第12話
「るる〜るる〜るる〜♪」
人間界では、ゆりに入ったガーベラは鼻歌まじりに何かの作業中だった。
20センチほどの高さの円柱のガラスの瓶に水を入れて、ピンクの花びらをその中に入れている。
「何をしてるの？」
部屋で見ていたシスが聞いた。
「美容液を作ってるの。あんまり力は使えないからちょっとだけ」
「美容液？」
「そうよ〜」
時刻は夕方である。子供達は食事を食べた後だった。ガーベラは花一個分の花びらを入れて、ガラスの瓶にふたをした。
「これでよしと」
「明日にはお母さんに戻るのかな？」
ラギが聞いた。
「わからないけど、たぶんね。あ、そーだ。お風呂にみんなで入りましょうよ。いつも女の子いっぱいで水浴してるから、一人ってなんだか寂しいの」
「え、お風呂？ 姉さんたちと入ったらどうかな？」
さすがに恥ずかしかったラギが言った。
「女同士もいいかもね。みんなにいってくれる？」
「わかったよ」
こうしてガーベラはアナスターシャ、ナナミ、ミシェイラ、レーヌまで一緒にお風呂に入ることにした。ぬるいお風呂に入ったガーベラはご機嫌で歌を歌い、
アナスターシャは、「やっぱり今日の母様って歌が上手だわ。どうしたのかしら」と首をかしげていたのだった。ちなみにゆりの侍女たちも（王妃がちょっと変だな）、とは思っていたが、
（王妃がご機嫌で過ごしている分には問題ないだろう）と、誰も口には出さなかった。
さて、その頃ラクシュミは休憩室でまったりと酒を飲んでいたのだが、ハザークが神妙な面持ちで現れていた。
ハザークは、「王、王妃に遠慮しなくていいと思うぞ」などと言っている。
「私は何も遠慮してないぞ？」
ラクシュミはきょとんとした顔で返していた。
「嘘だ。遠慮してるんだろう？ こんな機会はもうないかもしれないんだぞ？」
「ガーベラのことか？ 本当に遠慮はしてないぞ」
「なら今晩仲良くなるか？」
「……さては、ゆりに怒られると思ってるのか？ それで私も引き込もうと思ってるな？」
ラクシュミが思いついて言うと、ハザークはぎくりとしていた。図星のようである。
「別に怒らんだろう。自分で勝手に変わったんだし」
「そうだろうか。浮気者、とか言われないだろうか」
「言わないだろう。しかし、勇気があるな」
「最初は知らなかったんだ。なんだか、女神に対する幻想をことごとく打ち破られた」
「はっはっは。まだ幻想を抱いていたのか？」
「王が言ってたことがよくわかった。二人目の王妃をもっと強烈にした感じだったぞ。だが、愛らしくもあったぞ。だから、今夜、ぜひ、な」
ハザークは懲りずにすすめていた。
ラクシュミはぷっと笑いながら、（今のハザークを３０年前のハザークに見せたいものだ）と思っていたのだった。
神の国、海の神殿では、新しい妖精が誕生し、ラクアとラーズが妖精の名前を決めていた。二人はあーだこーだと話し合っていたが、
やがて「ニイニでいいか」と言い出していた。
「え？ ニイニ？ 安易すぎない？」
とゆりが反応した。
「だって、二人がニイニ、ニイニ、言ってるし」
二人とはユリアナとイオナのことである。お兄さんができたのがうれしくて、二人は妖精にべったりひっついていた。
「二人は『お兄さん』って言ってるだけじゃないの？」
「じゃあガーベラが決めてよ」
ラクアに言われて、ゆりは妖精を見た。
さっきからしきりに二人が「にいに」と言っていたので、他の名前が思いつかない。
「うーん、うーん、ニーニ、ニイニ、ニーヤン」
「ニーヤン？」
ラーズが笑っていた。
「やっぱりニイニでいいかも」
「だろう？ 二人とも、この子の名前はニイニにしよう」
ラクアが言うと、
「にいにはニイニなの？ なんで？ ややこしくない？」
と子供達が言い出した。
「そうかな。違う名前の方がややこしいんじゃない？ 君たちが『にいに』って呼ぶからもうそれでいいかと思って」
「じゃあいいか。ニイニ」
「ニイニー」
自分の名前が決まった妖精の男の子は、うれしいのかうれしくないのか、どうもよくわからない表情だった。
