第19話
蛇の国は夏真っ盛りである。気温が高い日が続いている。
「ああ食欲がない……っていうか、もうメメントはいらないって言ってるでしょ！ とってこないで。ロイ」
ゆりは食堂でロイをにらんでいた。ゆりはもう安定期に入っているのでメメントは食べなくていいはずなのだが、ロイが厨房に届けるので、料理人も料理せざるをえないのだった。
「だってさーメメントをとるのおもしろいんだもん。じゃあ他に何かとらせてよ」
「魚でもとってきたら」
「えー、へびっちがいたらカエルをとるんだけどなあ。いつカエルんだろう？ ぷぷっ！ 今のおもしろいよね。ね」
ロイは一人で笑っていた。
「全然おもしろくない」
とアナスターシャ。
「カエルと帰るをかけたんだよう。おもろいじゃん。ねえシスにー」
「まったく。それより、もう女王様は出産してるよね。へびっちはいつ帰ってくるんだろうね」
シスが言った。
へびっち達がいなくなって一月は経っていた。さすがに出産は終わってるだろうと皆予想している。
「そうね。ヴィラとディランの夢がつながらないと帰れないからね」
とゆり。
「はやくへびっちに会いたい！ヴィラはよゆめつなげてーな 」
ミシェイラが言った。
「ゆめってなに？ なあに？」
ミシェイラの言葉にレーヌが反応しだした。
「ゆめってねてるときにみるもの」
「プリンほしい。プリン」
「ゆめの話はいいの？」
「もういい。プリン」
ミシェイラとレーヌはごちゃごちゃ会話をしていた。ミシェイラが先生になってレーヌはいろいろ言葉を覚えている。
「ヴィラにへびっちもどしてってたのもーかな」
「ヴィラ？ おっちゃん？」
「こらこら」
レーヌは変な言葉もミシェイラから学んでいるようだ。
「ミシェイラ、家族以外に勝手に思念を送ったらだめだよ」
シスが言った。
「ヴィラ家族ちゃうの？」
「ちゃう……いや違うよ」
「なんで？ ヴィラはトーなんしょ？」
とミシェイラが言うと、シスは言葉をつまらせていた。
「いや、まあそうなんだけど……」
困ったシスを見てアナスターシャとナナミは笑っている。
「なんでミシェイラ一人そんなしゃべり方なのかしら。さてはロイ、なんか裏で教えてるんじゃないの？」
ゆりはロイをまたにらんでいた。
「僕？ しらんよー」
「ミシェイラ、思念を送っていいのは、ここにいる兄弟と、ハザーク様や王様だけよ。あと侍女もいいか。他の人は仕事で忙しかったりするから、送らないようにね」
ゆりは優しくミシェイラに言ったが、「やだ」と返されてしまった。
「ヴィラにもうおくったもーん」
「こらー」
ゆりが多少怒ったところでミシェイラはまったくしょげたりはしなかった。むしろ胸を張っている。困った王女様である。
「まったく……ロイ、あれみて！ あれ何？ あの裏に何かあるわよ！」
ゆりの左目が蛇の目に変わり、食堂にあるガーベラ像を指していた。
「え？ 何？ 何？」
気になったロイが移動したすきに、ゆりはロイと自分の皿を取り替えていた。
「あー僕の肉！」
「うるさい。メメントは飽きたっていってるでしょ！ たまにはそれを食べなさい！」
「やだー！」
蛇の目のゆりはさっさとロイの肉を食べていた。
その頃ミシェイラから「はよへびっちを返して」と思念をもらったヴィラはたまたま城の庭園にいたものの、困った様子だった。
ヴィラは「がんばります」とミシェイラに返している。
（またプレッシャーが……）
ため息をついていたら足をとんとんと誰かにたたかれた。下を見ると、着飾ったピンクのブタラが自分のブーツの上に手をのせている。
ブタラは目を細めてヴィラを見上げていた。
「ぷっ」
（ブタラに慰められた）
「くっ……くく……」
ヴィラは自分の状況がおもしろかったのか、しばらく低い声で笑ってしまっていたのだった。
過去の時代でへびっちが大変なことになっているとは知らなかった未来の人々は、へびっちが元気で帰ってくると完全に信じていた。近いうちに帰ってくるだろうとだれもが思っていたのだった。
そんなわけで、夢で神の国に移動したゆりは元気いっぱいだった。
ガーベラになったゆりはガーベラ神殿の中にいた。ちょうどクーリーフンがいたのでガーベラの様子を聞いている。
