第１１話
「いやー、妹って、妹ってかわいいよねえ」
にやにやしながら言っていたのは、ジュノーの息子、クリスである。最近妹が産まれたクリスは、妹がかわいくて仕方ない様子だった。
「手もこんなに小さくてさあ、そのうち『おにいちゃん』って言ってくれるのかな。楽しみだなあ」
出産率が低いこの国では一人っ子は珍しくない。母親が同じ兄弟は稀だった。妹のティナは母親は違うが、それでもクリスにとっては大切な妹である。
「よかったなあ」
話を聞いていたのはヴィラの子供ヴィンセントである。ヴィンセントは今ヴィラの彼女が一人妊娠中なので、クリスがうらやましくて仕方ないということはなかった。
あと３年ほど我慢すれば、妹か弟が産まれるに違いない。
「しかし、王妃様の恋人達のはらませ率ってすごいよな」
クリスはかわいい顔で飛んでもないことを言っていた。
「そうだな。みんな子供ができるもんな。僕達はみんな同時期にできたし、きっと王妃様に刺激されたんだよ。まさに王妃の奇跡だよな」
ヴィンセントも真面目な顔で言い出していた。当時、ゆりがアナスターシャを妊娠してほどなくして、恋人達の彼女もそれぞれ妊娠したのだった。
ちまたでは「王妃の奇蹟」と言われていたが、ゆりは知らない。
「最近、王妃の恋人達が変化してるだろ。僕のお父さんも変わるのかなあ」
ヴィンセントが言っているのは、ミルキダスをはじめとした男達の変化のことだった。見かけは同じだが、気がちょっと強くなっているのである。
今のところ、ミルキダス、ハインリヒ、シャナーンが変化していた。子供達にはなぜ変わったのかさっぱりわからなかったが、気が強くなるのは喜ばしいことである。
「恋人じゃないけどジェナサイト様も変わったね。大人になって蛇が出てくるなんてね。僕達の蛇もそろそろもっとはっきり出てくればいいね」
クリスが言った。二人の肌にも蛇の鱗は出てきたがまだはっきりした蛇ではなかった。なんとか１匹の蛇になってほしいものである。
「だよな。ああ、お父さんが持ってる子蛇がほしいー」
「僕もほしい。お父さんの肌から出るくらいだから、簡単にできそうなんだけどなあ」
とクリス。ジュノーの肌にいた子蛇は一度肌から出たことがあった。肌から出せるのなら、クリスの肌につくことも可能のような気がする。
「お父さんが隠居する時には絶対もらおう」
「そうだね。隠居するんならもういらないもんね」
二人はうなずいていた。ジュノーとヴィラは今年110歳、隠居まではかなり長い月日がかかりそうである。
城にいたゆりは、昼食後ベッドで寝ていた。妊娠中ともなれば、夜ぐっすり寝ても昼間も寝てしまうことがある。
ゆりはそのまま神の国に行っていたが、変わりにガーベラがこっちに来ていた。ガーベラは身体を起こして、ふらふらとゆりの部屋を出て行った。
子供達の部屋に行き、レーヌとミシェイラを発見したガーベラは、「だっこさせて」と言って、二人をぎゅっと抱きしめていた。
「マーどしたの？」
「どうもしないけど、抱きしめさせてー」
「いいよ」
二人はぎゅっとガーベラをだっこしてくれた。ガーベラはこらえていたが、ついにだーと涙を流していた。
「マー」
「ないちゃやだよう」
「ごめんね。ごめんね。ちょっとだけ泣かせてね」
ガーベラは子供達を抱きしめて、しばらく、そのぬくもりを感じていたのだった。
その頃神の国に行っていたゆりは、当然ながらガーベラのことを気にして同じ神殿にいたクーリーフンに聞いていた。
「お母さんは元気ないけど、元気のように装ってるよ。だけどラーズは感づいて僕に何かあったんじゃないかと聞いてくるけどね。どうもラーズにはもうティカの記憶はないようでさ。
みんなの記憶からティカがいないってのも、結構寂しいよね」
クーリーフンはぽつりと言った。
「そうなんだ。もうみんなの記憶にはティカはいないんだ……」
