第5話
人間界蛇の国の城では、ゆりの体に入ったガーベラも、そこそこ楽しんでいた。ガーベラはかなり積極的にミカエルやフリットに抱き着いてキスしたり
していたが、男たちの方は儀式の後遺症か大興奮というわけでもなく、恋人同士のふれあいを素直に楽しんでいた。
「今日の王妃はちょっと違いますね」
フリットが言った。ミカエルはとっくにいなくなっている。ガーベラは下着姿だった。
「そう？ どう違うの？」
とガーベラは抱き着いたまま聞いていた。
「うーん、なんか、かわいい感じですよ」
「いつもかわいいでしょ？」
誰かに言ったのと同じやりとりである。引っ付いて何度もキスしてくるゆりが、フリットには不思議らしい。
（もう一人の王妃っぽいが、両方黒目だし……誰か降りてるようでもあるし…）
考えてる間にもガーベラはフリットにキスしまくっていた。
「フリットはあれから性欲は戻ったの？」
「いえ、戻ってはないですよ」
フリットは素直に答えた。
「そうなの。私のことかわいがってほしいな」
「いいですよ」
フリットはガーベラの体を優しく撫でまわした。すると「直接触って」とガーベラは下着も脱ぎだした。
「かわいいですよ。王妃」
「フリット好き〜」
ガーベラは再びキスしまくっていた。
「ねえ、ちょっと仲良くしましょうって言われたら、どれくらい仲良くする？」
ガーベラはフリットに聞いていたのだった。
夕方、ミカエルが王の休憩室に行ってみると、ラクシュミは面白くなさそうな顔で酒を飲んでいた。
「今日、王がかしこまった格好をしてたって聞きましたけど、誰か来たんですか？」
ミカエルは部屋に入りながら聞いた。ラクシュミは「別に」とそっけなく答えている。今はもう普段通りの服に着替えていた。
ガーベラは結局王の間にはやってこなかったので、ラクシュミは少々いじけているようである。
「お前昼間、ゆりとひっついてたろ」
「今日の王妃はすごくご機嫌でしたよ？ 王、昨晩がんばったんでしょ」
ミカエルは勝手に棚からグラスをもってきて、テーブルにある酒を注いでいた。
「いや」
「じゃあなんであんなにご機嫌だったんでしょうかね」
「さあな」
「なんか不機嫌じゃないですか？ 何かあったんですか？」
「何もない。ところでゆりは今何してるんだ？」
「フリットと過ごした後はしりませんが」
「そうか」
（なんかいじけてる？）
ミカエルは理由がわからずラクシュミの様子をうかがっていた。
そのころガーベラは子供たちを部屋に集めて、夕食前のひと時を歌を歌ったりして遊んでいた。ラギとシスに遊んでと言われたので素直に遊んでいたのである。
アナスターシャはいきなりこんなことを始めたゆりにも不思議がっていたが、シスとラギがうれしそうに歌を歌っていたので、そっちを不気味に思っていた。
ラギなどは、もしゆりが誘っても断りそうだからだ。
「へ〜び、へ〜び〜♪ あおいへび〜♪」
ミシェイラとナナミ、アナスターシャが歌い、ガーベラが竪琴で伴奏したりもしている。この場にはハインリヒもいた。リュートをもって時折伴奏に加わっていたのだが、今日のゆりはハインリヒには
かなり奇妙に映っている。竪琴がかなり上手だったからであろう。
そして長椅子にヴィラとジュノーが座っていた。ヴィラはシスに「今からお母さんに遊んでもらうんだよ〜暇ならくる〜」と呼ばれたので、様子を見に来ていた。
その横のジュノーはヴィラから「３番目のゆり」の話を聞き、信じられずにやって来たのである。部屋にいたロイは歌には参加せず、「今日のマー変じゃない？」とラギに聞いて、
「変じゃないよ」と言われていた。子供達の中では、ロイが一番敏感なようである。
「みんな素敵な声ねえ。今度はみんなで踊りましょう。ダーリン、適当に伴奏をつけてちょうだい」
ガーベラが竪琴を置いて言った。
「はあ」
