第71話
ゆりはすっかり目の前に現れたガーベラに圧倒されていた。薄い生地に透けて、身体のラインがはっきりと見える。
なんというプロポーションだろうか。豊満な胸といいくびれたウエストといい、すらりとした長い脚といい、
女から見てもうっとりである。肌に浮かぶ花の模様も魅惑的である。
しかも、今のガーベラは他人を虜にするオーラを出しまくっていた。
人間の男ならば、今のガーベラを一目みて、興奮の絶頂に達するかもしれない。
「あの、と、とりあえず、抱き着かせて。お願い」
ゆりは両手を出していた。
ゆりもかなりメロメロにされているらしい。
「女はだめー」
「えーいけずー」
ゆりは唇をとがらせていた
「夜は短いのよ。今夜は濃厚な夜にしましょう」
光り輝くガーベラは、青い瞳をゆりに向けてびしっと言った。
「いえ、私はどちらかというと、薄い方がいいんですけど……彼らまで参加させなくても……」
「グレンがよくてミカエルはだめってなんでよ」
ガーベラの言葉にゆりはぎくりとした。
「グレンがよくてヴィラはだめってなんでよ」
ゆりの顔は引きつりまくっている。
「グレンはよくてなんでジュノーは……」
「もういいですって。グレンと比べなくてもいいじゃないですか」
「だって、グレンよりもミカエル達の方がずっとかわいいじゃないの。だから参加させてあげましょうよ」
「でも……あれ？ ガーベラの花は、神気で出るんでしょう？ 彼らは神気、ないですよ？」
ゆりがそうだと思って言った。
「花の問題じゃないの。全員と愛し合いたいの」
「でも……今のガーベラとしたら、彼ら下手したら死んでしまいます……けど……」
「そんなことはわかってるわよ。だから、あなたがするの。私はあなたの中に入る。つまり融合するってこと」
「は？」
「というわけで、こうする」
ガーベラが右手をぱっとあげると、周りにゆりがいっぱい現れた。
「え？」
「きゃ？」
「わたしが！？」
「いっぱい！」
一斉にしゃべりだしたので、ガーベラが「しゃべるのは一人だけにして。はい、あなた」
とベッドの上に座っているゆりを指していた。他のゆりたちはベッドの周りに立っている。全部で１０人、
半分は蛇の目を持つゆりだった。全員白いゆったりとしたネグリジェを着ている。
「私がいっぱいいる！ なんか怖い！」
ベッドの上にいるゆりが言った。
「一晩で１０人も回るのは無理だしょ？ だから一人ずついきましょう。私も入るわね」
ガーベラの姿が消えた。
「え？ ええ？」
黒目のゆりたちはきょろきょろしている。
「で、でも、みんなとしちゃったら、私の次の儀式はどうなるの？」
ベッドの上にいるゆりが言った。
「今回限りってことにしとけばいいじゃない」
あっさり言ったのは、立っていた蛇の目のゆりである。
「ええーそんなことできないでしょ」
「大丈夫だって。とりあえず、私は、ジュノー、いきまーす！」
蛇の目のゆりが手をあげていた。
「私は、フリット」
「じゃあ私はミルキダス」
「私はシャナーンをもーらい♪」
「私は、イシュタール♪」
蛇の目のゆりたちは、むしろうれしそうにさっさと決めてしまったので、黒目のゆりたちは驚いていた。
「ええー！」
「ちょ、ちょっと！」
「もっと話を！」
「じゃあいってきまーす」
「ばいばーい」
そして蛇の目のゆりたちは黒目のゆりたちが止める間もなく、瞬間移動で消えてしまった。
残された黒目のゆりたちは、顔を見回していた。
「どうする？」
「私、王様」
一人のゆりが言った。
「ええ？」
「だって、妻だから夫を一番に選ばないと」
そのゆりはもっともらしいことを言っている。
「じゃあ私はハザーク様」
もう一人のゆりが言った。
「全然冒険心がないわね」
と他のゆり。
「じゃあさよなら」
「私も」
ラクシュミとハザークを選んだ二人は消えてしまった。
「あー！」
「……ヴィラ選んでいい？」
一人のゆりが言い、他の二人が「「ずるい！」」と言い出した。
「別にずるくないじゃん」
「ここはじゃんけんにしよう。負けた人がミカエルで」
「なんでミカエルを邪険に？」
「なんとなく怖いじゃない。じゃああなたがミカエルにいく？」
「うっ……いいわよ。行こうじゃないの！」
