第7話
胸をまさぐられる感触でゆりは目を覚ました。服の間に手が入り、胸がじかに触られている。
王様ったらこんなことするなんて珍しー……
などと思いながら目を開けて横を見ると、青い髪が見えた。
「え！ わっ！」
ゆりはびっくりして身体を離している。
「わっ！」
と相手も驚いて胸から手を離していた。
「ラクアだ」
「誰だと思ったの？」
ゆりの横にいたのはラクアだった。ラクアに胸を触られていたようだ。
そうか。まだ神の国で海の方にいるんだっけ……すっかり寝ぼけていたわ……
ラクアは再び身体を近づけて、胸元に手を突っ込んできた。
「ガーベラの体って本当に柔らかいね」
「えーと、ずっと横にいたの？」
「いたよ」
「そ、そうなんだ」
ラクアの手が胸をなでまわし、そして肩から服がずらされて、豊満な胸があらわになった。下着などつけなくても見事に重力に逆らう胸のふくらみである。
ラクアは桜色の先端部分を指でもてあそんでいた。
「綺麗だね。ガーベラ」
「あのー……」
「昨日は君があんな恰好をするからみんな興奮してたよ」
「私なんか変な格好したっけ？」
「おっぱいに貝つけてたろう？」
「おっぱいに貝？ ……そういえばしたかも」
ゆりは今更ながらにそれを思い出していた。
……どうかガーベラ本人にばれませんように……
ばれたらさすがに本人に怒られそうである。アシュランの宴会では絶対できない恰好だ。
「昨日は酔ってたからつい、あんな恰好しちゃった。なんか私もしなきゃって思って……」
「イソギンチャクの真似をしてたよ」
「イソギンチャク？ そうそう、イソギンチャクかクラゲか迷って、イソギンチャクにしたの」
「どうしてその二つで迷うんだい」
ラクアは笑っている。
「昨日海で見てイソギンチャクが綺麗だったから。ところで、なんだかおなかがぐるぐるいってるんだけど……」
「そういえば、聖水置いたままだった。一応飲んでおきなよ」
ラクアがようやくゆりから離れた。朝から刺激的である。服を着ようとしたら「そのまま」と言われた。
ゆりは聖水が入った杯を渡された。飲もうとしたらラクアがくっついてきて、胸に顔を寄せてきた。
「わっ！」
「僕は君を愛でたい」
ラクアは胸のふくらみにキスしてきた。
「こ、これじゃ飲めないよー」
「頑張って飲んで」
ゆりは杯に口をつけようとしたが、胸がこちょばゆくてなかなか水が飲めなかった。
「口移しで飲ませてあげようか」
「えー」
ラクアはゆりから杯を奪うと水を飲み干し、本当に口移しで水を飲ませてきた。
わー！ わー！
「んー」
冷たい水が口の中に入ってきて、ゆりはそれを飲み干した。
聖水って、なんの味もないんだ……
などと思ってる間にも、ラクアはゆりの体を抱きしめて、熱烈にキスしてきた。
「ガーベラ、しよう」
「ええええ！」
「じゃあ足開いて」
「はあああああ！？」
ゆりがあまりに騒いでいたので、ラクアの方がびっくりしていた。
「どうしたの？」
「いや、だって、急にそんな……」
「変なガーベラだね」
ラクアはゆりの顎に指をかけて顔をあげさせて、間近で顔を眺めていた。すると、女神の頬がみるみるうちに赤くなってきた。
「ガーベラ……本当にどうしたんだい？ なんか真っ赤になってるよ？」
「いや、その……朝だし」
真っ青な瞳を近くで見ていると、ゆりは心底恥ずかしくなっていた。ラクアとこうしてからむのも久しぶりである。
ラクアはガーベラの恋人達の中では、外見はサントスについで若い方である。だが、最古参の神であることは間違いない。
ゆりの抱くラクアのイメージでは、ラクアはラーズと同じように陽気な男だったが、以前人間の子供に罰を与えたように、厳しい一面も持っているようだ。
青い瞳は心を見透かすようで、じっとみつめられるとちょっと怖い気もする。