「ティカのことを覚えているのは、オルガと僕とティラ、お母さん、カサンドラ、ヒルデリア様、ハロルドくらいかも。ティカにお別れをした神々だけみたいだ」
「オルガとガーベラの仲は大丈夫かしら」
「しばらくは仕方ないよ。時がくれば元通りになるんじゃないかな。あ、そうだ。ラーズがうるさかったから、あなたの記憶が戻った話をして紛らわせておいたから」
「そう。クーリーフンはどこにもいかないでね」
「僕はどこにもいかないよ。お母さんの側にずっといるよ。それが僕の役割」
「うん。ありがとう。ずっとガーベラの側にいてね」
ゆりはクーリーフンの手をなでなでしていた。
クーリーフンが出かけてしまったのでゆりも神殿の外にでた。今日はさすがにラーズといちゃいちゃという気分ではないので、会うのもためらわれる。
神殿の外に、この前生れたクジャクのジャックがいた。ジャックは女神を見ると、ばさーと羽を広げてみせた。７色の見事な羽である。生きる芸術品といってもいいほどだ。
ゆりは思わずぱちぱちと手をたたいていた。
「きれいねえ」
ジャックは羽を閉じると、とことこ歩いて行った。
「もしかして慰めにきてくれたのかしら？ 結構みんな心配してるのかもねえ。そうだ。アマンザと話がしたいな。行ってみよう」
ゆりはジンラの元に移動した。ジンラの神殿の横の酒蔵では、数人の妖精達がいったりきたりしてペガサスが牽いた馬車に何かを乗せていた。どうやらお酒をのせているようだ。
ジンラの姿は見えない。酒蔵の中だろう。ゆりはアマンザが馬車の近くにいたので近づいて行った。
「アマンザ、忙しそうね」
「お母さん、今夜の準備をしてるんだ。演奏会の後酒宴になるらしいから。雲の上に運ぶんだよ」
「そう」
「あ、そうだ。今農園におもしろい木がいるから行ってみるといいよ」
「おもしろい木？」
「行けばわかるよ」
「わかった」
アマンザは忙しそうだったので、ゆりは農園に行ってみた。
「おもしろい木？ 木に人の顔があるとか？ 木がいるってのもおかしいような」
ぶどうの木にはまばらにぶどうが実っている。ぶどうの匂いがあたりに漂っていた。
ゆりは周りをきょろきょろ見渡しながらおもしろい木を探し、それらしき木をみつけた。二本の離れた木の枝が絡み合い、まるでハンモックのような感じになっている木がある。
木の幹はかなり太い。立派な木である。
「これかなあ？」
二本の木から伸びた枝は密接にからみあい、２メートルほどの高いところに人が寝転べるようなベッドを作っていた。宙に浮いているのでまさにハンモックのようである。
「大人でも乗れそう。でも木に登れないし……」
などと言っていたら、なんとそのハンモックがゆっくり下に下りてきた。
「えーすごい。乗せてくれるの？」
枝の寝床はゆりの腰のあたりにまで下りてきた。これならなんとかあがれそうである。ゆりが寝床にあがり寝転んでみると、寝床はゆっくりと上にあがった。
「すごーい。すごーい。おもしろい！」
寝床はすべすべしていたので、ゆりはすっかり寝転んでいた。
「アマンザも寝転んで昼寝したのかしら」
上を向いて寝転んだままじっと目を閉じていると、太ももをもぞもぞ何かがあたる感触がした。
「ん？」
何かがスカートの中にはいってきている感じである。
「え？ ちょっと……」
起き上がろうとすると、腕に木の枝が巻き付いて起き上がれなかった。
「ええ！？ ちょっ……」
すべすべした木の枝が、太ももをさわさわ触ってきて、違う所にいこうとしていた。
「ちょっとまった。待ちなさいって。何するのよ」
ゆりは寝転んだまま顔だけあげて声をあげている。足首にも木の枝がまきついて、足も動かせなくなった。
「ちょっとー！」
今日はガーベラはショーツははいていなかった。木の枝は足の付け根の方に触れてきていたのでゆりはそれだけは阻止しようと腰を横にくねらせて足を閉じようとしている
「あなたオスなの？ やめなさいって」
