第14部
神の国では、ガーベラは無事ニイニに対面し、ラクアとラーズが雲の上の神殿にニイニを連れていった。
アシュランが連れて来いとうるさかったからである。ここに連れてくるまでにもいろいろあった。
ラクアはアシュランに、「ニイニに何もしないと約束するまでは連れて行かない」と言い、アシュランの約束を要求している。
「何かって、妖精に何かしたりしないだろう」
ラーズは気楽に思っていたが、
「アシュランは半端なのが嫌いだから念のためだよ」
とラクアは慎重だった。
両者の間をグレンは行ったりきたりして、アシュランが「ニイニに何もしない」と約束し、ようやくニイニは雲の上の神殿にやってきたのである。
ガーベラはラクアの神殿で待っていることにした。一緒にいけば、絶対どうやって妖精ができたのか聞かれるに決まっているからである。
神殿の外の湖ではラクアの娘たちが泳いでいた。サーラは湖の上をふわふわ飛んでいる。
神殿の外にいたガーベラは、首をかしげている。
「どうしたの？」
クーリーフンが聞いた。
「グレンなんだけど、おかしくない？ あの儀式で本当にグレンも来たんでしょう？」
「来たよ」
「それにしてはそっけなさすぎるのよね」
先ほども、グレンはガーベラに視線もむけなかった。ガーベラとしては腑に落ちないことである。
「さっきはラクアもラーズもいたからじゃない？」
「二人の時もそっけないわよ」
「恥ずかしいんじゃない？」
「そういう感じでもないけど、まあ、逆にデレデレされてもなんかやだけど……」
「もしグレンが恋人にしてくれっていってきたらどうするの？」
クーリーフンが聞いた。
「え？ うーん……グレンとなんて想像できないけど、あっちの私はどうもグレンを気に入ってるみたいだからねえ。まあ、あっちまかせでいいかあ」
ガーベラは適当に言っていた。
「お母さんってば」
クーリーフンはガーベラの適当さにやれやれといった様子だったが、ガーベラの心情も、理解できるものだった。
グレンはアシュランの使用人のような立場であり、神々の地位は高くはない。高位の女神にとっては恋愛対象にすらならないのも無理からぬことである。
ガーベラ本人がグレンに恋愛感情を抱くには、今までの長い長い付き合いからすれば、相当に難しいことなのである。
だからこそ、クーリーフンは、ゆりの時にけしかけたのである。
「じゃあもし、あっちのお母さんがグレンとひっついても、いいんだ？」
「いいも悪いも、もうひっついちゃったし。儀式の時にいたのが私でも、目の前にグレンがいたらたぶんそうなってただろうし、今更原因を作ったヒルデリアを責めるのも変でしょ。
あっちの私が本当にグレンとひっついちゃったら私も、ああ、グレンってそんなにいいところがあるんだって思えるかもね」
「そう」
「カカサマもきてよ」
「きてー」
子供達がガーベラを呼んでいる。
「じゃはいっちゃおうかな」
ガーベラは服をその場で脱いで、水の中に入って行った。
雲の上の神殿では、アシュランとヒルデリアがニイニに対面していた。ニイニはアシュランが怖かったのか、ラクアの後ろに隠れてちょっと震えている。
「大丈夫だよ。怖くないよ」
とラクアはニイニを励ましていた。
ニイニは出てきそうになかったので、アシュランはそばによってニイニを眺めていた。
「ヒルデリア、何の妖精だと思う？」
「そうですねえ……やはり二つの力を感じますが……」
ヒルデリアは隠れているニイニを見ながら言った。
「しかし、どうやったらこういう妖精ができるんだ？」
「順番に仲良くなっただけだよ」
ラクアは普通に答えていた。
「面白いなあ。だがなんの妖精かはわかったぞ。あえていうなら水光の妖精かな」
「すいこう？」
ラーズが聞いた。
「水面をきらめく光、あれだ。光がなければ水はきらめかず、水がなければ光はただの光」
「あ、だから水に潜らないのか」
ラクアはそこで気づいた。ニイニは水の中には入らず、水面を歩いていたのである。
「この子水を操る力があるから水と虹を別に考えていたけど、二つで一つってことか」
「ラクアの力を継いで水を操れるようになったのかもな。どちらにせよ、楽しい妖精じゃないか」
そこに太陽の神アリアスがやってきた。
「私よりの妖精だったろ？」
アリアスがアシュランに聞いていた。
「アリアスはもうニイニを見たのか？」
ラクアが聞いた。
「ダーナのところにいたからちらりとみたぞ。それでおや、私の妖精かな？ と思った」
「君のじゃないだろう」
とラクア。