「それに、ほら、あの儀式で、すっかりラクアもそんな気がないかなーと思ってたから」
「しばらくなかったんだけどね、昨日のおっぱい貝殻をみたら、その気になっちゃったよ」
ガーン！
「あれ、そんなにすごかった？」
「すごかった」
ガガーン！
「あの貝殻、持って帰ろうか。あれを見たら燃えそうだ」
「いや、それだけは勘弁して.。もうその話はなしなし」
「まあとにかくやろう」
ラクアがゆりの足に触れようとしたとき、「カカサマー」という子供の声が聞こえてきた。
二人の女の子が部屋にやってきて、ゆりはすばやく胸を隠していた。
「やあ、おはよう、ユリアナ、イオナ」
ラクアは二人を順番にだっこして頬にキスしていた。
「おはよー」
ゆりも二人を抱きしめた。
「君たちも完璧にかわいらしいよ」
ラクアは先ほどとはうってかわって父親の顔になっている。
「ねえラクア、私たちって、いつ帰るんだっけ？」
ゆりはラクアに肝心なことを聞いていなかった。
「そうだね。君さえよければ、もう一晩って言われてるんだけど、どうする？」
「私はかまわないけど」
「じゃあ明日帰ろう」
「今日もあそぶー」
「遊ぶ遊ぶ！」
ユリアナとイオナはうれしそうだ。
「海は広いから、遠くにいっちゃだめよ」
ゆりはつい心配になって言った。
「はーい」
「はーい」
二人は片手をあげていた。二人とも大きい瞳はきらきらしていて、まるで宝石のようである。
「ほんと、なんてかわいいのかしら」
「だよね。だよね。かわいいよね」
ラクアはでれでれである。
「いこうよー」
「服を着替えるから待っててねー」
「早くきてねー」
二人は部屋を出て行った。
「じゃあ、今夜愛し合おうね。ガーベラ」
ラクアはゆりの頬にキスして寝室を出て行った。
「今夜……」
しまった、帰るっていえば、そうならずにすんだのに……でももう帰っちゃうのはもったいないし……せっかくだからもう一晩いたい！
昨日の生のホタテを思い出し、ゆりはつい帰りがたくなってしまったのだった。
まあ、為せば成る、かな？ ラクアとは子供をつくった仲だし……でも恥ずかしいなあ……
ラクアのことは好きなので、いざとなったらそうなってもいいとは思うのだが、想像するとかなり恥ずかしい。
ゆりは服を着替えて腰帯を巻いた。
「まだおなかがちょっと変。やっぱりあんまり変わったものを食べない方がいいのかな。神様って、ほんとつまんないわねー」
ゆりはぶつぶついいながら、部屋を出て行ったのだった。
さて、人間界では、ガーベラは朝目覚めたところだった。
あっちの私は楽しんでるのかしらねー。長い宴会にうんざりしてるかも？ ふふっ
まさか自分が海の神殿でおっぱいに貝殻をつけて踊っていたとは思いもよらないガーベラである。
横を見るとラクシュミは目を開けていた。結局、軽い口づけくらいで終わった夜だった。
「おはよー王様」
「おはよう……今回はいつまでいるんだ？」
「うーん、今日か、明日か、わからないけど」
「そうか、あっちでゆりは一体なにをしてるんだ？」
「私が嫌な場所に代わりにいってもらっちゃった」
「嫌な場所？」
「そう。帰ったら話を聞いたらいいわよ」
ガーベラは言いながらラクシュミに顔を近づけた。
「朝のちゅーをして。王様」
「あ、ああ」
ラクシュミは軽く唇を合わせた。
やっぱり、女神が人間の恋人を奪うってわけにもいかないわよねー……
以前はばれていなかったのでつい抱き合ってしまったが、ばれた今となっては、ガーベラも強引にラクシュミを誘惑するってわけにもいかなかった。
それにラクシュミが自分に抱いている女神像を壊すのもあんまりしたくない。
王様とはこれくらいでいいか〜でも、せっかくだからもうちょっといろいろしたい。せっかくだし〜