「じゃあ私はヴィラで、あなたはハインリヒってことで」
結局ベッドの上にいたゆりはミカエルに決まっていた。
「まあいいけど、なんか自分が自分と話しているのを見るのは変な感じだなあ」
つぶやいている間に、二人のゆりは消えていた。今部屋にいるのは黒目のゆり一人である。
「……このままここにいたらどうなるんだろう……」
『さっさと行くのよ！』
「はいーーーー！」
最後のゆりも消えていた。
こうしてゆりにとっては、今までで最高に濃厚な恋人たちとの夜が始まったのだった。
蛇の目のゆりたちは、ウキウキ気分で男たちの屋敷にひとっとびしていた。
今日を逃したら一生男たちと最後まで愛し合うことはないかもしれないのである。もともと男たちとそうなっても
いいと思っていただけに、かなり乗り気だった。
「ジュノー♪」
ゆりはジュノーの寝室に来ていたのだが、ベッドの上には誰もいなかった。
「いないわ。ジュノー、どこにいるの？」
蛇の目のゆりが思念を送ると、
─王妃ですか？ 酒飲の間にいますよ。どうしたんですか？
と返答があった。
ゆりはすぐ移動していた。
酒飲の間にはジュノーの他にヴィラもいて、二人とも寝間着姿で裸足の蛇の目のゆりを見て驚いていた。
「王妃！」
「夜中に城を抜け出して何をしてるんですか？」
「今夜は特別なのよ。さあ、おひらきにして、ヴィラは自分の屋敷に帰って」
ジュノーはぽかんとし、ヴィラは「あなたも帰ってください」と言っていた。
「今夜は特別だっていったでしょ」
「じゃあ王に聞いてもいいんですか？」
「王様は今、お楽しみ中だから邪魔しないで、ヴィラ、早く帰らないと、別の私が困るわよ」
「言ってることがさっぱりわかりません」
「とにかく、自分の寝室に行って」
ゆりはジュノーの頬を撫でながら言っている。
ヴィラは首をかしげながらも、移動した。
「王妃、一体どういうことなんですか？」
ジュノーが聞いた。
「なんでもないの。あ、そうだ。ここでやるのもいいかもー」
ゆりは服を脱ぎだした。
「お、王妃？」
「長かったわね。ジュノー。今夜はあなたの愛を身体じゅうで受け止めてあげる」
「はあ？」
真っ裸になった蛇の目のゆりは、身体を寄せてジュノーにキスした。
「王妃、本当にどうしちゃったんですか？」
「どうもしない。ちょっとこっちに体を向けて」
ゆりはジュノーを椅子ごと横にむけさせて、ジュノーの膝の上に裸のまままたがった。
「あれ？ 王妃の胸、なんか大きくなってないです？」
ジュノーは目の前にどんとあるふくらみを見て言った。
「そう？ ガーベラの影響かも」
「ガーベラ？」
「触って」
ゆりはジュノーの手を自分の胸にあてた。ジュノーはゆりの胸をなでながら、ゆりと唇を合わせた。
「王妃……今日の王妃は、なんというか、怖くて素敵です」
「うん」
口づけしているとかしゃかしゃと音がする、と思ったら、ゆりの両手がジュノーのズボンのベルトを外していた。
「ズボンをおろして」
「はあ」
ジュノーは腰を浮かせてズボンをおろした。
ゆりはさらにジュノーの下着を下におろしていた。
ジュノーの体はすでに興奮状態になっていた。
「王妃の裸を見たらもう……」
「ジュノー、よーく感じてね」
「はい？」
ゆりはジュノーの興奮した下半身を手で支えながら、その上にまたがり、
ゆっくりと自分の身体の中に受け入れていった。
「え、 えええ えええええーお、お、おーひ！！ おーひ！」
酒飲の間には、ジュノーの叫びが響いていたのだった。
一方ヴィラは、言われた通りに自分の屋敷の寝室にやってきた。
「なんなんだ？ わけがわからない」
蛇の目のゆりが寝室に行けというから来てみたが、寝室には誰もいなかった。
「うーん……」
─ジュノー、王妃は何をしてる？
ヴィラはジュノーに思念を送ったが、ジュノーから返答はなかった。
ヴィラは頭をかき、どうしたものかと悩んでいた。
まあ、ジュノーが王妃を城に送るだろうからいいか……
その時とんとんと背中をたたかれて、ヴィラが振り向くと、そこには黒目のゆりが立っていた。
「うわっ！」
ヴィラは驚きのあまりのけぞっていた。
「王妃、さっきジュノーのところにいたでしょう？」
