第１２話
黒目のゆりは、その日一日石の箱を何度も眺めて、緑色の石を出してはしまっていた。
「もしかしたら、ガーベラが妖精を生んだけど、アシュラン様が私が生んだと誤解したのかもねえ」
ゆりはそういう理由しか思いつかず、その夜、寝ようとしたゆりの元にクーリーフンがやってきたのだった。
「やあ」
「こんばんは、どうしたの？」
「この前来た時にジンラと仲良くなったでしょ？ ジンラが木の上で仲良くなったって言ってるんだけど、本当？」
「木の上っていうか、枝の上」
「枝？」
ゆりは枝のベッドの説明をした。
「なるほどそういうわけかあ。しかしあのジンラを野外で誘うなんて、すごいじゃない」
クーリーフンは感心顔である。
「え？ いや、私が子供が産まれるかもって言ったからだと思うわよ。そういうムラムラ衝動じゃないと思うけど」
「そうなの？ それは反則だよ。普通に誘惑しないと」
クーリーフンは横目でゆりをにらんでいた。
「無理よ。ガーベラに任せるわよ」
「お母さんはジンラとは長い付き合いだけど、真っ昼間に外でしたことはないよ。だからびっくりしてた」
「え？ そうなの？」
「そう。だからどうやってジンラを誘惑したかと思ったのにー反則はだめー」
クーリーフンは頬を膨らませている。ミシェイラに見せられないのが残念だった。
恋人に子供の話を先にするのは、クーリーフンにとっては反則技らしい。
「愛欲の女神様なんだからね」
「ごめんなちゃーい」
ゆりはかわいく謝っていた。
「女の子はライラって名前になったよ」
「女の子って？」
「知らなかったの？ 女の子が生まれてね」
クーリーフンがぶどうの木の妖精のことを聞かせると、ゆりはようやく合点がいった顔付きになった。
「そうなんだ。妖精ができたんだ。よかった！ どんな子？」
「小さくてかわいい子だよ。まだしゃべらなくて、サーラになんだか似てる。緑の髪で、ぶどうの葉っぱを身体につけてるんだ」
「へー……だから緑の石かあ……」
ゆりは女の子の顔を想像していた。次に神の国に行く時が楽しみである。
「あ、そうだ。私、なんだかジンラにばれちゃったみたいなんだけど……」
「そういえばこの前なんか言ってたな。まあ別に悪いことしてないから問題ないんじゃない？」
クーリーフンはそれについてはどうでもいいようだ。ゆりにとっては結構問題のような気がするが。
「そうかなあ。いいのかな」
「人間ってばれてないからいいよ。はい、これあげる。それじゃ僕はいくね」
クーリーフンは持っていた麻袋をゆりに渡して去って行った。袋を開けるとぷーんといい匂いが漂ってきた。
「あ、ぶどうだ」
中にはたくさんのぶどうが入っていたのだった。
神の国では、かわいい妖精を見にジェイクやキュリア、バリアスがジンラの神殿近くにやってきていた。
「ライラ」と名付けられたぶどうの木の妖精は、とにかくちょこまかとよく動く妖精で、ぶどうの木にのぼったり枝を渡ったり、枝の上を跳びはねたりくるくる回ったり、とにかく
せわしない。ゆりが見れば「小猿ちゃんみたい」と言うかもしれないが、この世界に猿はいないので、皆「リスみたい」とか「モモンガみたい」などと言っていた。
「僕も」
バリアスは自分もやってみたくなり枝にぶら下がり、枝がぼきっと折れてアマンザに「折っちゃだめだよー」と注意されていた。
バリアスは枝の上を歩こうとしてまたぶどうの木の枝を折っていた。
「僕がやると折れる。なぜだ」
「ごめんよ」
ジェイクが代わりにアマンザに謝っていた。
「しかし、小動物みたいだね」
「リスみたいでかわいい」
キュリアが言った。
「あの服どうやって作ったの？」
ライラはでかい葉っぱをつないだ服を着ていたので、キュリアはそっちが気になったようだ。
「自然についてたんだ。なんかの動物と間違えて射られたりしないかそっちが心配だよ」
