第59話
神の国、ハロルドの神殿の周りの景色は元に戻っていた。草木も青々と輝いている。この神殿の周りにしか生えない植物も一時枯れていたが、今は再び弦をのばしていた。
大きな広間にハロルドの鎧と神器である聖剣が飾られている。バリアスはもう聖剣や鎧に悪さをすることはなかった。
「ねえ、前の神器は必要ないから折ったの？」
キュリアが聞くと、バリアスは「うん」とうなずいていた。
「どうしてバリアスが神器を作るって思ったの？」
「ゆめみた」
「夢？」
「うん、かっこいいーっしょ？」
「かっこいいね」
「えへへ」
バリアスは誇らしげである。
「でも鎧まで作っちゃうなんてすごいよ」
「うん、すごい」
とジェイクも同意した。
「ぼくはよろい。ニニはたてだよ。そのうちね、みんなでいっしょにたたかうんだよ。でも、まだだれか足りないかな」
「え？」
キュリアもジェイクもきょとんとしている。
「そのうちっていつのこと？」
ジェイクが聞いた。
「ずっとずっと先だよ。たぶん。僕が大きくなってからかな」
「ずっと先かあ……」
「ぼくあそびいく。ばいばーい」
バリアスはさっさと行ってしまった。
「今のどういうこと？」
キュリアがジェイクに聞いた。
「さあ、僕にもよくわからないけど……いずれそういうことがあるのかな」
「未来で？」
「バリアスはそういう夢でも見たのかな。きっと」
（戦うとしたら相手は闇の……ということになるのだろうか？）
ジェイクはふと思ったが、口には出さなかった。
「誰か足りないってどういうことかしら？」
「お父さんの子供がまた生まれるのかも？」
「えー私妹ほしーい♪」
キュリアはとたんににまにましていた。
「まあ、わからないけどね」
（未来か……バリアスが大きくなってからかあ……）
どれくらい遠い未来なのか、ジェイクにはさっぱり見当がつかなかったのだった。
人間界では、ゆりがアシュランからもらった箱の石は２１個になっていた。
子供達からは「任務が完了したんだね」だの、「石を減らされないようにがんばったの？」だの言われている。
とにかくミシェイラは石が増えたので大喜びだった。
石はもう少しで半分である。ここまで集まると、全部集めた時にもらえるバッジがちょっと楽しみである。
「かわいいバッジだといいなあ。でもそのためには後何人生まなきゃならないのかしら？ なぞだわ」
なかなか道のりは長そうだ、とゆりは思っていた。
「マーうた」
「んー？ あーかいへーび、あーおいへーび♪」
ゆりが歌うと、「へた」と言ってレーヌはさっさとゆりの部屋を出て行った。
「相変わらず厳しいわね」
ゆりが頬を膨らませていると、なにやら声が聞こえてきた。
『おーい、おーい』
「あ、ガーベラ？」
壁に飾っている楕円の鏡にゆりが映っているが、自分とは動きが違う。こんなことは前にもあった。ガーベラである。
『バリアスのこと、感動したわ。本当にありがとう』
鏡のゆりはとてもうれしそうだった。
「いえいえ、私もうれしかったです」
本物のゆりは鏡に近づいた。
『お礼に何かしたいんだけど、何がいい？』
「お礼？」
『何かしたいの』
「じゃあ、一日遊びにきてくれるとうれしいな。レーヌが歌が上手なママに会いたい会いたいってしょっちゅう言ってるの」
『じゃあ身体を取り替えましょう♪』
「ほんと？ 子供達が喜ぶわ」
（大人もだけど）
『あなたもこっちで楽しんでね。じゃあ明日ねー』
ガーベラはさっさと消えてしまった。
「明日かあ。急な話になっちゃったわね。レーヌが聞いたら喜ぶかな？」
ゆりは黙っておけずにレーヌを探して、「明日歌が上手なママがくるよ。いっぱい歌ってもらえるよ」と言ってしまった。
「ほんと？」
レーヌは目を輝かせている。
「ほんとよ」
「わーいわーい♪」
レーヌは飛び跳ねて喜んでいた。その５分後には子供達がぞろぞろゆりの元にやってきた。
「ベツベツマーくるの？」
とミシェイラ。
「お母さん、本当？ 本当に明日来るの？」
ラギも興奮している。
「ベツベツマー予告してくるなんてすごいね」
「この前は真夜中だったからねえ、昼間だから父様も会えるね」
アナスターシャとナナミが言った。どうやらすでにみんなに伝わってしまったらしい。
「話が回るの早すぎでしょ！」
とゆりは驚いた。
「父様が、本当かどうか母様に聞いてくれって言ってるわよ」
とアナスターシャ。
「……王様までもう知ってるの？」
「だって、ベツベツマーがくるんだもん！」
ミシェイラもうれしそうだった。
「楽しみだねえ」
「うん！」
子供達はかなり盛り上がっている。
（明日、ガーベラに急用ができてこれなくなったらどうしよう……）
ゆりはちょっと心配になっていた。
夕方、ラクシュミはゆりの部屋までやってきた。
「ゆり、本当に本当にガーベラが明日くるのか？」
他にだれもいなかったので、ラクシュミはそのまま聞いていた。
「もし、これなくなったらごめんなさい」
「え？」
「多分来てくれると思うけど」
「たぶん？」
「王様、興奮しないで待っててね」