「おかあさーん」
という声が聞こえてきて、ゆりは心の中で『げええ！』と女神らしからぬ声をあげていた。
「木の枝のベッド、気持ちいいでしょ？」
下にやってきたのはアマンザのようだ。
「そ、そうね。気持ちいい。お願い。ジンラを呼んできてー」
「うん」
アマンザは去って行ったようだ。
こんな所をアマンザに見られたら困る！ 変態かと思われる！ ジンラにも見られたくないけど、しょうがない！
「それ以上やったら木を燃やしちゃうからねー」
ゆりは脅しのように言っていたが、木の枝は引っ込まず、女神の太ももの付け根をすりすりしていた。
「えっち、もーえっち」
ゆりは太ももをぴったり閉じようと懸命である。
「おかあさーん、お父さんがきたよ」
アマンザの声が聞こえてきた。
「ジンラ、お願い一人でこっちにきてー」
ゆりは木の上で叫んだ。するとジンラは何かを察したのか、アマンザを離れさせた。枝の寝床がゆっくりと下に下がった。
ジンラの顔が見えた。
「木にいたずらされたんだな」
ジンラは苦笑している。
「やだもーこの木はなんなの？」
ゆりの顔は真っ赤だった。
「さあ、たまに現れるんだが、前にもいたずらされたろう？」
「そうだっけ？」
ジンラが手をあてると、女神の身体からさっと枝が引いて行った。ゆりはようやく身体を起こした。
「びっくりしたわ」
「すまなかったな」
ゆりはジンラに抱きついて地上に下ろしてもらった。
「この木って男なの？」
「さあ、そうかもなあ。行こう」
ジンラに促されてゆりは木から離れた。木を眺めると、待っているように寝床を下に下ろしたままだったが、やがてするすると寝床は上にあがった。
「変な木よね。いつからいるの？」
「いや、ずっといるわけじゃない。いつの間にか木がはえていて、気づくとなくなってるんだ。幻の木なんだ」
「幻の木？ じゃあそのうちにいなくなるの？」
「明日にはもういないかもなあ」
「どうしてはえてくるの？」
「さあ」
「前にも私いたずらされたんだよね。いつだっけ？」
「あれは……１００年前か？ もう忘れたが……たまに、気づくといることがある」
もしかして、あの木には何か意味がある？
ゆりは振り向いて木を見ていた。その二本の木にはまったく葉っぱは生えていなかった。他の木には葉は生えているというのに。
たまに現れる幻の木……何かのサインってことはないのかしら？
ゆりは虹の妖精達を思い出していた。あの妖精達が出てくる時も、サインがあったのだ。ラーズは全く気づかなかったサインが。
エッチな木は、あそこでガーベラにエッチな気分になってほしいのかも？
「ねえ、ジンラ、あの木って何か意味があると思うの。たとえば、あそこでジンラと愛し合ったら何かが起こるかも」
ゆりは黙っておけなかった。
「何かってなんだ？」
「わからない。だけど、もしかしたら子供ができたり」
「ええ？」
ジンラは信じられないといった表情で目を見開き、ゆりと同じように木を眺めた。
「まさか」
ここで何もなければ、何もないまま終わるに違いない。
子供かもしれないしそうじゃないかもしれない。何も起こらないかもしれないけど……もし子供だったとしたら、ここで黙ってはいられない。だって、神様にとって子供は、
一万年以上も待ち望んだ宝物だから。だけど、あそこでジンラと愛し合うのはかなりハードルが高そう……
ここは野外である。しかも今は真っ昼間だ。木に葉っぱが茂っているわけでもなく、上におおいもなかった。
あ、そうだ。私が帰る時にガーベラに話したらどうだろう。木が消える前にできるかもしれない
今すぐに帰る方法もわからないし……夜ならまだその気になるかもしれない
ゆりも今強引にジンラを誘う気にはなれなかった。相手がハロルドならばできるが、ジンラとそうなったのは、アマンザが生まれた時だけである。
かなり久しぶりだし、あそこでそうなるのもちょっと抵抗がある。