ガーベラは悩みながら、朝の支度をして食堂に行った。
「おはよーみんな。朝のちゅーしてほしい人ー」
「「はーい！」」
ラギとシスが真っ先に手をあげていた。続いてミシェイラも「はーい」といっている。
ガーベラはラギ、シス、ミシェイラにちゅーして、アナスターシャやナナミ、ロイの頬にもちゅーしていた。そして侍女が抱いて連れてきていたレーヌにもちゅっとキスした。
（やった、まだガーベラ様だー！）
ラギもシスもうれしそうである。
ガーベラは自分の席につき、自分の席に置いてある食事を眺めた。皿の上にはハムと葉物野菜、トマトが置かれていた。パンは別の皿に置かれている。
ガーベラはフォークを手にとり、ハムにさしていた。
（あれ？ 食べるのかな？）
ラギとシスはついガーベラに注目していた。ガーベラはハムをちょっと上にあげて、「これなに？」とラギの方を見て聞いていた。
「ハムだよ」
「ハム？」
「ブタラの肉だよ」
「ブタラ？」
ガーベラはしばらくじーとハムを眺めている。ラギとシスはどきどきしながらガーベラを見つめ、アナスターシャは「母様ったらどうしたの？」と聞いていた。
「ロイちゃん、あげる。ハム」
ガーベラは横の席にいたロイの皿にハムを移していた。
「いいな。ロイ」
シスがつい口に出し、側にいた侍女が「もっと食べられます？」と反応していた。
「いや、いいんだ」
「今日のカー様も変だね」
ロイが言った。
「ねえ、もう一人のカー様」
ロイが言い、シスもラギもどきりとした。
「ごめんね。もう一人のママは休養中なの」
ガーベラはまったく動揺せずに答えていた。
「休養中？」
「つまり寝てるの」
「ベツマーまたねてるの？」
ミシェイラが聞いた。
「明日か明後日には起きるからね」
「そうなんだ」
ナナミもたいして気にとめてないようなので、シスとラギはほっとした顔をしていた。
「母様って、もう一人の母様が寝てるとかわかるのね」
アナスターシャが言った。自分の母親が精神的に追い詰められている状態ならばアナスターシャももっと気にしただろうが、目の前にいる母親はちょっと変程度だったので、
そんなには気にならないようである。
「そうなの。わかるの」
「ふーん。ご馳走様でした」
アナスターシャは食堂を出て行った。ガーベラは野菜とパンを食べていた。ラギもシスも、じっとそれを眺めている。
朝っぱらからどきどきしっぱなしの二人である。
「どうして二人とも母様をじっとみてるの？」
ナナミがラギとシスに聞いていた。
「え、そうかな？」
「そんなことないよね」
「ないない」
二人はあわてて食事を食べていた。
ナナミとロイがいなくなったところで、ガーベラは二人に、
「ねえ、ハザーク様って私のこともう知ってる？」
と聞いた。
「どうだろう。まだ知らないかも」
シスが首をかしげながら答えた。
「そう。じゃあ黙っててね」
「うん」
王妃の部屋に戻ったガーベラは、こっそり持ち込んだ液体を飲んでいた。前回同様栄養剤のようなものである。
「お肌もつるつる〜」
ガーベラは姿見鏡の前で回っていた。
その後、ガーベラはハザークの部屋にやってきた。ハザークの部屋にはミシェイラもやってきていて、侍女と遊んでいた。
「あれーマーかみちがう？」
「ちょっと変えたのー」
ゆりのストレートの髪は、前髪も後ろの髪も、軽くウエーブがかかっていた。
「どう、似合う？」
ガーベラはハザークに聞いている。
「ああ、たまにはいいな」
「本当？」
ガーベラはハザークの横に座って、（二人きりになりたい）とこそっと耳打ちした。
「ん？ じゃああっちに行くか？」
「うん。ミーちゃん、パパちょっと借りるね」
「あい」
ガーベラはるんるんでハザークと手をつないで寝室に行っていた。