ゆりはにこやかに言っていた。
「ガーベラが来る間、お前はあっちで何をするんだ？ どうせ一日遊ぶんだろ？ それでキラキラになって帰ってくるんだろ」
ゆりは「ぐ……」と声をつまらせていた。バリアスを生んだ後は、やはりゆりはキラキラになっていたのだった。
「たまにはこっちの男もかまってやらないと、ミカエルがいじけるぞ」
「いや、私もそんな、しょっちゅうキラキラには……王様ったら」
「私はガーベラの顔が見られるだけでうれしい」
ラクシュミは超ご機嫌顔である。
「顔って顔は私の顔でしょ？」
「それでもうれしい」
「王様ったら……」
「明日はいつくらいに変わるんだ？」
「さあ」
「今夜は眠れそうにない」
「クマができないように寝なきゃ」
「そうだ。早めに寝よう。眠れそうにないが寝よう」
ラクシュミはブツブツ言いながら去って行った。
（これだけみんなが期待しててガーベラが来なかったらどうしよう。本当に明日来ますように）
ゆりはそう願いながら夜眠りについた。
そして早朝、目を覚ましたゆりは、「素敵な朝ね〜♪」と歌い出し、横にいたレーヌがすぐに目を覚ましていた。
「ウタウママー！」
レーヌはすぐに気づいたようである。
「レーちゃん、なんだか大きくなったわねえ」
「ママうた」
「さわやかな〜朝〜小鳥はさえずり〜♪」
レーヌは目を輝かせて歌を聴いていた。
「こどもたち〜起きて〜♪」
ガーベラはレーヌと手をつないで子供達の部屋に行った。
「お母さん！」
「母様ー！」
「ベツベツマー！」
「本当に来たんだ」
「みんな私の部屋に来てー♪」
「なになに？」
子供達はわくわく顔でゆりの部屋に集まった。
ゆりのベッドの上には、大きな白い袋が乗っていた。ガーベラはその袋を開けている。
「あなたたちが喜びそうなものを適当にもってきたの。喜ぶかどうかわからないけど。これはあなたたちに」
ガーベラはシスとラギに、同じようなものを渡した。ガラスでできたペンが二本セットになり、ガラスのケースに入っていた。
柄の部分は青い綺麗なガラスでできている。
「すごく綺麗だね」
「ありがとうございます！」
「これはあなたたちに」
アナスターシャとナナミには花の模様がついた宝石箱だった。
二人で選んで蓋を開けてみると、音楽が聞こえてきた。
「あ、オルゴールだ」
曲はそれぞれ違うようだが、綺麗な曲である。
「ベツベツマーありがとう！」
「ありがとう！」
「どういたしまして。レーちゃんとミーちゃんにはこれ」
ガーベラは二人に木でできた丸い物を渡した。皆がなんだろうと注目している。レーヌが丸い物を受け取ってつついてみると、それがバラバラになった。
「あ、蛇だあ」
丸い物体は木でできた蛇を丸めたものだった。うまい具合に丸めると丸になるといった仕組みのようだ。
ミシェイラは蛇を長くして丸めようとしたがなかなか綺麗に丸くならなかった。
「おもしろいおもちゃだね」
「そうだね」
蛇は細かい関節にわかれている。ラギとシスは、どういう仕組みなのかと興味津々である。
ロイはみんながもらったものをキョロキョロ見回して、「僕にもある？」と聞いた。
「あるわよ。でもちょっと危険なものをもってきちゃったから、王様に聞いた方がいいかしらねえ？」
ガーベラが布袋から出したのは、皮の鞘に入った短刀である。
「わっすごい！」
シスが短刀を抜いてみた。刃の部分は２０センチほどであるがごついものではなく、細身の刀身だった。黒い柄には蛇の模様がある。恐ろしいほどに研ぎ澄まされた短刀である。
「綺麗だね。ロイよかったね」
シスが言った。
「すごいな。僕父様に見せる！」
「あげてもいいと思う？ 怪我しないかしら？」
ガーベラはシスとラギに聞いた。
「大丈夫だよ。ね、ロイ」
「だいじょーぶ！」
「危ないことしないでね」
「うん。ベツベツマーありがとう！」
ロイは短刀を持って消えた。
「ベツベツマーすごいね。全部どこからもらってきたの？」
アナスターシャが聞いた。
「うふふ、秘密。ところでなんでベツベツマーなの？」
「黒目のマー、蛇の目のマーがベツマー、３人目のマーはベツベツマーなの」
アナスターシャが説明した。
「へーベツベツマーかあ」
ガーベラはなんとなく納得している。
袋の中にはまだ何か入っていた。
「あ、そうだ。これはみんなに。適当なおもちゃをもってきたの」
ガーベラは小さい袋を出して中の物を出した。太い針金を合わせたようなものが１０個ほどある。形はいろいろである。
「パズル？ うまくすると外れるんだって」
「へー」
ラギとシスが一つづつ手にとってカチャカチャ回していた。知恵の輪のようなものである。
「これが最後」
ガーベラは３０センチほどの大きさの物から白い布をとった。ミシェイラの目が輝いた。クーリーフンの木像である。
「クーだ！ クーだあ！！」
「本当だ！ すごい！」
翼を閉じたクーリーフンは切り株に座って笛を吹いていた。
「すごいな！」
「クー！！！ ミーがもらっていい？」
ミシェイラがみんなに聞いていた。