「ジュノーのところにはいってないわよ」
黒目のゆりが言った。
「さっき、もう一人の王妃がいたんですよ。ここにきて変わったんですか？」
黒目のゆりは瞬間移動はできないので、ヴィラはそう思った。
「違うの。まあ細かいことは気にしない気にしない。それよりヴィラ、あなたと出会ってもう何十年経つのかしらねー。
あれからヴィラはあんまり変わらないわね。いつも私のことを心配してくれて、頼りになって、私、ヴィラのことが
本当に好きだな」
ゆりはキラキラした瞳でヴィラを見ている。ヴィラは警戒している顔つきである。
「王妃、どうしたんですか？ 変ですよ」
「そうよ。今の私は、変っていうか、これも儀式の前兆だと思ってくれていいんだけど」
「儀式？」
「そう、世にもすごい方が下りちゃったの。だから二人で儀式をしましょう」
ゆりはヴィラの右手を握りしめた。
「どうして二人なんですか？」
「二人っきりで、じっくり、薄い、いや濃厚なひと時を過ごすの。いらっしゃーい」
ゆりはベッドの方に引っ張った。
「今日はどんな蛇様が下りてきたんですか？」
ヴィラはゆりを観察しながら聞いた。
「蛇様じゃないわよ。ガーベラ様よ」
「は？」
「というわけで、早く来て」
ゆりは一人でベッドの上に上がっていた。
「他の男たちはどうするんですか？」
「大丈夫、みんなそれぞれと仲良くなるから」
「はあ」
ヴィラはさっぱりわからないまま、恐る恐るベッドの上にあがり、正座していた。
ゆりが自分で服を全部脱ぐと、ヴィラはゆりの胸を見て「あれ？」と声をあげた。
「なんか、胸が大きくなってないですか？」
「本当だ。ガーベラの影響だわ」
ゆりも驚いている。
「本当にガーベラ様が関係あるんですか？」
「あるわよ。希望するなら途中で変わる？」
「え？ いえ……」
ゆりはヴィラに抱き着いてキスしていた。
王妃が変すぎる
─ジュノー、王妃が、なんか変だぞ？
ジュノーからはまったく返答がない。
「もーヴィラってば、早くその気になって！」
ゆりはその気モードに入れないヴィラに口をとがらせている。
「王妃がおかしいからですよ」
「もーしょうがないわねー」
ゆりがふっと息をはいた。甘い花の匂いがあたりに漂い、ヴィラの目がうつろになってきた。
「愛し合いましょう」
「お、王妃……」
二人はひしっと抱きしめ合ったのだった。
一方フリットは、自分のところにきたゆりを結構簡単に受け入れていた。
（王と何かあったんだろうか？）と内心思っている。
ゆりのことが気がかりだったのか、一応蛇の目のゆりを抱いたものの、心半分といった感じだった。
さすが今までゆりに我慢してきたことはある。皆性欲の抑制力も強いのかもしれない。
「もーフリットってば、あんまりよくなかったの？」
蛇の目のゆりは膨れていた。
「まさか、想像以上にすごくよかったですよ」
「そお？ でも変化もしてないしー」
「王妃を心配する気持ちが強くて、一体何があったんですか？」
フリットはゆりの髪をなでながら聞いた。
ゆりがこんな行動を起こすなんて、何かないと考えられないと思ったのだろう。
ゆりはフリットの首に腕を回して唇を寄せた。
「別に悲しいことなんてないのよ。ただ今夜は特別なの。一度くらい、命一杯愛し合う夜があってもいいでしょ？」
ゆりはすぐ近くで言っている。
「今夜だけなんですか？」
「そうよ」
「それはそれで残念ですが……」
「だから今夜は好きにしてー」
蛇の目のゆりはフリットにぎゅっと抱き着いた。
酒飲の間で抱き合っていたゆりとジュノーは寝室に移動していた。
ジュノーの脳裏には大きな疑問が多数浮かんでいたが、ゆりが興奮させてばかりなので考える暇がなかった。
興奮が続いてジュノーは息絶え絶えである。その瞳は変化し、身体には蛇紋も現れている。
そしてゆりの胸元には、うっすらとピンクの花の模様が一つ浮かんでいた。
「ああ、王妃、王妃、王妃の体、気持ちよすぎて、もう……」
「あーもう、我慢できない！」
ゆりが突然叫びだし、ジュノーの体を抱きしめていた。
「え……」
ジュノーは腕の中に、ゆりに重なって違う女性がいるのを見た。青い瞳、長い金髪の、美しい女性である。