そして扉を閉めるなり、「ハザーク様〜」とガーベラはハザークに抱き着いていた。
「ねーハザーク様、愛し合いましょ〜」
「ん？ 朝からそういう気とは珍しいな。んじゃしよう」
ハザークはあっさり言って、ガーベラは「やった♪」と服を脱いでいた。
すっかり裸になるとベッドにあがり、ハザークはそのままガーベラの上に乗っていた。
いつものごとく、ハザークはあまり前戯らしいこともせずに、ガーベラの上に乗り、身体を挿入していた。
すでにガーベラは興奮状態にあったのか、難なく受け入れている。
「あ……ああ……」
「王妃……」
ハザークが動くと、ガーベラは喘ぎ声をあげていた。
「今日はすごくしめつけてくるな。もういきそうだ……」
「あん、もうちょっとがんばって」
ガーベラはハザークの腰に足を回してしがみついていた。
「気持ちいい。ハザーク様、素敵」
「そ、そうか……我も気持ちいい……」
ハザークは達し、体を離した。
「王がまだその気じゃないのか？」
「え？ そういうわけじゃないけど……いや、そうかも」
ガーベラはハザークにひっついて唇をあわせ、舌をからめた。
「すきー」
ガーベラはハザークごと倒れこんで寄り添っていた。
（王妃は朝から元気だなあ。あっちの王妃のような感じでもあるが……）
落ち着くとハザークは、
「もう一人の王妃」
と呼びかけていた。ガーベラは目をぱちくりさせている。
ハザークもおや？という顔つきだった。
「ごめんね、今もう一人はいないの」
「え？」
「そのうちに戻ってくるからね」
「…………」
ハザークは微妙な顔つきになっていた。
─王……王妃なんだが……ちょっとおかしくないか？
─ああ、今３人目になってるぞ
「あー！！」
ハザークは驚いてガーベラから体を離していた。
「どうしたの？」
ガーベラもびっくりしている。
「……ガ、ガーベラなのか？」
「え？」
「…………」
「もしかして王様に聞いたの？ もー」
ガーベラは頬をぷんと膨らませていた。
「一体何考えてるんだ？」
ハザークは怖い者でも見るような顔つきになっていた。
「何って、ハザーク様としたいって考えてるの」
「はー？」
「ガーベラだって思わなくていいの。私は３人目のゆりよ。３人目の私も、ハザーク様としたいの。それだけよ」
「それだけって言われても……どうしたんだ？ 前回はこんな風じゃなかったじゃないか」
「だって、この前の儀式でハザーク様としたから、またこうなりたくて」
ガーベラはあっさり言っていた。
「みんなくどいてるのか？」
「ううん。彼女と恋人達の関係って、なんか特殊でしょ？ 恋人だけど、最後までしてないって。でもハザーク様はしてるからいいでしょ。だってミーちゃんはハザーク様の血が入ってるんでしょ？」
「じゃあ王も？」
「王様は、私に対して憧れの気持ちを抱いてるし、彼女が特別に思ってるから、しないほうがいいかなーって。だからーハザーク様としたいの」
ガーベラは足をのばしハザークの太ももをすりすりなでていた。ハザークはガーベラの足と顔を交互に眺めている。
「いや、しかし……我だって結構憧れの気持ちを抱いているんだが……」
「じゃあ今の私は別だと思って憧れの気持ちを抱いてて」
「えー」
「次はどうやって抱かれようかなー」
「えー……」
「私が上ー」
ガーベラはハザークの膝の上に乗っていた。ハザークは戸惑いすぎて蛇に変わってしまった。
「もーハザーク様ったら」
ガーベラはハザークの胴体に足をからめた。そして蛇の胴体に股間を摺り寄せている。
これにはハザークも驚いた。
「こ、こら、なんてことを……女神がそんなことをするな」
ハザークは思わず人に化けていた。
「だって、ハザーク様が逃げるから悪いんだもん」
ガーベラはまったく悪びれる様子もない。