とアマンザ。その場合犯人は一人だけだが。
「まさか２回目はないと思うよ。一応知恵の神だし」
名前を言わなくてもジェイクも察したようである。神と違って妖精は命がつきると死ぬのである。アマンザにとっては、活発な妖精がちょっと心配である。
ラーズとサーラが空を飛んできた。
「おーかわいい子だなあ」
ラーズはライラを眺めて微笑んでいる。サーラはライラの近くに飛んでいき、じーと眺めていた。
「二人、なんだか似てるな。ジンラは中にいるか？」
「いますよ」
アマンザが答えて、ラーズは神殿の中に入って行った。
「ジンラ、妖精誕生おめでとー」
ラーズはジンラにお祝いの言葉を言いに来たのだった。
ジンラは座って酒を飲んでいた。
「ありがとう」
「かわいい子だな。サーラみたいでさ」
「似てるかもな」
「昼間野外でしたって本当かー？ クーリーフンも驚いてたぞ」
ジンラは杯に酒を注いでラーズに渡していた。ラーズは、ジンラに妖精が生まれたことよりもそっちが気になったらしい。前のめりになっている。
「しかもぶどうの木の上でな」
ジンラは笑いながら言った
「ぶどうの木の上？ 冗談だろ？」
ラーズは目をぱちくりさせていた。
「木のてっぺんに二人でよじのぼってした」
「はあ？」
「というのは冗談だが、木の枝がちょうどいい寝床をつくってた。ガーベラは『子供ができるかもしれない』などと言い出して、つい私も」
「へー……」
「前に言ってた別人格とやらのガーベラだったんだが、まるっきりの別人がガーベラにいた気がした。あんなガーベラは見たことがない」
「そうか。まあ、不快じゃないならいいじゃないか」
ラーズはあっさり聞き流している。
「不快ではない。もっと丁寧に相手をしたほうがよかったかなあと思ったり……私は最近ガーベラへの接し方が適当すぎたかもしれない、とちょっと反省した」
「ふーん」
「恋人関係が長すぎて、じっくりガーベラにかまうことがなかった。あ、だから別人格なんてものができて……」
ジンラがぶつぶつ言い出して、ラーズは話題を変えた。
「なあ、最近ガーベラはちょっと落ち込んでないか？ 何があったか知ってるか？」
「ああ、オルガと喧嘩したらしいぞ。オルガに聞いた」
「そうか。オルガとねえ。何をもめたんだ？」
「さあ、それについては知らない。ところで、ラーズはガーベラの別人格のこともっと気にならないのか？」
ジンラは話を戻してきた。
「会いたいんだが、なかなか来てくれないんだよなあ」
（記憶が戻ったんなら会いに来てくれればいいのに。つれないなあ）
ラーズは酒を飲み干して神殿の外に出た。するとサーラがライラと両手をつないでぱたぱた飛んでいる。かなりふらふらだ。
「おおーい、大丈夫かー？」
ラーズはあわてて救出に行ったのだった。
人間界では、ゆりはミカエルから気をもらうためにひっついていたが、ミカエルは不穏な表情である。
「どうしたの？」
ゆりが聞くと、ミカエルは口をとがらせていた。
「王妃はひどい。シャナーンに金蛇を会わせたでしょ」
「え？ シャナーン？」
「シャナーンの気が強くなってるんですよ。ハインリヒやミルキダスみたいに。ずるいですよー」
「私は知らないわよ？ 夢でシャナーンには会ってないし、金蛇が勝手に会ったんじゃない？」
シャナーンの話はさっぱり聞いてなかったので、ゆりはそう思った。
「ひどい。私も強くしてくださいよ」
「そーいわれても……」
「神様とばっかり遊んで私と遊んでくれないし……」
「う……」
ゆりにはジンラと神の国で仲良くなった余韻がまだ残っているようだ。男達にはばればれだった。
「あ、そうだ。私蛇紋が出るようになったんだよーみたい？」
ゆりはミカエルの機嫌を取るかのように言った。
「みたいです」
二人は別室に移動して散々仲良くなったのだが、ゆりの肌から蛇の鱗さえ出てこなかった。
「あれえ？ なんで？ どうして？」