激しいノックの音がして、誰かが部屋に入ってきた。海の神の少年、レヴァーンである。
「ああ、妖精が生まれたと聞いてお祝いにきたんですけど、なんで二人がくっついてるんですか！ 僕がくっつくとひどく怒るくせに！」
レヴァーンは部屋の中をみるなりラクアに訴えていた。
「それは当然だろう。こっちはお兄ちゃんだからいいの」
「ニイニよ」
「ニイニよ、レヴァーン様、仲良くしてね」
二人はきらきらした瞳をレヴァーンに向けている。
「兄と妹、じゃなくて姉と弟でしょ？ 神にはあんまり血のつながりは関係ないのでは？」
レヴァーンは鋭いところを突っ込んでいた。
「ねーラーズ様、そうでしょ？ 近親恋愛なんてよくあるじゃないですか」
「うーん、まあそうだけど、両親共に同じだと、あんまり恋愛感情は芽生えないよ」
ラーズが答えた。
「絶対ですか？」
「君は自分の姉にそういう感情を抱くことがあるのか？」
ラクアが聞き、レヴァーンは「ありえませんね」と言っていた。
「だろ？ 大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないですよ。いや、大丈夫でも、二人が男の子と暮らすのがやですー。ラーズ様、彼はラーズ様が引き取ってください！」
レヴァーンはラーズに詰め寄っていた。
「いや、妖精は自由だからどこにも暮らさないかもよ？」
「一緒よ」
「一緒よねーニイニ」
双子はすっかりニイニと暮らすつもりのようである。
「ああ、二人がもうあんなに彼を慕ってる！ なんてことだ！」
レヴァーンはとにかくニイニにやきもちをやいていろいろいっていたのだが、ゆりは「レヴァーンの姉」のところがひっかかっていた。
あれ？ 私、この子のお姉さんに会ったっけ？
頭の中にはいろいろな女の人の顔が浮かんだが、レヴァーンの姉がだれかわからない。
会って忘れてるわけじゃないわよね。だって、重要人物だろうし、まあだまってよう
実は会っていたらまずいので、ゆりは黙っていることにした。
「さて、レヴァーンがうるさいし、そろそろあっちに帰ろう。みんな帰る支度をして」
「はーい」
「はーい」
「ひどい……」
レヴァーンはいじけている。
「まあまあ、あんまりやきもちやかない方がいいわよ。二人ともまだほんの子供だし、ね」
ゆりはついレヴァーンを慰めていた。
「ガーベラ様、お母さんって呼んでいいですか？」
レヴァーンがジーと見つめて言ってきたので、「それはちょっと……」とゆりはレヴァーンから離れたのだった。
ラクアが「マリナールに挨拶をしてそのまま帰ろう」というので、ゆりは恥ずかしかったが妖精と共にマリナールの元に行った。
「いやーここで妖精が生まれるとは目出度いことだ。よかった」
マリナールは妖精誕生のいきさつについては深く突っ込んでこなかったのでゆりはほっとした。
「いろいろお世話になりました。僕たちはもう帰りますので」
ラクアが笑顔で言った。
「そうか、ではわしが送ろう」
「そうですか？」
「ガーベラ様、これをどうぞ。神殿に飾っていただけたらうれしいです」
男の妖精達がゆりに宝石箱のようなものを渡してくれた。薄い貝殻で装飾された美しいものだった。
「まあ綺麗。ありがとう！」
「ガーベラ様、またいらしてください」
「ガーベラ様、また来てくださいね」
妖精や神たちが見送りに広間にやってきて、口々に言ってくれた。
「ありがとう。楽しかったです」
「また来ておくれ。では送るぞ」
マリナールの力で、ゆりたち一行は、姿を消したのだった。
そのころ海岸では、マリナールの妻エヴァが砂浜に立ち、海を見ていた。浅瀬近くにイルカがいるが、それぞれサンゴをくわえたりしている。
「はー本当に困った子だわー」
それを見ながらエヴァはため息をついていた。
そこにワイアットが飛んできた。
「エヴァ様、ラクア様方はもう帰られました」
「そう。とういうわけだから、あの子に伝えて頂戴。もうガーベラはいないわよ」