とハインリヒは気の抜けた返事を返している。
「ダーリン？」
アナスターシャが疑問の声を出していた。
「ロイも参加して、みんなで円になって手をつないで、それじゃあ始めるわよ〜回って〜」
ハインリヒが適当な踊りの曲をリュートで奏で、ガーベラは子供たちと手をつないで回ったり、近づいたり離れたり、と即興で適当な踊りを考えて踊っていた。
「はい、ここでくるくる〜ミーちゃんお上手」
「えへへ」
ミシェイラは楽しそうに回っている。
「こういうダンスだったら楽しいなあ」
アナスターシャも素直に回っていた。
一曲終わり、ロイは「ねえ、マー、なんか変だよ？」とガーベラに直接言っていた。
「「変じゃないよ」」
ラギとシスは二人同時に答えていた。
「ロイったら、女性に変なんっていっちゃだめよー」
とガーベラはロイの鼻をつんつんつついている。
「なんかおかしいなあ。ねえ」
ロイがナナミに聞いてみた。
「そう？ 今日も面白いけど？」
とナナミ。
「もっとおどる〜！」
ミシェイラはみんなで踊るのが気に入ったらしい。
「じゃあ踊りましょう。みんな手をつないで〜」
子供達とガーベラは再び踊りだした。
ハインリヒは途中で伴奏をやめたが、ガーベラたちは構わずに踊っている。
「前、後ろ、右右右。前、後ろ〜」
─ねえ、これ王妃じゃないでしょ。だれ？ 女蛇かなんか？
ハインリヒはヴィラとジュノーに聞いていた。さすがにこれが普段のゆりだとは思えなかったのだろう。この二人はずっと無言である。
─実は、３人目の王妃らしいです
ヴィラが答えた。
─え？ 何それ
─私もしらなかったんですが、たまーに王妃に３人目が現れていたらしいです
─３人目って、大丈夫なのか？
ハインリヒもさすがに心配してゆりを見た。
─大丈夫みたいですよ。この王妃は、今回は２，３日したらいなくなるみたいです
─はあ……
ヴィラの説明を聞いても、ハインリヒは訳が分からなかった。
─みんなにはガーベラって言わない方がいいかな？
ジュノーがヴィラだけに聞いた。
─どうだろう……まあ黙っててもいいんじゃないか？
─そうかな
侍女が部屋にやってきた。夕食の時間である。子供達は部屋から出て行った。シスとラギは「遊んでくれてありがとう」とうれしそうである。侍女はミルクを飲ませるために
レーヌも連れて行った。
部屋にはガーベラと男たちだけになった。
「ねえ、王妃、３人目って本当なんですか？」
ハインリヒは子供たちがいなくなったのでズバリ聞いていた。
「あら聞いたの？ そうよ」
「なんで２，３日したらいなくなっちゃうんですか？」
「それくらいで用事が終わるから」
「用事って？」
「内緒」
ガーベラがハインリヒの手を引いて立たせた。
「踊りましょう。ダーリン」
ガーベラは鼻歌を歌いながらハインリヒの手を握り、寄り添って踊りだした。
「どうして３人目が現れたんですか？」
ハインリヒが踊りながら聞いた。
「必要だったから。ねえ、普段の私って、恋人の前で他の恋人にキスしたりするのかな」
ガーベラはヴィラとジュノーを見て聞いていた。
「普段はないですけど、儀式ではしてますよ」
ヴィラが答えた。
「じゃあ今してもいいかな？」
「どうぞどうぞ」
とヴィラが言い、ガーベラはハインリヒの首に腕を回してキスしていた。軽くキスして、儀式のような舌をからめる濃厚なキスにうつっていた。
それを見ていたジュノーは自分もしてほしいというべきかどうか、心底迷っていた。相手がガーベラだと思うと恥ずかしいが、だが、もうこれっきり会えない可能性もあると思うと、
恥ずかしがっているのももったいない気がする。
「王妃、私もしてください！」
ジュノーは思い切って言った。
「いいよー」
ガーベラは次にジュノーに抱き着いてキスしていた。
「３人目の王妃は強烈ですね」
ハインリヒが言った。
