第60話

蛇の目のゆりが以前掘りだした宝石が、ネックレスになって戻ってきた。楕円型の宝石は台座にはめ込まれて、

銀のチェーンがつけられていた。

「これでいつも一緒ね。うれしい？」

蛇の目のゆりは宝石に話しかけていた。宝石は様々な色に輝いている。きっと喜んでいるに違いない。


レーヌの肌に金色の蛇がひっついて、５日が経っていた。蛇は当然肌に引っ付いたままで、レーヌの左目の瞳だけは、

金色に輝いたままだった。子蛇のおかげでレーヌの魔法力があがり、そのせいで左目が金色に変わっているらしい。

「なんで左目だけ金色なんだろう？　両方なればいいのになあ」

ラギはことあるごとに首をかしげている。

「魔法力がなくなったら黒く戻るのかな？　レーヌ、魔法を使ってみて」

アナスターシャは無茶なことをいっていた。

「あー！　あー！」

そのレーヌは、最近ミルクを飲んでいる時、どうも機嫌が悪い。哺乳瓶についているゴムの吸い口が、

すいにくくなってしまったようである。

侍女が違う吸い口をつけてみたが、どうにもだめらしい。

「お母さん、神様の国で新しいのもらってきてよ」

ラギが言った。

「そういわれても、最近神の国にもいってないし……」

「吸い口だけ配達してもらえればいいのにねー」

アナスターシャが言った。

「まあ、そのうちミルクも卒業するでしょ」

「あー」

レーヌは眉間にしわを寄せながらミルクを飲んでいるので、ゆりはつい笑っていた。

「ごめん、笑うところじゃないけど……そのうちにいけたら頼んでみるね」

ゆりは指でレーヌの眉間のしわを元に戻していた。

「それにしてもさ、レーヌがこんなことになるなんて……未来はまったく予想不可能だね。次に何が起きるんだろう？」

ラギはワクワク顔である。

「私にも何か起こってすごくならないかな？　結界が楽につくれるようになるとか」

アナスターシャが自分の希望を言い、

「姉さんは自分の努力ですごくなりなよ」

とラギが突っ込んでいた。

一方、一人子蛇がいないと駄々をこねていたミシェイラは、少しは機嫌を直していた。兄や姉達は、なるべくミシェイラの前では

子蛇の話題を避けている。へびっちはミシェイラのためにすぐに過去に行くのかとゆりはびびっていたが、そうはならず、

へびっちはのんびり過ごしていた。どうやら、今回のことで相当疲れたらしい。


ゆりとしては、へびっちが女王をくどいたのか、女王の方から誘ったのか、そこが気になるところだった。

いきなり女王様と仲良くなるのだから、肝が太すぎる。

「でもさ、お母さんだって、過去にいたのが女王様じゃなくて王様だったら、仲良くなっちゃったんじゃない？」

ラギにはそう言われてしまった。

「え？　まさかあ。そんなことあるわけないでしょ」

「そうかな」

「いや、あるわけない……たぶん……」

ゆりは自分でも完璧にないとは言い切れないようである。（女王様でよかった）と思っていた。



今回の事件で一番驚いたであろうハインリヒは、覇気がない日々を過ごしている。

「まさか陛下とへびっちがそうなるなんて……いまだに信じられん、そう思うだろ？　ドルイド」

ハインリヒは子供のドルイドに話しかけていたが、子供のドルイドはきょとんとしていた。

「もー早く大人になって話し相手になってくれよ」

ハインリヒはぶつぶついっている。

「おとな？　なーに？　それ」

「ああ、ドルイドに愚痴りたいのに愚痴れない。早く大人になってパパを喜ばせてくれ」

ハインリヒは真面目に訴えていたが、

「パパへん。ばいばーい」

ハインリヒが訳が分からないことばかりいうので、ドルイドは部屋を出て行ってしまった。

「うー！　くそ、このやり場のない思いはどうすりゃいいんだ！」

ハインリヒはどうにも感情の持っていき場がないようである。



蛇の国の城では、毎度の騒動が笑いの種になっていたが、神の国では、ガーベラの様子がどうもおかしかった。

ここ最近、やる気がない日々が続いていたのである。

神気が衰えているわけではない。ただ、やる気がなく、誰かと仲良くなる気分でもなく、歌を歌ったり楽器を奏でたりする

気分でもないのである。ガーベラは毎日神殿でダラダラ過ごしている。

「最近じゃ珍しいよねー久しぶりだよね」

クーリーフンはやる気がないガーベラに言っていた。

「そうね。あの子と出会ってからは初めてかもね」

こういうことは別に珍しいことではない。神の生は長い。感情的に強いとはいっても、やる気がなくなるときだってあるのだ。

一万年以上、毎日浮かれて過ごしている神はいない。

ガーベラはゆりに体を貸す気分にすら今はなれなかった。相当気分が低下しているようだ。

何かきっかけがあったわけではない。

「命一杯歌ったらすっきりするかもよ？　外で歌おうよ」

「いやー」

「みんな心配してるよー」

「今は神殿で閉じこもっていたいの」

「もーいこうよー」

青年のクーリーフンは、長椅子でダラダラ寝転がっているガーベラの腕を引いていた。

「外に出れば、歌う気になるって」

「その気ないのにー」

クーリーフンはガーベラの体を起こし、ガーベラは頭をかいていた。

「なんか頭がかゆい」

クーリーフンは、ガーベラの長椅子の下に、大量の髪が落ちているのに気付いた。くるくるした巻き毛の、ガーベラの

長い髪が大量に床にあるではないか。

「え？　ええ？　お母さん？」

明らかに抜けた髪が落ちているので、クーリーフンは仰天していた。

「か、髪……髪が……」

「え？」

ガーベラはクーリーフンの視線の先を見て、床に自分の髪が落ちているのに気づいて、ぎょっと目を見開いていた。

「え？　どういうこと？」

頭をかいていた手には、大量の髪が巻き付いていた。

「あ、あわわわわわ」

クーリーフンは明らかに動揺していた。女神の美しい髪が抜けている。

しかも大量にごっそりと抜けているのである。

「…………」

「ああ、お母さん！」

ガーベラはそのまま失神してしまったのだった。



神の国で、ガーベラにそんな大変なことが起こっているともししらず、人間界のゆりは、へびっちが描いた絵を見て

頭を悩ませていた。

へびっちは一枚の絵に３人の女性を描いていた。左にいたのは女王様らしく、頭に冠を乗せている。真ん中の女性は青い髪の

女性で、過去の世界の女性らしい。驚くことに、へびっちは過去の世界で女王様以外にも彼女を作ってきたようである。

そして右にいる女性は、白い髪の女性だった。服装も白い。

「これって、もしかして、ハザーク様の侍女さんかな？」

ゆりが恐る恐る聞くと、へびっちはなんとうなずいている。

ゆりは口を開けたまま固まっていた。

どの侍女？　などと、怖くてゆりには聞けなかった。

「ハ、ハザーク様は怒ってなかった？」

へびっちはうなずいている。

ゆりとしては、世話になっている侍女に対して、なんとも複雑な気分である。

「それならいいけど、あのね、へびっち、一人の女性を一途に愛するってのも、素敵なことよ〜」

ゆりはつい言っていたが、（これほど説得力のない言葉もないな）と自分でも思ったのだった。


つづく

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