「言うと思った。ミシェイラの部屋においてもいいけど独り占めはしないでよ」
とアナスターシャ。
「うん。ベツベツマーありがとう！」
「どういたしまして」
ミシェイラは木像を大事そうに抱えて消えてしまった。
「ベツベツマーはどこからこれらを持ってきたの？ ベツベツマーも神の国にいけるの？」
ナナミが聞いた。
「うん、それでもってきちゃった。後は王様のだから。王様の部屋に運んでおいてくれる？」
ガーベラはシスに頼んだ。
「うん。わかったよ」
「お母さん、今回はいつまでいるの？」
ラギが聞いた。
「夜までいるわよ」
「やったあ」
「お勉強は休みでいいよね？」
とアナスターシャは言っていた。
シスとラギはもらったガラスペンをさっそく試してみた。
「すごい！すごくスムーズにかける！」
「すごい書き味だ！」
二人はペンの書きやすさに感動していた。
「ガーベラ様はどうしてロイに短刀を選んだんだろうね？」
ラギがシスに聞いていた。
「さあ、一番戦いそうだって見抜いたのかな？」
とシス。
「それにロイがペンをもらっても喜びそうにないしね」
「それはそうだね。しかし、本当にすごいペンだなあ。普通のが使えなくなりそうだな」
ラギは試し書きをしながら感動していた。
ロイは短刀をラクシュミに見せていた。
「綺麗な短刀だな。手を切らないようにな」
「うん！」
「腰に下げられるように専用のベルトを作りましょう」
王の間にいたミカエルが言った。
「ありがとう！」
ロイは喜んで去って行った。
「見事な短刀ですねえ。王妃はまた神の国でもらってきたのかな？ 所で王、えらいめかし込んでますね」
ミカエルはラクシュミを眺めて言っていた。
ラクシュミはいつもよりも豪華な衣装を着ていた。髪も綺麗に整えられている。
「気のせいだろう」
「どこが気のせいなんですか」
そこにゆり姿のガーベラがやってきた。
「王様おはよー今日も素敵よ。ミカエルもね」
「おはようございます。ロイ様が持っていた短刀、王妃が神の国でもらってきたんでしょう？」
「実はそうなの。職人が作ったやつをもらっちゃった。ロイにあげてもよかったかしら？」
「ああ、ありがとう」
「王様、今日は暇な時間ある？」
ガーベラは首をかしげて聞いた。
「朝から晩まで暇だぞ」
ラクシュミはガーベラをまっすぐ見て言った。
「え？ 何を言ってるんですか？ 今日はお客様が来るでしょ」
「そうだっけ？」
「じゃあ子供達と遊んでるから、夕方にでもね」
ガーベラは去って行った。
「今日のゆりはとても綺麗だ……」
ラクシュミは惚けていたので、ミカエルは不思議そうな顔をしていたのだった。
ロイは短刀をもらったのがうれしくて、みんなに見せびらかせていた。短刀はそこらで売られているような物ではない。かなりの職人が研いだもののようである。
「お母さん、あの短刀、ジェラルド様が作ったんじゃないよね？」
ラギとシスはこっそりガーベラに聞いてみた。
「違うわよ。ジェラルドの作った武器はさすがに人間にはあげられないのよ。工房の職人が作ったやつよ。蛇がいるのがあったからあれにしたの」
「へー」
「あのペンはジェラルドが作ったやつよ」
「ええー！」
「すごい！」
「あっちではあんまりペンとか使わないんだけど、ジェラルドは暇があるといろんなものを作ってるの。それをもらったの」
「すごい。どうもありがとう！」
「ありがとうございます！」
「マーうた！」
レーヌがガーベラに抱きついてきた。
「いいわよ。今日はいっぱい歌ってあげるね」
ガーベラは棚にあった竪琴を持ってきて、部屋で竪琴を奏でながら歌を歌い出したのだった。レーヌも、シスもラギもうっとりした顔で聞いていた。
ラギでさえ、今日はもう勉強どころではないようだ。
ガーベラが人間界に来ている間、二人のゆりは神の国でガーベラになっている。
ゆりは気づいたらベッドで寝ていた。咲いたばかりのようなみずみずしいピンク系統の花がいっぱい自分の周りに置かれていた。
ゆりはピンクの大きな花を手にとって匂いをかいだ。
「うーん。いい匂い。さーて何をしようかなあ……」
花をくるくる回して考えていると、「ガーベラ様？」と声が聞こえてきた。
寝室に顔を見せたのはグレンだった。
「ガーベラ様……」
「あらグレン、何かご用？」
ゆりはにこやかに聞いた。
「あちらのガーベラ様なんですね？」
「ん？ うん。よくわかったね」
「昨日ガーベラ様に聞いたんです。今日変わるからって」
「え、そうなの？」
「ガーベラ様、会いたかったです」
グレンは側によってきてゆりの手を握っていた。
「今日は私と過ごしてくれませんか？」
「うん、いいよ」
「本当ですか？」
グレンはうれしそうだ。ゆりはベッドの周りの花を見て、（ん？ もしやこの花は……そういうつもりで？）とガーベラの思惑に気づいて呆れていた。
グレンはゆりを抱きしめていた。
「ガーベラ様……」
「あのー朝から、そのう……」
「いやですか？」
「え？ 突然過ぎたから驚いて……あの、バリアスはあれから元気よね？」
「お元気ですよ。皆さん本当に喜んでます」