「え……ええええ？」
「ジュノー愛してる」
ガーベラはつながったままジュノーに熱烈なキスをしていた。
ジュノーはあまりの気持ちよさに腰砕けになり、そのまま失神してしまった。
「あージュノー！！」
ゆりはあわてて体を離してジュノーの頬をぺちぺちぺちたたいていたのだった。
シャナーンもフリットと同じでわりとあっさりとゆりを受け入れていた。こちらはうれしすぎて感動していると
いった様子である。
そしてミルキダスも涙を流し、「王妃、私は王妃に出会えて本当によかったです」と蛇の目のゆりにお礼を言っていた。
ミルキダスは、ゆりがこんなことをするのは、自分が近いうちに死ぬせいだろうと勘違いし、泣きながらゆりを
抱きしめていた。
そしてイシュタールは、蛇の目のゆりから逃げていた。
真面目なイシュタールは、「自分だけがそうするわけにはいきません！」と真面目に断っていたのである。
「イシュタールったら、みんなとそうなるっていってるでしょ？」
「本当なんですか？」
「イシュタールが特別好きだから抱き合いたいって言ってほしい？」
「そうじゃないですよ。そうじゃ……」
大きな男がベッドの上でゆりのようなか弱い女から逃げ回るというのも珍しいものである。
「もーわかった。じゃあいつものように、私に愛撫して、ね、それならいいでしょ？」
ゆりは優しく微笑んで言った。
「それならいいですが、城に帰った方がいいですよ？」
「いいの。早く優しく抱きしめてよ〜」
「わかりました」
イシュタールはパンツ姿のまま、ゆりを抱きしめた。
「イシュタール、好き」
「私だって好きですよ」
二人は唇を寄せて舌を絡めあった。肌に触れあっているうちに、イシュタールはゆりに重なり、うっすらとガーベラの
姿を見たのだった。
「あれ？ 王妃に重なって誰か……」
いつの間にか部屋の中には甘い匂いが充満している。イシュタールの頭はくらくらしてきた。
「王妃……」
「抱いて、ダーリン」
「ダーリン？ ああ、なんだか自分が抑えられない。抱いてしまいそうだ！ 逃げてください。王妃」
イシュタールはゆりの上にかぶさり言っていた。
「それでいいの。イシュタール」
「王妃！！」
イシュタールはゆりの胸に顔をうずめていた。
ゆりと男たちの夜もそれぞれであるが、城にいた黒目のゆりは、王の寝室でラクシュミ相手に
いろいろ話をしていた。話の内容は子供たちのことについてである。
ラクシュミはそれをあまり熱心でもなく聞いていた。どちらかというと寝たいのだろう。
「ところで、今日は昼寝でまた神の国でもいってたんだろ？」
ラクシュミはゆりがひとしきり話した後に言いだした。
「昼間？ 実はいってたの。わかるなんて、さすが王様ね、神の国といえばね、前に面白い生き物がいてね、
大きなリスみたいでかわいくてね……」
ゆりは続けて話し出した。ラクシュミとの愛のひと時をなるべく遅らせようと思っていたのである。
ラクシュミがグレンやハロルドのようになっては大変だと思ったからだった。
「ゆり、もう遅いから寝よう」
ラクシュミが遮った。
「そう？ 寝る？ じゃあかるーく愛し合いましょう」
「さっきは手をだそうとしたら珍しく拒否したじゃないか」
黒目のゆりがここにきて、ラクシュミはいつもよりキラキラしているゆりにその気になったのだが、ゆりの方が
「まだだめ」と言って拒絶したのだった。ゆりが１０人に分かれたせいか、神の国で神と交わった後遺症は
さほどではないようだったが、その代わりガーベラが中に入っているのである。今のゆりは魅力的に変わりはない。
「それはね、王様を落ち着かせたかったからよ」
「私は落ち着いてる」
「じゃあ、あんまり興奮しまくっちゃだめよ？ 王様」
「？？？」
「王様、好き」
ゆりはラクシュミを興奮させすぎないように、裸になり、ラクシュミに引っ付いた。
「なんか今日はいい匂いがするな」
「そう？」
「わかった。神の国で遊んできたんだろ」
「違うわよー（いや、違わないけど）」
ラクシュミはゆりを抱き、「なんか、もう一度できそうだ」などと言い出した。
「え？ 無理しなくていいわよ？」
「無理じゃない。なんか、いつもより気持ちいい感じだった。もう一度できるぞ」