「ぐすん……」
しまいにはミカエルはいじけて背中を向けてしまったのだった。
金蛇ったらなんで出てこないのよー！ なんでよー！
心の中で叫んでも、何の返答もなかった。
「王妃はもう私のことが好きじゃないんだ。何してももう感じないんだ……」
ミカエルは背中を向けてぶつぶつ言っている。
ゆりの左目が変わった。
「ミカエル、もう一度かわいがってちょうだい！」
蛇の目のゆりはミカエルを強引にこちらに向けてひっついた。ミカエルは気を取り直してゆりに愛撫したが、ゆりの肌は変わらなかった。
「なぜに！？」
「……王妃、神の国で遊び過ぎなんですよ。もう愛撫だけじゃ満足できない身体なんですよ」
「ちっがーう！！ はっわかった。嫌がらせよ。金蛇の嫌がらせに違いないわ！」
「違います。王妃がもう私のこと、どうでもよくなってるんですよ」
ミカエルはせつなそうに目を細めている。
「違うってば。ミカエルのこと好きよ」
「神様の方が好きなんだ」
ミカエルはまた背中を向けてしまい、黒目に変わったゆりは、「違うよーミカエルが大好きだよー機嫌直してよ」とミカエルの背中にくっついていたのだった。
ゆりはミカエルに散々いろいろしてもらったが最後まで何も出ず、ミカエルには「感じてる演技をしてるんじゃないですか？」とまで言われてしまった。
「演技なんてしないわよ！ くそーこうなったら、夜に誰か呼んでみよう。だれにしよう……よし、ジュノーとヴィラにしよう」
こうなったら意地でも自分の蛇紋が見たかったゆりは、夜にジュノーとヴィラに来てもらうことにした。
夜やってきた二人はゆりに、「気がほしいんですか？」と聞いている。
「気よりも愛がほしい。私に愛撫して」
ゆりは熱がこもった瞳で二人に迫っていた。ジュノーとヴィラは目を合わせていた。
「どうしたんですか？」
「二人はその気ないの？」
「赤い月が終わってあんまり経ってないですから……」
「もう5の月ですよーあれから一月以上は経ってるわよー。そんなに赤い月でがんばったの？」
ゆりはじろりと二人をにらんだ。
「そーいうわけじゃ……」
「私は、興奮したいの」
ゆりは自分の胸をたたいて言った。ゆりの瞳には気迫がこもっている。
―王妃は儀式がしたいんじゃないか？
ジュノーがヴィラに思念を送った。
―そうかもな
「王妃、じゃあ愛し合いましょう」
ジュノーがにこやかに言うと、ゆりは「おー」と右手をあげていた。
やはり気迫がこもっているようだ。
３人は裸になって肌を寄せた。ゆりは男二人に散々いろいろされたりしたのだが、蛇紋はさっぱり出なかった。
えーなんで？ ちゃんと感じてるのに……もしかして前ほど感じてない？ 神の国で刺激的なことをしすぎてこれじゃ満足できなくなっちゃったとか！？
ゆりはショックを受けていた。
「あ、そういえば、王妃は妊娠して蛇紋は出ないのかな？」
ジュノーがそこに気づいた。
「あ、そういえば」
とヴィラ。
「蛇紋は今回出てこないみたい」
ゆりぼそりと言った。
「えーどうしてですか？」
「さー……」
黙っておこうと思ったゆりだったが、「実は、赤い月には出たけどあれから出ないの」と告白した。
「「えー？」」
「昼間ミカエルといちゃいちゃしたけど出なかったの。ミカエルったらいじけちゃって」
「王妃がそんなに感じてないからとか？」
ジュノーが言った。
「そんなことはないと思うけど……」
「身体をひっつけないともう感じないのかもしれないですよ？」
ヴィラがちょっと意地悪げに言った。
「う……まさか……」
「それじゃ儀式もできないかも？」
とジュノー。
「まさかー！」
ゆりは本気で大ショックを受けていた。
「もしそうなったらどうします？ 儀式で我々と最後までしますか？」
ヴィラが聞いた。
「…………」
ゆりは口を開けている。
