第70話
ゆりは気がつくと光が降り注ぐ世界にいた。
あれ？ 私いつの間にかガーベラになってる？
傷一つない手、桜色の綺麗な爪、豊満な胸、ガーベラのものである。
「ガーベラ」
「ガーベラ」
複数の声にゆりははっと前を見た。
「え！」
自分はガーベラの寝室にいたのだが、目の前には、ジンラ、ラクア、オルガ、サラディン、ハロルド、
ラーズが立っていたのである。よくみると、背が高い男たちの後ろにサントスもちらちらと見えている。
「ガーベラ！！」
全員に迫られて、ゆりはつい「うわー」と悲鳴をあげて、そこで目が覚めた。
夢である。
「あーびっくりしたー」
ゆりは自分の寝室で寝ていたのだった。身体のすぐ横にレーヌが寝ている。
レーヌは両手を握りしめたまま、幸せそうな顔で寝ていた。
「あれ？ どうやってきたんだろう？ あっちで寝ていたのに」
レーヌは昨晩ベビーベッドにいたはずなのだが、ゆりのベッドに移動していた。
誰かが運んだのか、自分で移動したのか、なぞである。
「うーん、女王様の子蛇の力かなあ。すごいなあ。あの女王様の子蛇だもんねえ。そりゃすごいに決まってる
よね」
女王には子蛇をもらったお礼を言うこともできない。へびっちとのいきさつを、いつか本人から直接
聞きたいものである。
へびっちについては、気になることはいろいろある。ハザークの侍女とのその後も気になるところである。
ハザークも、そこのところは侍女に詳しく聞いていないらしい。怖くて聞けないのかもしれない。
だが、今ゆりが一番気にしているのは、やはりガーベラの儀式だった。
儀式は進行中なのか、終わったのか、「変わってあげる」、という話はどうなるのか。
変わってくれなくてもいいけど、やっぱり巫女としては気になるのよね。別にガーベラの儀式が参考になるとか
じゃないけど……
いつ声がかかるのか、ゆりはどきどきして過ごしている。
そして神の国では、ガーベラの儀式は順調に進行中のようだった。ガーベラの神殿からは妖しい匂いがそこらじゅうに
あふれて、動物たちも興奮していたが、儀式に関係のない者達も興奮する始末だった。
そして愛の妖精シャリィに骨抜きにされた音楽の神ラメーンは、いまだ別人のごとくでれでれした顔で
シャリィに愛の歌をささやいている。
「あれはかなり不気味だ」
その様子をみたアリアスなどは言っていた。
「まさかラメーンのあんな顔を見る日がこようとは……」
ラメーンはどんな女神の誘惑にもなびかない神だっただけに、今回の変わりように周りは不気味がっている。
「でもあの子、大人になってかなり魅力的になったな」
緑の神ジュライが言った。二人はダーナの神殿にきているが、当のダーナは元気がない様子である。
「どうしたんだ？ ガーベラの花がもらえるってあんなに喜んでたのに」
ダーナが落ち込んだ様子だったので、アリアスが声をかけた。
「ラメーンってば、私にはちらりともそんな気にならなかったくせに」
ダーナはぶつぶつ言っていた。ラメーンがシャリィに骨抜きにされたのが気にくわないらしい。
ラメーンはガーベラにもダーナにも全く感心をもたない珍しい神だった。それが妖精にころっといってしまうとは。
「まあまあいいじゃないか。あの子もガーベラの影響を受けてるみたいだぞ。ラメーンがみるみるやつれてるからな」
アリアスは笑いながら言っていた。神は基本不死なので、ラメーンがやつれてもたいして心配していないらしい。
「こんなことなら、誰かをガーベラの恋人にしておくんだったわ。そうすれば、花がいっぱいもらえたのに〜〜〜
それが残念だわ」
ダーナは悔しそうに言っていた。
「誰か？」
「せっかく息子が７人も増えたのにー」
「いや、ガーベラもあの７人を恋人にはしないと思うが……」
虹の妖精達は、まだ大人というわけでもなかった。
「そんなに花がいっぱいほしいなら、私がいこーか？」
アリアスがちらりというと、ダーナはじろりとアリアスをにらんで、アリアスの手の甲をつねっていた。