「ガーベラは子供ができると思うのか？」
「わからない。でも前に虹の子供達が出てきたときにサインのようなものがあったから、今回も同じかなって思って。虹の子供達は私の子供じゃなかったから、子供じゃないかもしれないけどね」
「うーん……」
「でも、今ジンラとあそこでってのは確かに無理よね。夜ならどう？ まだあの木はいるかもしれないわよ」
「試してみよう」
「夜にね」
「いや、今」
「え？ 今？」
ゆりは驚いた顔をしていた。
「今試してみよう」
ジンラは涼しい顔で言い出した。
まさか了承するとは思わなかったゆりの方がちょっと困った表情である。ジンラはゆりの手を引っ張って木の元に戻っていた。
「誰かに見られてもいいの？」
「何か困ることがあるのか？ 私は別段ないが」
「え、その……ジンラは外は嫌かなって思ったから……しかも真っ昼間だし」
幻の木に近づくと、するすると寝床が下りてきた。
「二人も乗れるかしら？」
「ガーベラが言い出したんだろう。躊躇するなんて変だぞ」
ジンラは笑っている。
「そ、そうよね。そうなんだけど……」
ジンラは女神の身体を寝床の上にあげて、自分も上に乗ってみた。
「案外いけそうだ」
「…………」
「もしかして君は、別人格のガーベラなのか？」
「えええ！？」
不意をつかれたゆりはつい大げさに驚いてしまい、続いて「なんのこと？」と聞いていた。
ジンラまで知ってる！？
「クーリーフンが、別のガーベラは私を遠くで眺めるのが好きだといってた」
「ええ！？」
「君だろう。違うのか？」
「……実はそうだけど、なんで知ってるの？」
「君とアマンザの話を聞いてしまった」
な、何の話を聞いたんだろう？？？
ゆりはちょっと青くなっていた。
「じゃあしよう」
ジンラは女神のスカートを上にあげていた。
「あ、ちょ、ちょっとまって。ジンラは、その、怒ってないの？」
「君は私が怒るようなことはしてないと思うが……」
「そ、そうかしら」
木の寝床がわさっと横に揺れてゆりは驚いた。
「きゃっ！」
「どうやら催促しているようだ。本当に、何かあるかもしれないな」
ジンラはゆりの上に乗ってきた。
ひえー！！ さっきの話も気になるけど、本当に今ここでするの！？ ジンラと！？
両方の胸を出されてゆりは「ひえ！」と声を出していた。
「ガーベラ、顔が真っ赤だが……」
「だって……」
「なんだかおもしろいな」
ゆりは足を広げられて、露骨に下半身が露出されてしまった。
は、恥ずかしい！！ 女神の身体でも恥ずかしい
「君とは二回目？」
ええ！ それもばれてる！
ジンラが顔を寄せてきた。
こうなったら覚悟を決めよう、覚悟をきめ……決められない〜〜〜
「死にそうに熱いけど大丈夫かな？」
「なんだか、いろいろ、いろいろと……ぎゃぎゃっ」
ジンラの指が女神の下半身をまさぐっていた。
「声が変だぞ。ガーベラ」
「だだっ……」
「久々に興奮してきた。すんなりできそうだ」
「ええっ」
空からは太陽の光が降り注いでいる。
ゆりは一瞬気が遠くなってきて、これは夢かもしれないなどと思っていた。
ジンラと野外でなんでするわけないし、夢ならまあいいかあ〜
などと気楽に考えようとしていたが、身体が一体化する感触にはっと我に帰っていた。
ぼんやりしてちゃだめだわ。集中しなきゃ！ 二人の気をくるくるさせなきゃ！
「ジンラ好き！」
ゆりはやけ気味に言った。
「ガーベラ、愛してる」
二人は同時に高みにのぼり、果てた。だが、身体を離してしばらくしても、何も起こらなかった。
ゆりはぽろぽろ涙をこぼしていた。
「ガーベラ」
「ごめんなさい。違ってたかも。子供じゃなかったかも」
「いいんだ。泣かなくていいんだ」
「ごめんなさい」
ジンラはゆりをそっと抱きしめていた。
服を着て二人は枝の寝床から地上へと降りた。期待することは何も起こらず、ゆりはジンラと別れて白馬に乗ってガーベラの神殿へと帰っていった。
