第2話
その日、ゆりはアヤコから来た手紙を読んでいたのだが、読み終わった後、「ぎょえー」と王妃様らしからぬ声を出していた。
「どうかなさいましたか？」
部屋にいた侍女が聞いた。
「アヤコさんがね、なんと聖地に旅行に行ったんだって！」
「まあ、そうなんですか。巡礼に行かれたんですか」
「長い休みをもらって行ったんだってー」
手紙と一緒にお守り袋が入っていた。黄色い袋の中にはべっこう飴のような丸い物が入っていた。ゆりは手の平に乗せて眺めている。
アヤコはゆりと違い、結構国の外に出たりもしているようである。自由に外の世界が見られて羨ましいが、その代わりゆりは夢の中でいろいろしているので、
どうしようもないほど羨ましくはなかった。
「アシュラン様のお守り石。黄色い水晶だって。いいなあ。久々に海を見て感動したって書いてあるわ」
「聖地は島国ですからね」
アヤコは聖地に対して元の世界のギリシャのようなイメージを持っていたようだが、実際に聖地に行くと、どの神殿もぴかぴかに輝き、いろいろな花が咲き乱れ、どこも素晴らしい風景だったようである。
神官も大勢いて、巡礼者たちも相当な数だとか。
しかもアヤコが行った時は、ガーベラの力が最大に増した後で、神殿の中の大きな甕は毎日満ちて、女の巡礼者が神殿に押し寄せて、水を分けてもらったそうである。アヤコもその水を飲ませて
もらい、体が若返ったような気分になったと書いてあった。どうやら、ガーベラの儀式の余韻は聖地でもあったらしい。「いい時に行けてラッキーだったわ」と書いてあった。
「聖地かあ、どんな場所なんだろうなあ」
子供達にその話をすると、ラギは特に興味津々で、「大人になったら絶対聖地に行きたい」と言っていた。
「ああ、アヤコさんに話が聞きたいよ。行こうかなあ」
「タロウさんも行ったの？」
シスが聞いた。
「ううん。アヤコさんとガットさんだけで行ったみたいよ。アヤコさんは海の幸もたらふく食べたんだってーいいなー」
「虎に行きたいけど、でも、やっぱりやめとく。僕がいない間にお母さんが何かしそうだから」
とラギは言っていた。シスは「あるかもね」と笑っている。
「僕がいない間に何かあるのってほんと、やだよね。それがすっごく面白いことだったりするとさ、あとでショックだよ」
「そうそう面白いことないわよ」
「わかんないじゃない」
ゆりだってそうそう何か起こす気はないのだが、こればかりは絶対ないと断定もできない。
その夜、二人のゆりは夢の白い空間で出会っていた。
黒目のゆりはちょっと神妙な面持ちである。儀式から一月経っていたが、ゆりの中にも儀式の余韻が残っているようだ。
「今年は思い出深い年になるわね」
蛇の目のゆりが言った。
「そうね」
と黒目のゆり。
一生あのままかも、と思っていた恋人たちと抱き合ったのだ。ゆりがこの世界にやってきて今年は３５年目になる。ミカエル達とは本当に長い付き合いである。
「よく今までああならなかったよね」
「あれがよかったのか悪かったのかよくわからないけど……みんなと元通りいちゃいちゃできるかなあ」
黒目のゆりはまだそこを心配しているようだ。
「大丈夫じゃない？ 私はみんなとできてよかったと思うよ」
「もしかして、隠れて誰かと最後までしてたりしないよね？」
黒目のゆりが確認するように聞いた。
「してないよ。私はあなたの意見を尊重してる」
「本当？」
「本当。だから神様ともっと愛し合おうよ」
黒目のゆりはずるりと肩を落としていた。
「ガーベラの体ならいいんでしょ？」
「いや、そーいうわけでもないんだけど……」
「実は隠れてしちゃおうかと思ったけど、私も嫉妬深くなりそうだなって思ってさ。みんなを困らせることになりそうだから、ハザーク様と神様で我慢したい」
「我慢って……」
（それって我慢？）と黒目のゆりが言おうとしたとき、二人の前にぽわんと女性が現れた。金色の豊かな巻き毛、ガーベラである。
「ああ！ ガーベラ！」
「ガーベラ！」
二人は驚いて立ち上がっていた。