「私の恋人までいったんじゃ、私の立場がないじゃないの。花が手に入ればいいってもんじゃないの」
「やっぱだめか」
「今回ヒルデリアは有利ね。うらやましいわ」
ダーナはぶつぶつ言っていた。
「あのサントスがとうとう女を抱いたとは……それも感慨深いな……」
ジュライがしみじみと言っていた。
「そうだな……まあ、我々は花をもらった後のダーナを楽しみにしておこう」
アリアスが言った。
「そうだな」
ジュライはダーナの頭をなでなでしていた。ダーナは美の女神として常に男たちの視線を引き付ける存在で
あらねばならなかった。長年恋人にしていれば、男たちの興味も薄れていくものである。今回のガーベラの儀式は、
男たちの気持ちを新たに引き付けるためにも、大事なものであった。
ガーベラの儀式も３日目である。最初に終わったサラディンはまだ衰弱した様子である。
意識があっても、大人になったルティアナの顔を見ては「ガーベラ」と言っているのだった。
ガーベラしか目にうつっていないようである。
こんな弱った父を見るのは、ルティアナも初めてだった。
「ガーベラ、昨晩はなんで来てくれなかったんだ？ 頼む、捨てないでくれ」
「捨てませんよ。大丈夫ですって」
ルティアナはかなりおかしくなっている父親をなだめていた。
「ほんとうか？」
「本当ですって」
「ガーベラ、愛してる」
「はいはい」
ルティアナは投げやり気味に言ってサラディンの手をなでている。
ああ、大人になっても遊びにいけない……お父さん、お母さんの儀式が終わったら元に戻るのかな？
元に戻らなかったら困るなあ……
サラディンはルティアナの手を握りしめていたので、ルティアナは側を離れられなかった。
儀式が終わった男たちは共通してサラディンのように衰弱した様子である。
きっと儀式で神の力を大量に吸い取られるせいだろうと皆思っていた。
そして男たちの頭の中は、ずっとガーベラのことでいっぱいである。
ガーベラがそばにいないといって時々泣くのだった。ラーズやジンラは自分の神殿で寝込んでいたが、
ラクアはカサンドラの神殿で寝ていた。娘二人がつきっきりである。
げっそりして寝込んだラクアを見たハロルドは、ちょっと腰がひけていた。
「頬がくぼんでるぞ。大丈夫か？」
「大丈夫ですよ」
とユリアナが変わりに答えていた。ラクアは寝ている。
「父様が寝込んだら、私が看病してあげるねー」
キュリアが明るく言っていた。
「今サントス様がいってるから、次よね」
「…………（正直逃げたい）」
恋人たちの中で一番最後に回されたハロルドは、皆のうわさを聞くにつけ、逃げたくてたまらなくなっていた。
しかもあのガキ、まだあそこをうろうろしてるし……
パティウスは、弱った男たちの姿みたさに、ガーベラの神殿の周りをうろついているのだった。
ハロルドとしては、弱った姿をあのパティウスにだけはみられたくない。
何かすごい用事とかないかな？ どうしても儀式に出られなくなるような用事……なんか来い！
心の中ではずっと願っていたのだが、すごい用事が舞い込むことはなかった。
くそー……
「サントス様よ！」
キュリアの声にハロルドがびくっと体を振るわせていた。とうとうサントスも終わったらしい。
神殿にパティウスとアマンザがサントスを運んできていた。サントスは自分では歩けない様子である。
「すぐベッドに！」
カサンドラが促して、サントスは寝室に連れられて行った。
「お父さんしっかりして！」
娘のネルも心配してついて行っている。
アマンザとパティウスが寝室から出てきた。
「いやーよかったよねーサントスも立派な男になって、次は、だんな、がんばっ！」
パティウスはにやにやしながらハロルドを肘でこづいていた。ハロルドはその肘をぺしっとたたいている。
「ちょっとしてから来てっていってましたよ」
アマンザが言った。
奥から泣き声が聞こえてきた。
ハロルドが気になり奥にいってみると、サントスがベッドに寝転んでおいおい泣いていた。
「ガーベラ、ありがとう。私なんかを恋人にしてくれて、ありがとう。ありがとう、うれしい。最高にうれしい」