「よかった」
「ガーベラ様は、バリアス様が生まれたお礼に今日はあなたに優しくしてあげてねっておっしゃってたんですが、本当は他の方の方がよかったんじゃないんですか？」
「え？」
「ガーベラ様はちょっと勘違いしてる気がするんですが……」
グレンはちょっと微笑んで言っていた。グレンはゆりがハロルドに会いたがってるとでも思ったのかもしれない。
「別に、勘違いはしてないと思うよ。グレンのこと、好きだし。ゆっくり会いたいと思っても、なかなか会えないし……」
「本当ですか？」
「うん。グレンっていつも忙しそうだし、今日は大丈夫？」
「はい」
ゆりはグレンの背中に腕を回した。
バリアスが元気ならいいかあ。ハロルドに会うのは今度にしよう
グレンとゆっくり過ごす機会もそうはないので、ゆりはこの際グレンと過ごすことにした。
「うれしいです。儀式の時の記憶がないので、ちゃんとした記憶が欲しくて……」
「そうよね。儀式では仲良くなったんだもんね」
でもいざするとなるとなんか緊張してきた……思えば散々グレンにはすごいことをしてきたんだなあ……
とゆりはちょっと前のことを思い出していた。グレンの不能事件も今となれば懐かしい思い出である。
グレンとはついに！ って感じね
「ガーベラ様、脱がしてもいいですか？」
「うん」
肌さわりのよい白い肩布をするりと下ろされると、すっかり胸もあらわになった。
ガーベラは今日はショーツは履いていないようだ。
（ショーツに飽きたのかしら？）とゆりは思った。
「好きですよ。ガーベラ様」
「私も」
グレンは優しく女神の身体に触れて、極めて自然な恋人同士のように、二人は一つになった。
二人とも興奮してしょうがない、というよりも、穏やかな感じだった。
ついに、普通の恋人同士になれた気分でもあった。
「ガーベラ様……うれしいですよ」
「私も……」
終わった後、グレンはしばらくゆりを抱きしめていた。
今は、自分を見つめる瞳にも愛を感じられる。あのいつも冷静だったグレンがこんな優しい表情をするなんて、と、ゆりは感慨深く思っていた。
二人は何度も口づけを交わしあった。
「あの、前にアシュラン様に聞かれたことがあったでしょう。神に抱かれるならだれがいいかって、あなたは私の名前を出してくださった」
「え……あ……うん……」
「あの時、私にちょっとは好意がありました？」
「うん。あったよ」
「本当ですか？」
「うん」
「そうですか。うれしいです」
（あの時グレンに聞かれてたんだっけ……）とゆりは今更ながらに恥ずかしくなっていた。
あの時は実際にこうなるとまでは予想していなかった。
二人でちょっとほのぼのとしていると、「あ」と声が聞こえてきた。二人がはっと横をみると、寝室にやってきた男がいる。
ハロルドだったらゆりも青ざめただろうが、そこにいたのはラーズだった。
「ラーズ！」
二人は布団もかけずに裸で抱き合っていたので、ゆりの顔がぱあっと赤くなった。
「あ、あっちのガーベラ！ ひどい！」
「え？」
「あんなに約束したのに。次はしようねってあんなに約束したのにー」
ラーズはすねた顔をしていた。赤い顔ですぐにゆりだと気づいたようだ。
「ごめんね。今日はグレンに会ったからーごめんねー」
ゆりはグレンに抱きしめられたままちょっとすまなそうな顔をしていた。というのも、グレンがゆりを抱きしめたまま離そうとしないのである。
「あんなに約束したのに……」
「ラーズ様はいつでもガーベラ様と仲良くできるんだからいいじゃないですか」
グレンが言った。
「今はグレンだってそうだろ？ こっちのガーベラとはいつもできないし……前回だって逃げちゃうし、ハロルドはもう大きくなったんだし、仲良くしよう」
「今日はその……」
ゆりはグレンを気にしている。
「今日は私にガーベラ様をゆずってくださいよ」
「ガーベラ次はいつくる？」
「……さあ」
「じゃあ私も混ぜて」
「え？」
とゆりが言った。
「３人でしようよ」
「えー！」
「だって、今度っていったっていつかわからないじゃないか」
「そりゃそうだけど……」
ゆりはグレンとラーズの顔を見回している。
グレンはかなり戸惑った表情だったが、「ガーベラ様がよければ」と言い出したので、ゆりはまた「え？！」と驚いていた。てっきり嫌がりそうだと思っていた。
「それで解決ー」
とラーズが近づいてきた。
「ええー！ あ、だめだめ。また変わった妖精でも生まれちゃったら困る！」
ゆりはあわててグレンから離れて手を横に振っていた。
「別にだれも困らないよ」
とラーズ。
「私が困るの！」
「大丈夫だって、グレン何回した？」
「一回です」
「それじゃもう一回先にしていいよ。その次私」
「はあ」
「私の話を聞いて！」
ゆりの顔は真っ赤である。
「こういう所がかわいいよなあ」
ラーズがゆりの頭をなでていた。
「そうそう妖精はできないし、できたらできたでめでたいから大丈夫だよ」
「全然大丈夫じゃない」
「ハロルドにはよく言っておくから」
「なお悪いでしょ！」
「あ、そうだ。あれあるかな？」