「はーい」
ガーベラが手を振っている。
「「はーい」」
二人のゆりが同時に手を振っていた。
「お話をしにきたのよ。儀式が終わった後はびっくりしちゃった。まさか、あなたの恋人達のところまでいったなんてね。死ななくて本当によかったわ」
ガーベラが座りながら言った。二人のゆりも合わせて座っている。
「私、妖精や人間を殺しちゃったことがあったから、かなりびびったの」
ガーベラは美しい顔で言っていた。
「殺しちゃったって？」
「抱き合ってたら気持ちよすぎて死んじゃったみたい」
「「…………」」
どちらのゆりも口をぽかんと開けていた。
「ガーベラも恋人以外とそうなったりするんですね」
蛇の目のゆりが言った。
「かなり前の話なんだけどね。私だってたまには冒険したくなる時があるのよ。妖精は前の儀式の時に消滅させちゃって覚えてないんだけど、だから王様たちが無事でよかったわ」
「はあ……」
「ごめんね。あの時の私は普通じゃないみたいだから。怒ってないわよね？」
「怒ってないですよ。私も、ガーベラの儀式に興味があったし」
黒目のゆりが言った。
「私も怒ってないですよ」
と蛇の目のゆりも言うと、ガーベラは微笑んで、
「それじゃ本題に入るわね」
と言った。
「実は海の神様に招待されたんだけど、私はあんまり気が乗らないの。あなたたち代わりにいかない？」
「え？ 海？」
二人のゆりはきょとんとしていた。
「あの儀式の花を海の女神にもあげたのよ。そのお礼ですって。実はねえ、私はあそこがあまり好きじゃないの。昔海の神ともめたことがあってね。仲直りの意味も込めて何度か行ったりもしたん
だけど、私にとってはあまり居心地がいい場所じゃないのよ。しかも今回は泊まりで来てほしいって言われちゃったし。あなたたちなら行っても楽しめるんじゃないかと思ってね。どうかと思ってきたのよ」
「私海ってみたことない。見たいな」
蛇の目のゆりが言った。
「私も、ここにいたら一生見ることがないから、見たい」
「なら決まりね。２，３日になると思うけど、あなたの体はどうする？ 私が入ったら、恋人たちと遊びたくなっちゃうと思うんだけど、遊んでもいい？」
「え……」
黒目のゆりの顔が引きつっていた。
「今日はすごいですね。なんか」
「だって最初に言っておかないと。私、みんなのことも好きだし、あなたが嫌だっていうなら別にかまわないわよ。残念だけど、子供達とずっと遊んでる」
二人のゆりは目を合わせていた。
「あのー、実は、私恋人たちとは、最後までしてなかったの。ハザーク様はしてたけど」
黒目のゆりが言った。
「なんで？」
「夫である王様にそこだけは残してあげたいような気がしたから。儀式のために大勢恋人ができてみんなのことは大好きだけど、みんなには赤い月を過ごす恋人がいるし、
いろいろ複雑なの。うちは人口が少ないから、みんなが恋人と赤い月を過ごして子供を作らなきゃならないし」
「ふーん、そうなの」
「ガーベラは、私たちが恋人と愛し合っても、本当に妬いてないの？」
蛇の目のゆりが聞いた。
「私だったら、妬くと思うんですけど」
「それはあなたが１００年くらいしか生きてないからよ。一万年も恋人の心をつなぎとめておくってほんと大変なんだから。あなたのおかげでいろいろ楽しいことが起こって感謝してるわ。
子供ができると、子供の話題で盛り上がったりするのよね。それが面白いわ。あなたが私にならなかったらどうなってたかしら。私の恋人じゃなくなってる人もいるかもしれないわね」
「そんなことないと思うけど」
黒目のゆりが言った。
「少なくともハロルドは恋人になってないかもね」
「そうかなあ」
「あなたは私の分身だから、あなたが私の恋人と仲良くなっても、全然気にならないわよ」
「ガーベラ……」
「神様ともっと遊ぼう」
蛇の目のゆりは張り切っている。
「というわけで、わたしも恋人たちと遊んでいい？」
ガーベラはきらきらした目で聞いてきた。
「えーと、ちょっとならどうぞ」