サントスは興奮した様子で泣いていたので、
「わかった、わかった。穏やかに眠りなさい」
カサンドラがサントスを諭していた。
その様子をみたハロルドは元の部屋に戻った。
「アマンザ、ガーベラの様子は、かなり違うのか？」
「違いますよ。かなり強烈ですよ」
アマンザは普通の顔で言った。
「ど、ど、どう強烈なんだ？」
「それは会ってからのお楽しみですよ」
アマンザは微笑んでいる。
「案外性格悪いな。お前は見たのか？」
ハロルドはパティウスに聞いてみた。
「僕は中に入れてくれないんだ。ガーベラが見たかったんだけど、でも神殿の入口にいてもなんかむらむらっと
する気分だよ」
子供ながらにパティウスが言った。
「僕はお母さんの子供だからいいけど、パティウスは違うからだめみたい。へたしたら大人になっちゃうって」
「僕はなりたいよ。だってネルも大人になったんだし」
「お母さんの儀式が終わったら子供に戻るかもよ？」
キュリアがいうと、パティウスはうなっていた。
「それに大人になったらいたずらできないわよ」
「さすがに僕も、大人になったらいたずらなんかしないよ。でもそれじゃ、毎日何をすればいいんだろう？」
パティウスははて、と悩みだした。
「大人になったり子供になったりできればいいのにな」
「ばかなことを」
ハロルドは言いながらも緊張した様子である。
「父様、大丈夫、私がちゃんと看病するから！」
ハロルドの様子を察したキュリアが言った。どうやらハロルドを看病したくてしょうがないらしい。
「はあ……もういってもいいかな？ 早く終わらせたい」
「うらやましいなあー僕が連れて行こうか？」
パティウスがにやっとして言った。
「自分でいく」
「それじゃがんばってください」
「がんばってください！」
「ハロルド様、がんばってください！」
ラクアを看病していたユリアナとイオナもやってきて、ハロルドを応援していた。
「ああ、いってくる」
ハロルドはみんなの激励を受けながら、カサンドラの神殿を出たのだった。
そのころ、ゆりがいる人間界は昼過ぎだった。部屋にヴィラがやってきて、お茶を飲みながら話をしていた
所である。ゆりはレーヌが瞬間移動が使えるかもしれない、ということをヴィラに話していたのだった。
「本当に自分で移動したのならすごいですね」
「すごいわよね。王様なんて大喜びしちゃってね」
「そうでしょうね」
その時、脳裏に声が聞こえてきたのだった。
『あなたの出番よ〜来て頂戴♪』
ガーベラの声である。
心が引っ張られる感覚を感じたゆりはとっさに、
「私、いまから寝る。あとはよろしく」
とだけヴィラにいい、テーブルに伏してしまった。
「ええ？」
いきなり言われたヴィラはきょとんとしていたが、机に伏したゆりの側にいくと、ゆりは確かに寝ているようである。
「いきなりだなあ。まあいいか」
ゆりのこんなこともそう珍しくないと思ったのか、ヴィラはゆりの体を寝室に運んだのだった。
ゆりはとうとう神の国にやってきた。
「きたー！ あっ！ 花の模様が増えてる！」
ガーベラは今、胸元が開いて袖がないドレスを着ていた。真っ白な生地は薄く、肌も透けそうなほどである。
腕や胸元、ドレスをめくると足にも、ピンク色の花の模様が浮かんでいた。
「おーおーすごいわ！ 鏡、鏡！」
ゆりは興奮しながらも寝室に鏡がなかったので別の部屋に移動した。いつもの広い部屋に行くと
クーリーフンがいた。
「あれ？ きたんだ？」
クーリーフンはすぐゆりだと気づいたようだ。
「そうなの。鏡、鏡はどこ？」
「そこにあるよ」
クーリーフンが棚の上の鏡をさした。ゆりは自分の顔を見て驚いていた。
「髪が！ 髪がまっすぐになってる！！！」
ガーベラの髪はダーナのようにまっすぐだった。前髪以外はお尻まである。
これだけでもいつもとかなり印象が違うのだが、全体的にまぶしいくらいに光り輝いていた。
胸も、こころなしかさらに大きくなっているような気がする。
「なんかむらむらする！ ガーベラに抱き着きたい！！」