「たまにぼんやりしてるけど元気だよ。オルガとはまだだめみたいだけどね。まあ古い恋人だし、時がくれば元に戻るよ」
「そう」
「最近はよくライラが遊ぶところを眺めてるよ。ちょろまかしてるのが癒やされるみたい」
「ぶどうの妖精ちゃんね。確かに癒やされそう」
「ルティアナとネルが自分達にも兄弟がほしいって言ってたよ。どっちかがんばって」
「えーははは、それじゃ遊んできまーす」
ゆりはさっさと神殿を出て行った。
「クーリーフンってば、子供ありきはだめだって言ってたくせにー。今日はどうしようかな」
神の国の時刻は昼下がりのようだ。晴天ではなく、珍しく曇り空だった。遠くの方の空がピカっと輝いている。遠雷のようだ。
「向こうの方は雨が降ってるのかも？ 珍しいわね」
（ハロルドにモモちゃんのお礼をいわなきゃいけないけど、あれを見られたとなったら会いにくいわ。まあ、偶然出会ったらお礼を言えばいいか。ルティアナとネルかあ……子供はさておき、
ネルに会いに行ってから、ルティアナとお風呂ってのもいいわね）
そう思ったゆりはサントスの元に移動した。
サントスはカサンドラの神殿の裏手にいた。娘のネル、キュリアも一緒である。ネルとキュリアはしゃがんで何かをしているようだ。
二人は裸足でぬかるんだ土の上にいた。傍らの草の上にサントスが座っている。ゆりがサントスに手を振ると、サントスも手を振りかえした。
「何をしてるの？」
「土で遊んでるの」
「わっすごい！」
二人は手の平に土でできた動物を乗せていた。ネルは鳥、キュリアは犬である。ちゃんとした形になっている。あたり一体土は泥状になってぬかるんでいた。
大量の水でもまいたようだ。二人の横には土の塊が盛ってある。
「うまくできてるわねえ」
「上手でしょ」
「粘土のようね。私も作りたい」
「一緒に遊びましょう！」
「そうね」
二人は手も足も泥だらけである。ゆりもサンダルを脱いで裸足になった。
「はい、この土だと作りやすいよ」
ネルが土の塊をゆりの手の平にどさっと乗せた。
土というよりは粘土のような感触で、確かに何かを作れそうである。
「私が作るったら、やっぱりあれしかないわね」
ゆりは土の塊を両手でこねてのばしはじめた。
やがてのばしたものを草の上においた。
「できた」
「えーと、縄？」
ネルに言われてしまった。
「蛇よ。見えないかなあ。こっちが顔で……」
ゆりは蛇の手直しをしている。
それを見ていたキュリアは、「蛇かあ。へびっちは元気かなあ」と懐かしげだった。
「前にお世話してた蛇ね。元気じゃない？」
とネル。
「だといいな」
「できた。へびっち」
話を聞いていたゆりは、土の蛇をへびっちと命名していた。
「えーい」
ネルの声と共に、土の蛇がうねうね動いていた。
「おーすごい！」
ゆりは手をたたいている。
「次は何作ろう。馬とか作りたいけど、できそうにないなあ」
「私が手伝ってあげる」
とネル。
「ほんと？」
ゆりは子供達と大きな土を固めて馬を作り始めた。
傍らでぼんやり見ていたサントスだったが、やがて、その頬がピンクに染まっていた。
（ああ、ガーベラ、手をあんなに泥で汚して……泥をつけた君も美しい。もっと、もっと泥だらけの君がみたい……はっ私は何を考えているんだろう）
サントスは自分の考えに戸惑っていた。
思えば土で遊ぶガーベラを見るのは初めてである。
（私も一緒に遊びたくなってきた。ネルがうらやましい。だけど今更まじるってのも恥ずかしいし……）
「うーん、できた。すごい寸胴な馬が」
ゆりはうれしそうである。
馬というよりもロバのような土の塊ができていた。
「これはこれでかわいいかも、次は人形を作ろう」
土の塊を持ち上げたゆりは、足を滑らせて尻餅をついていた。
「あたた、やっちゃった。あっ髪が」
お尻もだが、髪に泥がついてしまった。
「洗えば大丈夫よ」
とネル。
「そうね。泥だらけになっちゃった」
ゆりは立ち上がったが、髪がすごく重くなっていた。気づくと目の前にぼんやりした顔のサントスがつったっていた。
「めちゃくちゃ汚れちゃった。髪を洗ってこなきゃ」