ラーズはガーベラのベッドの側にある棚の引き出しを開けていた。
「あったあった」
中から何かを出している。
「グレンはいやじゃないの？」
ゆりはグレンに聞いた。
「このまま去るのもなんなので……」
ゆりはラーズを追い出せなかった。確かに何度も約束していたし、やはりラーズには好意がある。ラーズは手に瓶を持ってきた。
「それなに？」
ゆりが聞いた。
「気持ちよくなるものー」
「はあ……」
「ガーベラ様がお嫌なら私は行きますが……」
グレンはちょっと遠慮して言っていた。
「え……」
「３人は体験済みだから大丈夫だよ」
ラーズはさらりと暴露していたので、ゆりの顔は引きつっていた。
「嫌じゃないだろ？」
「嫌じゃないよ。このことが、だれにもばれなければ」
とゆりは開き直っている。
「ガーベラは、私のことも好きだもんな」
「好きーラーズもグレンも好きー。でも他にばれるのが怖いの」
「ハロルドは今ご機嫌だから大丈夫だよ。じゃあやろう」
ラーズはベッドにあがり、ゆりの後ろに座っていた。
「これを身体に塗ってあげるね」
ラーズは先ほど取り出した丸い瓶の蓋をとって、指を入れている。そして両方の手でゆりの胸に触れていた。
「なんかひやっとする」
「いい匂いだろ？」
「うん……」
オイルか何かのぬるっとした感触だが、ふんわり花のにおいもしていた。
「なめても平気だよ」
ラーズが指をゆりの口元に寄せてきたのでゆりはぺろりとなめてみた。
「甘い。なんだか、身体が熱くなってきたような？」
ひんやりした感触だったが、少しすると身体が熱くなってきた。
「下はグレン塗って」
ラーズは瓶をグレンに渡していた。
「これ、なんなの？」
「興奮剤？ たまにガーベラは作ってるよ」
「そ、そうなの？」
グレンの指が女神の下半身をまさぐっていた。やはりひやっとした感触だが、次に身体の奥が熱くなってくるような感触があった。
「グレンとは何度抱き合ったんだい？」
ラーズがゆりの胸に触れながら聞いた。
「え……儀式の他は、今日がはじめてよ」
「そうなの？ もっとしてるのかと思った」
ゆりの身体はかなり興奮状態になっていた。確かに興奮剤のようなもののようだ。
「あの、もう抱いてもいいですか？」
グレンが聞いていた。
「いいよー」
言ったのはラーズである。
グレンはゆりの脚を抱えて、身体を合わせていた。
「あ……なんだか熱い……」
「気持ちいい？」
ラーズが上からゆりを見下ろしている。
「ずっとみられると恥ずかしいんだけど……」
「だってかわいいんだもん」
「あ……ああ……」
妖しい薬のせいか、ゆりは先ほどよりも早めに興奮の絶頂を感じていた。グレンも同じようだ。
「なんだか、中がすごく熱いですね」
ラーズが身体を離した。
「次は私ね」
ゆりの身体が上に引き上げられて、ラーズの膝の上にお尻が乗せられた。
そして腰をあげられて、グレンに顔を向けたまま、ゆりはラーズに抱かれたのだった。
「恥ずかしいよ」
「グレンにかわいい顔を見せてあげて」
「えー」
ラーズは下から突き上げてゆりを抱いた。ゆりはグレンに見つめられて、興奮するやら恥ずかしいやらである。
次にラーズはゆりの身体を四つん這いにしようとしていたので、ゆりが「やだ」と言って離れていた。
「どうしたの？ 気持ちよくない？」
「まずはいっぱいキスしたい」
ゆりはラーズに抱きついて顔を寄せた。
ラーズはゆりを抱きしめて口づけながら、身体を合わせた。
「ラーズ好き！」
「私も好きだよ」
ゆりは二人の神気がくるくるするのを感じた。
きたきたー！！ これにグレンの神気を足したらどうなるんだろう？ だめだ。好奇心が抑えられなーい！ ちょっとやってみたい！
「あー気持ちいい」
ラーズは絶頂を迎えてゆりの身体を離した。ゆりはグレンに身体を寄せた。ゆりはグレンと口づけをし合った。ラーズの手がゆりの胸をまさぐっている。
「グレン、好き」
「私も好きです」
３人で触りあっていちゃいちゃしてたら、かなり気持ちがもりあがってきた。
ゆりが上を向いていたので、ラーズが「何をみてるの？」と聞いた。
「神気。私とラーズの神気がくるくるして、グレンのもそれに合わさってきたの！」
ゆりはうれしそうである。
「そうなの？」
ラーズもグレンも上を向いている。
「こういうの好きなの」
「でも妖精ができるのいやじゃなかったの？」
ラーズは笑いながら聞いた。
「だけど生めるものなら生みたいかなー。子供が多いと楽しいしーばれると怖いけど、やっぱり生みたい！」
神気の渦から何かが二つ落ちてきて、ラーズとグレンはあわててそれをキャッチしていた。
「何か出てきた！ 卵！？」
それは白い大きな卵だった。鶏の卵よりも二回りほど大きい。
「妖精の卵？」
「妖精はこの中にいないと思うよ。神獣かも？」
とラーズ。
「えーそういうのも生めるの？」
ゆりは驚いている。
「この前子供を生んだでかいリスみたいな獣がいただろう？ あれはアリアスの神気からでてきたんだよ。ガーベラも昔かわいいピンクの鳥を生んだことがあったっけ」