ゆりは自分でそういう衝動にかられていた。
「あーもう！ なんで私がガーベラなの！ 抱き着けないー！ しょうがない。自分で抱きしめよう」
自分で自分の身体に腕を回していたら、クーリーフンがぷっと笑っていた。
「なんか心境の変化は他にない？」
「心境の変化？ そうね。『全ての男は私のとりこになるのよ。ほーほほほほ！』って感じ？」
ゆりは高らかに笑いながらいってみた。
「おかしいかしら？」
「いや、それであってるよ」
「あってるんだ……」
「ガーベラ」
他の声が聞こえてきて、二人は顔を向けた。入口に立っていたのはハロルドである。
「ハロルド、どう？ この髪型」
ハロルドはよろよろとゆりに近づいてきて、目の前で膝をついていた。
「美しい。なんて美しいんだ……」
ハロルドはすでにガーベラの美しさのとりこになっているらしい。
「あらそう？」
ゆりは無意識のうちに体をちょっとひねってハロルドにウインクしていた。
「あ〜〜〜〜〜ガーベラ〜〜〜〜」
ハロルドはゆりの足に縋り付いている。なかなか珍しい光景だった。
「じゃあ奥でがんばってねー」
クーリーフンが冷静な声をかけた。
「ガーベラ、私の心も体も、全部、全部お前のものだ。全部やる。もうやる」
ハロルドはそういいながらガーベラの体を抱き上げて寝室に向かったのだった。
まさかハロルドのこんな顔が見られるなんて……
ハロルドのでれでれぶりを見て、ゆりはつい笑いがこみあげていた。
「ガーベラ！！」
ハロルドはさっそく服を全部脱いで、ガーベラのドレスも脱がしにかかっていた。
「まった、まった、せっかくだから、私に愛の歌でも歌ってちょうだい。ね、お願い」
ゆりはこの際と、ちょっと遊ぶことにした。
「愛の歌？ いいとも。『あいしてる〜〜〜ラララ〜ン♪ 私の〜すべては〜お前にささげる〜ラララ〜ン』」
ハロルドはまったく躊躇なく歌いだした。かなり低い声である。
ハロルドがガーベラの胸元をはだけさせて、豊満な胸があらわになった。
「おおー」
「うわー」
ハロルドに続き、ゆりはつい自分でも感動の声をあげていた。
白い肌のあちこちには薄いピンク色の折り重なった花の模様が浮かんでいた。豊満な二つの胸にも。
薄いピンク色の頂もいつにもまして美しい。女のゆりでさえうっとりしてしまうほどである。
「美しい……」
「きれいねー」
「自分でいうか？」
「だって綺麗だもん」
「ガーベラ〜愛してる〜〜」
ハロルドは女神の胸に顔を寄せた。手で柔らかい肌の感触を楽しみ、胸に唇を寄せるだけで、もう
うっとりとした表情である。
「ああ！ すごく興奮する！」
叫んだのはゆりだった。
「胸に触れるだけで逝きそうだ」
「だめだめ中に入ってこなきゃ」
「わかってる。今から入る。入っていいか」
「いらして〜」
ゆりは足をハロルドの腰にからめていた。女神の服は胸と下半身がはだけた状態になっている。
ハロルドはゆりの太ももをなでて、自分の体を女神の体の中へと差し入れた。
「し、死ぬ……よすぎて死ぬ！」
「大丈夫、神は死なないの」
「死ぬ……」
今まで経験したことのないほどの気持ちよさだった。身体が股間から溶けていきそうなほどである。
一方ゆりの方も、かなり興奮しまくっている。部屋の中にガーベラの匂いが充満し、ゆり自身その匂いにもう
めろめろだった。いつもと違う何かがゆりに乗り移っているかのようでもある。
「なんなんだ、この……身体は……やばい……」
「まだまだがんばってねー」
ゆりはハロルドの背中に腕を回して体を寄せ、ハロルドに口づけた。ハロルドの目はもううつろである。
「あああ……」
うめきとともに、ハロルドは体を離した。一度しただけでかなりの疲労感である。前回した時よりも
疲労度は十倍は上である。
ゆりは自分の右腕にピンクの花がうっすらと浮かぶのに気付いた。
「ああ。もう、もう……ヘロヘロだ……なんなんだこれは……」
「お花をもっと増やしたいな♪ もっともっとがんばってね。ハロルド」
ゆりはベッドにへたっているハロルドを上に向かせて、その上に乗っていた。