エヴァがそういうと、浅瀬にいたイルカたちは海に潜ってしまった。
「……あの子ったら、あれでガーベラがつれると本気で思っていたのかしら？」
エヴァはワイアットに聞いていた。
「はあ、子供ならわかりませんが……」
「そうねえ。ユリアナやイオナなら……まあ面倒なことにならなくてよかったわ。ワイアット、ちょっと様子を見てきてちょうだいな」
「わかりました」
ワイアットは海の上を飛んで行った。
海の上には多数小島が点在しているのだが、近くの島の一つに、小さい神殿が建っている。ワイアットはそこに飛んで行った。
勝手に神殿の中に入ると、わいわい言い合っているのが聞こえてきた。その声を聴くだけでワイアットは帰りたい気分である。
「ひどいわ。よってたかって私の邪魔をするなんて」
「あなたがつまらないことをするからでしょう」
「ガーベラに会いたいって言ったのに会わせてくれなかったじゃない。だからよ。何で邪魔をするのよ。今からでも会わせてよ」
「いやよ」
言い合っていたのは、マリナールの娘でレヴァーンの母親でもあるエキドナと、エキドナの娘、セスティナである。弟のレヴァーンはまだ幼い感じであるが、セスティナは
すでに立派な大人である。長い前髪、背中の真ん中あたりまでの青い髪は下の方だけカールがかかっていた。すらりとした体格の海の女神である。
美女ではあるが、少々きつい顔つきである。額には、金色の台座に青い宝石がついたサークレットをはめている。
「あのーガーベラ様はもう帰られましたよ」
ワイアットは仕方なく口を挟んだ。
「あらそう」
エキドナはほっとした様子だったが、セスティナの眉は潜まっていた。
「ひどいわ。ガーベラに会いたいって言ってたのに。挨拶もさせてくれないなんて！」
「あなたの場合、挨拶だけで終わらないでしょう。というわけだからあきらめて、たまにはこちらの神殿にいらっしゃいよ。みんなで騒げばうさも晴れるわよ」
「……お母さま、肌が輝いているわね」
セスティナは横眼で母親を見ていた。
「あら、そう？」
エキドナは頬に手をあてている。
「わたし、ちゃんと知ってるのよ。特別な美容液をこの前もらって、みんなでわけたんでしょ？ 私が寝てる間に」
「…………」
エキドナは斜め上を向いていた。
「私が寝てる間に使っちゃうなんてひどい。起こしてくれてもいいじゃない！」
「いつも起こすと機嫌が悪いじゃないの」
「だからって私をのけ者にすることないでしょう！」
後ろにいたワイアットは、勝手に去っていいものかどうか迷っていた。
「あ、そうだわ。ガーベラに美容液をもらったから、それをあなたにあげるわ。それでいいでしょう？」
エキドナはそれを思い出し、笑顔を向けた。
「特別な美容液じゃなきゃいやよ」
「あれはもう手に入らないの」
「娘のために残そうって思わなかったの？」
「あなたは若いし、肌もぴちぴちじゃないの。あんなの必要ないわよ」
「今はお母さまの方がぴちぴちしてるじゃない！」
ワイアットは（やっぱり去ろう）と去って行こうとしていたが、「待ちなさいよ！」とセスティナに止められていた。
「何勝手に行こうとしてるのよ」
「何も用はないかと思いまして」
とワイアット。
「こうなったら、意地でもガーベラに会うわ。私が向こうに行く」
「だめよ」
エキドナは速攻で答えていた。
「向こうに迷惑はかけられないの」
「どうして私が行くと迷惑なのよ」
「とにかく、ここでおとなしくしていてちょうだい。美容液をさっそくもってきてあげるから」
エキドナはさっさと去って行き、ワイアットは仏頂面の海の女神と二人っきりになってしまった。
「では私もこれで」
ワイアットも去って行こうとしたとき、「ガーベラ、綺麗だった？ 愛にあふれた感じだった？」とセスティナが聞いてきた。
ワイアットは「美しさでいったらあなたの方が上ですよ」とにこやかに返していた。
「嘘でしょ」
セスティナは睨んでいる。
「嘘です」
ワイアットはあっさり認めていた。
「下っ端の分際で失礼ね」
「どうもすいません」