「光の力を持ってるから私のであってる。なあラーズ」
「え……さあ」
ラーズはアリアスにはちょっと弱いので、遠慮がちに首をかしげていた。
「水と光じゃどっちの力が強い？」
ラクアはアシュランに聞いていた。
「どっちって、水光の妖精だっていっただろ。まあ半々でいいじゃないか。半々で。広く言えば私の妖精ってことだし」
「えー」
「大人になったらうちの娘たちのだれかと引っ付けよう。な」
アリアスが言った。
「えー話が早いだろう。まだ生まれたばっかりだよ」
「一応予約しとかないと」
「そんなの意味がない」
ラクアとアリアスは二人で言い合い、ラーズはそれには意見せず困った様子である。
ヒルデリアはニイニをそこから連れ出して、神殿の中にいたジェイクに、「この子を下におろしてあげて」と頼んでいた。
「妖精なのだから、好きなように生きなさい。大人たちはほっといていいのよ」
ヒルデリアがニイニの頬をなでると、ニイニは安心したようにうなずいていた。
（水光の妖精、海の神殿でできたのなら海側の妖精でもいいような子であるのう。アシュランは絶対言わないだろうけど……
あの子は海に行きたがるかもしれぬ……まあそうなったらそうなった時のこと）
ヒルデリアはそんなことを思ったのだった。
人間界では、ゆりが自分の体に戻った次の日、ハザークの部屋にエルバートに入ったカーライルがやってきていた。
どうも不機嫌そうである。
「そんな顔でいるんなら帰ってほしいんだが」
ハザークが言うと、
「お前ってやつは、侍女をへびっちにやったな」
とカーライルが言い出した。どうやらそれでカーライルは不機嫌になっているようだ。
「いや、別に我がやったわけじゃない。いや、そうだっけ？」
ハザークは記憶があいまいだったが、もともとミシェイラに肌に入る蛇がほしいとせがまれて、侍女とがんばってみたらどうだ、というような話ならしていた。
「どうも最近様子がおかしいと思っていたが、侍女を全員やらんでもいいだろ」
「なんで知ってるんだ？」
「さっき下にいったら、ハーレムみたいになってた」
「…………」
「どうだったか知りたいか？」
「いやいい、想像させないでくれ」
ハザークは手で制していた。ちなみに今ここに侍女はいないので、お茶の用意などもなかった。
「５人も取られて怒らないのか？」
「いや、むしろ、へびっちを応援したいくらいだが、５人相手にするって、かなり大変だろう」
ハザークは真面目な顔で言った。
「そりゃそうだ。一人くらい私にくれてもいいじゃないか」
「くどいてみたらどうだ？ 侍女がその気になれば、我はもう何も言わないが」
せっかく侍女たちも女の喜びに目覚めた所なので、ハザークは本気でそう思っていた。
「……エルバートが身体を貸してくれるかな。最近気色悪いくらいにエルバートとセリアが熱々なんだ。セリアが変なお茶を飲んでからだ。
カーラとキースも熱々らしいが、また子供ができてもしらんぞ。全く」
「ふーん」
そこにぱっとミシェイラが現れた。
「パパおはよー」
「おはよう」
「おいちゃんおはよー」
ミシェイラはカーライルを見て言っている。
「おにーちゃんだろ？ おにーちゃん」
「まーもきたよ」
「え？」
扉をノックする音がして、蛇の目のゆりが入ってきた。ミシェイラは部屋の隅にあるおもちゃ箱を部屋の真ん中でばらまいて遊びだした。
「おはようございます。あら、カーライル様もいたんですね。なんだか久しぶりのような気がしますね」
「……なんか周りがキラキラしてるが。誰かに魔法でもかけてもらったのか？ それともだれか光でもおくってるのか？」
カーライルが眉をひそめて聞いていた。
「ふふ、誰かがどうやって光を送るんですか？」
蛇の目のゆりはハザークを素通りしてカーライルの横に座っていたので、ハザークがかなりぎょっとしていた。
「こら王妃、なんでそっちに行くんだ」
「久しぶりだから、じっくり顔を見ようと思って」
「みんでいい」
「匂いもすごい」
カーライルが言った。
「そうですか？ 昨日よりはましなんですけど」
さっぱり理由がわからなかったカーライルは「発情期か何かか？」と聞いていた。
「さすがカーライル様はすぐにくらっとこないですね」
ゆりはハザークの横に移動した。
「私はもう行く。ここにいたらなんか酔いそうだ」
カーライルは消えてしまった。
「しかし、本当にすごい匂いだな」
とハザーク。
「ねえ、私、ガーベラに聞いちゃった」
ゆりの言葉にハザークはちょっとビビった様子だった。
「な、なに？」