「ガーベラ〜〜〜〜愛してる〜〜〜〜」
ハロルドはやけくそのような声をあげていた。
「もっともっと愛し合いましょう〜！！」
ゆりはハロルドの下半身を撫でて半ば強引に興奮させて、その上に乗っていた。
「気持ちいい、よすぎて死ぬ。本当に死ぬかも」
「神様は死なないってば。私も気持ちいい。あなたの神気が花になるの。もっといっぱい花を咲かせてね」
ゆりは何かの力に揺り動かされるように、ハロルドを攻め立てていた。
自分の意思なのか、誰かの意思なのかももうわからないままに。
やがて、ハロルドはかなりげっそりやつれてきた。身体が交わっている瞬間、かなりの神気が女神の方に
流れ込んでいた。二人の神気が交じり、それが花となって表れるのである。
「左腕に花がないわ。左腕にもほしい。ハロルド」
ハロルドはすでに口をちょっとあけたまま気絶状態だった。
「うわっやばっ、やりすぎちゃった？ 愛してるから許してね」
「…………」
「ごめんね。ハロルド」
ゆりはハロルドと唇を合わせて、服を着てクーリーフンを呼びに行ったのだった。
そのころ雲の上の神殿では、グレンが自分の娘ライサに会ってびくっとしていた。
何度見ても大人になったライサになれないようである。ライサは今のところ誰かに何かされることもないようだ。
腰の短剣は一本に減っていた。
「ねえお父さん、ガーベラ様の儀式、本当にお父さんはいかないの？」
アシュランの間の裏で、ライサはグレンに聞いていた。
「私はいかない」
「どうして？」
「何度も言ったが、私はガーベラ様の恋人ではない」
「私はガーベラ様の娘でしょ？」
「そういうことになっているのかもしれないが、私は恋人ではないんだ」
「ふーん？」
ライサにとっては何度聞いてもよくわからない話である。
「グレン様、ヒルデリア様がお呼びですよ」
妖精から声がかかり、グレンはヒルデリアに会いに行った。
ヒルデリアは広間ではなく、狭い部屋で待っていた。
「呼ばれましたか？」
「ええ、ねえ、グレン、ガーベラの儀式はどうするの？ 出ないの？」
なんとヒルデリアまでもがその話をしてきたのだった。
「私はガーベラ様の恋人ではありませんから」
「この際参加すればいいじゃないの。この儀式は、次は数千年後、今参加しなければ、後悔するかも
しれないわよ？」
「はあ……あの、ヒルデリア様……」
「ずばりいうと、もっと花がほしいの。だから参加しなさい」
ヒルデリアはまっすぐにグレンを見て言った。
「え？」
グレンがたじろいでいた。
「いえ、しかし……」
「アシュランを気にしてるんでしょう？ 大丈夫よ。この儀式は、神の国のためのものなんだから。
グレンが参加したって怒りはしないわよ」
「いえーしかし……」
グレンは二歩ほど後ろに下がっていた。
「そうだ。ガーベラ様の恋人でなければ神殿に入れませんし」
「大丈夫。私が入れてあげます」
ヒルデリアは素早くグレンに近づいていた。そしてグレンの腕に触れた。
「え！」
「がんばってらっしゃい！」
「ええええーー！！！」
グレンはその場から姿を消したのだった。
グレンがガーベラの神殿にやってきたのは、まさにクーリーフンがぐったりしたハロルドを寝室から
運んでいる時だった。
「うわっ！」
グレンは驚きのまま後ずさり、柱に背中をぶつけていた。
「あれ？ きたんだ」
クーリーフンはグレンに気づくとそう言った。
「いえ、私は、私はそういうつもりじゃないんです。違うんです」
グレンはあわてて否定している。そこにゆりが寝室から出てきた。
「あれ？ グレン」
女神を見たグレンは、一瞬で呆けたような顔になってしまった。
「お母さん、後はよろしく」
「はーい」
クーリーフンはハロルドを連れて出て行き、部屋にはグレンとゆりだけになった。
「グレンどう？ まっすぐな髪も似合うでしょ？」
ゆりはグレンに近づいてくるりと回っていた。
グレンは口をぽかんと開けたままである。もうすでに、グレンの体内には、ガーベラの匂いが頭の中まで
