第72話

黒目のゆりはミカエルの寝室にやってきた。ミカエルはベッドの上で寝ているようである。

ゆりはベッドに近づいてミカエルの顔を見た。寝室は真っ暗なので、顔はうっすら白くしか見えない。

顔がじっくり見たいと思っていると、ゆりの周りが光り輝いた。


まるで電気みたい。ついに、ついにミカエルとなんて、どきどきする……


ミカエルが目を開けてゆりを見た。

「王妃？　何をしているんですか？」

「ミカエルに会いたくなってきたの。中に入っていい？」

「いいですよ」

ミカエルは薄い布団をめくり、ゆりはミカエルの横に寝転んだ。


いよいよと思うと、なんだか感慨深いなあ……ミカエルと初めて出会ってから、えーと、３５年も経ってるんだ？

最初に出会った時から超好きな顔だったけど、今もミカエルの顔は一番好きだなあ……

この男らしいハンサム顔が好き！


ゆりはじーとミカエルの顔を見ていたが、ミカエルもゆりに体を向けてジーとゆりを見つめていた。

「あの、王妃、なんだか身体が光って見えますよ？」

「暗いから明るくしたの」

「暗いから明るく？　今の王妃に魔法は使えないはずですけど」

「気にしないで。それよりも、ミカエルと出会ってからのことを考えてたら、なんだか心がいっぱいになってきたわ。

ミカエルってば性格はあれだけど、やっぱりいい男だなって」

「性格はあれだけどってなんですか？」

「ミカエル、最初から優しくしてくれてありがとう。ミカエルがいたから、私この世界に来た時からうきうきでいられたんだわ」

ゆりはミカエルの手を握りしめて感謝の気持ちを言っていた。一方ミカエルは、突然ゆりがこんなことを言いだす理由が

さっぱりわからない。

「好き、ミカエル」

ゆりはさらにミカエルに抱き着いていた。

「王妃……突然どうしたんですか？」

「ミカエル、今日は、あなたの愛を思いっきりこの身に受け止めてあげる！」

「え！？」

「だからどーんと来て！」

ゆりはキラキラした目でミカエルを見つめている。

「それってどういうことですか？　抱いてもいいってことなんですか？」

「いい」

ミカエルは驚きのあまり口を開けていた。

「ミカエル〜〜！」

ゆりはミカエルをぎゅっと抱きしめた。

「…………」

ミカエルは、（これはドルイドパターンが来たな）と思っていた。

（私は明日にも死ぬ運命に違いない。それを知った王妃は、最後に抱かれてやろうと思って過去にさかのぼり、

私のところにやってきたんだ。しかしどうやって死ぬんだろう？　敵にやられるのはやだな。病気か？　知らないうちに

とてつもない病気にでも侵されていたか？）

「ミカエル、どうしたの？　うれしくないの？」

ミカエルが硬直したまま動かなかったので、ゆりが聞いた。

「うれしいですよ。うれしいに決まってますよ。王妃！」

（まあ、子供もできたし、死んでもいいか。今は王妃と愛し合おう）

ミカエルはゆりを抱きしめて口づけた。

キスしながら、ミカエルの右手がゆりの寝間着を上にたくしあげて、ショーツの中に滑り込んだ。

指はゆりの足の付け根に触れている。ぬめぬめとした感触だった。

「王妃、もう入れそうなほどですよ？」

「だって、もう興奮しちゃって」

「王妃ってば、ああ王妃！　ようやく王妃が抱けるんですね！」

「うん」

ミカエルは服を脱いだ。ゆりも気持ち的に盛り上がり、寝間着を脱いで裸になっている。

「王妃……なんか胸が……」

「あ、なんか大きい？　ミカエルのことを考えてたら大きくなったのかも？」

「ええ？　まさか！」

「冗談よ」

「王妃！」

ミカエルはたまらずゆりを抱きしめて、押し倒した。

「王妃〜愛してます」

「私も〜」

「今夜は覚悟してください」

「そっちもね♪」

ゆりの日常とはちょっと違う切り替えしのすべてが、ミカエルにとっては自分の死を決定づけるものだった。

ミカエルはゆりの胸をなでながら舌をはわせ、ついに、ゆりの両足を開かせた。

そして、ついに、ついに念願を果たしたのだった。

「王妃、王妃、うれしいですよ。王妃」

ミカエルはゆりとつながりながら泣いていた。

「うんうん」