「わかったわ」
ガーベラはあっさり言ったが、意味が分かっているかは謎である。だが、こっちはガーベラの時に自由にしているのに、ガーベラにいろいろ文句をつけるというのもゆりにはできなかった。
「じゃあ時が来たら変わりましょうね」
ガーベラは立ち上がり、消えてしまった。
「……あれでよかったのかな？」
黒目のゆりが聞いた。
「なんだか、今日のガーベラは素って感じだったね。まあいいんじゃない？ 確かにみんなにとってはガーベラも恋人だし、王様もいじけてたし……まさかみんなとやりまくったり
しないでしょう」
「海から戻ったら大変なことになってたりして」
「じゃあやめる？」
「やめたくない。だって、もう頭の中では波の音がしてるんだもん！！」
もうすでに「ザパーン」という波の音が頭に響いている。
「まあ、大丈夫でしょう。たぶん、きっと……今までも大丈夫だったし」
黒目のゆりは自分に言い聞かせるように言っていた。
黒目のゆりは目覚めたとき、夢での出来事をかなり覚えていた。ガーベラが来たせいかもしれない。
うーん、本当に大丈夫かな？ 前回はガーベラは激しく落ち込んでいたから誰とも何もなかったみたいだけどね……
ガーベラもたまに人間になって気晴らしがしたいのかなあ。私みたいに
そんな気がした。
「まあいいか。シスとラギは大喜びしそうだよね。王様も。こんなこと、そうないもんね」
ゆりは気楽にそう思うことにした。
朝の支度が済んで食堂でご飯を食べた後、ゆりはラギに、「海の神様の神話の本とかある？」と聞いてみた。海に行くのが決まっている以上、ちょっと知識を入れねばならないと
思ったのである。
「海はないよ。だって、この国には海がないからね」
「ないのか……」
「なんで？」
「気になっただけよ」
（まあ、主な神様の名前くらいはわかるだろう）
ゆりがそう思いつつ自分の部屋に戻ると、部屋の前にフリットと見知らぬ男が一緒に立っていた。その男は真っ白な牧師が着るようなローブを着ていた。金髪の短髪で、背は
フリットよりも低い。若い男である。
「おはようございます。王妃、こちら聖地の神官の方なんですよ。王妃に話があるようで」
「私に？」
「初めまして王妃様、私はトロントと申します。布教活動のためにいろいろな国を回っております。王妃様に神々のお勉強をしていただきたいと思い、今日はやってきました」
「はあ」
「こちら、正式な聖地の方ですので、心配なら誰か一緒にいますが」
「え？ ああ。二人で大丈夫よ。ちょうど勉強したいと思ってたの。入ってください」
「それはよかったです」
トロントは部屋の中に入った。
このトロントという男、顔は美男子というわけではない。目も小さいし、鼻も丸っこいし、お世辞にもハンサムとはいえないのだが、ゆりはなんだか心が惹かれるのを感じた。
この男をよく知っているような、そんな親近感も感じるのだ。
侍女が部屋から出て行き二人きりになった。レーヌも侍女に預けている。ゆりはトロントをじろじろ眺めて、「クーリーフン？」と聞いた。
「はい？」
「クーリーフンじゃないの？」
「なんでわかったの？」
神官が言った。
「やっぱりそうなんだ！ 私すごい！」
ゆりは自分でも感動していた。
「えーなんでそんな恰好で来たの？」
ゆりは神官の背中を手で触っていた。まるっきり翼なんてないのである。
「たまにはいいじゃない。あの姿だと、邪魔が入って話ができなくなったら困るからね。海の神の知識をちょっとは入れてもらおうと思ってさ」
「クーリーフンは一緒にいかないの？」
「僕はいかないよ。ラクアが娘二人とあなたを連れていくんだよ。じゃあお勉強だよ王妃様」
「はーい♪」
ゆりは楽しくなってクーリーフンの真横に座っていた。
「それにしてもよくわかったね」
「私も自分でも驚いたわ。クーリーフンって人間になれるんだ」
「たまになってるんだよ。あの姿じゃひと前をうろちょろできないからね」