入り込んでいるかのようだった。
「今日は逃げないの？ 今日の私の方がやばいでしょ？」
ゆりは顔を近づけて言った。
「…………」
「グレンってば。でもちょうどよかったわ。見て、ここにも花がほしいって思ってたの」
ゆりは左腕を折り曲げてみせていた。
「だから来て」
ゆりがグレンの腕を引っ張ると、グレンは素直についてきた。
今のゆりは、この体にもっと花を増やしたいという思いでいっぱいだった。
それが自分の使命であるかのように感じていたのである。
羞恥心なんて言葉はどこかにぽーんと飛んでしまっている。
奥の寝室に来ると、ようやくグレンが口を開いた。
「ガーベラ様……私などがガーベラ様を抱いても、本当にいいんですか？」
「いい」
ゆりはずばり言った。
「あなたのこと結構好きだし、あなたは私のこと好き？」
「愛してます。愛してます。ガーベラ様」
グレンはその場に膝を折り、ガーベラの足にすがっていた。
「夢のようです。ガーベラ様」
「じゃあ服を脱いできてちょうだい」
「はい」
グレンはもう頭の中はガーベラのことでいっぱいなのか、さっさと服を脱いで裸になっていた。
ゆりも自分から服を脱いでいる。女神の肌がすべてあらわになると、グレンの瞳から涙が流れていた。
「ガーベラ様、美しすぎる・・・・・」
「来て、グレン」
「ああ、まずはじっくりとあなたの肌に触れさせてください」
グレンはベッドにあがると、豊満な胸に触れて、泣いていた。
「美しい。美しすぎるーーーーなんて柔らかくて、美しい……」
グレンは女神の胸を撫でまわした後、ウエストに触れて、女神の太ももに触れた。
「ああ、どこもかしこも美しい。ガーベラ様にこんなことができるなんて……」
グレンは女神の足を曲げさせて、女神の下半身へと身をうずめた。そして陰部を指でなで、顔を寄せた。
そこからはすでに蜜が滴っている。グレンは舌で蜜をなめると、恍惚の表情を浮かべていた。
「ああ、ガーベラ様、おいしいですよ。すごく……それに、すごくきれいだ……」
グレンが女神の下半身をじっくり眺めては舌での愛撫を繰り返していた。
ゆりの興奮もさらに高まっている。
「グレン、もう来て」
「ガーベラ様……この中に入るなんて……私にはやはり恐れ多くて……でももう我慢できない。入りたい
すごく入りたい」
「きてきて」
グレンは身体をあげて、女神の体に自らの体を入れようとしたのだが、その寸前で達してしまっていた。
「ああ、もう、あなたの匂いをかぐだけで……」
「がんばって、グレン！」
グレンは女神の肌に触れているだけで再び興奮し、ついに女神の身体の中へと入ることができたのだった。
「あ……ああ……ああ……」
グレンは恍惚というよりは、死にそうな声をあげていた。すでに目はうつろである。
「気持ちよすぎる……」
「まだよ。がんばって動いて」
「ガーベラ様、もう、もう、今死にたい。この幸せな時に死んでしまいたい！」
「神様は死なないのよー」
「ガーベラ様！」
グレンは涙ながらにゆりを抱き、果てた。ゆりは自分の肌をあちこち見た。すると、右のふくらはぎに新たに
ピンク色の花が浮かんだのを発見した。
「腕じゃなかった。残念。まだがんばってね」
「ガーベラ様……愛してます……」
ゆりはグレンの上に乗っていた。豊満な胸をグレンの胸におしつけて、口づけている。
グレンの体が興奮状態になると、ゆりは自分で身を沈めていた。
「ああ……グレン……」
「ガーベラ様……」
グレンはほとんどなされるがままだった。この上なく至福な時だったが、神気は女神の体へと移動し、
体力も気力も消耗していた。
それでもグレンは幸せそうだった。
グレンが達すると、ゆりは体を離した。ようやく、女神の左腕にピンクの花が浮かんだのだった。
「やったわ。ありがとう。グレン」
ゆりはもうぐったりして横たわっているグレンに抱き着いていた。グレンの頬はげっそりしている。
グレンはハロルドのように神気が高くないので、もうほとんど神気が消えかかっていた。
「クーリーフンを呼んでくるから待っててね」