「ガーベラ、お願いです。しばらくそのままでいてください！」
「え？」
「今の君がすごく、すごく愛おしい！」
「わっ」
サントスががばっと抱きついてきたのでゆりはびっくりしていた。ネルとキュリアは目を丸くしている。
「私達は先にいこうか」
「そうね」
二人はサンダルをもってさっさと去って行った。
「あ、ちょっと」
「ガーベラ……」
ゆりはそのまま突っ立っている。目の前のサントスは、以前の恥ずかしがり屋のサントスよりも背が伸びて体つきも変わっていた。
（もしや性格も？）
と思ったが、身体を離したサントスの顔は真っ赤だった。
「ど、どうしたの？」
「今のあなたが愛おしくてたまらないんです。心がドキドキしてたまらない」
「ええ？」
「ガーベラー」
サントスはゆりを再び抱きしめた。
「泥がついちゃうわよ」
「かまわないです。いっそのこと二人で泥まみれになりたい」
「ええー」
「いやですか？」
「え？ いやっていうかなんていうか……サントスって、大きくなって大胆になったわね」
ゆりはどぎまぎして言った。
「自分でもびっくりしてるくらいです。なんだろうこの衝動は。自分でもよくわからない。さっぱりわからない！」
サントスは真っ赤になりながらも頬にちゅっとキスしてきた。
（土の神だから土で興奮してるのかしら？）とゆりは思った。
（愛欲の女神としては、ここで引くわけにはいかないわよね。やっぱり）
「じゃあ、二人で泥まみれになって遊びましょ」
「ええ？ い、いいんですか？」
サントスはなんだかうれしそうだ。
「いいけど、誰かに見られるのは恥ずかしいなあ」
「じゃあ隠れましょう」
「どこに？」
二人の周りに金色のドームのようなものができた。
「これで外からは見られない？」
「はい」
「じゃあ、よいしょ」
ゆりは柔らかめの土の塊を両手で握って、少し離れて、「えーい」とサントスに投げつけていた。それはサントスの胸にべちょっとついていた。
「サントスも投げて」
「え。はい」
サントスも戸惑いつつ、土の塊を手に持っていた。
「どんどんいくわよー」
ゆりは躊躇なく泥だんごを投げつけて、サントスの方は、遠慮がちに軽くゆりに向かって泥だんごを投げていた。
「遠慮しないであてていいのよ」
「はあ」
ガーベラとこんな風に遊ぶのは初めてであろうサントスは、本当にガーベラに土をぶつけていいのか戸惑っている。
ほぼゆりが一方的に投げていたので、サントスの身体の全面はもはや泥まみれだった。
「あはは、服が泥だらけ。サントス、楽しい？」
「ふふ……子供みたいで楽しいですね」
「そうね」
「ガーベラ、かわいい」
サントスが近づいて抱きついてきたので、ゆりの身体も泥まみれになっていた。
「ありがとうガーベラ。とってもうれしいです。こんなに無邪気に遊んでくれるなんて思わなかった」
サントスはゆりをぎゅっと抱きしめて言った。
「サントス……」
ゆりは光のドームの中に、光の渦ができているのをみた。
（これって、サントスの神気？ 仲良くなった時によく見るやつかしらん？ すごい。これにガーベラの神気を合わせたらどうなるだろう？）
ゆりは好奇心を抑えられなかった。
（私も愛情を高めれば、何かが起きるかもしれない）
ゆりはサントスに口づけた。
「ガーベラ、ああ、ガーベラ……」
サントスの方は結構興奮状態のようである。
二人で口づけをしあっていたら、やがてガーベラの神気もそれに加わった。
（サントスとこんなにキスできる日がくるなんて……別人みたいでさみしいような、うれしいような……いや、これも成長ってやつよね）
「パチッ」
と何かが弾ける音が聞こえてきた。
（ん？ 何の音？）
「パチパチ」
と小さい音がするが何の音かはわからない。やがて「バチン！」と何かが大きく弾けるような音が聞こえて目の前がばっと輝いたゆりは、驚いたまま失神してしまった。
「ガーベラ、ガーベラ」
ゆりは頬を軽くたたかれて目を覚ました。
気づくと草の上に泥だらけのまま横になっていた。光のドームは消えて、目の前にはサントスの顔があったのだが、どこかおかしかった。
「ガーベラ、大丈夫？」
「サントス、髪が変よ。ちりちりになってるよ」