ワイアットは愛想笑いを浮かべて答えた。
「私はただ、ガーベラとちょっと話がしたいだけなのに、どうしてあんなに邪魔されなきゃならないよ」
セスティナはそれが悔しいらしい。
「…………」
セスティナは海の女神の中では上位にあたる女神であるが、少々性格に難がある。
かなり前の話であるが、ダーナがこちらに遊びにきたことがあった。
その時セスティナはダーナにかなり長い議論をふっかけて、しまいにはダーナはたじたじになり、退散している。あれ以来ダーナはこちらに来ていないので、
あれがかなり嫌だったのではないか、とこちらの面々は思っている。
その話の内容も、「愛について知りたい」というものから始まり、答えがないような質問を繰り返すのである。かなり性格的には面倒くさい。
もちろんこうなった原因は多々あるし、セスティナは最初から面倒くさい女神だったわけではない。
こちらの神々はアシュラン側とは違い、かなり長い間眠ることがあった。生きることに飽きたらしばらく眠る、といった具合である。
大体海関係の神なので、一人いなくてもなんてことはないのである。
セスティナもこの小島の神殿でここしばらく眠っていたのだが、ガーベラが来てから目を覚ましてしまった。海の面々はガーベラが来たことはセスティナには内緒にしていたのだが、
海の生き物たちに聞いてしまったのであろう。神々はイルカやあざらしたちと意思の疎通ができるのである。
セスティナはガーベラに会いたがったが、マリナールは許可しなかった。今回は完全にお礼の意味を込めて招いているので、ガーベラに
面倒な思いをさせたくないと思ったのである。マリナールはガーベラが帰るまで、セスティナを小島から出られないように結界まではってしまった。
そこでセスティナは、ガーベラを自分の元に招こうといろいろやっていたのだった。
「ちょっとだけ話をすれば気がすんだのに。ほんのちょっとでよかったのに！ おじい様もみんなもひどい！」
（そのちょっとが長いんだよ）とワイアットは思ったが口には出さなかった。
「おじい様にばれないで向こうに行く方法、なんか考えて」
「ないですね」
ワイアットは即答していた。
「あ、そうだわ。結婚よ。私が向こうの誰かと結婚したいっていえば、いけるかもしれないわ！」
セスティナははじけたように言いだした。
「はあ？ 昔そういう話を散々蹴ったのはあなたでしょ？ 今更結婚できる男神もいないですよ」
ワイアットはあきれたように言っていた。
「誰かいるでしょ。向こうに行きたいだけだから、別に口実でいいのよ。そういえば、クーリーフンって結婚した？」
ワイアットはあきれ顔のままだった。
「話がしたいなら、ここの誰かと、好きなだけしてください」
「みんな私をばかにしてるからいやよ」
「あなたが面倒くさいことばかり言うからですよ。それにあなたと結婚したい男もこっちにいますから、そっちとすればいいじゃないですか」
「結婚はただの口実だって言ってるでしょ。本当にしたいわけじゃないの。ガーベラに会って、愛について話をしたいだけなの。
あの時仲良くなったダーナはどうしてるかしら。そろそろ私に会いたいと思ってるんじゃないかしら」
（思ってねーよ。そもそも仲良くなってないし）
ワイアットは心の中でそう愚痴りながら、（早くここから出て行きたい）などと思っていたのだった。
そのころ、アシュラン側の神の国、ハロルドの神殿では、大きなクーリーフンがぞぞっと背筋を震わせていた。
「どうしたの？」
横にいたキュリアが聞いた。
「わからない。今すごく悪寒が走ったんだけど、なんだろう？」
「？」
ラーズが部屋に入ってきて、部屋の中にいたサーラがうれしそうな顔をした。
「ラーズだ！」
「ただいまー妖精が生まれたんだ。みんな見においでよ！」
ラーズがサーラを抱きしめながら言った。
「妖精？ ラーズの子供？」
クーリーフンが聞いた。
「見てのお楽しみだ。ラクアの神殿にいるよ」
「私も見たい！」
「行こう！」
キュリアも興味津々だったので、クーリーフンはキュリアを連れて飛んで行った。