「悪いんだもんって……いっぱいあっちに恋人がいるくせに、どうしたんだ？」
「ハザーク様も恋人だもん」
ガーベラはハザークの胸に寄り添った。
（王妃以上にわけがわからん女だ……）
これがあの美しいガーベラと言われてもまったくぴんとこない。
（だが、女蛇が入ってるわけでもないし、やっぱりガーベラなのか？ うーん……だが、考えてみればガーベラは愛欲の女神だしな……）
「我は、神と比較されるのは嫌だ。自信もないし」
「さっきはとっても気持ちよかったわよ？」
「本当か？」
「本当よ。ハザーク様ってとっても素敵」
「そ、そうか」
ハザークはちょっとうれしそうだった。
「だからもっと気持ちよくなりたいの」
ガーベラに甘えるように言われて、ハザークもまんざらでもなかった。
「なあ、あの儀式とやらで、本当に我はガーベラと抱き合ったのか？」
「そうよ」
「こんな風に、王妃に入ってたのか？」
「たぶん。でも私だけじゃなくて彼女もいたと思うわよ」
ガーベラはハザークに口づけした。その手がハザークの下半身に触れていた。かなり絶妙な感じで触っている。
「……本当に我としたいのか？」
「うん」
「……わかった。じゃあ、うつぶせになってくれ。後ろからしたい」
ガーベラは素直にシーツの上にうつぶせになっていた。
ハザークはガーベラの上に覆いかぶさり、片足をまげさせて自分の体を挿入した。
「あん……」
奥まで挿入すると、ガーベラが声をもらした。
「はあ……あん……」
「はあ……ああ……」
ガーベラはシーツを握りしめている。
（頭が混乱しそうだ。女神だといわれてももうわからんし……芝居をしてる風でもないし、本当に感じてるようだ。それはうれしいが……」
「ああん……もっと！」
部屋の中は花のような匂いが漂っていた。
ハザークは奥までつきあげた。同時にガーベラも興奮の絶頂を迎えていた。
「ハザーク様、好き」
ガーベラは体をくるりと回転させて、ハザークに抱き着いた。花の匂いはきつくなっていた。
「ハザーク様、私のこと好き？」
「ああ、好きだ」
「うれしい」
ガーベラは本当にうれしそうだったので、ハザークはまた戸惑っていた。
（なんだか、王妃がガーベラになってもばれない理由が、今ようやくわかった気がする。王に言われてもぴんとこなかったが。ガーベラって女神もかわってるんだな。
どうして我を「様」づけで呼んでるのかわけがわからんし……だが、愛らしくはあるな）
素敵だとか散々よいしょされたので、ハザークは悪い気分ではなかったようだ。
一方、夜中いろいろ想像していたジュノーは、どうしてもラクシュミに昨晩のことを聞いてみたかったのだが、自分で聞くのもいやだったので、ミカエルに頼んでいた。
ミカエルはあっさり王の間にて、「昨晩は王妃をかわいがったんですか？」と聞いている。
「え？ いや」
「そうなんですか？」
─抱いてないって
ミカエルが素早くジュノーに思念を送ると、
─遠慮せずに抱いた方がいいですよ。我々は、王妃には告げ口しませんから！ といってください
とジュノーから思念がかえってきた。
「なんかジュノーがわけがわからんことを言ってるんですけど、王妃を遠慮せずに抱いた方がいいとか」
「はあ？」
「王妃には告げ口しませんっていってますけど、意味わかります？」
「さあ、ところで、なんでジュノーはお前を挟んで話してるんだ？」
「直接言えないみたいですよ」
「変なやつだ」
ラクシュミは苦笑していた。
ガーベラはハザークと別れた後、水浴して自分の部屋に戻っていた。シスとラギは、ガーベラが何をしているのか気になるようで、時々部屋を見に来ている。
部屋にイシュタールがやってきた。イシュタールはガーベラを見て、
「お、おはようございます。あのー何か困ったことはなかったですか？」