「ガーベラと入れ替わってたの知ってるんでしょ？ ハザーク様と愛し合ったってきいたよ」
「それは、違う。我は王妃かと思って抱いたんだぞ。そしたら、後でびっくりした」
「別に怒ってないよ。なんかびびってる？」
「本当に怒ってないのか？ あっちの王妃も？」
「怒ってないよ。別にガーベラを恋人にしてもいいよ。でも他の女性はだめよ。私が嫉妬しちゃうから」
「ガーベラを恋人にって、もうこないだろ」
「わからないじゃない」
「ねえ、まーおどろ！」
ミシェイラが立ち上がり、ゆりの側にきた。
「いいよ。ハザーク様もおどろうね」
「え？」
ゆりは部屋にちらばったおもちゃを片付けている。
「ミシェイラ、パパに踊りを教えてあげて」
「はーい。パパ、手をつないで」
「え。我は踊りは……」
「おどるの！」
愛する娘の命令に、さすがにハザークも逆らえなかったようである。ミシェイラと手をつないでいた。
３人は輪になり、右に行ったり左に行ったり回ったりした。
やっぱり王妃は怒ってる？
ハザークは変な踊りを躍らせられながらもそう思っていたのだった。
午後、黒目のゆりは昼食を食べるとお風呂に入って体を洗っていた。
「午後は恋人たちと仲良くなるから」
と侍女のミラには説明している。
「わかりました。お風呂の準備をしておきますね」
ミラも手慣れたものだった。
昨日４人と仲良くしたし、もうこの際全員と仲良くしておこう
ゆりはそう決心していたのだった。今日は乗り気である。
部屋に戻るとシャナーンがすでにやってきていた。
「こんにちは、シャナーン」
「こんにちは、王妃……」
シャナーンはゆりを観察するように見つめていた。
「シャナーンは知ってたんだっけ。私戻ってきたの」
「そうなんですか。会いたかったです。王妃」
「シャナーン」
部屋には侍女はいなかったので、シャナーンはゆりを抱きしめていた。
「髪がぬれてます？」
「お風呂に入ってきたから」
シャナーンはゆりの濡れた髪に触れていた。
「王妃、今日もとっても素敵です」
その時ノックの音がして、ゆりが扉を開けた。そこにいたのはミルキダスである。
ミルキダスはシャナーンを見て、「あれ？」と言った。
「呼ばれたような気がしたんですが」
「ちゃんと呼んだよ。３人で仲良くしたいんだけど、シャナーンはいい？」
「え？ はい」
「じゃあいきましょ」
ゆりはミルキダスには聞かずに、ミルキダスを引っ張ってシャナーンに触れていた。
「お、王妃、どどど、どうしたんですか？」
ミルキダスはかなり戸惑っているようである。
「実は昨日４人と仲良くしちゃって、ここは平等に、他の恋人とも仲良くしようかなと思ったの」
「は、あ」
「うれしいです。王妃と仲良くできるなんて」
シャナーンはとてもうれしそうだったが、ミルキダスは相当困った様子だった。
「どうしたの？」
「その、実は、あの儀式のことを想像するだけで……私はもう爆発しそうで……王妃の肌に触れたらどうなるか……それに今日の王妃はなんだか、輝いてるんですが……」
「王妃はいつも輝いてますよ」
シャナーンが言った。
「まあとりあえず、ミルキダスは心を落ち着かせていてね」
ゆりはシャナーンに引っ付いた。
シャナーンはゆりを抱きしめて唇を寄せている。
二人は何度もキスし合い、やがて服を脱ぎだした。
「今日もきれいですよ。王妃」
「ありがとう。シャナーンも素敵」
ゆりの胸があらわになると、ミルキダスの心拍数はどっと上がっていた。
（や、やばい、ものすごく興奮してきた）
目をそらせたいがそらせない。
（今日の王妃はなんだかすごい。すごくそそられる。シャナーンはよく余裕があるな）
と思ったが、そうでもないようだ。シャナーンは辛そうな様子だった。ゆりがシャナーンの下着の上から下半身をなでると、シャナーンは荒い息を吐いていた。
「今日はもう、余裕がないですよ。王妃」
「いいの。いっぱい興奮してね」
二人は互いの体を指で触れながら、何度も口づけをしていた。
ミルキダスはふらふらとベッドに近づいている。
「ミルキダスもきてもいいよ」
ゆりが言った。
「二人で王妃を愛しましょう」
シャナーンが言った。シャナーンはせつなげな吐息をもらしていた。
果てていたのである。
「次は王妃の番ですよ」
シャナーンはゆりの足を広げ、美しい顔をそこにうずめていた。
「あ、はあ……」
白い二つのふくらみが揺れている。ミルキダスはたまらずに、その胸にすいついた。
途中蛇の目のゆりが出てきたために、シャナーンもミルキダスも喜んでいた。
「王妃がすごいですが、誰か降りたわけでもないんですか？」
