんと開けて話を聞いていた。シスは、ドルイドはハインリヒの子供であるということまで話し切っていた。
「あー言ったらすっきりしたー」
最後にはシスはすっきりした顔で笑っていた。今まで言いたくてたまらなかったのである。
「いまの話って、真面目な話？」
ラギは目をまん丸に見開いたまま聞いていた。
「マジだよ。おおマジだよ。もー誰も気づいてくれなくてつらかったんだよ。ラギ、くれぐれもハインリヒには内緒にね」
シスはラギの肩をぽんぽんと軽くたたいた。
「えええー！ これを内緒にって、ええー！ そりゃあんまりだよ」
「母様にも内緒だよ。わーい。仲間だ仲間だ」
「えー……」
喜ぶシスの前で、ラギはかなり困った表情だった。
所変わって西の砦である。キース将軍がいる部屋に、フリットが様々な報告にやってきていた。
「この前、城の門で男が死んだ件、結局何かわからなかったのか？」
キースが聞いていた。
「ええ、わからないんですよ。我々にとっては、悪いことではなかったので、味方の仕業のようなんですがねえ」
フリットも首をかしげている。城の門付近で洗濯屋に成り代わっていた男が死んだ事件である。今も誰の仕業かはわかってはいない。
「それとは無関係ですが、この砦近くの村で、以前出会った女性の神官に会いましたよ。今回は女性の二人組でしたがね」
「女性の神官？ ハロルド様の神官とかいう？」
キースはその話を思い出していた。
「そうですよ。ハロルド様の神官ですよ。小さい村にいたので驚きました。最近この国にきて、あちこち旅してるらしいです。
リティアさんは城の庭園にあるハロルド様の石像を見たがってましたが、つれの女性に止めらていました」
「今回はどうしていらしたんだ？」
「ただの見回りとか」
「見回り？ そうか……」
以前、ゆりとイシュタールに大変な事件が起こったこともある。神官が国の中にいるのは悪いことではない。あれから随分時が経った気がするが、とは思ったが、
フリットもその時根ほり葉ほりリティアに聞きはしなかった。
「今回はヴァレリオさんと一緒じゃないんですね」
フリットがそういうと、
「あの人との旅は二度とごめんです」
とリティアは言っていた。
二人がどれくらいの期間この国にいるのかも知らない。
「ところで、セルジュさん、熱を出したと聞きましたが、大丈夫でしたか？」
フリットは話題を変えた。セルジュとは、カーラが妊娠してセリアが産んだ赤ん坊である。キースの息子で亡くなったセルジュの魂を、ザクートが強制的に赤ん坊に入れたため、
赤ん坊の名前はセルジュになり、皆つい「さん」づけで呼んでいる。
「ああ、もう熱は下がった。セルジュなんだが、なんかおかしいんだ」
キースが首をかしげていた。
「何がおかしいんですか？」
「カーラとセリアにはべったりなんだが、私にはあまりなつかない」
「赤ん坊はそういうものですよ」
フリットは微笑んで答えていた。
「そうか？ それにしてもなんか腑に落ちないんだよなあ」
「そういうもんです。元気ならよかったですよ」
「元気は元気なんだが……５か月でもう話すって早くないか？」
「え？ もう言葉を発するんですか？」
「うんちの時は『う』と言って訴えるってカーラが言うんだ。他にもなんかいろいろ言ってるらしいんだが、私の前では言わない。しかも、最近はおしめでおしっこもしない。
トイレに連れて行ってもらってやってるらしい」
「えー……５か月でですか」
フリットもこれにはすごく驚いていた。
「それはすごい。賢いですねえ」
「賢すぎだと思うがなあ……カーラはそういうしつけはしてないてっていうんだぞ？ それなのに」」
「先が楽しみですね」
「うーん」
キースは何かもやもやするものを感じているようである。
「もしかして……」
「はい？」
「いや、なんでもない」
キースは言葉を打ち消していた。
その赤ん坊セルジュはカーラの屋敷にいる。赤ん坊の世話はほとんどカーラがし、セリアが休みの日は交代したりしていた。