「８人の男と二回も三回も？ それはあまりにねえ……王妃、大丈夫ですよ。王妃なら興奮できるし、儀式もできますよ」
ジュノーは優しくゆりを抱きしめた。
「えーん、ジュノー」
「本気で二人がかりで愛撫しますからね、思う存分感じてみてください」
「うん」
ゆりは素直にうなずいた。
ジュノーはゆりの胸をなでながら、ゆりに口づけた。ヴィラはゆりの足を広げて、そこに顔をうずめている。舌で刺激しながら指を身体の中へと入れていき、３本の指で身体の中をかきまぜると、
ゆりの腰が浮いていた。
「ん……んん……あん……」
「こっちは感じてますけどね。王妃の身体、指を離そうとしないですよ」
やがてゆりの身体がびくりとけいれんした。
「はあ……ああ……」
「かわいい王妃、今度は私がいかせてあげますね」
ジュノーとヴィラが場所を入れ替えた。
「王妃を見てたら興奮してきましたよ。こちらも鎮めてくださいね」
ヴィラはゆりの顔に自分の下半身を近づけた。ゆりはそれに手で触れて、口を近づけた。ゆりの肌からはいい匂いが漂っていて、感じているのが演技だとも思えなかったが、蛇紋は現れなかった。
「まあいいじゃないですか。蛇紋が現れなくても、私はこれだけ王妃と愛し合えれば満足ですよ」
ヴィラが言った。結局二度もゆりの口で達していた。
「私もですよ」
とジュノー。
「二人とも好き」
ゆりはかなり疲れて、そのまま眠ってしまった。
「しかし、王妃は何年経ってもかわいいなあ」
ジュノーはゆりの頬をなでていた。
「ガーベラにあんなことされちゃ、そりゃ神様だってころっと行くだろうな」
ヴィラは苦笑交じりに言った。
「なあ、お前、彼女に口でさせたことある？」
ジュノーが小声で聞いた。
「ある」
「え？ あるの？」
「前に、赤い月に興奮できなかったときに……だが、王妃じゃなきゃ興奮しなかった」
「そうだよな。普通に王妃を抱けるようになったら、やっぱり他の女に入りたくなくなるのかなあ」
「そうかもな」
ゆりは完全に寝ていたので、二人の会話を聞いていなかった。
ジュノーとヴィラには蛇紋が出なくていいと言われたものの、気になったゆりは、次の日ハザークの元に行っていた。ハザークと試してみようと思ったのである。
すると、ハザークの部屋は微妙な空気だった。ハザークも侍女も、なんだか元気がない。
「どうかしたの？」
ゆりは思わず聞いた。
「へびっちが、過去に行きたいといってるらしくてな」
「え？ へびっちが？ 今度はなんで？」
「女王の子供が気になるらしい」
「あ、そうか女王様の赤ちゃんに、へびっちの子供がついてるかもしれないんだっけ」
「こっちは無事生まれたから、向こうが気になってきたんだろう」
ハザークが言った。ハザークの長椅子にはハザークの横に緑色の蛇が長くなっていた。へびっちの子供ロンロンである。命名したのはミシェイラだ。
ミシェイラの肌にいる蛇はリンリン、自由な男の子蛇はロンロンである。ロンロンは今のところ、ハザークの塔にじっととどまっている。
「侍女さんごめんね。へびっちも気がすんだら戻ってくるから」
ゆりはつい、侍女に申し訳ない気分になった。
「はい、来年の赤い月まで戻ってくださるかしら……」
侍女はものすごく小声でぼそぼそ言っていたが、ゆりにはばっちり聞こえていた。
「まさかそんなに長くかからないでしょう。女王様の子供が産まれれば……あ、そうだ。年表を見ればいいんだわ。女王様の子供が何月に産まれたのかわかるわ」
ゆりは閃いて、ハザークの部屋を出て行った。
城に戻りラギを探したが、ラギもシスも不在だった。ハインリヒもいなかったので、ゆりは夕方まで待っていた。子供達が城に帰ってきた。
「ねえラギ、女王様の二人目の子供って、何月に生まれるの？」
「さー知らない」
思いがけない返答が返ってきた。
「なんで知らないのよ。本で見たんでしょ？ 教えてよ」