ゆりが人間界に戻って後のことである。夕食時、食堂にてミシェイラが、「さっきベツベツマーがきたよ」と言い出して一同びっくりした。
「ええー！ ほんと？ 何で呼んでくれなかったんだい？」
ラギが仰天して聞いていた。
「ベツベツマー元気なかったの。お歌歌ってって言うから、れーちゃんと一緒にうたったんだよ」
ミシェイラが言った。レーヌはうなずいている。
「ええーどうしたんだろう。お母さん知ってる？」
ゆりは首を横に振っていた。
「どうしたんだろう」
「気になるね……」
ラギとシスは心配している。
「すぐひっこんじゃったんだね」
ナナミも残念そうだった。
ガーベラ、ガーベラに、新しい子供を抱かせてあげたかったなあ……
ゆりは神の国で何も起きなかったことがまだショックのようである。
神の国でも夕暮れ時だった。
「お父さん、雲の上の神殿にはいかないんですか？」
アマンザがジンラに聞いた。
「ああ、今日はそういう気分じゃなくて……」
ジンラは子供ができなかったのがショックというわけではなかった。ただ、昼間出会ったガーベラのことが気になっただけである。
「あの木、消えかかってましたよ」
「そうか」
ジンラは幻の木の場所まで行ってみた。確かに二本の木は消えかかっていた。なんとも不思議な木である。一体何のために現れたのか、ジンラにもさっぱりわからなかった。
「ん？」
二本の木の枝が絡まってできていた枝の寝床の下に、大きなブドウの葉っぱがぶらさがってるのが見えた。たった一枚だけである。木が消えると、その葉っぱはひらひらと
落ちてきた。ジンラはその葉っぱを受け止めようと手を出した。すると葉はくるんと宙で一回転して、ふわんと何かが出現した。
「うわっ！」
ジンラの腕の中に下りてきたのは、緑の髪の女の子だった。
ガーベラの神殿では、ガーベラはソファに寝込んでいる。演奏会にはクーリーフンだけ派遣していた。今はとてもじゃないが楽器を演奏する気分ではない。
「ガーベラ」
ジンラがやってきて、ガーベラは身体を起こした。
「ガーベラ、紹介しよう。ぶどうの木の妖精だ」
ジンラの後ろから、緑のくりくりの髪の女の子が出てきた。ぶどうの葉っぱを組み合わせたような服を着ている。人間でいえば５歳くらいの女の子である。
「まあかわいい」
女の子は大きな緑の目をしていた。
「さっきぶどうの木の上でしたろう？ あの時できたんだ」
「え？」
ぶどうの木の上？ ぶどうの木の上って聞こえたけど聞き間違いかしら？
ぶどうの木の下でならわかるが、ぶどうの木の上でどうやってしたのか、ガーベラにはまるで想像できなかった。
「覚えてないのか？」
「ええ？ 覚えてるわよ。もちろん」
「じゃあどうやってした？」
「え……」
ジンラが何かに気づいている風だったので、ガーベラはどぎまぎしている。
「まあいい。とにかくかわいい子が来てくれてうれしい。名前は何にしよう？」
「えーと……」
女の子はガーベラの側まできて、ガーベラの膝にひっついた。無邪気な瞳がじっとガーベラを見上げていた。
ガーベラの瞳から涙がこぼれていた。女の子はどうしたの？ とでもいいたげである。
「本当にかわいいわね」
ガーベラは女の子のくりくりした髪をなでなでしていた。
翌日人間界にて、ミシェイラがゆりの部屋にやってきて「マー石増えた？」と聞いた。
「増えてないわよ」
ゆりは即答している。
「見せて」
「いいけど」
ゆりは石の箱を持ってきてミシェイラに見せた。
「増えた。増えた。わーい！」
「ええ？」
ゆりは箱を自分に向けた。確かに一個石が増えて２２個になっている。最後のマスには緑色の石が入っていた。
「あれ？ どうして？ どういうこと？」
（まさかアシュラン様が間違えて？ そんなばかな）
喜んで飛び跳ねるミシェイラの横では、ゆりが首をかしげまくってたのだった。