カーラにとっては、かなり久しぶりの育児である。セリアを産んだ時はしばらく寝込んでいたくらいなので、赤ん坊を世話するのは初めてといってもよかった。
周りは心配しているが、今のところ、セルジュはすくすく育っている。
「セルジュ君、熱が下がってよかったわね。ほんと、心配したわよ」
カーラがそういうと、赤ん坊のセルジュはにっこり笑っていた。
「あーあー」
と両手をだしていたので、カーラはセルジュを腕に抱いていた。
「お父さんにもこうやって抱っこされればいいのに」
セルジュはカーラに抱かれるのがとても好きらしく、いつも抱いてほしそうにしているのである。だが、キース相手だとむしろ嫌がるのだ。
「し、し」
「おしっこなの？ やっぱりトイレでしたいの？」
カーラがそう聞くと、なんとセルジュはうなずいていた。セルジュが結構言葉を理解していることに、さすがにカーラも驚いている。
「こんなに手のかからない赤ちゃんがいるかしら。ほんと、賢いわねえ」
カーラはセルジュをトイレに連れて行った。
「おしめを全然洗わないなんて……」
セルジュはトイレで支えてもらっておしっこをすると、再びおしめをされた。もうおしめなしでもいいくらい、セルジュはおしめを汚さない赤ん坊だった。
母親にとってはとっても楽な赤ん坊である。
「まだ５か月なのにねえ。セリアはいつまでおしめしてたっけ？ 忘れちゃったけど」
カーラは首をかしげていたが、おかしすぎるとは思っていないようだ。
だが、やはりこれには理由があった。
（不審がられてる……だけどもらしたくないんだからしょうがない）
赤ん坊のセルジュは思っていた。見かけは赤ん坊だったが、中身は違っていた。ザクートが強制的に転生させたため、セルジュの記憶はまったく洗われず、
記憶を完全に持ったまま転生してしまったのだ。なんとセルジュは赤ん坊でも中身は大人のままだったのである。
（赤ん坊らしくしなければ）とは思ったが、もらすという行為が自分でもいやなため、最近はトイレに連れていってもらうようになったのだった。
（早く大きくなりたい）
セルジュは切実にそう思っていた。せめて自分の足でトイレに行きたいものである。排泄を自分でするという行為がいかに大切なことなのか、セルジュは赤ん坊姿で
思い知っていたのだった。
（だけど大きくなれないから、しょうがない。今を謳歌しよう）
打って変わって気楽にそう思いつつ、セルジュはカーラの豊満な胸に顔を寄せていたのだった。
（セリアちゃんもいいけど、やっぱカーラさんがいい。年増の魅力が半端ない〜）
セルジュは第二の人生を楽しんでいるようである。
そしてもう一人、ハインリヒの子供として生まれたドルイドは、今２歳である。こちらは完全な転生なので、子供の時のドルイドに、昔の記憶などはなかった。
ときどき大人になっていることなども知らない。
この日ハインリヒがちょっとドルイドの様子を見に来てみると、ドルイドは寝室ででかい服を着て遊んでいた。
「何をしてるんだ？」
ドルイドはぶかぶかなシャツを着て袖をぶらぶらさせていた。
「これだれのだ？ ああ、ベッドの下にあったやつか」
以前ベッドの下に置かれていた箱が、ベッドの下から出されていた。その中に入っていた大人の服を着たようである。
「へへ、にあう？」
「でかすぎだろう。あと５０年経てば、ぴったりになるさ。ほら、脱げ」
「やだ」
ドルイドは脱ぐのを嫌がり、シャツの上から黒の上着も着ようとしていた。だが、うまく着られないようだ。
「きせてよー」
「しょうがないなあ」
ハインリヒはぶかぶかの上着を着せるのを手伝ってやった。当然、上着は床に半分以上ついている。
「これで歩くと危ないぞ」
「えへへ」
ドルイドは上着を着て満足気だった。
「ドルイド……私に似てどんないい男になるんだろうなあ……」
ハインリヒは自分に似た男を想像していた。自分と同等の力を持つのは無理かもしれないが、それなりに強い男になってほしいものである。