「ミルキダスが聞いた。
「その気の神が下りてるのかも」
「その気の神？」
「うふふ。ちゅーして」
蛇の目のゆりは二人と交互にキスしていた。
（あっちは神様と３人でしちゃってみんなに悪いと思ってるのかな？ その気になるとほんと強いわ）
黒目のゆりに戻った後は、３人はしばらくひっついたまままったりしていた。
ゆりの怪しい匂いに二人の男はもうぼんやりである。
別室にフリットとミカエルが現れた。二人はベッドの上の様子を見て、絶句である。
「王妃……なんかすごい匂いですが……」
フリットが言った。
「別の日の方がいい？」
ゆりが顔を向けた。
「誰か降りたわけでもないんですか？」
ミカエルが聞いた。
「降りてないよ」
「では、我々は交代しましょう。ミルキダス様」
「うん」
二人は王妃に軽くキスして離れて、服を着てふらふらした様子で去って行った。
「王妃ってば、また欲情しちゃったんですか？」
ミカエルはベッドに近づいてゆりの髪をなでていた。
「違うの。みんなと平等に仲良くなりたいだけなの。ちゅーだけでもいいくらいだけど」
「それは無理ですよ。もう興奮してきてますし」
「王妃、シーツを変えましょう」
フリットが言い、ミカエルがゆりの体を抱き上げた。
「最近素直でかわいいですね」
フリットは新しいシーツをベッドの上に敷いていた。
「この前もかわいかった？」
「かわいかったですよ。とっても」
ガーベラと何をしたんだろう。気になるけど、聞かない方がいいかも
「王妃をだっこしてるだけでもうやばいですよ」
「私も、ここにいるだけでもう……」
「いっぱい興奮していいよ」
ミカエルはゆりの体をおろした。二人は服を脱ぎ、ベッドに上がったのだった。
その夜は、さすがに立て続けにラクシュミを興奮させるのもなんなので、ゆりは自分のベッドで眠った。レーヌは今夜は横にある小さいベッドでぐっすり眠っている。
昼間疲れたせいかぐっすり眠っていたゆりだったが、やがて体を揺り動かされて目を覚ました。すぐ近くにあったのは超美形顔のクーリーフンである。
「あれ？ 朝？」
周りがきらきらしていたのでてっきり朝かと思っていた。
「まだ夜中だよ。はい。これ、贈り物」
クーリーフンはベッドの上に丸っこい物を置いた。大きな青っぽい巻貝である。ただの巻貝ではないのはゆりにはわかっていた。
「……受け取り拒否はできる？」
「できない」
「……なんかすごーく嫌な予感がするんだけど……」
ゆりは巻貝に手をおいたものの、これを耳までもっていく勇気がなかった。
「お願い、ハロルド以外っていって」
「ハロルドからだよ」
「やっぱりー何？ 何が入ってるの？ ハロルド怒ってた？」
「さー」
ゆりは恐る恐る巻貝を耳に当てた。
『ガーベラ、こっちに来たら絶対、最初に、私のところにこい。いいな。わかったな！』
巻貝にはハロルドのかなり不機嫌そうな声が入っていた。
「……自分のところにこいって。別にクーリーフンに伝言頼んでもいいんじゃない？」
「自分で言いたかったんじゃない？」
「なんで私に会いたがってるの？ まさかニイニのことじゃないよね？」
「ハロルド、お母さんを問い詰めてたみたいだよ。すぐばれちゃったみたい」
「ガーン」
「愛されてるってことだね。よかったね」
クーリーフンはちょっとひきつった笑いを浮かべている。
「しばらく神の国にいかないってことにしたらどうなるかしら？」
「ハロルドがこっちに来るかもね」
「それはいやよ」
「じゃあ向こうで会ったほうがいいんじゃない？」
「うーん……ねえ、これって、返信できる？」
「返信……する？」
「うん」
「勇気があるね。はい、どうぞ」
クーリーフンは伝言貝を受け取って、またゆりに渡したのだった。
クーリーフンは神の国に戻り、ハロルドの元に向かった。ハロルドは自分の神殿にいた。
「はい、これ」
クーリーフンが巻貝を渡すと、ハロルドは怪訝な顔をした。
「渡さなかったのか？」
「渡したよ。返信が入ってる」
「返信？」
ハロルドが巻貝を耳にあてた。
すると明るい声でこう入ってた。
『あらハロルドどうしたの？ 私にそんなに会いたいなんて♪ 私もとってもハロルドに会・い・た・い。今度偶然そちらに行けたら、まっさきにいきますねーまっててねー♪』
「あ」
その声にむかついたハロルドはつい巻貝に力を込めてしまい、巻貝はぐしゃっと割れてしまったのだった。
つづく
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