こちらの神の国に帰ってきたゆりは、ラクアの神殿の外にいた。湖ではさっそくユリアナとイオナがニイニに引っ付いて遊んでいる。
あー帰ってきたらなんだか安心するわ……
ゆりは見慣れた風景にほっとしていた。
クーリーフンに会って、さっさと入れ替わってもらおう。いい加減向こうも気になるし……
湖に入っていたニイニだったが、水の上をひょいひょい歩いていた。
「およごうよー」
「ニイニーおよごー」
「いいなあ。私もあんな風に水の上を歩きたいわ」
ゆりは３人を眺めながらつぶやいていた。
「あの子は何の妖精になるんだろうなあ。ガーベラはどういう妖精だと思う？」
横にいたラクアが聞いてきた。
「うーん、水と虹の妖精？」
「まんまだね」
ラクアは笑っている。
「他に何かある？」
「うーん、なんだろう？ 僕にもわからないなあ」
子供達を眺めていたら、ラーズがクーリーフン、サーラ、キュリアと一緒に飛んできた。
「ほら、サーラのお兄さんのニイニだよ」
ラーズはサーラにニイニを紹介していた。サーラはニイニの側に飛んで行っている。
「ニイニ？ 彼はラーズの子供なの？」
クーリーフンが聞いた。
「いや、私と、ラクア、二人の子供らしい。いや、ガーベラも入れて３人な」
「えー？」
さすがにクーリーフンは驚いているようだ。
「本当なの？」
クーリーフンもニイニに近づいて行った。ニイニは不思議そうにサーラの虹の瞳をのぞきこんでいる。
「おにーちゃん？」
「？」
「おにーちゃん！」
サーラがニイニに引っ付こうとして、ユリアナとイオナが阻止していた。
「わたしたちのニイニなんだから、だめ」
「なんで？ サーラのおにいちゃんよ」
「ちがうよ」
「なんで？ ラーズがいったもん！」
「ちがうもん！」
「ラーズゥ！」
サーラがうるうるした目を向けている。
「えーと、３人のお兄ちゃんだから、みんな、仲良くな」
ラーズは困ったように言っていた。
「サーラにはクーリーフンがいるでしょ！」
「やだあ！」
「やだあ」と言われたクーリーフンは、横で顔を引きつらせている。
「まあまあ、みんなで仲良く遊びなよ」
ラクアも仲裁している。
「３人のお兄ちゃんってことは、私のお兄ちゃんでもありますよね？ 私も言い合いに参加してもいいかな？」
はたで見ていたキュリアが言い出した。
「え？ キュリアにはジェイクがいるでしょ？」
とゆり。
「でも私もお兄ちゃんがほしいな」
「お兄ちゃんっていっても、ニイニは本当は弟だし、見かけが３人の上だからお兄ちゃんってだけよ。キュリアとは同じくらいじゃない？」
ゆりはややこしいと思いながらも言っていた。
「ところで、ラーズ様とラクア様の子供ができたんなら、お父さんとジンラ様の子供とかもできます？」
キュリアが無邪気な瞳で聞いてきて、ゆりは
「え？ それはどうかな？」
と答えつつ、（絶対勘弁して！）と心の中では絶叫していた。
女の子たちの話はニイニがどこで暮らすかにまで発展していた。どうにも話が落ち着きそうにない。
「クーリーフン、おーい」
もう人間世界に帰りたかったゆりは小声でクーリーフンを呼んでいる。
「やっぱり私もまじりたい！ 私もニイニと遊ぶ〜せっかくだからみんなで遊ぼうよう！」
キュリアも言い合いに参加していた。
「キュリアにはジェイクいるでしょ！」
とユリアナ。
「ジェイクはもう遊んでくれないんだもの。だからいいでしょ」
「だめ」
「みんなで仲良くしなきゃだめよー」
「じゃあね、ニイニがここですむんなら、みんなで遊んでもいい」
イオナが言い出した。
「やだー！ ニイニうちくるもん！」
サーラがぶーぶー言っている。
「あのーちょっとちょっと、妖精はね、自由にさせてあげないとだめだよ。みんなが決めるんじゃないんだよ。ニイニが決めることなんだよ」
クーリーフンが思い余って口を出していた。
「ニイニ、ここにいるでしょ？」
「ニイニ」
「一緒にきて！」
ユリアナ、イオナ、サーラに潤んだ瞳で見つめられたニイニは、ふっと姿を消してしまった。