サントスの茶色い髪は、ちりちりで爆発したようになっていた。
「びっくりした。なんであんなことになったんだろう？ 雷か何かが発生したみたいで」
サントスは髪をかいている。
「そんなコントじゃあるまいに……」
ゆりは自分の肩にかかった髪を見てぎょっとした。自分の髪もちりちりになっている。
「嘘！ 私の髪も爆発してる？」
「ガーベラは一部だけだよ。とっさにかばったんだけど、ごめんね」
「一部？ 全部じゃなくてよかった。いやよくないかも？」
（ガーベラに怒られる！）
髪命のガーベラのことを思い出して、ゆりは青くなっていた。
「大丈夫だよ。アシュランに元に戻してもらうから」
「なおせるかしら」
「大丈夫だよ」
「ふふ、笑っちゃいけないけど、ごめん。サントスの頭がおかしすぎて……」
「ネルにも笑われたよ」
サントスは恥ずかしげにちりちりの頭をなでていた。
「なんか焦げたみたいになってるんだよね」
「うふふ。あれ？、サントス、あの土の壁は何？」
ゆりは二人で遊んでいた泥のところに土の壁のようなものができているのを見た。
「あれは壁じゃないよ。私にもよくわからないんだ」
「え？」
壁かと思ったが、それが上に動いて足のようなものが二本見えた。さらに頭らしき丸い塊に両手のようなものまで見える。全長２メートルほどはあるだろうか。
胴体はかなり太いがっしりした人形である。
「え？ 土の、人形？ なんか動いてる！？」
土の人形の両手がゆらゆらゆれている。その手は、指はなく太い棒のようで、顔にも目も口もなかった。
「生きてるようなんだけどね。謎の生き物だ」
ゆりはぽかんとしていた。変わった生き物ができてしまったようである。そこに雲が飛んできた。ゆりはそれに気づいて「げっ」と声をあげた。
雲にはアシュラン、キュリア、ネル、もう一人ハロルドが乗っていたのである。雲から下りるなりハロルドは、
「なんて格好だ。お前、一体サントスと何してたんだ？」
と泥だらけのゆりを問い詰めてきた。
「え、別に……」
ゆりはそれとなく目をそらせている。
「興奮しすぎてこんなことになっちゃったよ」
サントスは笑って言った。
「髪爆発させて何言ってるんだ？」
「髪が爆発するほど興奮した」
「どんな興奮の仕方だ！ お前、外でするなとあれほど言ってるだろ！」
ハロルドは途中からゆりに怒っている。
「え、それは誤解」
「私がお願いしたんだからガーベラは悪くないよ」
サントスがまた言い出して、ハロルドは驚愕の表情を浮かべていた。
「お前、大きくなって性格が変わってないか？」
「余計なお世話」
「あの、とりあえず二人とも子供の前でやめてよ」
ゆりは一人困った様子である。子供達は土の人形に注目していたので、大人のやりとりはさっぱり聞いていなかった。
「アシュラン様、この子なんですか？」
アシュランは土の人形を眺めて、「妖精だな」と言った。
「妖精？」
「えー？ 目も口もないですよ」
アシュランが右手を出して横に引くと、土の人形の頭がすっぱり切れて横にずれた。
「ぎゃあああああ！」
ゆりは悲鳴をあげていた。
「やめて！ 突然何をするのよ！」
ゆりは土の人形に走り寄った。頭は地面に落ちて、人形の肩から上は何もなくなってしまった。キュリアとネルは唖然としている。
「おーい、でてこい」
アシュランが声をかけると、肩の真ん中から、にょきっと小さい頭らしきものが半分でてきた。
「あ？」
「誰かいる！」
「妖精が中にいるんだ。まだ子供かな」
「土の妖精？ どうして土に埋まってるんですか？」
ネルが聞いた。妖精らしき子供の頭は再び潜ってしまった。
「さあ、さて、何をどうしたらそんな姿になるんだ？」
アシュランはサントスとゆりを眺めて聞いていた。
ゆりとサントスはアシュランに髪をなおしてもらった。ついでに身体から土も払ってもらったので綺麗になっている。
「興奮しすぎて雷が発生？ ぷっぷぷ」
アシュランは自分で言いながらも笑っていた。
「しかし、サントスも変わったもんだな」
「変わりすぎだろ」
ハロルドが突っ込んでいる。アシュランは笑いながら雲に乗って去って行った。