クーリーフンはさっそく、海の神々のことをゆりに話して聞かせた。名前をいっぱいおぼえなきゃいけないのかとゆりはびびったが、ガーベラはあまり海の神々と親交がないので、
そんなに覚えなくていいようである。海の神々の長は海の神マリナールである。神格はアシュランの方が上であるが、人間界の海の近くでは、アシュラン以上にマリナールが
信仰されている。大昔、マリナールは自分の娘をラクアとくっつけようとしたのだが、ラクアがガーベラを好きになってしまい、当時かなりもめたそうだ。
その事件以来、ガーベラはしばらく海の神々によく思われていなかったようである。今はその娘にも息子がいて、その息子がラクアの双子を狙っていてラクアがやきもきしている、というのを
クーリーフンは話してくれた。
「海ってかなり遠いの？ あまり行ったりきたりってないんでしょ？」
ゆりが聞いた。
「まあね。海が好きな神々は行き来してると思うけどね。オルガとか、風の神たちは結構行ってると思うよ。あちらの神々はあんまりこっちにこないかな。海の神々は海の近くじゃないと
落ち着かないんだろうね」
「へー」
「ラクアもあんまりあっちに行きたくないみたいだけどね、ラクアは水の神だから、マリナールを邪険にできないみたいだよ。水と海って全然違うように思うけど、繋がってる部分もあるんだってさ。
そこらへんは僕もよく知らないけどね」
「そうなんだ。なんとなくわかるような気はするけどね」
その時、ミシェイラがぱっと部屋に入ってきた。
「ミシェイラ、ママはお勉強してるのよ。入ってきちゃだめよ」
ゆりが言うと、「ミーもオベンキョする」とミシェイラが言った。ミシェイラは人間に化けたクーリーフンをじーとみている。そして、クーリーフンの膝に強引に乗ってしまった。
「ミシェイラったら」
「ベンキョするもん」
「いいですよ」
クーリーフンはミシェイラを膝にのせていた。ミシェイラはなんだかうれしそうである。
え？ もしかして、クーリーフンって気づいてる？
ゆりはミシェイラに驚いていた。
「王女様はどの神様が一番好きですか？」
クーリーフンが聞くと、
「クー！」
とミシェイラは言っていた。
ミシェイラが来てからはあたりさわりのない話だけで、クーリーフンは去って行った。
「ねえ、ミシェイラ、あのお兄さん気に入ったの？」
ゆりはミシェイラに聞いてみた。ミシェイラは「うん」とうなずいた。
「どこが気に入ったの？」
「うーん、わかんない」
ミシェイラは首をかしげている。
これも女の勘かしら？ 小さいのにすごいわー。あ、いつ海に行くのか聞くの忘れちゃった。明日か明後日くらいかな？
ゆりはそう思っていた。
昼下がり、ゆりは東屋で紅茶を飲んでいた。たまたま仕事がなかったイシュタールも向かい側に座っている。近くではシスとラギもいて、シスはレーヌを抱っこして花壇の花を見せたりしていた。
儀式の話をするのが恥ずかしかった二人はたわいもない話をしていたのだが、突然ゆりの体ががくんと前のめりになった。
「王妃！？」
イシュタールが近づくと、ゆりが顔を上げた。
「え？」
ついさっきまで確かにゆりだったのだが、今は違うというのがイシュタールはわかった。ゆりに別の魂が入っているのである。
「あら、ダーリン♪」
ゆりは微笑んで言った。
「え？ ダーリン？」
ゆりはきょろきょろとあたりを見回している。
「あの、あなたは王妃じゃないですよね？」
イシュタールは小声で聞いた。
「もうわかっちゃったの？今回もこっちの都合で身体を借りたの。みんなには内緒よ。ダーリン」
「え……」
前回ゆりに入っていたのはガーベラだった。
もしかして……ガーベラ様！？ ダーリンの時はガーベラ様！？
「あー！」
イシュタールはようやくそのことに気づいたのだった。イシュタールが声を張り上げていたので、何事かとシスとラギがやってきた。
「あ、レーヌちゃん」
ゆりに入ったガーベラは、レーヌを見つけて手を出した。シスがレーヌをガーベラに渡した。
「どうしたの？」
イシュタールは驚愕の表情を浮かべたままなので、ラギが聞いた。