「そう？ 無理しないでね」
ラクシュミにしては珍しく、ゆりを続けて抱いたのだった。
「今日はなんだか、いい感じだ。すごく」
「私も気持ちいい」
ゆりは激しくなるのを押さえていた。これ以上ラクシュミを興奮させると、あとが怖い。
「王様、抱きしめ合って寝ましょう」
「ん？ ああ。なんか疲れたな……私も年かな？」
「やだあ。まだ若いわよ♪」
ゆりはそう言いながら、ラクシュミに寄り添っていた。
よし、これくらいなら平気でしょう
『つまんなーい』
ガーベラには大不評だったようである。
大丈夫。王様の分、ミカエルを興奮させてるから！
ゆりは100パーセント確信していた。
ハザークは、夜中にゆりがやってきたのがうれしかったらしく、喜んでゆりを抱いていた。
２度ほどして「もう一人の王妃」と呼んだが、蛇の目のゆりは現れなかった。
「もう一人は今いないんですよ」
と黒目のゆりが答えた。
「そうなのか？」
「今は私を愛しまくってください！」
「王妃、今日の王妃は、とても輝いてみえる」
「ハザーク様、愛してる」
ハザークとゆりは熱烈に愛し合い、ハザークはしまいには疲れ果てて蛇に変わってしまったのだった。
ハインリヒは、「今夜は最後までしていい」と言った黒目のゆりに、「本当ですか？ うれしいなあ」
と素直に喜び、ゆりの気が変わらないうちに、さっさと抱いていた。
「うーん……想像以上に、いいですよ。なんか、王妃の胸が、大きくなってるような気がするんですが」
「成長したみたい」
ゆりはごまかしていた。
「ああ王妃、中で果てたいんですが」
「いいよ」
黒目のゆりがあっさり言った。
「なんか怖いな。あとでなんかあるんじゃないでしょうね？」
「ないわよー」
「まあ遠慮なく」
ハインリヒはゆりとつながったまま、はてたのだった。
その時ゆりは、（今妊娠したら一体誰の子かわからないだろうなあ）などと思っていた。
「…………」
ハインリヒはうかがうようにゆりを見ている。
「どうしたの？」
「どうしたんですか？ 王が浮気したとか？ あの王がまさかねえ」
「ハインリヒ、変化してないわね。そんなによくなかったの？」
「よかったですよ。あなたが一番という表彰状でもあげたい気分ですよ」
「本当？」
ゆりはハインリヒに体を寄せた。
「今の王妃は奇妙すぎるんですもん。なんか、油断したところで刺されるんじゃないかという怖さがあるなあ」
「ハインリヒを刺して何の得が？」
「じゃあどうして突然きたんですか？」
「今夜はそういう気分なの」
「まあ、私はうれしいからいいですけど……突然こういう展開になるとはびっくりだなあ」
ハインリヒはゆりの胸を撫でて、乳首をつまんでいた。
「もっとしていいんですか？」
「いいわよ」
「じゃあ後ろから抱かせてくださいね」
「うん」
ゆりは四つん這いになった。
「このことって、他の男には内緒ですよね？ やっぱり」
「別にいいよ。みんなとするし」
「みんなとするんですか？」
「うん」
「そうなんですか」
ハインリヒはゆりのおしりをなでている。
「どういう心境の変化なんですか？」
「いけいけーって感じ」
「はあ」
よくわからないまま、ハインリヒは後ろからゆりを抱いていた。
「本気でいきますよ？」
「きて」
ハインリヒは興奮モードに入り、激しく腰を動かしてゆりを抱いたのだった。ゆりの口からは喘ぎ声がもれている。
「王妃……」
「ああ……ああー……」
ハインリヒはゆりの背中にピンクの花の模様が浮かんでいるのを見た。
「花……」
「変化してちょうだい」
「してますよ。変化。王妃……ああ、体がどうにかなりそうなくらい、いい！！」
「ああ……」
二度目が果てると、ハインリヒはちょっと体がよろけるほどの疲労を感じていた。
「ハインリヒ好きー」
ゆりはハインリヒに抱き着いている。
（なんか夢のような気がしてきたな）
ハインリヒはそう思いつつ、ゆりを抱きしめていたのだった。
そしてとうとう、最後の黒目のゆりは、ミカエルの元にやってきたのだった。
つづく
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