ああ、これがガーベラ様だなんて、やっぱり思えない……でも幸せ……
ジュノーはガーベラゆりに抱擁されて幸福感を感じていた。
ジュノーから離れたガーベラは、次にヴィラの膝に乗っていた。
「ヴィラもしてあげる」
「私はいいですよ」
「よくないの」
ガーベラはヴィラの頬に両手をあてて顔を寄せて、キスした。ヴィラはさすがにそれ以上逃げずに目をぱちくりさせている。
「どうしてこんなことしてくださるんですか？」
ヴィラはどうしてもガーベラに聞いてみたくなった。
「みんなのことが好きだからよ。みんなの恋人があの花をもらったんでしょ？ あなたたちも少なからず恋人に心が動いたはずよ。だから、こうやって取り返さないと」
ガーベラは真面目な顔でヴィラに言っていた。
「ねえ、王妃、今晩寝室に来ていいですか？」
と聞いたのはハインリヒである。
「ごめんね。夜は王様と過ごすの。だから今一杯ちゅーしてあげるね」
ガーベラはヴィラの膝から降りて、再びハインリヒに抱き着いていた。
「王妃、かわいい……」
ハインリヒはガーベラをぎゅっと抱きしめている。
─王は、ガーベラを抱くのかな？
ジュノーはヴィラに思念を送っていた。
─さー。まあ、王も普段女がいないし、それくらいいいんじゃないか？
─そうだよなあ……うらやましいような、自分だったら抱けるかな？ 微妙だな
ジュノーは自分に置き換えて考えていた。相手がガーベラだと思うと、最後まではちょっとできないかもしれない。
─でも本当にガーベラなのかな？ ただの３人目ってほうが、しっくりくるが……
ジュノーはそうも思っていた。
─まあ確かに
さっきのセリフも気になるなあ……我々にキスするために変わってるわけないだろうけど……
女神に一時遊ばれたわけじゃないって思っていいのかな？ やっぱりガーベラも変わってるな。王妃が入れるだけあるな……
などとヴィラは思っていた。
「王妃ーぎゅってさせてくださーい」
この際とジュノーはガーベラを抱きしめていた。
「王妃様、食堂にはいかれないんですか？」
ゆりの侍女が呼びに来た。
「子供たちが食事をするのを見に行こうかなーそれじゃね」
ガーベラは部屋を出て行った。
男だけになったところでハインリヒが、
「なあ、王妃の精神状態って、本当に大丈夫だろうな？」
と真面目な顔で二人に確認した。
「そのうち４人目とか５人目とか出てきたらやだな」
「大丈夫ですよ。たぶん」
ヴィラが答えた。
「本当に？ 違う人格がいすぎるのもちょっと危ないんじゃないか？」
「実は、さっきのガーベラ様なんです。３人目の王妃ってのはガーベラ様」
説明が面倒だったヴィラが白状すると、ハインリヒは「は？」と目を見開いていた。
「嘘だろ？」
「ガーベラは儀式をしたんで我々のことを恋人だと思ってるみたいですよ」
「えー！！！」
「ガーベラって、義理堅い女神だな。なんかうれしいなあ」
ジュノーがちょっとうれしそうに言っていた。
神の国で海の神殿に帰ってきたゆりは、部屋に戻り、ラクアに会っていた。
ラクアは会議が終わったところである。昼寝をしていたユリアナとイオナは目を覚ましている。
「ガーベラ、ここからが大変なんだけど、ごめんね。広い心でいてあげてね」
ラクアは申し訳なさそうにゆりの手を握りしめて言っていた。
「ここから何があるんだっけ？」
「ぶっとおしで夜まで宴会だよ。彼らは宴会が好きだからね」
「ユリアナとイオナもいくの？」
「私たちは泳ぐの！」
「まだ遊ぶの」
「そう。きをつけてね。みんなと一緒にいるのよ」
「「はーい」」
と言って二人は元気に部屋を飛び出して行った。
「ガーベラ、途中で嫌になったら僕にこそっといってね。僕がとりなすからさ」
ラクアが心配して言っている。
「わかったわ」
とゆりは答えたが、（海の宴会ってそんなに変なのかな？）と疑問に思っていた。