「あ、あああ、いえ、なーんでも、なんでもありません」
イシュタールは慌てて答えたが、なんでもない顔ではなかった。
「ミーちゃんはどこにいるの？」
ガーベラが聞いた。
「ミーちゃん、ミシェイラは……あれ？」
ゆりは「ミーちゃん」とは言わないので、ラギはそこでおかしいなと思った。
「あれ？ え？ え？ もしかして！」
ラギの目が輝いている。そこでシスも、「あれ？ あれれ？」と何かに気づいた。
「もうばれちゃったの？ また体を借りたの。でもみんなには内緒よ」
ゆりに入ったガーベラは「うふふ」と笑って言っていた。
「えー本当に？ 本当なんだ？ やったー！」
「やったー！ また会えるなんてうれしいなあ！」
びびるイシュタールの横では、シスとラギは大喜びしていた。
「おかあさーん！」
「かあさまー！」
二人ともガーベラに抱き着いている。
「あらあら」
ガーベラはレーヌをだっこしていたので、そのまま抱き着かれていた。イシュタールはぼんやり立っていたが、やがてガーベラと目が合い、びくついていた。
「ねえ、ダーリン、今暇でしょ？ ちょっと遊びましょう」
ガーベラの提案に、イシュタールはさらにビビっていた。
「あ、遊びとは？」
「おかあさーん、僕らとも遊んでほしいな」
ラギが珍しくも甘えるように言っている。
「もちろんいいわよ。夕方遊びましょうね。昼間の間は恋人たちと遊ばせてね」
「みんなよかったねーいいねー」
シスはうらやましそうに言っていたが、イシュタールはびびりまくり後ずさっていた。
「どうしたの？ ダーリン」
「わ、わたしは無理です。無理でございます。すいません」
イシュタールは早口で謝っていた。
「どうして？」
「イシュタールってば何言ってるんだよ。こんなチャンスを逃しちゃだめだよ」
「そうだよ。母様と遊びなよ！」
子供達からはもったいないとばかりに声が飛んでいる。
「いえ、私は……」
イシュタールはそこで、（あれ？ 遊びって、もしかして普通の遊びかもしれない）と思い直した。まさかあのガーベラが自分といちゃつきたいなど思うはずもない。
「ちなみに、遊びってなんですか？」
「抱き締め合ったりーちゅーしたりー」
「あ、ミ、ミカエルが今思念で、王妃と遊びたいっていってます！ ミカエルと遊んであげてください」
イシュタールはとっさにそんなことを言いだし、ミカエルに思念を送っていた。
─ミカエール！！！！ 頼む、今すぐ城に来てくれ、頼む、頼むー！！
─どうしたんだ？
ミカエルから思念が返ってきた。
─頼むからすぐに城に来てくれ！
─私は今会議の最中なんだが
─今の王妃と遊んでくれ！
─はあ？
─私は無理。無理なんだ。考えただけで鼻血が出そうだ
─わけがわからん。王妃が興奮してるのか？
─そういうわけじゃないんだが、なんか遊びたいって
─ 一時間後に行く
─それまで待てーん！
とにかくイシュタールはあわてふためいていたのだが、ミカエルにはさっぱり理由がわからなかった。
─儀式の兆候でもあったのか？
─いや……
と返したイシュタールだったが、（そうだ、儀式ってことにすれば、みんなすぐ来れる。そうしようか。でもみんな呼んじゃっていいのか？）と悩みに悩んでいた。
「ダーリンってばつまんないわねー。さきにミーちゃんに会いに行こうかな」
「いこう」
「いこういこう」
ガーベラはシスとラギと一緒にさっさと移動していたが、イシュタールはとにかく混乱していたので、それには気づいていなかった。
（ミカエルだけでいいのか？ 他の連中にも内緒にして呼んだほうが？ 呼ぶなら全員？ ならやっぱり儀式ってことにしたほうが……）
「迷うーあのー恋人は何人が……」
ガーベラに聞こうと周りを見ると、ガーベラも子供達もいなかった。ティーセットをかたづけているゆりの侍女が、（何をしているのかしら？）という顔でイシュタールを見ていたのだった。
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