「２歳かあ。そろそろ何かやらせた方がいいのかな？」
などと思いつつドルイドを眺めて、大人の服が以前と違うことに気づいた。
「上着の形が違うような……わざわざ入れ替えてるのかな？」
箱の中をのぞくと、パンツとズボンが入っていた。パンツの色は青かった。
「いいパンツだな。もらっていいか？」
ハインリヒが冗談で聞くと、ドルイドは「だめ」と言って箱を閉めていた。
「なんでだ？」
「ぼくのだもん」
「僕にはでかいだろ？」
「いいの」
「そうか」
ちなみにこの服は朝取り換えられていたので、大人のドルイドが着た服ではなかった。
「ドルイド、結構話せるようになったなあ」
ハインリヒはドルイドの頭をなでて、メイドに告げて屋敷を去ったのだった。
昼食の時間、城の食堂にラギはこなかった。ラギは思いもかけない秘密を知ってしまい、とてもゆりの顔が見られなかったのだ。
この日は理由をつけて自分の部屋で昼食を食べていたのだった。
「あんな話を聞くなんてさあ、ほんとびっくりだよ。しかし世の中って不思議なことがあるよね。転生って本当にあるんだねえ」
ラギは自分の机で食事を食べながら、床でとぐろを巻いている毒蛇に話しかけていた。他に話ができる相手がいなかったのだ。
「あーハインリヒにばったり会ったらどうしよう。顔が見れない。でも真実を知ったハインリヒがどう思うか想像したらおかしいなあ。ぷぷぷ」
困った顔をしたと思ったら、ラギはその場面を想像して笑っていた。
「シス兄さんもよく一年以上も黙ってたよ。しかしこの話って本当なのかな？ 僕はでかいドルイドに会ってないし……今度来たら教えてもらおう。そうだよ。
兄さんだけ古代語を習うなんてずるいよ。僕だって一緒に勉強したいもん。次からは僕も一緒に勉強させてもらおう」
勉強だけは負けてられないと、ラギはそう決心したのだった。
昼食後、しばらくして、庭園にはカンカンカンカンと石をたたくような音が響いていた。
「王妃はまだ石を削ってるのか？」
聞いたのはハザークだった。塔にいても窓を開ければ音が聞こえるのである。
「もうちょっとで掘れるって言ってたよ」
ナナミが答えた。今ハザークの部屋には、ハザークの他にはナナミにロイ、床にはナナミの蛇のゴショクもいる。テーブルで絵を描いているのは人間になった
へびっちだった。ナナミとロイは古代語の勉強に来ているのである。ちなみにミシェイラは人形のヌーちゃんを抱っこして自分の部屋でお昼寝中だった。
「僕が掘りたいのになあ。僕が掘っちゃだめなんだってさ」」
ロイは残念そうだった。
ナナミはへびっちの側にいって絵をのぞいていた。へびっちは人を描いているようだ。
「誰を描いてるの？ 私も描いてよ」
へびっちは横に首を振っている。
「なによーけちね」
ナナミは古代語で『けちねー』と言っていた。
「ねーパパ、何かすごい魔法を教えてよ」
ロイがハザークに甘えるように言っていた。
「いやだ」
「なんでさーいっつもナナミにばっかり教えてずるい」
ハザークは横を向いていた。ナナミはたまにハザークから魔法を教えてもらったりもしているようだ。ロイはそれが羨ましいのである。
魔法といっても簡単なものだが。
「お前は悪用するからだめだ」
「ひどい。僕いい子なのに」
ナナミが古代語でいろいろ言っている。ロイの悪口だったが、ロイにはさっぱりわからなかった。
「じゃあ今日のお勉強をしましょうー」
「ちぇー」
ロイは渋い顔で本を広げていた。勉強に限ってはナナミの方が遥かに上をいっている。ロイはたまにそれが悔しくなるのだった。
二人は交互に古代語の文を読み、ロイばかりがハザークに訂正されていた。
「え？ なんで僕ばっかり？」
「お前の発音が悪すぎるからだろ」
「ナナミと変わらないと思うんだけどなあ」
「全然違うぞ」
３人がこのようなやりとりをしていると、へびっちは絵を描き終わったのか、絵を立てて満足気な顔で眺めていた。