「過去の時代の女王が妊娠して３年目か４年目ってことしか分らない。妊娠した年は書いてあるんだけどさ、出産は不明。多分無事生まれたんだと思うけど、どっちが生まれるか楽しみだねえ」
「はあ？ 王族家系図はどうなってんの？」
ゆりはてっきり、女王様の子供が産まれるまでラギが内緒にしているものだと思っていたのだった。
「まあちょっと本を見てよ」
ゆりはラギの部屋に置いてある分厚い歴史書を見せてもらった。女王ヴィラルージュの年表の途中が黒くて分らない。汚れているようだ。
「多分インクでもおとしたんじゃない？」
「はあ？ 冗談でしょ？ 他の本は？」
「ないよ」
「なんでよ」
「火事で焼けちゃったりしたから、昔」
「えー？」
「女王様の長男が次の王様ってのは分るんだけどね。この本ってさ、女王と王様以外はあんまり書かれてないんだ。他の王族については、みんな関心がないみたい」
「もっと関心をもってよー！」
ゆりは本を書いた誰かに叫んでいた。
「まあいいじゃない。僕達は女王様の子供が次男か長女か、そのうち分るよ。ヴィラがディランから聞くだろうし」
ラギは本を閉じた。
「へびっちが、女王様の子供が気になるから過去に行くって言ってるんだって」
「それじゃへびっちから聞けるね」
ラギは平常心である。
「子供がいつ生まれるかわからなかったら、へびっちがいつまでいるかわからないじゃない」
「二人目だからね、そんなに長い妊娠じゃないと思うよ。今年中には生まれるよきっと」
「そうね。まあそうだと思うけど、侍女さん達が不憫で……」
「へびっちが帰ってくるって言ってるなら大丈夫だよ」
ラギはへびっちの心配はしていないようだ。
夜、ヴィラはジュノーのところで酒を飲んでいたのだが、息子のヴィンセントから思念が来た。
―お父さん、へびっちがお父さんが帰ってくるのを待ってるよ
―え？
「へびっち、今日はここにいないのか？」
ヴィラはジュノーに聞いた。
「今日はいないな」
「へびっちはうちの方にいるらしい。私が帰ってくるのを待ってるって」
「へえ、そうなのか。また何か企んでるのかな？」
「さあなあ。帰るわ」
「よろしくな」
ヴィラは自分の屋敷に戻った。へびっちはヴィンセントの部屋で何かを一緒に描いていた。ヴィラがやってくると、へびっちはその紙をヴィラに見せた。
紙には緑の髪の人間がいた。横にはでかくデイランと描かれていた。
「デイランじゃなくてディランね」
ヴィンセントが訂正していた。
「へびっちはディラン様に会いたいみたいだよ」
ヴィンセントの横で、へびっちはうなずいている。
「過去に行くのか？」
ヴィラが聞いた。へびっちはうなずいた。
「いいなあ。僕も過去に行きたいよ」
ヴィンセントはうらやましそうだった。
「みんなにお別れは言ってきたのか？ ハザーク様の侍女達には？」
へびっちはうなずいた。
「そうか。わかった」
へびっちは人から蛇に変り、ヴィラの足にひっついて肌に入った。
「ねえ、僕もお父さんと一緒に寝たら、ディラン様に会えるかなあ？」
ヴィンセントが聞いた。
「さあなあ、まず今夜夢がつながるとは限らないが……とりあえず身体を洗ってくる」
ヴィラは身体を洗い、ちゃんとした服装で眠りについた。だがその夜夢はつながらず、５日経ってもつながらなかったので、ヴィラは人になったへびっちにじとーっと見られてしまった。
「ディラン殿が夜更かししてるかもしれないだろう？」
ヴィラはそういいわけしている。
へびっちは今度はジュノーにひっついていた。だが、こちらも夢がつながる気配がなく、５日経ってもだめだったので、へびっちは再びヴィラに戻っていた。
７の月に入り、ようやくヴィラとディランの夢がつながり、へびっちは過去へと行ってしまったのだった。
つづく
11部
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