「え！」
「わーん、ニイニが！」
「いなくなっちゃった！」
３人はわーわー泣き出してしまった。
「大丈夫だよ。どこかにいるよ。泣かないでよ。僕まで悲しくなるよ」
ラクアはもらい泣きしそうなくらいである。
「大丈夫だから。サーラ」
ラーズはサーラを抱っこして慰めている。
「困って消えちゃっただけだよ。どこかにいるよ」
クーリーフンはやれやれとばかりに言っていた。
「そうだ、ニイニのことみんなに教えてあげましょう！」
キュリアの言葉にゆりはぎょっとしていた。
「ちょ、ちょっと待って、ゆっくりでいい。特にハロルドには、明日くらいに言えばいいんじゃない？」
「？？」
キュリアは首をかしげている。
「ほら、あまり騒ぐとニイニが困っちゃうから、ね」
「それもそうですね。とりあえずネルに教えてあげようっと」
キュリアは一人去って行った。ゆりは子供たちが泣き止んだ頃を見計らい、クーリーフンに
「お願い、私そろそろ、ね」
と言ってみた。
「あ、そうか。じゃあ神殿に送るよ」
「いろいろ伝言があるんだけど」
「変わる時に話をして」
ゆりはお土産を持ってクーリーフンに神殿に送ってもらった。
ラーズやラクアはあちこち移動してニイニを探したのだが、なかなか見つからなかった。
ラーズと一緒にいたサーラは、また泣いている。
「大丈夫だよ。ちょっとしたら出てくるよ」
「本当？」
「大丈夫だって」
ラクアも娘たちに懇願されて湖や川を探したが、見当たらなかった。
「ごめんね。絶対に見つけるからね」
「ぐすんぐすん」
「ニイニ〜」
（ああ、娘の涙って凶器に近い。胸にぐさぐさ刺さる〜）
ラクアは娘の涙にかなりダメージを受けながらニイニを探し回ったのだが、ラーズもラクアもクーリーフンも、この日はニイニを見つけることはできなかった。
夕方、慈愛の女神ダーナが自分の神殿に戻ると、子供達から「おかえりー」と声が飛んだ。
「ただいま」
ダーナは子供たちを見回した。女の子が３人に虹の妖精の男の子たちがいる。男の子は８人いた。虹の妖精７人に見知らぬ男の子が一人交じっている。
「あら、この子はだあれ？」
ダーナは青い髪の男の子を見て聞いた。
「さあ、いつの間にか一緒にいたんだよ」
「一緒にきたいみたいだから連れてきたんだ」
「なんか僕らと似た感じだし」
「でもこの子は飛べないみたい」
虹の妖精達が答えた。
「へー、なんだか、変わってる子ね。髪は青いけど、目は緑に赤だし、いつ生まれたのかしら？ わかる？」
ダーナが妖精に近づいて聞くと、妖精はきょとんとした顔をしていた。
「ラーズに近い気がするけど、違う？」
ダーナがそう聞くと、妖精は虹の妖精達の後ろに隠れてしまった。
「あ、もしかして、ラーズが浮気してできた子じゃね？」
赤い髪の妖精が言い出した。
「まさか、ハロルドが浮気をしても、ラーズはしないわよ」
ダーナが笑って言った。
「ラーズのところにいきましょうよ」
ダーナが言うと、妖精は行きたくなさそうに首を横に振っている。
「やっぱり浮気だよ。ラーズが浮気したんだよ」
「それでガーベラとラーズがもめて、逃げてきたんだよ」
「そっとしておいた方がいいよ。ダーナ」
「えー？？ よくわからないけど……まあ、ここにいたいならいてもいいわよ」
そういうと、妖精は前に出てきた。どうやらラーズに会いたくないわけがあるらしいとダーナも虹の妖精達も理解した。
「一緒に遊ぼうぜ、虹ゲーム」
妖精達はそれぞれの色を宙に出しては重ねて遊んでいる。それにその妖精も加わっていた。
それを見ていたダーナは、（やっぱりラーズの子だわ）と思っていた。
ラーズとガーベラって一番喧嘩しそうにないけどねえ、まあ明日までちょっと様子をみましょう
本人がここにいたいというのでダーナはほっておくことにした。
こうして、ニイニは次の日まで発見されることはなかったのだった。
つづく
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