子供が描いたような絵だが、長い白い髪の女性が一人いる。青いドレスを着ているようだ。下の方に黄色い蛇が３匹いた。
「あ、それアーねえ？」
絵に目を向けたロイが聞いた。
「アーねえを描いたんでしょ？」
銀髪っぽかったのでアナスターシャだと思ったようだ。
へびっちは横に首を振っていた。
「わかった。過去の女王様だ」
ナナミが言うと、へびっちはうなずいていた。女性の頭には黄色い小さな冠が乗っていたのである。
「やっぱり。へびっちはこの前女王様に会ったのよね。女王様のこと好きなの？」
ナナミが聞くと、へびっちがうなずいていた。
「年上好みか……」
ハザークはぼそりと言っていた。
へびっちは絵を持ったまま部屋を出て行ってしまった。相変わらず自由な蛇である。
その後も古代語の授業は進み、ナナミは「ロイがいると全然進まないからいや」と文句を言っていたのだった。
庭園では、蛇の目のゆりは作業着姿で石を掘り続けていた。そこにへびっちがやってきた。
「へびっち、なあに？」
ゆりは立ち上がって鉄のマスクを取り、へびっちが見せている絵を見た。
「わかった。過去の時代の女王様でしょ？ うまくかけてるわね」
ゆりがほめると、へびっちは嬉しそうな顔をしていた。
女王様の横には蛇が３匹いたが、ゆりはそれについては別になんとも思わなかった。
「へびっち、絵が上手になったわねえ」
ゆりがほめると、へびっちは絵を持って城の方に行った。
「そのうち話せればいいのにね」
ゆりはそうつぶやいてマスクをはめて、再び石を掘っていた。
「もうちょっとで宝石が取れるに違いないーーーーがんばれ私！」
蛇の目のゆりは自分で自分を応援していた。
そのころ、ラクシュミがいる王の間には、ヴィラがやってきていた。
「再検査、だめだったそうだな。残念だったな」
「はあ……彼女が落ち込んじゃって、困ってるんですよねえ」
ヴィラはため息交じりに言った。今年の妊娠検査で、ヴィラの彼女が一人再検査になったのだが、結局子供はできていなかったようである。
「まあできなかったものは仕方ないさ」
「そうなんですが……」
ヴィラには子供が一人いるが、なんとか次を作りたいものである。蛇の一族の男にとっては、子孫を増やすことが、重大な任務なのである。
それは今も変わらない。
「お前はまだ若い。まだいける」
「はあ……」
そこに人になったへびっちがやってきた。王の間は、一族の者がいるときは、蛇はフリーである。
へびっちは二人の側にやってきて、ラクシュミに頭をさげていた。
「へびっち、どうしたんだ？」
ラクシュミが聞くと、へびっちは絵を見せていた。ラクシュミもヴィラもその絵を眺めている。
「アナスターシャか？」
ラクシュミが聞いた。
「冠が乗ってるから、女王様ですよ」
ヴィラが言うと、へびっちはうなずいていた。
「ヴィラルージュ様か。そういえばへびっちは会ったことがあったな」
「女王様が恋しくなったんだ？」
ヴィラが聞くとへびっちはまたうなずいていた。
「ははは、また過去に行っちゃいそうですね」
「自由に行き来ができていいな」
へびっちはその場でどろんと蛇に変わり、服の中から出てきた緑の蛇は、ヴィラの足にひっついて消えてしまった。
「うわっ」
「今夜あたり過去に行くんじゃないか？」
ラクシュミが冗談交じりに言っていた。
「えー、本気かー？ へびっち」
ヴィラは自分の足に話しかけている。
「もしディランに会ったら、アナスターシャの件を聞いてみてくれ」
「わかりました。今夜はいい服で寝なきゃなあ……それでは失礼します」
ヴィラはへびっちが着ていた服と絵を拾い上げて王の間を去って行った。
「過去か……強くて若い女性を１０人ほど連れてきてくれたらなあ……」
ラクシュミはヴィラが去った後、ぼそりとつぶやいていたのだった。
つづく
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