ゆりもつられて泣いている。

「王妃、私は王妃に出会えて、本当に幸せでしたよ」

「私もよ。今日はそのまま中に出していいのよ」

「王妃……もし子供ができたら産んでくださいね」

「うん！」

感動と興奮と、そして何とも言えない切ない思いがミカエルの心を駆け巡っていた。

（死んでも悔いはまったくない。王妃、ありがとうございます！）

興奮の果てに、ミカエルはゆりの中で果てた。ゆりの頬は紅潮している。

「王妃、気持ちよかったですか？」

「うん。ミカエルは？」

「とてもよかったですよ」

ミカエルは変化はしていなかった。きっと感動しすぎたせいだろう。

「王妃、王妃は最高です。私にとっては、最高の女神ですよ」

ミカエルは優しくゆりを抱きしめた。

「再び王妃が抱けるなんて、もう夢のようです」

「え？　再び？」

ゆりは目をぱちくりさせている。

「再びって二回目ってことよね？」

「そうです。実は、前に抱きました」

ミカエルの言葉をゆりはゆっくり頭の中で繰り返していた。

「え？　え？　どういうこと？」

ゆりは体を離して聞いた。

「いつのことを言ってるの？」

「あれは、アナスターシャ様を生んだ後、王妃がヴィラとばっかりいちゃいちゃしていた後ですよ。一緒に夜を過ごした日が

あったでしょ？」

「……ああ、そういえばそんなことがあったわ」

「その夜です」

「……え、ええええええ？　うそーーーー！！」

ゆりにとっては寝耳に水である。

「だって、何もしなかったようなこと言ってたじゃない」

「言わない方がいいと思って黙ってました」

「なんだとー！！」

ゆりはショックのあまりのけぞっていた。

「王様が止めたからできなかったとか言ってなかった？」

「王は強引にしないようにと言っただけで、王妃を抱くなとは言ってなかったもんで……それにあの夜の王妃、すっごく

かわいくて、王と勘違いして私を誘ってきたもんで、つい」

「ついじゃない！」

ゆりは枕を手に取ってミカエルの頭をぶっていた。

「今まで黙ってたなんて！」

「黙ってた方がよかったでしょう」

「……そりゃそうだけど……」

「王妃がヴィラとばっかりいちゃいちゃするからですよ。ヴィラより有利に立ちたかったんです。でも誰にも言わなかったんだから

偉かったでしょ？」

「偉くない」

ゆりはもう一度枕でミカエルをぶっていた。

「まさか、一度やってたなんて……しかもあんな前に」

「もういいじゃないですか。最後に王妃が抱けて、本当にうれしいですよ」

ミカエルは微笑んでいた。


確かに、今まで黙っててくれて助かったかも。言われてたら、男たちとの関係にひびが入ったかもしれない……

だけどなんだかすごく腹が立つわ！　


かなり前の話なのでゆりは怒り狂ってはいなかったが、ミカエルに何かしてやらないと気が済まない気分だった。

「こうなったら天国と地獄を味あわせてやる」

「？」

「ガーベラに愛してもらいなさい」

「え？　ガーベラ？」

ミカエルの目の前にいたゆりの外観がかわり、ミカエルは「うわっ」と体をふるわせていた。

ゆりがいた場所に、金色の長い髪の女が裸で座っている。大きな胸、くびれたウエスト、まるで彫刻のように美しい女は、

ミカエルを見て微笑んでいた。

「ミカエール、いらっしゃい」

ガーベラは指を折りながらミカエルを呼んでいる。

「え、えええええ？　えええ？」

ミカエルはゆりを探したが、ゆりはどこにもいなかった。

「死なない程度にがんばって、ミカエル♪」

「えええええー！！！」

ガーベラはミカエルに抱き着いていた。



男たちはそれぞれのゆりと仲良くしたのだが、ところどころでガーベラが出てきて、

ラクシュミ以外の男たちはみなグロッキー状態だった。

ガーベラにもろに迫られたミカエルは、ガーベラがそばにいるだけで失神しそうになっていたが、もちろんそれは許されずに、

ガーベラの言いなりになってガーベラを抱いていた。興奮しすぎてわけがわからなくなったミカエルは、

「そうか。死ぬのは今か……これはこれで、し・あ・わ・せ……」

とつぶやいて完全に気絶していた。