ゆりはクーリーフンを呼びに行き、クーリーフンはグレンの服を着せて、グレンを連れて行ったのだった。
「満足」
ゆりは満足したところで目を覚ました。自分の部屋の寝室である。部屋の中は薄暗かった。
「あれ？ 私どうしたんだっけ？ なんか変な夢みちゃったわ」
ゆりは神の国でのことが夢かと思っていた。
「王妃様？ 気づかれましたか？」
ベッドの横に侍女のミラがいた。椅子に座ってつい寝ていたミラは、ゆりの声で目を覚ましていた。
「いきなり眠られたようで、びっくりしましたよ」
「ごめーん。ちょっと、その、長い夢を見たみたい」
「お腹がすいたのではないですか？ 何か用意しますね」
「ありがとう」
ミラは寝室から出て行った。
「夢……」
ゆりはぽつんとつぶやいていた。
「夢、よね。あれは。まさか私があんなことするわけないしね」
ゆりは引きつった笑いを浮かべていたのだった。
「でもなんかいい匂いがする？」
ゆりはくんくんあたりの匂いをかいだ。甘い花の匂いである。あたりにポプリのようなものはない。
「私の体からしてる！？」
ベッドの上に、大きな花びらが出現していた。
「嘘だー！！！」
ゆりは絶叫していた。
神の国では、クーリーフンがグレンを運んでガーベラの神殿に戻ってきた。
ガーベラは神殿で裸でいた。そして自分の体を眺めているようである。
「ハロルド、随分がんばったんじゃない？」
「あーあのさ、実はグレンもきたんだ」
「グレン？」
ガーベラは服を着ながら聞いた。
「うん、グレン」
「そう。あの子グレンが好きだったものねえ。グレン、神気が弱いから、死にかけてるんじゃない？」
「うん、まあね、でも幸せそうだったからいいんじゃない？」
クーリーフンは気楽に言っていた。
「でも、これで儀式は終わりだよね。明日になれば花が──」
「まだ終わってないわよ」
ガーベラがクーリーフンの言葉を遮った。
「まだ男が残ってる」
「ん？」
クーリーフンは頭の中にガーベラの恋人たちの顔を思い浮かべていた。
「いや、全員すんだよ」
「まだよ。まだまだ。ほっほほほほほ！」
ガーベラは高らかに笑いだしたのだった。
人間界では、ゆりは明らかに怪しげな匂いを発していたので、ラクシュミには伝言を頼んで会わないことにした。
夕食を食べて湯あみをし、再びベッドの上にいる。
レーヌは今日は侍女が見てくれていた。
ゆりはベッドの上で大きなため息をついていた。
「あれが夢じゃないなんて……なんかハロルドとグレンにすごいことしちゃったような……
自分が信じられない。あのガーベラ、すごかったなあ……男殺し、これだ」
ゆりは一人でぶつぶつ言っている。
あのガーベラはまさに『男殺し』という異名が合う。などと思っていたら、強烈にいい匂いが漂ってきた。
きょろきょろ周りをみると、なんとベッドの横にストレートの髪のガーベラが立っている。
「ひい！！！」
ゆりはベッドから転げ落ちそうなほど驚いていた。
「さあ、起きなさい。これから恋人たちに会いにいくわよ」
「え？」
「私の儀式には、恋人は全員参加！ 例外は子供だけよ」
ガーベラは腰に手を当てて言っていた。
「はあ？」
「えーと、王様にハザーク様、ミカエル、フリット、ジュノー、ヴィラ、ミルキダス、シャナーン、イシュタールに
ハインリヒ、全部で10人ね。一人ずつ回ると大変だからやっぱり……」
ゆりはガーベラの言葉に背筋が寒くなるのを感じていた。
「ちょっと待って、恋人って、私の恋人？ 人間の？」
「そうよ。当たり前でしょ。あなたの恋人は、私の恋人」
「はあ……でも……」
「恋人は全員参加なの」
ガーベラは上からゆりを見下ろしている。いつもよりも、かなりの凄みがあった。
このガーベラに逆らうのはかなり難しそうである。
ゆりは青ざめながら、（王様ごめん、かなりやばいことになるかもしれない……）とラクシュミに謝っていたのだった。
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