「えーそうなんだ。何が出てくるんだろう？ 蛇だったらもらってもいい？」
ゆりはわくわくしながら言っていたので、ラーズは笑っていた。
「この卵、どうします？」
グレンが聞いた。
「何が生まれてもサーラは喜びそうだなあ」
卵にピキッとひびが入った。
「え？ もう出るの？ はや！」
二人は卵をシーツの上においた。
「何がでるんだろう？」
３人はわくわくしながら見守っている。やがて、卵の割れ目から、黄色いくちばしのようなものがでてきた。
「鳥だ！」
とゆり。両方の卵から出てきたのは、黒っぽいぬれた羽の、鳥の雛だった。その姿はお世辞にもかわいいと言えるものではなかったので、３人はちょっと無言になっていた。
「大人になればきっとかわいくなるわ」
ゆりが言った。
「そ、そうですね」
とグレン。
「神獣ってえさはいるの？」
ゆりはラーズに聞いた。
「うーん、どうだっけ？」
「アシュラン様はあげてますよ」
とグレン。
鳥たちはくちばしをあけてギョロギョロ鳴きだした。鳴き声もかわいくない。
「おなかがすいてるかも」
「サントス様ならきっと詳しいですよ」
グレンが言ったので、ゆりはあわてて服を着て、「サントスに聞いてくるね」と言って鳥の雛を両方抱えて去って行った。
「ギョロギョロって、ぷっ」
ラーズはつい笑っていた。
「ラーズ様は優しいですね」
グレンは服を着ながら言った。
「私を追い出そうと思わなかったんですか？」
「別に。しかし、ほんとおもしろいことが起きるよなあ。あの鳥が大人になったらどうなるんだろう？」
ラーズは楽しそうである。グレンもちょっと笑っていた。
一方、「ギョロロギョロロ」と変な鳴き声が聞こえてきたサントスは、きょろきょろと回りを見回して、女神ガーベラが鳥の雛か何かを抱えてくるのを見たのだった。
サントスは農園にいた。
「ガーベラ、その鳥はどうしたんですか？」
サントスは黒い鳥の雛を見下ろしている。
「私の神気から生まれたの」
ゆりは笑顔で言った。
「え？ そ、そうなんですか？」
サントスは意外そうな目で黒っぽい鳥の雛を見ていた。
「でもどうやって育てたらいいのかわからなくて」
「お腹がすいてるみたいですね。えさをあげないと」
「ギョロロギョロロ」
「ギョロロギョロロ」
鳥たちはめいいっぱいくちばしを開けている。
「えさって、やっぱり虫？」
「はい、そうですね」
「サントス、あげてくれる？」
「もちろんいいですよ。ちょっととってきます」
と言ってサントスは去って行った。ゆりは座って雛をスカートの上にのせている。
「もうちょっとでご飯がくるからまっててねー」
「ギョロロギョロロ」
「ギョロロギョロロ」
雛たちは首を伸ばしてエサをねだっている。
「それにしても……みにくいあひるの子を地で行くわね。この子達、将来は白鳥かも？」
「何の声？」
サントスの娘ネルがやってきた。ゆりはサントスにしたのと同じ説明をした。
「えーおもしろい！ 私が育てたい！」
「いいよーお願い」
「やったあ！」
「どんな鳥になると思う？」
「さあ、想像がつかないですね」
やがてサントスが帰ってきた。でかいイモムシを雛たちはおいしそうに食べている。
「かわいい！」
ネルが言った。お世辞にもかわいいと言えないが、女の子にはなんでもかわいく見えるようだ。
「どんな鳥になると思う？」
ゆりはサントスに聞いてみた。
「きっとかわいい鳥になりますよ」
「そうよね」
「キュリアにみせたいなあ。呼んでくるね！」
ネルは去って行った。
「ガーベラ、いい匂いですね」
「え？ そう？」
先ほど３人でもり上がった所なので、確かに女神の身体からは妖しいオーラがでている。サントスはちょっと恥ずかしそうだった。
イモムシを食べた雛たちは満足したのか、くちばしを閉じてとことこ歩き出した。サントスの近くをうろうろしている。
「えさをくれたからサントスがお父さんかと思ってるかもね」
ゆりが言うと、サントスはちょっと照れた様子である。指を出すと、雛がサントスの指をつついていた。
ラーズがサーラを連れて飛んできた。
「サーラ、鳥だよーさっき生まれたんだよ」
ラーズが言うと、サーラは黒い雛たちを眺めて、「ばっちい色だね」と言っていた。
サーラは素直である。
「でもさっきよりはましになったな」
鳥の羽はかわいてふわふわになっていたので、さっきよりはかなりましになっていた。
「サーラ、そのうちにかわいくなるからね」
ゆりが言った。
「そうなの？ あれかけていい？」
サーラがラーズに聞いて、ラーズは「だめ」と言っていた。サーラは虹の粉をかけたかったようだ。
やがてキュリアがネルと一緒にやってきた。
「えー真っ黒の鳥だ。かわってる！ かわいい！」
キュリアははしゃいでいる。
「私が育てるの」
「いいなあ。一羽私が育てたい！」
キュリアが言い出した。ゆりはキュリアからハロルドを連想し、「それはちょっと、ほら、兄弟一緒の方がね」とあわてて言っていた。
「そうかあ。じゃあ毎日見に来るね。名前はどうするの？」