妖精が呼びに来て、ゆりはラクアと一緒に海の神が鎮座していた広間に向かった。
広間には男女が４０人ほど集まっていた。
「ようこそ、ガーベラ様。私はキーネです」
「ようこそいらっしゃいました。私はネルドアです」
それぞれ挨拶してくれて名前を名乗ってくれたが、ゆりにはさっぱり覚えらえなかった。海の神々はそれぞれ細かい役割があるようだが、大体が海の神のようである。
力の強さに差があるようで、海の神の一族の王がマリナールだとゆりは理解した。３０人ほどの男女が神、残りは妖精といった感じである。この場には子供はいなかった。
レヴァーンもいない。大人だけの集いなのだろう。中には中年の男性もいた。
「妖精達の出し物があるから今日は楽しんでいっておくれ」
マイナールがゆりに言っていた。
「ありがとうございます」
ゆりはマリナールの椅子の近くにある椅子に案内された。椅子は真ん中を開けて向かいあって並べられている。椅子の前にはそれぞれ足の長いミニテーブルが置かれて、
ゴブレットや果物が置かれていた。マリナールとエヴァの前にはでかい低いテーブルが置かれている。
「ラクアはあっちじゃ」
マリナールはゆりと反対側の椅子を指していた。
「僕はガーベラの横がいいです」
「いつも引っ付いておるんだから、たまにはよいであろう」
「でもお」
「大丈夫よー」
とゆりがいい、
「そうかい？ それじゃ」
ラクアは本当に切なそうな顔でゆりから離れて行った。
ゆりの横の椅子には中年の男の神が座っていた。口元とあごに短いひげがあり、四角い顔の男である。結構たくましい。その神 の名はシュレンである。真面目そうだが、
「ガーベラ殿の横に座れるとは、うれしいですなあ」
などとうれしそうな顔で言っている。
それぞれが席につき、妖精達がゴブレットにお酒をついでいった。白いお酒である。
「これ、ジンラのお酒じゃないですよね？」
ゆりは横の中年の神に聞いてみた。
「これはここで作ってる酒ですぞ」
「そうなんですか」
マリナールが席をたち、
「では今宵は、美しい女神たちに乾杯！」
と杯をかかげた。みながそれにならい、ゆりも同じように杯をもって立ち上がった。座るとみんな酒を飲みだした。ゆりはお酒を一口なめて「あ！」と驚いた。
まるで甘酒のような甘い味わいである。
（え？ これってお米から作ったお酒？ うまい！ っていうか、こんなところでこんな味に出会うとは！）
ジンラの酒蔵でもおめにかかったことがない代物である。あまりにおいしかったのでゆりは一杯飲み干していた。
「ガーベラ殿、先は長い、ゆっくり飲んだ方がいいですぞ」
シュレンが忠告してくれた。
「あの、このお酒は何の原料でできてるんですか？」
「これは米からできておる」
「米？ お米がこの世界にあるんですか？」
「人間界から献上された米で妖精が作っておる」
「えーそうなんですか？」
どうやら人間界にも米を栽培している地域があるようだ。
「どの国から献上されてるんですか？」
「南にある島の一つで、海の一族が住んでいる国じゃ」
「へーそうなんですか」
蛇の国がある大きな大陸以外にも小さな島がいくつかあるのだが、その一つのようである。
うーん、そこまで行くのは無理だわ。しかし米を作ってるところがあるなんて……
「ここではいつもこれを飲んでいるんですか？」
「そうではないぞ。ジンラが作った酒ももちろんいただいておる。乾杯はこちらの酒でして、二杯目からはぶどうで作られた酒を飲むのだよ」
妖精が酒を持ってきてくれた。
「私は白いお酒をもう一杯ちょうだい」
ゆりが頼むと、妖精は白い方をついでくれた。
ああうれしいなあ……にごり酒ってこういう感じなのかな。私あっちでは甘酒しか飲んだことがなかったからなあ……
「シュレン様、この席って途中で変えるんですよね。そこずるくないですか？」