と離れた所で聞いていた。
「大丈夫よ。なんでそんなに私を警戒してるの？」
ガーベラはおかしくなって笑っていた。
「警戒はしてないですよ」
「じゃあもっとそばにきてよ」
「はい」
イシュタールはぎくしゃくしながら歩いてきた。
「ダーリンってばもう。えーと、あと誰に会ってないかな。シャナーンに会ってないわ。シャナーンって、今日忙しい？」
「聞いてみますね」
イシュタールはシャナーンに聞いてみた。
その時シスとラギが部屋に入ってきた。
「母様、天気もいいし、午後ちょっとみんなで外に出ようよ」
「うん、いいよ」
ガーベラが了承すると、二人ともうれしそうだった。
「シャナーン、２時から３時くらいならあいてるそうですよ。シス様、外に行かれるならシャナーンと合流してください」
「わかった。僕が言っておくね」
「ダーリンはこないの？」
ガーベラはイシュタールに聞いた。
「私は午後は仕事なので、これで」
イシュタールはささっと離れて部屋から去って行った。
「イシュタールってば逃げなくてもいいのに」
ラギが笑っている。
「別に取って食ったりしないのにね。お外かあ。せっかくだからおめかししましょう。ねえ、王妃様の服がいっぱいあるところってどこ？」
「案内してあげるよ」
ガーベラは子供達と一緒に外に出て行った。
午後、昼の休憩が終わったラクシュミが王の間に入ると、ゆりに入ったガーベラがやってきた。
「すごい恰好をしてるな」
ガーベラは派手なドレスを着ていたのでラクシュミは驚いていた。緑のサテンのドレスで、胸元は結構開いている。腰から下は段になってフリルがたくさんついていた。
袖の部分にも白いフリルがついている。頭の右上には小さい帽子が乗っていた。緑の帽子で、造花でかざられている。
「似合う？」
ガーベラはドレスの裾をもって回ってみていた。
「こういう身体を締め付ける服って着たことないから着てみちゃった」
「似合う」
「王様もいければいいのに。残念」
「楽しんでこい」
「うん」
ガーベラは王の間を出て行った。すると外でハインリヒに出くわした。
「あ、お、王妃……」
ハインリヒはガーベラを見るなりびくついていた。
「あら、どう？ 似合う？」
ガーベラはまたポーズをとっていた。
「すごい恰好ですね」
「お外に行くからこれくらいは」
子供達がぞろぞろやってきた。侍女のミラがレーヌを抱いていたので、ガーベラがレーヌを受け取った。
「レーちゃん、一緒にお外に行きましょう」
「きゃはは」
レーヌはうれしそうである。
「アーちゃんは？」
アナスターシャだけいなかった。
「姉様はプリモを連れて行くって、それじゃいこうね。ハインリヒ、どうしたの？ ぼーっとして、行くよ」
「あ、はいはい」
シスとハインリヒの間にみんな入り、一同は瞬間移動した。
一同がやってきたのは崖の上の原っぱだった。シスとラギは草の上に大きな布を置いて、荷物を置いていた。
「お母さん、座っていいよ」
「ありがとう」
ガーベラはレーヌを抱っこしたまま布の上に腰を下ろした。
いい風が吹いている。
「ヒヒーン」
という馬のいななきが聞こえてきた。アナスターシャがプリモに乗ってやってきたのである。
「まあ、面白いペガサスねえ」
ガーベラはプリモの柄を見て驚いてた。プリモはアナスターシャを乗せたままとことこ歩いている。ロイとナナミはその周りを走っていた。
「あの子どうしたの？」
ガーベラがラギに聞いた。
「お母さんが神の国でもらってきたんだよ。神の国にはああいうペガサスは置いておけないんだってさ」
「えー？ そうなの？ そういえばああいうのは見たことがないわねえ。どうやってもらったの？」
「ハロルド様がくれたんじゃないかな」
「そうなの」