「うーんと、ギョロちゃん？」
「……大人になってみてから決めたらどう？」
ゆりが提案し、「それもそうですねえ」と名前はまだつけないことになった。
「おいでー」
とゆりが呼んでも雛はやってこなかった。雛たちはサントスの側にひっついている。
「仕事の邪魔しちゃってごめんね」
「いいんですよ」
雛たちは、またくちばしを開けていた。
「ギョロロギョロロ」
「ギョロロギョロロ」
「もうお腹すいちゃった？」
「私も虫とってくるー」
サントスと一緒にネルもついていき、必死になってその後を雛たちがついていっていた。
「……私も何かしなくていいかしら？」
ゆりはちょっとサントスに悪いような気になっていた。
「平気だよ。どんな鳥になるんだろうな」
とラーズ。
「一緒にとびたいな」
サーラが言った。
「グレンは仕事に戻った？」
「そうみたいだよ。あの興奮剤、気に入ったらあっちにもっていったら？」
ラーズはゆりの耳元でささやくように言い、ゆりのほおが赤くなった。
「ガーベラ、また今度な」
「うん。またね」
「またねー」
二人は飛んでいき、ゆりは雛たちが気になったのでサントスに合流したのだった。
人間界では昼下がり、アナスターシャが王の間にやってきていた。客は帰り、ラクシュミはくつろいでいたところである。
「父様、ベツベツマーってすごいね」
アナスターシャがしみじみと言っている。
「どうしてだ？」
ラクシュミが聞いた。
「だって、レーヌにせがまれて、ずっと歌ったり竪琴弾いたりしてるんだよ。２時間以上も、すごいよ」
「２時間も？」
「もう３時間になるかも。すごいよね」
「すごいな」
王の間にぱっとミシェイラがやってきた。
「トーさま、あのね、ミー笛ふきたいの」
「笛？」
「うん、ふえー」
「もうちょっと大きくならないと指が届かないんじゃないのか？」
とラクシュミ。
「今から練習するんだもん。だからかって！」
「あーいいぞ」
「やったやった！」
ミシェイラははねながら去って行った。
「どうして急に笛なんだ？」
ラクシュミが聞いた。
「ベツベツマーがクーリーフンの木像をくれてね、そのクーリーフンが笛を吹いていたからじゃない？」
「クーリーフンの木像？ 私はまだ見てないぞ」
「ミシェイラがすぐにもっていっちゃったからねえ」
「いろいろもらったんだな」
「父様にも何かもってきてたよ」
「え？ 本当か？ なんだろう」
ラクシュミはうれしそうな顔つきになっている。
ゆりの部屋では、ずっとガーベラに歌をせがんでいたレーヌはようやくお昼寝していた。すごく満足げな顔つきである。
シスもラギも、文句も言わずに歌を歌っていたガーベラに、すごく感動していた。
「今回はどうして来てくれたんですか？」
シスがガーベラに聞いた。
「今回はね、あなたたちのママのために何かしたかったから変わったの。前回は彼女のおかげですごく助かったことがあったからそのお礼よ」
「へー、お母さんもすごいな」
「すごいわよ。クーリーフンなんて、最近あっちの彼女の方が女神っぽいっていうくらいなんだから」
「えー？」
子供達は笑っている。
「私は何かあるとすぐ落ち込んじゃってだめだわ。もっと彼女を見習わなきゃ。あ、そうだ。最近グレンが来たんでしょ？ その時グレンに会った？」
「会いましたよ。突然横にグレン様が寝ていてびっくりしたんですよ」
二人はその時の話をガーベラに聞かせたのだった。
その後は、ガーベラはハザークの部屋に行ったりもしていた。
「はい、贈り物」
とお酒の瓶を一本渡している。
「ありがとう」
ミシェイラはまだここに来ていなかったので、ハザークはゆりがガーベラだとは気づかなかった。ガーベラも今日は子供と遊ぶと決めていたのか、男達といちゃいちゃすることもなかった。
上の４人の子供達はガーベラからもらった知恵の輪をかちゃかちゃ回していたが、どれもなかなか外れなかった。
「あーもう、壊しちゃいたい！」
アナスターシャはすでにあきらめモードである。
「ここをこうして、こう、こうすれば……だめか、こっちをこう……」
ラギはぶつぶついいながら鉄の塊を回していた。
レーヌがお昼寝から目がさめて、ガーベラはレーヌと一緒にラクシュミの元に行った。
ラクシュミは休憩室で、ガーベラからの贈り物をすでに受け取り、さらにご機嫌になっていた。
贈り物はジンラのお酒が一本だった。
「ゆり、どうもありがとう。子供達もいろいろもらったようで」
「どういたしまして」
「レーヌはいっぱい歌ってもらってよかったな」
「うん」
レーヌはガーベラと手をつないだまま大きくうなずいていた。
そこにミシェイラがやってきた。
「ベツベツマー、笛ふける？」
「吹けるわよ」
「ふいて、ふいて」
「ゆりは歌いすぎて疲れてるだろう」
ラクシュミが言った。
「平気よ。せっかくだから広い部屋に行きましょうよ。王様とハザーク様も来てね」
「いいのか？ なら、広間に椅子を用意させよう」
「まだ歌ってくれる？」
レーヌが聞いた。
「いいよ。あ、そうだ。ハインリヒが暇だったら演奏してもらおうかしら」