他の男の神から声が飛んでいた。
「我々もガーベラ様と話がしたいですよ」
「うるさい。そなたらは彼女が妬くだろうからやめとけ」
とシュレンが言うと、男たちは「ぶーぶー」言っていた。
３人の女性が真ん中にやってきて踊りだした。胸と腰から下は超ミニスカートをはき、長い布を羽衣のようにもって踊っている。
派手な化粧もした妖精達である。
「待ってました！」
と声が飛んでいた。後ろの方では笛の演奏や、小さな太鼓をたたいたりしていた。
しばらくすると踊り手が変わった。今度は胸にでかい貝殻をつけていたのでゆりは内心（おー！）と声をあげそうになっていた。
貝殻のブラジャーだ！ 初めて見た。すごい！ だいたーん！
「おー」
「いいぞー！」
男性陣がすごく盛り上がっている。
ゆりはちびりちびりと二杯目を飲みながら、妖精の出し物を興味深気に眺めていた。
踊りが終わり、真ん中に３人の男の妖精がやってきた。ゆりに相手をしてほしいと言った、あの３人である。
３人のオバカトリオじゃない。何をするのかしら？
と思ったら、３人で組体操のようなことをし始めたので、ゆりはかなりびっくりしていた。
なんか、すごく懐かしい……
一人がもう一人の肩の上に乗ったり、その上で逆さになったり、宙がえりをしたりと、サーカスのような技である。
それが終わると、「物まねをします」と一人が言い出した。
「誰のものまねでしょうか。お前たち！ いつもいっとろうが！」
男は顎をなでながら怒っているしぐさをしている。
「シュレン様〜」
と誰かが言って、「正解」と男が言った。
「次は……」
どうやら内輪ネタのような物まねが続くようである。
ゆりと離れた所にいたラクアは、（客を呼んでなぜ内輪でしかわからない出し物をするんだろう）とわけがわからなかった。
（ガーベラもそろそろ退屈してくるんじゃないかな？）
などと思ってみると、ガーベラ姿のゆりは結構笑っていた。
（むっちゃ楽しそうだな。そんなに楽しいかな？）
ラクアは物まねを見たが、全く笑えない。
ゆりも物まねのネタはわかっていなかったが、このぐだぐだした感じが懐かしく、ついみんなと一緒に笑っていたのだった。
忘年会ネタみたいでおもしろーい！ こっちで物まねとか初めてみたわ！
男たちのネタが終わり、休憩になった。
すると男の神が近づいてきた。
「ガーベラ様、今のうちに席を変わりましょう」
「そうですよ。行きましょう」
などと言っている。
「ちょっと待った、私たちはガーベラ様に大事なお話があるの。ガーベラ様、ちょっとこちらに来てくださいませ」
「はあ」
ゆりは３人の若い女神たちに連れられて、違う部屋に移動した。
一体なんだろう。へそを見せたんで怒ってるとか？
ゆりがちょっとびびって狭い部屋に入ると、女神たちは、
「ガーベラ様、頼みがあるんですわ」
「どうか閨での技を伝授してください」
「お願いします」
と３人は頭を下げていた。
「え、技？」
「私たちも、男を体で虜にしたいんですわ」
「どうか」
３人は大真面目にゆりに頼んでいた。ゆりは返答に困り、頬をぽりぽりかいている。
「いやーわざと言われても……たまには体位とか変えてみると新鮮かも？」
ゆりは言いながらも（私は一体なにを言ってるんだか……）とかなり恥ずかしかった。
「男の人はどういう体位が喜ぶんでしょうか？」
一人が真面目に聞いてきた。
「さーそれは人それぞれだし……たまには大胆に上に乗ってみる、とか？」
ゆりは言いながらもそろそろと扉の方に移動していた。
「そんなことできるかしら」
と女神の一人は頬を染めている。
「私はこれで」
ゆりはさっさと部屋を出た。
あーあせったわーまさかあんなことを聞かれるなんて……
元の広間に帰ろうと廊下を歩いていたら、グレンによく似たワイアットに出くわした。彼は広間には座っていなかった。グレンのように宴会には参加しないのだろう。