（愛の贈り物ってわけね。ふっ。ハロルドにしてはかわいい贈り物ねえ……）
ガーベラはにやにやしていた。
傍らでは、ハインリヒが座ってガーベラをじ―とみていた。
「どうしたの？」
ガーベラが顔を覗き込んで聞くと、ハインリヒは瞬いていた。
「いえー、そのー髪、似合いますね」
「ありがとう」
レーヌがうにゃうにゃ動きだした。
「草に触ってみる？」
ガーベラがレーヌを草の近くに移動させてやると、レーヌは草をいっぱい引っこ抜いていた。
「きゃっきゃ」
「楽しいの？」
「きゃはは」
「よかったわね」
「マー、これで何かつくって」
ミシェイラは野花をいっぱい摘んできていた。
「はーい」
ガーベラは花を受け取ると、器用に花のネックレスをつくってミシェイラの首にかけた。
「わーい」
その時シャナーンが現れた。
「こんにちは、皆さん」
「こんにちは」
子供達が挨拶を返した。
「それじゃ私はこれで」
ハインリヒはシャナーンと交代するように去って行った。
「ドレスを着られるなんて珍しいですね」
シャナーンは王妃の王妃らしい姿に驚いているようだ。
「たまにはいいでしょう？」
「素敵ですよ」
「ありがとう。今日のシャナーンも素敵よ」
「ありがとうございます」
「マーもっと作って」
ミシェイラが花をいっぱいもってきて、ガーベラは今度は花の腕輪を作ってミシェイラの腕につけていた。
「あなたにもねー」
レーヌの腕にもかわいいのをつけている。
シャナーンは横でそんな王妃をほほえまし気にみていたが、やがてちょっと微妙な顔つきになってきた。
ロイはあたりを飛び回り、ナナミはアナスターシャと一緒にプリモに乗ってあたりをとことこ歩いたり、ちょっと飛んだりし、ミシェイラは周りをぴょんぴょん飛び跳ねていた。
ラギとシスはガーベラの近くで幸せそうな顔で座っている。
「子供が多いって楽しいわね。数年すれば、レーちゃんもああして飛び跳ねたり走り回ったりするのね」
人の生は短く、あっという間に成長して、気が付けば大人になって……人間にとっては一日一日が貴重だわ
ガーベラは子供達を見ながらそれを実感していた。
シスとラギはシャナーンがずっと黙っているので、ゆりじゃないとばらした方がいいのかどうか悩んでいた。
「ねえーマー昨日のあれやろうよーおどるやつ！」
ミシェイラがねだっている。
「いいよーやろう。あなたたちもきて、シャナーンも」
ガーベラは「やだー」というロイはほっておいて、子供たちを集めて、輪になった。
「ロイ。プリモみてて」
「わかったー」
アナスターシャに頼まれたロイはプリモの背中に乗っていた。
「じゃあ踊りましょう。シャナーンも一緒に踊ってね。手をつないで回って〜」
シャナーンはかなり戸惑いつつ、子供たちと手をつないで踊っていた。ガーベラはレーヌを抱っこしている。
「右〜左〜一回回って〜」
「ぐるぐるー」
とミシェイラはうれしそうだ。
「そんな感じ。じゃあ歌を歌うから合わせておどってねー今日も〜素敵な〜一日が〜始まる〜♪♪」
ガーベラは動きながら歌いだし、子供達は回ったり手をたたいたりし、シャナーンはみようみまねで踊っていた。
（うーん、なんか王妃ではないような気がするんだけど……王妃なのだろうか？）
シャナーンはやはり疑問に思っていたようである。だが、何か問題が起こっているわけではないので黙っていた。
「ララランランランラン〜♪」
歌が終わると、ミシェイラが「もっと」とせがみ、もう一度踊っていた。先ほどとは歌が変わっている。
「今日の母様の歌、上手ね」
アナスターシャが思わず言っていた。
ひとしきり踊り子供達は持ってきたおやつを食べていた。マフィンである。ガーベラはおやつは食べずにレーヌと遊んでいた。
ガーベラがいろんな花を見せるとレーヌはよろこんで花をつかんでいた。