ゆりは髪が元に戻り、妖精も生まれたのでかなりご機嫌だったが、横ではまだハロルドがにらんでいた。ゆりは誤解をときたかったが、サントスはここで仲良くなったと言い張っているので、
違うとも言えなかった。どうやらサントスはハロルドにたいして見栄を張りたいらしい。
話を聞いたカサンドラもやってきた。皆土の妖精の姿を見たがったのだが、妖精は姿を見せなかった。再び土の頭を上にのせてかくれてしまった。
アシュランによれば、妖精は男の可能性が高いらしい。
「どうやら極度の恥ずかしがり屋らしいな」
とカサンドラ。
「顔がみたいのにー」
とネルはうずうずしている。
「強引に土をはがしちゃったら？」
キュリアが言うと、土の人形は嫌そうにちょっと離れてしまった。
「そのうちに出てくるよ。それをまとう」
カサンドラが言った。
「名前はどうするの？」
ゆりがサントスに聞いた。
「どうしましょうか。顔を見ないと決めがたいなあ」
「そうね。イメージがわかないわよね。さて、私は帰ろうかな。ハロルド送ってよ。じゃあねサントス」
「はい」
ゆりは子供達にも手を振って、ハロルドが呼んだペガサスに乗せてもらった。
「あ、あの子も手を振ってくれてる」
土の人形も手を振っているのに気づいたゆりは、ペガサスの上から手を振っていた。
神殿についたゆりは、ハロルドから説教されることになってしまった。
「ハロルドったらまるでパパみたいなんだから」
ゆりは困るよりも呆れ顔である。
「お前って女は……」
ハロルドは両手をわなわなさせている。
そこにクーリーフンがやってきた。
「クーリーフン、土の妖精ができたよー」
ゆりは笑顔で報告していた。
「え？ ほんと？」
クーリーフンは驚いている。
「この欲求不満女は、サントスと野外で、しかも神殿の近くでやったんだぞ！」
ハロルドが言うと、クーリーフンは半歩下がっていた。
「昼間から？ すごいね」
「子供も近くにいたのに馬鹿すぎだろ？」
「サントスがちゃんと結界みたいなの張ってたもーん」
ゆりは唇をとがらせている。
「でもあのサントスを相手に、野外で昼間からなんて……ちょっと考えられないな。すごすぎるよ」
クーリーフンは感嘆している。
「妖精が気になるから見に行ってくるよ」
クーリーフンは去って行った。
「訂正しておくけど、外でやってないからね。大体サントスと泥を投げ合って遊んでただけなんだから。サントスはハロルドに張り合ってああ言ってただけよ」
「それだけでなんで髪がちりちりになんだよ」
「知らないわよー」
「遊んでるだけでなんで妖精ができるんだ！」
「あれは、神気を混ぜてみたらああなったのよー。交わらなくても神同士の神気が混じれば子供ができることがあるのよー」
「嘘つけ」
ハロルドは全く信じず、怒ったまま去ってしまった。
「本当なのにー。あ、モモちゃんのお礼を言うの忘れちゃった。まあいいか。なんか疲れちゃった」
ゆりはソファにごろんと横になり、そのまま人間界に帰ってしまった。
土の妖精は、クーリーフンも姿を見ることができなかった。仕方がないのでキュリアとネルは、土の顔にいろいろ装飾して目や口を作ってあげていた。
神殿でクーリーフンからその話を聞いたガーベラは驚きまくっている。
「え？ ジンラに続き、サントスとも外でしたの？ 彼女には外でしたくなるような何かがあるのかしら？ 彼女の方が愛欲の女神っぽいわ」
ガーベラはそのことにショックを受けていた。
「こうなったら、私はサラディンを外に誘うしかないわ」
「いや、そこを競わなくても……」
「私も新たなことに挑戦しなくっちゃ。その前に妖精の所にいってみましょう」
ガーベラは闘志を燃やしながら神殿を去って行った。
一方人間界で目覚めたゆりは、うきうき顔でベッドから降りた。
「石が増えてるわよね。やっぱり茶色。茶色い石よね！」
ゆりは想像しながら石の箱を開けた。
「あれ？」
最後に入っていたのは茶色と黄色のマーブルだった。
「茶色一色じゃなかった。まあいいか。ミシェイラが喜ぶわ。後で見せてあげよう」
ゆりはにんまりして箱を閉めたのだった。
雲拡大
つづく
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