「ねえ、さっきグレンがしたことを許したとか言ってたでしょ？ なんのことをいってたの？」
ゆりはせっかく出会ったので聞いてみた。
「ああ、わからないのなら、わからないままの方がいいですよ」
「気になるじゃないの」
「はあ……グレン殿の幸せを一時味わえるというのなら、教えますよ。なんでも」
ワイアットはちょっと微笑んで言った。
「そういう取引はしませーん」
ゆりはあっさり返した。
「そうですか。残念ですね」
ワイアットは残念そうでもなく言っていた。
どうも試されてる感強いな……こっちでのガーベラの評価って一体……
「ねえ、こっちではさ、私のように恋人がいっぱいいる人っているの？」
「あまりいないですよ。表向きは」
「表向きは？」
「こっちはそちらほど開放的ではないもので」
「そうなんだ。愛欲の女神だからってあんまり誤解されたくないんだけど、私はだれとでもほいほいしないのよ」
ゆりはガーベラを擁護するためにも言っていた。
「わかってますよ」
「ならいいけど」
ラクアが廊下を歩いてくるのが見えた。
「ガーベラ、大丈夫かい？」
「大丈夫よ。ねえ、彼グレンに似てるでしょ？」
「彼も伝令神なんだよ」
ラクアがワイアットをちらりと見て言った。
「聞いたわ。それじゃね」
ゆりはラクアと去って行った。
「ねえガーベラ、そろそろ部屋に戻りたいんじゃないのかい？」
ラクアはまだ心配しているようだ。
「まだ大丈夫よ。そんなに酔ってないし」
「退屈じゃない？」
「楽しいわよ」
今度はどんな宴会芸を見せてくれるんだろう？
ゆりはそっちに期待していた。
人間界では夜になっている。ラクシュミは決心してゆりの部屋に行ってみたものの、部屋にも寝室にも誰もいなかった。自分の寝室に行くと、ベッドに座ってガーベラがいた。
もちろん姿はゆりである。
「王様」
ガーベラはベッドを下りてラクシュミに抱き着いていた。
「なんですぐに私のところにきてくれなかったんだ？」
「びっくりさせようと思ったのに、知ってたの？」
「知ってた。男たちといちゃいちゃしてたろ」
「王様とは夜ゆっくり過ごそうと思って……」
「レーヌはどうしたんだ？」
「ラギ君に預けちゃった」
「そうか」
ラクシュミはレーヌをあやしているラギを想像したのか、ぷっと笑っていた。
「王様、こっちに来て」
ガーベラはラクシュミをベッドに誘って座らせ、抱き着いて口づけていた。
「今日はどうしたんだ？」
いつもはしないことなので、ラクシュミはちょっとびっくりしていた。
「王様が好きだからキスしてるの」
「私よりミカエルの方が好きなんじゃないのか？」
「そんなことないわよ」
「儀式では私にはあんまり何もしなかっただろ？」
「そうだっけ？ 覚えてないわよ。今、いろいろしてもいいけど」
ガーベラがまっすぐラクシュミの目を見て言いだした。
「…………」
「っていったら、王様はどうする？」
「うーん……」
「悩んでるの？」
ガーベラはくすくす笑っている。
「抱いたら、それっきりもう会えないような気がするな。だからやめとく」
「……そういう真面目な王様って好きよ。ちゃんと竪琴も用意してあるわ」
「うれしいな」
ガーベラはベッドの下に置いてあった竪琴を持ってきた。
「うまく弾けたらちゅーしてね」
「あ、ああ」
ガーベラはラクシュミの横で竪琴を奏でだした。
そのころジュノーは、ラクシュミがガーベラを抱いたのか、それが気になってなかなか寝られず、
─お前はどっちだと思う？ 王はガーベラを抱けたのかな？
とヴィラに思念を飛ばし、
─うるさい。寝ろ
とヴィラに返されていたのだった。
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