「王妃は食べないんですか？」
シャナーンが聞いた。
「うん。私はいいの」
シャナーンはガーベラを見ていたが、王妃の中身が本人なのかどうなのか、わからなかった。
「今日のカー様変でしょ？ 昨日から変なんだよ」
ロイがシャナーンに言っていた。
「こら、ロイ」
ラギがあわてている。
「変、とは？」
「うーん、よくわかんないけど」
「カー様は変じゃないよ」
ナナミが言った。
「歌が上手な所が変かも？」
とアナスターシャ。
「どういうことですか？」
シャナーンがシスとラギを見た。
「えーと……あとでヴィラに聞いて」
シスは小声でそう返した。
おやつも食べ終わり、シスは「そろそろ帰ろうか」と言い出した。
「えーもう？」
とミシェイラ。
「夕方までいたい」
とロイも言っていた。
「帰ろう。父様も心配してるしね」
「そうね、帰りましょう」
帰りはシャナーンとシスが一同を連れて瞬間移動した。ついた場所はゆりの部屋の中である。アナスターシャはプリモを連れて別で移動している。
「アー楽しかったー」
ミシェイラは喜んでいた。
「これパパにみせてくるー」
ミシェイラはハザークの元に移動した。ロイとナナミは出て行き、
「では私もこれで」
とシャナーンも言い出して、ガーベラはあっさり「またね」と言って別れた。
シャナーンってヴィラタイプみたいね。まあいいか
「母様はこれから何するの？」
シスが聞いた。
「着替えてから、王様が暇だったら何か楽器でも弾いてあげましょう。たまには竪琴以外の楽器がいいわね。笛とかない？」
「僕調達してくるよ」
「じゃあお願いね。脱がすの手伝ってほしいから、侍女を呼んでくれる？ あとレーちゃんもお願い」
「わかった」
ラギがレーヌを預かり、シスと一緒に部屋を出て行った。
私も向こうでももっと子供たちと遊びたくなってきたわ。戻ったら、子供達と遊びましょう
ガーベラは子供たちと触れ合ってそういう気になったようである。
その後、王の休憩室にて、ガーベラは横笛を披露した。シスもラギも今日は午後は休みをもらっている。
ガーベラは立ったまま時々身体を揺らしながら笛を吹いていた。ダイナミックな曲からゆったりした曲まで、やはり見事な腕前である。
シスもラギも感激して拍手していた。
「美しい曲だった。ありがとう」
ラクシュミはお礼を言っていた。
「どういたしまして」
ガーベラはラクシュミの横に座っていた。
「笛っていえば、前にお母さんがラメーンにほめられたっていってたよね」
ラギがそれを思い出していた。
「そうだったね。あれから笛の練習してたよね。うるさいって言われてやめてたけど」
シスも思いだした。
「真面目な話、女神様はお母さんが時々入って困ったことないのかな？」
ラギはどうしてもそれが聞いてみたくなった。
「ないんじゃない？ まあ、神なんてものは生きすぎてるから、なんでも刺激になってるかもしれないけど」
ガーベラは自分で言っていた。
「本当か？ いろいろやらかしてそうだがな」
とラクシュミ。
「そこがまた面白いの」
「やっぱりやらかしてるんだ？」
とラギ。
「でも母様は本当にすごいと思うよ。魅力的だから女神様にもなれるんだよね」
シスが目をきらきらさせて言った。
「そうよ。魅力にあふれてるからよ。それだけは断言してもいいわよ」
ガーベラの言葉に、シスとラギは目を合わせて誇らしげに微笑んだのだった。
一方、夕方ヴィラからガーベラのことを聞いたシャナーンは、「ガーベラ様だったんですか。ガーベラ様って、やはり王妃の次に素敵な女性ですね」と
シャナーンらしい返答をし、ヴィラを苦笑させていたのだった。
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