こうして急遽城の広間に椅子が並べられて、子供達やゆりの恋人達まで呼ばれてやってきた。
「ベツベツマーまだ歌うなんて、タフねえ」
アナスターシャは感心している。
「急な演奏会ですねえ」
ミカエルが言った。男達はまだ、だれもガーベラが来ているとは知らなかった。
「３人目のマーなんだよ。だから歌も竪琴もすごく上手なんだよ」
ロイが説明すると、ヴィラとジュノーは「え？」という顔をしていた。
（ガーベラ？ いつきたんだろう？）
（さあ？）
近くにいた椅子に座っていたハザークも、「え？」と驚いている。そしてイシュタールは、（王妃に何かが？ ……じゃないよな？）とかなりドキドキ顔で椅子に座っていた。
こうして男達の驚きの中、まずはミシェイラのリクエストである笛の演奏が始まった。続いてハインリヒのリュートの演奏にガーベラの歌がのった。
仕事の疲れも癒えるような調べと歌に、男達もしばし癒やされたのだった。
その夜、ガーベラは王の寝室にレーヌもつれてきていた。
「レーヌちゃん、しばらく会えないかもしれないけど、元気でいてね」
ガーベラがレーヌを抱っこしていうと、レーヌはちょっと悲しそうだった。
「ベツベツマーどこかにいくの？ ずっといれないの？」
「レーちゃんには素晴らしいママが二人もいるでしょう？ 私はちょっと遠い所でみんなの幸せを祈ってるからね」
「うん」
ガーベラはしばらくレーヌをなでなでしていた。
「王様も元気でいてね」
「今日はありがとう」
ラクシュミは軽くガーベラと唇を合わせていたのだった。
神の国も夕方になった。ゆりはしばらく鳥を眺めていたが、今はクーリーフンとガーベラの神殿に戻ってきている。
「クーリーフン、神獣って妖精とはやっぱり違うわよね？」
「違うよ」
「そうかあ。やっぱり石は無理か……」
ゆりは独り言を言っていた。
「お母さんがあの鳥を見たら驚くだろうなあ……」
クーリーフンはぼそりと言っている。
「大人になれば大変身するわよ。きっと。３人いたから、正確には３人の神気から生まれたってことなのかしら？ まあガーベラの神気から生まれたことにしといてね」
などと言っていたら、ぬっと部屋に入ってきた男がいた。ハロルドである。
「あら、ハロルド、ごきげんよう」
ゆりは笑顔で挨拶をした。
「なんか黒い鳥を生んだとか聞いたぞ。お前が生んだのか？」
「そうみたい」
「どうやって生まれたんだ？」
「どうやってって……ぼんやりしてたら突然ぽんぽんっと卵が落ちてきたの」
「嘘だろ」
ハロルドは鋭く言っていた。
「どうせラーズあたりとくっついてたんだろ？」
ゆりはぐうの音もでなかった。
「まあいい、いつ帰るんだ？」
「さー」
「まだいれるのか？ なら、この前のお礼に、熱烈にしてやる」
ハロルドがずんずん近づいてきた。
「え？ いえいえ、今日は私もうお腹いっぱいで……できたらまた今度お願いしたいです」
ゆりは遠慮モードである。
「せっかくだからやりだめしときゃいい」
といいながらハロルドはゆりの身体を抱き上げていた。
「ごゆっくりー」
とクーリーフンが言っている。
「や、やりだめ？」
あ、そういえば、ベッドあのままじゃ……
ハロルドはゆりを抱っこしたまま寝室に行き、シーツの上に散乱している花を見た。明らかに情事の後っぽい感じでシーツも乱れている。
「…………」
ゆりの顔が引きつっている。
「ラーズの他に誰かいたか？」
ハロルドがぼそっと言い出して、だっこされていたゆりは身体をびくっと震わせていた。
「誰かいたろ？ なんだかそんな気がする」
「気のせいよ。気のせい」
「気のせいか」
ハロルドはゆりの身体を下ろした。
「気のせい気のせい」
ゆりはささっと逃げようとして、ハロルドの腕がすぐにゆりの腰に回っていた。ハロルドはゆりの身体をベッドの上に投げ出している。
「もー乱暴にしちゃいや」
「乱暴になんてしてないだろ。ラクアじゃないなあ。もう一人は神気が薄い……まさかグレンか？」
ゆりの身体は固まっていた。
「あいつら一人じゃ満足できないのか？ 全くお前ってやつは……」
ハロルドはあきれ顔である。
「えー……そ、そういうわけじゃ……
まるでゆりの方が二人を誘ったような言い方である。
「それだけは訂正してー」
「もういい。さっさとしよう」
ハロルドは服を脱いでいた。
「私はもう満足なんですけどー」
「じゃあ、明日そっちに行ってお礼をしてもいいが？」
「今お願いします」
ゆりはあっさり言い直していた。
ハロルドはちょっと笑っている。どうやら今日は本当に機嫌がいいようだ。
こうしてゆりはグレン、ラーズに続き、最後に体格のいいハロルドの相手まですることになったのだった。
翌朝目がさめた時には、ゆりは人間界に戻っていた。ゆりは弁解できないほどキンキラキンになっていたので、
横にいたラクシュミに、「やっぱり遊んでしまいました」と報告していたのだった。
つづく
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