ゆりたちが自分の寝室に戻ってきた。まだ夜は明ける前である。１０人のゆりが集まると、ゆりは一人一人消えていき、

黒目のゆりと左目が蛇の目のゆり、二人だけになった。黒目のゆりは記憶を整理して、頭に手をあてていた。

「ミカエル……」

「どうしたの？」

蛇の目のゆりが聞いた。

「別に、そっちはどうだった？」

「楽しかった。誰かの子供ができたら面白いなあ」

「やめてー」

二人の前にガーベラが現れた。

「私も楽しかったー満足満足」

ガーベラはうれしそうである。

「……ドルイドとも愛し合いたかったなあ」

蛇の目のゆりが言った。

「ドルイド？」

とガーベラ。

「死んだ恋人のこと？　ずっと思ってれば、また会えるかもね。それじゃ私は行くわ。さようなら」

「「さようなら」」

二人のゆりは手を振り、気が付くと、ゆりは一人になっていた。


「うわっ！　いろんな記憶で頭がごっちゃごちゃ！　寝よう」

ゆりはベッドにあがって眠ったのだった。



神の国にて太陽が昇るころ、シャリィがガーベラの神殿にやってきた。ガーベラはその時起きていた。

「まあシャリィ、大人になったのね」

ガーベラは初めて大人になったシャリィを見て驚いていた。

シャリィは両手をそろえて何かを乗せていた。大きなピンク色の一つの花である。花びらは何枚も折り重なっていた。

「あなたも誰かと愛し合ったの？　ありがとう」

ガーベラはその花を受け取り、自分の肩につけると、花は消えてなくなった。


「お母さん、つぼみがいっぱいついてるよ！」

アマンザとクーリーフンがやってきた。

「いよいよ花を咲かせるから、外で見ていて」

「うん」

「わかった！」

二人は外に出て行った。

「シャリィ、疲れたでしょう。ちょっと休んだら？」

ガーベラが手を出すと、.シャリィはガーベラに抱き着き、そのまま消えてしまった。


アマンザとクーリーフンは、神殿の外でどきどきしながら待っていた。朝が早いのに妖精達も集まってきている。

「つぼみだ」

「いっぱいついてるわ！」

昨日まではなかったのに、神殿の外を覆っている蔓には、たくさんのつぼみがついている。葉っぱきらきら輝いていた。

やがて、ガーベラの神殿が強烈な光を放った。

「まぶしい！」

皆が目を細めて開けたとき、神殿の周りはピンク色の花で覆いつくされていた。

「きゃー！　すごい！」

「すごい！」

「きれいー！！」

「すごい……」

アマンザは花で覆われた神殿を見て感動していた。

「なんてかわいい花なんだろう！」

「さあ、これからが本当の仕事だ」

神殿の外には大量の大きなざるが用意されていた。ペガサスに乗ったジェイクがやってきた。

「僕も手伝うよ」

「私たちも手伝います！」

見物人の妖精達も志願した。

「くれぐれも勝手に持っていかないでね」

「はーい」

パティウスや虹の妖精達もやってきた。飛べる連中は上の方にある花を次々と摘んで行き、他の連中は

手が届くところの花を摘んで行った。カサンドラと一緒にキュリア、ネル、ユリアナにイオナがやってきた。

皆子供に戻っている。

「さっき元に戻っちゃいました」

キュリアはちょっと残念そうだった。

「私たちも手伝いますね」

「いっぱいになったざるは私が神殿まで運ぼう」

カサンドラが言った。花はカサンドラの神殿で仕分けすることになっているのだ。

子供になったライサも飛んできた。

「私にも手伝わせてください」

「助かるよ。上の方を頼むよ」

クーリーフンが言った。

「はい」

ライサは上機嫌である。グレンが儀式に参加できたからだろう。そのグレンはかなりやばい状態だったので、

癒しの泉の中に沈んでいた。

みんなで手分けして花を摘み、花が綺麗になくなると、蔦は枯れてなくなってしまった。


アマンザとキュリア達は神殿の中に入り、ガーベラを探した。ガーベラは奥の寝室で眠っていた。

「元のお母さんだ」

アマンザがほっとしたように言った。

眠っているガーベラの髪は、巻き毛に変わっていたのだった。


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